ニュースレター

2017.09.23更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

取引価格の配分

 

2017年9月23日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「取引価格の配分」 目次と概要

 

1.Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」の概要

 

企業は,取引価格を算定した後の次のステップで,契約開始時に,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します。

このステップの適用は,次のとおり,1.契約開始時と,2.契約開始後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。

1 履行義務への取引価格の配分

企業は,契約開始時に,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分します(第74項)。

2 取引価格の変動

企業は,契約開始後に取引価格が変動したときは,契約開始時と同じ基礎により契約における履行義務に取引価格を配分しなければなりません(第88項)。

 

☞企業は,①契約開始時と,②契約開始後に取引価格が変動したときに,算定した取引価格を,約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で,それぞれの履行義務に配分します。

 

2.Step4-① 取引価格の配分

 

Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,まず,企業は,契約開始時において,算定した取引価格を,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して配分します(第76項)。

契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合は,企業は,顧客が受けた値引きを,その値引きが一部の履行義務に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合を除き,すべての履行義務に比例的に配分しなければなりません(第81項)。

契約において約束された変動対価が,一定の要件を満たすときは,変動性のある金額の全体を,1つの履行義務(又は単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。

 

3.配分の目的

 

配分の目的

取引価格を配分する目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります(第73項)。

本基準は,この目的を果たすため,企業は,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分することとしています(BC 266)。ただし,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)に定める例外があります(第74項)。

 

契約に履行義務が一つしかない場合

契約に履行義務が一つしかない場合には,基本的に取引価格の配分に関する本基準第76項~第86項は適用されません。ただし,企業が,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))について単一の履行義務を識別し,かつ,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれている場合には,変動対価の配分(第84項~第86項)が適用される場合があります。

 

☞配分の目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります。

 

4.独立販売価格の算定

 

独立販売価格とは

独立販売価格とは,企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格をいいます。

 

独立販売価格の算定の方法

企業は,取引価格の配分にあたって,次の場合に分けて,約束した財又はサービスの独立販売価格を算定します。

● 独立販売価格が直接的に観察可能な場合

企業が当該財又はサービスを同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの価格が観察可能である場合は,その観察可能な価格が,独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠であるといえます。財又はサービスについて契約に記載された価格や定価は,当該財又はサービスの独立販売価格である可能性がありますが,独立販売価格であると推定してはなりません(第77項)。

● 独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合

独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合には,企業は,配分の目的(第73項)に合致する取引価格の配分をもたらす金額となるように独立販売価格を見積らなければなりません(第78項)。

 

☞企業は,取引価格の配分にあたって,約束した財又はサービスの独立販売価格(企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格)を算定します。企業が同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの観察可能な価格が独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠となります。独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合は,企業は,配分の目的に合致するように独立販売価格を見積ります。

 

5.独立販売価格の見積りの方法

 

独立販売価格の見積りの方法

財又はサービスの独立した販売から生じた観察可能な価格を企業が有していない場合には,企業はその代わりに独立販売価格を見積らなければなりません。

その見積りの方法は,配分の目的に合致した独立販売価格の忠実な描写である限りは,制限がありません。本基準は,独立販売価格の見積りのための適切な方法を例示していますが(第79項),独立販売価格の見積りの方法は,それらの例示に限られず,また,特定の方法を禁止することもしていません(BC 268)。

 

実態適用の原則

企業は,独立販売価格を見積るにあたって,合理的に利用可能なすべての情報(市場の状況,企業固有の要因,顧客又は顧客の階層に関する情報を含みます。)を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用しなければなりません(第78条,BC 268)。

 

一貫適用の原則

企業は,類似の特性を有する他の財又はサービスの独立販売価格の見積りの方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第78条,BC 268)。

 

独立販売価格を見積るための適切な方法の例

財又はサービスの独立販売価格を見積るための適切な方法には,次のものが含まれますが,これらに限定されません(第79項)。

 

● 調整後市場評価アプローチ

企業は,財又はサービスを販売する市場を評価して,当該市場の顧客が当該財又はサービスに対して支払ってもよいと考えるであろう価格を見積ります。また,企業は,類似した財又はサービスについて,企業の競争相手の価格を参照して,企業のコストとマージンを反映するように必要に応じて当該価格を調整する場合があります。

 

● 予想コストにマージンを加算するアプローチ

企業は,履行義務の充足のコストを予測し,当該財又はサービスに対する適切なマージンを追加して独立販売価格を見積ります。

 

