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2018.11.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

委託販売契約

 

2018年11月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「委託販売契約」 目次と概要 

 

1.適用指針「委託販売契約」の概要

 

企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合があります。

企業は,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,顧客が当該商品・製品の支配を獲得する時点を決定するため,他の当事者にその物理的占有を移転する場合(第38項(c))には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します(B 77)。

他の当事者が支配を獲得する場合には,他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

他方,他の当事者が支配を獲得していない場合には,需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(B 77)。

適用指針「委託販売契約」(B 77,78)は,企業が商品・製品を需要者に販売するために,他の当事者にその物理的占有を移転する場合に,他の当事者が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかを判定するための指針を提供しています。

☞企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します。他の当事者が支配を獲得していない場合には,企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません。

 

2.適用指針「委託販売契約」とは

 

● 委託販売契約とは

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいいます。下の模式図では,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が,企業(A)が他の当事者(B)に対して販売業務を委託するものであり,法律上の契約類型は,(準)委任契約(委託契約)です。

委託販売契約の目的は,財(委託者の商品・製品)を販売する手配サービスです。

 

● 支配の移転の時点

適用指針「委託販売契約」は,上の模式図で,委託者である企業が,いつの時点で商品・製品の対価(顧客対価)を収益として認識すべきか,という問題を取り扱います。

企業(供給者)が商品・製品を需要者Cに提供する過程に流通業者Bが関与している場合には,一般に,商品・製品が企業(A)から流通業者Bを介して需要者Cに移転しますので,需要者Cが当該商品・製品の支配を獲得する前に,企業から流通業者Bに当該商品・製品の物理的占有を移転します。

企業は,商品・製品を顧客に移転する履行義務を識別していますので,流通業者Bに当該商品・製品の物理的占有を移転した時点で,流通業者Bが当該商品・製品の支配を獲得する場合には,流通業者Bが“顧客”であり,その時点で履行義務を充足することになります。逆に,流通業者Bが当該商品・製品の支配を獲得していない場合には,需要者Cが“顧客”であり,未だ顧客に当該商品・製品の支配を移転していないので,流通業者Bに当該商品・製品の物理的占有を移転した時点では履行義務を充足していません。

このように,適用指針「委託販売契約」では,流通業者Bが商品・製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品・製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(第38項(c),B 77)。

 

● 契約の相手方

企業は流通業者Bに商品・製品の物理的占有を移転した時点で,流通業者Bが当該商品・製品の支配を獲得する場合には,企業にとって流通業者Bが“顧客”であり,Step1「顧客との契約を識別する」では,企業と流通業者Bとの間の売買契約(独立の販売)を識別すべきであったことになり,顧客である流通業者Bに当該商品・製品の支配を移転した時点で収益を認識します(BC 385E)。

逆に,流通業者Bが当該製品・商品の支配を獲得していない場合には,企業にとって需要者Cが“顧客”となります。しかし,企業と顧客である需要者Cとの間には必ずしも直接に契約が成立するわけではありません。

他方で,企業と流通業者Bとの間に委託販売契約(媒介委託を除きます。)が成立していない限り,企業と顧客である需要者Cとの間に直接に契約が成立せず,顧客との契約が成立したとみなすこともできませんので,企業にとって流通業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別することが収益を認識する前提となります。したがって,企業は,Step1「顧客との契約を識別する」では,流通業者Bとの間の委託販売契約(取次委託・代理委託)を識別するとともに,企業と需要者Cとの間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別すべきであったことになり,顧客である需要者Cに当該商品・製品の支配を移転した時点で収益を認識します。

このように,適用指針「委託販売契約」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者Cなのか,流通業者Bなのかという問題にほかなりません。

適用指針「委託販売契約」は,商品・製品の支配が移転する時点が異なることに着眼し,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で判定する支配の移転の時点の問題として取り扱います(第38項(c))。しかし,企業から直接に商品・製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方が異なることに着眼すると,本来は,契約開始時において,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と流通業者Bとの間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

☞適用指針「委託販売契約」は,流通業者が商品・製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品・製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます。また,適用指針「委託販売契約」は,企業から直接に商品・製品の支配が移転する相手方すなわち契約の相手方“顧客”が需要者なのか,流通業者なのかという問題であり,契約開始時に,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業と流通業者との間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。

