法律会計フォーラム

2018.11.15更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

委託販売契約

 

2018年11月15日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「委託販売契約」 目次と概要

 

1.適用指針「委託販売契約」の概要

 

企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合があります。

企業は,Step5「企業が履行義務の充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が当該商品又は製品の支配を獲得する時点を決定するため,他の当事者にその物理的占有を移転する場合(第40項(3))には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します(指針75)。

他の当事者が支配を獲得する場合には,他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

他方,他の当事者が支配を獲得していない場合には,需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(指針75)。

適用指針「委託販売契約」(指針75,76)は,企業が商品又は製品を需要者に販売するために,他の当事者にその物理的占有を移転する場合に,他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかを判定するための指針を提供しています。

 

☞企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します。他の当事者が支配を獲得していない場合には,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません。

 

2.適用指針「委託販売契約」とは

 

● 委託販売契約とは

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいいます。下の模式図では,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が,企業(A)が他の当事者(B)に対して販売業務を委託するものであり,法律上の契約類型は,(準)委任契約(委託契約)です。

委託販売契約の目的は,財(委託者の商品又は製品)を販売する手配サービスです。

 

● 支配の移転の時点

適用指針「委託販売契約」は,上の模式図で,委託者である企業が,いつの時点で商品又は製品の対価(顧客対価)を収益として認識すべきか,という問題を取り扱います。

企業(供給者)が商品又は製品を需要者Cに提供する過程に販売業者Bが関与している場合には,一般に,商品又は製品が企業(A)から販売業者Bを介して需要者Cに移転しますので,需要者Cが当該商品又は製品の支配を獲得する前に,企業から販売業者Bに当該商品又は製品の物理的占有を移転します。

企業は,商品又は製品を顧客に移転する履行義務を識別していますので,販売業者Bに当該商品又は製品の物理的占有を移転した時点で,販売業者Bが当該商品又は製品の支配を獲得する場合には,販売業者Bが“顧客”であり,その時点で履行義務を充足することになります。逆に,販売業者Bが当該商品又は製品の支配を獲得していない場合には,需要者Cが“顧客”であり,未だ顧客に当該商品又は製品の支配を移転していないので,販売業者Bに当該商品又は製品の物理的占有を移転した時点では履行義務を充足していません。

このように,適用指針「委託販売契約」では,販売業者Bが商品又は製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品又は製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(第40項(3),指針75)。

 

● 契約の相手方

企業は販売業者Bに商品又は製品の物理的占有を移転した時点で,販売業者Bが当該商品又は製品の支配を獲得する場合には,企業にとって販売業者Bが“顧客”であり,Step1「顧客との契約を識別する」では,

企業と販売業者Bとの間の売買契約(独立の販売)を識別すべきであったことになり,顧客である販売業者Bに当該商品又は製品の支配を移転した時点で収益を認識します(BC 385E)。

逆に,販売業者Bが当該製品・商品の支配を獲得していない場合には,企業にとって需要者Cが“顧客”となります。しかし,企業と顧客である需要者Cとの間には必ずしも直接に契約が成立するわけではありません。

他方で,企業と販売業者Bとの間に委託販売契約(媒介委託を除きます。)が成立していない限り,企業と顧客である需要者Cとの間に直接に契約が成立せず,顧客との契約が成立したとみなすこともできませんので,企業にとって販売業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別することが収益を認識する前提となります。したがって,企業は,Step1「顧客との契約を識別する」では,販売業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別するとともに,企業と需要者Cとの間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別すべきであったことになり,顧客である需要者Cに当該商品又は製品の支配を移転した時点で収益を認識します。

このように,適用指針「委託販売契約」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者Cか,又は販売業者Bかという問題にほかなりません。

適用指針「委託販売契約」は,商品又は製品の支配が移転する時点が異なることに着眼し,Step5「企業が履行義務の充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で判定する支配の移転の時点の問題として取り扱います(第40項(3))。しかし,企業から直接に商品又は製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方が異なることに着眼すると,本来は,契約における取引開始日において,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と販売業者Bとの間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

☞適用指針「委託販売契約」は,販売業者が商品又は製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品又は製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます。また,適用指針「委託販売契約」は,企業から直接に商品又は製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方“顧客”が需要者か,又は販売業者かという問題であり,契約における取引開始日に,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と販売業者との間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

3.本人と代理人の区分との関係

 

● 代理人

委託販売契約から生じる収益は,他の当事者(B)が認識します。委託販売契約では,受託者である他の当事者(B)は,委託者である企業(A)に対し,商品又は製品を販売する手配サービスを移転するので,「本人と代理人の区分」では自らを代理人と判定し,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識します。

