ニュースレター

2018.10.29更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

買戻し契約

 

2018年10月29日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「買戻し契約」 目次と概要 

 

1.適用指針「買戻し契約」の概要

 

企業は,顧客に資産を売り渡す契約(売買契約)について,契約開始時に,顧客が資産に対する支配を獲得するかどうかを判定するにあたって,買戻し契約かどうかや,企業が買い戻す義務又は権利の形態を考慮する必要があります(第34項)。 

企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)や企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負うため,当該資産に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはならず,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します(B 66)。 

他方,企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務も返還するため待機する義務も負わないため,基本的には当該資産に対する支配を獲得しています。そこで,企業は,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します(B 72,74)。 

ただし,買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等により,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,当該資産に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します(B 70,73)。 

適用指針「買戻し契約」(B 64~76)は,買戻し契約の形態によってどのように会計処理するのかの指針を提供しています。 

 

☞買戻し契約について,①企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)又は②企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合や,③企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合のうち,(a)顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得していませんので,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します。③の場合のうち,(b)顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客が資産に対する支配を獲得していますので,企業は,返品権付きの販売として会計処理します。 

 

2.買戻し契約

 

● 買戻し契約

買戻し契約とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,当該資産を買い戻す義務又は権利を有する契約をいいます(B 64)。 

買戻し契約は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該資産を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。 

 

● 売買契約

買戻し契約は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。 

 

● 反対売買の権利義務

反対売買は,顧客(元の買主)が企業(元の売主)に(実質的に)同一の資産を移転する義務を負い,企業がその代金を支払う義務を負うことをいいます。 

買戻し契約は,反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。 

したがって,当事者の選択以外の条件が付された買戻し契約を除くと,企業からみて,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態は次の3つに分類できます(B 65)。 

(a) 企業が資産を買い戻す義務(先渡取引) 

(b) 企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)

(c) 企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション) 

 

● 買い戻す資産

買い戻す資産は,①顧客に売り渡した資産そのもの,②顧客に売り渡したものと実質的に同一の資産,③顧客に売り渡した資産を構成部分とする資産があります(B 64)。③には,顧客に売り渡した資産を材料・部品として加工・組立をしたものも含まれます。 

 

● 買戻しの法形式

買戻しの法形式は,当初の売買契約と反対の売買契約(再売買)によるものと,当初の売買契約を解除するものとがあります。いずれの法形式も,期限の到来により又は当事者の意思表示(再売買の予約完結権又は解除権)により反対売買の権利義務(再売買の権利義務又は原状回復義務)を発生させることができます。 

 

● 同一機会

企業が買い戻す義務又は権利に関する約束は,当初の売買契約と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か)は問いません。 

企業が資産に対する支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該資産を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻し契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に顧客に当該資産を引き渡した時点で,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力に影響を与えません。もっとも,このようなケースでは,企業が資産の物理的占有を移転した時に顧客が当該資産に対する支配を獲得したのかどうかを検討すべきであり,本人なのか代理人なのか(B 34~38)を考慮する必要があります(BC 423)。 

 

● 買戻し契約の会計処理の目的

企業が売り渡した資産にその後も継続的に関与する場合には,顧客による当該資産の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻し契約かどうかや,企業が買い戻す義務又は権利の形態を考慮する必要があります(第34項,BC 157,422)。 

 

☞買戻し契約は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該資産を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。企業が買い戻す義務又は権利の形態は,一般的に,(a)企業が資産を買い戻す義務(先渡取引),(b)企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション),(c)企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)の3つに分類できます。 

 

3.先渡取引又はコール・オプション

 

● 買戻し契約の先渡取引

買戻し契約の先渡取引とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,一定の期限が到来したときに顧客から当該資産を買い戻す義務を負う契約をいいます(B 65(a))。 

 

● 買戻し契約のコール・オプション

買戻し契約のコール・オプションとは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,一方的な意思表示により顧客から当該資産を買い戻す権利を有する契約をいいます(B 65(b))。 

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)

先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。 

 

● 顧客が資産に対する支配を獲得するか

買戻し契約の先渡取引又はコール・オプションでは,企業が売り渡した資産を買い戻す義務又は権利を有する反面,顧客が当該資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負います。たとえ顧客が当該資産を物理的に占有しているとしても,顧客は,当該資産を使い切ったり,消費したり,売却したりできませんので,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力が制限されています。したがって,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得しません(B 66,BC 424)。 