● 残余アプローチ

企業は,取引価格の総額から契約で約束した他の財又はサービスの観察可能な独立販売価格の合計を控除した額を参照して,残余の財又はサービスの独立販売価格を見積ります(BC 270)。

ただし,企業は,次の要件のいずれかに該当する場合にだけ,残余アプローチを使用することができます。

ⅰ 販売価格の変動性が高い状況

企業が同一の財又はサービスを異なる顧客に(同時に又はほぼ同時に)広い範囲の金額で販売している(すなわち,代表的な独立販売価格が過去の取引又は他の観察可能な証拠から識別できないため,販売価格の変動性が高い)ときは,残余アプローチを使用することができます。

例えば,知的財産及び他の無形資産に関する契約では,それらの財又はサービスを顧客に提供する際に企業に発生する追加コストが少額又は皆無であるため,価格設定の変動性が高くなります。こうした変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有している状況では,契約における独立販売価格を算定する最も信頼性の高い方法は,残余アプローチであることが多いといえます(BC 271)。

ⅱ 販売価格が不確定である状況

企業が当該財又はサービスについての価格をまだ設定しておらず,当該財又はサービスがこれまで独立して販売されたことがない(すなわち,販売価格が不確定である)ときは,残余アプローチを使用することができます。

 

独立販売価格の見積りの複数の方法の組合せ

企業は,約束した財又はサービスのそれぞれの独立販売価格を見積るにあたって,複数の方法を組み合わせて使用することが必要になる場合があります。企業は,複数の方法の組合せを使用して独立販売価格を見積ったときは,当該独立販売価格に基づき取引価格を配分することが,配分の目的(第73項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第78項)に合致するかどうかを評価しなければなりません(第80項)。

例えば,契約の中に含まれる3つ以上の財又はサービスのうち,独立販売価格の変動性又は不確実性の高い複数の財又はサービスが含まれるときに,それら複数の財又はサービスの独立販売価格の総額に残余アプローチを使用し,それらの個々の財又はサービスのそれぞれの独立販売価格の見積りに別の方法を使用する場合がありますが,そうした複数の方法の組合せを使用して見積った独立販売価格は,その結果が適切なのかどうかを検討する必要があります。

 

☞企業は,独立販売価格の見積りにあたって,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用します。適切な見積りの方法の例として,①調整後市場評価アプローチ,②予想コストにマージンを加算するアプローチ,③残余アプローチがあります。残余アプローチは,約束した財又はサービスが,(a) 変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有する状況か,又は(b) 独立での販売実績がなく,販売価格が不確定である状況に限って使用します。

 

6.独立販売価格に基づく配分

 

企業は,契約開始時において,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して取引価格を配分します(第76項)。

本基準は,独立販売価格に基づく配分を原則(デフォルト)とすることにより取引価格の配分に規律をもたらし,企業内及び企業間の比較可能性を高めています(BC 280)。

もっとも,独立販売価格に基づく配分は手段にすぎませんので,収益認識モデルの目的を達成するため,必ずしも企業が顧客から権利を得ると見込む対価の金額の忠実な描写とならない場合として,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)において,例外的に他の方法を使用すべき状況を定めています(第74項,BC 279,280)。

 

7.値引きの配分

 

概要

契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,顧客が値引きを受けています。この値引きは,一部の履行義務に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第81項)。

もっとも,例えば,契約の中の約束した財又はサービスにマージンの高いものと低いものがあるために,契約全体としては利益が生じるのに,値引きの配分によってマージンの低い履行義務の充足時に損失が生じる可能性があります。値引きを独立販売価格に比例して配分する結果は,必ずしも企業が特定の履行義務の充足について権利を得る対価の金額を忠実に描写しません(BC 277)。

そこで,本基準は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分することとしています(第81項)。

 

要件

企業は,次の要件のすべてに該当する場合には,値引きをすべて,契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に配分しなければなりません(第82項)。

a 企業は,通常,契約の中の別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを単独で販売している。

b 企業は,通常,それらの別個の財又はサービスのうちのいくつかを束にしたものも,それぞれの束の中の財又はサービスの独立販売価格に対して値引きして販売している。

c bにおける財又はサービスの束のそれぞれに帰属する値引きが,当該契約における値引きとほぼ同額であり,それぞれの束の中の財又はサービスの分析により,当該契約における値引きの全体がどの履行義務に属するのかの観察可能な証拠が提供されている。

 

