法律会計フォーラム

2018.12.25更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

有償支給取引

 

2018年12月25日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「有償支給取引」 目次と概要 

 

1.有償支給取引

 

● 有償支給取引

有償支給取引とは,企業が対価と交換に原材料等(以下「支給品」といいます。)を外部(以下「支給先」といいます。)に譲渡し,支給先における加工後,当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含みます。)を購入する一連の取引をいいます(指針104)。

我が国製造業で行われている有償支給取引は,製品製造過程の一部を支給先に委託したものとみられる経済的実態を備えている場合が少なくありません。企業が支給先に支給品を供給する目的は,支給先から調達する加工後の支給品の品質を維持・管理することにあります。また,企業が支給品を対価と交換に供給する目的は,必ずしも企業が支給品の全量を無条件で買い戻さないことを前提とした経済的な合理化や生産体制の最適化にあり,支給先から支給品を担保として資金提供を受けることではなく,取引の実態は金融取引ではありません。

● 有償支給取引の会計処理の問題点

有償支給取引の会計処理については,次の2点が問題となります。

企業が当初の支給品の譲渡時に収益を認識するかどうか

 企業が,当初の支給品の譲渡時に収益を認識した後に,支給先によって加工された製品を買い戻して顧客に最終製品を販売するときにも収益を認識することが適切かどうかという問題があります。当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,結果的には企業と支給先との間で支給品を往復し,多くの場合,当初の譲渡対価と買戻対価を相殺処理しています。もし,この契約から生じる収益を認識すると,収益を人為的に水増しするために経済的実質のない契約が財務報告に悪用されるおそれがあります。

 そこで,適用指針は,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上することは適切ではないとしています(指針179)。

企業が当初の支給品の譲渡時に支給品(棚卸資産)の消滅を認識するかどうか

 有償支給取引では,企業が譲渡した支給品にその後も継続的に関与しており,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮し,支給品に対する支配が支給先に移転しているかどうかを判定する必要があります(指針8)。

 有償支給取引では,一般に,支給先の意思に基づく行為(加工)が完了しない限り,企業が支給品を買い戻さないので,当初の支給品の譲渡時では企業が未だ買い戻す義務を負っていない(買戻契約ではない)事後の再売買であるか,又は企業が買い戻す義務を負っていても,加工の完了その他の条件が付されたプット・オプションに近いものであるといえます。

 そこで,企業は,有償支給取引について,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断し,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。

 

☞有償支給取引とは,企業が対価と交換に原材料等(支給品)を外部(支給先)に譲渡し,支給先における加工後,当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含みます。)を購入する一連の取引をいいます。有償支給取引の会計処理は,①企業が当初の支給品の譲渡時に収益を認識するかどうか,②企業が当初の支給品の譲渡時に支給品(棚卸資産)の消滅を認識するかどうかの2点が問題となります。

 

2.有償支給取引と買戻契約

 

● 買戻契約

企業が譲渡した支給品にその後も継続的に関与する有償支給取引については,支給先による当該支給品の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮する必要があります(指針8)。

買戻契約は,①企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(①売買契約)

 有償支給取引は,企業(売主)が支給品の財産権を支給先(買主)に移転することを約し,支給先がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としますので,①の要素があります。

企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(②反対売買の権利義務)

 有償支給取引において企業が支給先から購入する加工後の支給品は,一般に,当初において販売した支給品を構成部分としており,企業がそのような支給品を買い戻す義務又は権利を約束する場合も②の要素を満たします(指針153)。

買戻契約は,②の要素に関する反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。 

適用指針「買戻契約」は,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約を除き,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態を以下の3つに分類し(指針153),その処理を定めています。

(1) 企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)

(2) 企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)

 ➝ (1)又は(2)では,企業はリース取引又は金融取引として処理し(指針69),商品又は製品を引き続き認識し,顧客から受け取った対価について金融負債を認識します(指針70)。

(3) 企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)

 ➝ (3)では,企業は,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,(1)又は(2)と同様の処理をしますが(指針72,73),顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していない場合には,返品権付きの販売として処理します(指針72,73)。

 以上に対し,適用指針「買戻契約」は,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約については,直接にはその処理を定めていませんので,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれかの買戻契約の形態に整合的な処理をします。

