法律会計フォーラム

2018.12.25更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

有償支給取引

 

2018年12月25日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「有償支給取引」 目次と概要 

 

1.有償支給取引

 

● 有償支給取引

有償支給取引とは,企業が対価と交換に原材料等(以下「支給品」といいます。)を外部(以下「支給先」といいます。)に譲渡し,支給先における加工後,当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含みます。)を購入する一連の取引をいいます(指針104)。

我が国製造業で行われている有償支給取引は,製品製造過程の一部を支給先に委託したものとみられる経済的実態を備えている場合が少なくありません。企業が支給先に支給品を供給する目的は,支給先から調達する加工後の支給品の品質を維持・管理することにあります。また,企業が支給品を対価と交換に供給する目的は,必ずしも企業が支給品の全量を無条件で買い戻さないことを前提とした経済的な合理化や生産体制の最適化にあり,支給先から支給品を担保として資金提供を受けることではなく,取引の実態は金融取引ではありません。

● 有償支給取引の会計処理の問題点

有償支給取引の会計処理については,次の2点が問題となります。

企業が当初の支給品の譲渡時に収益を認識するかどうか

 企業が,当初の支給品の譲渡時に収益を認識した後に,支給先によって加工された製品を買い戻して顧客に最終製品を販売するときにも収益を認識することが適切かどうかという問題があります。当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,結果的には企業と支給先との間で支給品を往復し,多くの場合,当初の譲渡対価と買戻対価を相殺処理しています。もし,この契約から生じる収益を認識すると,収益を人為的に水増しするために経済的実質のない契約が財務報告に悪用されるおそれがあります。

 そこで,適用指針は,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上することは適切ではないとしています(指針179)。

企業が当初の支給品の譲渡時に支給品(棚卸資産)の消滅を認識するかどうか

 有償支給取引では,企業が譲渡した支給品にその後も継続的に関与しており,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮し,支給品に対する支配が支給先に移転しているかどうかを判定する必要があります(指針8)。

 有償支給取引では,一般に,支給先の意思に基づく行為(加工)が完了しない限り,企業が支給品を買い戻さないので,当初の支給品の譲渡時では企業が未だ買い戻す義務を負っていない(買戻契約ではない)事後の再売買であるか,又は企業が買い戻す義務を負っていても,加工の完了その他の条件が付されたプット・オプションに近いものであるといえます。

 そこで,企業は,有償支給取引について,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断し,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。

 

☞有償支給取引とは,企業が対価と交換に原材料等(支給品)を外部(支給先)に譲渡し,支給先における加工後,当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含みます。)を購入する一連の取引をいいます。有償支給取引の会計処理は,①企業が当初の支給品の譲渡時に収益を認識するかどうか,②企業が当初の支給品の譲渡時に支給品(棚卸資産)の消滅を認識するかどうかの2点が問題となります。

 

2.有償支給取引と買戻契約

 

● 買戻契約

企業が譲渡した支給品にその後も継続的に関与する有償支給取引については,支給先による当該支給品の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮する必要があります(指針8)。

買戻契約は,①企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(①売買契約)

 有償支給取引は,企業(売主)が支給品の財産権を支給先(買主)に移転することを約し,支給先がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としますので,①の要素があります。

企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(②反対売買の権利義務)

 有償支給取引において企業が支給先から購入する加工後の支給品は,一般に,当初において販売した支給品を構成部分としており,企業がそのような支給品を買い戻す義務又は権利を約束する場合も②の要素を満たします(指針153)。

買戻契約は,②の要素に関する反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。 

適用指針「買戻契約」は,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約を除き,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態を以下の3つに分類し(指針153),その処理を定めています。

(1) 企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)

(2) 企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)

 ➝ (1)又は(2)では,企業はリース取引又は金融取引として処理し(指針69),商品又は製品を引き続き認識し,顧客から受け取った対価について金融負債を認識します(指針70)。

(3) 企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)

 ➝ (3)では,企業は,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,(1)又は(2)と同様の処理をしますが(指針72,73),顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していない場合には,返品権付きの販売として処理します(指針72,73)。

 以上に対し,適用指針「買戻契約」は,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約については,直接にはその処理を定めていませんので,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれかの買戻契約の形態に整合的な処理をします。

 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」でも,例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した商品又は製品を一定の期限を超えて消費者に販売することを防止するために顧客から買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合において,直ちに融資契約として処理するのではなく,企業が買い戻す権利に条件(顧客が商品又は製品を第三者に販売せずに保有していること)が付されている実質を考慮し,プット・オプションとして返品権付きの販売と整合的に処理するものとしています(IFRS/2011ED BC 320)。

②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)

 有償支給取引では,企業が必ずしも当初の支給品の譲渡と同一の機会に,企業が当該支給品を買い戻す義務又は権利に関する約束をしているとは限りません。企業が支給品に対する支配を支給先に移転した後に,支給先との間で当該支給品を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に支給先に当該支給品を引き渡した時点で,支給先が当該支給品の使用を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません(IFRS/BC 423)。もっとも,このようなケースでは,当初の支給品の譲渡時に,企業が当該支給品を買い戻す義務又は権利に関して,契約書の中で明示的に定められていなくとも,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意されていないかどうかを考慮する必要があります。

 

● 有償支給取引と買戻契約

有償支給取引は,一般に,企業が将来の一定の期限で支給品の全量を無条件で買い戻すのではなく,支給先が加工を完了してはじめてそれを買い戻します。企業から支給先へ支給品が譲渡された後の取引や契約の形態はさまざまであり(指針177),当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す権利又は義務を約束しているとは限らず,企業が買い戻す権利又は義務を約束する場合であっても,支給先が加工を完了することが条件とされており,将来,発生することが不確実な事実にかかっています。支給先が加工を完了するだけでなく,加工後の支給品が契約において合意された条件(品質・性能・仕様等)に適合することなどの条件も付されている場合が少なくありません。

したがって,有償支給取引は,まず,買戻契約かどうかを判定し(指針177),買戻契約の場合であっても,一般に,条件が付された先渡取引,又は当事者の選択(意思表示)以外の条件が付されたコール・オプションやプット・オプションに該当しますので,直ちに,買戻契約の先渡取引又はコール・オプション(指針69)やプット・オプション(指針72,73)に従った処理をするのではなく,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれの買戻契約の形態に整合的な処理をするべきかを判定する必要があります。

 

☞有償支給取引では,当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す義務又は権利を約束しているとは限らず,企業が約束している場合であっても,支給先が加工を完了することが条件とされています。企業は,まず,買戻契約かどうかを判定し,買戻契約の場合には買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれの買戻契約の形態に整合的な処理をするべきかを判定する必要があります。

 

3.有償支給取引における買戻契約の識別

 

● 買戻契約の識別

企業は,有償支給取引について,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断します(指針104,178)。

有償支給取引において,支給先によって加工された製品の全量を買い戻すことを当初の支給品の譲渡時に約束している場合には,企業は当該支給品を買い戻す義務を負っていると考えられますが,その他の場合には,企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かの判断を取引の実態に応じて行う必要があります(指針178)。

企業が支給品を買い戻す義務は,契約書の中で明示的に定められることもありますが,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。取引慣行を考慮するときには,企業と顧客との間の継続的取引関係でその慣行に従う意思を示す事実及び状況(例えば,企業がこれまで支給品を買い戻してきた実績があるかどうか)も重要になります。

有償支給取引では,当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す権利又は義務を約束しているとは限りません。例えば,単に企業から支給した支給品を加工したものであれば,企業が買い戻す場合があるだけで,支給先が要求しても買い戻すとは限らないこともあります。

当初の支給品の譲渡時に企業が買い戻す権利又は義務を約束していない場合には,事後に支給先によって加工された製品を買い戻したとしても,事後に再売買を約束しただけであり,買戻契約ではありません。このような場合には,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得しており,事後の再売買の約束は,支給先が当該支給品の使用を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません。

支給先の要求があっても,企業が無条件で支給品の買い戻しを拒否することができるなど,企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合には,一般には,買戻契約ではなく,支給先が支給品に対する支配を獲得します。ただし,企業が一方的な意思表示により支給先から支給品を買い戻す権利を有する場合は,買戻契約のコール・オプションに該当する可能性がありますので(指針153(2)),この場合には,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。

 

● 買戻条件の実質

企業は,有償支給取引について,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,その条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討します。

企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合でも,支給先の意思に基づく行為(加工)の完了が条件とされており,条件が付された先渡取引とみることもできますが,条件が付されたプット・オプションに近いものといえます。後者の場合は,支給先が企業に対して支給品の買い戻しを求める(すなわち,プット・オプションを行使する)ことを余儀なくされるかどうか(重要な経済的インセンティブを有しているかどうかに限りません。)が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに影響を与えます。

そこで,企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうかを考慮する必要があります。

企業が支給品を買い戻す義務の条件は,契約書の中で明示的に定められることもありますが,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうかは,支給先の契約上の義務だけでなく,企業と支給先との間の継続的取引関係における取引慣行,企業がこれまで支給品を買い戻してきた実績(割合)なども考慮します。支給先にとって(当該契約限りの)重要な経済的インセンティブを有している場合に限らず,(継続的取引関係において)支給先が事実上支給品を売り戻すことを余儀なくされる場合も含みます。

 

☞企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断し,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,その条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討します。

 

4.有償支給取引における会計処理

 

● 概要

企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に収益を認識せず,代わりに,支給品を買い戻したときにその買戻対価に含まれる材料費相当額(になることが確定していない仮勘定)として有償支給取引に係る負債を認識します。

また,企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するどうかを判定し,支給先が支配を獲得する場合は支給品(棚卸資産)の消滅を認識し,支給先が支配を獲得しない場合には引き続き支給品(棚卸資産)を認識します。企業は,有償支給取引が買戻契約かどうかを識別し,買戻契約の場合には,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。

なお,適用指針は,支給先が支給品に対する支配を獲得しない場合でも,個別財務諸表については,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識する処理を容認しています(指針104)。

 

● 支給先が支給品に対する支配を獲得する場合

買戻契約ではない場合(事後の再売買の場合)

 当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合は,買戻契約ではありませんので,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得しています。したがって,企業は,当該支給品(棚卸資産)の消滅を認識します(指針104)。

 他方,企業が事後に支給先によって加工された製品を買い戻して顧客に最終製品を販売するときに,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益を二重に計上することは適切ではないと考えられます(指針179)。当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,契約の経済的実質(すなわち,契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれるかどうか)がないにもかかわらず,収益を人為的に水増しするために財務報告に悪用されるおそれがあるからです(第19項(4)参照)。したがって,企業は,当該支給品の譲渡に係る収益を認識してはなりません(指針104)。

 現金対価が少額又は皆無の非貨幣性交換は,複数の企業が収益を人為的に水増しするために相互に財又はサービスの往復を行うなど過去に財務報告における悪用が見られた領域ですが,本基準は,必ずしも非貨幣性交換に限らず,“契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれる”という経済的実質がない契約は,本基準の適用対象となる顧客との契約として取り扱わないこととしています(第19項(4),IFRS/BC 41)。有償支給取引についても,当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,結果的には企業と支給先との間で支給品を往復し,多くの場合,当初の譲渡対価と買戻対価を相殺処理しています。もし,この契約から生じる収益を認識すると,収益を人為的に水増しするために経済的実質のない契約が財務報告に悪用されるおそれがあるので,当初の支給品の譲渡対価につき収益を認識してはならないものとしています。 

支給先が支給品に対する支配を獲得する買戻契約の場合

 企業が一定の条件で支給品を買い戻す義務を負っているが,企業と支給先との間の契約条件や継続的取引関係において,支給先が当該支給品を売り戻すことなく,支給品の消費・処分,第三者への売却ができる場合には,支給先が支給品を売り戻す(企業に買い戻させる)権利(プット・オプション)を有する買戻契約(指針153(3))に類似し,支給先が支給品の使用を指図する能力や支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しており,支給品に対する支配を獲得しています。

 このような有償支給取引は,返品権付きの販売と整合的に処理すべきですが,企業が支給品の移転と交換に権利を得ると見込む(買戻しが見込まれない)対価があるとしても,“買戻契約でない場合(事後の再売買の場合)”と同様に収益を認識することは適切でないと考えられます。したがって,“買戻契約でない場合(事後の再売買の場合)”と同じ処理(仕訳)になり,返金負債及び返品資産に代えて有償支給取引に係る負債・資産を認識し,支給品を買い戻さないことが確定したときに,プット・オプションの消滅時の処理と同様に,有償支給取引に係る負債の消滅を認識し,収益を認識することになると考えられます。

 

● 支給先が支給品に対する支配を獲得しない買戻契約の場合

 企業が一定の条件で支給品を買い戻す義務を負っているが,企業と支給先との間の契約条件や継続的取引関係において,支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされる場合には,先渡取引(指針153(1))に類似し,支給先は支給品の使用を指図する能力や支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されており,支給品に対する支配を獲得しません(指針180)。したがって,企業は,当該支給品(棚卸資産)の消滅を認識しません(指針104)。

 このような有償支給取引は,金融取引と整合的に処理すべきであり(指針180),企業は,支給品の譲渡に係る収益を認識してはなりません(指針104)。

 しかし,譲渡された支給品は,物理的には支給先において在庫管理が行われているため,企業による在庫管理に関して実務上の困難さがある点が指摘されています。これを踏まえ,適用指針は,個別財務諸表においては,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができることとしています。なお,その場合でも,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上されることを避けるために,当該支給品の譲渡に係る収益は認識しないこととしています(指針104,181)。 


