ニュースレター

2018.06.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

 

2018年6月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

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「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」 目次と概要

 

1.適用指針「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」の概要

 

企業が,顧客に対し,付随的に又は販売促進のために財又はサービスの提供を約束する場合があります。既存の契約において,将来の契約で追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する形態がその典型です。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束を識別しますが,このような場合には,そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションも,企業と顧客との間で既存の契約の対価との“交換”(同価値性)の一部を構成するものとして交渉されており,取引価格を配分すべき履行義務として識別しなければなりません(B 40)。

企業が,Step2でそのオプションについての履行義務を識別したときは,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分しますが,そのオプションについての独立販売価格は,直接に観察可能でない場合が多いので,それを見積らなければなりません(B 42)。

企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します(B 40)。

適用指針「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」(B 39~43)は,企業が,追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合に,そのオプションについての履行義務を識別するかどうか,また,識別した場合においてそのオプションについての独立販売価格をどのように見積るかについての指針を提供しています。

 

☞企業が,既存の契約において,将来の契約で追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合は,そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,契約開始時に,そのオプションについての履行義務を識別します。そのオプションについての独立販売価格が直接に観察可能でない場合は,企業は,そのオプションについての独立販売価格を見積り,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分します。企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します。

 

2.付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービス

 

● 契約における約束の主従の地位と重要性

本基準は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければならないとしています。ただし,契約の結果として約束した財又はサービスが財務諸表に対して重要性がないときは,本基準の枠外で(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」参照),履行義務として識別せずに会計処理することも容認される場合があります(BC 90)。

これに対し,販売インセンティブや他の付随的な約束が,当該契約がなくとも履行される場合,すなわち財又はサービスが当該契約とは独立して提供されるときは,契約における約束ではありません(BC 89)。例えば,店舗に来店するだけで付与されるカスタマー・ロイヤルティ・ポイントは,企業が来店した顧客と契約を締結したとしても,当該契約の結果として約束されたものとはいえませんので,販売費用(付随的な義務)として会計処理します。

 

● 契約における約束の識別

このような付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束は,契約の目的とされた財又はサービスに関する契約とは別の機会又は存在形式(口頭・文書の別,明示・黙示の別,証憑の別)でされることも多く,また,必ずしも法律の強制力を伴うとも限りません。このような約束は,当該契約書だけではなく,他の約款や規程,顧客に交付されたパンフレット,チラシなどにも留意して識別しなければなりません。

 

☞企業は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければなりません。ただし,契約の結果として約束した財又はサービスが財務諸表に対して重要性がないときは,本基準の枠外で(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」参照),履行義務として識別せずに会計処理することも容認される場合があります。

 

3.追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

 

● 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション(権利)には,既存の契約において,①将来の契約で追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを顧客に付与する場合と,②将来の契約で追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを顧客に付与する場合とがあります。

 

● 追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得する顧客のオプション

追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得する顧客のオプションには,多くの形態があり,販売インセンティブや顧客特典クレジット(又はポイント),契約更新オプション,将来の財又はサービスに係るその他の値引きなどがあります(B 39)。

顧客は,企業との間で既存の契約を締結し,①約束した財又はサービスの提供を受けるとともに,②追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを獲得し,①及び②との“交換”(=同価値性)に既存の契約の対価を支払います。顧客は,将来,企業から追加的な財又はサービスの提供を受けるにあたって,このオプションを行使すると,通常の対価より減額された無料又は値引き価格で新たな契約を締結することができます。

このような取引の経済的な実態は,顧客が,既存の契約において,約束した財又はサービスの対価だけでなく,実質的に将来の追加的な財又はサービスに対する対価の一部を前払いしているとみることができます。

 

● 追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプション

他方,顧客が企業との間で既存の契約を締結し,①約束した財又はサービスの提供を受けるとともに,②追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを獲得し,既存の契約の対価を支払う場合もあります。顧客は,将来,このオプションを行使して,企業から通常の価格で追加的な財又はサービスの提供を受ける新たな契約を締結することができます。例えば,顧客にとって供給が限定された追加的な財又はサービスを優先的に購入できることが既存の契約を締結するインセンティブとして機能する場合があります。

このような取引の経済的な実態は,企業が,既存の契約において,顧客にマーケティング又は販売促進用の提案を行っているとみることができます。

 

● 履行義務の識別

適用指針は,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視し,そのオプションが“当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利”かどうかによって,次のとおり取り扱います。

当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するとき

追加的な財又はサービスを無料又は通常の価格(独立販売価格)から重要な値引きがされた価格で取得できるオプションは,既存の契約における“交換”の一部を構成し,顧客が既存の契約においてそのオプションの対価を支払っていますので,既存の契約の対価の一部を配分すべき履行義務を識別します(BC 386(a))。

当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないとき

追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入できるにすぎないオプションは,既存の契約における“交換”の一部を構成せず,顧客が既存の契約においてそのオプションの対価を支払っていませんので,履行義務を識別しません(BC 386(b))。


☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションには,既存の契約において,①将来の契約で追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを顧客に付与する場合と,②将来の契約で追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを顧客に付与する場合とがあります。①のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,既存の契約における“交換”の一部を構成するので,既存の契約の対価の一部を配分すべき履行義務を識別します。

 

4.当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利

 

● 当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利

適用指針は,追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するかどうかの判定にあたって,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視しており,例えば,当該財又はサービスについて,その顧客階層にその地域又は市場において通常与えられる範囲の値引きに対する増分となる値引きであれば,重要な権利であると判定します(B 40)。

 

● 通常の値引きに対する増分

通常の値引きに対する増分かどうかを判定するにあたって,通常の値引きとして,追加的な財又はサービスについて,顧客が属する階層,地域又は市場において通常与えられる範囲の値引き(追加的な財又はサービスに係る同等の取引で通常行われる値引き)を考慮します。

 

☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するかどうかの判定にあたって,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視し,例えば,当該財又はサービスについて,その顧客階層にその地域又は市場において通常与えられる範囲の値引きに対する増分となる値引きであれば,重要な権利であると判定します。

 

5.顧客のオプションが重要な権利である場合の会計処理

 

● 履行義務の識別

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについての履行義務を識別します(B 40)。

 

● 取引価格の配分

企業は,既存の契約における取引価格を,①約束した財又はサービスを移転する履行義務と,②追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションについての履行義務に,独立販売価格の比率で配分します。

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションについての独立販売価格が,直接に観察可能でない場合には,企業は,顧客がそのオプションを行使したときに受けるであろう値引きに対し,次の双方について調整したものを反映して見積らなければなりません(B 42)。

a 顧客がオプションを行使することなしに受けることのできる値引き

b オプションが行使される可能性

適用指針は,顧客のオプションについての独立販売価格が直接に観察可能でない場合が多いことから(BC 389),企業がオプションの価格算定モデルの簡便法によって見積ることを求めています(BC 390)。

 

● 収益の認識

企業は,将来,顧客がオプションを行使して締結した新たな契約に従って,追加的な財又はサービスを顧客に移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された既存の契約の取引価格を収益として認識します(B 40)。


☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,企業は,既存の契約において,約束した財又はサービスを移転する履行義務のほか,そのオプションについての履行義務を識別し,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分します。企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します。

 

6.顧客のオプションが重要な権利でない場合の会計処理

 

● 履行義務の識別

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについて履行義務を識別しません。企業は,顧客がそのオプションを行使した時にのみ,それによって締結する新たな契約を本基準に従って会計処理します(B 41)。

追加的な財又はサービスを当該財又はサービスについての独立販売価格を反映する価格で購入するオプションは,企業は,既存の契約において販売の提案をしたにすぎず,たとえ既存の契約を締結することによってしか追加的な財又はサービスを購入できないとしても,重要な権利を顧客に提供しません(B 41)。

 

● 収益の認識

企業は,将来,顧客がオプションを行使して締結した新たな契約について,追加的な財又はサービスを移転する履行義務に配分された新たな契約の取引価格を収益として認識します。

 

☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについて履行義務を識別せず,顧客がそのオプションを行使した時にのみ,それによって締結する新たな契約を本基準に従って会計処理します。

 

7.更新オプション

 

● 更新オプション

更新オプションは,既存の契約で提供されるものと同じ種類の追加的な財又はサービスを取得する権利を顧客に付与します。更新オプションも,他のオプションと同様に,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,履行義務を識別します(BC 391)。契約(期間)の更新オプションがその典型です(B 43)。

契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。顧客が期間満了にあたって何ら意思表示をしなくとも,企業から更新を拒絶できない場合は更新オプションに含まれます。このような更新オプションは,より長期の契約における解約オプションとみることもできます(BC 391)。

契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により企業が更新を拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

 

● 独立販売価格の見積り

顧客が契約におけるあるオプションを行使するには,その契約におけるそれより前のオプションをすべて行使していなければならないような一連のオプションでは,企業は,当初の期間からの取引価格の累積のうち後の期間まで繰り延べる金額を算定するためには,可能性のある契約期間全体を考慮しなければならず,各更新オプションの独立販売価格の算定が複雑になります(BC 392)。

そこで,適用指針は,各更新オプションの独立販売価格の見積りについての実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(BC 393)。

 

● 要件(簡便な会計処理を容認する要件)

適用指針は,そのオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供することに加えて,以下のa及びbの双方の要件を満たすときに,簡便な会計処理を容認します(B 43)。

a 当該財又はサービスが既存の契約における財又はサービスと類似していること

追加的な財又はサービスは,既存の契約で提供されるものと類似していなければなりません。企業が顧客に既に提供していた財又はサービスを継続して提供するときに,追加的な財又はサービスも既存の契約の一部とみて,更新オプション付きの契約を,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなすことができるからです。