 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」でも,例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した商品又は製品を一定の期限を超えて消費者に販売することを防止するために顧客から買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合において,直ちに融資契約として処理するのではなく,企業が買い戻す権利に条件(顧客が商品又は製品を第三者に販売せずに保有していること)が付されている実質を考慮し,プット・オプションとして返品権付きの販売と整合的に処理するものとしています(IFRS/2011ED BC 320)。

②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)

 有償支給取引では,企業が必ずしも当初の支給品の譲渡と同一の機会に,企業が当該支給品を買い戻す義務又は権利に関する約束をしているとは限りません。企業が支給品に対する支配を支給先に移転した後に,支給先との間で当該支給品を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に支給先に当該支給品を引き渡した時点で,支給先が当該支給品の使用を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません(IFRS/BC 423)。もっとも,このようなケースでは,当初の支給品の譲渡時に,企業が当該支給品を買い戻す義務又は権利に関して,契約書の中で明示的に定められていなくとも,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意されていないかどうかを考慮する必要があります。

 

● 有償支給取引と買戻契約

有償支給取引は,一般に,企業が将来の一定の期限で支給品の全量を無条件で買い戻すのではなく,支給先が加工を完了してはじめてそれを買い戻します。企業から支給先へ支給品が譲渡された後の取引や契約の形態はさまざまであり(指針177),当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す権利又は義務を約束しているとは限らず,企業が買い戻す権利又は義務を約束する場合であっても,支給先が加工を完了することが条件とされており,将来,発生することが不確実な事実にかかっています。支給先が加工を完了するだけでなく,加工後の支給品が契約において合意された条件(品質・性能・仕様等)に適合することなどの条件も付されている場合が少なくありません。

したがって,有償支給取引は,まず,買戻契約かどうかを判定し(指針177),買戻契約の場合であっても,一般に,条件が付された先渡取引,又は当事者の選択(意思表示)以外の条件が付されたコール・オプションやプット・オプションに該当しますので,直ちに,買戻契約の先渡取引又はコール・オプション(指針69)やプット・オプション(指針72,73)に従った処理をするのではなく,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれの買戻契約の形態に整合的な処理をするべきかを判定する必要があります。

 

☞有償支給取引では,当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す義務又は権利を約束しているとは限らず,企業が約束している場合であっても,支給先が加工を完了することが条件とされています。企業は,まず,買戻契約かどうかを判定し,買戻契約の場合には買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれの買戻契約の形態に整合的な処理をするべきかを判定する必要があります。

 

3.有償支給取引における買戻契約の識別

 

● 買戻契約の識別

企業は,有償支給取引について,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断します(指針104,178)。

有償支給取引において,支給先によって加工された製品の全量を買い戻すことを当初の支給品の譲渡時に約束している場合には,企業は当該支給品を買い戻す義務を負っていると考えられますが,その他の場合には,企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かの判断を取引の実態に応じて行う必要があります(指針178)。

企業が支給品を買い戻す義務は,契約書の中で明示的に定められることもありますが,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。取引慣行を考慮するときには,企業と顧客との間の継続的取引関係でその慣行に従う意思を示す事実及び状況(例えば,企業がこれまで支給品を買い戻してきた実績があるかどうか)も重要になります。

有償支給取引では,当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す権利又は義務を約束しているとは限りません。例えば,単に企業から支給した支給品を加工したものであれば,企業が買い戻す場合があるだけで,支給先が要求しても買い戻すとは限らないこともあります。

当初の支給品の譲渡時に企業が買い戻す権利又は義務を約束していない場合には,事後に支給先によって加工された製品を買い戻したとしても,事後に再売買を約束しただけであり,買戻契約ではありません。このような場合には,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得しており,事後の再売買の約束は,支給先が当該支給品の使用を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません。

支給先の要求があっても,企業が無条件で支給品の買い戻しを拒否することができるなど,企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合には,一般には,買戻契約ではなく,支給先が支給品に対する支配を獲得します。ただし,企業が一方的な意思表示により支給先から支給品を買い戻す権利を有する場合は,買戻契約のコール・オプションに該当する可能性がありますので(指針153(2)),この場合には,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。