☞企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に収益を認識せず,代わりに,支給品を買い戻したときにその買戻対価に含まれる材料費相当額(になることが確定していない仮勘定)として有償支給取引に係る負債を認識します。企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するどうかを判定し,支給先が支配を獲得する場合は支給品(棚卸資産)の消滅を認識し,支給先が支配を獲得しない場合には引き続き支給品(棚卸資産)を認識します。なお,適用指針は,支給先が支給品に対する支配を獲得しない場合でも,個別財務諸表については,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識する処理を容認しています。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.12.19更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

返品権付きの販売

 

2018年12月19日 弁護士・公認会計士 片山智裕

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「返品権付きの販売」 目次と概要 

 

1.適用指針「返品権付きの販売」の概要

 

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

企業は,返品権付きの販売では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務に加え,返品権に関する約束を識別します。返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。企業が返品権付きの販売を識別したときは,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。

企業は,顧客に資産を移転した時に,契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識し,顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識せず,返金負債を認識します。

適用指針「返品権付きの販売」(指針84~89)は,返品権付きの販売に関する会計処理の指針を提供しています。

 

☞返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。企業は,返品権付きの販売について,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識し,かつ,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識したうえ,各決算日に返金負債・返品資産の評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

 

2.返品権付きの販売

 

● 返品権付きの販売

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

なお,返品権付き販売として処理する契約には,企業が顧客の一方的な意思表示により支払った対価の代償を提供する義務を負う役務提供契約(返金条件付きサービス契約)も含まれます(指針85)。

 

● 売買契約(販売)

返品権付きの販売は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。

返品権付きの販売の処理は,顧客が返品権を行使する前に,資産(商品又は製品)の支配が顧客に移転していることが前提となります(指針84)。

顧客との契約で検収が予定されており,企業が提供した資産が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合せず,検収の完了(検査の合格)前に,顧客が当該資産を返還して代替物の提供を求める場合は,一般に当該資産の支配が顧客に移転していませんので(第40項(2),(5),指針80~83参照),返品権付きの販売として取り扱いません。

また,企業が,資産を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合に,需要者に移転するまで当該他の当事者が当該資産の支配を獲得することがないときは,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり(指針75),返品権付きの販売として取り扱いません。

 

● 返品権

返品権とは,顧客が一方的な意思表示により,企業から購入した資産を返還する代わりに,次のような代償を受ける権利をいいます(指針84)。

(1) 顧客が支払った対価の全額又は一部の返金
(2) 顧客が企業に対して支払義務を負う又は負う予定の金額に適用できる値引き
(3) 別の商品又は製品への交換

いったん資産(商品又は製品)の支配が顧客に移転した後に,顧客が同じ種類,品質,状態及び価格の別の資産と交換すること(例えば,別の色又は大きさのものとの交換)は,本基準の目的上,返品権付きの販売として取り扱いません(IFRS/B 26)。

 

● 同一機会

返品権に関する約束は,売買契約(販売)と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か,文書か口頭か)は問いません。

企業が資産(商品又は製品)の支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該資産の返還を受け,その代償を提供することを事後的に約束することは,返品権付きの販売ではありません。もっとも,このようなケースでは,当初の売買契約までに,取引慣行,公表した方針等により返品の約束が含意されていたかどうかを検討する必要があります。

 

☞返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

 

3.返品権付きの販売の識別

 

● 返品権付きの販売の識別

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(契約における本来の債務=給付義務)である,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務を識別します。

返品権付きの販売の場合では,企業は,これに加え,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務(法律上の債務)又は契約に含意されている約束として,返品権に関する約束を識別します。

返品権に関する約束は,契約書の中で返品に関する条項として明示的に定められることもありますが,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。一般的に,生鮮食料品の業界,出版業界,医薬品業界などでは,返品の取引慣行があるといわれています。返品の可能性と返品期間の長さは,業界ごとに大きく異なり,例えば,生鮮食料品の業界では,出版業界よりも返品率が低く返品期間も短いのが通常です(IFRS/2010ED B 5)。業界や企業の取引慣行を考慮するときには,企業と顧客との間でその慣行に従う意思を示す事実及び状況(例えば,企業がこれまで顧客からの返品を受け入れてきた実績があるかどうか)も重要になります。

また,消費者との訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供契約・業務提供誘引販売取引(以上,特定商取引法),クレジット契約(割賦販売法),商品預託取引(特定商品預託取引法)には,クーリングオフ制度の適用があります。企業が資産を顧客に移転した後,クーリングオフ期間満了前に申込の撤回,解除がされる場合には,契約書に返品に関する条項がなくとも,返品権付きの販売として取り扱います。通信販売では,一定の要件を満たす特約がない限り法定返品権が認められますので,返品権付きの販売として取り扱います。このようなクーリングオフ制度などの法律による規制が,業界における自主規制などを促進し,返品の取引慣行を醸成する場合もあります。

 

● 返品の条件(理由)

返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産(商品又は製品)を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「財又はサービスに対する保証」(指針34~38)として処理します(指針89)。

実際に顧客が返品する理由は,資産に不満があることや,資産を第三者に販売できなかったことなどさまざまで構いませんが(IFRS/2010ED B 6),資産を正常に利用することができないという理由がなければ返品できない場合には,企業は,財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証又はそれに加えて顧客にサービスを提供することになります。そこで,企業は,返品権に関する約束が,契約の観点において,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務)と別個なのかどうか(本基準第34項(2))を判定するため,適用指針「財又はサービスに対する保証」に従って処理します。

 

☞返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「財又はサービスに対する保証」(指針34~38)として処理します。

 

4.返金負債

 

● 返品の受け入れに備えるサービス

企業は,返品権付きの販売について,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,①顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務と,②返品権に関する約束を識別しますが,②の約束は,返品受入期間中に返品される商品又は製品の受け入れに備えるサービス(便益)を顧客に提供し,①の約束と区分して識別できるため,契約の観点において別個のものであり(第34項),返品権サービスについての独立の履行義務を識別することができます(IFRS/BC 363)。

仮に返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別する場合には,Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」で,当該サービスの契約における取引開始日の独立販売価格を算定し(第68項),顧客に資産を移転する履行義務の独立販売価格との比率に基づいてそれぞれの履行義務に取引価格を配分します(第66項)。

しかし,返品権付きの販売の多くは,返品の数が全体の販売の中の小さな割合しかないと予想され,返品期間も短いので,契約における取引開始日に返品の受け入れに備えるサービスの独立販売価格を見積り,独立の履行義務として処理したとしても,それにより財務諸表利用者に提供される情報がもたらす効果は,そのような処理の複雑性やコストに見合いません。そこで,適用指針は,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として処理しないこととしました(指針161,IFRS/BC 366)。

 

● 返金負債

企業は,実質的に不確定な(数量の)販売を行っており,返品権が消滅した時にはじめて販売の成立・不成立を確定するので,企業が最終的に返還せずに保持すると見込む対価の額に基づき収益を認識することが適切です。

そこで,適用指針は,顧客が返品権を行使した結果として不成立になると予想される販売について,企業は収益を認識すべきではなく,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識することとしました(IFRS/BC 364)。

企業は,顧客に資産を移転し,履行義務を充足した時点で収益を認識しますが(第39項),適用指針は,認識すべき収益の額(すなわち,返金負債の額)を決定するにあたって,企業が契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,変動対価の認識及び測定に関する原則を含むStep3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用しなければならないものとしました。この原則には,変動対価の見積りの制限(本基準第54項)も含まれますので,企業は,返品権に関する不確実性が事後的に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り収益を認識することになります。

これにより,企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識します。顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,顧客から受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識しなければなりません(第53項,指針85(2),IFRS/BC 365)。

 

☞企業は,返品権付きの販売について,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識し,顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,返金負債を認識します。

 

5.返品権付きの販売の会計処理

 

● 収益・返金負債・返品資産

企業は,返品権付きの販売について,次の収益・返金負債・返品資産のすべてを処理します(指針85)。

収益

 企業は,顧客に資産(商品又は製品)を移転したときは,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額で収益を認識します。

返金負債

 企業は,対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識し,これに対応して売上原価を修正します。

 

● 当初認識

収益

 企業は,顧客に資産(商品又は製品)を移転し,履行義務を充足したときに,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額を算定し,収益を認識します(指針85(1),86)。企業が認識する収益は,変動対価の見積りの制限(第54項)により,返品権が消滅する時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限られます(IFRS/BC 365)。

返金負債

 企業は,顧客から対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち収益として認識しない金額(企業が権利を得ると見込まない額=返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します(第53項,指針85(2))。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産(例えば,棚卸資産)の従前の帳簿価額から予想される回収費用(当該資産の価値の潜在的な下落の見積額を含みます。)を控除した額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します(指針85(3),88)。 


● 事後の見直し

収益

 企業は,各決算日に,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,顧客に移転した資産と交換に権利を得ると見込む対価の額を見直し,これに対応する取引価格(認識した収益の額)を変更します(指針87)。

返金負債

 企業は,各決算日に,返金負債の額を見直し,返金負債に対応する調整を収益又は収益の減額として認識します(第53項,指針87)。

返品資産

 企業は,各決算日に,予想される回収費用(当該資産の価値の潜在的な下落の見積額を含みます。)を控除した額(返品資産の額)を見直します(指針88)。  


☞企業は,返品権付きの販売について,収益・返金負債・返品資産のすべてを処理します。企業が返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産の従前の帳簿価額から予想される回収費用を控除した額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します。企業は,各決算日に収益・返金負債・返品資産について評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.12.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

顧客による検収

 

2018年12月7日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

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「顧客による検収」 目次と概要

 

 

1.適用指針「顧客による検収」の概要

 

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。 

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えませんので,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合があります(指針80)。 

逆に,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収が完了するまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(指針82)。 

適用指針「顧客による検収」(指針80~83)は,検収の契約条項と顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点についての指針を提供しています。 

 

☞検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。検収の契約条項は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点に影響を与える場合があります。 

 

2.検収

 

● 検収

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

検収は,商法526条1項が定める「検査」に該当します。商人間の売買では,買主(顧客)は,売主(企業)から提供を受けた目的物を遅滞なく検査し,適時に契約不適合を発見して通知しなければ,売主(企業)に対する責任追及が制限されます(商法526条2項)。 

顧客との契約では,多くの場合,検収が予定されており,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

● 契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)の内容

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」において,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。 

企業がこの義務を履行するために顧客に提供した財又はサービスは契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければならず,その条件に従っていない場合には,企業の履行は完了しません。 

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱い

法律上,企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。 

法律上,企業が合意された条件に従っていない財又はサービスを提供した場合の取扱いは,契約に定めがあればそれに従い,契約に定めがない場合には民法・商法が定める任意規定に従います。 

企業は,合意された条件に従っていない財又はサービスを提供したときは,民法の任意規定に従い,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任を負います(民法562条)。また,顧客は,企業に対し,相当の期間を定めて履行の追完を催告し,その期間内に履行の追完がないときは,代金の減額を請求することができます(民法563条)。なお,顧客は,一般原則に従い,債務不履行を理由に損害の賠償(民法415条),契約の解除(民法541,542条)をすることもできます(民法564条)。 

他方,これらの企業の責任には期間制限があり,顧客は,目的物が契約に適合しないことを知ってから1年以内に企業に通知しない限り,履行の追完,代金の減額,損害の賠償を請求し,又は契約を解除することができません(民法566条)。

 
● 顧客の検査義務

顧客は,契約不適合を知ってから1年以内に企業に通知すれば,企業の責任を追及することができるという民法の期間制限では,企業は,責任追及される可能性を抱えたまま長期間不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,商法は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買については,顧客は,受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い(商法526条1項),検査後直ちに企業に通知しなければ,目的物が契約に適合しないことを理由に企業の責任を追及できないこととしています。また,検査によって直ちに発見することができない契約不適合(隠れた瑕疵)であっても,受領後6か月以内に企業に通知しなければ,同様に責任追及ができないこととしています(商法526条2項)。 


● 契約における検収の位置づけ

売買契約については,民法・商法に債務不履行責任の特則として,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任や期間制限に関する任意規定がありますので(民法561条~572条,商法526条),多くの場合,顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられます。請負契約,(準)委任契約その他の契約類型についても,売買契約に関するこれらの任意規定が準用されますので(民法559条),顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられる場合があります。 

商法は,顧客が目的物を受領してから「遅滞なく」検査を行うことを義務づけていますが,顧客との契約においては,これを明確化するため,目的物の納品,納入又は受領後,顧客が所定の期間内に検査結果を通知することを義務づけ,通知がないまま所定の期間を経過したときは検査に合格したものとみなす旨を定める場合も少なくありません。また,企業の不完全な履行に関する責任については,民法改正前の用語に倣い,条項中に「瑕疵」という表現を用いることも多く見受けられます。 

 

☞企業は,契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,特約がない限り,履行の追完(目的物の修補,代替物・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償の責任を負います。商法は,このような企業の責任追及の期間を制限するため,商人間の売買について,買主(顧客)に検査を義務づけていますので,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

3.検収と支配の移転

 

● 物理的占有の移転を伴わない支配の移転

商品又は製品の販売では,顧客との契約において,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める場合が多く,「引渡し」により当該商品又は製品の法的所有権を顧客に移転する旨の明示の合意があるか,又は黙示の合意が含まれると解釈できるため,「引渡し」の時点で,顧客が当該商品又は製品の法的所有権を有していること(第40項(2))の指標を満たします。したがって,多くの場合,法的所有権(第40項(2))の指標によって,顧客が「引渡し」の時点で当該商品又は製品に対する支配(当該商品又は製品の使用を指図し,当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力)を獲得します。 

