ニュースレター

2018.11.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

委託販売契約

 

2018年11月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「委託販売契約」 目次と概要 

 

1.適用指針「委託販売契約」の概要

 

企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合があります。

企業は,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が当該商品・製品の支配を獲得する時点を決定するため,他の当事者にその物理的占有を移転する場合(第38項(c))には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します(B 77)。

他の当事者が支配を獲得する場合には,他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

他方,他の当事者が支配を獲得していない場合には,需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(B 77)。

適用指針「委託販売契約」(B 77,78)は,企業が商品・製品を需要者に販売するために,他の当事者にその物理的占有を移転する場合に,他の当事者が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかを判定するための指針を提供しています。

☞企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します。他の当事者が支配を獲得していない場合には,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません。

 

2.適用指針「委託販売契約」とは

 

● 委託販売契約とは

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいいます。下の模式図では,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が,企業(A)が他の当事者(B)に対して販売業務を委託するものであり,法律上の契約類型は,(準)委任契約(委託契約)です。

委託販売契約の目的は,財(委託者の商品・製品)を販売する手配サービスです。

 

● 支配の移転の時点

適用指針「委託販売契約」は,上の模式図で,委託者である企業が,いつの時点で商品・製品の対価(顧客対価)を収益として認識すべきか,という問題を取り扱います。

企業(供給者)が商品・製品を需要者Cに提供する過程に流通業者Bが関与している場合には,一般に,商品・製品が企業(A)から流通業者Bを介して需要者Cに移転しますので,需要者Cが当該商品・製品の支配を獲得する前に,企業から流通業者Bに当該商品・製品の物理的占有を移転します。

企業は,商品・製品を顧客に移転する履行義務を識別していますので,流通業者Bに当該商品・製品の物理的占有を移転した時点で,流通業者Bが当該商品・製品の支配を獲得する場合には,流通業者Bが“顧客”であり,その時点で履行義務を充足することになります。逆に,流通業者Bが当該商品・製品の支配を獲得していない場合には,需要者Cが“顧客”であり,未だ顧客に当該商品・製品の支配を移転していないので,流通業者Bに当該商品・製品の物理的占有を移転した時点では履行義務を充足していません。

このように,適用指針「委託販売契約」では,流通業者Bが商品・製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品・製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(第38項(c),B 77)。

 

● 契約の相手方

企業は流通業者Bに商品・製品の物理的占有を移転した時点で,流通業者Bが当該商品・製品の支配を獲得する場合には,企業にとって流通業者Bが“顧客”であり,Step1「顧客との契約を識別する」では,企業と流通業者Bとの間の売買契約(独立の販売)を識別すべきであったことになり,顧客である流通業者Bに当該商品・製品の支配を移転した時点で収益を認識します(BC 385E)。

逆に,流通業者Bが当該製品・商品の支配を獲得していない場合には,企業にとって需要者Cが“顧客”となります。しかし,企業と顧客である需要者Cとの間には必ずしも直接に契約が成立するわけではありません。

他方で,企業と流通業者Bとの間に委託販売契約(媒介委託を除きます。)が成立していない限り,企業と顧客である需要者Cとの間に直接に契約が成立せず,顧客との契約が成立したとみなすこともできませんので,企業にとって流通業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別することが収益を認識する前提となります。したがって,企業は,Step1「顧客との契約を識別する」では,流通業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別するとともに,企業と需要者Cとの間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別すべきであったことになり,顧客である需要者Cに当該商品・製品の支配を移転した時点で収益を認識します。

このように,適用指針「委託販売契約」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者Cなのか,流通業者Bなのかという問題にほかなりません。

適用指針「委託販売契約」は,商品・製品の支配が移転する時点が異なることに着眼し,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で判定する支配の移転の時点の問題として取り扱います(第38項(c))。しかし,企業から直接に商品・製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方が異なることに着眼すると,本来は,契約開始時において,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と流通業者Bとの間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

☞適用指針「委託販売契約」は,流通業者が商品・製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品・製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます。また,適用指針「委託販売契約」は,企業から直接に商品・製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方“顧客”が需要者なのか,流通業者なのかという問題であり,契約開始時に,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と流通業者との間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

3.本人なのか代理人なのかの検討との関係

 

● 代理人

委託販売契約から生じる収益は,他の当事者(B)が認識します。委託販売契約では,受託者である他の当事者(B)は,委託者である企業(A)に対し,商品・製品を販売する手配サービスを移転するので,「本人なのか代理人なのかの検討」では自らを代理人と判定し,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識します。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」(B 34~38)で,他の当事者(B)が自らを代理人と判定するケースには,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が委託販売契約である場合が含まれます。

 

● 適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」

他の当事者(B)がいったん企業の商品・製品の支配を獲得した後にその支配を需要者(C)に移転するときは,他の当事者(B)は,本人として当該商品・製品自体を自ら需要者(C)に移転するという履行義務を充足しますので,顧客対価を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。逆に,他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得しないときは,当該商品・製品を顧客に移転することができず,企業(A)が直接その支配を顧客に移転しますので,企業(A)が顧客対価を収益として認識すべきです。他の当事者(B)は,代理人として当該商品・製品が顧客に提供されるように手配するという履行義務を充足しますので,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

このように,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」では,商品・製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品・製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(BC 380,385C~D)。

 

● 本人なのか代理人なのかの検討との関係

適用指針「委託販売契約」において,企業(A)の立場から,他の当事者(B)に商品・製品の物理的占有を移転する場合に他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことと,適用指針「本人なのか代理人なのか検討」において,他の当事者(B)の立場から,商品・製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことは,同一の事象を異なる立場から評価しているという“裏返し”の関係にあります。

 

☞商品・製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかという同一の事象について,適用指針「委託販売契約」で企業(A)の立場から評価することと,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」で他の当事者(B)の立場から評価することとは“裏返し”の関係にあります。

 

4.委託販売契約

 

● 委託販売契約

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,①「他人のため」②「財の販売」を③「引き受ける」という3つを要素とします。

 

● 他人のため

「他人のため」とは,少なくとも他人の計算(経済上の効果)において行うことを意味し,他人の権利義務(法律上の効果)において行うことを含みます。

 

● 財の販売

「販売」は売買契約を指し,法律上,売主の地位が受託者である他の当事者にある場合と委託者である企業にある場合があります。

 

自己の名をもって販売する場合(取次委託)

受託者が自己の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約(法律上「取次委託販売」と呼ばれます。)では,受託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。「自己の名をもって」とは,受託者自らが法律行為の当事者となり,その行為から生じる権利義務の主体となることをいいます。財の流通に関わる商取引では,受託者が自己の名をもって販売することが少なくありません。

企業と顧客との間には,法律上,売買契約は成立していません。しかし,企業と受託者との間に委託販売契約が成立している状況では,実質(経済)的には,企業は,受託者と売買契約を締結する顧客に対し,受託者を介して,対価を受け取る強制可能な権利を有し,財又はサービスを提供する強制可能な義務を負っているのと同視することができます。そこで,企業と受託者との間で委託販売契約(取次委託)が成立している場合には,受託者と売買契約を締結した顧客との間で企業が同一内容の売買契約を締結したものとみなし,当該契約に本基準を適用します。

 

他人の名をもって販売する場合(代理委託・媒介委託)

受託者が他人の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約では,委託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。①受託者が委託者の代理人として顧客と売買契約(法律行為)を締結する場合(法律上「代理委託販売」と呼ばれます。)と,②受託者が委託者と顧客との間の売買契約の成立のために媒介(事実行為)を行う場合(法律上「媒介委託販売」と呼ばれます。)があります。

代理委託

代理委託では,受託者は委託者の代理人として顧客との間で売買契約を締結しますが,その契約にあたって,委託者の名を表示し,受託者が委託者のために(代理人として)法律行為をすることを表示します(顕名)。代理人である受託者の名を併記するのが通常ですが,併記しない場合もあります。

媒介委託

媒介委託では,受託者は顧客との間の売買契約の成約に向けて事実行為(いわゆる仲介・周旋・斡旋・勧誘等)を行うだけで,企業自らが顧客と売買契約を締結します。

企業は,企業と顧客との間に成立した売買契約に本基準を適用します。ただし,代理委託の場合には,企業と受託者との間に委託販売契約(代理委託)が成立し,受託者に代理権が存在することが前提となります。 

 

● 引き受ける

受託者は,委託者から委託を受けた販売事務を受託します。代理委託では,委託者のために法律行為(売買契約)を行うための代理権の授与を受けることも含まれます。

 

☞委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,顧客との間で売買契約を,①受託者が売主として締結する場合(取次委託)と,②受託者が代理人となり,委託者が売主として締結する場合(代理委託),③受託者が媒介(成約に向けた事実行為)をするだけで委託者が売主として締結する場合(媒介委託)があります。取次委託では,企業は,受託者と顧客との間の売買契約を顧客との契約とみなして本基準を適用します。

 

5.委託販売契約の識別

 

企業は,他の当事者(流通業者)とは常に自らが当事者として契約を締結しており,一般に契約書その他の文書により契約の内容を確認することができますので,Step1「顧客との契約を識別する」で,流通業者を顧客とする独立の販売なのか,需要者を顧客とする委託販売契約なのかを判定するため,企業と他の当事者との間の法律上の契約の性質を考慮することが有用になります。

企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売なのか,委託販売契約なのかを判定する必要があります。

 

☞企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売なのか,委託販売契約なのかを判定する必要があります。

 

6.委託販売契約の指標

 

● 他の当事者に対する物理的占有の移転と支配の獲得

企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します(B 77)。

他の当事者が支配を獲得する場合

他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します(BC 385E)。

他の当事者が支配を獲得していない場合

需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(B 77)。

 

● 委託販売契約の指標

企業と他の当事者との間の契約が委託販売契約であることを示す指標には,例えば,次の(a)~(c)があります(B 78)。

所定の事象(販売業者による顧客への財の販売など)が生じるまで,又は所定の期間が満了するまで,商品・製品を企業が支配している(B 78(a))

企業は,所定の事象が生じるまで,又は所定の期間が満了するまでの間に,支配の概念(第33項)を直接適用し,企業が商品・製品を支配しているかどうかを判定します。企業が商品・製品を支配していれば,他の当事者は当該商品・製品の支配を獲得していません。

企業が財の返還を要求するか又は第三者(別の販売業者など)に製品を移転することができる(B 78(b))

企業が他の当事者に商品・製品の返還を要求したり,第三者に商品・製品を振り向けたりできることは,企業が当該商品・製品を支配していることを示しており,顧客は当該商品・製品の支配を獲得していません。

他の当事者が製品に対して支払う無条件の義務を有していない(ただし,預け金の支払が要求される場合がある)(B 78(c))

他の当事者が,企業に対し,商品・製品と交換(同価値性)の関係のある対価(預け金は該当しません。)を支払う無条件の義務を負う場合には,他の当事者が当該商品・製品の支配を獲得していることを示す指標であり(第38項(a)),委託販売契約の受託者(代理人)ではなく,独立の販売であることを示します。

他の当事者が,条件付きで商品・製品の対価を支払う義務を負う場合(例えば,需要者(最終顧客)に当該商品・製品を販売したという条件が付されている場合)には,委託販売契約の受託者(代理人)である可能性があります。

 

☞企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します。委託販売契約であることを示す指標として,例えば,(a)所定の事象(販売業者による顧客への財の販売など)が生じるまで,又は所定の期間が満了するまで,商品・製品を企業が支配していること,(b)企業が財の返還を要求するか又は第三者(別の販売業者など)に製品を移転することができること,(c)他の当事者が製品に対して支払う無条件の義務を有していないことなどがあります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.29更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

買戻し契約

 

2018年10月29日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「買戻し契約」 目次と概要 

 

1.適用指針「買戻し契約」の概要

 

企業は,顧客に資産を売り渡す契約(売買契約)について,契約開始時に,顧客が資産に対する支配を獲得するかどうかを判定するにあたって,買戻し契約かどうかや,企業が買い戻す義務又は権利の形態を考慮する必要があります(第34項)。 

企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)や企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負うため,当該資産に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはならず,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します(B 66)。 

他方,企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務も返還するため待機する義務も負わないため,基本的には当該資産に対する支配を獲得しています。そこで,企業は,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します(B 72,74)。 

ただし,買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等により,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,当該資産に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します(B 70,73)。 

適用指針「買戻し契約」(B 64~76)は,買戻し契約の形態によってどのように会計処理するのかの指針を提供しています。 

 

☞買戻し契約について,①企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)又は②企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合や,③企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合のうち,(a)顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得していませんので,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します。③の場合のうち,(b)顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客が資産に対する支配を獲得していますので,企業は,返品権付きの販売として会計処理します。 

 

2.買戻し契約

 

● 買戻し契約

買戻し契約とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,当該資産を買い戻す義務又は権利を有する契約をいいます(B 64)。 

買戻し契約は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該資産を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。 

 

● 売買契約

買戻し契約は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。 

 

● 反対売買の権利義務

反対売買は,顧客(元の買主)が企業(元の売主)に(実質的に)同一の資産を移転する義務を負い,企業がその代金を支払う義務を負うことをいいます。 

買戻し契約は,反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。 

したがって,当事者の選択以外の条件が付された買戻し契約を除くと,企業からみて,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態は次の3つに分類できます(B 65)。 

(a) 企業が資産を買い戻す義務(先渡取引) 

(b) 企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)

(c) 企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション) 

 

● 買い戻す資産

買い戻す資産は,①顧客に売り渡した資産そのもの,②顧客に売り渡したものと実質的に同一の資産,③顧客に売り渡した資産を構成部分とする資産があります(B 64)。③には,顧客に売り渡した資産を材料・部品として加工・組立をしたものも含まれます。 

 

● 買戻しの法形式

買戻しの法形式は,当初の売買契約と反対の売買契約(再売買)によるものと,当初の売買契約を解除するものとがあります。いずれの法形式も,期限の到来により又は当事者の意思表示(再売買の予約完結権又は解除権)により反対売買の権利義務(再売買の権利義務又は原状回復義務)を発生させることができます。 

 

● 同一機会

企業が買い戻す義務又は権利に関する約束は,当初の売買契約と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か)は問いません。 

企業が資産に対する支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該資産を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻し契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に顧客に当該資産を引き渡した時点で,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力に影響を与えません。もっとも,このようなケースでは,企業が資産の物理的占有を移転した時に顧客が当該資産に対する支配を獲得したのかどうかを検討すべきであり,本人なのか代理人なのか(B 34~38)を考慮する必要があります(BC 423)。 