 

● 買戻条件の実質

企業は,有償支給取引について,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,その条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討します。

企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合でも,支給先の意思に基づく行為(加工)の完了が条件とされており,条件が付された先渡取引とみることもできますが,条件が付されたプット・オプションに近いものといえます。後者の場合は,支給先が企業に対して支給品の買い戻しを求める(すなわち,プット・オプションを行使する)ことを余儀なくされるかどうか(重要な経済的インセンティブを有しているかどうかに限りません。)が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに影響を与えます。

そこで,企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうかを考慮する必要があります。

企業が支給品を買い戻す義務の条件は,契約書の中で明示的に定められることもありますが,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうかは,支給先の契約上の義務だけでなく,企業と支給先との間の継続的取引関係における取引慣行,企業がこれまで支給品を買い戻してきた実績(割合)なども考慮します。支給先にとって(当該契約限りの)重要な経済的インセンティブを有している場合に限らず,(継続的取引関係において)支給先が事実上支給品を売り戻すことを余儀なくされる場合も含みます。

 

☞企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断し,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,その条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討します。

 

4.有償支給取引における会計処理

 

● 概要

企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に収益を認識せず,代わりに,支給品を買い戻したときにその買戻対価に含まれる材料費相当額(になることが確定していない仮勘定)として有償支給取引に係る負債を認識します。

また,企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するどうかを判定し,支給先が支配を獲得する場合は支給品(棚卸資産)の消滅を認識し,支給先が支配を獲得しない場合には引き続き支給品(棚卸資産)を認識します。企業は,有償支給取引が買戻契約かどうかを識別し,買戻契約の場合には,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。

なお,適用指針は,支給先が支給品に対する支配を獲得しない場合でも,個別財務諸表については,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識する処理を容認しています(指針104)。

 

● 支給先が支給品に対する支配を獲得する場合

買戻契約ではない場合(事後の再売買の場合)

 当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合は,買戻契約ではありませんので,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得しています。したがって,企業は,当該支給品(棚卸資産)の消滅を認識します(指針104)。

 他方,企業が事後に支給先によって加工された製品を買い戻して顧客に最終製品を販売するときに,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益を二重に計上することは適切ではないと考えられます(指針179)。当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,契約の経済的実質(すなわち,契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれるかどうか)がないにもかかわらず,収益を人為的に水増しするために財務報告に悪用されるおそれがあるからです(第19項(4)参照)。したがって,企業は,当該支給品の譲渡に係る収益を認識してはなりません(指針104)。

 現金対価が少額又は皆無の非貨幣性交換は,複数の企業が収益を人為的に水増しするために相互に財又はサービスの往復を行うなど過去に財務報告における悪用が見られた領域ですが,本基準は,必ずしも非貨幣性交換に限らず,“契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれる”という経済的実質がない契約は,本基準の適用対象となる顧客との契約として取り扱わないこととしています(第19項(4),IFRS/BC 41)。有償支給取引についても,当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,結果的には企業と支給先との間で支給品を往復し,多くの場合,当初の譲渡対価と買戻対価を相殺処理しています。もし,この契約から生じる収益を認識すると,収益を人為的に水増しするために経済的実質のない契約が財務報告に悪用されるおそれがあるので,当初の支給品の譲渡対価につき収益を認識してはならないものとしています。 

支給先が支給品に対する支配を獲得する買戻契約の場合

 企業が一定の条件で支給品を買い戻す義務を負っているが,企業と支給先との間の契約条件や継続的取引関係において,支給先が当該支給品を売り戻すことなく,支給品の消費・処分,第三者への売却ができる場合には,支給先が支給品を売り戻す(企業に買い戻させる)権利(プット・オプション)を有する買戻契約(指針153(3))に類似し,支給先が支給品の使用を指図する能力や支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しており,支給品に対する支配を獲得しています。

 このような有償支給取引は,返品権付きの販売と整合的に処理すべきですが,企業が支給品の移転と交換に権利を得ると見込む(買戻しが見込まれない)対価があるとしても,“買戻契約でない場合(事後の再売買の場合)”と同様に収益を認識することは適切でないと考えられます。したがって,“買戻契約でない場合(事後の再売買の場合)”と同じ処理(仕訳)になり,返金負債及び返品資産に代えて有償支給取引に係る負債・資産を認識し,支給品を買い戻さないことが確定したときに,プット・オプションの消滅時の処理と同様に,有償支給取引に係る負債の消滅を認識し,収益を認識することになると考えられます。

