ニュースレター

2018.12.13更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

返品権付きの販売

 

2018年12月13日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「返品権付きの販売」 目次と概要

 

1.適用指針「返品権付きの販売」の概要

 

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

企業は,返品権付きの販売では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束として,顧客に資産(商品・製品)を移転する履行義務に加え,返品権に関する約束を識別します。返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。企業が返品権付きの販売を識別したときは,返品を受け入れるために待機するサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。

企業は,顧客に資産を移転した時に,契約終了時に保持すると見込んでいる対価を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第72項)を適用し,企業が権利を得ると見込んでいる対価(返品が見込まれない資産の対価)の金額だけを収益として認識し,顧客から受け取った(又は受け取る)対価のうち企業が権利を得ると見込んでいない金額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識せず,返金負債を認識します。

適用指針「返品権付きの販売」(B 20~27)は,返品権付きの販売に関する会計処理の指針を提供しています。

 

☞返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。企業は,返品権付きの販売について,返品を受け入れるために待機するサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識し,かつ,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識したうえ,各報告期間末に返金負債・返品資産の評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

 

2.返品権付きの販売

 

● 返品権付きの販売

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

なお,返品権付き販売として会計処理する契約には,企業が顧客の一方的な意思表示により支払った対価の代償を提供する義務を負う役務提供契約(返金条件付きサービス契約)も含まれます(B 21)。

 

● 売買契約(販売)

返品権付きの販売は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。

返品権付きの販売の会計処理は,顧客が返品権を行使する前に,資産(商品・製品)の支配が顧客に移転していることが前提となります(B 20)。

顧客との契約で検収が予定されており,企業が提供した資産が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合せず,検収の完了(検査の合格)前に,顧客が当該資産を返還して代替物の提供を求める場合は,一般に当該資産の支配が顧客に移転していませんので(第38項(b),(e),B 83~86参照),返品権付きの販売として取り扱いません。

また,企業が,資産を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合に,需要者に移転するまで当該他の当事者が当該資産の支配を獲得することがないときは,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり(B 77),返品権付きの販売として取り扱いません。

 

● 返品権

返品権とは,顧客が一方的な意思表示により,企業から購入した資産を返還する代わりに,次のような代償を受ける権利をいいます(B 20)。

(a) 顧客が支払った対価の全額又は一部の返金
(b) 顧客が企業に対して支払義務を負う又は負う予定の金額に適用できる値引き
(c)別の商品・製品への交換

いったん資産(商品・製品)の支配が顧客に移転した後に,顧客が同じ種類,品質,状態及び価格の別の資産と交換すること(例えば,別の色又は大きさのものとの交換)は,本基準の目的上,返品権付きの販売として取り扱いません(B 26)。

 

● 同一機会

返品権に関する約束は,売買契約(販売)と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か,文書か口頭か)は問いません。

企業が資産(商品・製品)の支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該資産の返還を受け,その代償を提供することを事後的に約束することは,返品権付きの販売ではありません。もっとも,このようなケースでは,当初の売買契約までに,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により返品の約束が含意されていたかどうかを検討する必要があります。

 

☞返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

 

3.返品権付きの販売の識別

 

● 返品権付きの販売の識別

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)である,顧客に資産(商品・製品)を移転する履行義務を識別します。

返品権付きの販売の場合では,企業は,これに加え,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(法律上の債務)又は契約に含意されている約束として,返品権に関する約束を識別します。

返品権に関する約束は,契約書の中で返品に関する条項として明示的に定められることもありますが,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。一般的に,生鮮食料品の業界,出版業界,医薬品業界などでは,返品の取引慣行があるといわれています。返品の可能性と返品期間の長さは,業界ごとに大きく異なり,例えば,生鮮食料品の業界では,出版業界よりも返品率が低く返品期間も短いのが通常です(2010ED B 5)。業界や企業の取引慣行を考慮するときには,企業と顧客との間でその慣行に従う意思を示す事実及び状況(例えば,企業がこれまで顧客からの返品を受け入れてきた実績があるかどうか)も重要になります。

また,消費者との訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供契約・業務提供誘引販売取引(以上,特定商取引法),クレジット契約(割賦販売法),商品預託取引(特定商品預託取引法)には,クーリングオフ制度の適用があります。企業が資産を顧客に移転した後,クーリングオフ期間満了前に申込の撤回,解除がされる場合には,契約書に返品に関する条項がなくとも,返品権付きの販売として取り扱います。通信販売では,一定の要件を満たす特約がない限り法定返品権が認められますので,返品権付きの販売として取り扱います。このようなクーリングオフ制度などの法律による規制が,業界における自主規制などを促進し,返品の取引慣行を醸成する場合もあります。