 

● 買戻し契約の会計処理の目的

企業が売り渡した資産にその後も継続的に関与する場合には,顧客による当該資産の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻し契約かどうかや,企業が買い戻す義務又は権利の形態を考慮する必要があります(第34項,BC 157,422)。 

 

☞買戻し契約は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該資産を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。企業が買い戻す義務又は権利の形態は,一般的に,(a)企業が資産を買い戻す義務(先渡取引),(b)企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション),(c)企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)の3つに分類できます。 

 

3.先渡取引又はコール・オプション

 

● 買戻し契約の先渡取引

買戻し契約の先渡取引とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,一定の期限が到来したときに顧客から当該資産を買い戻す義務を負う契約をいいます(B 65(a))。 

 

● 買戻し契約のコール・オプション

買戻し契約のコール・オプションとは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,一方的な意思表示により顧客から当該資産を買い戻す権利を有する契約をいいます(B 65(b))。 

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)

先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。 

 

● 顧客が資産に対する支配を獲得するか

買戻し契約の先渡取引又はコール・オプションでは,企業が売り渡した資産を買い戻す義務又は権利を有する反面,顧客が当該資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負います。たとえ顧客が当該資産を物理的に占有しているとしても,顧客は,当該資産を使い切ったり,消費したり,売却したりできませんので,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力が制限されています。したがって,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得しません(B 66,BC 424)。 

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される条件

買戻し契約の先渡取引又はコール・オプションに,将来,発生することが不確実な事実にかかる条件(企業の選択を除きます。)が付されているときは,その条件が,顧客が資産に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,実質的に買戻し契約の形態を判定する必要があります。 

例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した資産を顧客が期限を超えて消費者に販売することを防止するため,一定の期限を経過したときに顧客から買い戻す権利を有している場合には,企業が買い戻す権利に“資産を販売されていない(売れ残った)こと”という条件が付されています。この条件は,顧客が資産を第三者に販売することを妨げないので,顧客が当該資産に対する支配を獲得しています。このような買戻し契約の形態の実質は,プット・オプションであり,返品権付きの販売と整合的に会計処理します(2011ED BC 320)。 

 

☞企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)や企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負うため,当該資産に対する支配を獲得しません。 

 

4.先渡取引又はコール・オプションの会計処理

 

● 資産の販売でないこと

企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該資産に対する支配を獲得していませんので,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはなりません(B 66,BC 424)。 

 

● 会計処理

企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして会計処理します(B 66,BC 426,432)。 

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,貨幣の時間的価値を考慮しなければなりません(B 67)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合(B 66(a))

企業が当該資産を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,IFRS第16号「リース」に従ったリースとして会計処理します。 

このような取引は,実質的に企業が顧客に資産を貸し付け,一定期間後にその返還を受け,当初の販売価格(A)と買戻価格(B)の差額(A-B)を使用権の対価として受け取る結果となるからです。 

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した資産を顧客からリースバックする契約に企業が当該資産を買い戻す義務又は権利が含まれるもの)は,融資契約として会計処理します(BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合(B 66(b))

企業が当該資産を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,融資契約として会計処理します。 

このような取引は,実質的に,企業が顧客から当初の販売価格(A)を借り入れ,買戻価格(B)を返済し,買戻価格(B)と当初の販売価格(A)の差額(B-A)を金利として支払う結果となるからです。法律上,売買の形式により信用の授受を行うもので,売渡担保と呼ばれます。 

企業は,資産を引き続き認識するとともに,顧客から受け取った当初の販売価格(A)について金融負債を認識します。企業は,顧客から受け取った当初の販売価格(A)と顧客に支払う買戻価格(B)との差額(B-A)を金利として認識します。当該差額に処理コストや保有コスト(例えば,保険)があれば,それらも認識します(B 68)。 

 

● コール・オプションの消滅

コール・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,コール・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(B 69)。 

 

☞企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該資産に対する支配を獲得していないので,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはなりません。企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します。 

 

5.プット・オプション

 

● 買戻し契約のプット・オプション

買戻し契約のプット・オプションとは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産を買い戻す義務を負う契約をいいます(B 65(c))。 

 

● プット・オプションに付される期限(期間)

プット・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。 

 

● 顧客が資産に対する支配を獲得するか

買戻し契約のプット・オプションでは,企業が資産を購入するために待機する義務を負いますが,他方で,顧客が売り戻す(企業に買い戻させる)権利を行使するかどうかは自由であり,当該資産を返還する義務も返還するために待機する義務も負いません。そのため,顧客は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有しており,プット・オプションを行使しないことを選択して,当該資産を使い切ったり,消費したり,第三者に売却したりできます。したがって,顧客は,基本的には企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得しています(BC 428)。 

しかし,顧客がプット・オプションを行使することに重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,プット・オプションを行使しないときには重大な損失を蒙る可能性が高いため,実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,オプションの存在が,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を制限することになります。逆に,企業からみれば,実質的に顧客から資産を買い戻すことを余儀なくされますので,先渡取引と類似する状況にあります。したがって,このような場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していません(BC 430)。 

 

☞企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務も返還するため待機する義務も負わないため,基本的には当該資産に対する支配を獲得しています。ただし,顧客がプット・オプションを行使することに重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客が実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,当該資産に対する支配を獲得していません。 

 

6.プット・オプションの会計処理

 

● 重大な経済的インセンティブ

企業は,買戻し契約のプット・オプションについて,企業が売り渡した資産に対して顧客が支配を獲得するかどうかを判定するため,契約開始時に,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します(B 70)。 

企業は,その判定にあたって,①買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係や②プット・オプションが消滅するまでの期間等,さまざまな要因を考慮します。例えば,買戻価格が資産の市場価値を大幅に上回ると見込まれる場合には,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していることを示す可能性があります(B 71)。他方,買戻価格が顧客に最低限の売却収入(保証最低売戻価値)を保証するにすぎない場合には,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているとはいえません(BC 431)。 

 

● 重大な経済的インセンティブを有している場合

顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客がプット・オプションを行使することが想定されており,買戻し契約の先渡取引と類似する状況にあります(BC 429)。 

そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして会計処理します(B 70,73)。 

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,貨幣の時間的価値を考慮しなければなりません(B 75)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合(B 70)

企業が当該資産を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻すことが想定されており,IFRS第16号「リース」に従ったリースとして会計処理します(B 70)。 

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した資産を顧客からリースバックする契約に企業が顧客の要求により当該資産を買い戻す義務が含まれるもの)は,融資契約として会計処理します(BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合(B 73)

企業が当該資産を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻すことが想定されており,融資契約として会計処理します(B 73)。 

 

● 重大な経済的インセンティブを有していない場合

顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得しています。 

そこで,企業は,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します(B 72,74)。 

 

● プット・オプションの消滅

プット・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,プット・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(B 76)。 

 

☞企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,企業は,買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等を考慮し,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します。顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理し,そうでない場合には,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.17更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

ライセンス供与②

 

2018年10月17日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

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「ライセンス供与②」 目次と概要

 

1.ライセンスの性質

 

ライセンスは,企業の知的財産を所有する権利ではなく,それを使用する権利です。したがって,顧客は,権利の設定を受けた一時点で,その権利を行使する(使用する)かどうかという使用を指図し,当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを得る能力,すなわちライセンスに対する支配を獲得するとみることが「支配」概念に整合します(BC 402)。 

しかし,ライセンスは,非常に多様性があり,広範囲の異なる特徴及び経済的特性によって著しい相違が生じています。例えば,企業が,顧客に対し,一定の期間,企業の商標を使用し,企業の製品を販売する権利を顧客に付与するフランチャイズの場合(IE 289),企業が保有する知的財産の形態・機能性・価値が企業の活動(例:顧客の変化する嗜好の分析や,製品の改善,販促キャンペーンなど)により継続的に変化しているので(動的である),顧客は,ライセンスが供与される一時点で存在している形態・機能性・価値での知的財産の使用を指図しても,ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを獲得することができない可能性があります。こうした場合,ライセンスは,その時々において存在している形態・機能性・価値での知的財産に対するアクセスを顧客に提供しており,アクセスの提供につれて顧客が便益を得ているとみることができます(BC 403)。 

そこで,適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します(BC 404,414D)。 

 

☞適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します。 

 

2.ライセンス供与における企業の約束の性質

 

● 企業の約束の性質と履行義務の属性

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約開始時に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型のいずれかに区別し,①の場合は一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(B 60),②の場合は一時点で充足される履行義務と判定します(B 61)。 

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利 

 ➡ 一定の期間にわたり充足される履行義務 

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利を提供する場合には,顧客は,企業の知的財産へのアクセスを提供するという企業の履行からの便益を,履行が生じるにつれて同時に受け取って消費しているとみることができます(第35項(a))。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するものとみて,その属性を一定の期間にわたり充足される履行義務であると判定します(B 60,BC 414)。

ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利 

 ➡ 一時点で充足される履行義務 

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利を提供する場合には,当該知的財産はライセンスが顧客に供与される時点で(形態と機能性の点で)存在しており,その時点で顧客がライセンスの使用を指図してライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを獲得することができます。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一時点で充足するものとみて,その属性を一時点で充足される履行義務であると判定します(B 61,BC 414)。

 

● 企業の約束の性質の判断枠組み

適用指針は,ライセンス供与における企業の約束の性質が2つの類型のいずれかに区別されることを確保するため,企業の知的財産にアクセスする権利についての要件だけを定め,当該要件に該当しない場合には,企業の知的財産を使用する権利と判定することとしています。知的財産が静的であるよりも,変化している(動的である)方が判定が容易であると考えられたからです(BC 408)。 

 

● 企業の約束の性質の判定にあたって考慮しない要因

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質の判定にあたって,以下の要因を考慮しません(B 62)。 

時期,地域又は用途の制限(B 62(a))

企業は,顧客の契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これらは顧客の権利の範囲(ライセンスの属性)であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。企業の活動が知的財産に著しく影響を与えるかどうか(B 58(a))は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかを考慮するので,ライセンスの属性を考慮しません(BC 411(a))。 

企業が知的財産に対する有効な特許を有しており,その特許を無許可の使用に対して防御するという企業が提供する保証(B 62(b))

企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業の知的財産の価値を保護し,顧客に供与したライセンスが契約で合意された仕様に従っているというアシュアランスを顧客に提供するだけで,企業が保有する知的財産を変化させる活動を行うことを約束するものではありません。そのため,これらの保証や約束は,企業が知的財産に影響を与える活動を行うことを契約が要求していること(B 58(a))には該当しません(BC 411(b))。 

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,契約開始時に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定するため,ライセンス供与における企業の約束の性質を2類型のいずれかに区別します。ライセンスの属性である顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)や,企業が有効な知的財産を有しているという保証,その侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がないため,企業の約束の性質の判定にあたって考慮しません。 

 

3.企業の知的財産にアクセスする権利

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の要件

企業は,以下のすべての要件に該当する場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別します(B 58)。 

 

(a) 顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことを,契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待している

企業の知的財産にアクセスする権利は,ライセンス期間にわたり企業の知的財産の形態・機能性・価値が継続的に変化している(動的である)ことに本質があり,顧客との契約において,企業の知的財産を変化させる活動を企業が行うことを契約が要求しているか,又は顧客が合理的に期待している場合であるといえます。企業の知的財産を変化させる活動は,顧客に財又はサービスを直接に移転しない(履行義務を充足しない)活動であり,企業の継続的な通常の活動や商慣行の一部として行われる場合もあります(BC 409)。 

 

顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動

企業の活動が知的財産を変化させるかどうかは,知的財産が顧客に便益を提供する能力に著しく影響を与えるのかどうかを基礎として判定します。知的財産が顧客に便益を提供する能力は,知的財産の形態又は機能性から得られる場合もあれば,知的財産の価値から得られる場合もあります(BC 414G)。 

ここでいう著しく影響を与える対象は,企業が保有する知的財産そのものであって,それに設定した顧客の権利(ライセンス)ではありません。顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)は,ライセンスの属性であり,知的財産そのものが変化しているかどうかに関係がありません(B 62(a))。 

適用指針は,企業の活動が次のいずれかの場合には,顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与えることを明確にしています(B 59A)。 

ⅰ) 当該活動が,知的財産の形態(例えば,デザイン若しくはコンテンツ)又は機能性(例えば,機能若しくはタスクを行う能力)を著しく変化させると見込まれる(B 59A(a)) 

顧客が権利を有する知的財産の形態又は機能性が著しく変化すれば,顧客が知的財産から便益を得る能力が著しく変化すると考えられます(BC 414G)。他方で,ソフトウェア,生物学的化合物・薬物の製法及び完成したメディア・コンテンツ(例えば,フィルム,テレビ番組及び音楽録音)など,知的財産が重大な独立した機能性を有する場合には,当該知的財産の便益の相当部分が当該機能性から得られるので,企業の活動が形態又は機能性を著しく変化させない限り,顧客が当該知的財産から便益を得る能力に大きな影響を与えません(BC 414H)。 

ⅱ) 顧客が知的財産から便益を得る能力が,実質的に当該活動から得られるか又は当該活動に依存している(B 59A(b)) 

例えば,ブランドからの便益は,当該知的財産の価値を補強又は維持する企業の継続的活動から得られるか又はそれに依存していることが少なくありません。このように,顧客が知的財産から便益を得る能力がライセンスを供与した後の企業の活動から実質的に得られるか又は当該活動に依存している場合には,当該活動によって必ずしも知的財産の形態又は機能性が著しく変化しなくとも,当該活動は,顧客が知的財産から便益を獲得する能力に著しく影響を与えると考えられます(BC 414G)。 

 

契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待している

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことを契約が要求しているかどうかは,顧客との契約において企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務を考慮して判定します。企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産を変化させる活動を企業が行うことを約束するものではなく,これには該当しません(B 62(b))。 

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことを顧客が合理的に期待できることを示す要因として,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明などがあります。また,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での経済的利益の共有(共有された経済的利害)の存在もその要因となる可能性があります(B 59)。売上高ベースのロイヤルティの存在は,ライセンス供与における企業の約束の性質を決定づける要件ではありませんが,顧客が権利を有する知的財産についての企業と顧客との間での共有された経済的利害を示します(BC 413)。 

 