 

● 支給先が支給品に対する支配を獲得しない買戻契約の場合

 企業が一定の条件で支給品を買い戻す義務を負っているが,企業と支給先との間の契約条件や継続的取引関係において,支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされる場合には,先渡取引(指針153(1))に類似し,支給先は支給品の使用を指図する能力や支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されており,支給品に対する支配を獲得しません(指針180)。したがって,企業は,当該支給品(棚卸資産)の消滅を認識しません(指針104)。

 このような有償支給取引は,金融取引と整合的に処理すべきであり(指針180),企業は,支給品の譲渡に係る収益を認識してはなりません(指針104)。

 しかし,譲渡された支給品は,物理的には支給先において在庫管理が行われているため,企業による在庫管理に関して実務上の困難さがある点が指摘されています。これを踏まえ,適用指針は,個別財務諸表においては,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができることとしています。なお,その場合でも,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上されることを避けるために,当該支給品の譲渡に係る収益は認識しないこととしています(指針104,181)。 


☞企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に収益を認識せず,代わりに,支給品を買い戻したときにその買戻対価に含まれる材料費相当額(になることが確定していない仮勘定)として有償支給取引に係る負債を認識します。企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するどうかを判定し,支給先が支配を獲得する場合は支給品(棚卸資産)の消滅を認識し,支給先が支配を獲得しない場合には引き続き支給品(棚卸資産)を認識します。なお,適用指針は,支給先が支給品に対する支配を獲得しない場合でも,個別財務諸表については,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識する処理を容認しています。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.12.19更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

返品権付きの販売

 

2018年12月19日 弁護士・公認会計士 片山智裕

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「返品権付きの販売」 目次と概要 

 

1.適用指針「返品権付きの販売」の概要

 

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

企業は,返品権付きの販売では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務に加え,返品権に関する約束を識別します。返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。企業が返品権付きの販売を識別したときは,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。

企業は,顧客に資産を移転した時に,契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識し,顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識せず,返金負債を認識します。

適用指針「返品権付きの販売」(指針84~89)は,返品権付きの販売に関する会計処理の指針を提供しています。

 

☞返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。企業は,返品権付きの販売について,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識し,かつ,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識したうえ,各決算日に返金負債・返品資産の評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

 

2.返品権付きの販売

 

● 返品権付きの販売

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

なお,返品権付き販売として処理する契約には,企業が顧客の一方的な意思表示により支払った対価の代償を提供する義務を負う役務提供契約(返金条件付きサービス契約)も含まれます(指針85)。

 

● 売買契約(販売)

返品権付きの販売は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。

返品権付きの販売の処理は,顧客が返品権を行使する前に,資産(商品又は製品)の支配が顧客に移転していることが前提となります(指針84)。

顧客との契約で検収が予定されており,企業が提供した資産が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合せず,検収の完了(検査の合格)前に,顧客が当該資産を返還して代替物の提供を求める場合は,一般に当該資産の支配が顧客に移転していませんので(第40項(2),(5),指針80~83参照),返品権付きの販売として取り扱いません。

また,企業が,資産を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合に,需要者に移転するまで当該他の当事者が当該資産の支配を獲得することがないときは,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり(指針75),返品権付きの販売として取り扱いません。

 

● 返品権

返品権とは,顧客が一方的な意思表示により,企業から購入した資産を返還する代わりに,次のような代償を受ける権利をいいます(指針84)。

(1) 顧客が支払った対価の全額又は一部の返金
(2) 顧客が企業に対して支払義務を負う又は負う予定の金額に適用できる値引き
(3) 別の商品又は製品への交換

いったん資産(商品又は製品)の支配が顧客に移転した後に,顧客が同じ種類,品質,状態及び価格の別の資産と交換すること(例えば,別の色又は大きさのものとの交換)は,本基準の目的上,返品権付きの販売として取り扱いません(IFRS/B 26)。

 

