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2018.10.29更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

買戻し契約

 

2018年10月29日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「買戻し契約」 目次と概要 

 

1.適用指針「買戻し契約」の概要

 

企業は,顧客に資産を売り渡す契約(売買契約)について,契約開始時に,顧客が資産に対する支配を獲得するかどうかを判定するにあたって,買戻し契約かどうかや,企業が買い戻す義務又は権利の形態を考慮する必要があります(第34項)。 

企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)や企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負うため,当該資産に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはならず,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します(B 66)。 

他方,企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務も返還するため待機する義務も負わないため,基本的には当該資産に対する支配を獲得しています。そこで,企業は,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します(B 72,74)。 

ただし,買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等により,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,当該資産に対する支配を獲得していません。そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します(B 70,73)。 

適用指針「買戻し契約」(B 64~76)は,買戻し契約の形態によってどのように会計処理するのかの指針を提供しています。 

 

☞買戻し契約について,①企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)又は②企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合や,③企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合のうち,(a)顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得していませんので,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します。③の場合のうち,(b)顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客が資産に対する支配を獲得していますので,企業は,返品権付きの販売として会計処理します。 

 

2.買戻し契約

 

● 買戻し契約

買戻し契約とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,当該資産を買い戻す義務又は権利を有する契約をいいます(B 64)。 

買戻し契約は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該資産を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。 

 

● 売買契約

買戻し契約は,企業(売主)が一定の財産権を顧客(買主)に移転することを約し,顧客がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としています。 

 

● 反対売買の権利義務

反対売買は,顧客(元の買主)が企業(元の売主)に(実質的に)同一の資産を移転する義務を負い,企業がその代金を支払う義務を負うことをいいます。 

買戻し契約は,反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。 

したがって,当事者の選択以外の条件が付された買戻し契約を除くと,企業からみて,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態は次の3つに分類できます(B 65)。 

(a) 企業が資産を買い戻す義務(先渡取引) 

(b) 企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)

(c) 企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション) 

 

● 買い戻す資産

買い戻す資産は,①顧客に売り渡した資産そのもの,②顧客に売り渡したものと実質的に同一の資産,③顧客に売り渡した資産を構成部分とする資産があります(B 64)。③には,顧客に売り渡した資産を材料・部品として加工・組立をしたものも含まれます。 

 

● 買戻しの法形式

買戻しの法形式は,当初の売買契約と反対の売買契約(再売買)によるものと,当初の売買契約を解除するものとがあります。いずれの法形式も,期限の到来により又は当事者の意思表示(再売買の予約完結権又は解除権)により反対売買の権利義務(再売買の権利義務又は原状回復義務)を発生させることができます。 

 

● 同一機会

企業が買い戻す義務又は権利に関する約束は,当初の売買契約と同一の機会に行われる必要があります。契約の存在形式(同一の契約か別の契約か)は問いません。 

企業が資産に対する支配を顧客に移転した後に,顧客との間で当該資産を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻し契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に顧客に当該資産を引き渡した時点で,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力に影響を与えません。もっとも,このようなケースでは,企業が資産の物理的占有を移転した時に顧客が当該資産に対する支配を獲得したのかどうかを検討すべきであり,本人なのか代理人なのか(B 34~38)を考慮する必要があります(BC 423)。 

 

● 買戻し契約の会計処理の目的

企業が売り渡した資産にその後も継続的に関与する場合には,顧客による当該資産の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻し契約かどうかや,企業が買い戻す義務又は権利の形態を考慮する必要があります(第34項,BC 157,422)。 

 

☞買戻し契約は,①企業が顧客に資産を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該資産を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。企業が買い戻す義務又は権利の形態は,一般的に,(a)企業が資産を買い戻す義務(先渡取引),(b)企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション),(c)企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)の3つに分類できます。 

 

3.先渡取引又はコール・オプション

 

● 買戻し契約の先渡取引

買戻し契約の先渡取引とは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,一定の期限が到来したときに顧客から当該資産を買い戻す義務を負う契約をいいます(B 65(a))。 