このような契約では,企業が顧客の住所・営業所等に商品又は製品の物理的占有を移転することを「納品」や「納入」などのように「引渡し」と異なる用語で表現することが少なくありません。「納品」や「納入」などの時点では,企業が当該商品又は製品の物理的占有を移転したこと(第40項(3))の指標を満たしますが,一般に顧客が当該商品又は製品の法的所有権を有していること(第40項(2))の指標を満たしていませんので,顧客は,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。  

このように,検収の完了をもって「引渡し」と定める契約も,消化仕入契約・寄託品使用高払契約と同様に,短い期間ではあっても顧客が資産の物理的占有を保持しながら,企業から“支配”が顧客に移転する典型例であるといえます。 

 

● 検収と支配の移転

検収は,顧客が自ら検査して企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合した資産を移転し,履行義務を充足したことを確認する行為であり,検収の完了前は,顧客が代替物の提供を求めることができる場合もありますので,顧客が当該資産を検収したことは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有し,当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります(指針80)。 

 

● 検収(第40項(5))の指標の意義

商品又は製品の販売では,多くの場合,検収の完了(検査の合格)をもって当該商品又は製品の法的所有権が顧客に移転しますので,法的所有権(第40項(2))の指標とは別に,検収(第40項(5))の指標を考慮する必要がない場合も少なくありません。 

しかし,顧客との契約において,法的所有権の移転時期が不明確な場合や,企業が提供した資産が契約において合意された条件に適合しないときでも顧客が代替物の提供を求めることができない場合,検収の完了前に法的所有権が移転する旨の定めがある場合などでは,顧客が企業から提供を受けた資産の検収が完了していないのに,顧客が当該資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

☞検収は,顧客が自ら検査して企業が履行義務を充足したことを確認する行為であり,顧客が資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります。検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約では,一般に「引渡し」による法的所有権の移転(第40項(2))の指標とは別に検収(第40項(5))の指標を考慮する必要がありません。もっとも,顧客による検収が完了していないのに,顧客が資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

4.顧客による検収の会計処理

 

● 検収の契約条項の検討

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。 

顧客による検収は,あくまで支配の移転の指標の一つであり,顧客による検収を予定している取引が,常に検収までは顧客が財又はサービスの支配を獲得しないものではありません。 

 

● 企業が客観的に判断できる場合(指針80)

収益の認識

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えません(指針80)。 

例えば,所定の大きさや重量に適合するかどうかのように検収の内容が客観的で比較的単純な場合には,企業は,顧客による検収の前にその適合性を判断できます(指針80)。また,類似の財又はサービスに関する企業の取引実績により,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていることを客観的に示すことができる場合もあります(IFRS/B 84)。 

このような場合,企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができる場合があり,その時点で履行義務を充足し,収益を認識します。 

残存履行義務の検討

企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定する場合には,取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば,設備の据付け)を有しているかどうかについて,本基準第32項~第34項に従って検討しなければなりません(指針81)。 

 

● 企業が客観的に判断できない場合(指針82)

顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収が完了するまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(指針82)。 

 

● 試用販売(指針83)

企業が商品又は製品を顧客に試用目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合には,顧客が商品又は製品を検収するまであるいは試用期間が終了するまで,当該商品又は製品に対する支配は顧客に移転しません(指針83)。 

 

☞企業は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮します。契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,検収の契約条項はその時点の決定に影響を与えず,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合がありますが,企業が客観的に判断できない場合には,顧客による検収が完了するまで顧客が支配を獲得したと決定することができません。 

 

5.代替的な取扱い

 

● 出荷基準等の取扱い

本基準第39項及び第40項は,一時点で充足される履行義務については,資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に,収益を認識することとしています。他方,我が国のこれまでの実務では,売上高を実現主義の原則に従って計上するにあたり,出荷基準が幅広く用いられてきており,商品又は製品の国内における販売を前提とする限り,商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には,出荷時に収益を認識しても,商品又は製品の支配が顧客に移転される時に収益を認識することとの差異が,通常,金額的な重要性に乏しいと想定され,財務諸表間の比較可能性を大きく損なわないと考えられます(指針171)。 

そこで,適用指針は,本基準第39項及び第40項の定めにかかわらず,商品又は製品の国内の販売において,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(本基準第35項~第37項,第39項及び第40項の定めに従って決定される時点,例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば,出荷時や着荷時)に収益を認識することができると定めています(指針98)。 

 

● 代替的な取扱いの要件

顧客との契約が商品又は製品の国内の販売であること

 顧客との契約が商品又は製品の販売であり,かつ,出荷,配送及び着荷が国内でなければなりません。 

出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であること

 企業は,代替的な取扱いを適用しない場合において,当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時点を決定することが前提となります。「顧客による検収時」が例示されているように(指針98),我が国の取引の実情では,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約が一般的であり,多くの場合,商品又は製品の法的所有権が顧客に移転する検収の完了時に当該商品又は製品の支配が顧客に移転されます。 

 また,企業は,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの期間が,国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数であることを確認する必要があります(指針98)。この期間は,一般に数日間程度の取引が多いものと考えられます(指針171)。 

 もし,商品又は製品が納品・納入・着荷してから顧客が検収を完了するまでの期間が長く,取引慣行に照らして不合理である場合には,代替的な取扱いができないことに留意する必要があります。 

 

● 代替的な取扱いの会計処理

企業は,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの間の一時点で(例えば,出荷時や着荷時),収益を認識することができます。

 

☞企業は,①顧客との契約が商品又は製品の国内の販売であること,②出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であることの要件を満たすときは,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの間の一時点で(例えば,出荷時や着荷時),収益を認識することができます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.11.27更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

請求済未出荷契約/消化仕入契約

 

2018年11月27日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「請求済未出荷契約/消化仕入契約」 目次と概要

 

1.物理的占有の移転を伴わない支配の移転

 

本基準は,資産に対する支配の移転の指標の一つとして,企業が資産の物理的占有を移転したことを挙げており(第40項(3)),“支配”(第37項)が物理的占有に随伴して移転することを推定しています。

この指標は,「物理的」占有という資産に対する事実上の支配の動態的な「移転」に着眼するので,観察により客観的に適用することができる反面,占有者の「意思」を捨象しているため,物理的占有の帰属と資産に対する支配の帰属が一致しない場合があります。

物理的占有が移転せず,資産に対する事実上の支配が何ら変わらないにもかかわらず,企業から顧客へと“支配”が移転する場合として,①企業が資産の物理的占有を保持しながら,企業から“支配”が顧客に移転する典型的な契約として請求済未出荷契約があり,逆に,②顧客が資産の物理的占有を保持しながら,企業から“支配”が顧客に移転する典型的な契約として消化仕入契約・寄託品使用高払契約があります。

このうち適用指針が①請求済未出荷契約に関する指針を提供しており,適用指針設例28が②消化仕入契約を取り扱っています。

 

2.適用指針「請求済未出荷契約」の概要

 

企業が販売した商品又は製品の物理的占有を保持したまま,顧客に対価を請求する場合があります。

企業は,Step5「履行義務の充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,当該商品又は製品の物理的占有を移転していない(第40項(3)の指標を欠く)場合でも,本基準第40項の他の指標も考慮して総合的に顧客が当該商品又は製品の支配を獲得する時点を決定します。しかし,企業が顧客に移転することを約束した当該商品又は製品の物理的占有を保持している状況で,その支配が顧客に移転することを無制限に認めると,財務報告において収益認識時期の操作に悪用されるおそれがあります。

適用指針「請求済未出荷契約」(指針77~79)は,企業が販売した商品又は製品の物理的占有を保持したまま収益を認識する場合の要件と会計処理を定めています。

 

☞企業が販売した商品又は製品の物理的占有を保持したまま収益を認識する場合には,適用指針「請求済未出荷契約」の要件と会計処理に従います。

 

3.請求済未出荷契約

 

● 請求済未出荷契約

請求済未出荷契約とは,企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約をいいます(指針77)。

例えば,顧客に商品又は製品の保管場所がない場合や,顧客の生産スケジュールの遅延等の理由により,顧客がこのような契約の締結を企業に要請する場合があります(指針159)。

このような契約を締結する場合の多くは,顧客が当該商品又は製品の使用を指図する能力及び当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有しており,当該商品又は製品に対する支配を獲得します。逆に,企業は,当該商品又は製品を支配せず,代わりに顧客に対して保管サービスを提供している場合があります(IFRS/B 80)。

 

● 物理的占有の移転を伴わない支配の移転

企業が商品又は製品を販売するにあたって請求済未出荷契約が成立した場合には,①企業が顧客に提供した当該商品又は製品に関する対価を収受する現在の権利を有していること(第40項(1))の指標を満たし,多くの場合,当該契約に当該商品又は製品の法的所有権を顧客に移転する旨の明示の合意があるか,又は黙示の合意が含まれると解釈できるため,②顧客が当該商品又は製品の法的所有権を有していること(第40項(2))の指標を満たします。

したがって,多くの場合,顧客が当該商品又は製品に対する支配(当該商品又は製品の使用を指図し,当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力)を獲得しており,当該商品又は製品の物理的占有の移転が伴わないことは,顧客がその支配を獲得することを妨げるものではありません。

 

☞請求済未出荷契約(企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約)が成立した場合の多くは,顧客が当該商品又は製品に対する支配を獲得しており,当該商品又は製品の物理的占有の移転が伴わないことは,顧客がその支配を獲得することを妨げるものではありません。

 

4.請求済未出荷契約の要件と会計処理

 

● 趣旨

商品又は製品の販売について,企業が,本基準第40項(3)の指標を満たさず,当該商品又は製品の物理的占有を保持したまま,本基準第40項の他の指標も考慮して総合的に当該商品又は製品の支配を顧客に移転したと判定することを無制限に容認すれば,請求済未出荷契約が財務報告において収益認識時期の操作に悪用されるおそれがあります。

そこで,適用指針は,企業が顧客に移転することを約束した商品又は製品の物理的占有を保持している状況では,本基準第40項の指標を考慮するだけでなく,請求済未出荷契約の成立やその実態,当該商品又は製品の客観的な状態について一定の要件を満たさない限り,当該商品又は製品の支配を顧客に移転したと判定できないものとしました。

 

● 要件

企業は,商品又は製品の販売(一時点で充足される履行義務)について,顧客が当該商品又は製品の支配を獲得する時点を決定するため,本基準第40項の指標を考慮することに加え,企業が顧客に移転することを約束した商品又は製品の物理的占有を保持している状況で,顧客が商品又は製品の支配を獲得したと判定するためには,以下の要件のすべてを満たしていなければなりません(指針78,79)。

(1) 企業と顧客との間に請求済未出荷契約(企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約)が成立したこと

 請求済未出荷契約の成立が前提となりますので,企業は,Step1「顧客との契約を識別する」で,商品又は製品の販売(売買契約)に加えて請求済未出荷契約を識別する必要があります(IFRS/2010ED B 61)。

(2) 請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること(例えば,顧客からの要望による当該契約の締結)

 適用指針は,請求済未出荷契約が財務報告において収益認識時期の操作に悪用されるおそれがあることから,特に請求済未出荷契約に経済的な実態が伴うことを要件としています。

(3) 当該商品又は製品が,顧客に属するものとして区分して識別されていること

 種類物(不特定物)の給付を目的とする契約では,企業の物理的占有下に同一の種類物が顧客との契約において約束した所定の数量を超えて存在する可能性があり,契約の目的となる目的物(商品又は製品)が客観的・具体的に区分して識別されていなければ,法律上,当該商品又は製品の法的所有権が顧客に移転しません。

(4) 当該商品又は製品について,顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること

 企業は,現時点で,顧客による資産の使用の指図に応じ,いつでも顧客に当該商品又は製品の物理的占有を移転する準備が整っていなければなりません。

 上記(3),(4)の要件を満たすときは,法律上,企業の住所・営業所等で種類物(不特定物)を引き渡すべき債務(取立債務)につき,顧客に移転する法的所有権の対象(客体)が特定されます。

(5) 当該商品又は製品を使用する能力あるいは他の顧客に振り向ける能力を企業が有していないこと

 企業が当該商品又は製品を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有するときは,顧客が当該商品又は製品を支配していないことになります。

 

● 会計処理

収益の認識

企業は,上記要件をすべて満たしたうえで,本基準第40項の指標を考慮し,顧客が請求済未出荷の商品又は製品の支配を獲得したと決定した時点で,当該商品又は製品の販売による収益を認識します。

残存履行義務の検討

企業は,取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば,顧客の商品又は製品に対する保管サービスに係る義務)を有しているかどうかについて,本基準第32項~第34項に従って判断します(指針160)。

 

☞企業は,顧客に移転することを約束した商品又は製品の物理的占有を保持している状況では,(1)企業と顧客との間に請求済未出荷契約が成立したこと,(b)請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること,(3)当該商品又は製品が,顧客に属するものとして区分して識別されていること,(4)当該商品又は製品について,顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること,(5)当該商品又は製品を使用する能力あるいは他の顧客に振り向ける能力を企業が有していないことの要件をすべて満たしたうえで,本基準第40項の指標を考慮し,顧客が当該資産の支配を獲得したと決定した時点で収益を認識します。この場合,企業は,取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば,保管サービスに係る義務)を有しているかどうかについて,本基準第32項~第34項に従って判断します。

 

5.消化仕入契約・寄託品使用高払契約

 

