法律会計フォーラム

2017.12.18更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

履行義務の属性の判定

 

2017年12月18日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 12ページ

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「履行義務の属性の判定」 目次と概要

 

1.Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」の概要

 

企業は,本基準の適用手順の最後のステップで,約束した財又はサービス(以下,顧客との契約の対象となる財又はサービスを“資産”と呼びます。)を顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,収益を認識します(第32項)。

1 履行義務の属性の判定

企業は,まず,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第33項)。

2 一定の期間にわたり充足される履行義務

企業は,3類型の要件(第35項(1)~(3))のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足する履行義務と判定します(第35項)。

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の充足に係る進捗度を見積り,当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(第38項)。

3 一時点で充足される履行義務

企業は,それぞれの履行義務について,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第36項)。

企業は,一時点で充足される履行義務について,“支配”の要件(第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第37項(1)~(5))を考慮して,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します(第36項)。

 

☞企業は,識別した履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定し,①は,履行義務の充足に係る進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識し,②は,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します。

 

2.Step5-① 履行義務の属性の判定

 

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,企業は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時に又は獲得するにつれて収益を認識しますが(支配アプローチ),本基準は,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,“支配”の移転時期に関する履行義務の属性の判断枠組みを提供しています。

そこで,企業は,まず,その判断枠組みに従って,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第33項)。

 

3.支配とは~支配の概念~

 

履行義務の充足

本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを,企業から顧客への“資産の移転”という事象として捉えており,企業から顧客への資産の移転は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時に又は獲得するにつれて生じるという考え方(支配アプローチ)を採用しています。

 

支配アプローチ

支配アプローチとは,顧客が資産に対する支配を獲得した時に又は獲得するにつれて企業が当該資産を顧客に移転し,収益を認識するという考え方をいいます。

本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配アプローチを採用しました(IFRS/BC 118)。

 

資産の概念

資産とは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源をいいます。財とサービスの両方とも資産です。サービスも,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第118項)。

 

支配の概念

資産に対する支配とは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を指し,他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含みます(第34項)。この定義に含まれる各要素は,次のとおりです(IFRS/BC 120)。

a 能力(IFRS/BC 120(a))

能力とは,一定の行為を能動しようとすれば,現時点でそれが可能であることを意味します。

b 使用の指図(IFRS/BC 120(b))

使用の指図とは,顧客が当該資産を自らの活動に利用するか,当該資産を他の企業が利用することを認めるか,又は他の企業による当該資産の利用を制限する権利を指します。

c 便益の享受(IFRS/BC 120(c))

資産の“便益”とは,概念上,潜在的なキャッシュ・フロー(キャッシュ・インフローの増加又はキャッシュ・アウトフローの減少)をいい,便益を享受する方法(利用)として資産の“使用”や“消費”,“処分”,“売却”,“交換”,“担保差入”,“保有”などが例示されています(第118項)。そのような方法(利用)によって,現時点で資産に残存するほとんどすべての便益を享受する能力を獲得してはじめて当該資産を支配したことになります。

 

支配の判定

“支配”は抽象的な概念ですので,顧客が“支配”を獲得したかどうかの判定にあたって,具体的な利用行為を想定し,次のような順序で場合分けをして考察することが有用です。

● 消費・処分・売却・交換

まず,顧客が現時点で資産の消費(consume),処分(dispose),売却(sell)又は交換(exchange)ができる場合は,これらの利用行為によって当該資産の用益のほぼ全部を使い切り,又はその資産の価値のほぼ全部に代わるものを得ることで,現時点で当該資産に残存するほとんどすべての便益を享受しますので,通常,顧客が支配を獲得しています。

