法律会計フォーラム

2018.10.23更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

ライセンスの供与②

 

2018年10月23日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「ライセンスの供与②」 目次と概要

 

 

1.ライセンスの性質

 

ライセンスは,企業の知的財産を所有する権利ではなく,それを使用する権利です。したがって,顧客は,権利の設定を受けた一時点で,その権利を行使する(使用する)かどうかという使用を指図し,当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力,すなわちライセンスに対する支配を獲得するとみることが「支配」概念に整合します(IFRS/BC 402)。 

しかし,ライセンスは,非常に多様性があり,広範囲の異なる特徴及び経済的特性によって著しい相違が生じています。例えば,企業が,顧客に対し,一定の期間,企業の商標を使用し,企業の製品を販売する権利を顧客に付与するフランチャイズの場合(設例25),企業が保有する知的財産の形態・機能性・価値が企業の活動(例:顧客の変化する嗜好の分析や,製品の改善,販促キャンペーンなど)により継続的に変化しているので(動的である),顧客は,ライセンスが供与される一時点で存在している形態・機能性・価値での知的財産の使用を指図しても,ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを享受することができない可能性があります。こうした場合,ライセンスは,その時々において存在している形態・機能性・価値での知的財産に対するアクセスを顧客に提供しており,アクセスの提供につれて顧客が便益を得ているとみることができます(IFRS/BC 403)。 

そこで,適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します(指針145,IFRS/BC 414D)。 

 

☞適用指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを評価するにあたって,直接に支配アプローチを厳格に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別します。 

 

2.ライセンス供与における企業の約束の性質

 

● 企業の約束の性質と履行義務の属性

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型のいずれかに区別し,①の場合は一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し,②の場合は一時点で充足される履行義務と判定します(指針62)。 

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利 

 ➡ 一定の期間にわたり充足される履行義務

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利を提供する場合には,顧客は,企業の知的財産へのアクセスを提供するという企業の履行からの便益を,履行が生じるにつれて同時に受け取って消費しているとみることができます(第38項(1))。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するものとみて,その属性を一定の期間にわたり充足される履行義務であると判定します(指針146)。

ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利 

 ➡ 一時点で充足される履行義務

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利を提供する場合には,当該知的財産はライセンスが顧客に供与される時点で形態と機能性の観点で存在しており,その時点で顧客がライセンスの使用を指図し,当該ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを享受することができます。そこで,ライセンスを供与する約束は,企業が履行義務を一時点で充足するものとみて,その属性を一時点で充足される履行義務であると判定します(指針147)。

 

● 企業の約束の性質の判断枠組み

適用指針は,ライセンス供与における企業の約束の性質が2つの類型のいずれかに区別されることを確保するため,企業の知的財産にアクセスする権利についての要件だけを定め,当該要件に該当しない場合には,企業の知的財産を使用する権利と判定することとしています。知的財産が静的であるよりも,変化している(動的である)方が判定が容易であると考えられたからです(IFRS/BC 408)。 

 

● 企業の約束の性質の判定にあたって考慮しない要因

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質の判定にあたって,以下の要因を考慮しません(指針66)。 

時期,地域又は用途の制限(指針66(1))

企業は,顧客の契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これらは顧客の権利の範囲(ライセンスの属性)であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。企業の活動が知的財産に著しく影響を与えるかどうか(指針63(1))は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかを考慮するので,ライセンスの属性を考慮しません(指針148)。 

企業が知的財産に対する有効な特許を有しており,当該特許の不正使用を防止するために企業が提供する保証(指針66(2))

企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業の知的財産の価値を保護し,顧客に供与したライセンスが契約で合意された仕様に従っているという保証を顧客に提供するだけで,企業が保有する知的財産を変化させる活動を行うことを約束するものではありません。そのため,これらの保証や約束は,企業が知的財産に影響を与える活動を行うことが契約により定められていること(指針63(1))には該当しません(指針148)。 