● 消化仕入契約・寄託品使用高払契約

消化仕入契約・寄託品使用高払契約は,企業が商品又は製品の物理的占有を顧客に移転したが,将来において顧客が販売・使用・消費等のために払い出すときに当該商品又は製品を購入し,企業がその対価を請求する契約をいいます。

例えば,企業が顧客の店舗に商品を搬入,陳列したり,顧客の病院に医薬品を備え置いたり,顧客のタンクに原料を搬入したりして,顧客が商品・医薬品・原料の販売・使用・消費等をもって購入の意思を表示する場合があります。

このような契約の多くは,企業は,顧客に対し,契約に従った一定の利用(販売・使用・消費等)のために商品又は製品を払い出すことを許可し,それ以外の利用を制限する権利を有しており,顧客が当該商品又は製品を払い出すまでは依然として当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しており,当該商品又は製品を支配しています。逆に,顧客は,当該商品又は製品を払い出すまでは,当該商品又は製品を支配しておらず,代わりに企業に対して保管,販売の手配等のサービスを提供している場合があります。

なお,消化仕入契約は,小売業界において小売業者からみた仕入先との契約の種類の一つであり,通常の売買契約は「買取仕入契約」と呼ばれます(設例28)。消化仕入契約は,供給者が商品の法的所有権を有する点で,法律上の委託販売契約(取次委託)と類似しますが,委託販売契約では供給者(委託者)から需要者へ直接に法的所有権が移転し,流通業者(受託者)が商品の法的所有権を一時的にも取得することがありません。

 

● 物理的占有の移転を伴わない支配の移転

企業が商品又は製品を販売するにあたって消化仕入契約・寄託品使用高払契約が成立した場合は,顧客が販売・使用・消費等のために商品又は製品を払い出した時点で,①企業が顧客に提供した当該商品又は製品に関する対価を収受する現在の権利を有していること(第40項(1))の指標を満たし,多くの場合,当該時点で当該商品又は製品の法的所有権を移転する旨の明示の合意があるか,又は黙示の合意が含まれると解釈できるため,②当該商品又は製品の法的所有権が移転すること(第40項(2)参照)の指標を満たします。

したがって,多くの場合,顧客が販売・使用・消費等のために商品又は製品を払い出した時点で,企業が当該商品又は製品に対する支配(当該商品又は製品の使用を指図し,当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力)を移転し,当該商品又は製品の物理的占有の移転が伴わないことは,その支配が移転することを妨げるものではありません。

 

● 寄託品使用高払契約の会計処理

寄託品使用高払契約(企業が商品又は製品の物理的占有を顧客に移転したが,将来において顧客が使用・消費等のために払い出すときに当該商品又は製品を購入し,企業がその対価を請求する契約)について,企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,“支配”の要件(第37項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第40項)を考慮し,総合的に顧客が当該商品又は製品の支配を獲得する時点を決定します。

寄託品使用高払契約では,企業は,顧客が商品又は製品を購入する前に当該商品又は製品の物理的占有を顧客に移転しますが,その時点では顧客は当該商品又は製品の支配を獲得していません。多くの場合,顧客が使用・消費等のために当該商品又は製品を払い出した時点で当該商品又は製品の支配を獲得しますので,企業は,その時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

 

☞消化仕入契約・寄託品使用高払契約(企業が商品又は製品の物理的占有を顧客に移転したが,将来において顧客が販売・使用・消費等のために払い出すときに当該商品又は製品を購入し,企業がその対価を請求する契約)が成立した場合の多くは,顧客が販売・使用・消費等のために商品又は製品を払い出した時点で,企業が当該商品又は製品に対する支配を移転し,当該商品又は製品の物理的占有の移転が伴わないことは,その支配が移転することを妨げるものではありません。

 

6.消化仕入契約の会計処理

 

● 会計処理の概要

消化仕入契約の収益の認識については,企業の会計処理と顧客の会計処理に分けられます。

消化仕入契約は,一般に,企業(供給者)が商品又は製品を需要者(最終顧客)に提供する過程に顧客(流通業者)が関与しているケースですので,企業は,適用指針「委託販売契約」(指針75,76)に従って処理する必要があり,他方,顧客は,適用指針「本人と代理人の区分」(指針39~47)に従って処理する必要があります。

 

● 企業の会計処理

消化仕入契約における売主(仕入先)である企業からみると,企業(供給者)が商品又は製品を需要者(最終顧客)に提供する過程に他の当事者(流通業者)が関与しており,需要者が当該商品又は製品の支配を獲得する前に,企業から他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転します。

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が当該商品又は製品の支配を獲得する時点を決定するため,適用指針「委託販売契約」(指針75,76)に従って,他の当事者にその物理的占有を移転した時点で(第40項(3)),当該他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します(指針75)。

この判定にあたっては,他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転した時点だけではなく,需要者(最終顧客)に商品又は製品が移転される前に当該他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得するのかどうかも併せて検討します。この検討は,企業の立場から,当該他の当事者が,適用指針「本人と代理人の区分」に従って,当該商品又は製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことにほかなりません。

消化仕入契約では,法律上の契約類型が売買契約であるため,他の当事者が最終的には当該商品又は製品の法的所有権を取得し,それと同時に,需要者(最終顧客)にその法的所有権を移転します。しかし,当該商品又は製品の法的所有権は一時的に他の当事者を経由するにすぎず,一般に企業が在庫リスクを有しています(指針47(2)参照)。そのため,需要者(最終顧客)に当該商品又は製品を移転する約束の履行に対する主たる責任(指針47(1)参照)や価格の設定における裁量権(指針47(3)参照)が企業又は他の当事者のいずれにあるかを考慮し,最終的に需要者に移転するまで他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得することがなく,企業が当該商品又は製品を支配していると判定する場合が少なくありません。

需要者に移転するまで他の当事者が商品又は製品の支配を獲得することがない場合には,企業にとって需要者が“顧客”であり,他の当事者と需要者との間に成立した売買契約を顧客との契約とみなし,当該商品又は製品と交換に権利を得ると見込む対価(顧客対価)を収益として認識します。企業と他の当事者との間の消化仕入契約は,会計上は委託販売契約として取り扱います。

逆に,需要者に移転する前に他の当事者が商品又は製品の支配を獲得する場合には,企業にとって他の当事者が“顧客”であり,他の当事者との消化仕入契約に基づき,当該商品又は製品と交換に権利を得ると見込む対価(顧客対価)を収益として認識します。

このように,消化仕入契約では,企業は,当該商品又は製品の支配が移転する時点を決定するというよりも,他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうか,言い換えれば,企業が当該商品又は製品に対する支配を移転する相手方(企業にとっての“顧客”)が他の当事者又は需要者(最終顧客)のいずれかを決定することにほかなりません。

 

● 顧客の会計処理

消化仕入契約における買主(小売業者)である企業からみると,他の当事者(供給者)が商品又は製品を顧客(需要者)に提供する過程で,企業が当該商品又は製品の提供に関与しており,需要者が当該商品又は製品の支配を獲得する前に,他の当事者から企業に当該商品又は製品の物理的占有が移転されます。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」において,適用指針「本人と代理人の区分」(指針39~47)に従って,企業の約束の性質について,①顧客に対し,企業が商品又は製品を自ら提供することを約束しているのか(企業は本人である),②他の当事者に対し,他の当事者によって商品又は製品が顧客に提供されるように手配することを約束しているのか(企業は代理人である)を判定します(指針39)。

消化仕入契約では,一般に企業は在庫リスクを有しません(指針47(2))。そのため,顧客に当該商品又は製品を移転する約束の履行に対する主たる責任(指針47(1))や価格の設定における裁量権(指針47(3))が企業又は他の当事者のいずれにあるかを考慮し,当該商品又は製品が顧客に移転される前に企業が当該商品又は製品の支配を獲得せず,企業は,他の当事者に対し,他の当事者によって商品又は製品が顧客に提供されるように手配することを約束している(企業が代理人である)と判定する場合が少なくありません。

 

☞法律上の契約類型が売買契約である消化仕入契約では,商品又は製品の法的所有権が一時的に顧客(買主・小売業者)を経由するにすぎず,一般に企業(売主・仕入先)が在庫リスクを有しています。そのため,需要者(最終顧客)に当該商品又は製品を移転する約束の履行に対する主たる責任や価格の設定における裁量権が企業又は顧客のいずれにあるかを考慮し,最終的に需要者に移転するまで顧客が当該商品又は製品の支配を獲得することがなく,企業が当該商品又は製品を支配していると判定する場合が少なくありません。この場合,消化仕入契約は委託販売契約として取り扱います。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.11.15更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

委託販売契約

 

2018年11月15日 弁護士・公認会計士 片山智裕

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「委託販売契約」 目次と概要

 

1.適用指針「委託販売契約」の概要

 

企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合があります。

企業は,Step5「企業が履行義務の充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が当該商品又は製品の支配を獲得する時点を決定するため,他の当事者にその物理的占有を移転する場合(第40項(3))には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します(指針75)。

他の当事者が支配を獲得する場合には,他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

他方,他の当事者が支配を獲得していない場合には,需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(指針75)。

適用指針「委託販売契約」(指針75,76)は,企業が商品又は製品を需要者に販売するために,他の当事者にその物理的占有を移転する場合に,他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかを判定するための指針を提供しています。

 

☞企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します。他の当事者が支配を獲得していない場合には,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません。

 

2.適用指針「委託販売契約」とは

 

● 委託販売契約とは

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいいます。下の模式図では,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が,企業(A)が他の当事者(B)に対して販売業務を委託するものであり,法律上の契約類型は,(準)委任契約(委託契約)です。

委託販売契約の目的は,財(委託者の商品又は製品)を販売する手配サービスです。

 

● 支配の移転の時点

適用指針「委託販売契約」は,上の模式図で,委託者である企業が,いつの時点で商品又は製品の対価(顧客対価)を収益として認識すべきか,という問題を取り扱います。

企業(供給者)が商品又は製品を需要者Cに提供する過程に販売業者Bが関与している場合には,一般に,商品又は製品が企業(A)から販売業者Bを介して需要者Cに移転しますので,需要者Cが当該商品又は製品の支配を獲得する前に,企業から販売業者Bに当該商品又は製品の物理的占有を移転します。

企業は,商品又は製品を顧客に移転する履行義務を識別していますので,販売業者Bに当該商品又は製品の物理的占有を移転した時点で,販売業者Bが当該商品又は製品の支配を獲得する場合には,販売業者Bが“顧客”であり,その時点で履行義務を充足することになります。逆に,販売業者Bが当該商品又は製品の支配を獲得していない場合には,需要者Cが“顧客”であり,未だ顧客に当該商品又は製品の支配を移転していないので,販売業者Bに当該商品又は製品の物理的占有を移転した時点では履行義務を充足していません。

このように,適用指針「委託販売契約」では,販売業者Bが商品又は製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品又は製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(第40項(3),指針75)。

 

● 契約の相手方

企業は販売業者Bに商品又は製品の物理的占有を移転した時点で,販売業者Bが当該商品又は製品の支配を獲得する場合には,企業にとって販売業者Bが“顧客”であり,Step1「顧客との契約を識別する」では,

企業と販売業者Bとの間の売買契約(独立の販売)を識別すべきであったことになり,顧客である販売業者Bに当該商品又は製品の支配を移転した時点で収益を認識します(BC 385E)。

逆に,販売業者Bが当該製品・商品の支配を獲得していない場合には,企業にとって需要者Cが“顧客”となります。しかし,企業と顧客である需要者Cとの間には必ずしも直接に契約が成立するわけではありません。

他方で,企業と販売業者Bとの間に委託販売契約(媒介委託を除きます。)が成立していない限り,企業と顧客である需要者Cとの間に直接に契約が成立せず,顧客との契約が成立したとみなすこともできませんので,企業にとって販売業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別することが収益を認識する前提となります。したがって,企業は,Step1「顧客との契約を識別する」では,販売業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別するとともに,企業と需要者Cとの間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別すべきであったことになり,顧客である需要者Cに当該商品又は製品の支配を移転した時点で収益を認識します。

このように,適用指針「委託販売契約」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者Cか,又は販売業者Bかという問題にほかなりません。

適用指針「委託販売契約」は,商品又は製品の支配が移転する時点が異なることに着眼し,Step5「企業が履行義務の充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で判定する支配の移転の時点の問題として取り扱います(第40項(3))。しかし,企業から直接に商品又は製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方が異なることに着眼すると,本来は,契約における取引開始日において,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と販売業者Bとの間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

☞適用指針「委託販売契約」は,販売業者が商品又は製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品又は製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます。また,適用指針「委託販売契約」は,企業から直接に商品又は製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方“顧客”が需要者か,又は販売業者かという問題であり,契約における取引開始日に,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と販売業者との間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

3.本人と代理人の区分との関係

 

● 代理人

委託販売契約から生じる収益は,他の当事者(B)が認識します。委託販売契約では,受託者である他の当事者(B)は,委託者である企業(A)に対し,商品又は製品を販売する手配サービスを移転するので,「本人と代理人の区分」では自らを代理人と判定し,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識します。

適用指針「本人と代理人の区分」(指針39~47)で,他の当事者(B)が自らを代理人と判定するケースには,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が委託販売契約である場合が含まれます。

 

● 適用指針「本人と代理人の区分」

他の当事者(B)がいったん企業の商品又は製品の支配を獲得した後にその支配を需要者(C)に移転するときは,他の当事者(B)は,本人として当該商品又は製品自体を自ら需要者(C)に移転するという履行義務を充足しますので,顧客対価を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。逆に,他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得しないときは,当該商品又は製品を顧客に移転することができず,企業(A)が直接その支配を顧客に移転しますので,企業(A)が顧客対価を収益として認識すべきです。他の当事者(B)は,代理人として当該商品又は製品が顧客に提供されるように手配するという履行義務を充足しますので,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