(b) ライセンスによって供与される権利により,(a)で識別された企業の活動の正又は負の影響に顧客が直接的に晒される

企業の知的財産が正又は負の著しい影響を受けたことにより,当該知的財産に設定した顧客の権利にも直接的にその影響が及ぶものでなければなりません。知的財産の変化が顧客の権利にも直接的に影響が及ぶ場合に,顧客がライセンス期間全体を通じて直近の形態・機能性・価値での知的財産を使用しているといえます(BC 409)。 

 

(c) そうした活動の結果,当該活動が生じるにつれて顧客に財又はサービスが移転することがない

顧客が権利を有する知的財産に影響を与える企業の活動には,顧客との契約に含まれる他の独立した約束(履行義務)を充足する活動を除外します。そのような活動が生じるにつれて顧客に移転する財又はサービスは,ライセンスとは独立の別個の財又はサービスであり,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(BC 410)。 

例えば,ソフトウェア・ライセンスを供与する約束を含む契約において,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により顧客のソフトウェアをアップデートするサービスを提供する約束が含意される場合がありますが(BC 87),ソフトウェアをアップデートするサービスは,ライセンスとは別個のものとして識別するため,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません。したがって,ソフトウェアをアップデートする企業の活動は,(a)の要件に該当する企業の活動ではなく,その活動によって顧客の権利に直接的な影響が及ぶとしても(b)の要件を充足しません。このようなソフトウェア・ライセンスは,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利です(BC 410)。

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の会計処理

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別する場合には,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します(B 60)。 

 

☞企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質について,(a)顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことを,契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待していること,(b)ライセンスによって供与される権利により,(a)で識別された企業の活動の正又は負の影響に顧客が直接的に晒されること,(c)そうした活動の結果,当該活動が生じるにつれて顧客に財又はサービスが移転することがないことのすべての要件に該当する場合には,企業の知的財産にアクセスする権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。 

 

4.企業の知的財産を使用する権利

 

企業は,企業の知的財産にアクセスする権利の要件(B 58)のすべてに該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します(B 61)。 

企業は,収益を一時点で認識するため,本基準第38項を適用し,ライセンスに対する支配が顧客に移転する時点を決定します(B 61)。 

この場合,顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を得ることができる期間の開始前に収益を認識することはできません。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業がソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用可能にするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません(B 61,BC 414)。 

 

☞企業は,企業の知的財産にアクセスする権利のすべての要件に該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業は,ソフトウェアの使用に必要なコードを企業が顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用可能にするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません。 

 

5.売上高又は使用量ベースのロイヤルティ

 

● 売上高又は使用量ベースのロイヤルティ

売上高又は使用量ベースのロイヤルティとは,顧客が契約において知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価をいい,変動対価に該当します。 

 

● ロイヤルティ制限の目的

企業は,別段の定め(ロイヤルティ制限)がない場合,売上高又は使用量ベースのロイヤルティを変動対価として識別し,一般的な変動対価として,本基準第50項~第59項に従い,以下のとおり取引価格を算定し,収益を認識することとなります。 

まず,企業は,通常は期待値により,顧客の将来にわたる売上高又は使用量を予測し,予測された売上高又は使用量から算定されるロイヤルティの額を確率で加重平均した金額として変動対価を適切に見積ります(第53項)。 

次に,企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される(顧客のその後の売上高又は使用量の実績が生じる)際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲で,将来にわたる最小限のロイヤルティの合計額を取引価格に含め,収益を認識することとなります(第56項)。 

しかし,このような会計処理によると,特に契約の存続期間が長期間にわたる場合,契約開始時に認識した収益の金額について多額の修正を繰り返すことになり,財務諸表の利用者に目的適合性のある情報をもたらしません(BC 219,415)。 

そこで,適用指針は,売上高又は使用量ベースのロイヤルティについては,それが配分されている履行義務が充足されるだけでなく,変動対価に関する不確実性が解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)まで変動性のある金額の収益を認識してはならないこととしました(BC 415,421I)。 

 

● 要件

企業は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価(売上高又は使用量ベースのロイヤルティ)が,知的財産のライセンスのみに関連している場合又は知的財産のライセンスが当該対価の関連する支配的な項目である場合にロイヤルティ制限を適用します(B 63A)。 

例えば,企業が,当該対価が関連する他の財又はサービスよりもライセンスの方に顧客が著しく大きな価値を置くであろうという合理的に予想している場合には,知的財産のライセンスが当該対価の関連する支配的な項目である可能性があります。 

 

● 収益の認識(ロイヤルティ制限)

企業は,次の(a)又は(b)の事象のいずれか遅い方が発生する時点でのみ(又は発生するにつれて),顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価に係る収益を認識しなければなりません(B 63)。 

(a) その後の売上高又は使用量の実績が生じる

(b) 顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価が配分されている履行義務が充足(又は部分的に充足)されている

 

● ライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価

上記要件を満たす場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体についてロイヤルティ制限を適用します。逆に,上記要件を満たさない場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体を一般的な変動対価として取り扱い,本基準第50項~第59項を適用します(B 63B)。 

企業は,顧客が知的財産のラインセンスと交換に約束した変動対価は,その中にライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価が含まれるとしても,対価を分割することなく,その全体にロイヤルティ制限を適用するか,又はその全体を一般的な変動対価として取り扱うかのいずれかで会計処理します(BC 412J)。 

 

☞企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量ベースのロイヤルティに,知的財産のライセンスのみが,又は知的財産のライセンスが支配的な項目として関連している場合には,①その後の売上高又は使用量の実績が生じること,②ロイヤルティが配分されている履行義務が充足(又は部分的に充足)されていることのいずれか遅い方が発生するまで収益を認識してはなりません(ロイヤルティ制限)。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

ライセンス供与①

 

2018年10月7日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「ライセンス供与①」 目次と概要

 

 

1.適用指針「ライセンス供与」の概要

 

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(B 52),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,①ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別し,②ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し(B 54),逆に,別個のものである場合には,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約開始時に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し(B 56),①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します(B 60,61)。

また,企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量ベースのロイヤルティについては,その後の売上高又は使用量の実績が生じるまで収益を認識できません(B 63)。

適用指針「ライセンス供与」(B 52~63B)は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別するかどうかや,識別した履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)をどのように判定するか,売上高又は使用量ベースのロイヤルティについての指針を提供しています。

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を,①ライセンスを目的とする契約では常に,②ライセンスを含む契約では契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものである場合に独立した履行義務として識別したうえ,企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します。

 

2.ライセンス供与

 

● ライセンス供与

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(B 52),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。 

 

● 知的財産

知的財産とは,特許,著作,意匠,商標,ノウハウ(営業秘密その他技術上又は営業上の情報)などの無体物としての財産であり,将来的にも広がる可能性があります。 

知的財産は,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。 

適用指針は,ライセンスを供与する知的財産の例として,(a)ソフトウェア及び技術,(b)動画,音楽及び他の形態のメディア・エンターテインメント,(c)フランチャイズ,(d)特許権,商標権及び著作権を挙げています(B 52)。 

 

● ライセンス

ライセンスは,企業の知的財産を一定の範囲で利用する顧客の権利です。ライセンスの本質は,知的財産を保有する企業が,顧客に対し,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,その反面として,顧客は,企業の知的財産を一定の範囲で利用する権利を取得します。企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これをライセンスの属性と呼びます(B 62(a))。 

ライセンスは,顧客の権利であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。ライセンスの属性は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がありません(B 62(a)参照)。 

 

☞知的財産は,特許,著作,意匠,商標,ノウハウなどの無体物としての財産であり,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。ライセンスは,企業の知的財産に対する顧客の権利であり,企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間,地域,用途等)を定めます。 

 

3.ライセンスの本質

 

ライセンスの本質は,知的財産の保有者(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。 

ライセンスは,この本質に関連し,以下の2つに分類されます。

法律上の禁止権を解除するライセンス

企業が保有する知的財産が,特許権,著作権,意匠権,商標権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように,法律上,第三者に対して一定の知的財産の利用を禁止する(侵害行為を差し止める)ことができる場合,ライセンスの本質は,契約により,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用に対する禁止権(侵害行為差止請求権)を行使してはならない義務を負うことにあります。 

特許権,意匠権,商標権のように登録型の知的財産は,一般にこのライセンスに分類されますが,著作権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように非登録型の知的財産は,法律上の禁止権が存在するかどうかが不確実であるため,この類型と次の類型の両方の性質を有することも少なくありません。 

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

企業が保有する知的財産が,法律上,第三者に対し,一定の知的財産の利用を禁止することができないものの,保有者から許諾を受けなければ,事実上利用ができない場合,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用を事実上可能にし,契約により顧客にそれ以外の利用や第三者への提供をしてはならない義務を負わせることにあります。

例えば,著作権法は,プログラムの著作物を本来の用法に従って使用(起動,操作等)することや第三者に提供することを禁止していないため,企業は,ソフトウェア使用許諾契約で,顧客にプログラム著作物を引き渡してその使用を事実上可能にするとともに,それ以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしにプログラム著作物を利用できない事実状態を作り上げています。 

 

☞ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,法律上の禁止権を解除するライセンスと事実上の禁止状態を作り出すライセンスに分類されます。 

 

4.ライセンスを供与する約束の識別

 

● ライセンスを供与する約束

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束として,ライセンスを供与する約束を識別します。 

ライセンスを供与する約束は,契約書では,一般に,企業が,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲(期間,地域,用途等)で利用することを“許諾する”という表現を用います。この許諾がライセンスを供与することを意味しており,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。企業は,この義務を負うことによって,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲で利用できるようにするサービスを提供します。 

ライセンスを目的とする契約(ライセンス契約)

企業(ライセンサー)が一定の知的財産の利用を顧客(ライセンシー)に許諾し,顧客がその対価(ライセンス料)を支払うことを約する契約(ライセンス契約)は,ライセンスを目的とする契約であり,ライセンスを供与する約束は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務に位置づけられます。フランチャイズ契約も,多くの場合,企業(フランチャイザー=本部)が特許権やノウハウ(営業秘密),商標権などの知的財産の利用を顧客(フランチャイジー=加盟店)に許諾し,顧客がその対価(加盟金,ロイヤルティ)を支払うので,ライセンス契約に該当します。 

ライセンスを含む契約

ライセンスでない他の財又はサービスを契約の目的とする売買契約や(準)委任契約(委託契約),請負契約がライセンスを供与する約束を含む場合があります。ライセンスを含む契約では,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を識別します。ライセンスを供与する約束は,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務に位置づけられ,ライセンスが契約の目的とされた財又はサービスと別個のものかどうかを識別する必要があります。 

 

● 顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスの提供

企業は,顧客に対し,ライセンスを供与するとともに,許諾した一定の知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスを提供することも約束する場合があります。 

企業は,このような財又はサービスを提供する約束が,ライセンスを供与する約束と区分して識別可能か(契約の観点において別個のものか)について(第27項(b)),ライセンスの本質を考慮します。 

法律上の禁止権を解除するライセンス

法律上の禁止権を解除するライセンスでは,顧客が,企業に無断で知的財産を事実上利用すれば,企業から禁止権(侵害行為差止請求権)を行使されるため,ライセンスを供与する約束は,その行使をしないようあらかじめ企業から許諾を受けることを意味し,その許諾(不作為)だけがライセンスの本質に関わる約束です。 

したがって,企業が顧客による一定の知的財産の利用を事実上容易にするための財又はサービスを顧客に移転することは,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別する場合があります。例えば,企業が商品の製造・販売の方法に関する特許やノウハウ(営業秘密)のライセンスを供与するにあたって,公開されている特許情報や開示したノウハウ(マニュアル)とは別に,顧客の従業員を実技形式で指導支援することを約束するときは,多くの場合,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別します。 

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

事実上の禁止状態を作り出すライセンスでは,顧客は,一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為がない限り,その知的財産を事実上も利用できないため,ライセンスを供与する約束は,企業からその行為(作為)を伴う許諾を受けることを意味します。他方で,企業が,顧客に対し,許諾した一定の範囲以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしに知的財産を利用できない事実状態を作り上げるので,この禁止(拘束)に関する顧客の義務も,ライセンスの本質に関わる不可分な約束です。 

顧客による一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為には,例えば,動画・音楽・プログラム等を保存した記憶媒体(メディア)の引渡し,ソフトウェアの使用やオンライン・サービスへのアクセスに必要なコード(ユーザID・パスワード等)の提供などがあります。これらの財又はサービスは,ライセンスの供与とは別個のものとなり得るとしても(第27項(a)の要件を満たす),多くの場合,当該財又はサービスの移転なしに知的財産を事実上利用できないので,当該財又はサービスを移転する約束は,ラインセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第27項(b)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。

 

● 独占的なラインセンスの供与

ライセンスを供与する契約条項では,“独占的な”又は“非独占的な”権利を許諾するという表現が用いられることが少なくありません。ライセンス契約に独特の慣行的な表現であり,一般的には,次のように解釈します。 

独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占するという意味合いであり,企業(ライセンサー)は,顧客に対し,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を負います。  

独占的な権利のライセンスでは,ライセンスを供与する約束のほか,顧客に許諾した一定知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を,契約における約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務)として識別することができます。

このような追加的な約束は,顧客が購入したライセンスに独占性を付与して経済的価値を高めるものであり,顧客が追加的な約束のみを購入し,ライセンス自体を購入しないことを決定することはできません。したがって,このような追加的な約束は,ライセンスへの依存性や相互関連性が高く(第29項(c)),多くの場合,ライセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第27項(b)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。 

非独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占しないという意味合いであり,企業は,顧客にライセンスを供与すること以外に追加的な拘束を受けないので,当該顧客以外の第三者に対しても,同一の知的財産につき当該顧客に許諾した範囲の利用を重ねて許諾して,当該第三者からもライセンスの対価を受け取ることができます。 

 

● 契約に含意されている約束

フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレード(BC 87),フランチャイザーが行う新製品・メニューの投入,販促キャンペーンなど,契約条項に定められた企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務とはいえなくとも,企業が顧客と契約を締結する時までに生じた企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します(第24項)。 

 

☞顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするために財又はサービスを顧客に移転することは,多くの場合,法律上の禁止権を解除するライセンスでは別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別しますが,事実上の禁止状態を作り出すラインセンスではライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。企業は,独占的な権利のライセンスでは,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾しないことを追加的に約束しますが,多くの場合,ラインセンスへの依存性や相互関連性が高いため,ライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,ソフトウェアのアップグレードやフランチャイザーの活動について契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。 

 

5.ライセンス供与と履行義務の識別

 