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される条件

買戻し契約の先渡取引又はコール・オプションに,将来,発生することが不確実な事実にかかる条件(企業の選択を除きます。)が付されているときは,その条件が,顧客が資産に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,実質的に買戻し契約の形態を判定する必要があります。 

例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した資産を顧客が期限を超えて消費者に販売することを防止するため,一定の期限を経過したときに顧客から買い戻す権利を有している場合には,企業が買い戻す権利に“資産を販売されていない(売れ残った)こと”という条件が付されています。この条件は,顧客が資産を第三者に販売することを妨げないので,顧客が当該資産に対する支配を獲得しています。このような買戻し契約の形態の実質は,プット・オプションであり,返品権付きの販売と整合的に会計処理します(2011ED BC 320)。 

 

☞企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)や企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負うため,当該資産に対する支配を獲得しません。 

 

4.先渡取引又はコール・オプションの会計処理

 

● 資産の販売でないこと

企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該資産に対する支配を獲得していませんので,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはなりません(B 66,BC 424)。 

 

● 会計処理

企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして会計処理します(B 66,BC 426,432)。 

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,貨幣の時間的価値を考慮しなければなりません(B 67)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合(B 66(a))

企業が当該資産を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,IFRS第16号「リース」に従ったリースとして会計処理します。 

このような取引は,実質的に企業が顧客に資産を貸し付け,一定期間後にその返還を受け,当初の販売価格(A)と買戻価格(B)の差額(A-B)を使用権の対価として受け取る結果となるからです。 

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した資産を顧客からリースバックする契約に企業が当該資産を買い戻す義務又は権利が含まれるもの)は,融資契約として会計処理します(BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合(B 66(b))

企業が当該資産を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,融資契約として会計処理します。 

このような取引は,実質的に,企業が顧客から当初の販売価格(A)を借り入れ,買戻価格(B)を返済し,買戻価格(B)と当初の販売価格(A)の差額(B-A)を金利として支払う結果となるからです。法律上,売買の形式により信用の授受を行うもので,売渡担保と呼ばれます。 

企業は,資産を引き続き認識するとともに,顧客から受け取った当初の販売価格(A)について金融負債を認識します。企業は,顧客から受け取った当初の販売価格(A)と顧客に支払う買戻価格(B)との差額(B-A)を金利として認識します。当該差額に処理コストや保有コスト(例えば,保険)があれば,それらも認識します(B 68)。 

 

● コール・オプションの消滅

コール・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,コール・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(B 69)。 

 

☞企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該資産に対する支配を獲得していないので,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはなりません。企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します。 

 

5.プット・オプション

 

● 買戻し契約のプット・オプション

買戻し契約のプット・オプションとは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産を買い戻す義務を負う契約をいいます(B 65(c))。 

 

● プット・オプションに付される期限(期間)

プット・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。 

 

● 顧客が資産に対する支配を獲得するか

買戻し契約のプット・オプションでは,企業が資産を購入するために待機する義務を負いますが,他方で,顧客が売り戻す(企業に買い戻させる)権利を行使するかどうかは自由であり,当該資産を返還する義務も返還するために待機する義務も負いません。そのため,顧客は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有しており,プット・オプションを行使しないことを選択して,当該資産を使い切ったり,消費したり,第三者に売却したりできます。したがって,顧客は,基本的には企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得しています(BC 428)。 

しかし,顧客がプット・オプションを行使することに重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,プット・オプションを行使しないときには重大な損失を蒙る可能性が高いため,実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,オプションの存在が,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を制限することになります。逆に,企業からみれば,実質的に顧客から資産を買い戻すことを余儀なくされますので,先渡取引と類似する状況にあります。したがって,このような場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していません(BC 430)。 

 

☞企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務も返還するため待機する義務も負わないため,基本的には当該資産に対する支配を獲得しています。ただし,顧客がプット・オプションを行使することに重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客が実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,当該資産に対する支配を獲得していません。 

 

6.プット・オプションの会計処理

 

● 重大な経済的インセンティブ

企業は,買戻し契約のプット・オプションについて,企業が売り渡した資産に対して顧客が支配を獲得するかどうかを判定するため,契約開始時に,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します(B 70)。 