取引価格の配分の方法

企業は,第82項に従って値引きを配分するときは,当該値引きを配分してから,独立販売価格の見積りに残余アプローチを使用しなければなりません(第83項)。

例えば,企業が定例的に製品Aを@40で,製品Bを@55で,製品Cを@45で,製品Dを@15~45で(変動性が高い),個々に販売するとともに,製品BとCを一つずつ組み合わせて対価60で販売している状況において,製品A~Dを一つずつ組み合わせて対価130で販売するとします。

この場合,企業は,製品BとCを組み合わせて販売するときに40値引きをするという観察可能な証拠があり,製品Aを@40で販売するという観察可能な価格がありますので,製品A~Dを組み合わせたときの対価130のうち対価100を製品A~Cに配分し,値引き40全体をBとCに配分します。次に,残余アプローチを使用して,製品Dの独立販売価格を30と見積ります。企業は,製品Dの独立販売価格の見積りの結果30を検討し,観察可能な販売価格の範囲15~45に入っており,適切であると評価します(IE 173~176)。

このように,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有しているというための要件(第82項)は,通常は,3つ以上の別個の財又はサービスのある契約に適用されます。この要件をすべて満たす状況は多くはありませんので,値引きがすべての履行義務に比例的に配分すべきではない状況は,制限的であるといえます(BC 282)。

 

☞企業は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有する状況として本基準第82項の要件をすべて満たす場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分します。

 

8.変動対価の配分

 

概要

契約の中に変動対価が含まれる場合には,その変動性のある金額は,一部の履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第86項)。

もっとも,契約において約束された変動対価は,契約全体に帰属させることが適切な場合もあれば,次のいずれかのように,顧客への財又はサービスの移転と交換に権利を得る対価の金額を忠実に描写するため,契約の特定の一部分に帰属させることが適切な場合もあります(第84項,BC 278)。

a 契約の中の全部ではない1つ又は複数の履行義務

例えば,顧客が,契約の中に含まれる複数のうちの1つの財又はサービスを企業が所定の期間内に顧客に移転することを条件にボーナスを支払うことを約束する場合は,当該財又はサービスにボーナス(変動対価)を配分することが適切です(BC 284)。

b 契約の中の全部ではない別個の1つ又は複数の財又はサービス

例えば,ホテル管理サービスを1年間にわたり提供する契約において顧客が稼働率の2%を基礎として決定される変動対価を支払うことを約束するときは,企業が,毎日の個々の管理サービスにつき,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))として単一の履行義務を識別する場合でも,日次の稼働率により対価の不確実性が解消されるため,日次に決定される変動対価を毎日の個々の管理サービスに配分することが適切です(BC 285)。

そこで,本基準は,変動対価が契約の中の全部ではない履行義務(あるいは財又はサービス)に関連する場合は,変動性のある金額をすべて当該履行義務(あるいは当該財又はサービス)に配分することとしています(第85項)。

 

要件

企業は,次の要件の両方に該当する場合には,変動性のある金額(及び当該金額のその後の変動)の全体を,一つの履行義務(又は第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。

a 変動性のある支払の条件が,当該履行義務の充足(あるいは当該別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連している。

b 変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが,契約の中の履行義務及び支払条件のすべてを考慮すると,配分の目的(第73項)に合致する。

 

取引価格の配分の方法

企業は,第85項に従って変動対価を配分するときは,取引価格のうち第85項の要件に該当しない残りの金額を配分するため,取引価格の配分に関する本基準第73項~第83項を適用しなければなりません(第86項)。

 

☞企業は,契約において約束された変動対価について,①変動性のある支払の条件が,履行義務の充足(あるいは第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連し,かつ,②変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが配分の目的(第73項)に合致するときは,変動性のある金額の全体を当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.13更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

現金以外の対価と顧客に支払われる対価

 

2017年9月13日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

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「現金以外の対価と顧客に支払われる対価」 目次と概要

 

1.Step3-③ 現金以外の対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,顧客が契約において現金以外の形態の対価を約束している場合は,企業は,その現金以外の対価(又は現金以外の対価の約束)を公正価値で測定する必要があります(第66項)。

 

2.現金以外の対価の測定

 

現金以外の対価の公正価値

企業は,財又はサービスと交換に顧客から現金を受け取る場合,流入する資産の価値すなわち受け取る現金の額で取引価格を測定しますので,これと整合させるため,企業が財又はサービスと交換に顧客から現金以外の形態の対価(財又はサービスの形態のほか,金融商品や有形固定資産の形態の場合もあります。)を受け取る場合も,流入する資産の価値すなわち現金以外の対価の公正価値で取引価格を測定すべきです(BC 248)。

