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2017.11.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

一時点で充足される履行義務

 

2017年11月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「一時点で充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-③ 一時点で充足される履行義務

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」のサブ・ステップ5-①履行義務の属性の判定により,一つ又は複数の履行義務が一時点で充足されると判定した場合,企業は,一時点で充足される履行義務のそれぞれについて,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点で収益を認識します(第38項)。

企業は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮します(第38項)。

 

2.履行義務を充足する時点の決定

 

本基準は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,企業は,“支配”の要件(第33項~第34項)を直接適用するほか,次のような支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮しなければなりません(第38項)。

a 企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(指標(a))

b 顧客が資産に対する法的所有権を有している(指標(b))

c 企業が資産の物理的占有を移転した(指標(c))

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(指標(d))

e 顧客が資産を検収した(指標(e))

 

3.企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(第38項(a))

 

支配との関連性

顧客が資産に対する対価を支払う義務を現時点で負っていることは,顧客がそれと交換に当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を得ていることを示す指標になります(第38項(a))。

もっとも,企業が資産に対する支払を受ける権利は,財又はサービスそのものに関する指標ではありませんので,指標としての有用性には限界があります。

 

資産に対する支払を受ける現在の権利

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しているとは,資産に対する対価の支払期限が到来するまでに時の経過以外は必要とされないことをいいます。

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しないときは,顧客が確定期限の未到来以外に対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁(主張)を有しています。顧客が対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁としては,①停止条件の未成就,②不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),③同時履行の抗弁などの事由が考えられます。

 

停止条件の未成就

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいい,条件が成就したときに法律効力が発生する場合を停止条件といいます(“効力の発生が条件の成就まで停止している”)。

 

不確定期限の未到来(先履行義務の未履行)

期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。発生すること自体は確実ですが,いつ到来するかが不確実な事実にかからせる場合を不確定期限といい,いつ到来するかが確実な事実にかからせる場合を確定期限といいます。

支払期限の到来まで時の経過以外は必要とされない場合は確定期限であり,企業は,資産に対する支払を受ける現在の権利を有します。

これに対し,企業が財又はサービスを提供する義務の履行を完了した後に顧客が代金を支払う定め(後払い)があるときは,企業がいつ財又はサービスを提供する義務(先履行義務)を履行するかが不確実なので不確定期限であり,企業は,財又はサービスを提供する義務の履行を完了しない限り,資産に対する支配を受ける現在の権利を有しません。 

 

同時履行の抗弁

同時履行の抗弁とは,双務契約の当事者が,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる権利をいいます(民法533条)。

顧客が企業に対価を支払う義務と,企業が顧客に契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(給付義務)との間に同時履行の関係のある契約では,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供するまで,顧客が対価の支払を拒絶することができるので(同時履行の抗弁),資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。

不動産の売買契約,建築請負契約などでは,顧客が対価を支払う義務と契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を同時に履行するものとして合意することが多くみられます。これら双方の義務を同時履行の関係にする場合は,通常,契約条項に「と同時に」や「と引換えに」などの用語を使って明示し,後払いと区別します。 

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,資産に対する支払を受ける現在の権利を有するに至る時点,すなわち,支払期限が到来するまでに時の経過以外が必要とされなくなる時点を考慮します。顧客が支払を拒絶できる法律上の抗弁,例えば,停止条件の未成就,不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),同時履行の抗弁などを主張できるときは,企業は資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。 

 

4.顧客が資産に対する法的所有権を有している(第38項(b))

 

支配との関連性

法的所有権は,物に対する完全支配権であり,所有者は,自らの活動に物(資産)の消費,処分,売却,交換,使用,担保差入,保有等のあらゆる利用ができ,他の企業に対する利用の許諾・制限もできますので,これら使用の指図によって当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有します。 

資産の法的所有権は,それが顧客に移転したときに顧客が当該資産に対する支配を獲得し,逆に,それが企業に留まるときは,未だ顧客が当該資産を支配していないことを示す重要な指標になります。多くの場合,資産の法的所有権の移転に伴って資産に対する支配も移転し,資産の法的所有権と資産に対する支配は一致します。ただし,企業が資産の法的所有権を顧客の支払不履行に対する保護としてのみ保持している場合(所有権留保)は,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