 

● 買戻し契約のコール・オプション

買戻し契約のコール・オプションとは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,一方的な意思表示により顧客から当該資産を買い戻す権利を有する契約をいいます(B 65(b))。 

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)

先渡取引又はコール・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。 

 

● 顧客が資産に対する支配を獲得するか

買戻し契約の先渡取引又はコール・オプションでは,企業が売り渡した資産を買い戻す義務又は権利を有する反面,顧客が当該資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負います。たとえ顧客が当該資産を物理的に占有しているとしても,顧客は,当該資産を使い切ったり,消費したり,売却したりできませんので,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力が制限されています。したがって,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得しません(B 66,BC 424)。 

 

● 先渡取引又はコール・オプションに付される条件

買戻し契約の先渡取引又はコール・オプションに,将来,発生することが不確実な事実にかかる条件(企業の選択を除きます。)が付されているときは,その条件が,顧客が資産に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,実質的に買戻し契約の形態を判定する必要があります。 

例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した資産を顧客が期限を超えて消費者に販売することを防止するため,一定の期限を経過したときに顧客から買い戻す権利を有している場合には,企業が買い戻す権利に“資産を販売されていない(売れ残った)こと”という条件が付されています。この条件は,顧客が資産を第三者に販売することを妨げないので,顧客が当該資産に対する支配を獲得しています。このような買戻し契約の形態の実質は,プット・オプションであり,返品権付きの販売と整合的に会計処理します(2011ED BC 320)。 

 

☞企業が資産を買い戻す義務(先渡取引)や企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務又は返還するため待機する義務を負うため,当該資産に対する支配を獲得しません。 

 

4.先渡取引又はコール・オプションの会計処理

 

● 資産の販売でないこと

企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該資産に対する支配を獲得していませんので,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはなりません(B 66,BC 424)。 

 

● 会計処理

企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして会計処理します(B 66,BC 426,432)。 

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,貨幣の時間的価値を考慮しなければなりません(B 67)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合(B 66(a))

企業が当該資産を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,IFRS第16号「リース」に従ったリースとして会計処理します。 

このような取引は,実質的に企業が顧客に資産を貸し付け,一定期間後にその返還を受け,当初の販売価格(A)と買戻価格(B)の差額(A-B)を使用権の対価として受け取る結果となるからです。 

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した資産を顧客からリースバックする契約に企業が当該資産を買い戻す義務又は権利が含まれるもの)は,融資契約として会計処理します(BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合(B 66(b))

企業が当該資産を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻せるか又は買い戻さなければならない場合は,融資契約として会計処理します。 

このような取引は,実質的に,企業が顧客から当初の販売価格(A)を借り入れ,買戻価格(B)を返済し,買戻価格(B)と当初の販売価格(A)の差額(B-A)を金利として支払う結果となるからです。法律上,売買の形式により信用の授受を行うもので,売渡担保と呼ばれます。 

企業は,資産を引き続き認識するとともに,顧客から受け取った当初の販売価格(A)について金融負債を認識します。企業は,顧客から受け取った当初の販売価格(A)と顧客に支払う買戻価格(B)との差額(B-A)を金利として認識します。当該差額に処理コストや保有コスト(例えば,保険)があれば,それらも認識します(B 68)。 

 

● コール・オプションの消滅

コール・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,コール・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(B 69)。 

 

☞企業が売り渡した資産を買い戻す義務(先渡取引)又は権利(コール・オプション)を有している場合には,顧客は,当該資産に対する支配を獲得していないので,買戻し契約につき資産の販売として収益を認識してはなりません。企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理します。 

 

5.プット・オプション

 

● 買戻し契約のプット・オプション

買戻し契約のプット・オプションとは,企業が顧客に資産を売り渡すとともに,顧客の一方的な意思表示により当該資産を買い戻す義務を負う契約をいいます(B 65(c))。 

 

● プット・オプションに付される期限(期間)