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,契約における取引開始日に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定するため,ライセンス供与における企業の約束の性質を2類型のいずれかに区別します。ライセンスの属性である顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)や,企業が有効な知的財産を有しているという保証,その侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がないため,企業の約束の性質の判定にあたって考慮しません。 

 

3.企業の知的財産にアクセスする権利

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の要件

企業は,次の(a)~(c)の要件のすべてに該当する場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別します(指針63)。 

 

(a) ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが,契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること

企業の知的財産にアクセスする権利は,ライセンス期間にわたり企業の知的財産の形態・機能性・価値が継続的に変化している(動的である)ことに本質があり,顧客との契約において,企業の知的財産を変化させる活動を企業が行うことが契約により定められている又は顧客により合理的に期待されている場合であるといえます。企業の知的財産を変化させる活動は,顧客に財又はサービスを直接に移転しない(履行義務を充足しない)活動であり,企業の継続的な通常の活動や商慣行の一部として行われる場合もあります(IFRS/BC 409)。 

 

顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動

企業の活動が知的財産を変化させるかどうかは,知的財産が顧客に便益を提供する能力に著しく影響を与えるのかどうかを基礎として判定します。知的財産が顧客に便益を提供する能力は,知的財産の形態又は機能性から得られる場合もあれば,知的財産の価値から得られる場合もあります(IFRS/BC 414G)。 

ここでいう著しく影響を与える対象は,企業が保有する知的財産そのものであって,知的財産に設定した顧客の権利(ライセンス)ではありません。顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)は,ライセンスの属性であり,知的財産そのものが変化しているかどうかに関係がありません(指針66(2))。 

適用指針は,企業の活動が次のいずれかの場合には,顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与えることを明確にしています(指針65)。 

ⅰ) 当該企業の活動が,知的財産の形態(例えば,デザイン又はコンテンツ)又は機能性(例えば,機能を実行する能力)を著しく変化させると見込まれること(指針65(1)) 

顧客が権利を有している知的財産の形態又は機能性が著しく変化すれば,顧客が知的財産から便益を得る能力が著しく変化すると考えられます(IFRS/BC 414G)。他方で,ソフトウェア,薬物の製法並びに映画,テレビ番組及び音楽作品の録音物等のメディア・コンテンツなど,知的財産が重大な独立した機能性を有する場合には,当該知的財産の便益の実質的な部分が当該機能性から得られるため,企業の活動が形態又は機能性を著しく変化させない限り,顧客が知的財産からの便益を享受する能力は著しい影響を受けません(指針150)。 

ⅱ) 顧客が知的財産からの便益を享受する能力が,当該企業の活動により得られること又は当該企業の活動に依存していること(指針65(2)) 

例えば,ブランドからの便益は,知的財産の価値を補強又は維持する企業の継続的活動から得られるかあるいは当該活動に依存していることが少なくありません。このように,顧客が知的財産からの便益を享受する能力がライセンスを供与した後の企業の活動により得られるか又は当該活動に依存している場合には,当該活動によって必ずしも知的財産の形態又は機能性が著しく変化しなくとも,当該活動は,顧客が知的財産からの便益を享受する能力に著しく影響を与えると考えられます(IFRS/BC 414G)。 

 

契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約により定められているかどうかは,顧客との契約において企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務を考慮して判定します。企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産を変化させる活動を企業が行うことを約束するものではなく,これには該当しません(指針66(2))。 

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが顧客により合理的に期待されていることを示す可能性のある要因としては,企業の取引慣行や公表した方針等があります。また,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での経済的利益の共有(共有された経済的利害)の存在もその要因となります(指針149)。売上高に基づくロイヤルティの存在は,ライセンス供与における企業の約束の性質を決定づける要件ではありませんが,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での共有された経済的利害を示します(IFRS/BC 413)。

 