これに対し,カスタマー・ロイヤルティ・ポイントや多くの値引き券は,追加的な財又はサービスが既存の契約で提供されるものと異なる場合がありますので,この要件を満たしません(BC 394)。

b 当該財又はサービスが既存の契約における条件に従って提供されること

その後の契約における追加的な財又はサービスが,既存の契約の条件に従って提供されなければなりません。企業は,既存の契約の条件の変更ができず(既存の契約の条件に制約されており),特に追加的な財又はサービスの価格設定(例えば,期間あたり単価)を既存の契約で示された変動条件(例えば,契約期間)の範囲を超えて変更することができないことが必要です。

これに対し,カスタマー・ロイヤルティ・ポイントや多くの値引き券は,値引き精算の対象となる追加的な財又はサービスの価格に関して制約がありませんので,この要件を満たしません(BC 395)。

 

● 簡便な会計処理

オプションの独立販売価格を見積るために,提供すると予想される財又はサービスとそれに対応する予想対価を参照して当該履行義務に取引価格を配分することができます(B 43)。

 

☞契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。更新オプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供することに加えて,当該財又はサービスが既存の契約における財又はサービスと類似し,かつ,当該財又はサービスが既存の契約における条件に従って提供される場合は,提供すると予想される財又はサービスとそれに対応する予想対価を参照して当該履行義務に取引価格を配分することができます。 

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.05.08更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

本人なのか代理人なのかの検討

 

2018年5月8日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

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「本人なのか代理人なのかの検討」 目次と概要

 

1.適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」の概要

 

他の当事者(供給者)が財又はサービスを顧客(需要者)に提供する過程で,企業が当該財又はサービスの提供に関与している場合があります。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束を識別しますが,このような場合には,企業の約束の性質を考慮し,自らの約束が,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(顧客に対する約束)か,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務(他の当事者に対する約束)かを判定しなければなりません(B 34)。

特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配している場合は,企業は本人であり,移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識します(B 35B)。

これに対し,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配していない場合は,企業は代理人であり,他の当事者のために手配するサービスと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料(他の当事者に支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額)について収益を認識します(B 36)。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」(B 34~38)は,他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合に,企業の約束の性質が,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(顧客に対する約束)か,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務(他の当事者に対する約束)かを判定するための指針を提供しています。

 

☞企業は,他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合は,契約開始時に,企業の約束の性質を考慮し,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配している場合は,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(顧客に対する約束)を識別し,移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識し,そうでない場合は,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務(他の当事者に対する約束)を識別し,他の当事者のために手配するサービスと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料(他の当事者に支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額)について収益を認識します。

 

2.本人なのか代理人なのかの検討とは

 

● 本人なのか代理人なのかの検討

他の当事者(供給者)が財又はサービスを顧客(需要者)に提供する過程で,企業が当該財又はサービスの提供に関与している場合は,一般に,その過程で移転する目的となる財又はサービスが,他の当事者(A)から企業(B)を介して需要家(C)に移転し,当該財又はサービスと交換に対価(顧客対価)がCからBを介してAに支払われます。

このような場合,従来の収益認識基準は,企業(B)が収益を認識すべき金額は,Cから受領した顧客対価の総額か,Aに支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額かを決定するため,企業が本人として行動しているのか,又は他の当事者(A)の代理人として行動しているのかの判定を求めていました(BC 379)。  

本基準でも,目的となる財又はサービスの提供を受ける当事者(需要家C)を「顧客」と呼んで,企業に自らが本人なのか代理人なのかを判定することを求めています(BC 380)。

 

● 財又はサービスの支配

企業が本人であると代理人であると問わず,顧客(C)は,目的となる財又はサービス自体との間に交換(同価値性)の関係がある対価(顧客対価)を支払います。

企業(B)がいったん当該財又はサービスの支配を獲得した後にその支配を顧客に移転するときは,企業(B)が本人として当該財又はサービス自体を自ら顧客に移転するという履行義務を充足しますので,顧客対価を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

逆に,企業(B)が当該財又はサービスの支配を獲得しないときは,当該財又はサービスを顧客に移転することができず,他の当事者(A)が直接その支配を顧客に移転しますので,他の当事者(A)が顧客対価を収益として認識すべきです。企業(B)は,代理人として当該財又はサービスが顧客に提供されるように手配するという履行義務を充足しますので,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。

このように,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」では,目的となる財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます(BC 380,385C~D)。

 

● 契約の相手方

企業(B)にとって,①特定された財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得する場合は,需要者Cが“顧客”であり,企業(B)と顧客(C)との間の契約を識別し,特定された財又はサービス自体を自ら顧客に移転する履行義務を識別します。

逆に,②特定された財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得しない場合は,供給者Aが“顧客”であり,他の当事者(A)と企業(B)との間の契約を識別し,特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配するサービスを他の当事者(A)に移転する履行義務を識別します。

このように,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者Cなのか,供給者Aなのかという問題にほかなりません。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,本人と代理人の履行義務が異なることに着眼し,Step2「契約における履行義務を識別する」で判定する企業の約束の性質として位置づけています(BC 380)。しかし,本人か代理人かによって契約の相手方が異なることに着眼すると,本来は,契約開始時において,Step1「顧客との契約を識別する」とStep2「契約における履行義務を識別する」を同時に,かつ,他の当事者(A)と企業(B)との間の契約と企業(B)と顧客(C)との間の契約の双方を両面的に検討すべき問題として位置づけらます。

 

☞適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に企業が当該財又はサービスの支配を獲得するか否かという問題に焦点を当てます。また,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,企業にとって契約の相手方すなわち“顧客”が需要者なのか,供給者なのかという問題であり,契約開始時に,Step1「顧客との契約を識別する」とStep2「契約における履行義務を識別する」を同時に,かつ,供給者との間の契約と需要者との間の契約の双方を両面的に検討すべき問題として位置づけられます。

 

3.委託販売契約との関係

 

● 委託販売契約

委託販売契約とは,他人のために財の販売を引き受ける契約をいいます。上の模式図では,他の当事者(A)と企業(B)との間の契約が,他の当事者(A)が企業(B)に対して販売業務を委託するものであり,法律上の契約類型は,(準)委任契約(委託契約)です。

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」(B 34~38)で,企業が自らを代理人と判定するケースには他の当事者(A)と企業(B)との間の契約が委託販売契約である場合が含まれます。

この委託販売契約自体から生じる収益は,企業(B)が認識します。委託販売契約では,受託者である企業(B)は,委託者である他の当事者(A)に対し,目的となる財(委託者の製品・商品)を販売する手配サービスを移転するので,「本人なのか代理人なのかの検討」では自らを代理人と判定し,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識します。

 

● 適用指針「委託販売契約」

適用指針「委託販売契約」(B 77~78)は,委託者である供給者Aが“企業”として,いつの時点で目的となる財又はサービスの対価(顧客対価)を収益として認識すべきか,という問題を取り扱っています。

企業(A)と他の当事者(B)との間の契約は,①他の当事者(B)が支配を獲得する場合は,売買契約(独立の販売)であり,企業(A)において“顧客”である他の当事者(B)に目的となる財又はサービスの支配を移転した時点で収益を認識し(BC 385E),逆に,②他の当事者(B)が支配を獲得しない場合は,委託販売契約であり,企業(A)において他の当事者(B)を介して顧客(C)に目的となる財又はサービスの支配を移転した時点で収益を認識します(B 77)。

 

● 委託販売契約との関係

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」において,流通業者(B)の立場から,目的となる財又はサービスが需要者(C)に移転される前に当該財又はサービスの支配を獲得するかどうかという評価を行うことと,適用指針「委託販売契約」において,供給者(A)の立場から,流通業者(B)が目的となる財又はサービスの支配を獲得するかどうかという評価を行うことは,同一の事象を異なる立場から評価しているという“裏返し”の関係にあります。

 

☞目的となる財又はサービスが需要者(C)に移転される前に,流通業者(B)が当該財又はサービスの支配を獲得するかどうかという同一の事象について,適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」で流通業者(B)の立場から評価することと,適用指針「委託販売契約」で供給者(A)の立場から評価することは“裏返し”の関係にあります。

 

4.企業の約束の性質の判定

 

● 企業の約束の性質の判定方法

企業は,次の手順で企業の約束の性質を判定します(B 34,34A)。

(a) 顧客に提供すべき特定された財又はサービスを識別する。

(b) 特定された財又はサービスのそれぞれが顧客に移転される前に,当該財又はサービスを企業が支配しているのかどうかを評価する。

 

● 特定された財又はサービスの識別

特定された財又はサービスとは,顧客に提供すべき別個の財又はサービス(財又はサービスの別個の束)をいいます(BC 381)。供給者である他の当事者が財又はサービスを需要者に提供する過程に企業が関与している場合,需要者を「顧客」と呼び,需要者に提供する目的となる財又はサービスを「特定された財又はサービス」と呼びます。

特定された財又はサービスは,例えば,他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利である場合があります(B 34A)。

例えば,旅行代理店である企業が他の当事者(航空会社)が顧客(乗客)にフライトを提供する過程に関与している場合,特定された財又はサービスは,フライトそのものなのか,フライトの権利(航空券)なのかを検討する必要があります。企業は,将来の顧客への販売のために事前に航空券を購入している事実に着眼し,顧客に移転される前にフライトの権利の支配を獲得していれば,フライトの権利を特定された財又はサービスとして本人の履行義務を識別することになります(BC 381)。

 

● 特定された財又はサービスに対する支配の判定

企業は,特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配しているときは,本人であると判定し(B 35),支配していないときは,代理人であると判定します(B 36)。

企業が特定された財の法的所有権を顧客に移転される前に瞬間的にしか獲得しない場合には,企業は必ずしもその財を支配していません(B 35)。例えば,いわゆる消化仕入と呼ばれる取引のように,他の当事者が企業の店舗内に商品を納入し,陳列後も当該商品の法的所有権を有し,当該商品が顧客に販売されたときに当該商品の法的所有権が企業を介して顧客に移転するものとされており,企業が瞬間的にしか当該商品の法的所有権を獲得しない場合は,企業は必ずしも当該商品を支配していません。

本人である企業は,顧客に移転される前に特定された財又はサービスを支配しますので,一般的な経済取引として,特定された財又はサービスを提供する履行義務を自ら充足する場合もあれば,他の当事者(例えば,外注先や下請業者)に自らに代わって履行義務の一部又は全部を充足させる場合もあります(B 35)。