適用指針「本人と代理人の区分」(指針39~47)で,他の当事者(B)が自らを代理人と判定するケースには,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が委託販売契約である場合が含まれます。

 

● 適用指針「本人と代理人の区分」

他の当事者(B)がいったん企業の商品又は製品の支配を獲得した後にその支配を需要者(C)に移転するときは,他の当事者(B)は,本人として当該商品又は製品自体を自ら需要者(C)に移転するという履行義務を充足しますので,顧客対価を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。逆に,他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得しないときは,当該商品又は製品を顧客に移転することができず,企業(A)が直接その支配を顧客に移転しますので,企業(A)が顧客対価を収益として認識すべきです。他の当事者(B)は,代理人として当該商品又は製品が顧客に提供されるように手配するという履行義務を充足しますので,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

このように,適用指針「本人と代理人の区分」では,商品又は製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(IFRS/BC 380,385C~D)。

 

● 本人と代理人の区分との関係

適用指針「委託販売契約」において,企業(A)の立場から,他の当事者(B)に商品又は製品の物理的占有を移転する場合に他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことと,適用指針「本人と代理人の区分」において,他の当事者(B)の立場から,商品又は製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことは,同一の事象を異なる立場から評価しているという“裏返し”の関係にあります。

 

☞商品又は製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品又は製品の支配を獲得するかどうかという同一の事象について,適用指針「委託販売契約」で企業(A)の立場から評価することと,適用指針「本人と代理人の区分」で他の当事者(B)の立場から評価することとは“裏返し”の関係にあります。

 

4.委託販売契約

 

● 委託販売契約

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,①「他人のため」②「財の販売」を③「引き受ける」という3つを要素とします。

 

● 他人のため

「他人のため」とは,少なくとも他人の計算(経済上の効果)において行うことを意味し,他人の権利義務(法律上の効果)において行うことを含みます。

 

● 財の販売

「販売」は売買契約を指し,法律上,売主の地位が受託者である他の当事者にある場合と委託者である企業にある場合があります。

 

自己の名をもって販売する場合(取次委託)

受託者が自己の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約(法律上「取次委託販売」と呼ばれます。)では,受託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。「自己の名をもって」とは,受託者自らが法律行為の当事者となり,その行為から生じる権利義務の主体となることをいいます。財の流通に関わる商取引では,受託者が自己の名をもって販売することが少なくありません。

企業と顧客との間には,法律上,売買契約は成立していません。しかし,企業と受託者との間に委託販売契約が成立している状況では,実質(経済)的には,企業は,受託者と売買契約を締結する顧客に対し,受託者を介して,対価を受け取る強制可能な権利を有し,財又はサービスを提供する強制可能な義務を負っているのと同視することができます。そこで,企業と受託者との間で委託販売契約(取次委託)が成立している場合には,受託者と売買契約を締結した顧客との間で企業が同一内容の売買契約を締結したものとみなし,当該契約に本基準を適用します。

 

他人の名をもって販売する場合(代理委託・媒介委託)

受託者が他人の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約では,委託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。①受託者が委託者の代理人として顧客と売買契約(法律行為)を締結する場合(法律上「代理委託販売」と呼ばれます。)と,②受託者が委託者と顧客との間の売買契約の成立のために媒介(事実行為)を行う場合(法律上「媒介委託販売」と呼ばれます。)があります。

代理委託

代理委託では,受託者は委託者の代理人として顧客との間で売買契約を締結しますが,その契約にあたって,委託者の名を表示し,受託者が委託者のために(代理人として)法律行為をすることを表示します(顕名)。代理人である受託者の名を併記するのが通常ですが,併記しない場合もあります。

媒介委託

媒介委託では,受託者は顧客との間の売買契約の成約に向けて事実行為(いわゆる仲介・周旋・斡旋・勧誘等)を行うだけで,企業自らが顧客と売買契約を締結します。

企業は,企業と顧客との間に成立した売買契約に本基準を適用します。ただし,代理委託の場合には,企業と受託者との間に委託販売契約(代理委託)が成立し,受託者に代理権が存在することが前提となります。

 

● 引き受ける

受託者は,委託者から委託を受けた販売事務を受託します。代理委託では,委託者のために法律行為(売買契約)を行うための代理権の授与を受けることも含まれます。

 

