法律会計フォーラム

2017.10.28更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

変動対価

 

2017年10月28日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「変動対価」 目次と概要

 

1.Step3「取引価格を算定する」の概要

 

企業は,契約における履行義務を識別した後の次のステップで,契約における取引開始日に,当該契約に係る取引価格を算定します。

顧客が固定額の現金対価を支払うと約束する場合は,単純にその対価から取引価格を算定できますが,本基準は,契約において約束された対価から単純に取引価格を算定できない次の4つの類型について,取引価格の算定の指針を示しています(第45項,IFRS/BC 188)。

1 変動対価

2 契約における重要な金融要素

3 現金以外の対価

4 顧客に支払われる対価

 

☞企業は,契約開始時に,契約において約束された対価から取引価格を算定します。特に4つの類型(①変動対価,②契約における重大な金融要素,③現金以外の対価,④顧客に支払われる対価)について,本基準に従って取引価格を算定します。

 

2.Step3-① 変動対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約において約束された対価のうち変動する可能性のある部分が含まれる場合,企業は,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることとなる対価の額を見積る必要があります(第47項)。

また,企業は,変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り,見積られた変動対価の額を取引価格に含めます(第51項)。

 

3.取引価格とは

 

“取引価格”とは

本基準は,“取引価格”を「財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし,第三者のために回収する額を除く。)」と定義づけます(第7項)。

 

配分後取引価格アプローチ

本基準は,IFRS第15号と同様に,契約に基づく収益認識の原則を採用するとともに,財又はサービスを提供する義務(負債)の測定を,取引価格を契約における各履行義務に配分して行うアプローチ(配分後取引価格アプローチ)を採用します(IFRS/BC 25,26,181,183)。

他方,契約上の義務を,企業が独立した第三者に移転すると仮定した場合にその第三者から支払を求められる対価(債務引受けの代金)の額で測定するアプローチ(現在出口価格アプローチ)も考えられます。

しかし,現在出口価格アプローチは,契約における取引開始日に,一般的に対価を受け取る権利(資産)の測定値が財又はサービスを提供する義務(負債)の測定値を上回るため,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する前に収益を認識してしまいます(IFRS/BC 25)。

また,現在出口価格アプローチでは,残存履行義務を各決算日現在で直接的に測定しますが,現在出口価格は,通常は観察可能ではなく,見積りが複雑でコストがかかり,検証が困難になるおそれがあります。しかも,約束した財又はサービスの価値の変動性は,本来的に小さいか,又は顧客への移転までの比較的短期間では限定的であり,財務諸表利用者に追加的な情報をほとんど提供しません(IFRS/BC 25,182)。

このような理由から,本基準は,IFRS第15号と同様に,現在出口価格アプローチを採用していません(IFRS/BC 25~27,182)。

 

取引価格の基礎となる対価

取引価格には,企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の額(変動する可能性のある部分を含みます。)だけを含め(IFRS/BC 186),新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の額を含めません。

例えば,顧客が現在の契約に含まれる追加の財又はサービスを取得するオプションを行使したときは,企業と顧客との間に独立販売価格より重要な値引きがされた価格で追加の財又はサービスを提供する新たな契約が成立しますが,新たな契約に係る対価(独立販売価格より重要な値引きがされた価格)は,現在の契約に係る取引価格に含めません(IFRS/BC 186)。

また,顧客が現在の契約から新たな取引価格に変更することが予測されるとしても,企業と顧客との間に変更契約(新たな契約)が成立するまでは,新たな契約に係る対価は,現在の契約に係る取引価格に含めません(IFRS/BC 186)。

以上のように,新たに成立する契約に係る対価は,企業は,未だ対価に対する権利を有していませんので,現在の契約に係る取引価格の算定に含めません(IFRS/BC 186)。

 

取引価格の支払者

企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の額は,いかなる当事者が支払ってもよく,顧客以外の当事者が支払う場合でも取引価格に含まれます。

例えば,ヘルスケア(医療介護)業界では,患者(顧客)だけでなく,保険会社あるいは政府機関から対価の支払を受ける権利を得ることとなる金額に基づいて取引価格を算定します。他の業界でも,例えば,仕入先であるメーカー(製造業者)が企業の顧客に直接クーポン又はリベートを発行するときは,企業は,顧客が使用したクーポン又はリベートに基づきメーカーから支払を受ける権利を得ることとなる金額も取引価格に含めます。

しかし,我が国における消費税などのように,企業が他の当事者に代わって回収する金額は,取引価格に含めません(IFRS/BC 187)。

 

