法律会計フォーラム

2017.10.19更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

履行義務の識別

 

2017年10月19日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 5ページ

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「履行義務の識別」 目次と概要

 

1.Step2-③ 履行義務の識別 

 

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後(Step2-①契約における約束の識別),別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します(Step2-②別個の財又はサービスの識別)。そして,最後に,企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)から,区分して会計処理をする単位として履行義務を識別します(第29項)。

本基準は,“別個の財又はサービス”という概念では,反復的なサービス契約などで費用対効果が低い多数の会計単位を識別してしまうという運用上の問題を解決するため,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスについて,単一の履行義務を識別するものとしています(第29項(2))。

そのほかは,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します(第29項(1))。 

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)のうち特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しますが,それ以外は,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。 

 

2.履行義務とは

 

履行義務の定義

本基準は,“履行義務”を,次にように定義しています(第6項)。

顧客との契約において,次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束

(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)

(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)

 

履行義務の識別の目的

本基準は,基本となる原則として“約束した財又はサービスの顧客への移転を,当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように,収益の認識を行う”という原理を採用しています(第13項)。

本基準は,この原理を実現するため“履行義務”という会計単位を用いています。履行義務は,企業が契約において約束した財又はサービスに関する会計単位をいい,企業が負う財又はサービスを提供する義務を一つ又は複数に区分して識別したものです。この会計単位に当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価(取引価格)を配分することにより(配分後取引価格アプローチ),財又はサービスが顧客に移転するごとに(又は移転するにつれて)その会計単位に配分されている対価を収益として認識します。

履行義務の識別は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位を適切に識別することを確保することを目的としています(IFRS/BC 85)。 

 

☞企業は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位として履行義務を適切に識別しなければなりません。 

 

3.履行義務の識別 

 

履行義務の識別

履行義務は,顧客との契約において,(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)又は(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)のいずれかを移転する約束をいいますが,本基準は,このうち(2)の顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービスと判定するための要件を定立し(第30項),この要件を満たす一連の別個の財又はサービスについて単一の履行義務を識別することを求めています。

この要件を満たさない場合は,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップで識別した別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。

 

別個の財又はサービスとの関係

本基準は,契約変更及び変動対価の配分における判定にあたって,財又はサービスを提供する義務に関する会計単位を用いますが,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しているときは,その目的上,“履行義務”という会計単位ではなく,“別個の財又はサービス”という会計単位を用いることに留意する必要があります(IFRS/BC 115)。 

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)について,一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同一であり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)の要件を満たすときは,単一の履行義務を識別し,その要件を満たさないときは,それぞれの別個の財又はサービス(の束)を履行義務として識別します。

 

4.一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同一であり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス) 

 

概要

企業は,反復的なサービス契約(例えば,清掃契約や取引処理,電力を供給する契約)などで,特性が実質的に同じ財又はサービスを一定の期間にわたり連続的に提供する状況では,もし,第29項(2)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めなければ,契約において提供すべき個々のサービスごとに複数の別個の財又はサービスを識別し,全体の対価(取引価格)を独立販売価格に基づいてそれぞれの増分(例えば,清掃の1時間ごと)に配分することが要求されることになりますが,収益認識モデルをこのような方法で適用することは,費用対効果が低いと考えられます。

そこで,本基準は,このような運用上の問題を解決し,収益認識モデルを単純化して,コストを軽減するため,第29項(2)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めることによって,履行義務の識別における首尾一貫性を高めています(IFRS/BC 113,114)

 

要件

企業は,以下の要件のすべてに該当するときは,一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しなければなりません(第29項(2))。

● 複数の別個の財又はサービスの特性が実質的に同じであること

複数の別個の財又はサービスがほぼ同一(同種)であること。

● 別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであること

次のa及びbの要件のいずれも満たす場合には,別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであると評価します(第30項)。

a 一連の別個の財又はサービスのそれぞれが,第35項における一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすこと

b 第38項及び第39項に従って,履行義務の充足に係る進捗度の見積りに,同一の方法が使用されること

企業が,別個の財又はサービスのそれぞれについて,一定の期間にわたり充足される履行義務の充足に係る進捗度の見積りに同一の方法を使用することが,本基準第38項・第39項に従って適切でなければなりません。

 

類似した状況における適用

第29項(2)の一連の別個の財又はサービスは,一定の期間にわたり充足される履行義務であり(IFRS/BC 113),企業は,識別した単一の履行義務に取引価格を配分し,単一の進捗度の測定値を適用することになります。

他方,複数の数量の同種の財又はサービスを同時に提供するときのように,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の別個の財又はサービスが一時点で充足される履行義務であるときは,第29項(2)の要件を満たしませんので,別個の財又はサービスに同じ一時点で充足される複数の履行義務を識別して会計処理することになります。

このような顧客に同時に移転する複数の別個の財又はサービスについて,一時点で充足される履行義務をそれぞれ識別して会計処理した結果と同じであれば,本基準は,企業がそれらを単一の履行義務であるかのように,まとめて会計処理することを禁止しているわけではありません(IFRS/BC 116)。

 

☞企業は,複数の別個の財又はサービス(の束)について,①別個の財又はサービスの特性が実質的に同一(同種)であり,②いずれも一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たし,かつ,③それらの履行義務の充足に係る進捗度の見積りに同一の方法を使用することが適切であるときは,単一の履行義務を識別します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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