● ライセンスを目的とする契約

企業は,ライセンスを目的とする契約では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務としてライセンスを供与する約束を識別し,独立した履行義務として識別します。 

 

● ライセンスを含む契約

企業は,ライセンスを含む契約では,他の種類の契約と同様に,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,本基準第22項~第30項を適用して履行義務を識別します(B 53)。 

企業は,まず,契約における約束として,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を識別し,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務としてライセンスを供与する約束を識別します。 

次に,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務として識別し(B 54),逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。 

例えば,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものではないライセンスの例として,次のようなものがあります(B 54)。 

有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるライセンス

ソフトウェアが有形の財(例えば,自動車)の構成部分となっていて,その財がどのように機能するかに大きく影響を与える場合など,ライセンスが有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるときは,当該ライセンスは,有形の財に統合されており,アウトプットである当該財を製造するためのインプットにすぎません(第29項(a))。 

関連するサービスとの組合せでのみ顧客が便益を得ることのできるライセンス

例えば,企業の主幹設備(システムなど)にオンラインのアクセスによってのみ顧客がソフトウェアを使用することを可能にするサービス(ホスティング又はストレージのサービスなど)では,ライセンスの使用は,オンライン・サービスへの依存性又は相互関連性が高く(第29項(c)),顧客は,ライセンスに対する支配を獲得していません。 

 

☞企業は,ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し,逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。 

 

6.ライセンス供与と履行義務の属性の判定

 

● 独立した履行義務であるライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約開始時に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定しますが,その判定にあたって,ライセンス供与における企業の約束の性質を次の2類型に区別します(B 56)。 

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利
ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

 

● 独立した履行義務でないライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束が別個のものでなく,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務(ライセンスの供与を含みます。)について,契約開始時に,本基準第31項~第38項を適用して,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します(B 55)。 

 

☞企業がライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利又は企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します。他方,企業がライセンスを供与する約束を契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務としてその属性を判定します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.09.19更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

返金不能の前払報酬

 

2018年9月19日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 6ページ

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「返金不能の前払報酬」 目次と概要

 

1.適用指針「返金不能の前払報酬」の概要

 

企業が,契約の開始時又はその前後に,返金不能の前払報酬を顧客に課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(B 48)。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)を提供する義務を識別しますが,多くの場合,返金不能の前払報酬に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。返金不能の前払報酬は,①更新オプションがある場合に当初の契約期間を延長して収益を認識する場合があること(B 49),②一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度をインプット法により測定するにあたって関連する活動(及びコスト)を無視すること(B 51)に留意する必要があります。

他方,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(B 50)。

適用指針「返金不能の前払報酬」(B 48~51)は,企業が,返金不能の前払報酬を顧客に課す場合に,関連する履行義務の識別や会計処理についての指針を提供しています。

 

企業が,契約の開始時又はその前後に,返金不能の前払報酬を顧客に課すことがありますが,多くの場合,返金不能の前払報酬に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。他方,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

2.返金不能の前払報酬

 

● 返金不能の前払報酬

企業が,契約の開始時又はその前後に,返金不能の前払報酬を顧客に課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(B 48)。

返金不能の前払報酬は,顧客が対価(手数料)を支払う強制可能な義務であり,契約においてその義務の内容(手数料の金額,支払期限等)が明示されます。支払期限は,契約の開始時又はその後であり,顧客は,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)の提供を受ける前に支払うことを約束します。

これに対し,企業は,当該契約において,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を負います。

返金不能の前払報酬は,企業が契約の開始時又はその前後において,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転するために行わなければならない契約のセットアップに伴う種々の管理作業などの活動(負担)を経済的に補償する趣旨であることが多く,契約においてその旨(入会手数料,加入手数料など)を明示することもあります(第25項,B 49)。

 

● 履行義務の識別

まず,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。

次に,企業は,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうかを評価します。

多くの場合,企業が返金不能の前払報酬に関連する活動を行っても顧客に財又はサービスを移転しません(B 49)。例えば,サービスを提供する企業が契約をセットアップするために種々の管理作業を行いますが,それらの作業の履行につれて顧客にサービスを移転することはありません(第25項)。

また,企業が返金不能の前払報酬に関連して約束した財又はサービスを顧客に移転する場合でも,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務と独立した履行義務として会計処理すべきかどうかを評価します(B 50)。

多くの場合,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を履行するために契約のセットアップに伴う種々の管理作業などの活動を行う必要がありますが,顧客は,返金不能の前払報酬を支払ったからといって,直接,企業にそのような活動を強制することを予定していませんので,必ずしも返金不能の前払報酬と交換に企業がどのような活動を行うのかについて契約において特定して明示する必要がありません。

そのため,返金不能の前払報酬に関連する活動を行うという企業の約束が,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と区分して識別可能でなく,契約の観点において別個のものとはいえず(第27項(b)),独立した履行義務とはいえない場合が少なくありません。

したがって,企業は,多くの場合,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。

もっとも,企業は,返金不能の前払報酬に関連して,顧客に対し,契約(期間)の更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。

 

● 将来の財又はサービスの移転に対する前払

企業が,返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金不能の前払報酬を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務に配分されます。

したがって,返金不能の前払報酬は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に(又は充足するつれて)収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます(B 49)。

 

☞企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,返金不能の前払報酬に関連した活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうか,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と独立した履行義務として会計処理すべきかどうかを評価します。多くの場合,返金不能の前払報酬に関連した活動により約束した財又はサービスを移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。この場合,返金不能の前払報酬は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に(又は充足するつれて)収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます。

 

3.返金不能の前払報酬と更新オプション

 

● 契約(期間)の更新オプション

契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。

契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により企業が更新を拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

 

● 履行義務の識別

企業が返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合でも,顧客に対し,契約(期間)の更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。返金不能の前払報酬が契約のセットアップに伴う種々の管理作業などの活動に関連する場合には,同一の顧客に関する更新に際して改めて企業にそのような負担が生じない場合が多いので,顧客は,企業が改めて返金不能の前払報酬を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制可能な義務を負い,あるいは,②企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。

そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります(B 40)。

 

● 更新オプションの会計処理

企業が契約(期間)の更新オプションの付与に係る履行義務を識別する場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金不能の前払報酬を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②契約(期間)の更新オプションの付与に係る履行義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなります。

しかし,契約(期間)の更新オプションの独立販売価格の算定が複雑であるため,実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(B 43,BC 393)。

したがって,企業は,返金不能の前払報酬につき,契約の目的とされた財又はサービスに関する当初の契約期間を延長して収益を認識する場合があります(B 49)。

 

☞顧客は,企業が改めて返金不能の前払報酬を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制可能な義務を負い,あるいは,②企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります。この場合,更新オプションの会計処理により,企業は,返金不能の前払報酬につき,契約の目的とされた財又はサービスに関する当初の契約期間を延長して収益を認識する場合があります。

 

4.返金不能の前払報酬とインプット法

 

● インプット法

インプット法は,アウトプット法と並び,一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定する方法であり,履行義務の充足に使用されたインプットが,当該履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づいて収益を認識します(B 18)。

指標として,例えば,消費した資源,費やした労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(B 18)。

 

● 履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定

返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,企業は,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定するときは(第32項,第35項),当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定するための適切な方法を選択しなければなりませんが(第41項),インプット法を選択・適用するにあたって,返金不能の前払報酬に関連する活動に係るインプットの取扱いに留意する必要があります。

インプット法は,企業のインプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がないため,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないことが少なくありません(B 19)。

企業は,インプットを適用する場合,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外しなければなりません(第42項,B 19)。

返金不能の前払報酬に関連する活動が,例えば,契約のセットアップに伴う種々の管理作業など,顧客へのサービスの移転を描写しない場合には,インプット法の適用にあたって,その活動(及び関連するコスト)を無視しなければなりません(B 51)。

 

☞企業が返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別せず,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定する場合には,返金不能の前払報酬に関連する活動(例えば,契約のセットアップに伴う種々の管理作業など)が顧客へのサービスの移転を描写しないので,インプット法の適用にあたって,その活動(及び関連するコスト)を無視しなければなりません。

 

5.返金不能の前払報酬に関連する独立の履行義務

 

企業が,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,本基準第22項~第30項に従い,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(B 50)。

この場合,企業は,顧客との契約において,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金不能の前払報酬に関連する活動を行う義務を含む複数の履行義務を識別します(複数要素契約)。Step3「取引価格を算定する」で,返金不能の前払報酬を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金不能の前払報酬に関連する活動を行う義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなりますが,返金不能の前払報酬について契約上の価格を独立販売価格であると推定してはならないことに留意する必要があります(第77項)。

 

☞企業が,本基準第22項~第30項に従い,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.08.15更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

 

2018年8月15日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

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「顧客の未行使の権利」 目次と概要

 

1.適用指針「顧客の未行使の権利」の概要

 

企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合があります。例えば,ギフトカード(商品券)や返金不能のチケットの販売などがあります(BC 396)。

このような場合,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務として,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別します。また,顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取ったときは,本基準第106項に従い,対価が支払われた時に,対価の金額で契約負債を認識しなければなりません(B 44)。

最後に,企業は,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,当該履行義務を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しますが,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプットから,顧客又は第三者により行使されないと見込まれる権利(非行使部分)を除いて,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することが,収益認識のパターンの忠実な描写となる場合があります。その場合,非行使部分の金額について,顧客又は第三者による権利行使に応じた財又はサービスの移転のパターンと比例的に収益を認識することになります(B 46)。

適用指針「顧客の未行使の権利」(B 44~47)は,企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合に,顧客又は第三者により行使されない権利(非行使部分)の金額について,どのように収益を認識するのかについての指針を提供しています。

 

☞企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別しますが,適用指針「顧客の未行使の権利」に定める一定の要件の下に,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプットから顧客又は第三者により行使されないと見込まれる権利(非行使部分)を除いて,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定します。

 

2.将来において財又はサービスを受け取る権利

 

● 将来において財又はサービスを受け取る権利

企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合があります。例えば,ギフトカード(商品券)や返金不能のチケットの販売などがあります(BC 396)。

このような企業の約束の性質には,以下のような特徴がみられます。

 

● “権利(の付与)”が現在の契約の目的とされていること

企業は,現に顧客と締結した契約において,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するために待機する義務を負います。契約の目的(とされた財又はサービス)は,あくまで“権利(の付与)”であって,企業が将来において移転するであろう財又はサービス自体ではありません。また,企業は,現在の契約とは別途に,将来,財又はサービスを移転するときに,新たに顧客又は第三者と契約を締結するわけではありません。

本基準は,このような契約の目的(現在の契約において約束した財又はサービス)を「顧客が再販売するか又は自らの顧客に提供することのできる将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与」としています(第26項(g))。

 

● 権利の全部が行使されない可能性があること

企業は,現に顧客と締結した契約において,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するために待機する義務を負いますが,顧客又は第三者が財又はサービスを受け取る権利の全部を行使しない(あるいは行使せずに権利が消滅する)ことが見込まれる場合があります。そのような顧客又は第三者により行使されない権利を“非行使部分”と呼びます(B 45)。そのような契約でも,企業が履行義務を一つだけ識別しますので,当該契約における取引価格の全部が当該履行義務に配分されます。

 

☞企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合は,契約の目的が“権利(の付与)”であり,企業は,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別します。将来において財又はサービスを受け取る権利は,全部が行使されないために“非行使部分”の存在が見込まれる場合がありますが,契約における取引価格の全部が当該履行義務に配分されます。

 

3.履行義務の識別と契約負債の認識

 

● 履行義務の識別

企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務として,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別します。

 

● 契約負債の認識

企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与し,顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取るか,又は受け取る無条件の権利(債権)を取得したときは,本基準第106項に従い,対価が支払われた時又は支払期限が到来した時のいずれか早い時に,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務について,対価の金額で契約負債を認識しなければなりません(B 44)。

企業が,そのような契約負債を認識したときは,将来において顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転し,履行義務を充足した時に,当該契約負債の認識を中止し,代わりに収益を認識しなければなりません(B 44)。

 

☞企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合に,顧客又は第三者の権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取るか,又は受け取る無条件の権利(債権)を取得したときは,本基準第106項に従い,対価が支払われた時又は支払期限が到来した時のいずれか早い時に対価の金額で契約負債を認識し,財又はサービスを移転して履行義務を充足した時に当該契約負債の認識を中止し,代わりに収益を認識します。

 

4.非行使部分から生じる収益

 

● 非行使部分の会計処理

権利(オプション)の付与についての履行義務に関し,権利の全部を行使しない(あるいは行使せずに権利が消滅する)ことが見込まれまる場合に,本基準は,契約における企業の履行につれて財又はサービスの移転を基礎に収益を認識する方法を採用しています(BC 398)。

この会計処理は,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務が,実質的には,顧客又は第三者に移転する個々の財又はサービスから構成されるとみて,個々の財又はサービスに対して,企業が見積る非行使部分から生じる収益を含めて(増額して)取引価格を配分したかのように取り扱います。

本基準は,①顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて企業が財又はサービスを移転するという契約に基づく企業の履行を忠実に描写していること,②顧客又は第三者が権利の全部を行使する(非行使部分が存在しない)と企業が予想する場合には,企業は,経済取引として,契約において約束する対価を増額する可能性がある(例えば,返金不能の航空券を販売する航空会社は,非行使部分が予想されない場合には,航空券についておそらくもっと高い価格を課すであろう。)ことを理由に,この会計処理が非行使部分に関する収益認識の最も適切なパターンを表すものと判断しています(BC 398)。

将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務は,一定の期間にわたり充足される履行義務に分類されますが,履行義務の完全な充足に向けての進捗度として,顧客又は第三者の“権利”を採用し(アウトプット法),現在までに行使した権利に応じて企業が移転した財又はサービスと残りの権利に応じて企業が移転すべき財又はサービスとの比率に基づいて収益を認識します(B 15)。この会計処理は,履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定にあたって,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプット(顧客又は第三者の権利)から,見込まれる非行使部分を除くことを意味しています。


● 非行使部分の見積りの制限

非行使部分の存在及び範囲は,将来において顧客又は第三者が一方的な意思表示(権利行使)を(どれくらい)するかどうかという将来の事象の発生又は不発生を条件として確定することになります。非行使部分は,契約において約束された対価ではありませんが,契約における企業の履行につれて財又はサービスの移転を基礎に収益を認識する方法を採用する場合には,企業が見積る非行使部分の範囲が大きければ大きいほど,それが確定する前に企業が認識する収益が大きくなり,それが確定したときに,いったん認識した収益を戻し入れる可能性があります。