● 同一機会

返品権に関する約束は,売買契約(販売)と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か,文書か口頭か)は問いません。

企業が資産(商品又は製品)の支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該資産の返還を受け,その代償を提供することを事後的に約束することは,返品権付きの販売ではありません。もっとも,このようなケースでは,当初の売買契約までに,取引慣行,公表した方針等により返品の約束が含意されていたかどうかを検討する必要があります。

 

☞返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

 

3.返品権付きの販売の識別

 

● 返品権付きの販売の識別

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(契約における本来の債務=給付義務)である,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務を識別します。

返品権付きの販売の場合では,企業は,これに加え,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務(法律上の債務)又は契約に含意されている約束として,返品権に関する約束を識別します。

返品権に関する約束は,契約書の中で返品に関する条項として明示的に定められることもありますが,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。一般的に,生鮮食料品の業界,出版業界,医薬品業界などでは,返品の取引慣行があるといわれています。返品の可能性と返品期間の長さは,業界ごとに大きく異なり,例えば,生鮮食料品の業界では,出版業界よりも返品率が低く返品期間も短いのが通常です(IFRS/2010ED B 5)。業界や企業の取引慣行を考慮するときには,企業と顧客との間でその慣行に従う意思を示す事実及び状況(例えば,企業がこれまで顧客からの返品を受け入れてきた実績があるかどうか)も重要になります。

また,消費者との訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供契約・業務提供誘引販売取引(以上,特定商取引法),クレジット契約(割賦販売法),商品預託取引(特定商品預託取引法)には,クーリングオフ制度の適用があります。企業が資産を顧客に移転した後,クーリングオフ期間満了前に申込の撤回,解除がされる場合には,契約書に返品に関する条項がなくとも,返品権付きの販売として取り扱います。通信販売では,一定の要件を満たす特約がない限り法定返品権が認められますので,返品権付きの販売として取り扱います。このようなクーリングオフ制度などの法律による規制が,業界における自主規制などを促進し,返品の取引慣行を醸成する場合もあります。

 

● 返品の条件(理由)

返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産(商品又は製品)を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「財又はサービスに対する保証」(指針34~38)として処理します(指針89)。

実際に顧客が返品する理由は,資産に不満があることや,資産を第三者に販売できなかったことなどさまざまで構いませんが(IFRS/2010ED B 6),資産を正常に利用することができないという理由がなければ返品できない場合には,企業は,財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証又はそれに加えて顧客にサービスを提供することになります。そこで,企業は,返品権に関する約束が,契約の観点において,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務)と別個なのかどうか(本基準第34項(2))を判定するため,適用指針「財又はサービスに対する保証」に従って処理します。

 

☞返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「財又はサービスに対する保証」(指針34~38)として処理します。

 

4.返金負債

 

● 返品の受け入れに備えるサービス

企業は,返品権付きの販売について,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,①顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務と,②返品権に関する約束を識別しますが,②の約束は,返品受入期間中に返品される商品又は製品の受け入れに備えるサービス(便益)を顧客に提供し,①の約束と区分して識別できるため,契約の観点において別個のものであり(第34項),返品権サービスについての独立の履行義務を識別することができます(IFRS/BC 363)。

仮に返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別する場合には,Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」で,当該サービスの契約における取引開始日の独立販売価格を算定し(第68項),顧客に資産を移転する履行義務の独立販売価格との比率に基づいてそれぞれの履行義務に取引価格を配分します(第66項)。

しかし,返品権付きの販売の多くは,返品の数が全体の販売の中の小さな割合しかないと予想され,返品期間も短いので,契約における取引開始日に返品の受け入れに備えるサービスの独立販売価格を見積り,独立の履行義務として処理したとしても,それにより財務諸表利用者に提供される情報がもたらす効果は,そのような処理の複雑性やコストに見合いません。そこで,適用指針は,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として処理しないこととしました(指針161,IFRS/BC 366)。

 

● 返金負債

企業は,実質的に不確定な(数量の)販売を行っており,返品権が消滅した時にはじめて販売の成立・不成立を確定するので,企業が最終的に返還せずに保持すると見込む対価の額に基づき収益を認識することが適切です。