企業が本人である場合は,次のいずれかに対する支配を獲得します(B 35A,BC 385U)。

(a) 当該他の当事者からの財又は他の資産で,企業がその後に顧客に移転するもの(B 35A(a))

他の当事者と企業との間に売買契約(独立の販売)を締結する場合が典型であり,特定された財又はサービスは,商品,製品などの財の場合もあれば,サービスに対する権利(が化体したチケットなどのバウチャー)の場合もあります。無形の財又はサービスであっても,顧客に移転される前に当該財又はサービスに対する権利が存在している場合には,企業はその権利を支配することできます(BC 385O~P)。

例えば,ある企業が航空会社から減額された料率で購入した航空券を顧客に販売する場合(IE 239),企業は,他の当事者(航空会社)が履行するサービス(フライト)に対する権利(航空券)として特定された財又はサービスの支配を獲得し,これを顧客に移転します。

(b) 当該他の当事者が履行するサービスに対する権利(B 35A(b))

企業が他の当事者との間で顧客に提供するサービスを履行する契約を締結する場合が典型であり,特定された財又はサービスは,顧客に提供するサービスですが,企業は,他の当事者と契約を締結して,企業に代わって顧客にサービスを提供するよう求める権利を獲得し,この権利を支配することによって特定されたサービスを支配することができます(BC 385V)。

例えば,ある企業が顧客にオフィス・メンテナンス・サービスを提供する契約を締結し,他の当事者との間で顧客のために当該サービスを履行する契約を締結する場合(IE 238A~B),企業は,他の当事者にオフィス・メンテナンス・サービスを履行するよう求める権利(当該サービスを履行するよう指図する能力)を有し,当該サービスが顧客に移転される前に当該サービスに対する支配を獲得しています。

(c) 当該他の当事者からの財又はサービスで,企業がその後に顧客に特定された財又はサービスを提供する際に他の財又はサービスと結合するもの(B 35A(c))

企業が他の当事者が提供した財又はサービスを顧客が契約している特定された財又はサービスに統合するという重要なサービス(第29項(a)参照)を提供する場合には,企業は,顧客に移転される前に特定された財又はサービスを支配しています。企業は,まず,特定された財又はサービスへのインプット(他の当事者からの財又はサービスが含まれます。)に対する支配を獲得し,結合後のアウトプット(特定された財又はサービス)を創出するためにそれらの使用を指図するからです(BC 385Q~R)。

例えば,ある企業が顧客に独特の仕様の設備を提供する契約を締結し,その仕様を開発して他の当事者に設備を製造させ,直接顧客に引き渡すよう手配する場合(IE 234),企業は,仕様の開発と設備の製造を統合するという重要なサービスを提供しており,当該設備に対する支配を他の当事者から獲得し,独特の仕様の設備という特定された財又はサービスを創出するためにその使用を指図しますので,顧客に移転される前に特定された財又はサービスに対する支配を獲得しています。

 

☞企業は,(1)顧客に提供すべき特定された財又はサービスを識別し,(2)特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,企業が当該特定された財又はサービスを支配しているかどうかを判定します。本人である企業は,①他の当事者からの財又は他の資産で,その後に顧客に移転するもの,②他の当事者が履行するサービスに対する権利,③他の当事者からの財又はサービスで,その後に顧客に特定された財又はサービスを提供する際に他の財又はサービスと結合するもの,のいずれかに対する支配を獲得します。

 

5.特定された財又はサービスに対する支配の指標(本人の指標)

 

適用指針「本人なのか代理人なのかの検討」は,企業が特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配しているかどうかの判定が容易でない場合もあることから,以下のとおり,特定された財又はサービスを支配していること(企業が本人であること)を示す指標を例示し,これらの指標を考慮して総合的に判定するものとしています(B 37,BC 382,385H)。

(a) 企業が,特定された財又はサービスを提供する約束の履行に対する主たる責任を有している(B 37(a))

この指標における履行の責任は,契約の履行のための事実行為に果たす役割を指しており,それが主たる責任か否かは,一次的に果たす役割だけでなく,最終的な責任(他の当事者が履行しない場合に自ら履行する責任)や特定された財又はサービスの受入可能性に対する責任(顧客が特定された財又はサービスを受け入れることを可能にする責任,例えば,財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての責任)も含めて判断します。

この主たる責任は,必ずしも契約責任と一致するものではありませんが,特定された財又はサービスについて顧客と契約を締結している当事者が,企業自身なのか,他の当事者なのかは,重要な考慮要素であるといえます。

他方,他の当事者が顧客との間で直接契約を締結しており,企業が法律上の代理人である場合や媒介(他人間の契約の成立に向けて尽力する事実行為)を行う仲介人である場合は,企業が代理人であることは明らかです。

企業が顧客との間で直接契約を締結する場合であっても,それが特定された財又はサービスについての契約でない場合は,企業は代理人です。例えば,ある企業がウェブサイトを運営しており,それによりウェブサイトを利用する顧客は,注文する際に企業に商品の対価を預託し,他の当事者から直接商品の引渡しを受ける場合(IE 231),一般に,企業がウェブサイト上の約款等で顧客と締結する契約は,特定された財又はサービスである商品についての契約でないため,企業は代理人です。

(b) 特定された財又はサービスが顧客に移転される前,又は顧客への支配の移転の後(例えば,顧客が返品の権利を有している場合)に,企業が在庫リスクを有している(B 37(b))

企業が特定された財又はサービスを在庫として保有する可能性がある場合,企業は,当該財又はサービスが顧客に移転される前に当該財又はサービスの使用を指図する能力及び当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有している,すなわち本人である可能性を示しています。

企業が特定された財又はサービスについて顧客との契約を獲得する前に,他の当事者から当該財又はサービスを獲得するか,又は獲得する約束をする場合,企業が在庫リスクを有しています。また,企業が特定された財又はサービスの支配を顧客に移転した後も,顧客が返品の権利を行使したときに,企業と他の当事者との間の契約の明示的又は黙示的な合意によっては,企業が在庫リスクを負う場合があります。もっとも,いわゆる介入取引のように,他の当事者と顧客の間に主要な取引条件が実質的に決定されてから,企業がその間に介入する場合の多くは,企業は在庫リスクを負いません。

(c) 特定された財又はサービスの価格の設定において企業に裁量権がある(B 37(c))

企業が特定された財又はサービスに対して顧客が支払う価格を設定していることは,企業が当該財又はサービスから受け取ることのできる便益が限定されておらず,企業が当該財又はサービスの使用を指図し,残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有している,すなわち本人である可能性を示しています。もっとも,例えば,代理人が,財又はサービスが他の当事者によって顧客に提供されるように手配するというサービスから生じる追加的な収益を生み出すために,価格の設定において若干の柔軟性を有している場合など,代理人が価格の設定において裁量権を有していることもあります。

 

☞企業は,特定された財又はサービスが顧客に移転される前に,企業が当該財又はサービスを支配しているかどうかの判定にあたって,特定された財又はサービスを支配していること(企業が本人であること)を示す指標として,例えば,①企業が,特定された財又はサービスを提供する約束の履行に対する主たる責任を有していること,②特定された財又はサービスが顧客に移転される前,又は顧客への支配の移転の後(例えば,顧客が返品の権利を有している場合)に,企業が在庫リスクを有していること,③特定された財又はサービスの価格の設定において企業に裁量権があること,を考慮して総合的に判定します。

 

6.本人である企業の会計処理

 

● 履行義務の識別

企業が特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配している場合には,企業は,本人として,顧客に対し,特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務を識別します(B 35)。

 

● 収益の認識

企業は,本人の履行義務を充足する時点で(又は充足するにつれて),移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識します(B 35B)。

 

7.代理人である企業の会計処理

 

● 履行義務の識別

企業が特定された財又はサービスを当該財又はサービスが顧客に移転される前に支配していない場合には,企業は,代理人として,他の当事者に対し,他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務を識別します(B 36)。

 

● 収益の認識

企業は,代理人の履行義務を充足する時点で(又は充足するにつれて),他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配することと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料について収益を認識します(B 36)。

企業が権利を得ると見込んでいる対価は,他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る対価(顧客対価)を企業が当該他の当事者に支払った後に保持する対価の純額の場合もあります(B 36)。

 

☞企業は,①本人として特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務を識別したときは,移転する特定された財又はサービスと交換に権利を得ると見込んでいる対価(顧客対価)の総額について収益を認識し,②代理人として他の当事者によって特定された財又はサービスが顧客に提供されるように手配する履行義務を識別したときは,他の当事者のために手配するサービスと交換に権利を得ると見込んでいる報酬・手数料(他の当事者に支払う顧客対価から控除して保持する対価の純額)について収益を認識します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.02.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

製品保証

 

2018年2月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「製品保証」 目次と概要

 

1.適用指針「製品保証」の概要

 

企業が製品(財又はサービス)の販売に関連して,(契約,法律又は企業の取引慣行に従って)当該製品に対する保証も提供することは一般的に行われています。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,まず,契約における約束を識別しますが,このような製品の販売について,①製品の引渡し義務を識別するほか,②当該製品を保証するという企業の約束を識別することができます。

次に,企業は,本基準第27項bの要件について,これら①と②の契約における約束が別個のものかどうかを判定します。

製品が合意された仕様に従っているという保証だけを顧客に提供するときは(アシュアランス型),契約の観点において,①製品の引渡し義務と②当該製品を保証するという契約における約束が別個でないので,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別します。

これに対し,製品が合意された仕様に従っているという保証に加えて顧客にサービスを提供するときは(サービス型),契約の観点において,①製品の引渡し義務と②当該製品を保証するという契約における約束が別個なので,製品の引渡し義務と保証サービスに区切って二つの履行義務を識別します。

適用指針「製品保証」(B 28~33)は,製品保証が製品の引渡し義務と別個かどうかの判定の指針と,別個でない場合(アシュアランス型)と別個のサービスとして履行義務を識別する場合(サービス型)のそれぞれの会計処理を定めています。