(b) 顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により,顧客が直接的に影響を受けること

企業の知的財産が著しい影響を受けたことにより,当該知的財産に設定した顧客の権利にも直接的にその影響が及ぶものでなければなりません。知的財産の変化が顧客の権利にも直接的に影響が及ぶ場合に,顧客がライセンス期間全体を通じて直近の形態・機能性・価値での知的財産を使用しているといえます。企業が知的財産に影響を与える活動を行ったとしても,顧客の権利に何ら影響を与えない場合には単に自らの知的資産を変化させ,将来において便益を提供する能力に影響を与えるだけで,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(IFRS/BC 409)。 

 

(c) 顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として,企業の活動が生じたとしても,財又はサービスが顧客に移転しないこと

顧客が権利を有している知的財産に影響を与える企業の活動には,顧客との契約に含まれる他の独立した約束(履行義務)を充足する活動を除外します。そのような活動が生じるにつれて顧客に移転する財又はサービスは,ライセンスとは独立の別個の財又はサービスであり,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(IFRS/BC 410)。 

例えば,ソフトウェア・ライセンスを供与する約束を含む契約において,取引慣行,公表した方針等により顧客のソフトウェアをアップデートするサービスを提供する約束が含意される場合がありますが(IFRS/BC 87),ソフトウェアをアップデートするサービスは,ライセンスとは別個のものとして識別するため,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません。したがって,ソフトウェアをアップデートする企業の活動は,(a)の要件に該当する企業の活動ではなく,その活動によって顧客の権利に直接的な影響が及ぶとしても(b)の要件を充足しません。このようなソフトウェア・ライセンスは,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利です(IFRS/BC 410)。 

 

● 企業の知的財産にアクセスする権利の会計処理

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区別する場合には,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します(指針62)。 

 

☞企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質について,(a)ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが,契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること,(b)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により,顧客が直接的に影響を受けること,(c)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として,企業の活動が生じたとしても,財又はサービスが顧客に移転しないことの要件のすべてに該当する場合には,企業の知的財産にアクセスする権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。 

 

4.企業の知的財産を使用する権利

 

企業は,企業の知的財産にアクセスする権利の要件(指針63)のいずれかに該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し(指針64),ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します(指針62)。 

企業は,収益を一時点で認識するため,本基準第40項に従い,ライセンスに対する支配が顧客に移転する時点を決定します(指針147)。 

この場合,顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できる期間の開始前に収益を認識することはできません。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業がソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用できるようにするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません(指針147)。 

 

☞企業は,企業の知的財産にアクセスする権利の要件のいずれかに該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区別し,ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務と判定します。例えば,ライセンス期間が開始していても,企業がソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供するなどの方法で当該ソフトウェアを利用できるようにするまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識することはできません。 

 

5.売上高又は使用量に基づくロイヤルティ

 

● 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ

売上高又は使用量に基づくロイヤルティとは,顧客が契約において知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価をいい,変動対価に該当します。 

 

● ロイヤルティ制限の目的

企業は,別段の定め(ロイヤルティ制限)がない場合,売上高又は使用量に基づくロイヤルティを変動対価として識別し,一般的な変動対価として,本基準第50項~第55項に従い,以下のとおり取引価格を算定し,収益を認識することとなります。 

まず,企業は,通常は期待値により,顧客の将来にわたる売上高又は使用量を予測し,予測された売上高又は使用量から算定されるロイヤルティの額を確率で加重平均した金額として変動対価を適切に見積ります(第51項)。 

次に,企業は,変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い範囲で,将来にわたる最小限のロイヤルティの合計額を取引価格に含め,収益を認識することとなります(第54項)。 

しかし,このような会計処理によると,特に契約の存続期間が長期間にわたる場合,契約における取引開始日に認識した収益の額について多額の修正を繰り返すことになり,財務諸表の利用者に目的適合性のある情報をもたらしません(IFRS/BC 219,415)。 

そこで,適用指針は,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについては,それが配分されている履行義務が充足されるだけでなく,変動対価の額に関する不確実性が解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)まで変動性のある金額の収益を認識してはならないこととしました(指針151,IFRS/BC 415,421I)。 

 

● 要件

企業は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価(売上高又は使用量に基づくロイヤルティ)が知的財産のライセンスのみに関連している場合,あるいは当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目である場合にロイヤルティ制限を適用します(指針67)。 