そこで,適用指針は,顧客が返品権を行使した結果として不成立になると予想される販売について,企業は収益を認識すべきではなく,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識することとしました(IFRS/BC 364)。

企業は,顧客に資産を移転し,履行義務を充足した時点で収益を認識しますが(第39項),適用指針は,認識すべき収益の額(すなわち,返金負債の額)を決定するにあたって,企業が契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,変動対価の認識及び測定に関する原則を含むStep3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用しなければならないものとしました。この原則には,変動対価の見積りの制限(本基準第54項)も含まれますので,企業は,返品権に関する不確実性が事後的に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り収益を認識することになります。

これにより,企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識します。顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,顧客から受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識しなければなりません(第53項,指針85(2),IFRS/BC 365)。

 

☞企業は,返品権付きの販売について,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識し,顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,返金負債を認識します。

 

5.返品権付きの販売の会計処理

 

● 収益・返金負債・返品資産

企業は,返品権付きの販売について,次の収益・返金負債・返品資産のすべてを処理します(指針85)。

収益

 企業は,顧客に資産(商品又は製品)を移転したときは,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額で収益を認識します。

返金負債

 企業は,対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識し,これに対応して売上原価を修正します。

 

● 当初認識

収益

 企業は,顧客に資産(商品又は製品)を移転し,履行義務を充足したときに,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額を算定し,収益を認識します(指針85(1),86)。企業が認識する収益は,変動対価の見積りの制限(第54項)により,返品権が消滅する時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限られます(IFRS/BC 365)。

返金負債

 企業は,顧客から対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち収益として認識しない金額(企業が権利を得ると見込まない額=返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します(第53項,指針85(2))。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産(例えば,棚卸資産)の従前の帳簿価額から予想される回収費用(当該資産の価値の潜在的な下落の見積額を含みます。)を控除した額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します(指針85(3),88)。 


● 事後の見直し

収益

 企業は,各決算日に,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,顧客に移転した資産と交換に権利を得ると見込む対価の額を見直し,これに対応する取引価格(認識した収益の額)を変更します(指針87)。

返金負債

 企業は,各決算日に,返金負債の額を見直し,返金負債に対応する調整を収益又は収益の減額として認識します(第53項,指針87)。

返品資産

 企業は,各決算日に,予想される回収費用(当該資産の価値の潜在的な下落の見積額を含みます。)を控除した額(返品資産の額)を見直します(指針88)。  


☞企業は,返品権付きの販売について,収益・返金負債・返品資産のすべてを処理します。企業が返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産の従前の帳簿価額から予想される回収費用を控除した額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します。企業は,各決算日に収益・返金負債・返品資産について評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.12.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

顧客による検収

 

2018年12月7日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

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「顧客による検収」 目次と概要

 

 

1.適用指針「顧客による検収」の概要

 

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。 

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えませんので,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合があります(指針80)。 

逆に,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収が完了するまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(指針82)。 

適用指針「顧客による検収」(指針80~83)は,検収の契約条項と顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点についての指針を提供しています。 

 

☞検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。検収の契約条項は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点に影響を与える場合があります。 

 

2.検収

 

● 検収

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

検収は,商法526条1項が定める「検査」に該当します。商人間の売買では,買主(顧客)は,売主(企業)から提供を受けた目的物を遅滞なく検査し,適時に契約不適合を発見して通知しなければ,売主(企業)に対する責任追及が制限されます(商法526条2項)。 

顧客との契約では,多くの場合,検収が予定されており,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

● 契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)の内容

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」において,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。 

企業がこの義務を履行するために顧客に提供した財又はサービスは契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければならず,その条件に従っていない場合には,企業の履行は完了しません。 

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱い

法律上,企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。 

法律上,企業が合意された条件に従っていない財又はサービスを提供した場合の取扱いは,契約に定めがあればそれに従い,契約に定めがない場合には民法・商法が定める任意規定に従います。 

企業は,合意された条件に従っていない財又はサービスを提供したときは,民法の任意規定に従い,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任を負います(民法562条)。また,顧客は,企業に対し,相当の期間を定めて履行の追完を催告し,その期間内に履行の追完がないときは,代金の減額を請求することができます(民法563条)。なお,顧客は,一般原則に従い,債務不履行を理由に損害の賠償(民法415条),契約の解除(民法541,542条)をすることもできます(民法564条)。 