法的所有権の概念

所有権は,物権であり,物に対する完全支配権をいいます。所有権は,法律上の概念であり,本基準は,「法的所有権」という用語を使っています。

 

法的所有権の移転時期

a 契約に明示されている場合

所有権の移転時期は,一律に定まっているわけではなく,契約書,合意書等に明示されていればそれに従います。

物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって効力を生じ(民法176条,意思主義),要式や登録・登記を必要としません。そのため,所有権の移転及びその時期は,旧所有者(譲渡人)と新所有者(譲受人)との間の合意のとおりに効力を生じます。

b 契約に明示されていない場合

所有権の移転時期が契約書,合意書等に明示されていないときは,意思表示の解釈(契約の解釈)により当事者の意思を探求しますが,対抗要件(不動産は登記,動産は引渡し)を具備するときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。

 

所有権留保(支払不履行に対する保護としての権利)

a 所有権留保

所有権留保とは,売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保することをいいます。

所有権留保は,主に売買代金の割賦払(分割払)による動産の売買において利用されており,買主が売買代金の支払を怠った場合は,売主が留保した所有権に基づき,その目的物を買主又は第三者から引き揚げてこれを換価するなどして売買残代金の弁済に充当します。買主が売買代金を完済したときは,留保した所有権が売主から買主に移転します。

買主の目的物の利用状況は,通常の売買と異ならないため,売主が所有権を留保したいときは,通常,買主に明示的な合意を求め,契約条項又は約款で,買主による目的物の処分禁止や支払遅滞時の取扱いなど詳細に取り決めます。

b 支配との関連性

企業が所有権留保の特約により資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の法的所有権を有するに至る時点を考慮します。所有権の移転時期は,契約書等に明示されていればそれに従い,明示されていなければ,所有権移転の対抗要件(不動産の登記,動産の引渡し)を具備したときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保する場合(所有権留保),企業が資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません。

 

5.企業が資産の物理的占有を移転した(第38項(c))

 

支配との関連性

資産の物理的占有は,占有者が自ら当該資産の使用を指図し,当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得するか,又は当該便益への他の企業のアクセスを制限する能力を有することを示す可能性があり,企業から顧客に資産の物理的占有を移転することは,顧客が当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標になり得ます。

しかし,物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあります。例えば,買戻し契約には,企業が顧客に資産の物理的占有を移転しながら,依然として当該資産を支配しているものがあります。逆に,請求済未出荷契約には,顧客が資産に対する支配を獲得しながら,企業が依然として当該資産の物理的占有を継続しているものがあります(第38項(c))。

 

物理的占有

占有は,一般に物に対する事実的支配をいいます。本基準は,“物理的占有”の静態的な帰属ではなく,企業から顧客へ「移転した」かどうかという動態的な移転を指標としています。例えば,企業がその意思によらずに物理的占有を喪失し,それを顧客が獲得しても,物理的占有の移転とはいえません。

 

適用指針「請求済未出荷契約」

企業は,顧客との間で,企業が財(製品・商品)の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持することを合意することがあります(いわゆる請求済未出荷契約)。

このような合意は,ほとんどの場合,①企業が当該財に対する支払を受ける現在の権利を有し(指標(a)),かつ,②企業が当該財の法的所有権を顧客に移転する黙示の合意が含まれると解釈できますので(指標(b)),顧客は,当該財に対する支配を獲得します。逆に,企業は,当該財を支配せず,代わりに顧客に当該財に対する保管サービスを提供しています(B 80)。

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,本基準第38項に従って検討するほか,顧客が支配を獲得したと判定するためには,次の要件のすべてを満たしていなければなりません(B 80,81)。

a 請求済未出荷契約の理由が実質的であること(例えば,顧客が当該契約を要請した)

ⅰ 企業と顧客との間で請求済未出荷契約(企業が財の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持する合意)が成立したこと