例えば,ロイヤルティが関連する財又はサービスの中で,ライセンスに著しく大きな価値を顧客が見出すことを,企業が合理的に予想できる場合には,当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目であるといえます(指針152)。 

適用指針は,ロイヤルティ制限を知的財産のライセンスを伴う限定的な状況にのみ適用しており(指針151,IFRS/BC 416~421),財務諸表の利用者がライセンス契約であると考える可能性が高い範囲にロイヤルティ制限の適用を限定します(IFRS/BC 421D,421F)。 

 

● 収益の認識(ロイヤルティ制限)

企業は,次の(a)又は(b)のいずれか遅い方で,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについての収益を認識します(指針67)。 

(a) 知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時
(b) 売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時

 

● ライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価

上記要件を満たす場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体についてロイヤルティ制限を適用します。逆に,上記要件を満たさない場合は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した変動対価の全体を一般的な変動対価として取り扱い,本基準第50項~第55項を適用します(指針68)。 

企業は,顧客が知的財産のラインセンスと交換に約束した変動対価は,その中にライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価が含まれるとしても,対価を分割することなく,その全体にロイヤルティ制限を適用するか,又はその全体を一般的な変動対価として取り扱うかのいずれかで会計処理します(IFRS/BC 412J)。 

 

☞企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量に基づくロイヤルティに,知的財産のライセンスのみが,又は知的財産のライセンスが支配的な項目として関連している場合には,①知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時,②売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時のいずれか遅い方で収益を認識します(ロイヤルティ制限)。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.11更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

ライセンスの供与①

 

2018年10月11日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「ライセンスの供与①」 目次と概要

 

1.適用指針「ライセンスの供与」の概要

 

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(指針61),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,①ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別し,②ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し(指針61),逆に,別個のものである場合には,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。

企業は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,ライセンス供与における企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します(指針62)。

また,企業は,顧客がライセンスと交換に約束した売上高又は使用量に基づくロイヤルティについては,顧客の売上高又は使用量の実績が生じるまで収益を認識できません(指針67)。

適用指針「ライセンスの供与」(指針61~68)は,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別するかどうかや,識別した履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)をどのように判定するか,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについての指針を提供しています。

 

☞企業は,ライセンスを供与する約束を,①ライセンスを目的とする契約では常に,②ライセンスを含む契約では契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものである場合に独立した履行義務として識別したうえ,企業の約束の性質を①ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又は②ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,①は一定の期間にわたり充足される履行義務と,②は一時点で充足される履行義務と判定します。

 

2.ライセンス供与

 

● ライセンス供与

ライセンスとは企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(指針61),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。

 

● 知的財産

知的財産とは,特許,著作,意匠,商標,ノウハウ(営業秘密その他技術上又は営業上の情報)などの無体物としての財産であり,将来的にも広がる可能性があります。

知的財産は,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。

適用指針は,ライセンスを供与する知的財産の例として,(a)ソフトウェア及び技術,(b)動画,音楽及び他の形態のメディア・エンターテインメント,(c)フランチャイズ,(d)特許権,商標権及び著作権を挙げています(指針143)。

 

● ライセンス

ライセンスは,企業の知的財産を一定の範囲で利用する顧客の権利です。ライセンスの本質は,知的財産を保有する企業が,顧客に対し,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,その反面として,顧客は,企業の知的財産を一定の範囲で利用する権利を取得します。企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これをライセンスの属性と呼びます(IFRS/B 62(a))。

ライセンスは,顧客の権利であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。ライセンスの属性は,企業が保有する知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がありません(指針66(1)参照)。

 

☞知的財産は,特許,著作,意匠,商標,ノウハウなどの無体物としての財産であり,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。ライセンスは,企業の知的財産に対する顧客の権利であり,企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間,地域,用途等)を定めます。

 

3.ライセンスの本質

 

