法律会計フォーラム

2018.12.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)

 

顧客による検収

 

2018年12月7日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

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「顧客による検収」 目次と概要

 

 

1.適用指針「顧客による検収」の概要

 

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。 

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えませんので,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合があります(指針80)。 

逆に,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収が完了するまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(指針82)。 

適用指針「顧客による検収」(指針80~83)は,検収の契約条項と顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点についての指針を提供しています。 

 

☞検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。検収の契約条項は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点に影響を与える場合があります。 

 

2.検収

 

● 検収

検収とは,顧客が企業から提供された財又はサービスについて契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。 

検収は,商法526条1項が定める「検査」に該当します。商人間の売買では,買主(顧客)は,売主(企業)から提供を受けた目的物を遅滞なく検査し,適時に契約不適合を発見して通知しなければ,売主(企業)に対する責任追及が制限されます(商法526条2項)。 

顧客との契約では,多くの場合,検収が予定されており,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

● 契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)の内容

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」において,契約における約束として,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。 

企業がこの義務を履行するために顧客に提供した財又はサービスは契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければならず,その条件に従っていない場合には,企業の履行は完了しません。 

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱い

法律上,企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。 

法律上,企業が合意された条件に従っていない財又はサービスを提供した場合の取扱いは,契約に定めがあればそれに従い,契約に定めがない場合には民法・商法が定める任意規定に従います。 

企業は,合意された条件に従っていない財又はサービスを提供したときは,民法の任意規定に従い,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任を負います(民法562条)。また,顧客は,企業に対し,相当の期間を定めて履行の追完を催告し,その期間内に履行の追完がないときは,代金の減額を請求することができます(民法563条)。なお,顧客は,一般原則に従い,債務不履行を理由に損害の賠償(民法415条),契約の解除(民法541,542条)をすることもできます(民法564条)。 

他方,これらの企業の責任には期間制限があり,顧客は,目的物が契約に適合しないことを知ってから1年以内に企業に通知しない限り,履行の追完,代金の減額,損害の賠償を請求し,又は契約を解除することができません(民法566条)。

 
● 顧客の検査義務

顧客は,契約不適合を知ってから1年以内に企業に通知すれば,企業の責任を追及することができるという民法の期間制限では,企業は,責任追及される可能性を抱えたまま長期間不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,商法は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買については,顧客は,受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い(商法526条1項),検査後直ちに企業に通知しなければ,目的物が契約に適合しないことを理由に企業の責任を追及できないこととしています。また,検査によって直ちに発見することができない契約不適合(隠れた瑕疵)であっても,受領後6か月以内に企業に通知しなければ,同様に責任追及ができないこととしています(商法526条2項)。 


● 契約における検収の位置づけ

売買契約については,民法・商法に債務不履行責任の特則として,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任や期間制限に関する任意規定がありますので(民法561条~572条,商法526条),多くの場合,顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられます。請負契約,(準)委任契約その他の契約類型についても,売買契約に関するこれらの任意規定が準用されますので(民法559条),顧客との契約において,これらの任意規定と異なる特約として不完全な履行に関する条項が設けられる場合があります。 

商法は,顧客が目的物を受領してから「遅滞なく」検査を行うことを義務づけていますが,顧客との契約においては,これを明確化するため,目的物の納品,納入又は受領後,顧客が所定の期間内に検査結果を通知することを義務づけ,通知がないまま所定の期間を経過したときは検査に合格したものとみなす旨を定める場合も少なくありません。また,企業の不完全な履行に関する責任については,民法改正前の用語に倣い,条項中に「瑕疵」という表現を用いることも多く見受けられます。 

 

☞企業は,契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,特約がない限り,履行の追完(目的物の修補,代替物・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償の責任を負います。商法は,このような企業の責任追及の期間を制限するため,商人間の売買について,買主(顧客)に検査を義務づけていますので,一般に,顧客との契約において,取引の実情に応じて,商法の定め(任意規定)を明確化し,又は変更する目的で検収の取扱いを定めます。 

 

3.検収と支配の移転

 

● 物理的占有の移転を伴わない支配の移転

商品又は製品の販売では,顧客との契約において,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める場合が多く,「引渡し」により当該商品又は製品の法的所有権を顧客に移転する旨の明示の合意があるか,又は黙示の合意が含まれると解釈できるため,「引渡し」の時点で,顧客が当該商品又は製品の法的所有権を有していること(第40項(2))の指標を満たします。したがって,多くの場合,法的所有権(第40項(2))の指標によって,顧客が「引渡し」の時点で当該商品又は製品に対する支配(当該商品又は製品の使用を指図し,当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力)を獲得します。 

このような契約では,企業が顧客の住所・営業所等に商品又は製品の物理的占有を移転することを「納品」や「納入」などのように「引渡し」と異なる用語で表現することが少なくありません。「納品」や「納入」などの時点では,企業が当該商品又は製品の物理的占有を移転したこと(第40項(3))の指標を満たしますが,一般に顧客が当該商品又は製品の法的所有権を有していること(第40項(2))の指標を満たしていませんので,顧客は,当該商品又は製品に対する支配を獲得していません。  

このように,検収の完了をもって「引渡し」と定める契約も,消化仕入契約・寄託品使用高払契約と同様に,短い期間ではあっても顧客が資産の物理的占有を保持しながら,企業から“支配”が顧客に移転する典型例であるといえます。 

 