企業は,その判定にあたって,①買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係や②プット・オプションが消滅するまでの期間等,さまざまな要因を考慮します。例えば,買戻価格が資産の市場価値を大幅に上回ると見込まれる場合には,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していることを示す可能性があります(B 71)。他方,買戻価格が顧客に最低限の売却収入(保証最低売戻価値)を保証するにすぎない場合には,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているとはいえません(BC 431)。 

 

● 重大な経済的インセンティブを有している場合

顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客がプット・オプションを行使することが想定されており,買戻し契約の先渡取引と類似する状況にあります(BC 429)。 

そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして会計処理します(B 70,73)。 

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,貨幣の時間的価値を考慮しなければなりません(B 75)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合(B 70)

企業が当該資産を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻すことが想定されており,IFRS第16号「リース」に従ったリースとして会計処理します(B 70)。 

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した資産を顧客からリースバックする契約に企業が顧客の要求により当該資産を買い戻す義務が含まれるもの)は,融資契約として会計処理します(BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合(B 73)

企業が当該資産を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻すことが想定されており,融資契約として会計処理します(B 73)。 

 

● 重大な経済的インセンティブを有していない場合

顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得しています。 

そこで,企業は,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します(B 72,74)。 

 

● プット・オプションの消滅

プット・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,プット・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(B 76)。 

 

☞企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,企業は,買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等を考慮し,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します。顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理し,そうでない場合には,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.17更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

ライセンス供与②

 

2018年10月17日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

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「ライセンス供与②」 目次と概要

 

1.ライセンスの性質

 

ライセンスは,企業の知的財産を所有する権利ではなく,それを使用する権利です。したがって,顧客は,権利の設定を受けた一時点で,その権利を行使する(使用する)かどうかという使用を指図し,当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを得る能力,すなわちライセンスに対する支配を獲得するとみることが「支配」概念に整合します(BC 402)。 

しかし,ライセンスは,非常に多様性があり,広範囲の異なる特徴及び経済的特性によって著しい相違が生じています。例えば,企業が,顧客に対し,一定の期間,企業の商標を使用し,企業の製品を販売する権利を顧客に付与するフランチャイズの場合(IE 289),企業が保有する知的財産の形態・機能性・価値が企業の活動(例:顧客の変化する嗜好の分析や,製品の改善,販促キャンペーンなど)により継続的に変化しているので(動的である),顧客は,ライセンスが供与される一時点で存在している形態・機能性・価値での知的財産の使用を指図しても,ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを獲得することができない可能性があります。こうした場合,ライセンスは,その時々において存在している形態・機能性・価値での知的財産に対するアクセスを顧客に提供しており,アクセスの提供につれて顧客が便益を得ているとみることができます(BC 403)。 

そこで,適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します(BC 404,414D)。 

 

☞適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します。 

 

2.ライセンス供与における企業の約束の性質

 

● 企業の約束の性質と履行義務の属性

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約開始時に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型のいずれかに区別し,①の場合は一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(B 60),②の場合は一時点で充足される履行義務と判定します(B 61)。 

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利 

 ➡ 一定の期間にわたり充足される履行義務 

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利を提供する場合には,顧客は,企業の知的財産へのアクセスを提供するという企業の履行からの便益を,履行が生じるにつれて同時に受け取って消費しているとみることができます(第35項(a))。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するものとみて,その属性を一定の期間にわたり充足される履行義務であると判定します(B 60,BC 414)。

ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利 

 ➡ 一時点で充足される履行義務 

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利を提供する場合には,当該知的財産はライセンスが顧客に供与される時点で(形態と機能性の点で)存在しており,その時点で顧客がライセンスの使用を指図してライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを獲得することができます。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一時点で充足するものとみて,その属性を一時点で充足される履行義務であると判定します(B 61,BC 414)。

 

● 企業の約束の性質の判断枠組み

適用指針は,ライセンス供与における企業の約束の性質が2つの類型のいずれかに区別されることを確保するため,企業の知的財産にアクセスする権利についての要件だけを定め,当該要件に該当しない場合には,企業の知的財産を使用する権利と判定することとしています。知的財産が静的であるよりも,変化している(動的である)方が判定が容易であると考えられたからです(BC 408)。 

 

● 企業の約束の性質の判定にあたって考慮しない要因

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質の判定にあたって,以下の要因を考慮しません(B 62)。 