そこで,本基準は,非行使部分の変動性に関する見積りについては,変動対価の見積りの制限と同様の制限を受けるべきであるとして,将来における財又はサービスを移転するために待機するという企業の履行義務を過小評価しないようにしました(BC 399)。


● 収益の認識

企業は,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務(一定の期間にわたり充足される履行義務)について,以下のとおり,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定します。

企業が契約負債における非行使部分の金額に対する権利を得ると見込んでいる場合

企業は,見込まれる非行使部分の金額を,顧客又は第三者が行使する権利のパターンに比例して収益として認識しなければなりません(B 46)。

企業が非行使部分の金額に対する権利を得ると見込んでいるかどうかを決定するために,企業は,変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用します(B 46)。


企業が契約負債における非行使部分に対する権利を得ると見込んでいない場合

企業は,見込まれる非行使部分の金額を,顧客又は第三者が残りの権利を行使する可能性がほとんどなくなった時に収益として認識しなければなりません(B 46)。

 

☞企業は,企業が契約負債における非行使部分の金額に対する権利を得るかどうかを変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用して決定し,①権利を得ると見込んでいる場合には,見込まれる非行使部分の金額を,(非行使部分の存在及び範囲に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲で,)顧客又は第三者が行使する権利のパターンに比例して収益として認識し,②そうでない場合には,見込まれる非行使部分の金額を,顧客又は第三者が残りの権利を行使する可能性がほとんどなくなった時に収益として認識します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.06.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

 

2018年6月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

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「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」 目次と概要

 

1.適用指針「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」の概要

 

企業が,顧客に対し,付随的に又は販売促進のために財又はサービスの提供を約束する場合があります。既存の契約において,将来の契約で追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する形態がその典型です。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束を識別しますが,このような場合には,そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションも,企業と顧客との間で既存の契約の対価との“交換”(同価値性)の一部を構成するものとして交渉されており,取引価格を配分すべき履行義務として識別しなければなりません(B 40)。

企業が,Step2でそのオプションについての履行義務を識別したときは,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分しますが,そのオプションについての独立販売価格は,直接に観察可能でない場合が多いので,それを見積らなければなりません(B 42)。

企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します(B 40)。

適用指針「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」(B 39~43)は,企業が,追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合に,そのオプションについての履行義務を識別するかどうか,また,識別した場合においてそのオプションについての独立販売価格をどのように見積るかについての指針を提供しています。

 

☞企業が,既存の契約において,将来の契約で追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合は,そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,契約開始時に,そのオプションについての履行義務を識別します。そのオプションについての独立販売価格が直接に観察可能でない場合は,企業は,そのオプションについての独立販売価格を見積り,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分します。企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します。

 

2.付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービス

 

● 契約における約束の主従の地位と重要性

本基準は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければならないとしています。ただし,契約の結果として約束した財又はサービスが財務諸表に対して重要性がないときは,本基準の枠外で(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」参照),履行義務として識別せずに会計処理することも容認される場合があります(BC 90)。

これに対し,販売インセンティブや他の付随的な約束が,当該契約がなくとも履行される場合,すなわち財又はサービスが当該契約とは独立して提供されるときは,契約における約束ではありません(BC 89)。例えば,店舗に来店するだけで付与されるカスタマー・ロイヤルティ・ポイントは,企業が来店した顧客と契約を締結したとしても,当該契約の結果として約束されたものとはいえませんので,販売費用(付随的な義務)として会計処理します。

 

● 契約における約束の識別

このような付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束は,契約の目的とされた財又はサービスに関する契約とは別の機会又は存在形式(口頭・文書の別,明示・黙示の別,証憑の別)でされることも多く,また,必ずしも法律の強制力を伴うとも限りません。このような約束は,当該契約書だけではなく,他の約款や規程,顧客に交付されたパンフレット,チラシなどにも留意して識別しなければなりません。

 

☞企業は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければなりません。ただし,契約の結果として約束した財又はサービスが財務諸表に対して重要性がないときは,本基準の枠外で(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」参照),履行義務として識別せずに会計処理することも容認される場合があります。

 

3.追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

 

● 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション(権利)には,既存の契約において,①将来の契約で追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを顧客に付与する場合と,②将来の契約で追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを顧客に付与する場合とがあります。

 

● 追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得する顧客のオプション

追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得する顧客のオプションには,多くの形態があり,販売インセンティブや顧客特典クレジット(又はポイント),契約更新オプション,将来の財又はサービスに係るその他の値引きなどがあります(B 39)。

顧客は,企業との間で既存の契約を締結し,①約束した財又はサービスの提供を受けるとともに,②追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを獲得し,①及び②との“交換”(=同価値性)に既存の契約の対価を支払います。顧客は,将来,企業から追加的な財又はサービスの提供を受けるにあたって,このオプションを行使すると,通常の対価より減額された無料又は値引き価格で新たな契約を締結することができます。

このような取引の経済的な実態は,顧客が,既存の契約において,約束した財又はサービスの対価だけでなく,実質的に将来の追加的な財又はサービスに対する対価の一部を前払いしているとみることができます。

 

● 追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプション

他方,顧客が企業との間で既存の契約を締結し,①約束した財又はサービスの提供を受けるとともに,②追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを獲得し,既存の契約の対価を支払う場合もあります。顧客は,将来,このオプションを行使して,企業から通常の価格で追加的な財又はサービスの提供を受ける新たな契約を締結することができます。例えば,顧客にとって供給が限定された追加的な財又はサービスを優先的に購入できることが既存の契約を締結するインセンティブとして機能する場合があります。

このような取引の経済的な実態は,企業が,既存の契約において,顧客にマーケティング又は販売促進用の提案を行っているとみることができます。

 

● 履行義務の識別

適用指針は,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視し,そのオプションが“当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利”かどうかによって,次のとおり取り扱います。

当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するとき

追加的な財又はサービスを無料又は通常の価格(独立販売価格)から重要な値引きがされた価格で取得できるオプションは,既存の契約における“交換”の一部を構成し,顧客が既存の契約においてそのオプションの対価を支払っていますので,既存の契約の対価の一部を配分すべき履行義務を識別します(BC 386(a))。

当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないとき

追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入できるにすぎないオプションは,既存の契約における“交換”の一部を構成せず,顧客が既存の契約においてそのオプションの対価を支払っていませんので,履行義務を識別しません(BC 386(b))。


☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションには,既存の契約において,①将来の契約で追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを顧客に付与する場合と,②将来の契約で追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを顧客に付与する場合とがあります。①のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,既存の契約における“交換”の一部を構成するので,既存の契約の対価の一部を配分すべき履行義務を識別します。

 

4.当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利

 

● 当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利

適用指針は,追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するかどうかの判定にあたって,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視しており,例えば,当該財又はサービスについて,その顧客階層にその地域又は市場において通常与えられる範囲の値引きに対する増分となる値引きであれば,重要な権利であると判定します(B 40)。

 

● 通常の値引きに対する増分

通常の値引きに対する増分かどうかを判定するにあたって,通常の値引きとして,追加的な財又はサービスについて,顧客が属する階層,地域又は市場において通常与えられる範囲の値引き(追加的な財又はサービスに係る同等の取引で通常行われる値引き)を考慮します。

 

☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するかどうかの判定にあたって,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視し,例えば,当該財又はサービスについて,その顧客階層にその地域又は市場において通常与えられる範囲の値引きに対する増分となる値引きであれば,重要な権利であると判定します。

 

5.顧客のオプションが重要な権利である場合の会計処理

 

● 履行義務の識別

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについての履行義務を識別します(B 40)。

 

● 取引価格の配分

企業は,既存の契約における取引価格を,①約束した財又はサービスを移転する履行義務と,②追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションについての履行義務に,独立販売価格の比率で配分します。

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションについての独立販売価格が,直接に観察可能でない場合には,企業は,顧客がそのオプションを行使したときに受けるであろう値引きに対し,次の双方について調整したものを反映して見積らなければなりません(B 42)。

a 顧客がオプションを行使することなしに受けることのできる値引き

b オプションが行使される可能性

適用指針は,顧客のオプションについての独立販売価格が直接に観察可能でない場合が多いことから(BC 389),企業がオプションの価格算定モデルの簡便法によって見積ることを求めています(BC 390)。

 

● 収益の認識

企業は,将来,顧客がオプションを行使して締結した新たな契約に従って,追加的な財又はサービスを顧客に移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された既存の契約の取引価格を収益として認識します(B 40)。


☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,企業は,既存の契約において,約束した財又はサービスを移転する履行義務のほか,そのオプションについての履行義務を識別し,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分します。企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します。

 

6.顧客のオプションが重要な権利でない場合の会計処理

 

● 履行義務の識別

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについて履行義務を識別しません。企業は,顧客がそのオプションを行使した時にのみ,それによって締結する新たな契約を本基準に従って会計処理します(B 41)。

追加的な財又はサービスを当該財又はサービスについての独立販売価格を反映する価格で購入するオプションは,企業は,既存の契約において販売の提案をしたにすぎず,たとえ既存の契約を締結することによってしか追加的な財又はサービスを購入できないとしても,重要な権利を顧客に提供しません(B 41)。

 

● 収益の認識

企業は,将来,顧客がオプションを行使して締結した新たな契約について,追加的な財又はサービスを移転する履行義務に配分された新たな契約の取引価格を収益として認識します。

 

☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについて履行義務を識別せず,顧客がそのオプションを行使した時にのみ,それによって締結する新たな契約を本基準に従って会計処理します。

 

7.更新オプション

 

● 更新オプション

更新オプションは,既存の契約で提供されるものと同じ種類の追加的な財又はサービスを取得する権利を顧客に付与します。更新オプションも,他のオプションと同様に,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,履行義務を識別します(BC 391)。契約(期間)の更新オプションがその典型です(B 43)。

契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。顧客が期間満了にあたって何ら意思表示をしなくとも,企業から更新を拒絶できない場合は更新オプションに含まれます。このような更新オプションは,より長期の契約における解約オプションとみることもできます(BC 391)。

契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により企業が更新を拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

 

● 独立販売価格の見積り

顧客が契約におけるあるオプションを行使するには,その契約におけるそれより前のオプションをすべて行使していなければならないような一連のオプションでは,企業は,当初の期間からの取引価格の累積のうち後の期間まで繰り延べる金額を算定するためには,可能性のある契約期間全体を考慮しなければならず,各更新オプションの独立販売価格の算定が複雑になります(BC 392)。

そこで,適用指針は,各更新オプションの独立販売価格の見積りについての実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(BC 393)。

 

● 要件(簡便な会計処理を容認する要件)

適用指針は,そのオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供することに加えて,以下のa及びbの双方の要件を満たすときに,簡便な会計処理を容認します(B 43)。

a 当該財又はサービスが既存の契約における財又はサービスと類似していること

追加的な財又はサービスは,既存の契約で提供されるものと類似していなければなりません。企業が顧客に既に提供していた財又はサービスを継続して提供するときに,追加的な財又はサービスも既存の契約の一部とみて,更新オプション付きの契約を,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなすことができるからです。

これに対し,カスタマー・ロイヤルティ・ポイントや多くの値引き券は,追加的な財又はサービスが既存の契約で提供されるものと異なる場合がありますので,この要件を満たしません(BC 394)。

b 当該財又はサービスが既存の契約における条件に従って提供されること

その後の契約における追加的な財又はサービスが,既存の契約の条件に従って提供されなければなりません。企業は,既存の契約の条件の変更ができず(既存の契約の条件に制約されており),特に追加的な財又はサービスの価格設定(例えば,期間あたり単価)を既存の契約で示された変動条件(例えば,契約期間)の範囲を超えて変更することができないことが必要です。

これに対し,カスタマー・ロイヤルティ・ポイントや多くの値引き券は,値引き精算の対象となる追加的な財又はサービスの価格に関して制約がありませんので,この要件を満たしません(BC 395)。

 

● 簡便な会計処理

オプションの独立販売価格を見積るために,提供すると予想される財又はサービスとそれに対応する予想対価を参照して当該履行義務に取引価格を配分することができます(B 43)。

 

☞契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。更新オプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供することに加えて,当該財又はサービスが既存の契約における財又はサービスと類似し,かつ,当該財又はサービスが既存の契約における条件に従って提供される場合は,提供すると予想される財又はサービスとそれに対応する予想対価を参照して当該履行義務に取引価格を配分することができます。 

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.05.08更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

本人なのか代理人なのかの検討

 

2018年5月8日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

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「本人なのか代理人なのかの検討」 目次と概要

 

1.適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」の概要

 

他の当事者(供給者)が財又はサービスを顧客(需要者)に提供する過程で,企業が当該財又はサービスの提供に関与している場合があります。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束を識別しますが,このような場合には,企業の約束の性質を考慮し,自らの約束が,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(顧客に対する約束)か,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務(他の当事者に対する約束)かを判定しなければなりません(B 34)。

特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配している場合は,企業は本人であり,移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識します(B 35B)。

これに対し,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配していない場合は,企業は代理人であり,他の当事者のために手配するサービスと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料(他の当事者に支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額)について収益を認識します(B 36)。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」(B 34~38)は,他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合に,企業の約束の性質が,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(顧客に対する約束)か,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務(他の当事者に対する約束)かを判定するための指針を提供しています。

 

☞企業は,他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合は,契約開始時に,企業の約束の性質を考慮し,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配している場合は,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(顧客に対する約束)を識別し,移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識し,そうでない場合は,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務(他の当事者に対する約束)を識別し,他の当事者のために手配するサービスと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料(他の当事者に支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額)について収益を認識します。

 

2.本人なのか代理人なのかの検討とは

 

● 本人なのか代理人なのかの検討

他の当事者(供給者)が財又はサービスを顧客(需要者)に提供する過程で,企業が当該財又はサービスの提供に関与している場合は,一般に,その過程で移転する目的となる財又はサービスが,他の当事者(A)から企業(B)を介して需要家(C)に移転し,当該財又はサービスと交換に対価(顧客対価)がCからBを介してAに支払われます。

このような場合,従来の収益認識基準は,企業(B)が収益を認識すべき金額は,Cから受領した顧客対価の総額か,Aに支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額かを決定するため,企業が本人として行動しているのか,又は他の当事者(A)の代理人として行動しているのかの判定を求めていました(BC 379)。  

