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2017.07.25更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

別個の財又はサービスの識別

 

2017年7月25日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「別個の財又はサービスの識別」 目次と概要

 

 

1.Step2-② 別個の財又はサービスの識別


Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。“別個の財又はサービス”という概念は,次のaとbの特性をいずれも備える会計単位です(第27項)。

a 顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること 

個々の財又はサービスが,最低限,顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません(第27項(a))。

b 財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること

たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約における約束として他と区分して識別可能でない財又はサービスの束は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません(第27項(b))。

 

☞企業は,識別した契約における約束を,①最低限,顧客に便益を提供し得る単位より細分化しない,②契約における約束として他と区分して識別し得る単位より分離しない,という2つのルールに従い,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。

 

2.契約における約束の目的となる財又はサービス

 

契約における約束の類型とその目的となる財又はサービス

財又はサービスは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源,すなわち資産です。サービスは,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第33項)。 

本基準は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,財又はサービスそのものではなく,まず,契約において財又はサービスを顧客に移転する約束(契約における約束)を識別するものとしています。例えば,企業が顧客に塗装サービスを提供する契約では,塗装に用いられるであろう下塗材や塗料,その他の財も顧客に移転しますが,このような契約に明示的に約束されたもの以外の個々の財又はサービスまで網羅的に識別することは,履行義務を識別する目的にとっては必要がなく,無駄な事務負担となります。

そこで,企業は,Step2-①契約の約束の識別のサブ・ステップで,契約における約束を漏れなく識別した後に,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップでは,契約における約束の目的となっている財又はサービスに着眼し,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。 

本基準は,企業が約束した財又はサービスを識別するのに役立てるため,本基準第26項で,企業が識別すべき契約における約束の類型とその目的となる財又はサービスを例示しています(BC 91)。

 

待機する又は利用可能にするサービス(BC 91(a))

企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスの性質及び企業の履行の性質を考慮しなければなりません。例えば,典型的なヘルスクラブ契約では,顧客は,ヘルスクラブの利用回数に関係なく(ヘルスクラブを全く利用しなくとも),期間に応じた一定の対価を支払う義務を負います。このような場合には,サービスの内容は,顧客が要求する一時点でヘルスクラブの利用を提供することではなく,一定の期間にわたりヘルスクラブを利用可能にして待機するサービスです(BC 160)。 

 

将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与(BC 91(b))

顧客又は第三者が,将来,一定の条件が成就したときに,企業に対し,財又はサービスを提供することを強制することが可能になる場合,企業が顧客又は第三者に将来において提供される財又はサービスに対する権利を付与しているといえます。例えば,メーカーが顧客(販売業者)に財を販売するにあたって,販売業者の顧客(エンドユーザー)に追加的なサービス(メンテナンスなどのアフターサービス)を提供することを約束することがあります。このような将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与も企業にとっての履行義務を生じさせます(BC 92)。 

 

顧客に財又はサービスを移転しない活動

企業は,顧客が契約の目的とした財又はサービスを移転するために独立の活動を行うことが必要であっても,それにより顧客に財又はサービスを移転しない活動を履行義務として識別してはなりません。例えば,多くのサービス契約では,サービス提供者が契約をセットアップするために多額の費用を要する種々の管理作業を行うことがありますが,そうした作業を履行しても顧客にサービスが移転しませんので,そのような活動はサービスではありません(第25項,BC 93)。 

 

☞企業は,別個の財又はサービスを識別するため,契約における約束の目的となる財又はサービスに着眼します。 

 

3.別個の財又はサービスの原則

 

別個の財又はサービスの原則

履行義務は,一方では,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個となり得るという特性を備えていなければなりません。この特性を備えないものは,財又はサービス(資産)かどうか疑念が生じ,それを区分して会計処理すれば,財務諸表利用者にとって目的適合性のない情報となるおそれがあるからです(BC 97)。 