ⅱ 上記ⅰの合意の理由が実質的であること

b 当該財が顧客に属するものとして区分して識別されていること

c 当該財は現時点で顧客への物理的な移転の準備ができていること

d 企業が当該財を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有しないこと

● 企業は,財の物理的占有を移転する前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,保管サービス)があるかどうかを考慮しなければなりません(B 82)。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,企業が資産の物理的占有を移転した時点を考慮します。物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあるので,買戻し契約や請求済未出荷契約を考慮します。

 

6.顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(第38項(d))

 

支配との関連性

顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有する事象は,顧客が当該資産に対する支配を獲得した結果であることが多いので,支配の移転の指標となり得ます(BC 119,154)。

もっとも,本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配モデルを採用しており,2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定する必要があります。例えば,企業が約束した財を移転する履行義務に加えて,維持管理サービスを提供する独立した履行義務を識別しているときは,財を移転する履行義務を充足する時点を決定するにあたって,財に関連する一部のリスク(故障や性能の低下)を除外して判定します(第38項(d))。

 

危険負担

資産の所有に伴うリスクとして想定される一事象に資産の滅失・毀損があります。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

自然災害等の不可抗力により財が滅失・毀損し,企業が財を移転できなくなった場合,顧客が負う対価の支払義務が残存する(顧客が危険を負担する)のか,消滅する(企業が危険を負担する)のかという問題があり,これを危険負担といいます。

国内取引の実情では,引渡しの時に売主(甲)から買主(乙)に危険が移転する条件がほとんどです。他方,遠隔地者間の取引(特に輸出入取引)では,契約書等で危険が移転する時点として「引渡し」を定義づけることもあります。国際取引において採用される国際商業会議所が作成したインコタームズは,定型的な取引条件として,DAP(仕向地持込渡し)やFOB(本船積込渡し),CIF(運賃・保険料込み条件)などの記号を用いて「引渡し」を定義づけ,危険負担に関する取扱いを定めています。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有するに至る時点を考慮します。2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定します。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

 

7.顧客が資産を検収した(第38項(e))

 

支配との関連性

顧客による資産の検収が予定されている契約では,検収は,顧客が自ら検査して企業が合意された仕様に従った資産を移転し,履行義務を充足したことを確認するものであり,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得したことを示す指標となり得ます(第38項(e))。

 

検収

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。

企業が顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された条件に適合しない場合は,履行義務を完全に充足せず(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)が消滅しません。),追加的に履行義務の完全な充足(代替品の給付,補修,損害賠償等)を行う強制可能な義務を負い続けます。

商法526条は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買では,顧客が受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い,目的物が契約において合意された条件に適合しない場合でも,次の期限内に企業に通知しなければ,責任追及(代替品の給付,契約の解除,代金減額又は損害賠償)ができなくなることを定めています。

● 検査によって直ちに発見することができる契約不適合(瑕疵)⇨検査後直ちに通知する
● 上記以外の契約不適合(隠れた瑕疵)⇨受領後6か月以内に通知する

この規定は,商人間の売買契約に関する任意規定ですので,取引の実情に応じ,この規定を明確化又は修正する特約をし,また,売買契約以外の契約類型でも,顧客の検査と契約不適合(瑕疵)の取扱いに関して定めることが少なくありません。

 

適用指針「顧客による検収」

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(B 83)。

a 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合(B 84)

顧客の検収は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得したかの判断に影響を与えず,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得し,企業が履行義務を充足する可能性があります。

● 企業は,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,設備の据付け)があるかどうかを考慮しなければなりません。

b 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できない場合(B 85)

企業は,顧客の検収を受けるまで,顧客が支配を獲得したと評価することができません。

c 企業が顧客に財(商品・製品)を試用又は評価の目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を確約していない場合(B 86)

顧客が財を検収するか又は試用期間が終了するまで,当該財に対する支配は顧客に移転しません。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,検収の契約条項が,顧客が財又はサービスに対する支配を獲得する時点に与える影響を考慮します。顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合は,検収の契約条項が影響を与えず,検収前に顧客が支配を獲得する可能性がありますが,企業が客観的に判断できない場合は,顧客の検収を受けるまで顧客が支配を獲得したと評価できません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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