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2017.10.17更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

履行義務の属性の判定

 

2017年10月17日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「履行義務の属性の判定」 目次と概要

 

1.Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」の概要

 

企業は,本基準の適用手順の最後のステップで,約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,収益を認識します(第31項)。

1 履行義務の属性の判定

企業は,まず,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第32項)。

2 一定の期間にわたり充足される履行義務

企業は,3類型の要件(第35項(a)~(c))のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足する履行義務と判定します(第35項)。

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより,一定の期間にわたり収益を認識します(第39項)。

3 一時点で充足される履行義務

企業は,それぞれの履行義務について,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第38項)。

企業は,一時点で充足される履行義務について,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮して,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します(第38項)。

 

☞企業は,識別した履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定し,①は,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより一定の期間にわたり収益を認識し,②は,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します。

 

2.Step5-① 履行義務の属性の判定

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」では,企業は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて収益を認識しますが(支配アプローチ),本基準は,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,“支配”の移転時期に関する履行義務の属性の判断枠組みを提供しています。

そこで,企業は,まず,その判断枠組みに従って,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第32項)。

 

3.支配とは~支配の概念~

 

履行義務の充足

本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを,企業から顧客への“資産の移転”という事象として捉えており,企業から顧客への資産の移転は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて生じるという考え方(支配アプローチ)を採用しています。

 

支配アプローチ

支配アプローチとは,顧客が資産に対する支配を獲得した時,又は獲得するにつれて企業が当該資産を顧客に移転し,収益を認識するという考え方をいいます。

本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配アプローチを採用しました(BC 118)。

 

資産の概念

資産とは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源をいいます。財とサービスの両方とも資産です。サービスも,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第33項)。

 

支配の概念

資産に対する支配とは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を指し,他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を得ることを妨げる能力が含まれます(第33項)。この定義に含まれる各要素は,次のとおりです(BC 120)。

a 能力(BC 120(a))

能力とは,一定の行為を能動しようとすれば,現時点でそれが可能であることを意味します。

b 使用の指図(BC 120(b))

使用の指図とは,顧客が当該資産を自らの活動に利用するか,当該資産を他の企業が利用することを認めるか,又は他の企業による当該資産の利用を制限する権利を指します。

c 便益の獲得(BC 120(c))

資産の“便益”とは,概念上,潜在的なキャッシュ・フロー(キャッシュ・インフローの増加又はキャッシュ・アウトフローの減少)をいい,便益を得る方法(利用)として資産の“使用”や“消費”,“処分”,“売却”,“交換”,“担保差入”,“保有”などが例示されています(第33項)。そのような方法(利用)によって,現時点で資産に残存するほとんどすべての便益を得る能力を獲得してはじめて当該資産を支配したことになります。

 

支配の判定

“支配”は抽象的な概念ですので,顧客が“支配”を獲得したかどうかの判定にあたって,具体的な利用行為を想定し,次のような順序で場合分けをして考察することが有用です。

● 消費・処分・売却・交換

まず,顧客が現時点で資産の消費(consume),処分(dispose),売却(sell)又は交換(exchange)ができる場合は,これらの利用行為によって当該資産の用益のほぼ全部を使い切り,又はその資産の価値のほぼ全部に代わるものを得ることで,現時点で当該資産に残存するほとんどすべての便益を獲得しますので,通常,顧客が支配を獲得しています。

ただし,顧客が企業にだけ売却ができる場合は,買戻し契約を考慮します(第34項)。

● 使用・担保差入・保有・他の企業に対する利用の許諾制限

次に,顧客が資産の消費・処分・売却・交換ができず,現時点で使用(use),担保差入(pledge),保有(hold),他の企業に対する利用の許諾・制限ができるにすぎない場合は,これらの利用行為によって当該資産に残存する便益のほとんどすべてを獲得するかどうか(例えば,顧客が当該資産の残存耐用年数にわたって使用や保有を持続することができるかどうか)を判定します。その判定にあたって,買戻し契約があるか否かを考慮し,買戻し契約があるときは,買戻しに関する適用指針(B 64~76)を参照します(第34項)。

 

☞本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを“資産の移転”という事象と捉え,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて収益を認識するという考え方(支配アプローチ)を採用します。支配は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を得ることを妨げる能力を含む。)を指し,その判定にあたって,買戻し契約を考慮します。

 

4.履行義務の属性

 

支配アプローチを補完する必要性

“支配”は,比較的単純な財を移転する履行義務に適用する場合は有用ですが,サービスや建設型の契約については,顧客がサービスの支配をいつ獲得するのかを容易に決定できない場合があります(BC 122)。そこで,本基準は,顧客が“支配”を獲得する時期(一定の期間にわたって徐々に獲得するのか,一時点で支配を獲得するのか)に関する履行義務の属性の判定にあたって,直接“支配”の要件を適用するのではなく,代わりに,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,支配アプローチを補完する判断枠組みを提供しています(BC 124)。

 