他方で,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束は,契約における約束として他と区分して識別可能であるという特性を備えていなければなりません(BC 94,102)。この特性を備えないものに区分して会計処理すれば,企業が顧客との契約における約束を履行することを忠実に描写しない情報となるおそれがあるからです。例えば,建設型又は製造型の契約では,別個となり得る多くの財又はサービス(さまざまな資材,労働力及びプロジェクト管理サービス)を顧客に移転しますが,異なる時期に移転される別個となり得る財又はサービスをすべて区分して会計処理することは,多くの契約にとって実務的ではなく,当該契約における企業の履行の忠実な描写にならないおそれがあります。 

そこで,本基準は,企業が,約束した財又はサービスを,顧客への移転を忠実に描写する収益認識のパターンとなる方法で実務的に区分するため,“別個の財又はサービス”という概念を採用しています(BC 94,95)。

 

別個の財又はサービスの概念

本基準は,「別個のものである(distinct)」という用語の意味(通常の意味では,異なった,区分された,あるいは類似していないものを示します。)を明確化し,次の要件の両方を満たす場合に“別個のもの”と判定するものとしています(第27項,BC 95,96)。 

a 個々の財又はサービスの特性(第27項(a))

顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること。すなわち,当該財又はサービスが別個のものとなり得ること。 

b 契約における約束の区分(第27項(b)) 

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること。すなわち,当該財又はサービスが契約の観点において別個のものであること。 

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,①個々の財又はサービスの特性と②契約における約束の区分に関する両方の要件を満たすときは“別個のもの”として区分することにより,また,いずれかの要件を満たさないときは束ねることにより,別個の財又はサービス(の束)を識別します。

 

4.個々の財又はサービスの特性

 

概要

顧客に約束している財又はサービスは,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません。

 

要件

顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること(第27項(a))

 

要素

顧客がその財又はサービスから便益を得ることができること

顧客が財又はサービスを使用,消費,売却(スクラップ価値よりも高い金額で),保有し,又は経済的便益を生み出す他の方法で利用することができる場合には,顧客がその財又はサービスから便益を得ることができます(第28項)。 

それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得ることができること

ⅰ その財又はサービス単独で便益を得ることができること 

顧客がその財又はサービスからの便益をそれ単独で得ることができるかどうかは,顧客がその財又はサービスを使用する可能性のある方法ではなく,その財又はサービスそのものの特性を基礎として評価します。したがって,顧客が企業以外の源泉から容易に利用可能な資源を獲得することを妨げる契約上の制約をすべて無視して評価します(BC 100)。 

ⅱ その財又はサービスと顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得ることができること 

容易に利用可能な資源とは,(当該企業又は別の企業が)独立に販売している資源,顧客が既に企業から得ている資源(企業が契約に基づいて既に顧客に提供している財又はサービスを含みます。),又は他の取引・事象から得ている資源をいいます(第28項)。

 

指標

企業がある財又はサービスを通常は独立に販売しているという事実は,顧客が財又はサービスからそれ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができることを示唆します(第28項)。

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができるものでないときは,他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。

 

5.契約における約束の区分

 

概要

個々の財又はサービスが別個のものとなり得る(第27項(a)の要件を満たす)としても,当該契約において約束された財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するため,企業による単一の履行により移転する複数の財又はサービスの束は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません。

 

要件

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること(第27項(b))

 

分離可能なリスク

本基準は,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能かどうかの評価の基礎として“分離可能なリスク”の概念を用いています。この概念は,「束の中の個々の財又はサービスは,それらの約束した財又はサービスのうちの1つを顧客に移転する義務を履行するために企業が引き受けるリスクが,その束の中の他の約束した財又はサービスの移転から分離不能なリスクである場合には,別個のものではない」と評価することに役立ちます。分離不能なリスクがあるために別個のものではないと評価するときは,多くの場合,別個のものとなり得る財又はサービスが,企業が契約における約束を履行する過程において結合又は改変されるために,それらの財又はサービスの単純な合計よりも価値の大きい(又は実質的に異なる)複合された財又はサービスの別個の束を移転することを企業が約束している状況を示しています。