 

☞企業が製品の販売に関連して当該製品の保証も提供する場合,Step2「契約における履行義務を識別する」で,当該製品を保証するという契約における約束が,契約の観点から,製品の引渡し義務と別個かどうかを判定し,別個でない場合(アシュアランス型)は,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別し,別個である場合(サービス型)は,製品の引渡し義務と保証サービスに区切って二つの履行義務を識別します。

 

2.製品の引渡しに関する企業の約束

 

● 製品の引渡し義務(給付義務)の内容

製品(財又はサービス)の販売に関しては,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)として,製品の引渡し義務が識別されます。企業の履行により提供する財又はサービスは,当然ながら顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければならず,その条件に従っていない場合には,企業の履行は完了しません。

法律上,債務の履行は,債務の本旨(=契約により定まる債務の内容)に従ったものでなければならないとされています(民法415条)。企業の履行の内容(債務の本旨)の概要は,契約で定められますが,細目まで網羅的に明示されないため,明示されない部分は契約の解釈により定まります。一般的に,契約書では品種・品番・数量等を特定するに止め,詳細な品質・性能・仕様等は,契約書の別紙や別の書類(仕様書,パンフレット等)により示される場合が少なくありません。

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱い

法律上,企業が顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。

企業は,合意された条件に従っていない財又はサービスを提供したときは,民法の任意規定に従い,目的物の修補,代替物・不足分の引渡しにより履行を追完する責任を負います(民法562条)。また,顧客は,企業に対し,相当の期間を定めて履行の追完を催告し,その期間内に履行の追完がないときは,代金の減額を請求することができます(民法563条)。なお,顧客は,一般原則に従い,債務不履行を理由に損害の賠償(民法415条),契約の解除(民法541,542条)をすることもできます(民法564条)。

他方,これらの企業の責任には期間制限があり,顧客は,目的物が契約に適合しないことを知ってから1年以内に企業に通知しない限り,履行の追完,代金の減額,損害の賠償を請求し,又は契約を解除することができません(民法566条)。

もっとも,このような期間制限では,企業は,責任追及される可能性を抱えたまま長期間不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,商法は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買については,顧客は,受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い(商法526条1項),検査後直ちに企業に通知しなければ,目的物が契約に適合しないことを理由に企業の責任を追及できないこととしています。また,検査によって直ちに発見することができない契約不適合(隠れた瑕疵)であっても,受領後6か月以内に企業に通知しなければ,同様に責任追及ができないこととしています(商法526条2項)。

 

● 契約における約束の識別

企業が不完全な履行に関する責任(担保責任)を負わない特約(民法572条)がない限り,企業が負う履行追完責任その他製品保証に関する義務も,契約における約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務)として識別し,製品の引渡し義務と別個のサービスかどうかを判定します。

企業が負う製品保証に関する義務が民法・商法の任意規定と同じか,又は軽減されている場合は,製品の引渡し義務の一部であり,別個ではありません。他方,企業が負う製品保証に関する義務が民法・商法の任意規定より加重されている場合は,製品の引渡し義務を超えた別個のものかどうかを判定する必要があります。

 

☞企業は,契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,特約がない限り,履行の追完(目的物の修補,代替物・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償の責任を負います。企業は,顧客との契約の中の不完全な履行に関する条項などから,履行追完責任(担保責任)その他製品保証に関する義務を契約における約束として識別し,製品の引渡し義務と別個のサービスかどうかを判定します。

 

3.製品保証に関する企業の約束の性質

 

● 製品保証の性質

製品保証の中には,①製品の引渡し時に存在する瑕疵から顧客を保護するものもあれば,②製品の引渡し後に生じる故障や不具合から顧客を保護するものもあります。製品保証が引渡し時に存在した製品の瑕疵から顧客を保護するだけの場合(①のみの場合)は,顧客は,製品の引渡しと独立したサービスを受けません。そのような瑕疵を修補するための事後の修理又は交換は,企業の過去の履行(製品販売)の追加的コストとみるべきですので(BC 369),一部の製品保証については,製品の引渡し義務に加えて独立の履行義務を識別すべきではありません。

 

● “事象”と“原因”の区別

上記①の製品保証は,製品の引渡し時に瑕疵が発見される場合にだけ顧客を保護するものではありません。顧客が使用を開始した後に発生した故障・不具合によって製品の引渡し時に瑕疵があったのではないかという疑いが生じることもあります。調査の結果,製品の引渡し時に瑕疵があったことが特定(立証)された場合にだけ顧客を保護する場合は,顧客は,製品の引渡しと独立したサービスを受けていません。そのため,①の製品保証の範囲は,故障や不具合などの“事象”がいつ発生するのかで限定されるのではなく,故障や不具合が(製品の引渡し時において)契約において合意された仕様に従っていなかったことに起因しているかどうかという“原因”で限定されます。

したがって,製品の引渡し義務に加えて独立の履行義務を識別するかどうかは,契約において合意された仕様に従っているという保証(①)だけを提供しているのか,それに加えて顧客にサービス(②)を提供しているのかどうかによって判定します(BC 370)。顧客による使用開始後,一定の期間内に発生した故障・不具合であれば,その“原因”が特定(立証)されなくとも,無償の修補,代替品の引渡しを約束する場合は,独立の履行義務を識別します。

 

● 不完全な履行に関する法律上の取扱いと製品保証

故障や不具合の“原因”が(製品の引渡し時において)契約において合意された仕様に従っていなかったことにある場合とは,企業が顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていない財又はサービスを顧客に提供した場合,すなわち債務の本旨に従わない不完全な履行をしたケースにほかなりません。

したがって,契約において合意された仕様に従っているという保証だけを提供している場合とは,顧客との契約において,不完全な履行に関する企業の責任だけが定められており,企業の責任の範囲(保証の履行の要件と内容)が製品の引渡し義務を経済的に補償するに止まる場合であるといえます。

このような場合,当該製品を保証するという企業の約束は,契約の観点において,製品の引渡し義務という他の約束と区分して識別可能ではなく,本基準第27項bの要件を充足せず,別個のサービスでないと判定し,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別します。

製品保証の区別は,以下のとおり,法律上,製品の引渡し義務の不完全な履行に対する企業の責任の範囲に止まるのか,それを超えるのかの区別と整合しています。

 

製品が合意された仕様に従っているという保証だけを顧客に提供する(アシュアランス型)

企業が,顧客との契約において,製品の引渡し時に合意された仕様に従っていなかった場合にのみ,顧客に補償することを約束する製品保証をアシュアランス型と呼びます。

法律上,顧客との契約において,企業が提供した製品が契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなかった場合(不完全な履行)にのみ,顧客に対し,履行の追完(目的物の修補,代替品・不足分の引渡し),代金の減額,損害の賠償その他の補償をする義務を負う場合をいいます。

 

製品が合意された仕様に従っているという保証に加えて顧客にサービスを提供する(サービス型)

企業が,顧客との契約において,製品の引渡し時に合意された仕様に従っていたとしても,製品に関する便益(例えば,一定の期間内は正常に使用できるよう維持すること)を提供するか,又は製品の引渡し義務の補償を超える便益を提供することを約束する製品保証をサービス型と呼びます。

法律上,顧客との契約において,①企業が顧客に保証を履行する義務を負う要件の範囲が(製品の引渡し時に)製品が契約において合意された条件に従っていなかった場合(不完全な履行)よりも広いか,又は②企業が顧客に履行する保証の内容が製品の引渡し義務を補償する範囲(履行の追完,代金の減額又は損害の賠償)を超えている場合をいいます。

 

● メーカー保証書

企業(メーカー)は,消費者(顧客から企業の製品を購入する他の当事者)のため,販売する製品に企業が発行した保証書を付することが一般的に行われています。このようなメーカー保証書により企業(メーカー)が第三者(消費者)に製品保証を約束することは,顧客(販売店)に対する製品の引渡し義務の一部ではなく,明らかにそれを超える便益を提供していますので,サービス型の製品保証です。

 

☞企業は,契約における約束として識別した製品保証に関する義務が,契約の観点において,製品の引渡し義務という他の約束と区分して識別可能かどうか(本基準第27項b)を判定します。故障や不具合の“事象”がいつ発生したかではなく,その“原因”が(製品の引渡し時において)契約において合意された仕様に従っていなかったこと(不完全な履行)にあるかどうかで区別し,保証の履行の要件と内容が,①不完全な履行に対して製品の引渡し義務を補償するに止まる場合は,別個のサービスではなく,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別し(アシュアランス型の製品保証),②製品の引渡し義務の範囲を超える場合は,別個のサービスとして,製品の引渡し義務と保証サービスに区切って二つの履行義務を識別します(サービス型の製品保証)。

 

4.合意された仕様に従っているという保証(アシュアランス型)

 

● 定義

企業が製品(財又はサービス)を顧客に提供するにあたって,企業が当該製品に対する保証も提供する場合(製品保証)のうち,製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するものをいいます(B 28)。

製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するとは,以下の要件をいずれも満たす場合をいいます。

a 企業が顧客に保証を履行する義務を負う場合(要件)は,(製品の引渡し時に)製品が契約において合意された条件に従っていなかった場合(不完全な履行)に限定されていること

顧客が使用を開始した後に故障・不具合などの事象が発生するときは,その原因を特定することが難しいことも多いため,企業は,契約又は企業の取引慣行に従って,一定の期間内に発生した故障・不具合であれば,その原因が特定(立証)されなくとも,無償で修補,代替品の引渡しを行うことを約束する場合があります。このように,企業が製品の引渡しを完全に履行していた(可能性がある)としても,それを補償することを約束する製品保証は,サービス型であり,アシュアランス型ではありません。

b 企業が顧客に履行する保証の内容(効果)は,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲(履行の追完(※),代金の減額又は損害の賠償)に限定されていること