 

● 返品の条件(理由)

返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産(商品・製品)を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「製品保証」(B 28~33)として会計処理しなければなりません(B 27)。

実際に顧客が返品する理由は,資産に不満があることや,資産を第三者に販売できなかったことなどさまざまで構いませんが(2010ED B 6),資産を正常に利用することができないという理由がなければ返品できない場合には,企業は,製品が合意された仕様に従っているというアシュアランス又はそれに加えて顧客にサービスを提供することになります。そこで,企業は,返品権に関する約束が,契約の観点において,顧客に資産(製品・商品)を移転する履行義務(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務)と別個なのかどうか(本基準第27項(b))を判定するため,適用指針「製品保証」に従って会計処理します。

 

☞返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「製品保証」(B 28~33)として会計処理しなければなりません。

 

4.返金負債

 

● 返品を受け入れるために待機するサービス

企業は,返品権付きの販売について,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束として,①顧客に資産(商品・製品)を移転する履行義務と,②返品権に関する約束を識別しますが,②の約束は,返品期間中に返品される資産を受け入れるために待機するサービス(便益)を顧客に提供し,①の約束と区分して識別できるため,契約の観点において別個のものであり(第27項),返品権サービスについての独立の履行義務を識別することができます(BC 363)。

仮に返品を受け入れるために待機するサービスを独立の履行義務として識別する場合には,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,当該サービスの契約開始時の独立販売価格を算定し(第76項),顧客に資産を移転する履行義務の独立販売価格との比率に基づいてそれぞれの履行義務に取引価格を配分します(第74項)。

しかし,返品権付きの販売の多くは,返品の数が全体の販売の中の小さな割合しかないと予想され,返品期間も短いので,契約開始時に返品を受け入れるために待機するサービスの独立販売価格を見積り,独立の履行義務として会計処理したとしても,それにより財務諸表利用者に提供される情報がもたらす効果は,そのような会計処理の複雑性やコストに見合いません。そこで,適用指針は,返品を受け入れるために待機するサービスを独立の履行義務として会計処理しないこととしました(B 22,BC 366)。

 

● 返金負債

企業は,実質的に不確定な(数量の)販売を行っており,返品権が消滅した時にはじめて販売の成立・不成立が確定するので,企業が最終的に返還せずに保持すると見込んでいる対価の金額に基づき収益を認識することが適切です。

そこで,適用指針は,顧客が返品権を行使した結果として不成立になると予想される販売について,企業は収益を認識すべきではなく,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識することとしました(BC 364)。

企業は,顧客に資産を移転し,履行義務を充足した時点で収益を認識しますが(第38項),適用指針は,認識すべき収益の金額(すなわち,返金負債の金額)を決定するにあたって,企業が契約終了時に保持すると見込んでいる対価を取引価格とみなして,変動対価の認識及び測定に関する原則を含むStep3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第72項)を適用しなければならないものとしました。この原則には,変動対価の見積りの制限(本基準第56項・第57項)も含まれますので,企業は,返品権に関する不確実性がその後に解消される時点で,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲内で収益を認識することになります。

これにより,企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が権利を得ると見込んでいる対価(返品が見込まれない資産の対価)の金額だけを収益として認識します。顧客から受け取った(又は受け取る)対価のうち企業が権利を得ると見込んでいない金額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,顧客から受け取った(又は受け取る)金額を返金負債として認識しなければなりません(第55項,B 23,BC 365)。

 

☞企業は,返品権付きの販売について,返品を受け入れるために待機するサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が契約終了時に保持すると見込んでいる対価を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第72項)を適用し,企業が権利を得ると見込んでいる対価(返品が見込まれない資産の対価)の金額だけを収益として認識し,顧客から受け取った(又は受け取る)対価のうち企業が権利を得ると見込んでいない金額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,返金負債を認識します。

 

5.返品権付きの販売の会計処理

 

● 収益・返金負債・返品資産

企業は,返品権付きの販売について,次の収益・返金負債・返品資産のすべてを会計処理します(B 21)。

収益

 企業は,顧客に資産(商品・製品)を移転したときは,企業が権利を得ると見込んでいる対価(返品が見込まれない資産の対価)の金額で収益を認識します。

返金負債

 企業は,対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち企業が権利を得ると見込んでいない金額(返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識し,これに対応して売上原価を修正します。

 

● 当初認識

収益

 企業は,顧客に資産(商品・製品)を移転し,履行義務を充足したときに,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第72項)を適用し,企業が権利を得ると見込んでいる対価(返品が見込まれない資産の対価)の金額を算定し,収益を認識します(B 23)。企業が認識する収益は,変動対価の見積りの制限(第56項・第57項)により,返品権が消滅する時点で,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲内に限られます(BC 365)。