ライセンスの本質は,知的財産の保有者(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。

ライセンスは,この本質に関連し,以下の2つに分類されます。

法律上の禁止権を解除するライセンス

企業が保有する知的財産が,特許権,著作権,意匠権,商標権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように,法律上,第三者に対して一定の知的財産の利用を禁止する(侵害行為を差し止める)ことができる場合,ライセンスの本質は,契約により,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用に対する禁止権(侵害行為差止請求権)を行使してはならない義務を負うことにあります。

特許権,意匠権,商標権のように登録型の知的財産は,一般にこのライセンスに分類されますが,著作権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密など)のように非登録型の知的財産は,法律上の禁止権が存在するかどうかが不確実であるため,この類型と次の類型の両方の性質を有することも少なくありません。

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

企業が保有する知的財産が,法律上,第三者に対し,一定の知的財産の利用を禁止することができないものの,保有者から許諾を受けなければ,事実上利用ができない場合,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用を事実上可能にし,契約により顧客にそれ以外の利用や第三者への提供をしてはならない義務を負わせることにあります。

例えば,著作権法は,プログラムの著作物を本来の用法に従って使用(起動,操作等)することや第三者に提供することを禁止していないため,企業は,ソフトウェア使用許諾契約で,顧客にプログラム著作物を引き渡してその使用を事実上可能にするとともに,それ以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしにプログラム著作物を利用できない事実状態を作り上げています。

 

☞ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあり,法律上の禁止権を解除するライセンスと事実上の禁止状態を作り出すライセンスに分類されます。

 

4.ライセンスを供与する約束の識別

 

● ライセンスを供与する約束

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,ライセンスを供与する約束を識別します。

ライセンスを供与する約束は,契約書では,一般に,企業が,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲(期間,地域,用途等)で利用することを“許諾する”という表現を用います。この許諾がライセンスを供与することを意味しており,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限してはならない(不作為)義務を負うことにあります。企業は,この義務を負うことによって,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲で利用できるようにするサービスを提供します。

ライセンスを目的とする契約(ライセンス契約)

企業(ライセンサー)が一定の知的財産の利用を顧客(ライセンシー)に許諾し,顧客がその対価(ライセンス料)を支払うことを約する契約(ライセンス契約)は,ライセンスを目的とする契約であり,ライセンスを供与する約束は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務に位置づけられます。フランチャイズ契約も,多くの場合,企業(フランチャイザー=本部)が特許権やノウハウ(営業秘密),商標権などの知的財産の利用を顧客(フランチャイジー=加盟店)に許諾し,顧客がその対価(加盟金,ロイヤルティ)を支払うので,ライセンス契約に該当します。

ライセンスを含む契約

ライセンスでない他の財又はサービスを契約の目的とする売買契約や(準)委任契約(委託契約),請負契約がライセンスを供与する約束を含む場合があります。ライセンスを含む契約では,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を識別します。ライセンスを供与する約束は,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務に位置づけられ,ライセンスが契約の目的とされた財又はサービスと別個のものかどうかを識別する必要があります。

 

● 顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスの提供

企業は,顧客に対し,ライセンスを供与するとともに,許諾した一定の知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスを提供することも約束する場合があります。

企業は,このような財又はサービスを提供する約束が,ライセンスを供与する約束と区分して識別可能か(契約の観点において別個のものか)について(第34項(2)),ライセンスの本質を考慮します。

法律上の禁止権を解除するライセンス

法律上の禁止権を解除するライセンスでは,顧客が,企業に無断で知的財産を事実上利用すれば,企業から禁止権(侵害行為差止請求権)を行使されるため,ライセンスを供与する約束は,その行使をしないようあらかじめ企業から許諾を受けることを意味し,その許諾(不作為)だけがライセンスの本質に関わる約束です。

したがって,企業が顧客による一定の知的財産の利用を事実上容易にするための財又はサービスを顧客に移転することは,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別する場合があります。例えば,企業が商品の製造・販売の方法に関する特許やノウハウ(営業秘密)のライセンスを供与するにあたって,公開されている特許情報や開示したノウハウ(マニュアル)とは別に,顧客の従業員を実技形式で指導支援することを約束するときは,多くの場合,別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別します。