 

3.本人なのか代理人なのかの検討との関係

 

● 代理人

委託販売契約から生じる収益は,他の当事者(B)が認識します。委託販売契約では,受託者である他の当事者(B)は,委託者である企業(A)に対し,商品・製品を販売する手配サービスを移転するので,「本人なのか代理人なのかの検討」では自らを代理人と判定し,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識します。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」(B 34~38)で,他の当事者(B)が自らを代理人と判定するケースには,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が委託販売契約である場合が含まれます。

 

● 適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」

他の当事者(B)がいったん企業の商品・製品の支配を獲得した後にその支配を需要者(C)に移転するときは,他の当事者(B)は,本人として当該商品・製品自体を自ら需要者(C)に移転するという履行義務を充足しますので,顧客対価を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。逆に,他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得しないときは,当該商品・製品を顧客に移転することができず,企業(A)が直接その支配を顧客に移転しますので,企業(A)が顧客対価を収益として認識すべきです。他の当事者(B)は,代理人として当該商品・製品が顧客に提供されるように手配するという履行義務を充足しますので,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

このように,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」では,商品・製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品・製品の支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(BC 380,385C~D)。

 

● 本人なのか代理人なのかの検討との関係

適用指針「委託販売契約」において,企業(A)の立場から,他の当事者(B)に商品・製品の物理的占有を移転する場合に他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことと,適用指針「本人なのか代理人なのか検討」において,他の当事者(B)の立場から,商品・製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかという評価を行うことは,同一の事象を異なる立場から評価しているという“裏返し”の関係にあります。

 

☞商品・製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品・製品の支配を獲得するかどうかという同一の事象について,適用指針「委託販売契約」で企業(A)の立場から評価することと,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」で他の当事者(B)の立場から評価することとは“裏返し”の関係にあります。

 

4.委託販売契約

 

● 委託販売契約

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,①「他人のため」②「財の販売」を③「引き受ける」という3つを要素とします。

 

● 他人のため

「他人のため」とは,少なくとも他人の計算(経済上の効果)において行うことを意味し,他人の権利義務(法律上の効果)において行うことを含みます。

 

● 財の販売

「販売」は売買契約を指し,法律上,売主の地位が受託者である他の当事者にある場合と委託者である企業にある場合があります。

 

自己の名をもって販売する場合(取次委託)

受託者が自己の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約(法律上「取次委託販売」と呼ばれます。)では,受託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。「自己の名をもって」とは,受託者自らが法律行為の当事者となり,その行為から生じる権利義務の主体となることをいいます。財の流通に関わる商取引では,受託者が自己の名をもって販売することが少なくありません。

企業と顧客との間には,法律上,売買契約は成立していません。しかし,企業と受託者との間に委託販売契約が成立している状況では,実質(経済)的には,企業は,受託者と売買契約を締結する顧客に対し,受託者を介して,対価を受け取る強制可能な権利を有し,財又はサービスを提供する強制可能な義務を負っているのと同視することができます。そこで,企業と受託者との間で委託販売契約(取次委託)が成立している場合には,受託者と売買契約を締結した顧客との間で企業が同一内容の売買契約を締結したものとみなし,当該契約に本基準を適用します。

 

他人の名をもって販売する場合(代理委託・媒介委託)

受託者が他人の名をもって他人のために財の販売を引き受ける委託販売契約では,委託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。①受託者が委託者の代理人として顧客と売買契約(法律行為)を締結する場合(法律上「代理委託販売」と呼ばれます。)と,②受託者が委託者と顧客との間の売買契約の成立のために媒介(事実行為)を行う場合(法律上「媒介委託販売」と呼ばれます。)があります。

代理委託

代理委託では,受託者は委託者の代理人として顧客との間で売買契約を締結しますが,その契約にあたって,委託者の名を表示し,受託者が委託者のために(代理人として)法律行為をすることを表示します(顕名)。代理人である受託者の名を併記するのが通常ですが,併記しない場合もあります。