他方,これらの企業の責任には期間制限があり,顧客は,目的物が契約に適合しないことを知ってから1年以内に企業に通知しない限り,履行の追完,代金の減額,損害の賠償を請求し,又は契約を解除することができません(民法566条)。

 
● 顧客の検査義務

顧客は,契約不適合を知ってから1年以内に企業に通知すれば,企業の責任を追及することができるという民法の期間制限では,企業は,責任追及される可能性を抱えたまま長期間不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,商法は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買については,顧客は,受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い(商法526条1項),検査後直ちに企業に通知しなければ,目的物が契約に適合しないことを理由に企業の責任を追及できないこととしています。また,検査によって直ちに発見することができない契約不適合(隠れた瑕疵)であっても,受領後6か月以内に企業に通知しなければ,同様に責任追及ができないこととしています(商法526条2項)。 


● 契約における検収の位置づけ

売買契約については,民法・商法に債務不履行責任の特則として,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任や期間制限に関する任意規定がありますので(民法561条~572条,商法526条),多くの場合,顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられます。請負契約,(準)委任契約その他の契約類型についても,売買契約に関するこれらの任意規定が準用されますので(民法559条),顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられる場合があります。 

商法は,顧客が目的物を受領してから「遅滞なく」検査を行うことを義務づけていますが,顧客との契約においては,これを明確化するため,目的物の納品,納入又は受領後,顧客が所定の期間内に検査結果を通知することを義務づけ,通知がないまま所定の期間を経過したときは検査に合格したものとみなす旨を定める場合も少なくありません。また,企業の不完全な履行に関する責任については,民法改正前の用語に倣い,条項中に「瑕疵」という表現を用いることも多く見受けられます。 

 

☞企業は,契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,特約がない限り,履行の追完(目的物の修補,代替物・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償の責任を負います。商法は,このような企業の責任追及の期間を制限するため,商人間の売買について,買主(顧客)に検査を義務づけていますので,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

3.検収と支配の移転

 

● 物理的占有の移転を伴わない支配の移転

商品又は製品の販売では,顧客との契約において,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める場合が多く,「引渡し」により当該商品又は製品の法的所有権を顧客に移転する旨の明示の合意があるか,又は黙示の合意が含まれると解釈できるため,「引渡し」の時点で,顧客が当該商品又は製品の法的所有権を有していること(第40項(2))の指標を満たします。したがって,多くの場合,法的所有権(第40項(2))の指標によって,顧客が「引渡し」の時点で当該商品又は製品に対する支配(当該商品又は製品の使用を指図し,当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力)を獲得します。 

このような契約では,企業が顧客の住所・営業所等に商品又は製品の物理的占有を移転することを「納品」や「納入」などのように「引渡し」と異なる用語で表現することが少なくありません。「納品」や「納入」などの時点では,企業が当該商品又は製品の物理的占有を移転したこと(第40項(3))の指標を満たしますが,一般に顧客が当該商品又は製品の法的所有権を有していること(第40項(2))の指標を満たしていませんので,顧客は,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。  

このように,検収の完了をもって「引渡し」と定める契約も,消化仕入契約・寄託品使用高払契約と同様に,短い期間ではあっても顧客が資産の物理的占有を保持しながら,企業から“支配”が顧客に移転する典型例であるといえます。 

 

● 検収と支配の移転

検収は,顧客が自ら検査して企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合した資産を移転し,履行義務を充足したことを確認する行為であり,検収の完了前は,顧客が代替物の提供を求めることができる場合もありますので,顧客が当該資産を検収したことは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有し,当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります(指針80)。 

 

● 検収(第40項(5))の指標の意義

商品又は製品の販売では,多くの場合,検収の完了(検査の合格)をもって当該商品又は製品の法的所有権が顧客に移転しますので,法的所有権(第40項(2))の指標とは別に,検収(第40項(5))の指標を考慮する必要がない場合も少なくありません。 