本基準は,“分離可能なリスク”という基本原則に基づき,その指標として第29項(a)~(c)の補助的諸要因を掲げ,特定の契約又は業界への適用可能性を高めています(BC 103~106)。

 

指標

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であることを示す指標には,次の要因が含まれますが,これらに限定されません(第29項)。また,これらの諸指標は相互に排他的なものではなく,複数の指標が該当する場合もあります(BC 106)。

 

企業が,当該財又はサービスを契約において約束している他の財又はサービスとともに,顧客が契約した結合後のアウトプットを示す財又はサービスの束に統合する重要なサービスを提供していない。言い換えると,企業が当該財又はサービスを,顧客が指定した結合後のアウトプットの製造又は引き渡しのためのインプットとして使用していない(第29項(a))

主に建設業界において,企業が重要な統合サービス(例えば,さまざまな建設作業の管理と調整)を提供する状況では,顧客に対する企業の約束の相当部分が,個々の財又はサービス(例えば,協力業者が行う作業)が契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,建設)に組み込まれること(例えば,建設の設計・仕様に従って行われること)を確保することにあり,個々の財又はサービスは,単一のアウトプットの製造・引き渡しのためのインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,作業の統合に関連したリスク)は分離不能です(BC 107)。

 

当該財又はサービスが,契約で約束した他の財又はサービスの大幅な修正又はカスタマイズをしない(第29項(b))

主にソフトウェア業界において,ある財又はサービス(例えば,システム統合サービス)が契約の中の他の財又はサービス(例えば,既存のソフトウェア)を大幅に改変又はカスタマイズする場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,システム統合)を作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,システム統合に関連したリスク)は分離不能です(BC 109,110)。

 

当該財又はサービスが,契約で約束した他の財又はサービスへの依存性や相互関連性が高くはない。例えば,顧客が契約の中の他の約束した財又はサービスに重大な影響を与えずに,当該財又はサービスを購入しないことを決定できるという事実は,当該財又はサービスが,当該他の約束した財又はサービスへの依存性や相互関連性が高くはないことを示している可能性がある(第29項(c))

この指標は,企業が重要な統合サービスを提供しているのかどうか(第29項(a))や,財又はサービスが大幅に改変又はカスタマイズされているかどうか(第29項(b))が不明確な場合に,個々の財又はサービスが契約の中の他の財又はサービスと区分して識別可能な場合を判定するためのものです(BC 111)。

それぞれの財又はサービスの他方への依存性や相互関連性のレベルを考慮するにあたって,契約履行のプロセスの観点から,契約の中のさまざまな財又はサービスの相互間に変化が生じるかどうかを考慮する必要があります。ある財又はサービスが機能において他の財又はサービスに依存していたとしても,それぞれの財又はサービスを移転する約束を互いに独立に履行できる場合には,それらの財又はサービスは別個のものです。

ある財又はサービスが契約の中の他の財又はサービスへの依存性が高いか又は相互関連性が高いために,顧客が契約の中の他の約束した財又はサービスに重大な影響を与えずに,ある財又はサービスを購入するかどうかの選択ができない場合があります。このような場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプットを作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスクは分離不能です。

 

☞企業は,たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約の中の他の約束と区分して識別可能でない財又はサービスは,契約における約束として他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.07.13更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約における約束の識別

 

2017年7月13日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「契約における約束の識別」 目次と概要

 

1.Step2「契約における履行義務を識別する」の概要


企業は,顧客との契約を識別した後の次のステップで,契約開始時に,当該契約における履行義務を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

1 契約における約束の識別

2 別個の財又はサービス(の束)の識別

3 履行義務の識別

 

☞企業は,契約の開始時に,まず,“契約における約束”を漏れなく識別し,対価を受け取る強制可能な権利との“交換”の関係が成立することを確認します。次に,企業は,識別した契約における約束を,“別個の財又はサービス(の束)”という会計単位に区切り,又は束ねて識別し,最後に“履行義務”として識別します。

 

2.Step2-① 契約における約束の識別

 