☞委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,顧客との間で売買契約を,①受託者が売主として締結する場合(取次委託)と,②受託者が代理人となり,委託者が売主として締結する場合(代理委託),③受託者が媒介(成約に向けた事実行為)をするだけで委託者が売主として締結する場合(媒介委託)があります。取次委託では,企業は,受託者と顧客との間の売買契約を顧客との契約とみなして本基準を適用します。

 

5.委託販売契約の識別

 

企業は,他の当事者(販売業者)とは常に自らが当事者として契約を締結しており,一般に契約書その他の文書により契約の内容を確認することができますので,Step1「顧客との契約を識別する」で,販売業者を顧客とする独立の販売か,又は需要者を顧客とする委託販売契約かを判定するため,企業と他の当事者との間の法律上の契約の性質を考慮することが有用になります。

企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売か,又は委託販売契約かを判定する必要があります。

 

☞企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売か,又は委託販売契約かを判定する必要があります。

 

6.委託販売契約の指標

 

● 他の当事者に対する物理的占有の移転と支配の獲得

企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します(指針75)。

他の当事者が支配を獲得する場合

他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します(IFRS/BC 385E)。

他の当事者が支配を獲得していない場合

需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品又は製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品又は製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(指針75)。

 

● 委託販売契約の指標

企業と他の当事者との間の契約が委託販売契約であることを示す指標には,例えば,次の(1)~(3)があります(指針76)。

(1) 販売業者等が商品又は製品を顧客に販売するまで,あるいは所定の期間が満了するまで,企業が商品又は製品を支配していること(指針76(1))

企業は,販売業者等が商品又は製品を顧客に販売するまで,又は所定の期間が満了するまで,支配の要件(第37項)を直接適用し,企業が商品又は製品を支配しているかどうかを判定します。企業が商品又は製品を支配していれば,他の当事者は当該商品又は製品の支配を獲得していません。

(2) 企業が,商品又は製品の返還を要求することあるいは第三者に商品又は製品を販売することができること(指針76(2))

企業が他の当事者に商品又は製品の返還を要求したり,第三者に商品又は製品を振り向けたりできることは,企業が当該商品又は製品を支配していることを示しており,顧客は当該商品又は製品の支配を獲得していません。

(3) 販売業者等が,商品又は製品の対価を支払う無条件の義務を有していないこと(ただし,販売業者等は預け金の支払を求められる場合がある。)(指針76(3))

他の当事者が,企業に対し,商品又は製品と交換(同価値性)の関係のある対価(預け金は該当しません。)を支払う無条件の義務を負う場合には,他の当事者が当該商品又は製品の支配を獲得していることを示す指標であり(第40項(1)),委託販売契約の受託者(代理人)ではなく,独立の販売であることを示します。

他の当事者が,条件付きで商品又は製品の対価を支払う義務を負う場合(例えば,需要者(最終顧客)に当該商品又は製品を販売したという条件が付されている場合)には,委託販売契約の受託者(代理人)である可能性があります。

 

☞企業は,商品又は製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定します。委託販売契約であることを示す指標として,例えば,(1)販売業者等が商品又は製品を顧客に販売するまで,あるいは所定の期間が満了するまで,企業が商品又は製品を支配していること,(2)企業が,商品又は製品の返還を要求することあるいは第三者に商品又は製品を販売することができること,(3) 販売業者等が,商品又は製品の対価を支払う無条件の義務を有していないことなどがあります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.11.04更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

買戻契約

 

2018年11月4日 弁護士・公認会計士 片山智裕

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「買戻契約」 目次と概要

 

1.適用指針「買戻契約」の概要

 

企業は,顧客に商品又は製品を売り渡す契約(売買契約)について,契約における取引開始日に,商品又は製品に対する支配が顧客に移転しているかどうかを判断するにあたって,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮する必要があります(指針8)。

企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)や企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は商品又は製品を企業に返還する義務又は返還に備える義務を負うため,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,買戻契約につき商品又は製品の販売として収益を認識してはならず,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します(指針69)。

他方,企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品を企業に返還する義務も返還に備える義務も負わないため,基本的には当該商品又は製品に対する支配を獲得しています。そこで,企業は,買戻契約を返品権付きの販売として処理します(B 72,73)。

ただし,買戻価格と買戻日時点での商品又は製品の予想される時価との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等により,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,実質的に当該商品又は製品を返還することを余儀なくされますので,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します(B 72,73)。

適用指針「買戻契約」(指針69~74)は,買戻契約の形態によってどのように会計処理するのかの指針を提供しています。

 

☞買戻契約について,①企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は②企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合や,③企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合のうち,(a)顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していませんので,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します。③の場合のうち,(b)顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得していますので,企業は,返品権付きの販売として処理します。