返金負債

 企業は,顧客から対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち収益として認識しない金額(企業が権利を得ると見込んでいない金額=返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します(第55項,B 23)。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産(例えば,棚卸資産)の従前の帳簿価額から当該資産の回収のための予想コスト(返品された資産の企業にとっての価値の潜在的な下落を含みます。)を控除した金額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します(B 25)。 


● 事後の見直し

収益

 企業は,各報告期間末に,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第72項)を適用し,顧客に移転した資産と交換に権利を得ると見込んでいる対価の金額の評価を見直し,これに対応する取引価格(認識した収益の金額)を変更します(B 23)。

返金負債

 企業は,各報告期間末に,返金の金額に関する見込みの変動について見直し,返金負債に対応する調整を収益(又は収益の減額)として認識します(第55項,B 24)。

返品資産

 企業は,各報告期間末に,返品される資産に関する予想の変化から生じる返品資産の測定を見直します(B 25)。 


☞企業は,返品権付きの販売について,収益・返金負債・返品資産のすべてを会計処理します。企業が返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産の従前の帳簿価額から当該資産の回収のための予想コストを控除した金額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します。企業は,各報告期間末に収益・返金負債・返品資産について評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.12.03更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

顧客による検収

 

2018年12月3日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 6ページ

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「顧客による検収」 目次と概要

 

1.適用指針「顧客による検収」の概要

 

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

企業は,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(B 83)。 

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えませんので,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合があります(B 84)。 

逆に,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収を受けるまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(B 85)。 

適用指針「顧客による検収」(B 83~86)は,検収の契約条項と顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点についての指針を提供しています。 

 

☞検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。検収の契約条項は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点に影響を与える場合があります。 

 

2.検収

 

● 検収

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

検収は,商法526条1項が定める「検査」に該当します。商人間の売買では,買主(顧客)は,売主(企業)から提供を受けた目的物を遅滞なく検査し,適時に契約不適合を発見して通知しなければ,売主(企業)に対する責任追及が制限されます(商法526条2項)。 

顧客との契約では,多くの場合,検収が予定されており,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

● 契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)の内容

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」において,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。 

企業がこの義務を履行するため顧客に提供した財又はサービスは契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければならず,その条件に従っていない場合には,企業の履行は完了しません。 

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱い

法律上,企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。 

法律上,企業が合意された条件に従っていない財又はサービスを提供した場合の取扱いは,契約に定めがあればそれに従い,契約に定めがない場合には民法・商法が定める任意規定に従います。

企業は,合意された条件に従っていない財又はサービスを提供したときは,民法の任意規定に従い,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任を負います(民法562条)。また,顧客は,企業に対し,相当の期間を定めて履行の追完を催告し,その期間内に履行の追完がないときは,代金の減額を請求することができます(民法563条)。なお,顧客は,一般原則に従い,債務不履行を理由に損害の賠償(民法415条),契約の解除(民法541,542条)をすることもできます(民法564条)。 

他方,これらの企業の責任には期間制限があり,顧客は,目的物が契約に適合しないことを知ってから1年以内に企業に通知しない限り,履行の追完,代金の減額,損害の賠償を請求し,又は契約を解除することができません(民法566条)。


● 顧客の検査義務

顧客は,契約不適合を知ってから1年以内に企業に通知すれば,企業の責任を追及することができるという民法の期間制限では,企業は,責任追及される可能性を抱えたまま長期間不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,商法は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買については,顧客は,受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い(商法526条1項),検査後直ちに企業に通知しなければ,目的物が契約に適合しないことを理由に企業の責任を追及できないこととしています。また,検査によって直ちに発見することができない契約不適合(隠れた瑕疵)であっても,受領後6か月以内に企業に通知しなければ,同様に責任追及ができないこととしています(商法526条2項)。 


● 契約における検収の位置づけ

売買契約については,民法・商法に債務不履行責任の特則として,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任や期間制限に関する任意規定がありますので(民法561条~572条,商法526条),多くの場合,顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられます。請負契約,(準)委任契約その他の契約類型についても,売買契約に関するこれらの任意規定が準用されますので(民法559条),顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられる場合があります。 

商法は,顧客が目的物を受領してから「遅滞なく」検査を行うことを義務づけていますが,顧客との契約においては,これを明確化するため,目的物の納品,納入又は受領後,顧客が所定の期間内に検査結果を通知することを義務づけ,通知がないまま所定の期間を経過したときは検査に合格したものとみなす旨を定める場合も少なくありません。また,企業の不完全な履行に関する責任については,民法改正前の用語に倣い,条項中に「瑕疵」という表現を用いることも多く見受けられます。 