 

現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合

企業が現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価の測定を,当該対価との交換で顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に行わなければなりません(第67項)。

例えば,IFRS第2号「株式に基づく報酬」で,企業は,受け取った財又はサービスの公正価値を信頼性をもって見積れない場合には,付与した資本性金融商品の公正価値を参照してそれらを間接的に測定することとしています。このように,受け取る資産と交換に引き渡す資産の公正価値の方が高い信頼性をもって見積ることができる場合は,その公正価値を参照して間接的に測定することは,他の会計基準と整合的であるといえます(BC 249)。

 

☞企業は,顧客が現金以外の形態の対価を約束している場合,その現金以外の対価の公正価値を取引価格として測定する必要があります。もし,現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に現金以外の対価を測定します。

 

3.変動対価の見積りの制限の適用

 

現金以外の対価の変動性

現金以外の対価の公正価値の見積りは,企業が現金で受け取る変動対価と同様に変動する可能性がありますが,その変動性には,次の両方があります(BC 250,251)。

● 将来の事象の発生又は不発生によって変動する可能性

 現金以外の対価の受け取りに条件が付されている場合(例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利が将来の事象の発生又は不発生に左右される場合)。

● 現金以外の対価自体の価格又は価値の変動

 現金以外の対価自体の価格又は価値が変動する場合(例えば,対価である株式の1株当たりの価格が変動する場合)。

 

変動対価の見積りの制限の適用

企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合(例えば,公正価値が企業の履行によって変動する可能性がある場合)には,変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用しなければなりません(第68項)。

変動対価の見積りの制限に関する規律(本基準第56項~第58項)は,受け取る対価の形態が現金かそれ以外かにかかわらず,企業の履行に関連する同種の不確実性に適用すべきです。例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利の公正価値は,株式自体の価格又は価値の変動だけでなく,業績ボーナスを受け取るかどうかの不確実性にも関連しています。本基準は,このように現金以外の対価の公正価値が変動する理由が企業の履行に関連する不確実性にもある場合には,公正価値の見積りにあたって,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用することとしています(BC 252)。

 

☞企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合には,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用する必要があります。

 

4.企業による契約の履行を促進するための財又はサービス

 

顧客が企業による契約の履行を促進するために財又はサービス(例えば,材料,設備又は労務)を拠出する場合には,企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を企業が獲得するのかどうかを評価しなければなりません(第69項)。

企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得する場合には,当該財又はサービスを,顧客から受け取った現金以外の対価として会計処理しなければなりません(第69項)。したがって,企業は,契約において約束された現金対価の金額に,拠出された財又はサービスの公正価値を加算して取引価格を算定し,契約におけるそれぞれの履行義務に配分します。

これに対し,企業が拠出された財又はサービスに対する支配を獲得しない場合には,当該財又はサービスは依然として顧客が支配していますので,取引価格に含めません。

 

5.Step3-④ 顧客に支払われる対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価は,取引価格(収益)の減額として会計処理する必要があります(第70項)。

ここにいう対価は,現金又は企業に対する債務の支払に充当できるクレジット,クーポン,バウチャー等であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

 

6.顧客に支払われる対価

 

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価とは,企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

企業は,顧客に支払われる対価を,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 

類似の支払の会計処理

企業が顧客又は顧客の顧客に対価を支払い,又は支払うと見込んでいる場合,その対価は,(a) 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金のほか,(b) 顧客から受け取る財又はサービスとの交換のための支払,あるいは(c) 両者の組合せの形式による場合があります(BC 255)。顧客に支払われる対価の形態には,現金のほか,企業に対する債務金額に充当できるクレジット又は他の項目(例えば,クーポン又はバウチャー)も含まれます(第70項)。

企業は,これら類似の支払が以下のいずれであるのかを決定し,会計処理します(2010ED 48)。

a 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金

 企業は,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)。

b 顧客から受け取る別個の財又はサービスに対する支払

 企業は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します(第71項)。

c aとbの組合せ

 顧客に支払われる対価が,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 企業が顧客から受け取る財又はサービスの公正価値を合理的に見積れない場合には,顧客に支払われる対価の全額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 

類似の支払と区別する指標

企業が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個の財又はサービス(顧客の財又はサービス)を顧客から受け取り,当該財又はサービスとの交換のために顧客に支払われる対価は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理しなければなりません(第71項)。

仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理するかどうかは,企業が受け取る財又はサービス(顧客の財又はサービス)が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個のものであるかどうか(本基準第27項~第29項参照)が指標となります(BC 256)。