媒介委託

媒介委託では,受託者は顧客との間の売買契約の成約に向けて事実行為(いわゆる仲介・周旋・斡旋・勧誘等)を行うだけで,企業自らが顧客と売買契約を締結します。

企業は,企業と顧客との間に成立した売買契約に本基準を適用します。ただし,代理委託の場合には,企業と受託者との間に委託販売契約(代理委託)が成立し,受託者に代理権が存在することが前提となります。 

 

● 引き受ける

受託者は,委託者から委託を受けた販売事務を受託します。代理委託では,委託者のために法律行為(売買契約)を行うための代理権の授与を受けることも含まれます。

 

☞委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいい,顧客との間で売買契約を,①受託者が売主として締結する場合(取次委託)と,②受託者が代理人となり,委託者が売主として締結する場合(代理委託),③受託者が媒介(成約に向けた事実行為)をするだけで委託者が売主として締結する場合(媒介委託)があります。取次委託では,企業は,受託者と顧客との間の売買契約を顧客との契約とみなして本基準を適用します。

 

5.委託販売契約の識別

 

企業は,他の当事者(流通業者)とは常に自らが当事者として契約を締結しており,一般に契約書その他の文書により契約の内容を確認することができますので,Step1「顧客との契約を識別する」で,流通業者を顧客とする独立の販売なのか,需要者を顧客とする委託販売契約なのかを判定するため,企業と他の当事者との間の法律上の契約の性質を考慮することが有用になります。

企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売なのか,委託販売契約なのかを判定する必要があります。

 

☞企業と他の当事者との間の契約につき,法律上の委託販売契約(取次委託・代理委託・媒介委託)を識別できれば,適用指針において委託販売契約として取り扱われることが明らかですが,法律上の売買契約である場合には,指標(B 78)を考慮し,独立の販売なのか,委託販売契約なのかを判定する必要があります。

 

6.委託販売契約の指標

 

● 他の当事者に対する物理的占有の移転と支配の獲得

企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します(B 77)。

他の当事者が支配を獲得する場合

他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します(BC 385E)。

他の当事者が支配を獲得していない場合

需要者(最終顧客)が“顧客”であり,企業は,需要者(最終顧客)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。

企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識してはなりません(B 77)。

 

● 委託販売契約の指標

企業と他の当事者との間の契約が委託販売契約であることを示す指標には,例えば,次の(a)~(c)があります(B 78)。

所定の事象(販売業者による顧客への財の販売など)が生じるまで,又は所定の期間が満了するまで,商品・製品を企業が支配している(B 78(a))

企業は,所定の事象が生じるまで,又は所定の期間が満了するまでの間に,支配の概念(第33項)を直接適用し,企業が商品・製品を支配しているかどうかを判定します。企業が商品・製品を支配していれば,他の当事者は当該商品・製品の支配を獲得していません。

企業が財の返還を要求するか又は第三者(別の販売業者など)に製品を移転することができる(B 78(b))

企業が他の当事者に商品・製品の返還を要求したり,第三者に商品・製品を振り向けたりできることは,企業が当該商品・製品を支配していることを示しており,顧客は当該商品・製品の支配を獲得していません。

他の当事者が製品に対して支払う無条件の義務を有していない(ただし,預け金の支払が要求される場合がある)(B 78(c))

他の当事者が,企業に対し,商品・製品と交換(同価値性)の関係のある対価(預け金は該当しません。)を支払う無条件の義務を負う場合には,他の当事者が当該商品・製品の支配を獲得していることを示す指標であり(第38項(a)),委託販売契約の受託者(代理人)ではなく,独立の販売であることを示します。

他の当事者が,条件付きで商品・製品の対価を支払う義務を負う場合(例えば,需要者(最終顧客)に当該商品・製品を販売したという条件が付されている場合)には,委託販売契約の受託者(代理人)である可能性があります。

 

☞企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(流通業者・販売業者)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品の支配を獲得したかどうかを判定します。委託販売契約であることを示す指標として,例えば,(a)所定の事象(販売業者による顧客への財の販売など)が生じるまで,又は所定の期間が満了するまで,商品・製品を企業が支配していること,(b)企業が財の返還を要求するか又は第三者(別の販売業者など)に製品を移転することができること,(c)他の当事者が製品に対して支払う無条件の義務を有していないことなどがあります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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