法律会計フォーラム

2017.09.26更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

契約における約束の識別

 

2017年9月26日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「契約における約束の識別」 目次と概要

 

1.Step2「契約における履行義務を識別する」の概要


企業は,顧客との契約を識別した後の次のステップで,契約における取引開始日に,当該契約における履行義務を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

1 契約における約束の識別

2 別個の財又はサービス(の束)の識別

3 履行義務の識別

 

☞企業は,契約の開始時に,まず,“契約における約束”を漏れなく識別し,対価を受け取る強制力のある権利との“交換”の関係が成立することを確認します。次に,企業は,識別した契約における約束を,“別個の財又はサービス(の束)”という会計単位に区切り,又は束ねて識別し,最後に“履行義務”として識別します。

 

2.Step2-① 契約における約束の識別

 

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における取引開始日に,当該契約で顧客に移転を約束した財又はサービスのすべてを識別するため(IFRS/BC 87),まず,契約における約束を漏れなく識別します。

顧客との契約が成立している以上,企業からみて,対価を受け取る強制力のある権利(法律上の債権)と,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(法律上の債務)が発生しますが,この義務は,常に契約における約束として識別されます。

顧客との契約の中には,そのほかにも,②企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務(法律上の債務)が含まれることがあり,この義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,契約における約束に該当する可能性があります。

また,当該顧客に③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束があるときは,契約における約束に該当する可能性があります(IFRS/BC 88,89)。

さらに,取引慣行,公表した方針等により,企業が財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じる場合は,④契約に含意されている約束も契約における約束に該当する可能性があります(第115項,IFRS/BC 87)。

企業は,以上により識別したすべての契約における約束と,対価を受け取る強制力のある権利との間に“交換”(=同価値性)の関係が成立することを確認します。

 

☞企業は,契約における約束として,まず,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を識別します。そのほか,企業は,②企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務,③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束,④契約に含意されている約束を,契約における約束として識別するかどうかを評価します。

 

3.契約における約束とは

 

● “約束”とは

本基準が用いる“約束”という用語は,社会道徳における「約束」に類似した事象によって企業が履行するという顧客の合理的な期待が生じたものを指しており,必ずしも法的な強制力を伴うとは限りません。本基準は,法的な強制力を伴わない,顧客の合理的な期待が生じている場合を「含意されている」と表現しています(第115条,IFRS/BC 87)

 

● “契約における約束”とは

“約束”は,必ずしも法的な強制力を伴わないために無限定になるおそれがありますが,“契約における約束”は,契約の成立を前提とし,“約束”がその“契約”に含まれていなければならないという限定を付するものです。本基準が用いる“契約における約束”は,“契約”に含まれる“約束”という意味に理解すればよいでしょう。

 

☞契約における約束は,財又はサービスを提供する強制力のある義務(法律上の債務)だけでなく,契約締結時に企業が財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じたものを含みますが,法的な強制力を伴わないものは,契約の成立を前提とし,その契約に含まれていなければなりません。

 

4.契約における約束の識別

 

● 目的

契約における約束を識別する目的は,顧客が企業との間で契約の対価との“交換”の一部として交渉し,契約の結果として企業が移転するという合理的な期待を有する財又はサービスを漏れなく識別することにあります(IFRS/BC 87)。

契約における約束は,“別個の財又はサービス”という概念を介して“履行義務”という会計単位に識別され,基本的に契約の対価に等しい取引価格が配分されることによって,契約における取引開始日に,同額の契約資産(対価を受け取る権利)と契約負債(一つ又は複数の履行義務)を両建てで識別することになります(配分後取引価格アプローチ)。したがって,企業が識別する“契約における約束”は,契約の対価との間に経済的な実質において“交換”(=同価値性)の関係が成立していなければなりません。

 

● “交換”の判定

契約の目的とされた財又はサービス(給付義務の目的)は,常に契約の対価との“交換”の全部又は一部を構成しますが,それだけでは契約の対価の全部との“交換”の関係が成立せず,他の財又はサービスも“交換”の一部を構成する場合があります。

“交換”は,経済的な実質に従って判定し,仮に企業が他の財又はサービスを移転する約束をしない場合には,客観的な経済合理性からみて,企業が受け取るべき対価がより低くなる,あるいは,他の企業との競争上,同額の対価での契約の獲得が困難になるという関係が認められるときは,そのような企業の約束は“交換”の一部であるとみるべきです

 

● 企業の履行に顧客の妥当な期待を生じさせる約束(契約に含意されている約束)

取引慣行,公表した方針等により,契約締結時に,企業が他の財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じている場合は,顧客が他の財又はサービスも“交換”の一部として捉えて契約の交渉をし,当該契約の結果として企業が他の財又はサービスを移転する約束をしていますので,そのような約束も契約における約束として識別します(第115項)。

 

● 約束が特定の契約に含まれること(特定の契約と当該約束との因果関係)