ただし,顧客が企業にだけ売却ができる場合は,買戻し契約を考慮します(指針8)。

● 使用・担保差入・保有・他の企業に対する利用の許諾/制限

次に,顧客が資産の消費・処分・売却・交換ができず,現時点で使用(use),担保差入(pledge),保有(hold),他の企業に対する利用の許諾・制限ができるにすぎない場合は,これらの利用行為によって当該資産に残存する便益のほとんどすべてを享受するかどうか(例えば,顧客が当該資産の残存耐用年数にわたって使用や保有を持続することができるかどうか)を判定します。その判定にあたって,買戻し契約があるか否かを考慮し,買戻し契約があるときは,買戻しに関する適用指針(指針69~74)を参照します(指針8)。

 

☞本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを“資産の移転”という事象と捉え,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時に又は獲得するにつれて収益を認識するという考え方(支配アプローチ)を採用します。支配は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含みます。)を指し,その判定にあたって,買戻し契約を考慮します。

 

4.履行義務の属性

 

支配アプローチを補完する必要性

“支配”は,比較的単純な財を移転する履行義務に適用する場合は有用ですが,サービスや建設型の契約については,顧客がサービスの支配をいつ獲得するのかを容易に決定できない場合があります(IFRS/BC 122)。そこで,本基準は,顧客が“支配”を獲得する時期(一定の期間にわたって獲得するのか,一時点で支配を獲得するのか)に関する履行義務の属性を判定するにあたって,直接“支配”の要件を適用するのではなく,代わりに,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,支配アプローチを補完する判断枠組みを提供しています(IFRS/BC 124)。

 

支配アプローチを補完する判断枠組み

企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,以下の3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(第33項,第35項),いずれにも該当しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第36項)。

a 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて,顧客が便益を享受すること(第35項(1))

b 企業が顧客との契約における義務を履行することにより,資産が生じる又は資産の価値が増加し,当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて,顧客が当該資産を支配すること(第35項(2))

c 次の要件のいずれも満たすこと(第35項(3))

① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより,別の用途に転用することができない資産が生じ,あるいはその価値が増加すること

② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有していること

 

☞企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し,いずれにも該当しない場合には,一時点で充足される履行義務と判定します。

 

5.企業が履行するにつれて顧客が便益を享受する(第35項(1))

 

要件

企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて,顧客が便益を享受すること


代替的な判定

この要件を容易に識別できないときは,企業は,代わりに「仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に,企業が現在までに完了した作業を大幅にやり直す必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

☞企業は,「企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて,顧客が便益を享受する」と識別できる場合,あるいは,(容易に識別でないときは)代わりに「仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に,企業が現在までに完了した作業を大幅にやり直す必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

6.企業の履行につれて創出又は増価される資産を顧客が支配する(第35項(2))

 

要件

企業が顧客との契約における義務を履行することにより,資産が生じる又は資産の価値が増加し,当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて,顧客が当該資産を支配すること

創出又は増価される資産(仕掛中の資産)は,顧客によって消費されずに残存する資産であり,有形又は無形のいずれの場合もあります。それを顧客が支配するかどうかは,“支配”の要件(第34項)を直接適用して判定します(第119項)。

 

☞企業は,“支配”の要件(第34項)を直接適用し,「企業が顧客との契約における義務を履行することにより,資産が生じる又は資産の価値が増加し,当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて,顧客が当該資産を支配する」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

7.企業が履行を完了した別の用途に転用できない資産の対価を収受する権利を有する(第35項(3))

 

要件(次の要件のいずれも満たすこと)

a 企業が顧客との契約における義務を履行することにより,別の用途に転用することができない資産が生じ,あるいはその価値が増加すること

b 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有していること

 