時期,地域又は用途の制限(B 62(a))

企業は,顧客の契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これらは顧客の権利の範囲(ライセンスの属性)であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。企業の活動が知的財産に著しく影響を与えるかどうか(B 58(a))は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかを考慮するので,ライセンスの属性を考慮しません(BC 411(a))。 

企業が知的財産に対する有効な特許を有しており,その特許を無許可の使用に対して防御するという企業が提供する保証(B 62(b))

企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業の知的財産の価値を保護し,顧客に供与したライセンスが契約で合意された仕様に従っているというアシュアランスを顧客に提供するだけで,企業が保有する知的財産を変化させる活動を行うことを約束するものではありません。そのため,これらの保証や約束は,企業が知的財産に影響を与える活動を行うことを契約が要求していること(B 58(a))には該当しません(BC 411(b))。 

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,契約開始時に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定するため,ライセンス供与における企業の約束の性質を2類型のいずれかに区別します。ライセンスの属性である顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)や,企業が有効な知的財産を有しているという保証,その侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がないため,企業の約束の性質の判定にあたって考慮しません。 

 

3.企業の知的財産にアクセスする権利

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の要件

企業は,以下のすべての要件に該当する場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別します(B 58)。 

 

(a) 顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことを,契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待している

企業の知的財産にアクセスする権利は,ライセンス期間にわたり企業の知的財産の形態・機能性・価値が継続的に変化している(動的である)ことに本質があり,顧客との契約において,企業の知的財産を変化させる活動を企業が行うことを契約が要求しているか,又は顧客が合理的に期待している場合であるといえます。企業の知的財産を変化させる活動は,顧客に財又はサービスを直接に移転しない(履行義務を充足しない)活動であり,企業の継続的な通常の活動や商慣行の一部として行われる場合もあります(BC 409)。 

 

顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動

企業の活動が知的財産を変化させるかどうかは,知的財産が顧客に便益を提供する能力に著しく影響を与えるのかどうかを基礎として判定します。知的財産が顧客に便益を提供する能力は,知的財産の形態又は機能性から得られる場合もあれば,知的財産の価値から得られる場合もあります(BC 414G)。 

ここでいう著しく影響を与える対象は,企業が保有する知的財産そのものであって,それに設定した顧客の権利(ライセンス)ではありません。顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)は,ライセンスの属性であり,知的財産そのものが変化しているかどうかに関係がありません(B 62(a))。 

適用指針は,企業の活動が次のいずれかの場合には,顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与えることを明確にしています(B 59A)。 

ⅰ) 当該活動が,知的財産の形態(例えば,デザイン若しくはコンテンツ)又は機能性(例えば,機能若しくはタスクを行う能力)を著しく変化させると見込まれる(B 59A(a)) 

顧客が権利を有する知的財産の形態又は機能性が著しく変化すれば,顧客が知的財産から便益を得る能力が著しく変化すると考えられます(BC 414G)。他方で,ソフトウェア,生物学的化合物・薬物の製法及び完成したメディア・コンテンツ(例えば,フィルム,テレビ番組及び音楽録音)など,知的財産が重大な独立した機能性を有する場合には,当該知的財産の便益の相当部分が当該機能性から得られるので,企業の活動が形態又は機能性を著しく変化させない限り,顧客が当該知的財産から便益を得る能力に大きな影響を与えません(BC 414H)。 

ⅱ) 顧客が知的財産から便益を得る能力が,実質的に当該活動から得られるか又は当該活動に依存している(B 59A(b)) 

例えば,ブランドからの便益は,当該知的財産の価値を補強又は維持する企業の継続的活動から得られるか又はそれに依存していることが少なくありません。このように,顧客が知的財産から便益を得る能力がライセンスを供与した後の企業の活動から実質的に得られるか又は当該活動に依存している場合には,当該活動によって必ずしも知的財産の形態又は機能性が著しく変化しなくとも,当該活動は,顧客が知的財産から便益を獲得する能力に著しく影響を与えると考えられます(BC 414G)。 

 

契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待している

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことを契約が要求しているかどうかは,顧客との契約において企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務を考慮して判定します。企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産を変化させる活動を企業が行うことを約束するものではなく,これには該当しません(B 62(b))。 