事実上の禁止状態を作り出すライセンス

事実上の禁止状態を作り出すライセンスでは,顧客は,一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為がない限り,その知的財産を事実上も利用できないため,ライセンスを供与する約束は,企業からその行為(作為)を伴う許諾を受けることを意味します。他方で,企業が,顧客に対し,許諾した一定の範囲以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしに知的財産を利用できない事実状態を作り上げるので,この禁止(拘束)に関する顧客の義務も,ライセンスの本質に関わる不可分な約束です。

顧客による一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為には,例えば,動画・音楽・プログラム等を保存した記憶媒体(メディア)の引渡し,ソフトウェアの使用やオンライン・サービスへのアクセスに必要なコード(ユーザID・パスワード等)の提供などがあります。これらの財又はサービスは,ライセンスの供与とは別個のものとなり得るとしても(第34項(1)の要件を満たす),多くの場合,当該財又はサービスの移転なしに知的財産を事実上利用できないので,当該財又はサービスを移転する約束は,ラインセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第34項(2)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。

 

● 独占的なラインセンスの供与

ライセンスを供与する契約条項では,“独占的な”又は“非独占的な”権利を許諾するという表現が用いられることが少なくありません。ライセンス契約に独特の慣行的な表現であり,一般的には,次のように解釈します。

独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占するという意味合いであり,企業(ライセンサー)は,顧客に対し,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を負います。

独占的な権利のライセンスでは,ライセンスを供与する約束のほか,顧客に許諾した一定知的財産の利用を第三者に許諾してはならない義務を,契約における約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務)として識別することができます。

このような追加的な約束は,顧客が購入したライセンスに独占性を付与して経済的価値を高めるものであり,顧客が追加的な約束のみを購入し,ライセンス自体を購入しないことを決定することはできません。したがって,このような追加的な約束は,ライセンスへの依存性や相互関連性が高く(指針6(3)),多くの場合,ライセンスを供与する約束と区分して識別できないため,契約の観点において別個のものとはいえず(第34項(2)の要件を欠く),併せて単一の履行義務を識別します。

非独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占しないという意味合いであり,企業は,顧客にライセンスを供与すること以外に追加的な拘束を受けないので,当該顧客以外の第三者に対しても,同一の知的財産につき当該顧客に許諾した範囲の利用を重ねて許諾して,当該第三者からもライセンスの対価を受け取ることができます。

 

● 契約に含意されている約束

フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレード(IFRS/BC 87),フランチャイザーが行う新製品・メニューの投入,販促キャンペーンなど,契約条項に定められた企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務とはいえなくとも,企業が顧客と契約を締結する時までに生じた取引慣行,公表した方針等により財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します(第127項)。

 

☞顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするために財又はサービスを顧客に移転することは,多くの場合,法律上の禁止権を解除するライセンスでは別個の財又はサービスとして独立した履行義務を識別しますが,事実上の禁止状態を作り出すラインセンスではライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。企業は,独占的な権利のライセンスでは,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾しないことを追加的に約束しますが,多くの場合,ラインセンスへの依存性や相互関連性が高いため,ライセンスを供与する約束と併せて単一の履行義務を識別します。フランチャイズ契約などライセンスを目的とする契約には,取引慣行,公表した方針等により,ソフトウェアのアップグレードやフランチャイザーの活動について契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。

 

5.ライセンス供与と履行義務の識別

 

● ライセンスを目的とする契約

企業は,ライセンスを目的とする契約では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務としてライセンスを供与する約束を識別し,独立した履行義務として識別します。

 

● ライセンスを含む契約

企業は,ライセンスを含む契約では,他の種類の契約と同様に,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,本基準第32項~第34項に従って履行義務を識別します(指針144)。

企業は,まず,契約における約束として,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を識別し,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務としてライセンスを供与する約束を識別します。

次に,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務として識別し(指針61),逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。