支配アプローチを補完する判断枠組み

企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,以下の3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(第32項,第35項),いずれにも該当しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第38項)。

a 顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する(第35項(a))

b 企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する(第35項(b))

c 企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出せず,かつ,企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している(第35項(c))

 

☞企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し,いずれにも該当しない場合には,一時点で充足される履行義務と判定します。

 

5.企業が履行するにつれて提供される便益を顧客が受け取って消費する(第35項(a))

 

要件

顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費すること


代替的な判定

この要件を容易に識別できないときは,企業は,代わりに「企業が現在までに完了した作業について,仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を履行することになったとしても作業の大幅なやり直しをする必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

☞企業は,「顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する」と識別できる場合,あるいは,(容易に識別でないときは)代わりに「企業が現在までに完了した作業について,仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を履行することになったとしても作業の大幅なやり直しをする必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

6.企業の履行につれて創出又は増価される資産を顧客が支配する(第35項(b))

 

要件

企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配すること

創出又は増価される資産(仕掛中の資産)は,顧客によって消費されずに残存する資産であり,有形又は無形のいずれの場合もあります(B 5)。それを顧客が支配するかどうかは,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用して判定します。

 

☞企業は,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用し,「企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

7.企業が現在までに履行した他に転用できない資産に対する支払を受ける権利を有する(第35項(c))

 

要件(次のいずれの要件も満たすこと)

a 企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出しないこと

b 企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有していること

 

企業が他に転用できる資産を創出しないこと

企業が資産を他に転用できないとは,企業の履行によって創出される資産を別の用途に振り向けることに①契約上の制限又は②実務上の制約がある場合をいいます(第36項)。

a 契約上の制限

企業が資産の創出若しくは増価の間に当該資産を別の用途に振り向けることが契約で制限されているときは,当該資産は他に転用できません(第36項)。

契約上の制限は,実質的なものでなければなりません(B 7)。

b 実務上の制約

企業が完成した状態の当該資産を別の用途に容易に振り向けることが実務的に制約されているときは,当該資産は他に転用できません(第36項)。

実務上の制約は,企業が資産を別の用途に振り向けるために企業に重大な経済的損失が生じる場合です。重大な経済的損失は,①企業が当該資産を手直しするために重大なコストが生じること(例えば,設計仕様が顧客に特有である)又は②重大な損失を生じる売却しかできないこと(例えば,資産が遠隔地に所在している)により生じることがあります(B 8)。

 

企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有していること

企業は,(a)企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合に,(b)契約の存続期間全体を通じて,少なくとも(c)現在までに完了した履行について企業に補償する金額の(d)支払を受ける強制可能な権利を得ていなければなりません(第37項,B 9)。

a 企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合

顧客(又は他の当事者)が企業の契約違反(債務不履行)以外の理由で解約する場合を意味します。

b 契約の存続期間全体を通じて

契約の存続期間中,(顧客により解約が可能な)どの時点で解約しても,常にその時点までに完了した履行に対する支払を受ける権利を有しなければならないことを意味します。

顧客が契約の存続期間中,解約権を全く有しない場合は,常に企業は現在までに完了した履行に対する支払を受ける(保持する=返還しない)権利を有します。報酬全額の前払いと解約不能を組み合わせた100%返金不能の前払も,企業は現在までに完了した履行に対する支払を受ける権利を有します(BC 146)。

c 現在までに完了した履行について企業に補償する金額

企業に補償する金額は,現在までに移転した財又はサービスの販売価格に近似した金額でなければなりません。

財又はサービスの販売価格に近似した金額は,企業が履行義務を充足するために生じるコストに合理的な利益マージンを加算したものをいい,利益マージンは,当該契約又は同様の契約を基準に合理的な水準でなければなりません(B 9,BC 143,144)。

なお,契約で定められた支払条件(支払予定)は,契約が存続する(解約されない)ことを前提とする支払方法(時期・金額)を示しており,契約の解約により返金される可能性がありますので,必ずしも企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける(保持する=返還しない)権利やその金額を示すものではありません(B 13)。

d 支払を受ける強制可能な権利

支払を受ける強制可能な権利は,顧客から解約権を行使されたと仮定したときに(それを停止条件として発生する),その時点までに完了した履行に対する支払を請求し,又は保持する(返還しない)権利であり,現在の無条件の権利ではありません(B 10,BC 145)。

現在までに完了した履行に対する支払を受ける権利の有無及び強制可能性を評価するにあたって,企業は,契約条件を法令又は判例(当該契約条件を補足するか又は覆す可能性があります。)とともに考慮しなければなりません(第37項,B 12)。

 

☞企業は,「企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出せず,かつ,企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。企業は,企業の履行によって創出される資産を別の用途に振り向けることに(a)契約上の制限又は(b)実務上の制約がある場合に,当該資産を他に転用できないと評価します。また,企業が現在までに完了した履行に対する強制可能な権利を有するためには,(a)企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合に,(b)契約の存続期間全体を通じて,少なくとも(c)現在までに完了した履行について企業に補償する金額の(d)支払を受ける強制可能な権利を得ていなければなりません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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