例えば,企業が顧客である販売業者に製品を販売するとともに,顧客から製品陳列サービス(製品の在庫保管・展示等)の提供を受け,当該サービスに対する支払を行うとします。

製品陳列サービスは,企業が取り扱う製品なしにそれ単独で便益を得ることができませんが,企業が取り扱う製品は企業にとって容易に利用可能な他の資源であり,それと組み合わせて便益を得ることができます(第27項(a)参照)。

したがって,企業は,顧客から受け取る製品陳列サービスが,顧客への移転を約束した製品とは別個のものであると判定し,顧客からの別個の財又はサービスに対する支払として,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します。

 

顧客に支払われる対価の一部についての取引価額の減額

企業が約束した財又はサービスと交換に顧客から受け取る対価の金額と,当該顧客から受け取る別個の財又はサービスと交換に支払う対価の金額が,たとえそれらが別々の事象である場合であっても,リンクしていることがあります。例えば,顧客が,企業からの財又はサービスに対して,もし企業から支払を受けていなければ支払ったであろう金額よりも多く支払うことがあります。そうした場合に収益を忠実に描写するため,企業が受け取る別個の財又はサービスに対する支払として会計処理する金額は,当該財又はサービスの公正価値に限定し,公正価値を超過する金額があれば取引価格(収益)の減額として認識します(BC 257)。

上記(製品陳列サービス)の事例で,もし,顧客に支払われる対価が製品陳列サービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

顧客の顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価には,企業が直接,顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価も含まれます。

例えば,企業が小売業者に製品を販売するとともに,新聞のチラシで消費者に割引クーポンを発行するとします。小売業者は,企業の製品の販売にあたって,消費者から割引クーポンの提示を受けたときは,代金を値引きするとともに,回収した割引クーポンを企業に提出し,企業から,消費者に値引いた金額を補償してもらいます。

このように,企業が直接,顧客(小売業者)から企業の財又はサービスを購入する他の当事者(消費者)に支払う対価も,顧客に支払われる対価に含まれます。この場合の対価の形態は,顧客(小売業者)が企業に対する債務金額に充当できる割引クーポンであり,企業は,顧客に対し,消費者が企業の製品の購入にあたって提示した割引クーポンを企業に提出することを条件として,消費者に値引いた金額を補償することを約束しています。

企業は,顧客から,割引クーポンと交換に別個の財又はサービスを受け取っていませんので,取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

☞企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる場合に,顧客に支払われる対価と類似の支払を区別し,①顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金については,取引価格(収益)を減額し,②顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)と交換のための対価については,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理し,③①と②の組合せについては,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合にその超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

7.取引価格の減額の方法


取引価格の減額の会計処理を行う時点

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,企業は,次の事象のうち遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識しなければなりません(第72項)。

a 企業が,関連する財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時

b 企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,関連した履行義務の充足時に収益を減額して認識します。また,企業が履行義務を充足して収益を認識した後になってはじめて顧客に支払われる対価を約束する場合もありますが,この場合は,既に認識した収益の減額を直ちに認識することになります。

 

顧客に支払われる対価の変動性

顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)

本基準は,企業が遅くとも顧客に支払われる対価を「約束」する時点で取引価格に反映すべきである旨を明確化しています。企業は,将来の事象の発生又は不発生を条件として顧客に支払われる対価を約束する場合も,約束の時点で,その不確実性を反映して取引価格を測定します(BC 258)。

上記(割引クーポンの発行)の事例で,企業は,①小売業者に製品を引き渡した時,又は②消費者にクーポンを発行した時のいずれか遅い時に,収益の減額を認識します。その時点では,消費者が割引クーポンを行使するかどうかという不確実性のため,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれています。そこで,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項に従い,変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価も含めて,取引価格を見積ります。

 

☞企業は,①約束した財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時,又は②企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)の遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識します。企業は,企業が対価の支払を約束する時点で,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.01更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約における重大な金融要素の存在

 

2017年9月1日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「契約における重大な金融要素の存在」 目次と概要

 

1.Step3-② 契約における重大な金融要素の存在

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合は,企業は,約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整する必要があります(第60項)。

ただし,実務上の便法として,企業が,契約開始時において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

 

☞企業は,契約の当事者が合意した支払の時期(財又はサービスの顧客への移転の時点とそれに対する顧客の支払の時点が1年以内と見込んでいる場合を除きます。)により,顧客又は企業に資金提供の重大な便益が提供される場合は,契約において約束された対価から貨幣の時間価値の影響を調整し,包括利益計算書において,金利収益又は金利費用を顧客との契約から生じる収益と区別して表示します。