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことを顧客が合理的に期待できることを示す要因として,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明などがあります。また,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での経済的利益の共有(共有された経済的利害)の存在もその要因となる可能性があります(B 59)。売上高ベースのロイヤルティの存在は,ライセンス供与における企業の約束の性質を決定づける要件ではありませんが,顧客が権利を有する知的財産についての企業と顧客との間での共有された経済的利害を示します(BC 413)。 

 

(b) ライセンスによって供与される権利により,(a)で識別された企業の活動の正又は負の影響に顧客が直接的に晒される

企業の知的財産が正又は負の著しい影響を受けたことにより,当該知的財産に設定した顧客の権利にも直接的にその影響が及ぶものでなければなりません。知的財産の変化が顧客の権利にも直接的に影響が及ぶ場合に,顧客がライセンス期間全体を通じて直近の形態・機能性・価値での知的財産を使用しているといえます(BC 409)。 

 

(c) そうした活動の結果,当該活動が生じるにつれて顧客に財又はサービスが移転することがない

顧客が権利を有する知的財産に影響を与える企業の活動には,顧客との契約に含まれる他の独立した約束(履行義務)を充足する活動を除外します。そのような活動が生じるにつれて顧客に移転する財又はサービスは,ライセンスとは独立の別個の財又はサービスであり,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(BC 410)。 

例えば,ソフトウェア・ライセンスを供与する約束を含む契約において,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により顧客のソフトウェアをアップデートするサービスを提供する約束が含意される場合がありますが(BC 87),ソフトウェアをアップデートするサービスは,ライセンスとは別個のものとして識別するため,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません。したがって,ソフトウェアをアップデートする企業の活動は,(a)の要件に該当する企業の活動ではなく,その活動によって顧客の権利に直接的な影響が及ぶとしても(b)の要件を充足しません。このようなソフトウェア・ライセンスは,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利です(BC 410)。

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の会計処理

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別する場合には,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します(B 60)。 

 

☞企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質について,(a)顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことを,契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待していること,(b)ライセンスによって供与される権利により,(a)で識別された企業の活動の正又は負の影響に顧客が直接的に晒されること,(c)そうした活動の結果,当該活動が生じるにつれて顧客に財又はサービスが移転することがないことのすべての要件に該当する場合には,企業の知的財産にアクセスする権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。 

 

4.企業の知的財産を使用する権利

 

企業は,企業の知的財産にアクセスする権利の要件(B 58)のすべてに該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します(B 61)。 

企業は,収益を一時点で認識するため,本基準第38項を適用し,ライセンスに対する支配が顧客に移転する時点を決定します(B 61)。 

この場合,顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を得ることができる期間の開始前に収益を認識することはできません。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業がソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用可能にするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません(B 61,BC 414)。 

 

☞企業は,企業の知的財産にアクセスする権利のすべての要件に該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業は,ソフトウェアの使用に必要なコードを企業が顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用可能にするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません。 

 

5.売上高又は使用量ベースのロイヤルティ

 

● 売上高又は使用量ベースのロイヤルティ

売上高又は使用量ベースのロイヤルティとは,顧客が契約において知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価をいい,変動対価に該当します。 

 

● ロイヤルティ制限の目的

企業は,別段の定め(ロイヤルティ制限)がない場合,売上高又は使用量ベースのロイヤルティを変動対価として識別し,一般的な変動対価として,本基準第50項~第59項に従い,以下のとおり取引価格を算定し,収益を認識することとなります。 

まず,企業は,通常は期待値により,顧客の将来にわたる売上高又は使用量を予測し,予測された売上高又は使用量から算定されるロイヤルティの額を確率で加重平均した金額として変動対価を適切に見積ります(第53項)。 

次に,企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される(顧客のその後の売上高又は使用量の実績が生じる)際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲で,将来にわたる最小限のロイヤルティの合計額を取引価格に含め,収益を認識することとなります(第56項)。 

しかし,このような会計処理によると,特に契約の存続期間が長期間にわたる場合,契約開始時に認識した収益の金額について多額の修正を繰り返すことになり,財務諸表の利用者に目的適合性のある情報をもたらしません(BC 219,415)。 

そこで,適用指針は,売上高又は使用量ベースのロイヤルティについては,それが配分されている履行義務が充足されるだけでなく,変動対価に関する不確実性が解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)まで変動性のある金額の収益を認識してはならないこととしました(BC 415,421I)。 