 ※履行の追完は,目的物の修補,代替品又は不足分の引渡しを指します。

企業は,顧客が製品を正常に使用するため,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲を超えて,メンテナンス(保守・点検・維持)などの便益を提供することを約束する製品保証は,サービス型であり,アシュアランス型ではありません。

以上のa及びbの要件をいずれも満たす場合は,製品の引渡し義務の一部であり,契約の観点において,製品の引渡し義務という他の約束と区分して識別可能ではなく,本基準第27項bの要件を充足しません。そこで,このような保証は,別個のサービスではないと判定し,製品の引渡し義務として束ねて一つの履行義務を識別します。

 

● 会計処理

企業は,製品保証をIAS第37号「引当金,偶発負債及び偶発資産」に従って会計処理しなければなりません(B 30)。

企業は,製品を顧客に移転した時に,保証の履行に必要な費用とそれに関する負債(製品保証引当金)を認識し,その測定にあたっては,コストを基礎に測定します。サービス型の製品保証の会計処理とは対照的に,アシュアランス型の製品保証に取引価格(利益を含む収益)を帰属させません(BC 376)。

 

☞企業が顧客に保証を履行する義務を負う場合(要件)が,製品が契約において合意された条件に従っていなかった場合(不完全な履行)に限定され,かつ,保証の内容(効果)が,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲(履行の追完,代金の減額又は損害の賠償)に限定されている場合は,製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するアシュアランス型の製品保証です。アシュアランス型の製品保証は,IAS第37号「引当金,偶発負債及び偶発資産」に従って会計処理し,企業は,製品を顧客に移転した時に,保証の履行に必要な費用とそれに関する負債(製品保証引当金)を認識し,その測定にあたっては,コストを基礎に測定します。

 

5.顧客にサービスを提供する保証(サービス型)

 

● 定義

企業が製品(財又はサービス)を顧客に提供するにあたって,企業が当該製品に対する保証も提供する場合(製品保証)にその保証の全部又は一部が,製品が契約において合意された仕様に従っているという保証に加えて顧客にサービスを提供するものをいいます(B 28)。

製品保証のうち,製品が契約において合意された仕様に従っていることのみを保証するという要件を満たさないものは,すべてサービス型となります。

 

● 製品保証を独立して購入するオプション

例えば,製品保証が独立に価格設定されるか,又は交渉されることにより,顧客が製品保証を独立で購入するオプションを有している場合には,当該製品保証は,別個のサービスであることが明らかであり,サービス型の製品保証となります。企業は,製品の引渡しに加えて,保証サービスを顧客に提供することを独立して約束しているからです(B 29,BC 371)。

 

● アシュアランス型とサービス型の区別の指標

本基準は,アシュアランス型とサービス型の区別の指標を例示しています(B 31)。企業は,これらの指標を考慮し,アシュアランス型の要件を満たさないものは,すべてサービス型と判定します。

a 製品保証が法律で要求されているかどうか

一般に,法律は,(製品の引渡し時において)瑕疵ある製品を購入するリスクから顧客を保護することを目的としており,法律で要求されている製品保証は,アシュアランス型であることが多いといえます。

b 保証対象期間の長さ

一般に(製品の引渡し時において)瑕疵があったかどうかは,時の経過により立証が難しくなるため,保証対象期間が長いほど,その立証を不要とする趣旨,すなわちサービス型であることが多いといえます。

c 企業が履行を約束している作業の内容

アシュアランス型は,企業が顧客に履行する保証の内容が,製品の引渡し義務を経済的に補償する範囲(履行の追完,代金の減額又は損害の賠償)に限定されますので,これを超える作業を約束している場合はサービス型となります。もっとも,瑕疵のある製品の返品の運送サービスを約束していても,製品の引渡し義務を経済的に補償するための付随的な作業であり,サービス型の指標にはなりません。

 

● 会計処理

企業は,製品保証を別個のサービス(保証サービス)として履行義務を識別し,製品の引渡しと保証サービスのそれぞれの履行義務に取引価格を配分します(B 32)。

企業がアシュアランス型とサービス型の両方の製品保証を約束している場合にそれらを区分して合理的に会計処理できない場合には,企業は,両方の製品保証を一括して単一の履行義務として会計処理します(B 32,BC 376)。

 

☞アシュアランス型の要件を満たさない製品保証はサービス型の製品保証です。サービス型の製品保証は,別個のサービス(保証サービス)として履行義務を識別し,製品の引渡しと保証サービスのそれぞれの履行義務に取引価格を配分します。

 

6.製造物責任

 

● 製造物責任

製造物の製造,加工又は輸入を事業とする企業が,その引き渡した製造物が通常有すべき安全性を欠くこと(=「欠陥」)により人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負います(製造物責任法3条)。

製造物責任法が定める「欠陥」は,製造物が通常有すべき安全性を欠くことをいい,契約において合意された品質・性能・仕様等を満たさないばかりでなく,他人の生命,身体,財産を侵害してはならないという一般的な社会生活関係における不可侵義務にも違反するようなものをいいます。

 

● 会計処理

企業は,法律に基づいて第三者に損害賠償責任(不法行為責任)を負い,顧客との契約において,顧客が支払を約束した対価と“交換”(=同価値性)に,第三者に損害を賠償し,又は第三者に損害を賠償した顧客に補償するという契約上の義務を負うわけではありません。したがって,製造物責任は,取引価格を配分すべき履行義務ではありません(B 33)。

もし,企業が製品に「欠陥」があると見込まれる状況に至ったときは,IAS第37号「引当金,偶発負債及び偶発資産」に従って会計処理します(BC 378)。

 

☞製造物責任は,顧客との契約において,顧客が支払を約束した対価と交換に負う契約上の義務ではありませんので,企業は製造物責任を履行義務として識別しません。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.11.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

一時点で充足される履行義務

 

2017年11月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「一時点で充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-③ 一時点で充足される履行義務

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」のサブ・ステップ5-①履行義務の属性の判定により,一つ又は複数の履行義務が一時点で充足されると判定した場合,企業は,一時点で充足される履行義務のそれぞれについて,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点で収益を認識します(第38項)。

企業は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮します(第38項)。

 

2.履行義務を充足する時点の決定

 

本基準は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,企業は,“支配”の要件(第33項~第34項)を直接適用するほか,次のような支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮しなければなりません(第38項)。

a 企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(指標(a))

b 顧客が資産に対する法的所有権を有している(指標(b))

c 企業が資産の物理的占有を移転した(指標(c))

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(指標(d))

e 顧客が資産を検収した(指標(e))

 

3.企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(第38項(a))

 

支配との関連性

顧客が資産に対する対価を支払う義務を現時点で負っていることは,顧客がそれと交換に当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を得ていることを示す指標になります(第38項(a))。

もっとも,企業が資産に対する支払を受ける権利は,財又はサービスそのものに関する指標ではありませんので,指標としての有用性には限界があります。

 

資産に対する支払を受ける現在の権利

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しているとは,資産に対する対価の支払期限が到来するまでに時の経過以外は必要とされないことをいいます。

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しないときは,顧客が確定期限の未到来以外に対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁(主張)を有しています。顧客が対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁としては,①停止条件の未成就,②不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),③同時履行の抗弁などの事由が考えられます。

 

停止条件の未成就

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいい,条件が成就したときに法律効力が発生する場合を停止条件といいます(“効力の発生が条件の成就まで停止している”)。

 

不確定期限の未到来(先履行義務の未履行)

期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。発生すること自体は確実ですが,いつ到来するかが不確実な事実にかからせる場合を不確定期限といい,いつ到来するかが確実な事実にかからせる場合を確定期限といいます。

支払期限の到来まで時の経過以外は必要とされない場合は確定期限であり,企業は,資産に対する支払を受ける現在の権利を有します。

これに対し,企業が財又はサービスを提供する義務の履行を完了した後に顧客が代金を支払う定め(後払い)があるときは,企業がいつ財又はサービスを提供する義務(先履行義務)を履行するかが不確実なので不確定期限であり,企業は,財又はサービスを提供する義務の履行を完了しない限り,資産に対する支配を受ける現在の権利を有しません。 

 

同時履行の抗弁

同時履行の抗弁とは,双務契約の当事者が,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる権利をいいます(民法533条)。

顧客が企業に対価を支払う義務と,企業が顧客に契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(給付義務)との間に同時履行の関係のある契約では,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供するまで,顧客が対価の支払を拒絶することができるので(同時履行の抗弁),資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。

不動産の売買契約,建築請負契約などでは,顧客が対価を支払う義務と契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を同時に履行するものとして合意することが多くみられます。これら双方の義務を同時履行の関係にする場合は,通常,契約条項に「と同時に」や「と引換えに」などの用語を使って明示し,後払いと区別します。 

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,資産に対する支払を受ける現在の権利を有するに至る時点,すなわち,支払期限が到来するまでに時の経過以外が必要とされなくなる時点を考慮します。顧客が支払を拒絶できる法律上の抗弁,例えば,停止条件の未成就,不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),同時履行の抗弁などを主張できるときは,企業は資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。 

 

4.顧客が資産に対する法的所有権を有している(第38項(b))

 

支配との関連性

法的所有権は,物に対する完全支配権であり,所有者は,自らの活動に物(資産)の消費,処分,売却,交換,使用,担保差入,保有等のあらゆる利用ができ,他の企業に対する利用の許諾・制限もできますので,これら使用の指図によって当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有します。 

資産の法的所有権は,それが顧客に移転したときに顧客が当該資産に対する支配を獲得し,逆に,それが企業に留まるときは,未だ顧客が当該資産を支配していないことを示す重要な指標になります。多くの場合,資産の法的所有権の移転に伴って資産に対する支配も移転し,資産の法的所有権と資産に対する支配は一致します。ただし,企業が資産の法的所有権を顧客の支払不履行に対する保護としてのみ保持している場合(所有権留保)は,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

法的所有権の概念

所有権は,物権であり,物に対する完全支配権をいいます。所有権は,法律上の概念であり,本基準は,「法的所有権」という用語を使っています。

 