 

2.金融要素の影響の調整

 

金融要素を含んだ契約

顧客との契約の中には金融要素を含んだ契約がありますが,そうした契約は,概念上,販売に係る取引(売買契約)と金融に係る取引(融資契約)の2つの取引が含まれ,名目的な現金販売価格についての収益要素と,後払い(延払い)又は前払いの条件の影響による金融要素に区分することができます。

本基準は,中心(コア)となる原則として,企業が約束した財又はサービスと交換に得る対価を反映する金額で収益を認識するという原理を採用していますが(第2項),金融要素を含んだ契約において約束された対価は,金融要素の影響を含んでいるため,約束した財又はサービスの対価を忠実に反映していません。そのため,契約において約束した対価から金融要素の影響を調整しなければ,約束した財又はサービスの顧客への移転時に誤った金額の収益を認識してしまうおそれがあります。また,重大な金融要素を識別することにより,顧客との契約の重要な経済的特徴(財又はサービスの移転を目的とする契約が融資契約を含んでいること)に関する有用な情報を財務諸表利用者に提供します。

 

目的

契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの当該財又はサービスが移転される時点の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります(第61項,BC 230)。

現金販売価格とは,約束した財又はサービスが顧客に移転された時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金を支払ったとした場合に,約束した財又はサービスに対して顧客が支払ったであろう価格をいいます(第61項)。

 

☞企業が契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時における現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります。

 

3.重大な金融要素

 

要件

企業は,①契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定し,契約において約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整しなければなりません(第60項)。

①契約の当事者が(顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる)支払の時期を合意することは,契約に重大な金融要素が存在する前提条件となります。

顧客への財又はサービスの移転のかなり前又はかなり後に支払期限が到来することは,契約が金融要素を含んでいるための必要条件ではありますが,契約に定められた支払の時期だけが,金融要素の調整の必要性を決定づけるものではありません。財又はサービスの移転と支払との間に相当の期間があっても,それらの時期が異なる理由が,企業と顧客との間での融資契約に関するものではない場合もあります。

そこで,本基準は,契約の当事者が合意した支払の時期によって,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定することとしています(BC 231)。

重大な金融要素は,資金提供の約束が契約に明記されているか,契約の当事者が合意した支払条件に含意されているかを問わず,存在する可能性があります(第60項)。

 

要素

契約が重大な金融要素を含んでいるかどうかは,①契約が金融要素を含んでいるかどうかと②金融要素が契約とって重大であるかどうかの2つの要素により構成されます(第61項)。

このうち②について,企業は,あくまで契約にとって(契約レベルでの)金融要素が重大かどうかを考慮します。多くの契約については,金融要素の影響が顧客との契約に関して認識すべき収益の金額を大きくは変更しないため,金融要素が重大ではないと考えられます。

企業によっては,類似した契約のポートフォリオレベルについての金融要素の複合した影響が企業全体にとって重要性がある場合もありますが,個々の契約にとって金融要素の影響が重大でない限り,重大な金融要素を識別する必要はありません(BC 234)。

 

両面性

企業は,契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より後払いを合意するときは,企業から顧客に対して,また,前払いを合意するときは,顧客から企業に対して,それぞれ資金提供の重大な便益が提供されるかどうかを判定します。

契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より前払いを合意し,顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合には,企業が受け取った現金よりも多額の収益を認識する結果になります。

このような結果は,従来の実務を変更することとなり,顧客が金融以外の理由(例えば,顧客に重大な信用リスクがある場合や顧客が事前の契約コストを企業に補償する場合)で前払いする取決めの経済的実質が反映されないことと平仄が合わないなどの問題も指摘されています(BC 237)。

しかし,例えば,企業が,長期の工事請負契約に必要な資材の調達資金の提供を受けるために顧客との間で多額の前払いを合意する場合,そのような合意をしない場合に比べ,契約において約束された対価の金額は,第三者から金融を得るための財務コストの分だけ低くなりますが,約束された財又はサービスが同一であるにもかかわらず,企業が資金提供の重大な便益を顧客から受けるか第三者から受けるかによって認識すべき収益の金額が異なるべきではありません。そこで,本基準は,契約の当事者が前払いの合意により顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合にも,前払いによる重大な金融要素の影響を調整する会計処理を免除しないこととしています(BC 238)。

 

☞企業は,①契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる支払の時期を合意し,かつ,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,重大な金融要素を識別します。