 

● 要件

企業は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価(売上高又は使用量ベースのロイヤルティ)が,知的財産のライセンスのみに関連している場合又は知的財産のライセンスが当該対価の関連する支配的な項目である場合にロイヤルティ制限を適用します(B 63A)。 

例えば,企業が,当該対価が関連する他の財又はサービスよりもライセンスの方に顧客が著しく大きな価値を置くであろうという合理的に予想している場合には,知的財産のライセンスが当該対価の関連する支配的な項目である可能性があります。 

 

● 収益の認識(ロイヤルティ制限)

企業は,次の(a)又は(b)の事象のいずれか遅い方が発生する時点でのみ(又は発生するにつれて),顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価に係る収益を認識しなければなりません(B 63)。 

(a) その後の売上高又は使用量の実績が生じる

(b) 顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価が配分されている履行義務が充足(又は部分的に充足)されている

 

● ライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価

上記要件を満たす場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体についてロイヤルティ制限を適用します。逆に,上記要件を満たさない場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体を一般的な変動対価として取り扱い,本基準第50項~第59項を適用します(B 63B)。 

企業は,顧客が知的財産のラインセンスと交換に約束した変動対価は,その中にライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価が含まれるとしても,対価を分割することなく,その全体にロイヤルティ制限を適用するか,又はその全体を一般的な変動対価として取り扱うかのいずれかで会計処理します(BC 412J)。 

 

☞企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量ベースのロイヤルティに,知的財産のライセンスのみが,又は知的財産のライセンスが支配的な項目として関連している場合には,①その後の売上高又は使用量の実績が生じること,②ロイヤルティが配分されている履行義務が充足(又は部分的に充足)されていることのいずれか遅い方が発生するまで収益を認識してはなりません(ロイヤルティ制限)。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

ライセンス供与①

 

2018年10月7日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「ライセンス供与①」 目次と概要

 

 

1.適用指針「ライセンス供与」の概要

 

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(B 52),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,①ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別し,②ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し(B 54),逆に,別個のものである場合には,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約開始時に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し(B 56),①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します(B 60,61)。

また,企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量ベースのロイヤルティについては,その後の売上高又は使用量の実績が生じるまで収益を認識できません(B 63)。

適用指針「ライセンス供与」(B 52~63B)は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別するかどうかや,識別した履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)をどのように判定するか,売上高又は使用量ベースのロイヤルティについての指針を提供しています。

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を,①ライセンスを目的とする契約では常に,②ライセンスを含む契約では契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものである場合に独立した履行義務として識別したうえ,企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します。

 

2.ライセンス供与

 

● ライセンス供与

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(B 52),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。 

 

● 知的財産

知的財産とは,特許,著作,意匠,商標,ノウハウ(営業秘密その他技術上又は営業上の情報)などの無体物としての財産であり,将来的にも広がる可能性があります。 

知的財産は,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。 

適用指針は,ライセンスを供与する知的財産の例として,(a)ソフトウェア及び技術,(b)動画,音楽及び他の形態のメディア・エンターテインメント,(c)フランチャイズ,(d)特許権,商標権及び著作権を挙げています(B 52)。 

 

● ライセンス

ライセンスは,企業の知的財産を一定の範囲で利用する顧客の権利です。ライセンスの本質は,知的財産を保有する企業が,顧客に対し,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,その反面として,顧客は,企業の知的財産を一定の範囲で利用する権利を取得します。企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これをライセンスの属性と呼びます(B 62(a))。 

ライセンスは,顧客の権利であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。ライセンスの属性は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がありません(B 62(a)参照)。 

 

☞知的財産は,特許,著作,意匠,商標,ノウハウなどの無体物としての財産であり,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。ライセンスは,企業の知的財産に対する顧客の権利であり,企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間,地域,用途等)を定めます。 

 

3.ライセンスの本質

 

ライセンスの本質は,知的財産の保有者(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。 

ライセンスは,この本質に関連し,以下の2つに分類されます。

法律上の禁止権を解除するライセンス

企業が保有する知的財産が,特許権,著作権,意匠権,商標権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように,法律上,第三者に対して一定の知的財産の利用を禁止する(侵害行為を差し止める)ことができる場合,ライセンスの本質は,契約により,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用に対する禁止権(侵害行為差止請求権)を行使してはならない義務を負うことにあります。 