 

2.買戻契約

 

● 買戻契約

買戻契約とは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有する契約をいいます(指針153)。

買戻契約は,①企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

 

● 売買契約

買戻契約は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。

 

● 反対売買の権利義務

反対売買は,顧客(元の買主)が企業(元の売主)に(実質的に)同一の商品又は製品を移転する義務を負い,企業がその代金を支払う義務を負うことをいいます。

買戻契約は,反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。 

したがって,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約を除くと,企業からみて,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態は次の3つに分類できます(指針153)。

(1) 企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)

(2) 企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)

(3) 企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)

 

● 買い戻す商品又は製品

買い戻す商品又は製品は,①当初において顧客に販売した商品又は製品そのもの,②顧客に販売したものと実質的に同一の商品又は製品,③当初において販売した商品又は製品を構成部分とする商品又は製品があります(指針153)。③には,当初において販売した商品又は製品を材料・部品として加工・組立をしたものも含まれます。

 

● 買戻の法形式

買戻の法形式は,当初の売買契約と反対の売買契約(再売買)によるものと,当初の売買契約を解除するものとがあります。いずれの法形式も,期限の到来により又は当事者の意思表示(再売買の予約完結権又は解除権)により反対売買の権利義務(再売買の権利義務又は原状回復義務)を発生させることができます。

 

● 同一機会

企業が買い戻す義務又は権利に関する約束は,当初の売買契約と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か)は問いません(指針153)。

企業が商品又は製品に対する支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該商品又は製品を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に顧客に当該商品又は製品を引き渡した時点で,顧客が当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません。もっとも,このようなケースでは,企業が商品又は製品の物理的占有を移転した時に顧客が当該商品又は製品に対する支配を獲得したのかどうかを検討すべきであり,本人と代理人の区分(指針39~47)を考慮する場合があります(IFRS/BC 423)。

 

● 買戻し契約の会計処理の目的

企業が売り渡した商品又は製品にその後も継続的に関与する場合には,顧客による当該商品又は製品の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮する必要があります(指針8,IFRS/BC 157,422)。

 

☞買戻契約は,①企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。企業が買い戻す義務又は権利の形態は,一般的に,(1)企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引),(2)企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション),(3)企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)の3つに分類できます。

 

3.先渡取引又はコール・オプション

 

● 買戻契約の先渡取引

買戻契約の先渡取引とは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,一定の期限が到来したときに顧客から当該商品又は製品を買い戻す義務を負う契約をいいます(指針153(1))。

 

● 買戻契約のコール・オプション

買戻契約のコール・オプションとは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,一方的な意思表示により顧客から当該商品又は製品を買い戻す権利を有する契約をいいます(指針153(2))。

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)

先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。

 

● 顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するか

買戻契約の先渡取引又はコール・オプションでは,企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有する反面,顧客が当該商品又は製品を企業に返還する義務又は返還に備える義務を負います。たとえ顧客が当該商品又は製品を物理的に占有しているとしても,顧客は,当該商品又は製品を使い切ったり,消費したり,売却したりできませんので,当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されています。したがって,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していません(指針154)。

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される条件

買戻契約の先渡取引又はコール・オプションに,将来,発生することが不確実な事実にかかる条件(企業の選択を除きます。)が付されているときは,その条件が,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,実質的に買戻契約の形態を判定する必要があります。

例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した商品又は製品を顧客が期限を超えて消費者に販売することを防止するため,一定の期限を経過したときに顧客から買い戻す権利を有している場合には,企業が買い戻す権利に“商品又は製品が販売されていない(売れ残った)こと”という条件が付されています。この条件は,顧客が商品又は製品を第三者に販売することを妨げないので,顧客が当該商品又は製品に対する支配を獲得しています。このような買戻契約の形態の実質は,プット・オプションであり,返品権付きの販売と整合的に処理します(IFRS/2011ED BC 320)。

 

☞企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)や企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品を企業に返還する義務又は返還に備える義務を負うため,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。

 

4.先渡取引又はコール・オプションの会計処理

 

● 商品又は製品の販売でないこと

企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該商品又は製品に対する支配を獲得していませんので,買戻契約につき商品又は製品の販売として収益を認識してはなりません(指針69)。

 

● 会計処理

企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして処理します(指針69)。

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,金利相当分の影響を考慮します(指針69)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」に従ってリース取引として処理します。

このような取引は,実質的に企業が顧客に商品又は製品を貸し付け,一定期間後にその返還を受け,当初の販売価格(A)と買戻価格(B)の差額(A-B)が一定の期間にわたり使用する権利の対価として企業に支払われることになるからです(指針155)。