● 検収と支配の移転

検収は,顧客が自ら検査して企業が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合した資産を移転し,履行義務を充足したことを確認する行為であり,検収の完了前は,顧客が代替物の提供を求めることができる場合もありますので,顧客が当該資産を検収したことは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有し,当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります(指針80)。 

 

● 検収(第40項(5))の指標の意義

商品又は製品の販売では,多くの場合,検収の完了(検査の合格)をもって当該商品又は製品の法的所有権が顧客に移転しますので,法的所有権(第40項(2))の指標とは別に,検収(第40項(5))の指標を考慮する必要がない場合も少なくありません。 

しかし,顧客との契約において,法的所有権の移転時期が不明確な場合や,企業が提供した資産が契約において合意された条件に適合しないときでも顧客が代替物の提供を求めることができない場合,検収の完了前に法的所有権が移転する旨の定めがある場合などでは,顧客が企業から提供を受けた資産の検収が完了していないのに,顧客が当該資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

☞検収は,顧客が自ら検査して企業が履行義務を充足したことを確認する行為であり,顧客が資産に対する支配を獲得したことを示す指標となります。検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約では,一般に「引渡し」による法的所有権の移転(第40項(2))の指標とは別に検収(第40項(5))の指標を考慮する必要がありません。もっとも,顧客による検収が完了していないのに,顧客が資産に対する支配を獲得するのかどうかという消極的な指標として,検収の契約条項の影響を検討することが有用な場合があります。 

 

4.顧客による検収の会計処理

 

● 検収の契約条項の検討

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。 

顧客による検収は,あくまで支配の移転の指標の一つであり,顧客による検収を予定している取引が,常に検収までは顧客が財又はサービスの支配を獲得しないものではありません。 

 

● 企業が客観的に判断できる場合(指針80)

収益の認識

契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点の判断に影響を与えません(指針80)。 

例えば,所定の大きさや重量に適合するかどうかのように検収の内容が客観的で比較的単純な場合には,企業は,顧客による検収の前にその適合性を判断できます(指針80)。また,類似の財又はサービスに関する企業の取引実績により,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていることを客観的に示すことができる場合もあります(IFRS/B 84)。 

このような場合,企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができる場合があり,その時点で履行義務を充足し,収益を認識します。 

残存履行義務の検討

企業は,顧客による検収の前に,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定する場合には,取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば,設備の据付け)を有しているかどうかについて,本基準第32項~第34項に従って検討しなければなりません(指針81)。 

 

● 企業が客観的に判断できない場合(指針82)

顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,企業は,顧客による検収が完了するまで,顧客が財又はサービスの支配を獲得したと決定することができません(指針82)。 

 

● 試用販売(指針83)

企業が商品又は製品を顧客に試用目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合には,顧客が商品又は製品を検収するまであるいは試用期間が終了するまで,当該商品又は製品に対する支配は顧客に移転しません(指針83)。 

 

☞企業は,一時点で充足される履行義務について,顧客が財又はサービスの支配を獲得する時点を決定するため,検収の契約条項の影響を考慮します。契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを企業が客観的に判断できる場合には,検収の契約条項はその時点の決定に影響を与えず,顧客による検収前に顧客が支配を獲得する場合がありますが,企業が客観的に判断できない場合には,顧客による検収が完了するまで顧客が支配を獲得したと決定することができません。 

 

5.代替的な取扱い

 

● 出荷基準等の取扱い

本基準第39項及び第40項は,一時点で充足される履行義務については,資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に,収益を認識することとしています。他方,我が国のこれまでの実務では,売上高を実現主義の原則に従って計上するにあたり,出荷基準が幅広く用いられてきており,商品又は製品の国内における販売を前提とする限り,商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には,出荷時に収益を認識しても,商品又は製品の支配が顧客に移転される時に収益を認識することとの差異が,通常,金額的な重要性に乏しいと想定され,財務諸表間の比較可能性を大きく損なわないと考えられます(指針171)。 

そこで,適用指針は,本基準第39項及び第40項の定めにかかわらず,商品又は製品の国内の販売において,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(本基準第35項~第37項,第39項及び第40項の定めに従って決定される時点,例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば,出荷時や着荷時)に収益を認識することができると定めています(指針98)。 

 

● 代替的な取扱いの要件

顧客との契約が商品又は製品の国内の販売であること

 顧客との契約が商品又は製品の販売であり,かつ,出荷,配送及び着荷が国内でなければなりません。 

出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であること

 企業は,代替的な取扱いを適用しない場合において,当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時点を決定することが前提となります。「顧客による検収時」が例示されているように(指針98),我が国の取引の実情では,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約が一般的であり,多くの場合,商品又は製品の法的所有権が顧客に移転する検収の完了時に当該商品又は製品の支配が顧客に移転されます。 

 また,企業は,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの期間が,国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数であることを確認する必要があります(指針98)。この期間は,一般に数日間程度の取引が多いものと考えられます(指針171)。 

 もし,商品又は製品が納品・納入・着荷してから顧客が検収を完了するまでの期間が長く,取引慣行に照らして不合理である場合には,代替的な取扱いができないことに留意する必要があります。 

 

● 代替的な取扱いの会計処理

企業は,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの間の一時点で(例えば,出荷時や着荷時),収益を認識することができます。

 

☞企業は,①顧客との契約が商品又は製品の国内の販売であること,②出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であることの要件を満たすときは,出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時点までの間の一時点で(例えば,出荷時や着荷時),収益を認識することができます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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