企業が別の用途に転用できない資産が創出又は増価されること

企業が資産を別の用途に転用できないとは,企業の履行につれて創出又は増価される資産を別の用途に容易に使用することに①契約上の制限又は②実務上の制約がある場合をいいます(指針10)。

a 契約上の制限

企業が資産の創出又は増価の間に当該資産を別の用途に容易に使用することが契約上制限されている場合は,当該資産は別の用途に転用できません(指針10)。

契約上の制限は,実質的なものでなければなりません(指針112)。

b 実務上の制約

企業が完成した資産を別の用途に容易に使用することが実務上制約されている場合は,当該資産は別の用途に転用できません(指針10)。

実務上の制約は,当該資産を別の用途に使用するために重要な経済的損失が生じる場合です。重要な経済的損失は,①企業が当該資産に手を加えるために重要なコストが生じること(例えば,顧客仕様の資産)又は②重要な損失を生じる売却しかできないこと(例えば,遠隔地にある資産)のいずれかの理由で生じる可能性があります(指針113)。

 

企業が履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有していること

企業は,(b)契約期間にわたり,(a)企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に,少なくとも(c)履行を完了した部分についての補償を受ける(d)権利を有していなければなりません(指針11)。

a 企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際

顧客(又は他の当事者)が企業の契約違反(債務不履行)以外の理由で解約する場合を意味します。

b 契約期間にわたり

契約の存続期間中,(顧客により解約が可能な)どの時点で解約しても,常にその時点までに履行を完了した部分について対価を収受する権利を有していなければなりません。

顧客が契約の存続期間中,解約権を全く有しない場合は,常に企業は履行を完了した部分について対価を収受する(保持する=返還しない)権利を有します。報酬全額の前払いと解約不能を組み合わせた100%返金不能の前払も,企業は履行を完了した部分について対価を収受する権利を有します(IFRS/BC 146)。

c 履行を完了した部分についての補償を受ける

企業に補償する金額は,合理的な利益相当額を含む,現在までに移転した財又はサービスの販売価格相当額でなければなりません。

財又はサービスの販売価格相当額は,企業が履行義務を充足するために生じるコストに合理的な利益相当額を加算したものをいい,利益相当額は,次のとおり,当該契約又は同様の契約を基準に合理的な水準でなければなりません(指針12,IFRS/BC 143,144)。

なお,契約で示されている支払予定(支払条件)は,契約が存続する(解約されない)ことを前提として顧客が支払う対価の時期及び金額を定めるものですが,契約の解約により返金又は追加払がされる可能性がありますので,必ずしも企業が履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利やその金額を示すものではありません(指針115)。

d 権利

対価を収受する権利は,顧客から解約権を行使されたと仮定したときに(それを停止条件として発生する),その時点までに履行を完了した部分についての補償を要求する(請求する)又は保持する(返還しない)法的な強制力のある権利であり,現在の無条件の権利ではありません(指針114,IFRS/BC 145)。

履行を完了した部分について対価を収受する権利の有無及び当該権利の強制力の有無を判定するにあたっては,企業は,以下の点を評価することを含め,契約条件及び当該契約条件を補足する又は覆す可能性のある法令や判例等を考慮しなければなりません(指針13)。

☞企業は,「企業が顧客との契約における義務を履行することにより,別の用途に転用することができない資産が生じ,あるいはその価値が増加すること」及び「企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有していること」のいずれの要件も満たす場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。企業は,企業の履行につれて創出又は増価される資産を別の用途に容易に使用することに(a)契約上の制限又は(b)実務上の制約がある場合に,当該資産を別の用途に転用できないと評価します。また,企業が履行を完了した部分について対価を収受する権利を有していると評価するためには,(a)企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に,(b)契約期間にわたり,少なくとも(c)履行を完了した部分についての補償を受ける(d)法的な強制力のある権利を有していなければなりません。

 

8.代替的な取扱い

 

● 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア

適用指針は,本基準第35項の定めにかかわらず,工事契約及び受注制作のソフトウェアについて,契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には,一定の期間にわたり収益を認識せず,完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができると定めています(指針94,95)。

● 船舶による運送サービス

適用指針は,一定の期間にわたり収益を認識する船舶による運送サービスについて,一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船廻航期間を含み,運送サービスの履行を目的としない船舶の移動又は待機期間を除きます。)である場合には,複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務としたうえで,当該期間にわたり収益を認識することができると定めています(指針96)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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