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した商品又は製品を顧客からリースバックする契約に企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利が含まれるもの)は,金融取引として処理します(IFRS/B 66,BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,金融取引として処理します。

このような取引は,実質的に,企業が顧客から当初の販売価格(A)を借り入れ,買戻価格(B)を返済し,買戻価格(B)と当初の販売価格(A)の差額(B-A)を金利として支払うことになるからです(指針155)。

企業は,商品又は製品を引き続き認識するとともに,顧客から受け取った当初の販売価格(A)について金融負債を認識します。企業は,顧客から受け取った当初の販売価格(A)と顧客に支払う買戻価格(B)との差額(B-A)を金利として認識します。当該差額に加工コストや保管コスト(例えば,保険)があれば,それらも認識します(指針70)。

 

● コール・オプションの消滅

コール・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,コール・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(指針71)。

 

☞企業が売り渡した商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該商品又は製品に対する支配を獲得していないので,買戻契約につき商品又は製品の販売として収益を認識してはなりません。企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理します。

 

5.プット・オプション

 

● 買戻契約のプット・オプション

買戻契約のプット・オプションとは,企業が顧客に商品又は製品を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該商品又は製品を買い戻す義務を負う契約をいいます(指針153(3))。

 

● プット・オプションに付される期限(期間)

プット・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。

 

● 顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するか

買戻契約のプット・オプションでは,企業が商品又は製品の購入に備える義務を負いますが,他方で,顧客が売り戻す(企業に買い戻させる)権利を行使するかどうかは自由であり,当該商品又は製品を返還する義務も返還に備える義務も負いません。そのため,顧客は,当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しており,プット・オプションを行使しないことを選択して,当該商品又は製品を使い切ったり,消費したり,第三者に売却したりできます。したがって,顧客は,基本的には企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得しています(指針156)。

しかし,顧客がプット・オプションを行使することに重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,プット・オプションを行使しないときには重要な損失を蒙る可能性が高いため,実質的に当該商品又は製品を返還することを余儀なくされますので,オプションの存在が,顧客が当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を制限することになります。逆に,企業からみれば,実質的に顧客から商品又は製品を買い戻すことを余儀なくされますので,先渡取引と類似する状況にあります。したがって,このような場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していません(指針157)。

 

☞企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品を企業に返還する義務も返還に備える義務も負わないため,基本的には当該商品又は製品に対する支配を獲得しています。ただし,顧客がプット・オプションを行使することに重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客が実質的に当該商品又は製品を返還することを余儀なくされますので,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。

 

6.プット・オプションの会計処理

 

● 重要な経済的インセンティブ

企業は,買戻契約のプット・オプションについて,企業が売り渡した商品又は製品に対して顧客が支配を獲得するかどうかを判定するため,契約における取引開始日に,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します(指針 72,73)。

企業は,その判定にあたって,①買戻価格と買戻日時点での商品又は製品の予想される時価との関係や②プット・オプションが消滅するまでの期間等,さまざまな要因を考慮します。例えば,買戻価格が商品又は製品の時価を大幅に上回ると見込まれる場合には,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していることを示す可能性があります(指針72)。他方,買戻価格が顧客に最低限の売却収入(保証最低売戻価値)を保証するにすぎない場合には,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有しているとはいえません(IFRS/BC 431)。

 

● 重要な経済的インセンティブを有している場合

顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,顧客がプット・オプションを行使することが想定されており,買戻契約の先渡取引と類似する状況にあります(IFRS/BC 429)。

そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして処理します(指針72,73)。

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,金利相当分の影響を考慮します(指針72,73)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻すことが想定されており,企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」に従ってリース取引として処理します(指針72,157)。

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した商品又は製品を顧客からリースバックする契約に企業が顧客の要求により当該商品又は製品を買い戻す義務が含まれるもの)は,金融取引として処理します(IFRS/B 70,BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合

企業が当該商品又は製品を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻すことが想定されており,金融取引として処理します(指針73,158)。

 

● 重要な経済的インセンティブを有していない場合

顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得しています。

そこで,企業は,買戻契約を返品権付きの販売として処理します(指針72,73)。

 

● プット・オプションの消滅

プット・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,プット・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(指針74)。

 

☞企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,企業は,買戻価格と買戻日時点での当該商品又は製品の予想される時価との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等を考慮し,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します。顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース取引(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は金融取引(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として処理し,そうでない場合には,買戻契約を返品権付きの販売として処理します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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