法的所有権の移転時期

a 契約に明示されている場合

所有権の移転時期は,一律に定まっているわけではなく,契約書,合意書等に明示されていればそれに従います。

物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって効力を生じ(民法176条,意思主義),要式や登録・登記を必要としません。そのため,所有権の移転及びその時期は,旧所有者(譲渡人)と新所有者(譲受人)との間の合意のとおりに効力を生じます。

b 契約に明示されていない場合

所有権の移転時期が契約書,合意書等に明示されていないときは,意思表示の解釈(契約の解釈)により当事者の意思を探求しますが,対抗要件(不動産は登記,動産は引渡し)を具備するときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。

 

所有権留保(支払不履行に対する保護としての権利)

a 所有権留保

所有権留保とは,売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保することをいいます。

所有権留保は,主に売買代金の割賦払(分割払)による動産の売買において利用されており,買主が売買代金の支払を怠った場合は,売主が留保した所有権に基づき,その目的物を買主又は第三者から引き揚げてこれを換価するなどして売買残代金の弁済に充当します。買主が売買代金を完済したときは,留保した所有権が売主から買主に移転します。

買主の目的物の利用状況は,通常の売買と異ならないため,売主が所有権を留保したいときは,通常,買主に明示的な合意を求め,契約条項又は約款で,買主による目的物の処分禁止や支払遅滞時の取扱いなど詳細に取り決めます。

b 支配との関連性

企業が所有権留保の特約により資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の法的所有権を有するに至る時点を考慮します。所有権の移転時期は,契約書等に明示されていればそれに従い,明示されていなければ,所有権移転の対抗要件(不動産の登記,動産の引渡し)を具備したときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保する場合(所有権留保),企業が資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません。

 

5.企業が資産の物理的占有を移転した(第38項(c))

 

支配との関連性

資産の物理的占有は,占有者が自ら当該資産の使用を指図し,当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得するか,又は当該便益への他の企業のアクセスを制限する能力を有することを示す可能性があり,企業から顧客に資産の物理的占有を移転することは,顧客が当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標になり得ます。

しかし,物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあります。例えば,買戻し契約には,企業が顧客に資産の物理的占有を移転しながら,依然として当該資産を支配しているものがあります。逆に,請求済未出荷契約には,顧客が資産に対する支配を獲得しながら,企業が依然として当該資産の物理的占有を継続しているものがあります(第38項(c))。

 

物理的占有

占有は,一般に物に対する事実的支配をいいます。本基準は,“物理的占有”の静態的な帰属ではなく,企業から顧客へ「移転した」かどうかという動態的な移転を指標としています。例えば,企業がその意思によらずに物理的占有を喪失し,それを顧客が獲得しても,物理的占有の移転とはいえません。

 

適用指針「請求済未出荷契約」

企業は,顧客との間で,企業が財(製品・商品)の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持することを合意することがあります(いわゆる請求済未出荷契約)。

このような合意は,ほとんどの場合,①企業が当該財に対する支払を受ける現在の権利を有し(指標(a)),かつ,②企業が当該財の法的所有権を顧客に移転する黙示の合意が含まれると解釈できますので(指標(b)),顧客は,当該財に対する支配を獲得します。逆に,企業は,当該財を支配せず,代わりに顧客に当該財に対する保管サービスを提供しています(B 80)。

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,本基準第38項に従って検討するほか,顧客が支配を獲得したと判定するためには,次の要件のすべてを満たしていなければなりません(B 80,81)。

a 請求済未出荷契約の理由が実質的であること(例えば,顧客が当該契約を要請した)

ⅰ 企業と顧客との間で請求済未出荷契約(企業が財の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持する合意)が成立したこと

ⅱ 上記ⅰの合意の理由が実質的であること

b 当該財が顧客に属するものとして区分して識別されていること

c 当該財は現時点で顧客への物理的な移転の準備ができていること

d 企業が当該財を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有しないこと

● 企業は,財の物理的占有を移転する前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,保管サービス)があるかどうかを考慮しなければなりません(B 82)。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,企業が資産の物理的占有を移転した時点を考慮します。物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあるので,買戻し契約や請求済未出荷契約を考慮します。

 

6.顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(第38項(d))

 

支配との関連性

顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有する事象は,顧客が当該資産に対する支配を獲得した結果であることが多いので,支配の移転の指標となり得ます(BC 119,154)。

もっとも,本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配モデルを採用しており,2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定する必要があります。例えば,企業が約束した財を移転する履行義務に加えて,維持管理サービスを提供する独立した履行義務を識別しているときは,財を移転する履行義務を充足する時点を決定するにあたって,財に関連する一部のリスク(故障や性能の低下)を除外して判定します(第38項(d))。

 

危険負担

資産の所有に伴うリスクとして想定される一事象に資産の滅失・毀損があります。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

自然災害等の不可抗力により財が滅失・毀損し,企業が財を移転できなくなった場合,顧客が負う対価の支払義務が残存する(顧客が危険を負担する)のか,消滅する(企業が危険を負担する)のかという問題があり,これを危険負担といいます。

国内取引の実情では,引渡しの時に売主(甲)から買主(乙)に危険が移転する条件がほとんどです。他方,遠隔地者間の取引(特に輸出入取引)では,契約書等で危険が移転する時点として「引渡し」を定義づけることもあります。国際取引において採用される国際商業会議所が作成したインコタームズは,定型的な取引条件として,DAP(仕向地持込渡し)やFOB(本船積込渡し),CIF(運賃・保険料込み条件)などの記号を用いて「引渡し」を定義づけ,危険負担に関する取扱いを定めています。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有するに至る時点を考慮します。2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定します。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

 

7.顧客が資産を検収した(第38項(e))

 

支配との関連性

顧客による資産の検収が予定されている契約では,検収は,顧客が自ら検査して企業が合意された仕様に従った資産を移転し,履行義務を充足したことを確認するものであり,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得したことを示す指標となり得ます(第38項(e))。

 

検収

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。

企業が顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された条件に適合しない場合は,履行義務を完全に充足せず(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)が消滅しません。),追加的に履行義務の完全な充足(代替品の給付,補修,損害賠償等)を行う強制可能な義務を負い続けます。

商法526条は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買では,顧客が受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い,目的物が契約において合意された条件に適合しない場合でも,次の期限内に企業に通知しなければ,責任追及(代替品の給付,契約の解除,代金減額又は損害賠償)ができなくなることを定めています。

● 検査によって直ちに発見することができる契約不適合(瑕疵)⇨検査後直ちに通知する
● 上記以外の契約不適合(隠れた瑕疵)⇨受領後6か月以内に通知する

この規定は,商人間の売買契約に関する任意規定ですので,取引の実情に応じ,この規定を明確化又は修正する特約をし,また,売買契約以外の契約類型でも,顧客の検査と契約不適合(瑕疵)の取扱いに関して定めることが少なくありません。

 

適用指針「顧客による検収」

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(B 83)。

a 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合(B 84)

顧客の検収は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得したかの判断に影響を与えず,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得し,企業が履行義務を充足する可能性があります。

● 企業は,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,設備の据付け)があるかどうかを考慮しなければなりません。

b 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できない場合(B 85)

企業は,顧客の検収を受けるまで,顧客が支配を獲得したと評価することができません。

c 企業が顧客に財(商品・製品)を試用又は評価の目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を確約していない場合(B 86)

顧客が財を検収するか又は試用期間が終了するまで,当該財に対する支配は顧客に移転しません。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,検収の契約条項が,顧客が財又はサービスに対する支配を獲得する時点に与える影響を考慮します。顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合は,検収の契約条項が影響を与えず,検収前に顧客が支配を獲得する可能性がありますが,企業が客観的に判断できない場合は,顧客の検収を受けるまで顧客が支配を獲得したと評価できません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.28更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

一定の期間にわたり充足される履行義務

 

2017年10月28日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「一定の期間にわたり充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-② 一定の期間にわたり充足される履行義務

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」のサブ・ステップ5-①履行義務の属性の判定により,一つ又は複数の履行義務が一定の期間にわたり充足されると判定した場合,企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより,収益を一定の期間にわたり認識します(第39項)。

企業は,顧客に移転することを約束した財又はサービスの性質を考慮し,当該財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するように,適切な進捗度の測定方法を選択,適用しなければなりません(第41項)。

 

2.履行義務の完全な充足に向けての進捗度

 

進捗度を測定する目的

進捗度を測定する目的は,企業が約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります(第39項)。

進捗度の測定方法はさまざま考えられますが,企業は,その測定方法を自由な裁量により恣意的に選択するのではなく,進捗度を測定する目的に整合する適切な測定方法を選択しなければなりません(BC 159)。

 

単一性の原則

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の測定方法を適用しなければなりません(第40項)。

 

一貫適用の原則

企業は,特定の履行義務に選択した進捗度の測定方法を,類似の履行義務及び類似の状況に首尾一貫して適用しなければなりません(第40項)。

 

再測定の原則

企業は,各報告期間末において,一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度を再測定しなければなりません(第40項)。

 

☞企業は,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行を描写する目的に整合する適切な進捗度の測定方法を選択しなければなりません。企業は,履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の測定方法を適用し,類似の履行義務及び類似の状況に首尾一貫して適用しなければなりません。

 

3.進捗度の測定方法

 

進捗度の測定方法の選択

企業は,顧客に移転することを約束した財又はサービスの性質を考慮し,当該財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写する目的に整合する適切な進捗度の測定方法を選択しなければなりません(第41項)。

 

進捗度の測定方法の適用

a 企業は,進捗度の測定方法を適用するにあたって,企業が顧客に支配を移転しない財又はサービスを進捗度の測定値から除外しなければなりません(第42項)。

特にインプット法では,後に述べるとおり,企業が顧客に支配を移転しない財又はサービスに生じたインプット(コスト)や,財又はサービスの顧客への移転に寄与しないインプット(コスト)を除外しなければなりません(B 19(a))。

b 企業は,進捗度の測定方法を適用するにあたって,企業が履行義務を充足するために顧客に支配を移転する財又はサービスを進捗度の測定値に含めなければなりません(第42項)。

