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2017.04.28更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」

 

契約に基づく収益認識

 

2017年4月28日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 5ページ

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「契約に基づく収益認識」 目次と概要

 

1.新たな収益認識基準(日本基準)の開発へ


我が国の企業会計基準委員会(ASBJ)は,平成27年3月から「収益認識に関する包括的な会計基準」の開発に向けた検討に着手し,平成28年2月24日,「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表し(同年4月22日改訂),意見の募集を完了しています。ASBJは,平成30年1月1日以降開始する事業年度から,新しく開発した「収益認識に関する包括的な会計基準」を適用することを当面の目標として開発を進めています。

 

2.新たな収益認識基準が適用される企業は?


ASBJが開発している「収益認識に関する包括的な会計基準」は,上場企業・非上場企業を問わず,また,連結・個別を問わず,会社法上作成が義務付けられる計算書類・連結計算書類に適用されることになります。

現在,上場企業だけではなく,非上場企業を含む日本国内のすべての株式会社は,この新たな収益認識基準の適用開始に向けて,顧客との契約を見直し,企業内の体制を整備するという課題に直面しています。

☞ASBJが開発している「収益認識に関する包括的な会計基準」は日本基準ですので,国際財務報告基準(IFRS)を任意適用している上場企業だけではなく,非上場企業を含む日本国内のすべての株式会社に適用されます。

 

3.新たな収益認識基準(日本基準)とIFRSの関係

 

ASBJは,国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「本基準」といいます。)のコンバージェンス(日本基準化)として「収益認識に関する包括的な会計基準」を開発しています。

会計基準の「コンバージェンス」とは,元来,世界各国の会計基準が互いに近づいていくこと(収斂・統合)を意味しますが,現在では,国際会計基準審議会(IASB)が公表する国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards;IFRS)がグローバルな会計基準としてコンバージェンスの中心(収斂の目標)に位置づけられています。我が国も,2007年8月,IASBとの合意(いわゆる「東京合意」)を公表し,日本基準とIFRSとのコンバージェンスに取り組み,2008年12月,日本基準がIFRSと同等であるとの評価を受けました。我が国は,IASBが公表する新たな会計基準についても,その基準適用時に我が国でも受け入れられるようコンバージェンスを継続していくこととしています。

現在,ASBJにより進められている「収益認識に関する包括的な会計基準」の開発も,このような日本基準とIFRSとのコンバージェンスの一環であり,その内容は,本基準(IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」)とほぼ同等になると考えられます。

 

4.IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

 

IASBは,2014年5月28日,米国財務会計基準審議会(FASB)との共同プロジェクトの成果として,IFRS15「Revenue from Contracts with Customers」(国際財務報告基準第15号「顧客との契約から生じる収益」)を公表し,その後,本基準の発効日を2018年(平成30年)1月1日とすることを決定しています。また,IASBは,2016年4月12日,「Clarifications to IFRS 15」(「IFRS第15号の明確化」)を公表し,本基準を一部修正し,本基準の基本原則をどのように適用すべきかを明確にしています。

 

5.新たな収益認識基準の基礎となる“契約”とは?


本基準は,“契約”(contract)を「強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意」と定義づけ,この強制力は法律の問題であるとしており(第10項),法律による強制力のないものは“契約”に含まれません(BC 31)。

本基準を適用する国は,いずれも私法関係を律する裁判制度があり,一方の当事者が“契約”を遵守せず,義務を履行しなければ,他方の当事者が裁判に訴えて強制的に“契約”に定める権利を実現する手段を保障していることが前提となります。“契約”の根幹には“約束”に類似した事象がありますが,社会の人々は,道徳上“約束”を遵守しなければならないという心理を抱きます。この“約束”を裁判制度によって強制するためにはそれに適した一定の条件を備えていなければならず,そのような一定の条件を備えた複数当事者間の“約束”(合意)が“契約”にほかなりません。

本基準は,必ずしも法律の強制力が伴わない場合には“約束”という用語を使い,“契約”という用語と使い分けています。

☞本基準が定義づける“契約”は,現実に各国で運用されている具体的な裁判制度で執行され得る,法律制度における“契約”概念と同一です。

 

6.契約に基づく収益認識の原則


本基準は,企業が顧客との契約から生じる資産又は負債の会計処理に基づき財又はサービスを顧客に移転した時にのみ収益を認識するという原則(契約に基づく収益認識の原則)を採用しています(BC 17)。この原則は,会計処理にあたって,次のように作用します。

●収益は,契約が成立(存在)するまで認識できない(BC 19)。
●収益は,約束した財又はサービスを顧客に移転した時にのみ認識し,生産活動を行うだけでは収益を認識しない(BC 23)。

●契約開始時から約束した財又はサービスを顧客に移転するまでは,企業の契約上の権利(対価を受け取る権利)と契約上の義務(財又はサービスを提供する義務)は同一の金額で測定する(BC 25)。


7.資産・負債アプローチ

 

収益は,資産の増加,負債の減少又は両者の組み合わせから生じます。対価を受け取る権利(契約上の権利)と財又はサービスを提供する義務(契約上の義務)は,会計上,資産と負債であり,これら資産と負債との間の関係に応じて,(純額の)資産又は(純額の)負債が生じます。権利の測定値と義務の測定値が等しければ,契約は資産でも負債でもありませんが,権利の測定値が義務の測定値を上回れば,契約は資産(契約資産)となります(BC 18)。

企業が財又はサービスを提供する義務を履行した時に,その義務が消滅する(義務の測定値が零に減少する)ため,権利の測定値だけ契約におけるポジションが増加し,その増加が収益認識につながります(BC 20)。

このように,本基準は,契約から生じる権利(資産)又は義務(負債)の認識及び測定と,契約の存続期間にわたって当該資産又は負債の変動に焦点を当てるアプローチ(資産・負債アプローチ)を採用しています。 

 

8.配分後取引価格アプローチ

 

企業は,契約開始時から約束した財又はサービスを顧客に移転するまでは,収益を認識してはならないため,企業の契約上の権利(対価を受け取る権利)の測定値が,契約上の義務(財又はサービスを提供する義務)の測定値を上回ってはなりません。

そこで,本基準は,財又はサービスを提供する義務(負債)の測定を,取引価格を契約における各履行義務に配分して行うアプローチ(配分後取引価格アプローチ)を採用しています(BC 25)。

取引価格とは,顧客への約束した財又はサービスの移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額をいい,契約において約束された対価の額が基礎となります。財又はサービスを提供する義務(負債)が,一つの履行義務として識別される場合はその履行義務を取引価格で測定し,もし複数の履行義務に識別される場合は,取引価格をそれぞれの履行義務に配分します(第74項)。

 

9.契約に基づく収益認識とは?

 

ASBJが開発する「収益認識に関する包括的な会計基準」は,契約に基づく収益認識の原則を採用しており,この新たな収益認識基準の適用開始により,上場企業だけではなく,非上場企業を含む日本国内のすべての株式会社が,会社法上作成する計算書類・連結計算書類にこの原則を適用しなければなりません。企業は,現実にわが国で運用されている具体的な法律制度で執行され得る“契約”の成立を判定し,その契約から生じる資産(対価を受け取る権利)及び負債(財又はサービスを提供する義務)を識別し,同一の金額で測定し(配分後取引価格アプローチ),契約の存続期間にわたってそれらの発生・消滅の認識と測定の会計処理を行うことにより(資産・負債アプローチ),企業が約束した財又はサービスを顧客に移転した時にのみ収益を認識します。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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