プット・オプションに付される期限(期間)は,将来,発生することが確実な事実にかかっていれば,いつになるかが不確実であっても構いません。 

 

● 顧客が資産に対する支配を獲得するか

買戻し契約のプット・オプションでは,企業が資産を購入するために待機する義務を負いますが,他方で,顧客が売り戻す(企業に買い戻させる)権利を行使するかどうかは自由であり,当該資産を返還する義務も返還するために待機する義務も負いません。そのため,顧客は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有しており,プット・オプションを行使しないことを選択して,当該資産を使い切ったり,消費したり,第三者に売却したりできます。したがって,顧客は,基本的には企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得しています(BC 428)。 

しかし,顧客がプット・オプションを行使することに重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客は,プット・オプションを行使しないときには重大な損失を蒙る可能性が高いため,実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,オプションの存在が,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を制限することになります。逆に,企業からみれば,実質的に顧客から資産を買い戻すことを余儀なくされますので,先渡取引と類似する状況にあります。したがって,このような場合には,顧客は,企業が売り渡した商品又は製品に対する支配を獲得していません(BC 430)。 

 

☞企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,顧客は,企業が売り渡した資産を企業に返還する義務も返還するため待機する義務も負わないため,基本的には当該資産に対する支配を獲得しています。ただし,顧客がプット・オプションを行使することに重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客が実質的に当該資産を返還することを余儀なくされますので,当該資産に対する支配を獲得していません。 

 

6.プット・オプションの会計処理

 

● 重大な経済的インセンティブ

企業は,買戻し契約のプット・オプションについて,企業が売り渡した資産に対して顧客が支配を獲得するかどうかを判定するため,契約開始時に,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します(B 70)。 

企業は,その判定にあたって,①買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係や②プット・オプションが消滅するまでの期間等,さまざまな要因を考慮します。例えば,買戻価格が資産の市場価値を大幅に上回ると見込まれる場合には,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していることを示す可能性があります(B 71)。他方,買戻価格が顧客に最低限の売却収入(保証最低売戻価値)を保証するにすぎない場合には,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているとはいえません(BC 431)。 

 

● 重大な経済的インセンティブを有している場合

顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,顧客がプット・オプションを行使することが想定されており,買戻し契約の先渡取引と類似する状況にあります(BC 429)。 

そこで,企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較し,次のいずれかとして会計処理します(B 70,73)。 

企業は,当初の販売価格と買戻価格を比較するにあたって,貨幣の時間的価値を考慮しなければなりません(B 75)。

 

買戻価格が当初の販売価格より低い場合(B 70)

企業が当該資産を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻すことが想定されており,IFRS第16号「リース」に従ったリースとして会計処理します(B 70)。 

ただし,セール・アンド・リースバック取引の一部である場合(企業が顧客に売り渡した資産を顧客からリースバックする契約に企業が顧客の要求により当該資産を買い戻す義務が含まれるもの)は,融資契約として会計処理します(BC 426)。

 

買戻価格が当初の販売価格以上の場合(B 73)

企業が当該資産を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻すことが想定されており,融資契約として会計処理します(B 73)。 

 

● 重大な経済的インセンティブを有していない場合

顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有していない場合には,顧客は,企業が売り渡した資産に対する支配を獲得しています。 

そこで,企業は,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します(B 72,74)。 

 

● プット・オプションの消滅

プット・オプションが未行使のまま消滅する場合には,企業は,プット・オプションに関連して認識した負債の認識を中止し,収益を認識します(B 76)。 

 

☞企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には,企業は,買戻価格と買戻日時点での当該資産の予想市場価値との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等を考慮し,顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有しているかどうかを判定します。顧客がプット・オプションを行使する重大な経済的インセンティブを有している場合には,当初の販売価格と買戻価格を比較し,リース(買戻価格が当初の販売価格より低い場合)又は融資契約(買戻価格が当初の販売価格以上の場合)として会計処理し,そうでない場合には,買戻し契約を返品権付きの販売として会計処理します。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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