このように,適用指針「本人と代理人の区分」では,商品又は製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(IFRS/BC 380,385C~D)。

 

● 本人と代理人の区分との関係

適用指針「委託販売契約」において,企業(A)の立場から,他の当事者(B)に商品又は製品の物理的占有を移転する場合に他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことと,適用指針「本人と代理人の区分」において,他の当事者(B)の立場から,商品又は製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことは,同一の事象を異なる立場から評価しているという“裏返し”の関係にあります。

 

☞商品又は製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかという同一の事象について,適用指針「委託販売契約」で企業(A)の立場から評価することと,適用指針「本人と代理人の区分」で他の当事者(B)の立場から評価することとは“裏返し”の関係にあります。

 

4.委託販売契約

 

● 委託販売契約

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,①「他人のため」②「財の販売」を③「引き受ける」という3つを要素とします。

 

● 他人のため

「他人のため」とは,少なくとも他人の計算(経済上の効果)において行うことを意味し,他人の権利義務(法律上の効果)において行うことを含みます。

 

● 財の販売

「販売」は売買契約を指し,法律上,売主の地位が受託者である他の当事者にある場合と委託者である企業にある場合があります。

 

自己の名をもって販売する場合(取次委託)

受託者が自己の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約(法律上「取次委託販売」と呼ばれます。)では,受託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。「自己の名をもって」とは,受託者自らが法律行為の当事者となり,その行為から生じる権利義務の主体となることをいいます。財の流通に関わる商取引では,受託者が自己の名をもって販売することが少なくありません。

企業と顧客との間には,法律上,売買契約は成立していません。しかし,企業と受託者との間に委託販売契約が成立している状況では,実質(経済)的には,企業は,受託者と売買契約を締結する顧客に対し,受託者を介して,対価を受け取る強制可能な権利を有し,財又はサービスを提供する強制可能な義務を負っているのと同視することができます。そこで,企業と受託者との間で委託販売契約(取次委託)が成立している場合には,受託者と売買契約を締結した顧客との間で企業が同一内容の売買契約を締結したものとみなし,当該契約に本基準を適用します。

 

他人の名をもって販売する場合(代理委託・媒介委託)

受託者が他人の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約では,委託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。①受託者が委託者の代理人として顧客と売買契約(法律行為)を締結する場合(法律上「代理委託販売」と呼ばれます。)と,②受託者が委託者と顧客との間の売買契約の成立のために媒介(事実行為)を行う場合(法律上「媒介委託販売」と呼ばれます。)があります。

代理委託

代理委託では,受託者は委託者の代理人として顧客との間で売買契約を締結しますが,その契約にあたって,委託者の名を表示し,受託者が委託者のために(代理人として)法律行為をすることを表示します(顕名)。代理人である受託者の名を併記するのが通常ですが,併記しない場合もあります。

媒介委託

媒介委託では,受託者は顧客との間の売買契約の成約に向けて事実行為(いわゆる仲介・周旋・斡旋・勧誘等)を行うだけで,企業自らが顧客と売買契約を締結します。

企業は,企業と顧客との間に成立した売買契約に本基準を適用します。ただし,代理委託の場合には,企業と受託者との間に委託販売契約(代理委託)が成立し,受託者に代理権が存在することが前提となります。

 

● 引き受ける

受託者は,委託者から委託を受けた販売事務を受託します。代理委託では,委託者のために法律行為(売買契約)を行うための代理権の授与を受けることも含まれます。

 

☞委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,顧客との間で売買契約を,①受託者が売主として締結する場合(取次委託)と,②受託者が代理人となり,委託者が売主として締結する場合(代理委託),③受託者が媒介(成約に向けた事実行為)をするだけで委託者が売主として締結する場合(媒介委託)があります。取次委託では,企業は,受託者と顧客との間の売買契約を顧客との契約とみなして本基準を適用します。

 

5.委託販売契約の識別

 

企業は,他の当事者(販売業者)とは常に自らが当事者として契約を締結しており,一般に契約書その他の文書により契約の内容を確認することができますので,Step1「顧客との契約を識別する」で,販売業者を顧客とする独立の販売か,又は需要者を顧客とする委託販売契約かを判定するため,企業と他の当事者との間の法律上の契約の性質を考慮することが有用になります。

企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売か,又は委託販売契約かを判定する必要があります。

 

☞企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売か,又は委託販売契約かを判定する必要があります。

 

6.委託販売契約の指標

 

● 他の当事者に対する物理的占有の移転と支配の獲得

企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します(指針75)。

他の当事者が支配を獲得する場合

他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します(IFRS/BC 385E)。

他の当事者が支配を獲得していない場合

需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(指針75)。

 

● 委託販売契約の指標

企業と他の当事者との間の契約が委託販売契約であることを示す指標には,例えば,次の(1)~(3)があります(指針76)。

(1) 販売業者等が商品又は製品を顧客に販売するまで,あるいは所定の期間が満了するまで,企業が商品又は製品を支配していること(指針76(1))

企業は,販売業者等が商品又は製品を顧客に販売するまで,又は所定の期間が満了するまで,支配の要件(第37項)を直接適用し,企業が商品又は製品を支配しているかどうかを判定します。企業が商品又は製品を支配していれば,他の当事者は当該商品又は製品の支配を獲得していません。

(2) 企業が,商品又は製品の返還を要求することあるいは第三者に商品又は製品を販売することができること(指針76(2))

企業が他の当事者に商品又は製品の返還を要求したり,第三者に商品又は製品を振り向けたりできることは,企業が当該商品又は製品を支配していることを示しており,顧客は当該商品又は製品の支配を獲得していません。

(3) 販売業者等が,商品又は製品の対価を支払う無条件の義務を有していないこと(ただし,販売業者等は預け金の支払を求められる場合がある。)(指針76(3))

他の当事者が,企業に対し,商品又は製品と交換(同価値性)の関係のある対価(預け金は該当しません。)を支払う無条件の義務を負う場合には,他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得していることを示す指標であり(第40項(1)),委託販売契約の受託者(代理人)ではなく,独立の販売であることを示します。

他の当事者が,条件付きで商品又は製品の対価を支払う義務を負う場合(例えば,需要者(最終顧客)に当該商品又は製品を販売したという条件が付されている場合)には,委託販売契約の受託者(代理人)である可能性があります。

 

☞企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します。委託販売契約であることを示す指標として,例えば,(1)販売業者等が商品又は製品を顧客に販売するまで,あるいは所定の期間が満了するまで,企業が商品又は製品を支配していること,(2)企業が,商品又は製品の返還を要求することあるいは第三者に商品又は製品を販売することができること,(3) 販売業者等が,商品又は製品の対価を支払う無条件の義務を有していないことなどがあります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.11.04更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

買戻契約

 

2018年11月4日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「買戻契約」 目次と概要

 

1.適用指針「買戻契約」の概要

 

企業は,顧客に商品又は製品を売り渡す契約(売買契約)について,契約における取引開始日に,商品又は製品に対する支配が顧客に移転しているかどうかを判断するにあたって,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮する必要があります(指針8)。

企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)や企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は商品又は製品を企業に返還する義務又は返還に備える義務を負うため,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,買戻契約につき商品又は製品の販売として収益を認識してはならず,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します(指針69)。

他方,企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品を企業に返還する義務も返還に備える義務も負わないため,基本的には当該商品又は製品に対する支配を獲得しています。そこで,企業は,買戻契約を返品権付きの販売として処理します(B 72,73)。

ただし,買戻価格と買戻日時点での商品又は製品の予想される時価との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等により,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,実質的に当該商品又は製品を返還することを余儀なくされますので,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します(B 72,73)。

適用指針「買戻契約」(指針69~74)は,買戻契約の形態によってどのように会計処理するのかの指針を提供しています。

 

☞買戻契約について,①企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は②企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合や,③企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合のうち,(a)顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していませんので,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します。③の場合のうち,(b)顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得していますので,企業は,返品権付きの販売として処理します。

 

2.買戻契約

 

● 買戻契約

買戻契約とは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有する契約をいいます(指針153)。

買戻契約は,①企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

 

● 売買契約

買戻契約は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。

 

● 反対売買の権利義務

反対売買は,顧客(元の買主)が企業(元の売主)に(実質的に)同一の商品又は製品を移転する義務を負い,企業がその代金を支払う義務を負うことをいいます。

買戻契約は,反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。 

したがって,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約を除くと,企業からみて,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態は次の3つに分類できます(指針153)。

(1) 企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)

(2) 企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)

(3) 企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)

 

● 買い戻す商品又は製品

買い戻す商品又は製品は,①当初において顧客に販売した商品又は製品そのもの,②顧客に販売したものと実質的に同一の商品又は製品,③当初において販売した商品又は製品を構成部分とする商品又は製品があります(指針153)。③には,当初において販売した商品又は製品を材料・部品として加工・組立をしたものも含まれます。

 

● 買戻の法形式

買戻の法形式は,当初の売買契約と反対の売買契約(再売買)によるものと,当初の売買契約を解除するものとがあります。いずれの法形式も,期限の到来により又は当事者の意思表示(再売買の予約完結権又は解除権)により反対売買の権利義務(再売買の権利義務又は原状回復義務)を発生させることができます。

 

● 同一機会

企業が買い戻す義務又は権利に関する約束は,当初の売買契約と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か)は問いません(指針153)。

企業が商品又は製品に対する支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該商品又は製品を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に顧客に当該商品又は製品を引き渡した時点で,顧客が当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません。もっとも,このようなケースでは,企業が商品又は製品の物理的占有を移転した時に顧客が当該商品又は製品に対する支配を獲得したのかどうかを検討すべきであり,本人と代理人の区分(指針39~47)を考慮する場合があります(IFRS/BC 423)。

 

● 買戻し契約の会計処理の目的

企業が売り渡した商品又は製品にその後も継続的に関与する場合には,顧客による当該商品又は製品の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮する必要があります(指針8,IFRS/BC 157,422)。

 

☞買戻契約は,①企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。企業が買い戻す義務又は権利の形態は,一般的に,(1)企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引),(2)企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション),(3)企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)の3つに分類できます。

 

3.先渡取引又はコール・オプション

 

● 買戻契約の先渡取引

買戻契約の先渡取引とは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,一定の期限が到来したときに顧客から当該商品又は製品を買い戻す義務を負う契約をいいます(指針153(1))。

 

● 買戻契約のコール・オプション

買戻契約のコール・オプションとは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,一方的な意思表示により顧客から当該商品又は製品を買い戻す権利を有する契約をいいます(指針153(2))。

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)

先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。

 

● 顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するか

買戻契約の先渡取引又はコール・オプションでは,企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有する反面,顧客が当該商品又は製品を企業に返還する義務又は返還に備える義務を負います。たとえ顧客が当該商品又は製品を物理的に占有しているとしても,顧客は,当該商品又は製品を使い切ったり,消費したり,売却したりできませんので,当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されています。したがって,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していません(指針154)。

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される条件

買戻契約の先渡取引又はコール・オプションに,将来,発生することが不確実な事実にかかる条件(企業の選択を除きます。)が付されているときは,その条件が,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,実質的に買戻契約の形態を判定する必要があります。

例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した商品又は製品を顧客が期限を超えて消費者に販売することを防止するため,一定の期限を経過したときに顧客から買い戻す権利を有している場合には,企業が買い戻す権利に“商品又は製品が販売されていない(売れ残った)こと”という条件が付されています。この条件は,顧客が商品又は製品を第三者に販売することを妨げないので,顧客が当該商品又は製品に対する支配を獲得しています。このような買戻契約の形態の実質は,プット・オプションであり,返品権付きの販売と整合的に処理します(IFRS/2011ED BC 320)。

 

☞企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)や企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品を企業に返還する義務又は返還に備える義務を負うため,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。

 

4.先渡取引又はコール・オプションの会計処理

 

● 商品又は製品の販売でないこと

企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該商品又は製品に対する支配を獲得していませんので,買戻契約につき商品又は製品の販売として収益を認識してはなりません(指針69)。

 

● 会計処理

企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして処理します(指針69)。

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,金利相当分の影響を考慮します(指針69)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」に従ってリース取引として処理します。

このような取引は,実質的に企業が顧客に商品又は製品を貸し付け,一定期間後にその返還を受け,当初の販売価格(A)と買戻価格(B)の差額(A-B)が一定の期間にわたり使用する権利の対価として企業に支払われることになるからです(指針155)。

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した商品又は製品を顧客からリースバックする契約に企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利が含まれるもの)は,金融取引として処理します(IFRS/B 66,BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,金融取引として処理します。

このような取引は,実質的に,企業が顧客から当初の販売価格(A)を借り入れ,買戻価格(B)を返済し,買戻価格(B)と当初の販売価格(A)の差額(B-A)を金利として支払うことになるからです(指針155)。

企業は,商品又は製品を引き続き認識するとともに,顧客から受け取った当初の販売価格(A)について金融負債を認識します。企業は,顧客から受け取った当初の販売価格(A)と顧客に支払う買戻価格(B)との差額(B-A)を金利として認識します。当該差額に加工コストや保管コスト(例えば,保険)があれば,それらも認識します(指針70)。

 

● コール・オプションの消滅

コール・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,コール・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(指針71)。

 

☞企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該商品又は製品に対する支配を獲得していないので,買戻契約につき商品又は製品の販売として収益を認識してはなりません。企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します。