 

4.重大な金融要素の識別

 

指標

企業は,①契約が金融要素を含んでいるかどうか,②金融要素が契約とって重大であるかどうかを評価するにあたって,以下の指標を含め,すべての関連性のある事実及び状況を考慮しなければなりません(第61項,BC 232)。

a 契約において約束された対価の金額と,約束した財又はサービスの現金販売価格との差額

企業(又は他の企業)が,支払条件の時期に応じて,同一の財又はサービスを異なる対価の金額で販売する場合には,一般的に,各当事者が契約に金融要素があることを認識しています。ただし,この差額が金融以外の要因による場合もあります(第62項参照)。

b 次の両者の組合せ

ⅰ 企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と,顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の予想される期間の長さ

ⅱ 関連性のある市場での実勢金利

財又はサービスの移転と支払の時期が異なることは,重大な金融要素の存在を決定づけるものではありませんが,支払時期と実勢金利の影響の複合によって,資金提供の重大な便益が提供されていることを示す強い指標になる場合があります。

 

重大な金融要素の不存在を示す要因

企業は,以下の要因のいずれかが存在するときは,契約に重大な金融要素が存在しないと判定します(第62項,BC 233)。

a 顧客が財又はサービスに対して前払いしており,当該財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる。

カスタマー・ロイヤルティ・ポイントなど幾つかの類型の財又はサービスについては,顧客が当該財又はサービスについて前払いを行い,当該財又はサービスの顧客への移転が顧客の裁量で決まります。そうした財又はサービスに対する支払条件の目的は,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

b 顧客が約束した対価のうち相当な金額に変動性があり,当該対価の金額又は時期が,顧客又は企業の支配が実質的に及ばない将来の事象の発生又は不発生に基づいて変動する(例えば,対価が売上高ベースのロイヤルティである場合)。

ロイヤルティ契約など一部の契約では,財又はサービスに関して重大な不確実性があるため,当事者が対価の金額と支払時期を固定したくない場合があります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,財又はサービスに対する対価の不確実性を解消し,その価値の保証を提供することにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

c 契約において約束された対価と財又はサービスの現金販売価格との差額が,顧客又は企業のいずれかに対する資金提供以外の理由で生じており,それらの金額の差額が相違の理由に見合っている。例えば,支払条件が,企業又は顧客に,相手方が契約に基づく義務の一部又は全部を適切に完了できないことに対しての保護を提供する場合がある。

状況によっては,業界又は法域での典型的な支払条件に従った前払い又は後払いには,金融以外の主目的がある場合があります。例えば,我が国の民法では,請負契約の報酬は,特約がない限り後払いとされ,建設業界の工事請負契約の標準約款でも完成・引渡し時に対価の一部又は全部を支払うものとされているように,顧客が契約の完成時又は所定のマイルストーンの達成時まで対価の一部又は全部の支払を留保する場合があります。逆に,限定された財又はサービスの将来の供給を確保するために,顧客が対価の一部を前払いすることを求められる場合もあります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与えることにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

 

☞企業は,重大な金融要素の識別にあたって,①現金販売価格,②(a)支払時期と(b)実勢金利との影響の複合を考慮します。ただし,①顧客が前払いした財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる場合や,②変動対価の金額や支払時期に対して当事者の実質的コントロールが及ばない場合,③現金販売価額との差額が資金提供の便益以外の理由に見合っている場合(例えば,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与える場合)は,重大な金融要素を識別しません。

 

5.実務上の便法

 

企業は,契約開始時において,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

本基準は,企業に重大な金融要素の識別や割引率の決定などを免除して本基準の適用を簡素化するため,資金提供の便益が1年以内であることに限定し,実務上の便法を容認しています(BC 236)。ただし,財又はサービスの移転と支払との間が1年以内のときは重大な金融要素の影響を調整しないという実務上の便法は,類似した状況における類似した契約に一貫して適用すべきです(BC 235)。

 

☞企業は,実務上の便法として,契約開始時において,財又はサービスの移転と支払との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額から重大な金融要素の影響を調整する必要はありません。

 

6.調整に用いる割引率

 

重大な金融要素の調整に用いる割引率

本基準は,重大な金融要素の調整に用いる割引率として,以下の利率を採用せず,契約開始時における企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率を採用しています。企業と顧客との間で財又はサービスの提供を伴わない金融取引で使用される利率が,その契約において資金提供を受ける当事者の特性を,顧客又は企業が提供する担保又は保証とともに,当事者の信用度その他のリスクを含めて反映するからです(BC 239)。