例えば,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものではないライセンスの例として,次のようなものがあります(IFRS/B 54)。

有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるライセンス

ソフトウェアが有形の財(例えば,自動車)の構成部分となっていて,その財がどのように機能するかに大きく影響を与える場合など,ライセンスが有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるときは,当該ライセンスは,有形の財に統合されており,アウトプットである当該財を製造するためのインプットにすぎません(指針6(1))。

関連するサービスとの組合せでのみ顧客が便益を得ることのできるライセンス

例えば,企業の主幹設備(システムなど)にオンラインのアクセスによってのみ顧客がソフトウェアを使用することを可能にするサービス(ホスティング又はストレージのサービスなど)では,ライセンスの使用は,オンライン・サービスへの依存性又は相互関連性が高く(指針6(3)),顧客は,ライセンスに対する支配を獲得していません。

 

☞企業は,ライセンスを目的とする契約では,ライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別します。ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別し,逆に,別個のものである場合は,独立した履行義務として識別します。

 

6.ライセンス供与と履行義務の属性の判定

 

● 独立した履行義務であるライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定しますが,その判定にあたって,ライセンス供与における企業の約束の性質を次の2類型に区別します(指針62)。

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利
ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

 

● 独立した履行義務でないライセンス

企業は,ステップ2で,ラインセンスを供与する約束が別個のものでなく,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,Step5「履行義務を充足した時又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務(ライセンスの供与を含みます。)について,契約における取引開始日に,本基準第35項~第40項に従って,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します(指針61)。

 

☞企業がライセンスを供与する約束を独立した履行義務として識別したときは,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利又は企業の知的財産を使用する権利の2類型に区別し,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か一時点で充足される履行義務か)を判定します。他方,企業がライセンスを供与する約束を契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と一括して単一の履行義務を識別したときは,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務としてその属性を判定します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.10.01更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

返金が不要な顧客からの支払

 

2018年10月1日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 6ページ

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返金が不要な顧客からの支払

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「返金が不要な顧客からの支払」 目次と概要

 

1.適用指針「返金が不要な顧客からの支払」の概要

 

企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(指針141)。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)を提供する義務を識別しますが,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。返金が不要な顧客からの支払は,①契約更新オプションがある場合に契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があること(指針58),②一定の期間にわたり充足される履行義務に係る進捗度をコストに基づくインプット法により見積るにあたって関連する活動及びコストの影響を除くこと(指針60)に留意する必要があります。

他方,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(指針59)。

適用指針「返金が不要な顧客からの支払」(指針57~60)は,企業が,顧客に返金が不要な支払を課す場合に,関連する履行義務の識別や会計処理についての指針を提供しています。

 

☞企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課すことがありますが,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。他方,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

2.返金が不要な顧客からの支払

 

● 返金が不要な顧客からの支払

企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(指針141)。

返金が不要な顧客からの支払は,顧客が対価(手数料)を支払う強制可能な義務であり,契約においてその義務の内容(手数料の金額,支払期限等)が明示されます。支払期限は,契約における取引開始日又はその後であり,顧客は,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)の提供を受ける前に支払うことを約束します。

これに対し,企業は,当該契約において,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を負います。

返金が不要な顧客からの支払は,企業が契約における取引開始日又はその前後において,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転するために行わなければならない契約のセットアップに伴う契約管理活動(負担)を経済的に補償する趣旨であることが多く,契約においてその旨(入会手数料,加入手数料など)を明示することもあります(指針141,142)。

 

● 履行義務の識別

まず,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。

次に,企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうかを判断します(指針57)。

多くの場合,企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行っても財又はサービスが顧客に移転しません(指針142)。例えば,サービスを提供する企業が契約をセットアップするために契約管理活動を行いますが,それらの活動によりサービスが顧客に移転することはありません(指針4)。

また,企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連して約束した財又はサービスを顧客に移転する場合でも,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務と独立した履行義務として処理すべきかどうかを判断します(指針59)。