 

5.プット・オプション

 

● 買戻契約のプット・オプション

買戻契約のプット・オプションとは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該商品又は製品を買い戻す義務を負う契約をいいます(指針153(3))。

 

● プット・オプションに付される期限(期間)

プット・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。

 

● 顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するか

買戻契約のプット・オプションでは,企業が商品又は製品の購入に備える義務を負いますが,他方で,顧客が売り戻す(企業に買い戻させる)権利を行使するかどうかは自由であり,当該商品又は製品を返還する義務も返還に備える義務も負いません。そのため,顧客は,当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しており,プット・オプションを行使しないことを選択して,当該商品又は製品を使い切ったり,消費したり,第三者に売却したりできます。したがって,顧客は,基本的には企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得しています(指針156)。

しかし,顧客がプット・オプションを行使することに重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,プット・オプションを行使しないときには重要な損失を蒙る可能性が高いため,実質的に当該商品又は製品を返還することを余儀なくされますので,オプションの存在が,顧客が当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を制限することになります。逆に,企業からみれば,実質的に顧客から商品又は製品を買い戻すことを余儀なくされますので,先渡取引と類似する状況にあります。したがって,このような場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していません(指針157)。

 

☞企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品を企業に返還する義務も返還に備える義務も負わないため,基本的には当該商品又は製品に対する支配を獲得しています。ただし,顧客がプット・オプションを行使することに重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客が実質的に当該商品又は製品を返還することを余儀なくされますので,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。

 

6.プット・オプションの会計処理

 

● 重要な経済的インセンティブ

企業は,買戻契約のプット・オプションについて,企業が売り渡した商品又は製品に対して顧客が支配を獲得するかどうかを判定するため,契約における取引開始日に,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します(指針 72,73)。

企業は,その判定にあたって,①買戻価格と買戻日時点での商品又は製品の予想される時価との関係や②プット・オプションが消滅するまでの期間等,さまざまな要因を考慮します。例えば,買戻価格が商品又は製品の時価を大幅に上回ると見込まれる場合には,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していることを示す可能性があります(指針72)。他方,買戻価格が顧客に最低限の売却収入(保証最低売戻価値)を保証するにすぎない場合には,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有しているとはいえません(IFRS/BC 431)。

 

● 重要な経済的インセンティブを有している場合

顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客がプット・オプションを行使することが想定されており,買戻契約の先渡取引と類似する状況にあります(IFRS/BC 429)。

そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして処理します(指針72,73)。

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,金利相当分の影響を考慮します(指針72,73)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻すことが想定されており,企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」に従ってリース取引として処理します(指針72,157)。

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した商品又は製品を顧客からリースバックする契約に企業が顧客の要求により当該商品又は製品を買い戻す義務が含まれるもの)は,金融取引として処理します(IFRS/B 70,BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻すことが想定されており,金融取引として処理します(指針73,158)。

 

● 重要な経済的インセンティブを有していない場合

顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得しています。

そこで,企業は,買戻契約を返品権付きの販売として処理します(指針72,73)。

 

● プット・オプションの消滅

プット・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,プット・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(指針74)。

 

☞企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,企業は,買戻価格と買戻日時点での当該商品又は製品の予想される時価との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等を考慮し,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します。顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理し,そうでない場合には,買戻契約を返品権付きの販売として処理します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.23更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

ライセンスの供与②

 

2018年10月23日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「ライセンスの供与②」 目次と概要

 

 

1.ライセンスの性質

 

ライセンスは,企業の知的財産を所有する権利ではなく,それを使用する権利です。したがって,顧客は,権利の設定を受けた一時点で,その権利を行使する(使用する)かどうかという使用を指図し,当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力,すなわちライセンスに対する支配を獲得するとみることが「支配」概念に整合します(IFRS/BC 402)。 

しかし,ライセンスは,非常に多様性があり,広範囲の異なる特徴及び経済的特性によって著しい相違が生じています。例えば,企業が,顧客に対し,一定の期間,企業の商標を使用し,企業の製品を販売する権利を顧客に付与するフランチャイズの場合(設例25),企業が保有する知的財産の形態・機能性・価値が企業の活動(例:顧客の変化する嗜好の分析や,製品の改善,販促キャンペーンなど)により継続的に変化しているので(動的である),顧客は,ライセンスが供与される一時点で存在している形態・機能性・価値での知的財産の使用を指図しても,ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを享受することができない可能性があります。こうした場合,ライセンスは,その時々において存在している形態・機能性・価値での知的財産に対するアクセスを顧客に提供しており,アクセスの提供につれて顧客が便益を得ているとみることができます(IFRS/BC 403)。 

そこで,適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します(指針145,IFRS/BC 414D)。 

 

☞適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します。 

 

2.ライセンス供与における企業の約束の性質

 

● 企業の約束の性質と履行義務の属性

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型のいずれかに区別し,①の場合は一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し,②の場合は一時点で充足される履行義務と判定します(指針62)。 

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利 

 ➡ 一定の期間にわたり充足される履行義務

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利を提供する場合には,顧客は,企業の知的財産へのアクセスを提供するという企業の履行からの便益を,履行が生じるにつれて同時に受け取って消費しているとみることができます(第38項(1))。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するものとみて,その属性を一定の期間にわたり充足される履行義務であると判定します(指針146)。

ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利 

 ➡ 一時点で充足される履行義務

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利を提供する場合には,当該知的財産はライセンスが顧客に供与される時点で形態と機能性の観点で存在しており,その時点で顧客がライセンスの使用を指図し,当該ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを享受することができます。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一時点で充足するものとみて,その属性を一時点で充足される履行義務であると判定します(指針147)。

 

● 企業の約束の性質の判断枠組み

適用指針は,ライセンス供与における企業の約束の性質が2つの類型のいずれかに区別されることを確保するため,企業の知的財産にアクセスする権利についての要件だけを定め,当該要件に該当しない場合には,企業の知的財産を使用する権利と判定することとしています。知的財産が静的であるよりも,変化している(動的である)方が判定が容易であると考えられたからです(IFRS/BC 408)。 

 

● 企業の約束の性質の判定にあたって考慮しない要因

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質の判定にあたって,以下の要因を考慮しません(指針66)。 

時期,地域又は用途の制限(指針66(1))

企業は,顧客の契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これらは顧客の権利の範囲(ライセンスの属性)であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。企業の活動が知的財産に著しく影響を与えるかどうか(指針63(1))は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかを考慮するので,ライセンスの属性を考慮しません(指針148)。 

企業が知的財産に対する有効な特許を有しており,当該特許の不正使用を防止するために企業が提供する保証(指針66(2))

企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業の知的財産の価値を保護し,顧客に供与したライセンスが契約で合意された仕様に従っているという保証を顧客に提供するだけで,企業が保有する知的財産を変化させる活動を行うことを約束するものではありません。そのため,これらの保証や約束は,企業が知的財産に影響を与える活動を行うことが契約により定められていること(指針63(1))には該当しません(指針148)。 

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,契約における取引開始日に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定するため,ライセンス供与における企業の約束の性質を2類型のいずれかに区別します。ライセンスの属性である顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)や,企業が有効な知的財産を有しているという保証,その侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がないため,企業の約束の性質の判定にあたって考慮しません。 

 

3.企業の知的財産にアクセスする権利

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の要件

企業は,次の(a)~(c)の要件のすべてに該当する場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別します(指針63)。 

 

(a) ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが,契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること

企業の知的財産にアクセスする権利は,ライセンス期間にわたり企業の知的財産の形態・機能性・価値が継続的に変化している(動的である)ことに本質があり,顧客との契約において,企業の知的財産を変化させる活動を企業が行うことが契約により定められている又は顧客により合理的に期待されている場合であるといえます。企業の知的財産を変化させる活動は,顧客に財又はサービスを直接に移転しない(履行義務を充足しない)活動であり,企業の継続的な通常の活動や商慣行の一部として行われる場合もあります(IFRS/BC 409)。 

 

顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動

企業の活動が知的財産を変化させるかどうかは,知的財産が顧客に便益を提供する能力に著しく影響を与えるのかどうかを基礎として判定します。知的財産が顧客に便益を提供する能力は,知的財産の形態又は機能性から得られる場合もあれば,知的財産の価値から得られる場合もあります(IFRS/BC 414G)。 

ここでいう著しく影響を与える対象は,企業が保有する知的財産そのものであって,知的財産に設定した顧客の権利(ライセンス)ではありません。顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)は,ライセンスの属性であり,知的財産そのものが変化しているかどうかに関係がありません(指針66(2))。 

適用指針は,企業の活動が次のいずれかの場合には,顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与えることを明確にしています(指針65)。 

ⅰ) 当該企業の活動が,知的財産の形態(例えば,デザイン又はコンテンツ)又は機能性(例えば,機能を実行する能力)を著しく変化させると見込まれること(指針65(1)) 

顧客が権利を有している知的財産の形態又は機能性が著しく変化すれば,顧客が知的財産から便益を得る能力が著しく変化すると考えられます(IFRS/BC 414G)。他方で,ソフトウェア,薬物の製法並びに映画,テレビ番組及び音楽作品の録音物等のメディア・コンテンツなど,知的財産が重大な独立した機能性を有する場合には,当該知的財産の便益の実質的な部分が当該機能性から得られるため,企業の活動が形態又は機能性を著しく変化させない限り,顧客が知的財産からの便益を享受する能力は著しい影響を受けません(指針150)。 

ⅱ) 顧客が知的財産からの便益を享受する能力が,当該企業の活動により得られること又は当該企業の活動に依存していること(指針65(2)) 

例えば,ブランドからの便益は,知的財産の価値を補強又は維持する企業の継続的活動から得られるかあるいは当該活動に依存していることが少なくありません。このように,顧客が知的財産からの便益を享受する能力がライセンスを供与した後の企業の活動により得られるか又は当該活動に依存している場合には,当該活動によって必ずしも知的財産の形態又は機能性が著しく変化しなくとも,当該活動は,顧客が知的財産からの便益を享受する能力に著しく影響を与えると考えられます(IFRS/BC 414G)。 

 

契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約により定められているかどうかは,顧客との契約において企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務を考慮して判定します。企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産を変化させる活動を企業が行うことを約束するものではなく,これには該当しません(指針66(2))。 

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが顧客により合理的に期待されていることを示す可能性のある要因としては,企業の取引慣行や公表した方針等があります。また,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での経済的利益の共有(共有された経済的利害)の存在もその要因となります(指針149)。売上高に基づくロイヤルティの存在は,ライセンス供与における企業の約束の性質を決定づける要件ではありませんが,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での共有された経済的利害を示します(IFRS/BC 413)。

 

(b) 顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により,顧客が直接的に影響を受けること

企業の知的財産が著しい影響を受けたことにより,当該知的財産に設定した顧客の権利にも直接的にその影響が及ぶものでなければなりません。知的財産の変化が顧客の権利にも直接的に影響が及ぶ場合に,顧客がライセンス期間全体を通じて直近の形態・機能性・価値での知的財産を使用しているといえます。企業が知的財産に影響を与える活動を行ったとしても,顧客の権利に何ら影響を与えない場合には単に自らの知的資産を変化させ,将来において便益を提供する能力に影響を与えるだけで,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(IFRS/BC 409)。 

 

(c) 顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として,企業の活動が生じたとしても,財又はサービスが顧客に移転しないこと

顧客が権利を有している知的財産に影響を与える企業の活動には,顧客との契約に含まれる他の独立した約束(履行義務)を充足する活動を除外します。そのような活動が生じるにつれて顧客に移転する財又はサービスは,ライセンスとは独立の別個の財又はサービスであり,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(IFRS/BC 410)。 

例えば,ソフトウェア・ライセンスを供与する約束を含む契約において,取引慣行,公表した方針等により顧客のソフトウェアをアップデートするサービスを提供する約束が含意される場合がありますが(IFRS/BC 87),ソフトウェアをアップデートするサービスは,ライセンスとは別個のものとして識別するため,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません。したがって,ソフトウェアをアップデートする企業の活動は,(a)の要件に該当する企業の活動ではなく,その活動によって顧客の権利に直接的な影響が及ぶとしても(b)の要件を充足しません。このようなソフトウェア・ライセンスは,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利です(IFRS/BC 410)。 

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の会計処理

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別する場合には,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します(指針62)。 

 

☞企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質について,(a)ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが,契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること,(b)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により,顧客が直接的に影響を受けること,(c)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として,企業の活動が生じたとしても,財又はサービスが顧客に移転しないことの要件のすべてに該当する場合には,企業の知的財産にアクセスする権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。 

 

4.企業の知的財産を使用する権利

 

企業は,企業の知的財産にアクセスする権利の要件(指針63)のいずれかに該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し(指針64),ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します(指針62)。 

企業は,収益を一時点で認識するため,本基準第40項に従い,ライセンスに対する支配が顧客に移転する時点を決定します(指針147)。 

この場合,顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できる期間の開始前に収益を認識することはできません。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業がソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用できるようにするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません(指針147)。 

 

☞企業は,企業の知的財産にアクセスする権利の要件のいずれかに該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業がソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用できるようにするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません。 

 

5.売上高又は使用量に基づくロイヤルティ

 

● 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ

売上高又は使用量に基づくロイヤルティとは,顧客が契約において知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価をいい,変動対価に該当します。 

 

● ロイヤルティ制限の目的

企業は,別段の定め(ロイヤルティ制限)がない場合,売上高又は使用量に基づくロイヤルティを変動対価として識別し,一般的な変動対価として,本基準第50項~第55項に従い,以下のとおり取引価格を算定し,収益を認識することとなります。 