特にアウトプット法では,後に述べるとおり,選択する指標によっては,顧客に支配を移転した財又はサービスの一部を測定しない場合がありますので,企業は,履行義務を充足するために顧客に支配を移転する財又はサービスをすべて反映するアウトプットを指標として選択すべきです(B 15)。

 

進捗度の測定値の見直し

企業は,各報告期間末において,履行義務を完全に充足した時における結果(基準値)の変動を反映するため,進捗度の測定値を見直さなければなりません。進捗度の測定値の変更は,会計上の見積りの変更として会計処理しなければなりません(第43項)。

 

☞企業は,顧客に移転することを約束した財又はサービスの性質を考慮し,適切な進捗度の測定方法を選択します。その適用にあたっては,財又はサービスの顧客への移転に関係・寄与しない活動・事象を進捗度の測定値から除外し,逆に,顧客に支配を移転する財又はサービスを漏れなく進捗度の測定値に含めます。企業は,各報告期間末において,履行義務を完全に充足した時における結果(基準値)を見直し,進捗度の測定値を変更するときは,会計上の見積りの変更として会計処理します。

 

4.アウトプット法

 

アウトプット法

アウトプット法は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に測定し,契約において約束した残りの財又はサービスの顧客にとっての価値との比率に基づいて収益を認識します(B 15)。

「顧客にとっての価値」は,契約における企業の履行の客観的な測定値を指し,個々の財又はサービスの市場価格又は独立販売価格や,財又はサービスに組み込まれたと顧客が認識している価値を評価する必要はありません(BC 163)。

 

指標の例

指標として,例えば,現在までに履行を完了した部分の調査,達成した成果の評価,達成したマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数などがあります(B 15,BC 163)。

 

選択の留意点

アウトプット法は,一般的に,選択する指標が直接的に観察可能でないものもあり,適用に必要な情報が過大なコストをかけずに入手できないためにインプット法を選択する必要がある場合があります(B 17)。

アウトプット法を選択するときは、企業は,事実及び状況を考慮し,選択する指標が,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します(BC 166)。

● 選択する指標が顧客に支配を移転した財又はサービスの一部を測定しない場合には,企業の履行を忠実に描写しません。例えば,生産単位数又は引渡単位数を指標とするときに,報告期間末において,企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が生産されているが,指標の測定値にそれが含まれていない場合には,企業の履行を忠実に描写しません(B 15,BC 165)。

● 選択する指標の単位が一律に顧客にとって同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写しません。例えば,生産単位数又は引渡単位数を指標とするときに,設計と製造の両方を提供する契約で,選択する指標の各項目が一律に同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写しませんが,同価値の標準品目を顧客に個々に移転する長期製造契約では,企業の履行を忠実に描写します(BC 166)。

 

実務上の便法

企業が現在までに完了した企業の履行の顧客にとっての価値に直接対応する金額で顧客から対価を受ける権利を有している場合(例えば,企業が提供したサービスの時間数ごとに固定金額を請求するサービス契約)には,企業は,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます(B 16,BC 167)。

 

☞企業は,例えば,達成した成果やマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数など財又はサービスの顧客にとっての客観的な価値を直接的に反映する指標により進捗度を測定する方法(アウトプット法)を選択するときは,必要な情報を入手するコストのほか,選択する指標が,顧客に支配を移転した財又はサービスを漏れなく測定し,かつ,その単位が一律に顧客にとって同価値かなど,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します。企業は,現在までに完了した企業の履行の顧客にとっての価値に直接対応する金額で顧客から対価を受ける権利を有している場合には,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます。

 

5.インプット法

 

インプット法

インプット法は,履行義務の充足に使用されたインプットが,当該履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づいて収益を認識します(B 18)。

 

指標の例

指標として,例えば,消費した資源,費やした労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(B 18)。

 

選択の留意点

インプット法は,企業のインプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がないため,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないことが少なくありません(B 19)。他方で,アウトプット法の適用に過大なコストがかかり,インプット法が低コストで合理的な代用数値を提供することもあります(B 17,BC 164)。

そこで,企業は,インプット法の適用にあたって,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するよう,適用の留意点に十分に配慮することによって,インプット法を選択することが適切な場合があります。

 

適用の留意点

企業は,インプットのうち,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外しなければなりません。

コストに基づくインプット法を使用するにあたって,次のような状況では,進捗度の測定値を修正する必要があります(B 19)。

a 発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に寄与しない場合

企業は,契約の価格に反映されていない企業の履行における重大な非効率に起因して生じたコスト(例えば,予想外の金額の原材料,労働力又は他の資源の仕損のコスト)を除外しなければならなりません(B 19(a),BC 176~178)。

また,顧客へのサービスの移転を描写しない契約のセットアップ等の管理作業の活動コストを除外しなければなりません(B 51)。

b 発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しない場合

発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識すべき場合があります(B 19(b))。

例えば,エレベーターの据付けを含むリフォーム工事契約において,現場に納入されたエレベーターを事後に据え付けるケースでは(IE 95),企業が財とサービスの両方を顧客に移転することを約束していますが,顧客が当該履行義務の重要部分である財(エレベーター)に対する支配を,サービス(据付け)に対する支配とは異なる時点で獲得するときは,発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しません(BC 169)。

本基準は,代表的なケースから,未据付資材の会計処理と呼んで,設例(IE 95)で解説しています。

【インプット法の修正】(未据付資材の会計処理)

企業は,契約開始時に,以下の条件のすべてが満たされると見込んでいる場合は,履行義務の充足に使用される財のコストと同額で収益を認識すべきです(B 19(b))

ⅰ その財は別個のものではない。

ⅱ 顧客が,その財に関連するサービスを受け取るより相当前に,その財に対する支配を獲得すると見込まれる。

ⅲ 移転した財のコストが,履行義務を完全に充足するために予想される総コストに対して重大である。

ⅳ 企業がその財を第三者から調達していて,その財の設計と製造に深く関与していない(しかし,企業は本人として行動している)。

 

☞企業は,例えば,消費した資源,発生したコスト,経過期間など履行義務の充足に使用されたインプットの指標により進捗度を測定する方法(インプット法)を選択するときは,インプットの指標のうち,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外することに留意します。コストに基づくインプット法を使用するときは,契約の価格に反映されていない企業の履行の重大な非効率に起因して生じたコストや,顧客にサービスを移転しない契約のセットアップ等の管理作業のコストなど,履行義務の充足における企業の進捗度に寄与しないコストを除外します。また,発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識すべき場合があります。

 

6.合理的な進捗度の測定値

 

進捗度の適用の停止

企業は,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を合理的に測定できる場合にのみ,一定の期間にわたり充足される履行義務についての収益を認識しなければなりません。

企業は,適切な進捗度の測定方法を適用するために必要となる信頼性のある情報が不足しており,履行義務の完全な適用に向けての進捗度を合理的に測定できない場合には,一定の期間にわたり充足される履行義務についての収益を認識してはなりません(第44項)。

 

進捗度の特殊な適用

企業は,履行義務を完全に充足した時の結果(基準値)を合理的に測定することができないが,当該履行義務の充足のために発生するコストを最終的に回収すると見込んでいる場合は,当該履行義務を完全に充足した時の結果を合理的に測定できるようになるまで,発生したコストの範囲でのみ収益を認識しなければなりません(第45項)。

 

☞企業は,履行義務の完全な適用に向けての進捗度を合理的に測定できない場合には,収益を認識しません。企業は,履行義務を完全に充足した時の結果(基準値)を合理的に測定することができないが,当該履行義務の充足のために発生するコストを最終的に回収すると見込んでいる場合は,当該履行義務を完全に充足した時の結果を合理的に測定できるようになるまで,発生したコストの範囲でのみ収益を認識します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.17更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

履行義務の属性の判定

 

2017年10月17日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「履行義務の属性の判定」 目次と概要

 

1.Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」の概要

 

企業は,本基準の適用手順の最後のステップで,約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,収益を認識します(第31項)。

1 履行義務の属性の判定

企業は,まず,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第32項)。

2 一定の期間にわたり充足される履行義務

企業は,3類型の要件(第35項(a)~(c))のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足する履行義務と判定します(第35項)。

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより,一定の期間にわたり収益を認識します(第39項)。

3 一時点で充足される履行義務

企業は,それぞれの履行義務について,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第38項)。

企業は,一時点で充足される履行義務について,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮して,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します(第38項)。

 

☞企業は,識別した履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定し,①は,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより一定の期間にわたり収益を認識し,②は,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します。

 

2.Step5-① 履行義務の属性の判定

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」では,企業は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて収益を認識しますが(支配アプローチ),本基準は,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,“支配”の移転時期に関する履行義務の属性の判断枠組みを提供しています。

そこで,企業は,まず,その判断枠組みに従って,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第32項)。

 

3.支配とは~支配の概念~

 

履行義務の充足

本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを,企業から顧客への“資産の移転”という事象として捉えており,企業から顧客への資産の移転は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて生じるという考え方(支配アプローチ)を採用しています。

 

支配アプローチ

支配アプローチとは,顧客が資産に対する支配を獲得した時,又は獲得するにつれて企業が当該資産を顧客に移転し,収益を認識するという考え方をいいます。

本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配アプローチを採用しました(BC 118)。

 

資産の概念

資産とは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源をいいます。財とサービスの両方とも資産です。サービスも,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第33項)。

 

支配の概念

資産に対する支配とは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を指し,他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を得ることを妨げる能力が含まれます(第33項)。この定義に含まれる各要素は,次のとおりです(BC 120)。

a 能力(BC 120(a))

能力とは,一定の行為を能動しようとすれば,現時点でそれが可能であることを意味します。

b 使用の指図(BC 120(b))

使用の指図とは,顧客が当該資産を自らの活動に利用するか,当該資産を他の企業が利用することを認めるか,又は他の企業による当該資産の利用を制限する権利を指します。

c 便益の獲得(BC 120(c))