本基準でも,目的となる財又はサービスの提供を受ける当事者(需要家C)を「顧客」と呼んで,企業に自らが本人なのか代理人なのかを判定することを求めています(BC 380)。

 

● 財又はサービスの支配

企業が本人であると代理人であると問わず,顧客(C)は,目的となる財又はサービス自体との間に交換(同価値性)の関係がある対価(顧客対価)を支払います。

企業(B)がいったん当該財又はサービスの支配を獲得した後にその支配を顧客に移転するときは,企業(B)が本人として当該財又はサービス自体を自ら顧客に移転するという履行義務を充足しますので,顧客対価を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

逆に,企業(B)が当該財又はサービスの支配を獲得しないときは,当該財又はサービスを顧客に移転することができず,他の当事者(A)が直接その支配を顧客に移転しますので,他の当事者(A)が顧客対価を収益として認識すべきです。企業(B)は,代理人として当該財又はサービスが顧客に提供されるように手配するという履行義務を充足しますので,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

このように,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」では,目的となる財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(BC 380,385C~D)。

 

● 契約の相手方

企業(B)にとって,①特定された財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得する場合は,需要者Cが“顧客”であり,企業(B)と顧客(C)との間の契約を識別し,特定された財又はサービス自体を自ら顧客に移転する履行義務を識別します。

逆に,②特定された財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得しない場合は,供給者Aが“顧客”であり,他の当事者(A)と企業(B)との間の契約を識別し,特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配するサービスを他の当事者(A)に移転する履行義務を識別します。

このように,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者Cなのか,供給者Aなのかという問題にほかなりません。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,本人と代理人の履行義務が異なることに着眼し,Step2「契約における履行義務を識別する」で判定する企業の約束の性質として位置づけています(BC 380)。しかし,本人か代理人かによって契約の相手方が異なることに着眼すると,本来は,契約開始時において,Step1「顧客との契約を識別する」とStep2「契約における履行義務を識別する」を同時に,かつ,他の当事者(A)と企業(B)との間の契約と企業(B)と顧客(C)との間の契約の双方を両面的に検討すべき問題として位置づけらます。

 

☞適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます。また,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者なのか,供給者なのかという問題であり,契約開始時に,Step1「顧客との契約を識別する」とStep2「契約における履行義務を識別する」を同時に,かつ,供給者との間の契約と需要者との間の契約の双方を両面的に検討すべき問題として位置づけられます。

 

3.委託販売契約との関係

 

● 委託販売契約

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいいます。上の模式図では,他の当事者(A)と企業(B)との間の契約が,他の当事者(A)が企業(B)に対して販売業務を委託するものであり,法律上の契約類型は,(準)委任契約(委託契約)です。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」(B 34~38)で,企業が自らを代理人と判定するケースには他の当事者(A)と企業(B)との間の契約が委託販売契約である場合が含まれます。

この委託販売契約自体から生じる収益は,企業(B)が認識します。委託販売契約では,受託者である企業(B)は,委託者である他の当事者(A)に対し,目的となる財(委託者の製品・商品)を販売する手配サービスを移転するので,「本人なのか代理人なのかの検討」では自らを代理人と判定し,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識します。

 

● 適用指針「委託販売契約」

適用指針「委託販売契約」(B 77~78)は,委託者である供給者Aが“企業”として,いつの時点で目的となる財又はサービスの対価(顧客対価)を収益として認識すべきか,という問題を取り扱っています。

企業(A)と他の当事者(B)との間の契約は,①他の当事者(B)が支配を獲得する場合は,売買契約(独立の販売)であり,企業(A)において“顧客”である他の当事者(B)に目的となる財又はサービスの支配を移転した時点で収益を認識し(BC 385E),逆に,②他の当事者(B)が支配を獲得しない場合は,委託販売契約であり,企業(A)において他の当事者(B)を介して顧客(C)に目的となる財又はサービスの支配を移転した時点で収益を認識します(B 77)。

 

● 委託販売契約との関係

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」において,流通業者(B)の立場から,目的となる財又はサービスが需要者(C)に移転される前に当該財又はサービスの支配を獲得するかどうかという評価を行うことと,適用指針「委託販売契約」において,供給者(A)の立場から,流通業者(B)が目的となる財又はサービスの支配を獲得するかどうかという評価を行うことは,同一の事象を異なる立場から評価しているという“裏返し”の関係にあります。

 

☞目的となる財又はサービスが需要者(C)に移転される前に,流通業者(B)が当該財又はサービスの支配を獲得するかどうかという同一の事象について,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」で流通業者(B)の立場から評価することと,適用指針「委託販売契約」で供給者(A)の立場から評価することは“裏返し”の関係にあります。

 

4.企業の約束の性質の判定

 

● 企業の約束の性質の判定方法

企業は,次の手順で企業の約束の性質を判定します(B 34,34A)。

(a) 顧客に提供すべき特定された財又はサービスを識別する。

(b) 特定された財又はサービスのそれぞれが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配しているのかどうかを評価する。

 

● 特定された財又はサービスの識別

特定された財又はサービスとは,顧客に提供すべき別個の財又はサービス(財又はサービスの別個の束)をいいます(BC 381)。供給者である他の当事者が財又はサービスを需要者に提供する過程に企業が関与している場合,需要者を「顧客」と呼び,需要者に提供する目的となる財又はサービスを「特定された財又はサービス」と呼びます。

特定された財又はサービスは,例えば,他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利である場合があります(B 34A)。

例えば,旅行代理店である企業が他の当事者(航空会社)が顧客(乗客)にフライトを提供する過程に関与している場合,特定された財又はサービスは,フライトそのものなのか,フライトの権利(航空券)なのかを検討する必要があります。企業は,将来の顧客への販売のために事前に航空券を購入している事実に着眼し,顧客に移転される前にフライトの権利の支配を獲得していれば,フライトの権利を特定された財又はサービスとして本人の履行義務を識別することになります(BC 381)。

 

● 特定された財又はサービスに対する支配の判定

企業は,特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配しているときは,本人であると判定し(B 35),支配していないときは,代理人であると判定します(B 36)。

企業が特定された財の法的所有権を顧客に移転される前に瞬間的にしか獲得しない場合には,企業は必ずしもその財を支配していません(B 35)。例えば,いわゆる消化仕入と呼ばれる取引のように,他の当事者が企業の店舗内に商品を納入し,陳列後も当該商品の法的所有権を有し,当該商品が顧客に販売されたときに当該商品の法的所有権が企業を介して顧客に移転するものとされており,企業が瞬間的にしか当該商品の法的所有権を獲得しない場合は,企業は必ずしも当該商品を支配していません。

本人である企業は,顧客に移転される前に特定された財又はサービスを支配しますので,一般的な経済取引として,特定された財又はサービスを提供する履行義務を自ら充足する場合もあれば,他の当事者(例えば,外注先や下請業者)に自らに代わって履行義務の一部又は全部を充足させる場合もあります(B 35)。

企業が本人である場合は,次のいずれかに対する支配を獲得します(B 35A,BC 385U)。

(a) 当該他の当事者からの財又は他の資産で,企業がその後に顧客に移転するもの(B 35A(a))

他の当事者と企業との間に売買契約(独立の販売)を締結する場合が典型であり,特定された財又はサービスは,商品,製品などの財の場合もあれば,サービスに対する権利(が化体したチケットなどのバウチャー)の場合もあります。無形の財又はサービスであっても,顧客に移転される前に当該財又はサービスに対する権利が存在している場合には,企業はその権利を支配することできます(BC 385O~P)。

例えば,ある企業が航空会社から減額された料率で購入した航空券を顧客に販売する場合(IE 239),企業は,他の当事者(航空会社)が履行するサービス(フライト)に対する権利(航空券)として特定された財又はサービスの支配を獲得し,これを顧客に移転します。

(b) 当該他の当事者が履行するサービスに対する権利(B 35A(b))

企業が他の当事者との間で顧客に提供するサービスを履行する契約を締結する場合が典型であり,特定された財又はサービスは,顧客に提供するサービスですが,企業は,他の当事者と契約を締結して,企業に代わって顧客にサービスを提供するよう求める権利を獲得し,この権利を支配することによって特定されたサービスを支配することができます(BC 385V)。

例えば,ある企業が顧客にオフィス・メンテナンス・サービスを提供する契約を締結し,他の当事者との間で顧客のために当該サービスを履行する契約を締結する場合(IE 238A~B),企業は,他の当事者にオフィス・メンテナンス・サービスを履行するよう求める権利(当該サービスを履行するよう指図する能力)を有し,当該サービスが顧客に移転される前に当該サービスに対する支配を獲得しています。

(c) 当該他の当事者からの財又はサービスで,企業がその後に顧客に特定された財又はサービスを提供する際に他の財又はサービスと結合するもの(B 35A(c))

企業が他の当事者が提供した財又はサービスを顧客が契約している特定された財又はサービスに統合するという重要なサービス(第29項(a)参照)を提供する場合には,企業は,顧客に移転される前に特定された財又はサービスを支配しています。企業は,まず,特定された財又はサービスへのインプット(他の当事者からの財又はサービスが含まれます。)に対する支配を獲得し,結合後のアウトプット(特定された財又はサービス)を創出するためにそれらの使用を指図するからです(BC 385Q~R)。

例えば,ある企業が顧客に独特の仕様の設備を提供する契約を締結し,その仕様を開発して他の当事者に設備を製造させ,直接顧客に引き渡すよう手配する場合(IE 234),企業は,仕様の開発と設備の製造を統合するという重要なサービスを提供しており,当該設備に対する支配を他の当事者から獲得し,独特の仕様の設備という特定された財又はサービスを創出するためにその使用を指図しますので,顧客に移転される前に特定された財又はサービスに対する支配を獲得しています。

 

☞企業は,(1)顧客に提供すべき特定された財又はサービスを識別し,(2)特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,企業が当該特定された財又はサービスを支配しているかどうかを判定します。本人である企業は,①他の当事者からの財又は他の資産で,その後に顧客に移転するもの,②他の当事者が履行するサービスに対する権利,③他の当事者からの財又はサービスで,その後に顧客に特定された財又はサービスを提供する際に他の財又はサービスと結合するもの,のいずれかに対する支配を獲得します。

 

5.特定された財又はサービスに対する支配の指標(本人の指標)

 

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,企業が特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配しているかどうかの判定が容易でない場合もあることから,以下のとおり,特定された財又はサービスを支配していること(企業が本人であること)を示す指標を例示し,これらの指標を考慮して総合的に判定するものとしています(B 37,BC 382,385H)。

(a) 企業が,特定された財又はサービスを提供する約束の履行に対する主たる責任を有している(B 37(a))

この指標における履行の責任は,契約の履行のための事実行為に果たす役割を指しており,それが主たる責任か否かは,一次的に果たす役割だけでなく,最終的な責任(他の当事者が履行しない場合に自ら履行する責任)や特定された財又はサービスの受入可能性に対する責任(顧客が特定された財又はサービスを受け入れることを可能にする責任,例えば,財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての責任)も含めて判断します。

この主たる責任は,必ずしも契約責任と一致するものではありませんが,特定された財又はサービスについて顧客と契約を締結している当事者が,企業自身なのか,他の当事者なのかは,重要な考慮要素であるといえます。

他方,他の当事者が顧客との間で直接契約を締結しており,企業が法律上の代理人である場合や媒介(他人間の契約の成立に向けて尽力する事実行為)を行う仲介人である場合は,企業が代理人であることは明らかです。

企業が顧客との間で直接契約を締結する場合であっても,それが特定された財又はサービスについての契約でない場合は,企業は代理人です。例えば,ある企業がウェブサイトを運営しており,それによりウェブサイトを利用する顧客は,注文する際に企業に商品の対価を預託し,他の当事者から直接商品の引渡しを受ける場合(IE 231),一般に,企業がウェブサイト上の約款等で顧客と締結する契約は,特定された財又はサービスである商品についての契約でないため,企業は代理人です。

(b) 特定された財又はサービスが顧客に移転される前,又は顧客への支配の移転の後(例えば,顧客が返品の権利を有している場合)に,企業が在庫リスクを有している(B 37(b))

企業が特定された財又はサービスを在庫として保有する可能性がある場合,企業は,当該財又はサービスが顧客に移転される前に当該財又はサービスの使用を指図する能力及び当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有している,すなわち本人である可能性を示しています。

企業が特定された財又はサービスについて顧客との契約を獲得する前に,他の当事者から当該財又はサービスを獲得するか,又は獲得する約束をする場合,企業が在庫リスクを有しています。また,企業が特定された財又はサービスの支配を顧客に移転した後も,顧客が返品の権利を行使したときに,企業と他の当事者との間の契約の明示的又は黙示的な合意によっては,企業が在庫リスクを負う場合があります。もっとも,いわゆる介入取引のように,他の当事者と顧客の間に主要な取引条件が実質的に決定されてから,企業がその間に介入する場合の多くは,企業は在庫リスクを負いません。

(c) 特定された財又はサービスの価格の設定において企業に裁量権がある(B 37(c))

企業が特定された財又はサービスに対して顧客が支払う価格を設定していることは,企業が当該財又はサービスから受け取ることのできる便益が限定されておらず,企業が当該財又はサービスの使用を指図し,残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有している,すなわち本人である可能性を示しています。もっとも,例えば,代理人が,財又はサービスが他の当事者によって顧客に提供されるように手配するというサービスから生じる追加的な収益を生み出すために,価格の設定において若干の柔軟性を有している場合など,代理人が価格の設定において裁量権を有していることもあります。

 

☞企業は,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,企業が当該財又はサービスを支配しているかどうかの判定にあたって,特定された財又はサービスを支配していること(企業が本人であること)を示す指標として,例えば,①企業が,特定された財又はサービスを提供する約束の履行に対する主たる責任を有していること,②特定された財又はサービスが顧客に移転される前,又は顧客への支配の移転の後(例えば,顧客が返品の権利を有している場合)に,企業が在庫リスクを有していること,③特定された財又はサービスの価格の設定において企業に裁量権があること,を考慮して総合的に判定します。

 

6.本人である企業の会計処理

 

● 履行義務の識別

企業が特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配している場合には,企業は,本人として,顧客に対し,特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務を識別します(B 35)。

 

● 収益の認識

企業は,本人の履行義務を充足する時点で(又は充足するにつれて),移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識します(B 35B)。

 

7.代理人である企業の会計処理

 