“契約における約束”とは,契約の成立を前提として,当該契約の結果として約束するものを意味し,当該契約がなければ,その約束を履行しないという因果関係がなければなりません。逆に,財又はサービスが当該契約とは独立して提供されるときは,契約における約束に該当しません(IFRS/BC 89)。

 

☞企業は,顧客が企業との間で契約の対価との“交換”の一部として交渉し,契約の結果として企業が移転するという合理的な期待を有する財又はサービスを漏れなく契約における約束として識別し,契約の対価との間に経済的な実質において“交換”(=同価値性)の関係が成立することを確認します。

 

5.契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務


一般的に,顧客との契約は,契約の目的とされた財又はサービスを明示しています(第115項)。法律上,契約の目的とされた財又はサービスを提供することを内容とする本来の債務を給付義務と呼びますが,この強制力のある義務(法律上の債務)は,契約における約束に該当します。

法律上,債務者は,債務の本旨(=契約により定まる債務の内容)に従った履行をしなければなりませんので(民法415条),企業の履行により納入・提供する財又はサービスは,顧客との契約において合意された仕様(数量・品質・性能等)に従っていなければなりません。企業が,合意された仕様に従わない財又はサービスを顧客に納入・提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。

 

財又はサービスに対する保証(製品保証)

企業が財又はサービスを顧客に納入・提供した後,当該財又はサービスに故障・不具合が生じたときの経済的な補償(代替品の納品,補修,損害賠償等)や当該財又はサービスを正常に使用するための経済的な便益(保守・点検・維持等)を提供する義務を負う場合は,その義務が契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)の一部なのか,それとも別の義務なのかが問題となりますが,財又はサービスに対する保証の適用指針(指針34~38)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

☞企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)を契約における約束として識別します。

 

6.企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務

 

一般的に,顧客との契約には,契約の目的とされた財又はサービスを提供することを内容とする本来の債務(給付義務)以外にも,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務(法律上の債務)が定められていますが,その義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,契約における約束に該当する可能性があります。

企業は,顧客との契約の内容(契約条項)から,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務を抽出したうえで,その義務が,契約の目的とされた財又はサービス(給付義務の目的)とは異なる(その一部ではない)経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,そのような義務も契約における約束として識別します。

 

返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払

返金が不要な顧客からの支払(入会金,加入手数料,セットアップ手数料など)に対する企業の履行(入会,加入,セットアップ等の管理作業)は,明示又は黙示に,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務として抽出することができますが(指針130),履行義務の識別の適用指針(指針4),返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払の適用指針(指針57~60)は,このような約束についての会計処理を定めています。

返金が不要な顧客からの支払に対する企業の履行は,多くの場合,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)を履行するための活動(準備行為)であって,活動の進捗(管理作業の履行)につれて約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,契約における約束として識別しません(指針4,131)。

 

☞企業は,顧客との契約の内容(契約条項)から,企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務を抽出したうえで,その義務が,契約の目的とされた財又はサービス(給付義務の目的)とは異なる(その一部ではない)経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,そのような義務も契約における約束として識別します。

 

7.付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束

 

例えば,電気通信会社が無償で通話機を提供したり,スーパーマーケット,航空会社及びホテルがカスタマー・ロイヤルティ・ポイントを付与したりするなど(IFRS/BC 88),企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスを約束する場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

追加の財又はサービスを取得するオプションの付与

付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの典型は,販売インセンティブや顧客特典クレジット(又はポイント),契約更新オプション,将来の財又はサービスに係るその他の値引きなど,追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する形態です(指針128)。追加の財又はサービスを取得するオプションの付与の適用指針(指針48~51)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

顧客により行使されない権利

例えば,ギフトカードや返金不能のチケットの販売など(IFRS/BC 396),企業が,顧客に対し,将来において契約の目的とされた財又はサービスを受け取る権利を与える(販売する)形態の契約では,顧客が当該権利のすべては行使しない場合がありますが,顧客により行使されない権利の適用指針(指針52~56)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

☞企業が顧客と契約を締結した結果として,付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスを約束する場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

8.契約に含意されている約束

 

例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレードなど(IFRS/BC 87),企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務(法律上の債務)とはいえなくとも,企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,その時までに生じた取引慣行,公表した方針等により財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

☞企業が顧客と契約を締結した結果として,その時までに生じた取引慣行,公表した方針等により財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

9.代替的な取扱い

 

● 顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い

適用指針は,約束した財又はサービスが,顧客との契約の観点で重要性に乏しい場合には,当該約束が履行義務であるのかについて評価しないことができると定めています。顧客との契約の観点で重要性が乏しいかどうかを判定するにあたっては,当該約束した財又はサービスの定量的及び定性的な性質を考慮し,契約全体における当該約束した財又はサービスの相対的な重要性を検討します(指針92)。

 

● 出荷及び配送活動に関する会計処理の選択

適用指針は,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については,商品又は製品を移転する約束を履行するための活動(指針4参照)として処理し,履行義務として識別しないことができると定めています。当該方法は,類似する種類の取引に対して首尾一貫して適用します(指針93)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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