法律会計フォーラム

2018.12.19更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

返品権付きの販売

 

2018年12月19日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「返品権付きの販売」 目次と概要 

 

1.適用指針「返品権付きの販売」の概要

 

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

企業は,返品権付きの販売では,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務に加え,返品権に関する約束を識別します。返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。企業が返品権付きの販売を識別したときは,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。

企業は,顧客に資産を移転した時に,契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識し,顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識せず,返金負債を認識します。

適用指針「返品権付きの販売」(指針84~89)は,返品権付きの販売に関する会計処理の指針を提供しています。

 

☞返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。企業は,返品権付きの販売について,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識し,かつ,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識したうえ,各決算日に返金負債・返品資産の評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

 

2.返品権付きの販売

 

● 返品権付きの販売

返品権付きの販売とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産の返還を受け,その代償を提供する義務を負う契約をいいます。

返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

なお,返品権付き販売として処理する契約には,企業が顧客の一方的な意思表示により支払った対価の代償を提供する義務を負う役務提供契約(返金条件付きサービス契約)も含まれます(指針85)。

 

● 売買契約(販売)

返品権付きの販売は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。

返品権付きの販売の処理は,顧客が返品権を行使する前に,資産(商品又は製品)の支配が顧客に移転していることが前提となります(指針84)。

顧客との契約で検収が予定されており,企業が提供した資産が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合せず,検収の完了(検査の合格)前に,顧客が当該資産を返還して代替物の提供を求める場合は,一般に当該資産の支配が顧客に移転していませんので(第40項(2),(5),指針80~83参照),返品権付きの販売として取り扱いません。

また,企業が,資産を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合に,需要者に移転するまで当該他の当事者が当該資産の支配を獲得することがないときは,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり(指針75),返品権付きの販売として取り扱いません。

 

● 返品権

返品権とは,顧客が一方的な意思表示により,企業から購入した資産を返還する代わりに,次のような代償を受ける権利をいいます(指針84)。

(1) 顧客が支払った対価の全額又は一部の返金
(2) 顧客が企業に対して支払義務を負う又は負う予定の金額に適用できる値引き
(3) 別の商品又は製品への交換

いったん資産(商品又は製品)の支配が顧客に移転した後に,顧客が同じ種類,品質,状態及び価格の別の資産と交換すること(例えば,別の色又は大きさのものとの交換)は,本基準の目的上,返品権付きの販売として取り扱いません(IFRS/B 26)。

 

● 同一機会

返品権に関する約束は,売買契約(販売)と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か,文書か口頭か)は問いません。

企業が資産(商品又は製品)の支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該資産の返還を受け,その代償を提供することを事後的に約束することは,返品権付きの販売ではありません。もっとも,このようなケースでは,当初の売買契約までに,取引慣行,公表した方針等により返品の約束が含意されていたかどうかを検討する必要があります。

 

☞返品権付きの販売は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②顧客が一方的な意思表示により当該資産を返還する代わりに,その代償を受ける権利を有すること(返品権),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。

 

3.返品権付きの販売の識別

 

● 返品権付きの販売の識別

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(契約における本来の債務=給付義務)である,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務を識別します。

返品権付きの販売の場合では,企業は,これに加え,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務(法律上の債務)又は契約に含意されている約束として,返品権に関する約束を識別します。

返品権に関する約束は,契約書の中で返品に関する条項として明示的に定められることもありますが,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。一般的に,生鮮食料品の業界,出版業界,医薬品業界などでは,返品の取引慣行があるといわれています。返品の可能性と返品期間の長さは,業界ごとに大きく異なり,例えば,生鮮食料品の業界では,出版業界よりも返品率が低く返品期間も短いのが通常です(IFRS/2010ED B 5)。業界や企業の取引慣行を考慮するときには,企業と顧客との間でその慣行に従う意思を示す事実及び状況(例えば,企業がこれまで顧客からの返品を受け入れてきた実績があるかどうか)も重要になります。

また,消費者との訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供契約・業務提供誘引販売取引(以上,特定商取引法),クレジット契約(割賦販売法),商品預託取引(特定商品預託取引法)には,クーリングオフ制度の適用があります。企業が資産を顧客に移転した後,クーリングオフ期間満了前に申込の撤回,解除がされる場合には,契約書に返品に関する条項がなくとも,返品権付きの販売として取り扱います。通信販売では,一定の要件を満たす特約がない限り法定返品権が認められますので,返品権付きの販売として取り扱います。このようなクーリングオフ制度などの法律による規制が,業界における自主規制などを促進し,返品の取引慣行を醸成する場合もあります。

 

● 返品の条件(理由)

返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産(商品又は製品)を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「財又はサービスに対する保証」(指針34~38)として処理します(指針89)。

実際に顧客が返品する理由は,資産に不満があることや,資産を第三者に販売できなかったことなどさまざまで構いませんが(IFRS/2010ED B 6),資産を正常に利用することができないという理由がなければ返品できない場合には,企業は,財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証又はそれに加えて顧客にサービスを提供することになります。そこで,企業は,返品権に関する約束が,契約の観点において,顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務)と別個なのかどうか(本基準第34項(2))を判定するため,適用指針「財又はサービスに対する保証」に従って処理します。

 