● 履行義務の識別

企業が特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配していない場合には,企業は,代理人として,他の当事者に対し,他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務を識別します(B 36)。

 

● 収益の認識

企業は,代理人の履行義務を充足する時点で(又は充足するにつれて),他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配することと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料について収益を認識します(B 36)。

企業が権利を得ると見込んでいる対価は,他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る対価(顧客対価)を企業が当該他の当事者に支払った後に保持する対価の純額の場合もあります(B 36)。

 

☞企業は,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務を識別したときは,移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識し,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務を識別したときは,他の当事者のために手配するサービスと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料(他の当事者に支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額)について収益を認識します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.02.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

製品保証

 

2018年2月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「製品保証」 目次と概要

 

1.適用指針「製品保証」の概要

 

企業が製品(財又はサービス)の販売に関連して,(契約,法律又は企業の取引慣行に従って)当該製品に対する保証も提供することは一般的に行われています。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,まず,契約における約束を識別しますが,このような製品の販売について,①製品の引渡し義務を識別するほか,②当該製品を保証するという企業の約束を識別することができます。

次に,企業は,本基準第27項bの要件について,これら①と②の契約における約束が別個のものかどうかを判定します。

製品が合意された仕様に従っているという保証だけを顧客に提供するときは(アシュアランス型),契約の観点において,①製品の引渡し義務と②当該製品を保証するという契約における約束が別個でないので,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別します。

これに対し,製品が合意された仕様に従っているという保証に加えて顧客にサービスを提供するときは(サービス型),契約の観点において,①製品の引渡し義務と②当該製品を保証するという契約における約束が別個なので,製品の引渡し義務と保証サービスに区切って二つの履行義務を識別します。

適用指針「製品保証」(B 28~33)は,製品保証が製品の引渡し義務と別個かどうかの判定の指針と,別個でない場合(アシュアランス型)と別個のサービスとして履行義務を識別する場合(サービス型)のそれぞれの会計処理を定めています。

 

☞企業が製品の販売に関連して当該製品の保証も提供する場合,Step2「契約における履行義務を識別する」で,当該製品を保証するという契約における約束が,契約の観点から,製品の引渡し義務と別個かどうかを判定し,別個でない場合(アシュアランス型)は,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別し,別個である場合(サービス型)は,製品の引渡し義務と保証サービスに区切って二つの履行義務を識別します。

 

2.製品の引渡しに関する企業の約束

 

● 製品の引渡し義務(給付義務)の内容

製品(財又はサービス)の販売に関しては,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)として,製品の引渡し義務が識別されます。企業の履行により提供する財又はサービスは,当然ながら顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければならず,その条件に従っていない場合には,企業の履行は完了しません。

法律上,債務の履行は,債務の本旨(=契約により定まる債務の内容)に従ったものでなければならないとされています(民法415条)。企業の履行の内容(債務の本旨)の概要は,契約で定められますが,細目まで網羅的に明示されないため,明示されない部分は契約の解釈により定まります。一般的に,契約書では品種・品番・数量等を特定するに止め,詳細な品質・性能・仕様等は,契約書の別紙や別の書類(仕様書,パンフレット等)により示される場合が少なくありません。

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱い

法律上,企業が顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。

企業は,合意された条件に従っていない財又はサービスを提供したときは,民法の任意規定に従い,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任を負います(民法562条)。また,顧客は,企業に対し,相当の期間を定めて履行の追完を催告し,その期間内に履行の追完がないときは,代金の減額を請求することができます(民法563条)。なお,顧客は,一般原則に従い,債務不履行を理由に損害の賠償(民法415条),契約の解除(民法541,542条)をすることもできます(民法564条)。

他方,これらの企業の責任には期間制限があり,顧客は,目的物が契約に適合しないことを知ってから1年以内に企業に通知しない限り,履行の追完,代金の減額,損害の賠償を請求し,又は契約を解除することができません(民法566条)。

もっとも,このような期間制限では,企業は,責任追及される可能性を抱えたまま長期間不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,商法は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買については,顧客は,受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い(商法526条1項),検査後直ちに企業に通知しなければ,目的物が契約に適合しないことを理由に企業の責任を追及できないこととしています。また,検査によって直ちに発見することができない契約不適合(隠れた瑕疵)であっても,受領後6か月以内に企業に通知しなければ,同様に責任追及ができないこととしています(商法526条2項)。

 

● 契約における約束の識別

企業が不完全な履行に関する責任(担保責任)を負わない特約(民法572条)がない限り,企業が負う履行追完責任その他製品保証に関する義務も,契約における約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務)として識別し,製品の引渡し義務と別個のサービスかどうかを判定します。

企業が負う製品保証に関する義務が民法・商法の任意規定と同じか,又は軽減されている場合は,製品の引渡し義務の一部であり,別個ではありません。他方,企業が負う製品保証に関する義務が民法・商法の任意規定より加重されている場合は,製品の引渡し義務を超えた別個のものかどうかを判定する必要があります。

 

☞企業は,契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,特約がない限り,履行の追完(目的物の修補,代替物・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償の責任を負います。企業は,顧客との契約の中の不完全な履行に関する条項などから,履行追完責任(担保責任)その他製品保証に関する義務を契約における約束として識別し,製品の引渡し義務と別個のサービスかどうかを判定します。

 

3.製品保証に関する企業の約束の性質

 

● 製品保証の性質

製品保証の中には,①製品の引渡し時に存在する瑕疵から顧客を保護するものもあれば,②製品の引渡し後に生じる故障や不具合から顧客を保護するものもあります。製品保証が引渡し時に存在した製品の瑕疵から顧客を保護するだけの場合(①のみの場合)は,顧客は,製品の引渡しと独立したサービスを受けません。そのような瑕疵を修補するための事後の修理又は交換は,企業の過去の履行(製品販売)の追加的コストとみるべきですので(BC 369),一部の製品保証については,製品の引渡し義務に加えて独立の履行義務を識別すべきではありません。

 

● “事象”と“原因”の区別

上記①の製品保証は,製品の引渡し時に瑕疵が発見される場合にだけ顧客を保護するものではありません。顧客が使用を開始した後に発生した故障・不具合によって製品の引渡し時に瑕疵があったのではないかという疑いが生じることもあります。調査の結果,製品の引渡し時に瑕疵があったことが特定(立証)された場合にだけ顧客を保護する場合は,顧客は,製品の引渡しと独立したサービスを受けていません。そのため,①の製品保証の範囲は,故障や不具合などの“事象”がいつ発生するのかで限定されるのではなく,故障や不具合が(製品の引渡し時において)契約において合意された仕様に従っていなかったことに起因しているかどうかという“原因”で限定されます。

したがって,製品の引渡し義務に加えて独立の履行義務を識別するかどうかは,契約において合意された仕様に従っているという保証(①)だけを提供しているのか,それに加えて顧客にサービス(②)を提供しているのかどうかによって判定します(BC 370)。顧客による使用開始後,一定の期間内に発生した故障・不具合であれば,その“原因”が特定(立証)されなくとも,無償の修補,代替品の引渡しを約束する場合は,独立の履行義務を識別します。

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱いと製品保証

故障や不具合の“原因”が(製品の引渡し時において)契約において合意された仕様に従っていなかったことにある場合とは,企業が顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供した場合,すなわち債務の本旨に従わない不完全な履行をしたケースにほかなりません。

したがって,契約において合意された仕様に従っているという保証だけを提供している場合とは,顧客との契約において,不完全な履行に関する企業の責任だけが定められており,企業の責任の範囲(保証の履行の要件と内容)が製品の引渡し義務を経済的に補償するに止まる場合であるといえます。

このような場合,当該製品を保証するという企業の約束は,契約の観点において,製品の引渡し義務という他の約束と区分して識別可能ではなく,本基準第27項bの要件を充足せず,別個のサービスでないと判定し,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別します。

製品保証の区別は,以下のとおり,法律上,製品の引渡し義務の不完全な履行に対する企業の責任の範囲に止まるのか,それを超えるのかの区別と整合しています。

 

製品が合意された仕様に従っているという保証だけを顧客に提供する(アシュアランス型)

企業が,顧客との契約において,製品の引渡し時に合意された仕様に従っていなかった場合にのみ,顧客に補償することを約束する製品保証をアシュアランス型と呼びます。

法律上,顧客との契約において,企業が提供した製品が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなかった場合(不完全な履行)にのみ,顧客に対し,履行の追完(目的物の修補,代替品・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償その他の補償をする義務を負う場合をいいます。

 

製品が合意された仕様に従っているという保証に加えて顧客にサービスを提供する(サービス型)

企業が,顧客との契約において,製品の引渡し時に合意された仕様に従っていたとしても,製品に関する便益(例えば,一定の期間内は正常に使用できるよう維持すること)を提供するか,又は製品の引渡し義務の補償を超える便益を提供することを約束する製品保証をサービス型と呼びます。

法律上,顧客との契約において,①企業が顧客に保証を履行する義務を負う要件の範囲が(製品の引渡し時に)製品が契約において合意された条件に従っていなかった場合(不完全な履行)よりも広いか,又は②企業が顧客に履行する保証の内容が製品の引渡し義務を補償する範囲(履行の追完,代金の減額又は損害の賠償)を超えている場合をいいます。

 

● メーカー保証書

企業(メーカー)は,消費者(顧客から企業の製品を購入する他の当事者)のため,販売する製品に企業が発行した保証書を付することが一般的に行われています。このようなメーカー保証書により企業(メーカー)が第三者(消費者)に製品保証を約束することは,顧客(販売店)に対する製品の引渡し義務の一部ではなく,明らかにそれを超える便益を提供していますので,サービス型の製品保証です。

 

☞企業は,契約における約束として識別した製品保証に関する義務が,契約の観点において,製品の引渡し義務という他の約束と区分して識別可能かどうか(本基準第27項b)を判定します。故障や不具合の“事象”がいつ発生したかではなく,その“原因”が(製品の引渡し時において)契約において合意された仕様に従っていなかったこと(不完全な履行)にあるかどうかで区別し,保証の履行の要件と内容が,①不完全な履行に対して製品の引渡し義務を補償するに止まる場合は,別個のサービスではなく,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別し(アシュアランス型の製品保証),②製品の引渡し義務の範囲を超える場合は,別個のサービスとして,製品の引渡し義務と保証サービスに区切って二つの履行義務を識別します(サービス型の製品保証)。

 

4.合意された仕様に従っているという保証(アシュアランス型)

 

● 定義

企業が製品(財又はサービス)を顧客に提供するにあたって,企業が当該製品に対する保証も提供する場合(製品保証)のうち,製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するものをいいます(B 28)。

製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するとは,以下の要件をいずれも満たす場合をいいます。

a 企業が顧客に保証を履行する義務を負う場合(要件)は,(製品の引渡し時に)製品が契約において合意された条件に従っていなかった場合(不完全な履行)に限定されていること

顧客が使用を開始した後に故障・不具合などの事象が発生するときは,その原因を特定することが難しいことも多いため,企業は,契約又は企業の取引慣行に従って,一定の期間内に発生した故障・不具合であれば,その原因が特定(立証)されなくとも,無償で修補,代替品の引渡しを行うことを約束する場合があります。このように,企業が製品の引渡しを完全に履行していた(可能性がある)としても,それを補償することを約束する製品保証は,サービス型であり,アシュアランス型ではありません。

b 企業が顧客に履行する保証の内容(効果)は,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲(履行の追完(※),代金の減額又は損害の賠償)に限定されていること

 ※履行の追完は,目的物の修補,代替品又は不足分の引渡しを指します。

企業は,顧客が製品を正常に使用するため,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲を超えて,メンテナンス(保守・点検・維持)などの便益を提供することを約束する製品保証は,サービス型であり,アシュアランス型ではありません。

以上のa及びbの要件をいずれも満たす場合は,製品の引渡し義務の一部であり,契約の観点において,製品の引渡し義務という他の約束と区分して識別可能ではなく,本基準第27項bの要件を充足しません。そこで,このような保証は,別個のサービスではないと判定し,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別します。

 

● 会計処理

企業は,製品保証をIAS第37号「引当金,偶発負債及び偶発資産」に従って会計処理しなければなりません(B 30)。

企業は,製品を顧客に移転した時に,保証の履行に必要な費用とそれに関する負債(製品保証引当金)を認識し,その測定にあたっては,コストを基礎に測定します。サービス型の製品保証の会計処理とは対照的に,アシュアランス型の製品保証に取引価格(利益を含む収益)を帰属させません(BC 376)。

 

☞企業が顧客に保証を履行する義務を負う場合(要件)が,製品が契約において合意された条件に従っていなかった場合(不完全な履行)に限定され,かつ,保証の内容(効果)が,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲(履行の追完,代金の減額又は損害の賠償)に限定されている場合は,製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するアシュアランス型の製品保証です。アシュアランス型の製品保証は,IAS第37号「引当金,偶発負債及び偶発資産」に従って会計処理し,企業は,製品を顧客に移転した時に,保証の履行に必要な費用とそれに関する負債(製品保証引当金)を認識し,その測定にあたっては,コストを基礎に測定します。

 

5.顧客にサービスを提供する保証(サービス型)

 

● 定義

企業が製品(財又はサービス)を顧客に提供するにあたって,企業が当該製品に対する保証も提供する場合(製品保証)にその保証の全部又は一部が,製品が契約において合意された仕様に従っているという保証に加えて顧客にサービスを提供するものをいいます(B 28)。

製品保証のうち,製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するという要件を満たさないものは,すべてサービス型となります。

 

● 製品保証を独立して購入するオプション

例えば,製品保証が独立に価格設定されるか,又は交渉されることにより,顧客が製品保証を独立で購入するオプションを有している場合には,当該製品保証は,別個のサービスであることが明らかであり,サービス型の製品保証となります。企業は,製品の引渡しに加えて,保証サービスを顧客に提供することを独立して約束しているからです(B 29,BC 371)。

 

● アシュアランス型とサービス型の区別の指標

本基準は,アシュアランス型とサービス型の区別の指標を例示しています(B 31)。企業は,これらの指標を考慮し,アシュアランス型の要件を満たさないものは,すべてサービス型と判定します。

a 製品保証が法律で要求されているかどうか

一般に,法律は,(製品の引渡し時において)瑕疵ある製品を購入するリスクから顧客を保護することを目的としており,法律で要求されている製品保証は,アシュアランス型であることが多いといえます。

b 保証対象期間の長さ

一般に(製品の引渡し時において)瑕疵があったかどうかは,時の経過により立証が難しくなるため,保証対象期間が長いほど,その立証を不要とする趣旨,すなわちサービス型であることが多いといえます。

c 企業が履行を約束している作業の内容

アシュアランス型は,企業が顧客に履行する保証の内容が,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲(履行の追完,代金の減額又は損害の賠償)に限定されますので,これを超える作業を約束している場合はサービス型となります。もっとも,瑕疵のある製品の返品の運送サービスを約束していても,製品の引渡し義務を経済的に補償するための付随的な作業であり,サービス型の指標にはなりません。