● 契約で明示された利率

契約に利率が明示されていたとしても,その利率を割引率として使用できるとは限りません。企業が,顧客との契約にあたって,販売インセンティブとして安価な金融を提供する場合もありますので,契約で明示された利率を割引率として使用すると,契約の存続期間にわたる収益の適切な認識とはならないおそれがあるからです(BC 239)。

● リスクフリー金利

リスクフリー金利は,多くの法域において観察可能であり,割引率として使用すれば,各契約に固有の利率を算定するコストがかかりません。しかし,本基準は,リスクフリー金利を割引率として使用することにより生じる金利収益又は金利費用は,契約の当事者の特性を反映しないため,有用な情報をもたらさないことから,割引率として使用しないこととしています(BC 239)。

 

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率

企業は,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素について調整するにあたって,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません(第64項)。

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率の決定にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮します(第64項)。

 

現金販売価格への割引率

企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格(=約束した財又はサービスが顧客に移転される時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金で支払うであろう価格)に割り引く率として特定することができる場合があります(第64項)。

 

割引率の再評価

企業は,契約開始時に決定した割引率は,たとえその後に金利又は他の状況(顧客の信用リスクの評価など)の変動があったとしても,見直してはなりません(第64条,BC 242,243)。

 

☞企業は,重大な金融要素の調整にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮し,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません。この割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格に割り引く率として特定できる場合があります。

 

7.重大な金融要素の影響の表示

 

顧客との契約から生じる収益と区別した表示

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

重大な金融要素を有する契約には別個の経済的特性(一方は財又はサービスの顧客への移転に関連し,他方は融資契約に関連する)が含まれており,それらの特性は区分して会計処理及び表示を行うべきだからです。

そこで,金融の影響(契約において約束された対価のうち割引率を使用して調整した部分が時の経過とともに調整が戻されること=いわゆる割引の巻戻し)は,顧客との契約から生じる収益とは区分して,収益の測定の変更としてではなく,金利収益又は金利費用として表示します(BC 246)。

 

契約資産(債権)・契約負債に対する付従性

金利収益又は金利費用は,契約資産(債権)又は契約負債が顧客との契約の会計処理において認識される範囲でのみ認識します(第65項)。

本基準により,顧客との契約から契約資産(債権)又は契約負債を認識している間だけ金利収益又は金利費用を認識しますが,契約資産(債権)又は契約負債を認識しなくなった場合には,金利収益又は金利費用を認識しません。

 

☞企業は,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と金融の影響(金利収益又は金利費用)を区別して表示します。

 

8.顧客の信用リスク

 

これまで,重大な金融要素を有する契約について,収益の表示も含めて解説しましたが,ここで,重大な金融要素を有する契約に限らず,顧客との契約全般について,顧客の信用リスクに関する会計処理及び表示について解説します。

 

契約開始時における顧客の重大な信用リスク

本基準は,販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(不良債権)を区別して有用な情報を提供するため,取引価格に顧客の信用リスクを反映しないこととしています(BC 259,260)。ただし,契約開始時から顧客に重大な信用リスクがある一部の取引について,企業が財又はサービスの移転について収益を「グロスアップ」して認識し,同時に多額の貸倒費用を認識することは,取引を忠実に表現せず,有用な情報を提供しません(BC 265)。そこで,本基準は,その適用対象となる契約について,契約開始時において,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと(顧客に重大な信用リスクがないこと)を要件としています(第9項(e))。

 

金融要素のない顧客との契約から生じた債権の減損損失の表示

本基準は,金融要素のない顧客との契約から生じた短期営業債権に係る減損損失を他の減損損失と区分して表示するものとしています(第113項(b))。

これにより顧客との契約から生じた収益総額(収益の趨勢情報)と債権管理(又は不良債権)に関する減損損失を区別して有用な情報を提供することができます(BC 264)。

減損損失は,必ずしも契約開始後,収益を認識した報告期間内に発生するものではなく,過去の報告期間に認識された収益に関するものもあり,これらを区別する情報を入手するため多額のコストがかかるおそれがあることから,本基準は,収益の科目と減損損失の科目を近くに表示して関連づけることを求めないこととしています(BC 261~263)。

 

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権の減損損失の表示

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権に係る減損損失は,他の類型の金融資産についての減損損失ととともに整合的に表示します(BC 245)。

顧客との契約の金融要素から生じた債権は,金融に係る取引(融資契約)から生じた債権と同じ取り扱いをすべきだからです(BC 244)。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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