顧客の信用リスク

取引価格には,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が“権利を得る”と見込む対価の額を基礎とし,企業が権利を得たとしても顧客の信用リスクのために受け取れないと見込まれる対価の額も含みます。言い換えれば,取引価格は,企業が“受け取る”と見込む対価の額ではありませんので,企業が契約に従って権利を得る対価の額を顧客から回収できないというリスク(顧客の信用リスク)は取引価格に反映されません(IFRS/BC 259)。

財務諸表利用者にとって,収益を「総額」で測定する方が,企業で別々に管理されている販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(債権管理)を区別して評価し得る有用な情報を提供するからです(IFRS/BC 260)。

 

☞企業は,現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額を基礎に取引価格を算定し,現在の契約と関連する新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の金額は取引価格に含めません。また,取引価格には,保険会社,政府機関,顧客に直接クーポン等を発行する仕入先など顧客以外の当事者が支払う場合も含めますが,消費税など企業が他の当事者に代わって回収する金額は含めません。

 

4.取引価格の算定

 

取引価格は,契約において約束された対価を基礎に算定します。

企業は,取引価格を算定するために,契約の条件や取引慣行等を考慮しなければなりません(第44項)。

契約において約束された対価の性質,時期及び金額は,取引価格の見積りに影響を与えます(第45項)。

企業は,取引価格の算定にあたって,財又はサービスが契約に従って顧客に移転され,契約の取消,更新又は変更はないものと仮定します(第46項)。

 

5.変動対価の識別

 

変動対価とは

変動対価とは,契約において約束された対価のうち変動する可能性のある部分をいいます(第47項)。

変動対価は,企業が契約に基づいて権利を得ることとなる対価が変動する可能性のあるすべての状況で生じる可能性があり(IFRS/BC 190),例えば,値引き,リベート,返金,インセンティブ,業績に基づく割増金,ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や,返品権付きの販売などがあります(指針23)。

 

変動対価の識別

企業は,まず,どのような場合に変動対価が顧客との契約の中に存在するのかを識別しなければなりません(IFRS/BC 189(a))。

 

変動性にかかる条件

顧客が契約において変動性のある対価の額を算定することを約束する場合だけでなく,契約において約束された対価に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合にも,対価の額が変動する可能性があります(IFRS/第51項)。

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に条件が付されているときは,たとえ契約に明示された価格が固定されていても,変動対価に該当します。

例えば,製品が返品権付きで販売された場合,顧客が返品権を行使するという条件の成就により企業が受け取った対価を顧客に返金する義務が発生しますので,変動対価に該当します。契約に明記された価格が固定されていても,企業は,固定された価格すべてに対する権利を得るか,又は固定された価格に対する権利を全く得ないかのいずれかの可能性があり,対価が変動するからです(IFRS/BC 191)。

他方,期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に期限が付されていても,変動対価には該当しません。企業が約束した財又はサービスを顧客に移転した時に又はその後に,あるいは移転と引き換えに,対価に対する企業の権利が発生しても,対価の額は変動しません。

 

変動性に関する明示~価格譲歩~

顧客が約束した対価に関する変動性は,契約に明示されることが少なくありませんが,企業が契約に明示された価格よりも低い価格を受け入れる可能性がある(契約が黙示的な価格譲歩を含んでいる)ために,約束された対価に変動性があることもあります(IFRS/BC 192)。

企業は,次の状況のいずれかが存在する場合には,約束された対価に変動性があると判定します(指針24)。

a 企業の取引慣行や公表した方針等に基づき,契約の価格よりも価格が引き下げられるとの期待を顧客が有していること

例えば,企業が顧客との関係を強化して当該顧客への将来の販売を促進する目的で,過去に当該顧客に販売した商品につき当該顧客が容易に第三者に売却できるよう値引きすることを可能にするために価格を引き下げることがありますが,企業の取引慣行や公表した方針等から,企業がそのような価格の引き下げをするであろうという合理的な期待を顧客が有しているときは,約束した対価に変動性があると判定します(IFRS/BC 192)。

b 顧客との契約締結時に,価格を引き下げるという企業の意図が存在していること

企業の取引慣行や公表した方針等がないものの,例えば,企業が新規顧客との関係を開発する戦略のため,当該顧客と契約を締結する場合に,他の要因により,企業が契約に明示された価格よりも価格を引き下げるという意図が存在するときは,約束した対価に変動性があると判定します(IFRS/BC 193)。

 

☞企業は,顧客が契約において変動性のある対価の額を算定することを明示に約束する場合だけでなく,①約束された対価(価格が固定されている場合を含みます。)に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合や,②企業が契約に明示された価格よりも価格を引き下げるという顧客の期待や企業の意図がある一定の状況が存在する場合にも,変動対価を識別します。

 

6.変動対価の見積りの方法

 