 

☞企業は,契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,特約がない限り,履行の追完(目的物の修補,代替物・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償の責任を負います。商法は,このような企業の責任追及の期間を制限するため,商人間の売買について,買主(顧客)に検査を義務づけていますので,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

3.検収と支配の移転

 

● 物理的占有の移転を伴わない支配の移転

商品・製品の販売では,顧客との契約において,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める場合が多く,「引渡し」により当該商品・製品の法的所有権を顧客に移転する旨の明示の合意があるか,又は黙示の合意が含まれると解釈できるため,「引渡し」の時点で,顧客が当該商品・製品の法的所有権を有していること(第38項(b))の指標を満たします。したがって,多くの場合,法的所有権(第38項(b))の指標によって,顧客が「引渡し」の時点で当該商品・製品に対する支配(当該商品・製品の使用を指図し,当該商品・製品からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力)を獲得します。 

このような契約では,企業が顧客の住所・営業所等に商品・製品の物理的占有を移転することを「納品」や「納入」などのように「引渡し」と異なる用語で表現することが少なくありません。「納品」や「納入」などの時点では,企業が当該商品・製品の物理的占有を移転したこと(第38項(c))の指標を満たしますが,一般に顧客が当該商品・製品の法的所有権を有していること(第38項(b))の指標を満たしていませんので,顧客は,当該商品・製品に対する支配を獲得していません。  

このように,検収の完了をもって「引渡し」と定める契約も,消化仕入契約・寄託品使用高払契約と同様に,短い期間ではあっても顧客が資産の物理的占有を保持しながら,企業から“支配”が顧客に移転する典型例であるといえます。 

 

● 検収と支配の移転

検収は,顧客が自ら検査して企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合した資産を移転し,履行義務を充足したことを確認する行為であり,検収の完了前は,顧客が代替物の提供を求めることができる場合もありますので,顧客が当該資産を検収したことは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有し,当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります(第38項(e))。 

 

● 検収(第38項(e))の指標の意義

商品・製品の販売では,多くの場合,検収の完了(検査の合格)をもって当該商品・製品の法的所有権が顧客に移転しますので,法的所有権(第38項(b))の指標とは別に,検収(第38項(e))の指標を考慮する必要がない場合も少なくありません。 

しかし,顧客との契約において,法的所有権の移転時期が不明確な場合や,企業が提供した資産が契約において合意された条件に適合しないときでも顧客が代替物の提供を求めることができない場合,検収の完了前に法的所有権が移転する旨の定めがある場合などでは,顧客が企業から提供を受けた資産の検収が完了していないのに,顧客が当該資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

☞検収は,顧客が自ら検査して企業が履行義務を充足したことを確認する行為であり,顧客が資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります。検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約では,一般に「引渡し」による法的所有権の移転(第38項(b))の指標とは別に検収(第38項(e))の指標を考慮する必要がありません。もっとも,顧客による検収が完了していないのに,顧客が資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

4.顧客による検収の会計処理

 

● 検収の契約条項の検討

企業は,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(B 83)。 

顧客による検収は,あくまで支配の移転の指標の一つであり,顧客による検収を予定している取引が,常に検収までは顧客が財又はサービスの支配を獲得しないものではありません。 

 

● 企業が客観的に判断できる場合(B 84)

収益の認識

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えません(B 84)。 

例えば,所定の大きさや重量に適合するかどうかのように検収の内容が客観的で比較的単純な場合には,企業は,顧客による検収の前にその適合性を判断できます。また,類似の財又はサービスに関する企業の取引実績により,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていることを客観的に示すことができる場合もあります(B 84)。 

このような場合,企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができる場合があり,その時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

 

残存履行義務の検討

企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定する場合には,本基準第73項~第86項に従って取引価格の一部を配分しなければならない残存履行義務(例えば,設備の据付け)を有しているかどうかについて,本基準第22項~第30項に従って検討しなければなりません(B 84)。 

 

● 企業が客観的に判断できない場合(B 85)

顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収を受けるまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(B 85)。 

 

● 試用販売(B 86)

企業が商品・製品を顧客に試用又は評価の目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を確約していない場合には,顧客が当該商品・製品を検収するか又は試用期間が終了するまで,当該商品・製品に対する支配は顧客に移転しません(B 86)。 

 

☞企業は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮します。契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,検収の契約条項はその時点の決定に影響を与えず,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合がありますが,企業が客観的に判断できない場合には,顧客による検収を受けるまで顧客が支配を獲得したと決定することができません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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