しかし,顧客との契約において,法的所有権の移転時期が不明確な場合や,企業が提供した資産が契約において合意された条件に適合しないときでも顧客が代替物の提供を求めることができない場合,検収の完了前に法的所有権が移転する旨の定めがある場合などでは,顧客が企業から提供を受けた資産の検収が完了していないのに,顧客が当該資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

☞検収は,顧客が自ら検査して企業が履行義務を充足したことを確認する行為であり,顧客が資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります。検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約では,一般に「引渡し」による法的所有権の移転(第40項(2))の指標とは別に検収(第40項(5))の指標を考慮する必要がありません。もっとも,顧客による検収が完了していないのに,顧客が資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

4.顧客による検収の会計処理

 

● 検収の契約条項の検討

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。 

顧客による検収は,あくまで支配の移転の指標の一つであり,顧客による検収を予定している取引が,常に検収までは顧客が財又はサービスの支配を獲得しないものではありません。 

 

● 企業が客観的に判断できる場合(指針80)

収益の認識

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えません(指針80)。 

例えば,所定の大きさや重量に適合するかどうかのように検収の内容が客観的で比較的単純な場合には,企業は,顧客による検収の前にその適合性を判断できます(指針80)。また,類似の財又はサービスに関する企業の取引実績により,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていることを客観的に示すことができる場合もあります(IFRS/B 84)。 

このような場合,企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができる場合があり,その時点で履行義務を充足し,収益を認識します。 

残存履行義務の検討

企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定する場合には,取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば,設備の据付け)を有しているかどうかについて,本基準第32項~第34項に従って検討しなければなりません(指針81)。 

 

● 企業が客観的に判断できない場合(指針82)

顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収が完了するまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(指針82)。 

 

● 試用販売(指針83)

企業が商品又は製品を顧客に試用目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合には,顧客が商品又は製品を検収するまであるいは試用期間が終了するまで,当該商品又は製品に対する支配は顧客に移転しません(指針83)。 

 

☞企業は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮します。契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,検収の契約条項はその時点の決定に影響を与えず,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合がありますが,企業が客観的に判断できない場合には,顧客による検収が完了するまで顧客が支配を獲得したと決定することができません。 

 

5.代替的な取扱い

 

● 出荷基準等の取扱い

本基準第39項及び第40項は,一時点で充足される履行義務については,資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に,収益を認識することとしています。他方,我が国のこれまでの実務では,売上高を実現主義の原則に従って計上するにあたり,出荷基準が幅広く用いられてきており,商品又は製品の国内における販売を前提とする限り,商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には,出荷時に収益を認識しても,商品又は製品の支配が顧客に移転される時に収益を認識することとの差異が,通常,金額的な重要性に乏しいと想定され,財務諸表間の比較可能性を大きく損なわないと考えられます(指針171)。 

そこで,適用指針は,本基準第39項及び第40項の定めにかかわらず,商品又は製品の国内の販売において,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(本基準第35項~第37項,第39項及び第40項の定めに従って決定される時点,例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば,出荷時や着荷時)に収益を認識することができると定めています(指針98)。 

 

● 代替的な取扱いの要件

顧客との契約が商品又は製品の国内の販売であること

 顧客との契約が商品又は製品の販売であり,かつ,出荷,配送及び着荷が国内でなければなりません。 

出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であること

 企業は,代替的な取扱いを適用しない場合において,当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時点を決定することが前提となります。「顧客による検収時」が例示されているように(指針98),我が国の取引の実情では,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約が一般的であり,多くの場合,商品又は製品の法的所有権が顧客に移転する検収の完了時に当該商品又は製品の支配が顧客に移転されます。 

 また,企業は,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの期間が,国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数であることを確認する必要があります(指針98)。この期間は,一般に数日間程度の取引が多いものと考えられます(指針171)。 

 もし,商品又は製品が納品・納入・着荷してから顧客が検収を完了するまでの期間が長く,取引慣行に照らして不合理である場合には,代替的な取扱いができないことに留意する必要があります。 

 

● 代替的な取扱いの会計処理

企業は,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの間の一時点で(例えば,出荷時や着荷時),収益を認識することができます。

 

☞企業は,①顧客との契約が商品又は製品の国内の販売であること,②出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であることの要件を満たすときは,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの間の一時点で(例えば,出荷時や着荷時),収益を認識することができます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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