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約開始時に,当該契約で顧客に移転を約束した財又はサービスのすべてを識別するため(BC 87),まず,契約における約束を漏れなく識別します。

顧客との契約が成立している以上,企業からみて,対価を受け取る強制可能な権利(法律上の債権)と,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(法律上の債務)が発生しますが,この義務は,常に契約における約束として識別されます。

顧客との契約の中には,そのほかにも,②企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(法律上の債務)が含まれることがあり,この義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,契約における約束に該当する可能性があります。

また,当該顧客に③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束があるときは,契約における約束に該当する可能性があります(BC 88,89)。

さらに,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,企業が財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じた④契約に含意されている約束も契約における約束に該当する可能性があります(BC 87)。

企業は,以上により識別したすべての契約における約束と,対価を受け取る強制可能な権利との間に“交換”(=同価値性)の関係が成立することを確認します。

 

☞企業は,契約における約束として,まず,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を識別します。そのほか,企業は,②企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務,③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束,④契約に含意されている約束を,契約における約束として識別するかどうかを判定します。

 

3.契約における約束とは

 

●“約束”とは
本基準が用いる“約束”という用語は,社会道徳における「約束」に類似した事象によって企業が履行するという顧客の妥当な期待が生じたものを指しており,必ずしも法律の強制力を伴うとは限りません。本基準は,法律の強制力を伴わない,顧客の妥当な期待が生じている場合を「含意されている」と表現しています(第24条,BC 87)。

●“契約における約束”とは

“約束”は,必ずしも法律の強制力を伴わないために無限定になるおそれがありますが,“契約における約束”は,契約の成立を前提とし,“約束”がその“契約”に含まれていなければならないという限定を付するものです。本基準が用いる“契約における約束”は,“契約”に含まれる“約束”という意味に理解すればよいでしょう。

 

☞契約における約束は,財又はサービスを提供する強制可能な義務(法律上の債務)だけでなく,企業が履行するという顧客の妥当な期待が生じたものを含みますが,法律の強制力を伴わないものは,契約の成立を前提とし,その契約に含まれていなければなりません。

 

4.契約における約束の識別

 

●目的

契約における約束を識別する目的は,顧客が企業との間で契約の対価との“交換”の一部として交渉し,契約の結果として企業が移転するという妥当な期待を有する財又はサービスを漏れなく識別することにあります(BC 87)。

契約における約束は,別個の財又はサービスという概念を介して履行義務という会計単位に識別され,基本的に契約の対価に等しい取引価格が配分されることによって,契約開始時に,同額の契約資産(対価を受け取る権利)と契約負債(一つ又は複数の履行義務)を両建てで識別することになります(配分後取引価格アプローチ)。したがって,企業が識別する“契約の対価”と“契約における約束”との間に経済的な実質において“交換”(=同価値性)の関係が成立していなければなりません。

●“交換”の判定

契約の目的とされた財又はサービス(給付義務の目的)は,常に契約の対価との“交換”の全部又は一部を構成しますが,それだけでは契約の対価の全部との“交換”の関係が成立せず,他の財又はサービスも“交換”の一部を構成する場合があります。

“交換”は,経済的な実質に従って判定し,仮に企業が他の財又はサービスを移転する約束をしない場合には,客観的な経済合理性からみて,企業が受け取るべき対価がより低くなる,あるいは,他の企業との競争上,同額の対価での契約の獲得が困難になるという関係が認められるときは,そのような企業の約束は“交換”の一部であるとみるべきです。

●企業の履行に顧客の妥当な期待を生じさせる約束(契約に含意されている約束)

企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,契約締結時において,企業が他の財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,顧客が他の財又はサービスも“交換”の一部として捉えて契約の交渉をし,当該契約の結果として企業が他の財又はサービスを移転する約束をしていますので,そのような約束も契約における約束として識別します(第24項)。

●約束が特定の契約に含まれること(特定の契約と当該約束との因果関係)

“契約における約束”とは,契約の成立を前提として,当該契約の結果として約束するものを意味し,当該契約がなければ,その約束を履行しないという因果関係がなければなりません。逆に,財又はサービスが当該契約とは独立して提供されるときは,契約における約束に該当しません(BC 89)。