多くの場合,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を履行するために契約のセットアップに伴う契約管理活動を行う必要がありますが,顧客は,返金が不要な支払をしたからといって,直接,企業にそのような活動を強制することを予定していませんので,必ずしも返金が不要な顧客からの支払と交換に企業がどのような活動を行うのかについて契約において特定して明示する必要がありません。

そのため,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行うという企業の約束が,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と区分して識別できず,契約の観点において別個のものとはいえず(第34項(2)),独立した履行義務とはいえない場合が少なくありません。

したがって,企業は,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。

もっとも,企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連して,顧客に対し,契約更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。

 

● 将来の財又はサービスの移転に対する前払

企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務に配分されます。

したがって,返金が不要な顧客からの支払は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するつれて収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます(指針58)。

 

☞企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,返金が不要な顧客からの支払に関連した活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうか,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と独立した履行義務として処理すべきかどうかを判断します。多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連した活動により約束した財又はサービスが顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。この場合,返金が不要な顧客からの支払は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するつれて収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます。

 

3.返金が不要な顧客からの支払と更新オプション

 

● 契約更新オプション

契約更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。

契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,取引慣行,公表した方針等により企業が更新を拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

 

● 履行義務の識別

企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合でも,顧客に対し,契約更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。返金が不要な顧客からの支払が契約のセットアップに伴う契約管理活動に関連する場合には,同一の顧客に関する更新に際して改めて企業にそのような負担が生じない場合が多いので,顧客は,企業が改めて返金が不要な支払を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制力のある義務を負い,あるいは,②取引慣行,公表した方針等により,拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。

そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります(指針48)。

 

● 更新オプションの会計処理

企業が契約更新オプションの付与に係る履行義務を識別する場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②契約更新オプションの付与に係る履行義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなります。

しかし,契約更新オプションの独立販売価格の算定が複雑であるため,実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(指針51,IFRS/BC 393)。

したがって,企業は,返金が不要な顧客からの支払につき,契約の目的とされた財又はサービスに関して契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があります(指針58)。

 

☞顧客は,企業が改めて返金が不要な支払を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制力のある義務を負い,あるいは,②取引慣行,公表した方針等により,拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります。この場合,更新オプションの会計処理により,企業は,返金が不要な顧客からの支払につき,契約の目的とされた財又はサービスに関して契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があります。

 

4.返金が不要な顧客からの支払とインプット法

 

● インプット法

インプット法は,アウトプット法と並び,一定の期間にわたり充足される履行義務に係る進捗度を測定する方法であり,履行義務の充足に使用されたインプットと契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプットの比率に基づき収益を認識します(指針20)。

指標として,例えば,消費した資源,発生した労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(指針20)。

 

● 履行義務の充足に係る進捗度の見積り

返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,企業は,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定するときは(第36項,第38項),履行義務の充足に係る進捗度を見積るための適切な方法を選択しなければなりませんが,コストに基づくインプット法を選択・適用するにあたって,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動に係るインプットの取扱いに留意する必要があります。

インプット法は,インプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がなく,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないことが少なくありません(指針117)。

企業は,インプットを適用する場合,顧客に財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写しないものの影響を除外しなければなりません(指針21)。

返金が不要な顧客からの支払に関連する活動が,例えば,契約締結活動(契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動で発生するコストなど,顧客に財又はサービスを移転しない場合は,当該活動及び関連するコストの影響をインプットから除外します(指針60)。

 

☞企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別せず,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定する場合には,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動(例えば,契約のセットアップに伴う契約管理活動など)が顧客へのサービスの移転を描写しないので,インプット法の適用にあたって,当該活動及び関連するコストの影響を除外しなければなりません。

 

5.返金が不要な顧客からの支払に関連する独立の履行義務

 

企業が,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(指針59)。

この場合,企業は,顧客との契約において,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行う義務を含む複数の履行義務を識別します(複数要素契約)。Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行う義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなりますが,返金が不要な顧客からの支払について契約上の価格を独立販売価格であると推定してはならないことに留意する必要があります(第125項)。

 

☞企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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