まず,企業は,通常は期待値により,顧客の将来にわたる売上高又は使用量を予測し,予測された売上高又は使用量から算定されるロイヤルティの額を確率で加重平均した金額として変動対価を適切に見積ります(第51項)。 

次に,企業は,変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い範囲で,将来にわたる最小限のロイヤルティの合計額を取引価格に含め,収益を認識することとなります(第54項)。 

しかし,このような会計処理によると,特に契約の存続期間が長期間にわたる場合,契約における取引開始日に認識した収益の額について多額の修正を繰り返すことになり,財務諸表の利用者に目的適合性のある情報をもたらしません(IFRS/BC 219,415)。 

そこで,適用指針は,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについては,それが配分されている履行義務が充足されるだけでなく,変動対価の額に関する不確実性が解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)まで変動性のある金額の収益を認識してはならないこととしました(指針151,IFRS/BC 415,421I)。 

 

● 要件

企業は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価(売上高又は使用量に基づくロイヤルティ)が知的財産のライセンスのみに関連している場合,あるいは当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目である場合にロイヤルティ制限を適用します(指針67)。 

例えば,ロイヤルティが関連する財又はサービスの中で,ライセンスに著しく大きな価値を顧客が見出すことを,企業が合理的に予想できる場合には,当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目であるといえます(指針152)。 

適用指針は,ロイヤルティ制限を知的財産のライセンスを伴う限定的な状況にのみ適用しており(指針151,IFRS/BC 416~421),財務諸表の利用者がライセンス契約であると考える可能性が高い範囲にロイヤルティ制限の適用を限定します(IFRS/BC 421D,421F)。 

 

● 収益の認識(ロイヤルティ制限)

企業は,次の(a)又は(b)のいずれか遅い方で,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについての収益を認識します(指針67)。 

(a) 知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時
(b) 売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時

 

● ライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価

上記要件を満たす場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体についてロイヤルティ制限を適用します。逆に,上記要件を満たさない場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体を一般的な変動対価として取り扱い,本基準第50項~第55項を適用します(指針68)。 

企業は,顧客が知的財産のラインセンスと交換に約束した変動対価は,その中にライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価が含まれるとしても,対価を分割することなく,その全体にロイヤルティ制限を適用するか,又はその全体を一般的な変動対価として取り扱うかのいずれかで会計処理します(IFRS/BC 412J)。 

 

☞企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量に基づくロイヤルティに,知的財産のライセンスのみが,又は知的財産のライセンスが支配的な項目として関連している場合には,①知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時,②売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時のいずれか遅い方で収益を認識します(ロイヤルティ制限)。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.11更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

ライセンスの供与①

 

2018年10月11日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「ライセンスの供与①」 目次と概要

 

1.適用指針「ライセンスの供与」の概要

 

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(指針61),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,①ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別し,②ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し(指針61),逆に,別個のものである場合には,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します(指針62)。

また,企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量に基づくロイヤルティについては,顧客の売上高又は使用量の実績が生じるまで収益を認識できません(指針67)。

適用指針「ライセンスの供与」(指針61~68)は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別するかどうかや,識別した履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)をどのように判定するか,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについての指針を提供しています。

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を,①ライセンスを目的とする契約では常に,②ライセンスを含む契約では契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものである場合に独立した履行義務として識別したうえ,企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します。

 

2.ライセンス供与

 

● ライセンス供与

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(指針61),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。

 

● 知的財産

知的財産とは,特許,著作,意匠,商標,ノウハウ(営業秘密その他技術上又は営業上の情報)などの無体物としての財産であり,将来的にも広がる可能性があります。

知的財産は,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。

適用指針は,ライセンスを供与する知的財産の例として,(a)ソフトウェア及び技術,(b)動画,音楽及び他の形態のメディア・エンターテインメント,(c)フランチャイズ,(d)特許権,商標権及び著作権を挙げています(指針143)。

 

● ライセンス

ライセンスは,企業の知的財産を一定の範囲で利用する顧客の権利です。ライセンスの本質は,知的財産を保有する企業が,顧客に対し,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,その反面として,顧客は,企業の知的財産を一定の範囲で利用する権利を取得します。企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これをライセンスの属性と呼びます(IFRS/B 62(a))。

ライセンスは,顧客の権利であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。ライセンスの属性は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がありません(指針66(1)参照)。

 

☞知的財産は,特許,著作,意匠,商標,ノウハウなどの無体物としての財産であり,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。ライセンスは,企業の知的財産に対する顧客の権利であり,企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間,地域,用途等)を定めます。

 

3.ライセンスの本質

 

ライセンスの本質は,知的財産の保有者(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。

ライセンスは,この本質に関連し,以下の2つに分類されます。

法律上の禁止権を解除するライセンス

企業が保有する知的財産が,特許権,著作権,意匠権,商標権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように,法律上,第三者に対して一定の知的財産の利用を禁止する(侵害行為を差し止める)ことができる場合,ライセンスの本質は,契約により,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用に対する禁止権(侵害行為差止請求権)を行使してはならない義務を負うことにあります。

特許権,意匠権,商標権のように登録型の知的財産は,一般にこのライセンスに分類されますが,著作権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように非登録型の知的財産は,法律上の禁止権が存在するかどうかが不確実であるため,この類型と次の類型の両方の性質を有することも少なくありません。

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

企業が保有する知的財産が,法律上,第三者に対し,一定の知的財産の利用を禁止することができないものの,保有者から許諾を受けなければ,事実上利用ができない場合,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用を事実上可能にし,契約により顧客にそれ以外の利用や第三者への提供をしてはならない義務を負わせることにあります。

例えば,著作権法は,プログラムの著作物を本来の用法に従って使用(起動,操作等)することや第三者に提供することを禁止していないため,企業は,ソフトウェア使用許諾契約で,顧客にプログラム著作物を引き渡してその使用を事実上可能にするとともに,それ以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしにプログラム著作物を利用できない事実状態を作り上げています。

 

☞ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,法律上の禁止権を解除するライセンスと事実上の禁止状態を作り出すライセンスに分類されます。

 

4.ライセンスを供与する約束の識別

 

● ライセンスを供与する約束

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,ライセンスを供与する約束を識別します。

ライセンスを供与する約束は,契約書では,一般に,企業が,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲(期間,地域,用途等)で利用することを“許諾する”という表現を用います。この許諾がライセンスを供与することを意味しており,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。企業は,この義務を負うことによって,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲で利用できるようにするサービスを提供します。

ライセンスを目的とする契約(ライセンス契約)

企業(ライセンサー)が一定の知的財産の利用を顧客(ライセンシー)に許諾し,顧客がその対価(ライセンス料)を支払うことを約する契約(ライセンス契約)は,ライセンスを目的とする契約であり,ライセンスを供与する約束は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務に位置づけられます。フランチャイズ契約も,多くの場合,企業(フランチャイザー=本部)が特許権やノウハウ(営業秘密),商標権などの知的財産の利用を顧客(フランチャイジー=加盟店)に許諾し,顧客がその対価(加盟金,ロイヤルティ)を支払うので,ライセンス契約に該当します。

ライセンスを含む契約

ライセンスでない他の財又はサービスを契約の目的とする売買契約や(準)委任契約(委託契約),請負契約がライセンスを供与する約束を含む場合があります。ライセンスを含む契約では,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を識別します。ライセンスを供与する約束は,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務に位置づけられ,ライセンスが契約の目的とされた財又はサービスと別個のものかどうかを識別する必要があります。

 

● 顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスの提供

企業は,顧客に対し,ライセンスを供与するとともに,許諾した一定の知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスを提供することも約束する場合があります。

企業は,このような財又はサービスを提供する約束が,ライセンスを供与する約束と区分して識別可能か(契約の観点において別個のものか)について(第34項(2)),ライセンスの本質を考慮します。

法律上の禁止権を解除するライセンス

法律上の禁止権を解除するライセンスでは,顧客が,企業に無断で知的財産を事実上利用すれば,企業から禁止権(侵害行為差止請求権)を行使されるため,ライセンスを供与する約束は,その行使をしないようあらかじめ企業から許諾を受けることを意味し,その許諾(不作為)だけがライセンスの本質に関わる約束です。

したがって,企業が顧客による一定の知的財産の利用を事実上容易にするための財又はサービスを顧客に移転することは,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別する場合があります。例えば,企業が商品の製造・販売の方法に関する特許やノウハウ(営業秘密)のライセンスを供与するにあたって,公開されている特許情報や開示したノウハウ(マニュアル)とは別に,顧客の従業員を実技形式で指導支援することを約束するときは,多くの場合,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別します。

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

事実上の禁止状態を作り出すライセンスでは,顧客は,一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為がない限り,その知的財産を事実上も利用できないため,ライセンスを供与する約束は,企業からその行為(作為)を伴う許諾を受けることを意味します。他方で,企業が,顧客に対し,許諾した一定の範囲以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしに知的財産を利用できない事実状態を作り上げるので,この禁止(拘束)に関する顧客の義務も,ライセンスの本質に関わる不可分な約束です。

顧客による一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為には,例えば,動画・音楽・プログラム等を保存した記憶媒体(メディア)の引渡し,ソフトウェアの使用やオンライン・サービスへのアクセスに必要なコード(ユーザID・パスワード等)の提供などがあります。これらの財又はサービスは,ライセンスの供与とは別個のものとなり得るとしても(第34項(1)の要件を満たす),多くの場合,当該財又はサービスの移転なしに知的財産を事実上利用できないので,当該財又はサービスを移転する約束は,ラインセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第34項(2)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。

 

● 独占的なラインセンスの供与

ライセンスを供与する契約条項では,“独占的な”又は“非独占的な”権利を許諾するという表現が用いられることが少なくありません。ライセンス契約に独特の慣行的な表現であり,一般的には,次のように解釈します。

独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占するという意味合いであり,企業(ライセンサー)は,顧客に対し,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を負います。

独占的な権利のライセンスでは,ライセンスを供与する約束のほか,顧客に許諾した一定知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を,契約における約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務)として識別することができます。

このような追加的な約束は,顧客が購入したライセンスに独占性を付与して経済的価値を高めるものであり,顧客が追加的な約束のみを購入し,ライセンス自体を購入しないことを決定することはできません。したがって,このような追加的な約束は,ライセンスへの依存性や相互関連性が高く(指針6(3)),多くの場合,ライセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第34項(2)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。

非独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占しないという意味合いであり,企業は,顧客にライセンスを供与すること以外に追加的な拘束を受けないので,当該顧客以外の第三者に対しても,同一の知的財産につき当該顧客に許諾した範囲の利用を重ねて許諾して,当該第三者からもライセンスの対価を受け取ることができます。

 

● 契約に含意されている約束

フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレード(IFRS/BC 87),フランチャイザーが行う新製品・メニューの投入,販促キャンペーンなど,契約条項に定められた企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務とはいえなくとも,企業が顧客と契約を締結する時までに生じた取引慣行,公表した方針等により財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します(第127項)。

 

☞顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするために財又はサービスを顧客に移転することは,多くの場合,法律上の禁止権を解除するライセンスでは別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別しますが,事実上の禁止状態を作り出すラインセンスではライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。企業は,独占的な権利のライセンスでは,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾しないことを追加的に約束しますが,多くの場合,ラインセンスへの依存性や相互関連性が高いため,ライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,取引慣行,公表した方針等により,ソフトウェアのアップグレードやフランチャイザーの活動について契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。

 

5.ライセンス供与と履行義務の識別

 

● ライセンスを目的とする契約

企業は,ライセンスを目的とする契約では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務としてライセンスを供与する約束を識別し,独立した履行義務として識別します。

 

● ライセンスを含む契約

企業は,ライセンスを含む契約では,他の種類の契約と同様に,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,本基準第32項~第34項に従って履行義務を識別します(指針144)。

企業は,まず,契約における約束として,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を識別し,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務としてライセンスを供与する約束を識別します。

次に,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務として識別し(指針61),逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。

例えば,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものではないライセンスの例として,次のようなものがあります(IFRS/B 54)。

有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるライセンス

ソフトウェアが有形の財(例えば,自動車)の構成部分となっていて,その財がどのように機能するかに大きく影響を与える場合など,ライセンスが有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるときは,当該ライセンスは,有形の財に統合されており,アウトプットである当該財を製造するためのインプットにすぎません(指針6(1))。

関連するサービスとの組合せでのみ顧客が便益を得ることのできるライセンス

例えば,企業の主幹設備(システムなど)にオンラインのアクセスによってのみ顧客がソフトウェアを使用することを可能にするサービス(ホスティング又はストレージのサービスなど)では,ライセンスの使用は,オンライン・サービスへの依存性又は相互関連性が高く(指針6(3)),顧客は,ライセンスに対する支配を獲得していません。

 

☞企業は,ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し,逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。

 

6.ライセンス供与と履行義務の属性の判定

 

● 独立した履行義務であるライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定しますが,その判定にあたって,ライセンス供与における企業の約束の性質を次の2類型に区別します(指針62)。

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利
ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

 

● 独立した履行義務でないライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束が別個のものでなく,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,Step5「履行義務を充足した時又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務(ライセンスの供与を含みます。)について,契約における取引開始日に,本基準第35項~第40項に従って,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します(指針61)。

 

☞企業がライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利又は企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します。他方,企業がライセンスを供与する約束を契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務としてその属性を判定します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.01更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

返金が不要な顧客からの支払

 