☞返品権に関する約束は,企業が属する業界又は企業自らの取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合やクーリングオフ制度など法律により定められる場合もあります。返品権の行使に顧客の選択(顧客の意思決定)以外の条件として,資産を正常に利用できないという理由が必要とされる場合には,返品権付きの販売ではなく,適用指針「財又はサービスに対する保証」(指針34~38)として処理します。

 

4.返金負債

 

● 返品の受け入れに備えるサービス

企業は,返品権付きの販売について,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,①顧客に資産(商品又は製品)を移転する履行義務と,②返品権に関する約束を識別しますが,②の約束は,返品受入期間中に返品される商品又は製品の受け入れに備えるサービス(便益)を顧客に提供し,①の約束と区分して識別できるため,契約の観点において別個のものであり(第34項),返品権サービスについての独立の履行義務を識別することができます(IFRS/BC 363)。

仮に返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別する場合には,Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」で,当該サービスの契約における取引開始日の独立販売価格を算定し(第68項),顧客に資産を移転する履行義務の独立販売価格との比率に基づいてそれぞれの履行義務に取引価格を配分します(第66項)。

しかし,返品権付きの販売の多くは,返品の数が全体の販売の中の小さな割合しかないと予想され,返品期間も短いので,契約における取引開始日に返品の受け入れに備えるサービスの独立販売価格を見積り,独立の履行義務として処理したとしても,それにより財務諸表利用者に提供される情報がもたらす効果は,そのような処理の複雑性やコストに見合いません。そこで,適用指針は,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として処理しないこととしました(指針161,IFRS/BC 366)。

 

● 返金負債

企業は,実質的に不確定な(数量の)販売を行っており,返品権が消滅した時にはじめて販売の成立・不成立を確定するので,企業が最終的に返還せずに保持すると見込む対価の額に基づき収益を認識することが適切です。

そこで,適用指針は,顧客が返品権を行使した結果として不成立になると予想される販売について,企業は収益を認識すべきではなく,その代わりに顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識することとしました(IFRS/BC 364)。

企業は,顧客に資産を移転し,履行義務を充足した時点で収益を認識しますが(第39項),適用指針は,認識すべき収益の額(すなわち,返金負債の額)を決定するにあたって,企業が契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,変動対価の認識及び測定に関する原則を含むStep3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用しなければならないものとしました。この原則には,変動対価の見積りの制限(本基準第54項)も含まれますので,企業は,返品権に関する不確実性が事後的に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り収益を認識することになります。

これにより,企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識します。顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,顧客から受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識しなければなりません(第53項,指針85(2),IFRS/BC 365)。

 

☞企業は,返品権付きの販売について,返品の受け入れに備えるサービスを独立の履行義務として識別せず,その代わり顧客に返金する義務に係る負債(返金負債)を認識します。企業は,顧客に資産を移転した時に,企業が契約終了時に保持すると見込む対価の額を取引価格とみなして,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額だけを収益として認識し,顧客から受け取った又は受け取る対価のうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)については,収益を認識してはならず,返金負債を認識します。

 

5.返品権付きの販売の会計処理

 

● 収益・返金負債・返品資産

企業は,返品権付きの販売について,次の収益・返金負債・返品資産のすべてを処理します(指針85)。

収益

 企業は,顧客に資産(商品又は製品)を移転したときは,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額で収益を認識します。

返金負債

 企業は,対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち企業が権利を得ると見込まない額(返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について返品資産を認識し,これに対応して売上原価を修正します。

 

● 当初認識

収益

 企業は,顧客に資産(商品又は製品)を移転し,履行義務を充足したときに,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,企業が権利を得ると見込む対価(返品が見込まれない資産の対価)の額を算定し,収益を認識します(指針85(1),86)。企業が認識する収益は,変動対価の見積りの制限(第54項)により,返品権が消滅する時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限られます(IFRS/BC 365)。

返金負債

 企業は,顧客から対価又は対価を受け取る無条件の権利(債権)を認識するときは,そのうち収益として認識しない金額(企業が権利を得ると見込まない額=返品が見込まれる資産の対価)で返金負債を認識します(第53項,指針85(2))。

返品資産

 企業は,返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産(例えば,棚卸資産)の従前の帳簿価額から予想される回収費用(当該資産の価値の潜在的な下落の見積額を含みます。)を控除した額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します(指針85(3),88)。 


● 事後の見直し

収益

 企業は,各決算日に,Step3「取引価格を算定する」の規律(本基準第47項~第64項)を適用し,顧客に移転した資産と交換に権利を得ると見込む対価の額を見直し,これに対応する取引価格(認識した収益の額)を変更します(指針87)。

返金負債

 企業は,各決算日に,返金負債の額を見直し,返金負債に対応する調整を収益又は収益の減額として認識します(第53項,指針87)。

返品資産

 企業は,各決算日に,予想される回収費用(当該資産の価値の潜在的な下落の見積額を含みます。)を控除した額(返品資産の額)を見直します(指針88)。  


☞企業は,返品権付きの販売について,収益・返金負債・返品資産のすべてを処理します。企業が返金負債を認識したときは,返金負債の決済時に顧客から資産を回収する権利について,当該資産の従前の帳簿価額から予想される回収費用を控除した額で返品資産を認識し,これに対応する売上原価を修正します。企業は,各決算日に収益・返金負債・返品資産について評価を見直し,認識した収益と費用(売上原価)を調整します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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