 

● 会計処理

企業は,製品保証を別個のサービス(保証サービス)として履行義務を識別し,製品の引渡しと保証サービスのそれぞれの履行義務に取引価格を配分します(B 32)。

企業がアシュアランス型とサービス型の両方の製品保証を約束している場合にそれらを区分して合理的に会計処理できない場合には,企業は,両方の製品保証を一括して単一の履行義務として会計処理します(B 32,BC 376)。

 

☞アシュアランス型の要件を満たさない製品保証はサービス型の製品保証です。サービス型の製品保証は,別個のサービス(保証サービス)として履行義務を識別し,製品の引渡しと保証サービスのそれぞれの履行義務に取引価格を配分します。

 

6.製造物責任

 

● 製造物責任

製造物の製造,加工又は輸入を事業とする企業が,その引き渡した製造物が通常有すべき安全性を欠くこと(=「欠陥」)により人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負います(製造物責任法3条)。

製造物責任法が定める「欠陥」は,製造物が通常有すべき安全性を欠くことをいい,契約において合意された品質・性能・仕様等を満たさないばかりでなく,他人の生命,身体,財産を侵害してはならないという一般的な社会生活関係における不可侵義務にも違反するようなものをいいます。

 

● 会計処理

企業は,法律に基づいて第三者に損害賠償責任(不法行為責任)を負い,顧客との契約において,顧客が支払を約束した対価と“交換”(=同価値性)に,第三者に損害を賠償し,又は第三者に損害を賠償した顧客に補償するという契約上の義務を負うわけではありません。したがって,製造物責任は,取引価格を配分すべき履行義務ではありません(B 33)。

もし,企業が製品に「欠陥」があると見込まれる状況に至ったときは,IAS第37号「引当金,偶発負債及び偶発資産」に従って会計処理します(BC 378)。

 

☞製造物責任は,顧客との契約において,顧客が支払を約束した対価と交換に負う契約上の義務ではありませんので,企業は製造物責任を履行義務として識別しません。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.11.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

一時点で充足される履行義務

 

2017年11月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「一時点で充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-③ 一時点で充足される履行義務

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」のサブ・ステップ5-①履行義務の属性の判定により,一つ又は複数の履行義務が一時点で充足されると判定した場合,企業は,一時点で充足される履行義務のそれぞれについて,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点で収益を認識します(第38項)。

企業は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮します(第38項)。

 

2.履行義務を充足する時点の決定

 

本基準は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,企業は,“支配”の要件(第33項~第34項)を直接適用するほか,次のような支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮しなければなりません(第38項)。

a 企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(指標(a))

b 顧客が資産に対する法的所有権を有している(指標(b))

c 企業が資産の物理的占有を移転した(指標(c))

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(指標(d))

e 顧客が資産を検収した(指標(e))

 

3.企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(第38項(a))

 

支配との関連性

顧客が資産に対する対価を支払う義務を現時点で負っていることは,顧客がそれと交換に当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を得ていることを示す指標になります(第38項(a))。

もっとも,企業が資産に対する支払を受ける権利は,財又はサービスそのものに関する指標ではありませんので,指標としての有用性には限界があります。

 

資産に対する支払を受ける現在の権利

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しているとは,資産に対する対価の支払期限が到来するまでに時の経過以外は必要とされないことをいいます。

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しないときは,顧客が確定期限の未到来以外に対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁(主張)を有しています。顧客が対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁としては,①停止条件の未成就,②不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),③同時履行の抗弁などの事由が考えられます。

 

停止条件の未成就

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいい,条件が成就したときに法律効力が発生する場合を停止条件といいます(“効力の発生が条件の成就まで停止している”)。

 

不確定期限の未到来(先履行義務の未履行)

期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。発生すること自体は確実ですが,いつ到来するかが不確実な事実にかからせる場合を不確定期限といい,いつ到来するかが確実な事実にかからせる場合を確定期限といいます。

支払期限の到来まで時の経過以外は必要とされない場合は確定期限であり,企業は,資産に対する支払を受ける現在の権利を有します。

これに対し,企業が財又はサービスを提供する義務の履行を完了した後に顧客が代金を支払う定め(後払い)があるときは,企業がいつ財又はサービスを提供する義務(先履行義務)を履行するかが不確実なので不確定期限であり,企業は,財又はサービスを提供する義務の履行を完了しない限り,資産に対する支配を受ける現在の権利を有しません。 

 

同時履行の抗弁

同時履行の抗弁とは,双務契約の当事者が,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる権利をいいます(民法533条)。

顧客が企業に対価を支払う義務と,企業が顧客に契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(給付義務)との間に同時履行の関係のある契約では,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供するまで,顧客が対価の支払を拒絶することができるので(同時履行の抗弁),資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。

不動産の売買契約,建築請負契約などでは,顧客が対価を支払う義務と契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を同時に履行するものとして合意することが多くみられます。これら双方の義務を同時履行の関係にする場合は,通常,契約条項に「と同時に」や「と引換えに」などの用語を使って明示し,後払いと区別します。 

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,資産に対する支払を受ける現在の権利を有するに至る時点,すなわち,支払期限が到来するまでに時の経過以外が必要とされなくなる時点を考慮します。顧客が支払を拒絶できる法律上の抗弁,例えば,停止条件の未成就,不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),同時履行の抗弁などを主張できるときは,企業は資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。 

 

4.顧客が資産に対する法的所有権を有している(第38項(b))

 

支配との関連性

法的所有権は,物に対する完全支配権であり,所有者は,自らの活動に物(資産)の消費,処分,売却,交換,使用,担保差入,保有等のあらゆる利用ができ,他の企業に対する利用の許諾・制限もできますので,これら使用の指図によって当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有します。 

資産の法的所有権は,それが顧客に移転したときに顧客が当該資産に対する支配を獲得し,逆に,それが企業に留まるときは,未だ顧客が当該資産を支配していないことを示す重要な指標になります。多くの場合,資産の法的所有権の移転に伴って資産に対する支配も移転し,資産の法的所有権と資産に対する支配は一致します。ただし,企業が資産の法的所有権を顧客の支払不履行に対する保護としてのみ保持している場合(所有権留保)は,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

法的所有権の概念

所有権は,物権であり,物に対する完全支配権をいいます。所有権は,法律上の概念であり,本基準は,「法的所有権」という用語を使っています。

 

法的所有権の移転時期

a 契約に明示されている場合

所有権の移転時期は,一律に定まっているわけではなく,契約書,合意書等に明示されていればそれに従います。

物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって効力を生じ(民法176条,意思主義),要式や登録・登記を必要としません。そのため,所有権の移転及びその時期は,旧所有者(譲渡人)と新所有者(譲受人)との間の合意のとおりに効力を生じます。

b 契約に明示されていない場合

所有権の移転時期が契約書,合意書等に明示されていないときは,意思表示の解釈(契約の解釈)により当事者の意思を探求しますが,対抗要件(不動産は登記,動産は引渡し)を具備するときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。

 

所有権留保(支払不履行に対する保護としての権利)

a 所有権留保

所有権留保とは,売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保することをいいます。

所有権留保は,主に売買代金の割賦払(分割払)による動産の売買において利用されており,買主が売買代金の支払を怠った場合は,売主が留保した所有権に基づき,その目的物を買主又は第三者から引き揚げてこれを換価するなどして売買残代金の弁済に充当します。買主が売買代金を完済したときは,留保した所有権が売主から買主に移転します。

買主の目的物の利用状況は,通常の売買と異ならないため,売主が所有権を留保したいときは,通常,買主に明示的な合意を求め,契約条項又は約款で,買主による目的物の処分禁止や支払遅滞時の取扱いなど詳細に取り決めます。

b 支配との関連性

企業が所有権留保の特約により資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の法的所有権を有するに至る時点を考慮します。所有権の移転時期は,契約書等に明示されていればそれに従い,明示されていなければ,所有権移転の対抗要件(不動産の登記,動産の引渡し)を具備したときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保する場合(所有権留保),企業が資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません。

 

5.企業が資産の物理的占有を移転した(第38項(c))

 

支配との関連性

資産の物理的占有は,占有者が自ら当該資産の使用を指図し,当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得するか,又は当該便益への他の企業のアクセスを制限する能力を有することを示す可能性があり,企業から顧客に資産の物理的占有を移転することは,顧客が当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標になり得ます。

しかし,物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあります。例えば,買戻し契約には,企業が顧客に資産の物理的占有を移転しながら,依然として当該資産を支配しているものがあります。逆に,請求済未出荷契約には,顧客が資産に対する支配を獲得しながら,企業が依然として当該資産の物理的占有を継続しているものがあります(第38項(c))。

 

物理的占有

占有は,一般に物に対する事実的支配をいいます。本基準は,“物理的占有”の静態的な帰属ではなく,企業から顧客へ「移転した」かどうかという動態的な移転を指標としています。例えば,企業がその意思によらずに物理的占有を喪失し,それを顧客が獲得しても,物理的占有の移転とはいえません。

 

適用指針「請求済未出荷契約」

企業は,顧客との間で,企業が財(製品・商品)の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持することを合意することがあります(いわゆる請求済未出荷契約)。

このような合意は,ほとんどの場合,①企業が当該財に対する支払を受ける現在の権利を有し(指標(a)),かつ,②企業が当該財の法的所有権を顧客に移転する黙示の合意が含まれると解釈できますので(指標(b)),顧客は,当該財に対する支配を獲得します。逆に,企業は,当該財を支配せず,代わりに顧客に当該財に対する保管サービスを提供しています(B 80)。

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,本基準第38項に従って検討するほか,顧客が支配を獲得したと判定するためには,次の要件のすべてを満たしていなければなりません(B 80,81)。

a 請求済未出荷契約の理由が実質的であること(例えば,顧客が当該契約を要請した)

ⅰ 企業と顧客との間で請求済未出荷契約(企業が財の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持する合意)が成立したこと

ⅱ 上記ⅰの合意の理由が実質的であること

b 当該財が顧客に属するものとして区分して識別されていること

c 当該財は現時点で顧客への物理的な移転の準備ができていること

d 企業が当該財を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有しないこと

● 企業は,財の物理的占有を移転する前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,保管サービス)があるかどうかを考慮しなければなりません(B 82)。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,企業が資産の物理的占有を移転した時点を考慮します。物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあるので,買戻し契約や請求済未出荷契約を考慮します。

 

6.顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(第38項(d))

 

支配との関連性

顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有する事象は,顧客が当該資産に対する支配を獲得した結果であることが多いので,支配の移転の指標となり得ます(BC 119,154)。

もっとも,本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配モデルを採用しており,2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定する必要があります。例えば,企業が約束した財を移転する履行義務に加えて,維持管理サービスを提供する独立した履行義務を識別しているときは,財を移転する履行義務を充足する時点を決定するにあたって,財に関連する一部のリスク(故障や性能の低下)を除外して判定します(第38項(d))。

 

危険負担

資産の所有に伴うリスクとして想定される一事象に資産の滅失・毀損があります。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

自然災害等の不可抗力により財が滅失・毀損し,企業が財を移転できなくなった場合,顧客が負う対価の支払義務が残存する(顧客が危険を負担する)のか,消滅する(企業が危険を負担する)のかという問題があり,これを危険負担といいます。

国内取引の実情では,引渡しの時に売主(甲)から買主(乙)に危険が移転する条件がほとんどです。他方,遠隔地者間の取引(特に輸出入取引)では,契約書等で危険が移転する時点として「引渡し」を定義づけることもあります。国際取引において採用される国際商業会議所が作成したインコタームズは,定型的な取引条件として,DAP(仕向地持込渡し)やFOB(本船積込渡し),CIF(運賃・保険料込み条件)などの記号を用いて「引渡し」を定義づけ,危険負担に関する取扱いを定めています。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有するに至る時点を考慮します。2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定します。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

 

7.顧客が資産を検収した(第38項(e))

 

支配との関連性

顧客による資産の検収が予定されている契約では,検収は,顧客が自ら検査して企業が合意された仕様に従った資産を移転し,履行義務を充足したことを確認するものであり,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得したことを示す指標となり得ます(第38項(e))。

 

検収

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。

企業が顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された条件に適合しない場合は,履行義務を完全に充足せず(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)が消滅しません。),追加的に履行義務の完全な充足(代替品の給付,補修,損害賠償等)を行う強制可能な義務を負い続けます。

商法526条は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買では,顧客が受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い,目的物が契約において合意された条件に適合しない場合でも,次の期限内に企業に通知しなければ,責任追及(代替品の給付,契約の解除,代金減額又は損害賠償)ができなくなることを定めています。

● 検査によって直ちに発見することができる契約不適合(瑕疵)⇨検査後直ちに通知する
● 上記以外の契約不適合(隠れた瑕疵)⇨受領後6か月以内に通知する

この規定は,商人間の売買契約に関する任意規定ですので,取引の実情に応じ,この規定を明確化又は修正する特約をし,また,売買契約以外の契約類型でも,顧客の検査と契約不適合(瑕疵)の取扱いに関して定めることが少なくありません。

 

適用指針「顧客による検収」

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(B 83)。

a 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合(B 84)

顧客の検収は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得したかの判断に影響を与えず,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得し,企業が履行義務を充足する可能性があります。

● 企業は,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,設備の据付け)があるかどうかを考慮しなければなりません。

b 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できない場合(B 85)

企業は,顧客の検収を受けるまで,顧客が支配を獲得したと評価することができません。

c 企業が顧客に財(商品・製品)を試用又は評価の目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を確約していない場合(B 86)

顧客が財を検収するか又は試用期間が終了するまで,当該財に対する支配は顧客に移転しません。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,検収の契約条項が,顧客が財又はサービスに対する支配を獲得する時点に与える影響を考慮します。顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合は,検収の契約条項が影響を与えず,検収前に顧客が支配を獲得する可能性がありますが,企業が客観的に判断できない場合は,顧客の検収を受けるまで顧客が支配を獲得したと評価できません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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