特許権,意匠権,商標権のように登録型の知的財産は,一般にこのライセンスに分類されますが,著作権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように非登録型の知的財産は,法律上の禁止権が存在するかどうかが不確実であるため,この類型と次の類型の両方の性質を有することも少なくありません。 

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

企業が保有する知的財産が,法律上,第三者に対し,一定の知的財産の利用を禁止することができないものの,保有者から許諾を受けなければ,事実上利用ができない場合,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用を事実上可能にし,契約により顧客にそれ以外の利用や第三者への提供をしてはならない義務を負わせることにあります。

例えば,著作権法は,プログラムの著作物を本来の用法に従って使用(起動,操作等)することや第三者に提供することを禁止していないため,企業は,ソフトウェア使用許諾契約で,顧客にプログラム著作物を引き渡してその使用を事実上可能にするとともに,それ以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしにプログラム著作物を利用できない事実状態を作り上げています。 

 

☞ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,法律上の禁止権を解除するライセンスと事実上の禁止状態を作り出すライセンスに分類されます。 

 

4.ライセンスを供与する約束の識別

 

● ライセンスを供与する約束

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束として,ライセンスを供与する約束を識別します。 

ライセンスを供与する約束は,契約書では,一般に,企業が,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲(期間,地域,用途等)で利用することを“許諾する”という表現を用います。この許諾がライセンスを供与することを意味しており,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。企業は,この義務を負うことによって,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲で利用できるようにするサービスを提供します。 

ライセンスを目的とする契約(ライセンス契約)

企業(ライセンサー)が一定の知的財産の利用を顧客(ライセンシー)に許諾し,顧客がその対価(ライセンス料)を支払うことを約する契約(ライセンス契約)は,ライセンスを目的とする契約であり,ライセンスを供与する約束は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務に位置づけられます。フランチャイズ契約も,多くの場合,企業(フランチャイザー=本部)が特許権やノウハウ(営業秘密),商標権などの知的財産の利用を顧客(フランチャイジー=加盟店)に許諾し,顧客がその対価(加盟金,ロイヤルティ)を支払うので,ライセンス契約に該当します。 

ライセンスを含む契約

ライセンスでない他の財又はサービスを契約の目的とする売買契約や(準)委任契約(委託契約),請負契約がライセンスを供与する約束を含む場合があります。ライセンスを含む契約では,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を識別します。ライセンスを供与する約束は,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務に位置づけられ,ライセンスが契約の目的とされた財又はサービスと別個のものかどうかを識別する必要があります。 

 

● 顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスの提供

企業は,顧客に対し,ライセンスを供与するとともに,許諾した一定の知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスを提供することも約束する場合があります。 

企業は,このような財又はサービスを提供する約束が,ライセンスを供与する約束と区分して識別可能か(契約の観点において別個のものか)について(第27項(b)),ライセンスの本質を考慮します。 

法律上の禁止権を解除するライセンス

法律上の禁止権を解除するライセンスでは,顧客が,企業に無断で知的財産を事実上利用すれば,企業から禁止権(侵害行為差止請求権)を行使されるため,ライセンスを供与する約束は,その行使をしないようあらかじめ企業から許諾を受けることを意味し,その許諾(不作為)だけがライセンスの本質に関わる約束です。 

したがって,企業が顧客による一定の知的財産の利用を事実上容易にするための財又はサービスを顧客に移転することは,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別する場合があります。例えば,企業が商品の製造・販売の方法に関する特許やノウハウ(営業秘密)のライセンスを供与するにあたって,公開されている特許情報や開示したノウハウ(マニュアル)とは別に,顧客の従業員を実技形式で指導支援することを約束するときは,多くの場合,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別します。 

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

事実上の禁止状態を作り出すライセンスでは,顧客は,一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為がない限り,その知的財産を事実上も利用できないため,ライセンスを供与する約束は,企業からその行為(作為)を伴う許諾を受けることを意味します。他方で,企業が,顧客に対し,許諾した一定の範囲以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしに知的財産を利用できない事実状態を作り上げるので,この禁止(拘束)に関する顧客の義務も,ライセンスの本質に関わる不可分な約束です。 