2018年10月1日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 6ページ

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返金が不要な顧客からの支払

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「返金が不要な顧客からの支払」 目次と概要

 

1.適用指針「返金が不要な顧客からの支払」の概要

 

企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(指針141)。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)を提供する義務を識別しますが,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。返金が不要な顧客からの支払は,①契約更新オプションがある場合に契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があること(指針58),②一定の期間にわたり充足される履行義務に係る進捗度をコストに基づくインプット法により見積るにあたって関連する活動及びコストの影響を除くこと(指針60)に留意する必要があります。

他方,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(指針59)。

適用指針「返金が不要な顧客からの支払」(指針57~60)は,企業が,顧客に返金が不要な支払を課す場合に,関連する履行義務の識別や会計処理についての指針を提供しています。

 

☞企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課すことがありますが,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。他方,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

2.返金が不要な顧客からの支払

 

● 返金が不要な顧客からの支払

企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(指針141)。

返金が不要な顧客からの支払は,顧客が対価(手数料)を支払う強制可能な義務であり,契約においてその義務の内容(手数料の金額,支払期限等)が明示されます。支払期限は,契約における取引開始日又はその後であり,顧客は,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)の提供を受ける前に支払うことを約束します。

これに対し,企業は,当該契約において,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を負います。

返金が不要な顧客からの支払は,企業が契約における取引開始日又はその前後において,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転するために行わなければならない契約のセットアップに伴う契約管理活動(負担)を経済的に補償する趣旨であることが多く,契約においてその旨(入会手数料,加入手数料など)を明示することもあります(指針141,142)。

 

● 履行義務の識別

まず,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。

次に,企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうかを判断します(指針57)。

多くの場合,企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行っても財又はサービスが顧客に移転しません(指針142)。例えば,サービスを提供する企業が契約をセットアップするために契約管理活動を行いますが,それらの活動によりサービスが顧客に移転することはありません(指針4)。

また,企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連して約束した財又はサービスを顧客に移転する場合でも,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務と独立した履行義務として処理すべきかどうかを判断します(指針59)。

多くの場合,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を履行するために契約のセットアップに伴う契約管理活動を行う必要がありますが,顧客は,返金が不要な支払をしたからといって,直接,企業にそのような活動を強制することを予定していませんので,必ずしも返金が不要な顧客からの支払と交換に企業がどのような活動を行うのかについて契約において特定して明示する必要がありません。

そのため,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行うという企業の約束が,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と区分して識別できず,契約の観点において別個のものとはいえず(第34項(2)),独立した履行義務とはいえない場合が少なくありません。

したがって,企業は,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。

もっとも,企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連して,顧客に対し,契約更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。

 

● 将来の財又はサービスの移転に対する前払

企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務に配分されます。

したがって,返金が不要な顧客からの支払は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するつれて収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます(指針58)。

 

☞企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,返金が不要な顧客からの支払に関連した活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうか,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と独立した履行義務として処理すべきかどうかを判断します。多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連した活動により約束した財又はサービスが顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。この場合,返金が不要な顧客からの支払は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するつれて収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます。

 

3.返金が不要な顧客からの支払と更新オプション

 

● 契約更新オプション

契約更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。

契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,取引慣行,公表した方針等により企業が更新を拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

 

● 履行義務の識別

企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合でも,顧客に対し,契約更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。返金が不要な顧客からの支払が契約のセットアップに伴う契約管理活動に関連する場合には,同一の顧客に関する更新に際して改めて企業にそのような負担が生じない場合が多いので,顧客は,企業が改めて返金が不要な支払を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制力のある義務を負い,あるいは,②取引慣行,公表した方針等により,拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。

そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります(指針48)。

 

● 更新オプションの会計処理

企業が契約更新オプションの付与に係る履行義務を識別する場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②契約更新オプションの付与に係る履行義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなります。

しかし,契約更新オプションの独立販売価格の算定が複雑であるため,実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(指針51,IFRS/BC 393)。

したがって,企業は,返金が不要な顧客からの支払につき,契約の目的とされた財又はサービスに関して契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があります(指針58)。

 

☞顧客は,企業が改めて返金が不要な支払を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制力のある義務を負い,あるいは,②取引慣行,公表した方針等により,拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります。この場合,更新オプションの会計処理により,企業は,返金が不要な顧客からの支払につき,契約の目的とされた財又はサービスに関して契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があります。

 

4.返金が不要な顧客からの支払とインプット法

 

● インプット法

インプット法は,アウトプット法と並び,一定の期間にわたり充足される履行義務に係る進捗度を測定する方法であり,履行義務の充足に使用されたインプットと契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプットの比率に基づき収益を認識します(指針20)。

指標として,例えば,消費した資源,発生した労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(指針20)。

 

● 履行義務の充足に係る進捗度の見積り

返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,企業は,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定するときは(第36項,第38項),履行義務の充足に係る進捗度を見積るための適切な方法を選択しなければなりませんが,コストに基づくインプット法を選択・適用するにあたって,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動に係るインプットの取扱いに留意する必要があります。

インプット法は,インプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がなく,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないことが少なくありません(指針117)。

企業は,インプットを適用する場合,顧客に財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写しないものの影響を除外しなければなりません(指針21)。

返金が不要な顧客からの支払に関連する活動が,例えば,契約締結活動(契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動で発生するコストなど,顧客に財又はサービスを移転しない場合は,当該活動及び関連するコストの影響をインプットから除外します(指針60)。

 

☞企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別せず,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定する場合には,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動(例えば,契約のセットアップに伴う契約管理活動など)が顧客へのサービスの移転を描写しないので,インプット法の適用にあたって,当該活動及び関連するコストの影響を除外しなければなりません。

 

5.返金が不要な顧客からの支払に関連する独立の履行義務

 

企業が,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(指針59)。

この場合,企業は,顧客との契約において,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行う義務を含む複数の履行義務を識別します(複数要素契約)。Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行う義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなりますが,返金が不要な顧客からの支払について契約上の価格を独立販売価格であると推定してはならないことに留意する必要があります(第125項)。

 

☞企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.08.27更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

顧客により行使されない権利(非行使部分)

 

2018年8月27日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「顧客により行使されない権利(非行使部分)」 目次と概要

 

1.適用指針「顧客により行使されない権利(非行使部分)」の概要

 

企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合があります。例えば,ギフトカード(商品券)や返金不能のチケットの販売などがあります(IFRS/BC 396)。

このような場合,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務として,将来において財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務を一つだけ識別します。また,顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取ったときは,本基準第78項に従い,顧客から支払を受けた時に,支払を受けた金額で契約負債を認識します(指針52)。

最後に,企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,当該履行義務を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しますが,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプットから顧客又は第三者により行使されないと見込まれる権利(非行使部分)を除いて,履行義務の充足に係る進捗度を見積ることが,収益認識のパターンの忠実な描写となる場合があります。その場合,非行使部分の金額について,顧客又は第三者による権利行使に応じた財又はサービスの移転のパターンと比例的に収益を認識することになります(指針54)。

適用指針「顧客により行使されない権利(非行使部分)」(指針52~56)は,企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合に,顧客又は第三者により行使されない権利(非行使部分)の金額について,どのように収益を認識するのかについての指針を提供しています。

 

☞企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合,将来において財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務を一つだけ識別しますが,適用指針「顧客により行使されない権利(非行使部分)」に定める一定の要件の下に,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプットから顧客又は第三者により行使されないと見込まれる権利(非行使部分)を除いて,履行義務の充足に係る進捗度を見積ります。

 

2.将来において財又はサービスを受け取る権利

 

● 将来において財又はサービスを受け取る権利

企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合があります。例えば,ギフトカード(商品券)や返金不能のチケットの販売などがあります(IFRS/BC 396)。

このような企業の約束の性質には,以下のような特徴がみられます。

 

● “権利(の付与)”が現在の契約の目的とされていること

企業は,現に顧客と締結した契約において,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するための準備を行う義務を負います。契約の目的(とされた財又はサービス)は,あくまで“権利(の付与)”であって,企業が将来において移転するであろう財又はサービス自体ではありません。また,企業は,現在の契約とは別途に,将来,財又はサービスを移転するときに,新たに顧客又は第三者と契約を締結するわけではありません。

本基準は,このような契約の目的(現在の契約において約束した財又はサービス)を「将来において顧客が再販売するか又はその顧客に提供することができる財又はサービスに対する権利の付与」としています(第129項(7))。


● 権利のすべては行使されない可能性があること

企業は,現に顧客と締結した契約において,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するための準備を行う義務を負いますが,顧客又は第三者が財又はサービスを受け取る権利のすべては行使しない(あるいは行使せずに権利が消滅する)ことが見込まれる場合があります。そのような顧客又は第三者により行使されない権利を“非行使部分”と呼びます(指針53)。そのような契約でも,企業が履行義務を一つだけ識別しますので,当該契約における取引価格の全部が当該履行義務に配分されます。

 

☞企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合は,契約の目的が“権利(の付与)”であり,企業は,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務を一つだけ識別します。将来において財又はサービスを受け取る権利は,すべてが行使されないために“非行使部分”の存在が見込まれる場合がありますが,契約における取引価格の全部が当該履行義務に配分されます。

 

3.履行義務の識別と契約負債の認識

 

● 履行義務の識別

企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務として,将来において財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務を一つだけ識別します。

 

● 契約負債の認識

企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与し,顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取る場合,本基準第78項に従い,対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で,将来において財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務について,顧客から受け取る対価について支払を受けた金額で契約負債を認識します(指針52)。

企業が,そのような契約負債を認識したときは,将来において顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転し,履行義務を充足した時に,当該契約負債の消滅を認識し,代わりに収益を認識します(指針52)。

 

☞企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与し,顧客又は第三者の権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取る場合,本基準第78項に従い,対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で,支払を受けた金額で契約負債を認識し,財又はサービスを移転して履行義務を充足した時に当該契約負債の消滅を認識し,代わりに収益を認識します。

 

4.非行使部分から生じる収益

 

● 非行使部分の会計処理

権利(オプション)の付与についての履行義務に関し,権利のすべては行使しない(あるいは行使せずに権利が消滅する)ことが見込まれまる場合に,本基準は,契約における企業の履行につれて財又はサービスの移転を基礎に収益を認識する方法を採用しています(IFRS/BC 398)。

この会計処理は,将来において財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務が,実質的には,顧客又は第三者に移転する個々の財又はサービスから構成されるとみて,個々の財又はサービスに対して,企業が見積る非行使部分から生じる収益を含めて(増額して)取引価格を配分したかのように取り扱います。

本基準は,①顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて企業が財又はサービスを移転するという契約に基づく企業の履行を忠実に描写していること,②顧客又は第三者が権利のすべてを行使する(非行使部分が存在しない)と企業が予想する場合には,企業は,経済取引として,契約において約束する対価を増額する可能性がある(例えば,返金不能の航空券を販売する航空会社は,非行使部分が予想されない場合には,航空券についておそらくもっと高い価格を課すであろう。)ことを理由に,この会計処理が非行使部分に関する収益認識の最も適切なパターンを表すものと判断しています(IFRS/BC 398)。

将来において財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務は,一定の期間にわたり充足される履行義務に分類されますが,履行義務の充足に係る進捗度として,顧客又は第三者の“権利”を採用し(アウトプット法),現在までに行使した権利に応じて企業が移転した財又はサービスと残りの権利に応じて企業が移転すべき財又はサービスとの比率に基づいて収益を認識します(指針17)。この会計処理は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプット(顧客又は第三者の権利)から,見込まれる非行使部分を除くことを意味しています。


● 非行使部分の見積りの制限

非行使部分の存在及び範囲は,将来において顧客又は第三者が一方的な意思表示(権利行使)を(どれくらい)するかどうかという将来の事象の発生又は不発生を条件として確定することになります。非行使部分は,契約において約束された対価ではありませんが,契約における企業の履行につれて財又はサービスの移転を基礎に収益を認識する方法を採用する場合には,企業が見積る非行使部分の範囲が大きければ大きいほど,それが確定する前に企業が認識する収益が大きくなり,それが確定したときに,いったん認識した収益を戻し入れる可能性があります。

そこで,本基準は,非行使部分の変動性に関する見積りについては,変動対価の見積りの制限と同様の制限を受けるべきであるとして,将来における財又はサービスを移転するための準備を行うという企業の履行義務を過小評価しないようにしました(IFRS/BC 399)。


● 収益の認識

企業は,将来において財又はサービスを移転するための準備を行うという履行義務(一定の期間にわたり充足される履行義務)について,以下のとおり,履行義務の充足に係る進捗度を測定します。

契約負債における非行使部分について,企業が将来において権利を得ると見込む場合

企業は,当該非行使部分の金額について,顧客又は第三者による権利行使のパターンと比例的に収益を認識します(指針54)。

契約負債における非行使部分について,企業が将来において権利を得ると見込むかどうかを判定するにあたっては,変動対価の見積りの制限に関する本基準第54項・第55項の定めを考慮します(指針55)。

契約負債における非行使部分について,企業が将来において権利を得ると見込まない場合

企業は,当該非行使部分の金額について,顧客又は第三者が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識します(指針54)。


☞企業は,契約負債における非行使部分について,企業が将来において権利を得ると見込むかどうかを変動対価の見積りの制限に関する本基準第54項・第55項の定めを考慮して判定し,①権利を得ると見込む場合には,当該非行使部分の金額を,(非行使部分の存在及び範囲に関する不確実性がその後に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り,)顧客又は第三者による権利行使のパターンと比例的に収益を認識し,②そうでない場合には,当該非行使部分の金額を,顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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