●契約における約束の主従の地位

本基準は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければならないとしています(BC 90)。

 

☞企業は,顧客が企業との間で契約の対価との“交換”の一部として交渉し,契約の結果として企業が移転するという妥当な期待を有する財又はサービスを漏れなく契約における約束として識別し,契約の対価との間に経済的な実質において“交換”(=同価値性)の関係が成立することを確認します。企業は,顧客との契約が成立し,当該契約の結果として約束する(当該契約との因果関係がある)以上,顧客が契約の主たる目的としない販売インセンティブや他の付随的な財又はサービスであっても,契約における約束として識別する必要があります。

 

5.契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務


一般的に,顧客との契約は,契約の目的とされた財又はサービスを明示しています(第24項)。法律上,契約の目的とされた財又はサービスを提供することを内容とする本来の債務を給付義務と呼びますが,この強制可能な義務(法律上の債務)に係る財又はサービスの約束は,契約における約束に該当します。

法律上,債務者は,債務の本旨(=契約により定まる債務の内容)に従った履行をしなければならないとされており(民法415条),企業の履行により納入・提供する財又はサービスは,顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければなりません。企業が,契約において合意された条件に従わない財又はサービスを顧客に納入・提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。

 

製品保証

企業が財又はサービスを顧客に納入・提供した後,当該財又はサービスに故障・不具合が生じたときの経済的な補償(代替品の納品,補修,損害賠償等)や当該財又はサービスを正常に使用するための経済的な便益(保守・点検・維持等)を提供する義務を負う場合は,その義務が契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)の一部なのか,それとも別の義務なのかが問題となりますが,製品保証の適用指針(B 28~33)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

☞企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)を契約における約束として識別します。

 

6.企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務


一般的に,顧客との契約には,契約の目的とされた財又はサービスを提供することを内容とする本来の債務(給付義務)以外にも,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(法律上の債務)が定められていますが,その義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,契約における約束に該当する可能性があります。

企業は,顧客との契約の内容(契約条項)から,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務を抽出し,その義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転し,かつ,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)とは異なる(実質的にその一部ではない)ときは,そのような義務も契約における約束として識別します。

 

返金不能の前払報酬

返金不能の前払報酬(入会金,加入手数料,セットアップ手数料など)に対する企業の履行(入会,加入,セットアップ等の管理作業)は,明示又は黙示に,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務として抽出することができますが,返金不能の前払報酬の適用指針(B 48~51)は,このような約束についての会計処理を定めています。

返金不能の前払報酬に対する企業の履行は,多くの場合,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)ではなく,その準備行為であって,活動の進捗(管理作業の履行)につれて約束した財又はサービスを顧客に移転しないため(B 49),契約における約束として識別しません(第25条)。

 

☞企業は,顧客との契約の内容(契約条項)から,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務を抽出し,その義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転し,かつ,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)とは異なる(実質的にその一部ではない)ときは,そのような義務も契約における約束として識別します。

 

7.付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束

 

例えば,電気通信会社が無償で通話機を提供したり,スーパーマーケット,航空会社及びホテルがカスタマー・ロイヤルティ・ポイントを付与したりするなど(BC 88),企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスを約束する場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの典型は,販売インセンティブや顧客特典クレジット(又はポイント),契約更新オプション,将来の財又はサービスに係るその他の値引きなど,追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する形態です。追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションの適用指針(B 39~43)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

顧客の未行使の権利

例えば,ギフトカードや返金不能のチケットの販売など(BC 396),企業が,顧客に対し,将来において契約の目的とされた財又はサービスを受け取る権利を与える(販売する)形態の契約では,単一の履行義務しか識別されませんが,顧客の未行使の権利の適用指針(B 44~47)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

☞企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスを約束する場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

8.契約に含意されている約束

 

例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレード(BC 87)など,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(法律上の債務)とはいえなくとも,企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,その時までに生じた企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

☞企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,その時までに生じた企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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