顧客による一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為には,例えば,動画・音楽・プログラム等を保存した記憶媒体(メディア)の引渡し,ソフトウェアの使用やオンライン・サービスへのアクセスに必要なコード(ユーザID・パスワード等)の提供などがあります。これらの財又はサービスは,ライセンスの供与とは別個のものとなり得るとしても(第27項(a)の要件を満たす),多くの場合,当該財又はサービスの移転なしに知的財産を事実上利用できないので,当該財又はサービスを移転する約束は,ラインセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第27項(b)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。

 

● 独占的なラインセンスの供与

ライセンスを供与する契約条項では,“独占的な”又は“非独占的な”権利を許諾するという表現が用いられることが少なくありません。ライセンス契約に独特の慣行的な表現であり,一般的には,次のように解釈します。 

独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占するという意味合いであり,企業(ライセンサー)は,顧客に対し,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を負います。  

独占的な権利のライセンスでは,ライセンスを供与する約束のほか,顧客に許諾した一定知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を,契約における約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務)として識別することができます。

このような追加的な約束は,顧客が購入したライセンスに独占性を付与して経済的価値を高めるものであり,顧客が追加的な約束のみを購入し,ライセンス自体を購入しないことを決定することはできません。したがって,このような追加的な約束は,ライセンスへの依存性や相互関連性が高く(第29項(c)),多くの場合,ライセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第27項(b)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。 

非独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占しないという意味合いであり,企業は,顧客にライセンスを供与すること以外に追加的な拘束を受けないので,当該顧客以外の第三者に対しても,同一の知的財産につき当該顧客に許諾した範囲の利用を重ねて許諾して,当該第三者からもライセンスの対価を受け取ることができます。 

 

● 契約に含意されている約束

フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレード(BC 87),フランチャイザーが行う新製品・メニューの投入,販促キャンペーンなど,契約条項に定められた企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務とはいえなくとも,企業が顧客と契約を締結する時までに生じた企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します(第24項)。 

 

☞顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするために財又はサービスを顧客に移転することは,多くの場合,法律上の禁止権を解除するライセンスでは別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別しますが,事実上の禁止状態を作り出すラインセンスではライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。企業は,独占的な権利のライセンスでは,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾しないことを追加的に約束しますが,多くの場合,ラインセンスへの依存性や相互関連性が高いため,ライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,ソフトウェアのアップグレードやフランチャイザーの活動について契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。 

 

5.ライセンス供与と履行義務の識別

 

● ライセンスを目的とする契約

企業は,ライセンスを目的とする契約では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務としてライセンスを供与する約束を識別し,独立した履行義務として識別します。 

 

● ライセンスを含む契約

企業は,ライセンスを含む契約では,他の種類の契約と同様に,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,本基準第22項~第30項を適用して履行義務を識別します(B 53)。 

企業は,まず,契約における約束として,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を識別し,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務としてライセンスを供与する約束を識別します。 

次に,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務として識別し(B 54),逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。 

例えば,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものではないライセンスの例として,次のようなものがあります(B 54)。 

有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるライセンス

ソフトウェアが有形の財(例えば,自動車)の構成部分となっていて,その財がどのように機能するかに大きく影響を与える場合など,ライセンスが有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるときは,当該ライセンスは,有形の財に統合されており,アウトプットである当該財を製造するためのインプットにすぎません(第29項(a))。 

関連するサービスとの組合せでのみ顧客が便益を得ることのできるライセンス

例えば,企業の主幹設備(システムなど)にオンラインのアクセスによってのみ顧客がソフトウェアを使用することを可能にするサービス(ホスティング又はストレージのサービスなど)では,ライセンスの使用は,オンライン・サービスへの依存性又は相互関連性が高く(第29項(c)),顧客は,ライセンスに対する支配を獲得していません。 

 

☞企業は,ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し,逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。 

 

6.ライセンス供与と履行義務の属性の判定

 

● 独立した履行義務であるライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約開始時に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定しますが,その判定にあたって,ライセンス供与における企業の約束の性質を次の2類型に区別します(B 56)。 

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利
ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

 

● 独立した履行義務でないライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束が別個のものでなく,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務(ライセンスの供与を含みます。)について,契約開始時に,本基準第31項~第38項を適用して,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します(B 55)。 

 

☞企業がライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利又は企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します。他方,企業がライセンスを供与する約束を契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務としてその属性を判定します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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