変動対価の見積り

企業は,変動対価を識別したときは,適切な方法により変動対価の額を見積る必要があります(IFRS/BC 189(b))。

本基準は,変動対価の額の見積りに関し,その目的を明示し,適切な測定方法を限定しています。経営者に自由に見積りの方法を選択することを容認することは,財務諸表利用者にとっての理解可能性や企業間の比較可能性を損なうおそれがあるからです(IFRS/BC 196~198)。

 

変動対価の見積りの方法

企業は,次のいずれかの方法のうち,企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いて,変動対価の額を見積らなければなりません(第48項,第122項,IFRS/BC 195)。

a 期待値…発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額の合計額

期待値は,決算日現在の不確実性のすべてを反映しますので,とりわけ,企業が特性の類似した多くの契約を有している場合には,変動対価の額を適切に見積ることができます。他方で,契約において生じ得る結果が2つしかない場合などでは,期待値は,契約において生じ得ない結果(金額)を示すこともあり,必ずしも企業が権利を得ることとなる金額を忠実に予測しない場合があります(第122項,IFRS/BC 199,200)。

b 最頻値…発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額

契約において生じ得る結果が2つしかない場合には,変動対価の額を適切に見積ることができます(第122項,IFRS/BC 200)。

 

合理性の原則

企業は,変動対価の見積りにあたって,企業が合理的に入手できるすべての情報を考慮し,発生し得ると考えられる対価の額についての合理的な数のシナリオを識別しなければなりません(第49項)。

 

一貫適用の原則

企業は,変動対価の見積りにあたって,契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第49項)。

 

☞企業は,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,①期待値又は②最も可能性の高い金額のうち企業が権利を得ることとなる対価の金額をより適切に予測できると見込んでいる方法を使用し,合理的な数の結果(金額)を識別して変動対価を見積ります。

 

7.変動対価の見積りの制限

 

変動対価の見積りの制限

本基準は,変動対価の見積りの不確実性が高すぎるときは,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を忠実に描写しないおそれがあることから,財務諸表利用者に有用な情報を提供するために,変動対価の見積りの一部又は全部を取引価格に含めないこととしています(IFRS/BC 203)。

そこで,企業は,どのような場合に,そうした変動対価を制限し,取引価格に含めるべきでないのかを判定する必要があります(IFRS/BC 189(c))。

 

目的

財務諸表利用者が企業の将来の収益をより適切に予測するためには,ある報告期間における収益の測定値が,その後の報告期間に重大な戻入れが生じないことが有用であるといえます。そこで,本基準は,変動対価の見積りの制限に関し,収益の下方修正(収益の戻入れ)を制限することに焦点を置き,計上された収益の著しい減額が発生しないことを目的としています(IFRS/BC 206,207)。

また,本基準は,変動対価の見積りの制限が,どの程度の確度で計上された収益の著しい減額が発生しないことを確保するのかという問題(確信のレベル)を実務的に統一するため,そのレベルを「非常に可能性が高い」という用語で明示しています。企業は,このレベルを確率として定量化して評価する必要はなく,定性的な諸要因を考慮します(IFRS/BC 208~212)。

 

要件~考慮すべき要素と要因~

企業は,見積られた変動対価の額について,変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り,取引価格に含めなければなりません(第51項)。

企業は,計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高いかどうかを評価するにあたって,収益が減額される①確率と②減額の程度の両方を考慮しなければなりません(指針25)。

 

変動対価の見積りの一部の制限

企業は,変動対価の見積りの一部を取引価格に含めたときは,計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高いと評価する場合には,変動対価の見積り全体を取引価格から除外する必要はなく,その一部を取引価格に含めるべきです(IFRS/BC 218)。

ただし,知的財産のライセンスとの交換で約束された売上高又は使用量に基づくロイヤルティの形態の対価については,適用指針(指針67)を適用して会計処理しますので,企業は,不確実性が解消される(顧客に売上又は使用が生じる)までは,収益を認識してはなりません(IFRS/BC 219)。

 

☞企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いといえない場合は,見積られた変動対価の金額の一部又は全部を制限し,取引価格に含めません。

 

8.取引価格の事後の変動

 

取引価格の事後の変動

本基準は,各決算日現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を描写するため,企業が契約期間全体を通じて取引価格の見積りを見直すものとし(IFRS/BC 224),取引価格の事後の変動の会計処理を定めています(IFRS/BC 189(d))。

 

変動対価の再判定

企業は,各決算日において,各決算日現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を忠実に反映するために,変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価も含め,見積った取引価格を見直さなければなりません。企業は,見直した取引価格について,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,取引価格の変動の会計処理(第71項~第73項)を行います(第52項)。

 

☞企業は,契約における取引開始日に見積った変動対価について,契約期間全体を通じ,各決算日に取引価格を見直し,取引価格の変動の会計処理(第71項~第73項)を行います。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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