資産の“便益”とは,概念上,潜在的なキャッシュ・フロー(キャッシュ・インフローの増加又はキャッシュ・アウトフローの減少)をいい,便益を得る方法(利用)として資産の“使用”や“消費”,“処分”,“売却”,“交換”,“担保差入”,“保有”などが例示されています(第33項)。そのような方法(利用)によって,現時点で資産に残存するほとんどすべての便益を得る能力を獲得してはじめて当該資産を支配したことになります。

 

支配の判定

“支配”は抽象的な概念ですので,顧客が“支配”を獲得したかどうかの判定にあたって,具体的な利用行為を想定し,次のような順序で場合分けをして考察することが有用です。

● 消費・処分・売却・交換

まず,顧客が現時点で資産の消費(consume),処分(dispose),売却(sell)又は交換(exchange)ができる場合は,これらの利用行為によって当該資産の用益のほぼ全部を使い切り,又はその資産の価値のほぼ全部に代わるものを得ることで,現時点で当該資産に残存するほとんどすべての便益を獲得しますので,通常,顧客が支配を獲得しています。

ただし,顧客が企業にだけ売却ができる場合は,買戻し契約を考慮します(第34項)。

● 使用・担保差入・保有・他の企業に対する利用の許諾制限

次に,顧客が資産の消費・処分・売却・交換ができず,現時点で使用(use),担保差入(pledge),保有(hold),他の企業に対する利用の許諾・制限ができるにすぎない場合は,これらの利用行為によって当該資産に残存する便益のほとんどすべてを獲得するかどうか(例えば,顧客が当該資産の残存耐用年数にわたって使用や保有を持続することができるかどうか)を判定します。その判定にあたって,買戻し契約があるか否かを考慮し,買戻し契約があるときは,買戻しに関する適用指針(B 64~76)を参照します(第34項)。

 

☞本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを“資産の移転”という事象と捉え,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて収益を認識するという考え方(支配アプローチ)を採用します。支配は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を得ることを妨げる能力を含む。)を指し,その判定にあたって,買戻し契約を考慮します。

 

4.履行義務の属性

 

支配アプローチを補完する必要性

“支配”は,比較的単純な財を移転する履行義務に適用する場合は有用ですが,サービスや建設型の契約については,顧客がサービスの支配をいつ獲得するのかを容易に決定できない場合があります(BC 122)。そこで,本基準は,顧客が“支配”を獲得する時期(一定の期間にわたって徐々に獲得するのか,一時点で支配を獲得するのか)に関する履行義務の属性の判定にあたって,直接“支配”の要件を適用するのではなく,代わりに,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,支配アプローチを補完する判断枠組みを提供しています(BC 124)。

 

支配アプローチを補完する判断枠組み

企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,以下の3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(第32項,第35項),いずれにも該当しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第38項)。

a 顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する(第35項(a))

b 企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する(第35項(b))

c 企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出せず,かつ,企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している(第35項(c))

 

☞企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し,いずれにも該当しない場合には,一時点で充足される履行義務と判定します。

 

5.企業が履行するにつれて提供される便益を顧客が受け取って消費する(第35項(a))

 

要件

顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費すること


代替的な判定

この要件を容易に識別できないときは,企業は,代わりに「企業が現在までに完了した作業について,仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を履行することになったとしても作業の大幅なやり直しをする必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

☞企業は,「顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する」と識別できる場合,あるいは,(容易に識別でないときは)代わりに「企業が現在までに完了した作業について,仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を履行することになったとしても作業の大幅なやり直しをする必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

6.企業の履行につれて創出又は増価される資産を顧客が支配する(第35項(b))

 

要件

企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配すること

創出又は増価される資産(仕掛中の資産)は,顧客によって消費されずに残存する資産であり,有形又は無形のいずれの場合もあります(B 5)。それを顧客が支配するかどうかは,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用して判定します。

 

☞企業は,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用し,「企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

7.企業が現在までに履行した他に転用できない資産に対する支払を受ける権利を有する(第35項(c))

 

要件(次のいずれの要件も満たすこと)

a 企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出しないこと

b 企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有していること

 

企業が他に転用できる資産を創出しないこと

企業が資産を他に転用できないとは,企業の履行によって創出される資産を別の用途に振り向けることに①契約上の制限又は②実務上の制約がある場合をいいます(第36項)。

a 契約上の制限

企業が資産の創出若しくは増価の間に当該資産を別の用途に振り向けることが契約で制限されているときは,当該資産は他に転用できません(第36項)。

契約上の制限は,実質的なものでなければなりません(B 7)。

b 実務上の制約

企業が完成した状態の当該資産を別の用途に容易に振り向けることが実務的に制約されているときは,当該資産は他に転用できません(第36項)。

実務上の制約は,企業が資産を別の用途に振り向けるために企業に重大な経済的損失が生じる場合です。重大な経済的損失は,①企業が当該資産を手直しするために重大なコストが生じること(例えば,設計仕様が顧客に特有である)又は②重大な損失を生じる売却しかできないこと(例えば,資産が遠隔地に所在している)により生じることがあります(B 8)。

 

企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有していること

企業は,(a)企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合に,(b)契約の存続期間全体を通じて,少なくとも(c)現在までに完了した履行について企業に補償する金額の(d)支払を受ける強制可能な権利を得ていなければなりません(第37項,B 9)。

a 企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合

顧客(又は他の当事者)が企業の契約違反(債務不履行)以外の理由で解約する場合を意味します。

b 契約の存続期間全体を通じて

契約の存続期間中,(顧客により解約が可能な)どの時点で解約しても,常にその時点までに完了した履行に対する支払を受ける権利を有しなければならないことを意味します。

顧客が契約の存続期間中,解約権を全く有しない場合は,常に企業は現在までに完了した履行に対する支払を受ける(保持する=返還しない)権利を有します。報酬全額の前払いと解約不能を組み合わせた100%返金不能の前払も,企業は現在までに完了した履行に対する支払を受ける権利を有します(BC 146)。

c 現在までに完了した履行について企業に補償する金額

企業に補償する金額は,現在までに移転した財又はサービスの販売価格に近似した金額でなければなりません。

財又はサービスの販売価格に近似した金額は,企業が履行義務を充足するために生じるコストに合理的な利益マージンを加算したものをいい,利益マージンは,当該契約又は同様の契約を基準に合理的な水準でなければなりません(B 9,BC 143,144)。

なお,契約で定められた支払条件(支払予定)は,契約が存続する(解約されない)ことを前提とする支払方法(時期・金額)を示しており,契約の解約により返金される可能性がありますので,必ずしも企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける(保持する=返還しない)権利やその金額を示すものではありません(B 13)。

d 支払を受ける強制可能な権利

支払を受ける強制可能な権利は,顧客から解約権を行使されたと仮定したときに(それを停止条件として発生する),その時点までに完了した履行に対する支払を請求し,又は保持する(返還しない)権利であり,現在の無条件の権利ではありません(B 10,BC 145)。

現在までに完了した履行に対する支払を受ける権利の有無及び強制可能性を評価するにあたって,企業は,契約条件を法令又は判例(当該契約条件を補足するか又は覆す可能性があります。)とともに考慮しなければなりません(第37項,B 12)。

 

☞企業は,「企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出せず,かつ,企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。企業は,企業の履行によって創出される資産を別の用途に振り向けることに(a)契約上の制限又は(b)実務上の制約がある場合に,当該資産を他に転用できないと評価します。また,企業が現在までに完了した履行に対する強制可能な権利を有するためには,(a)企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合に,(b)契約の存続期間全体を通じて,少なくとも(c)現在までに完了した履行について企業に補償する金額の(d)支払を受ける強制可能な権利を得ていなければなりません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.05更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

取引価格の変動

 

2017年10月5日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「取引価格の変動」 目次と概要

 

1.Step4-② 取引価格の変動

 

Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,企業は,契約開始時において,算定した取引価格を履行義務に配分しますが,その後に取引価格が変動したときは,変動した取引価格を契約開始時と同じ基礎により履行義務に配分し,充足した履行義務に配分した金額は,収益(又は収益の減額)として,直ちに(取引価格が変動した期間に)認識する必要があります(第88項)。

企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(第88項)。

契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,契約変更に関する本基準第18項~第21項に従って会計処理します。契約変更後に生じる取引価格の変動については,①取引価格の変動が契約変更前に約束された変動対価の金額に起因していて当該契約変更を本基準第21項(a)に従って会計処理している場合は,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前の契約の中で識別された履行義務に配分し,②そうでない場合は,契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理した場合を除き,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務に配分する方法のいずれか適用可能な方法で取引価格の変動を配分します(第90項)。

 

2.取引価格の事後の変動

 

取引価格の変動の理由

不確定な事象の解決(不確実性の解消)や他の状況の変化などのさまざまな理由が,約束した財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額を変動させます(第87項)。

例えば,企業が契約開始時に見積った変動対価について,その後に不確実性が解消されるに従って,又は残った不確実性に関する新たな情報が利用可能となるに従って,権利を得ると見込んでいる金額が変化します(BC 224)。

 

取引価格の事後の変動の取り扱い

契約開始後に取引価格が変動した場合には,次のいずれかの取り扱いが考えられます(BC 225)。

① 当該変動を変動の発生時に純損益に認識する。

② 当該変動を履行義務に配分する。

このうち①の取り扱いは,財又はサービスの移転を忠実に描写しない収益認識のパターンとなるおそれがあります。また,取引価格の変動により直ちにかつ全部を収益に認識することは実務において濫用のおそれがあります。取引価格の変動を収益とは区分して利得又は損失として表示したとしても,契約について認識される収益の合計額が,企業が契約に基づいて権利を得る対価の金額と等しくなりませんので,結果として収益認識のパターンを維持することができません(BC 226)。

②の取り扱いは,取引価格の事後の変動を,契約開始時における配分の方法論と整合的な方法で配分するものであり,変動対価の見積りの変更が,当該変動対価が関連している履行義務に配分されることが確保されます(BC 286)。

そこで,本基準は,取引価格の変動を契約の中のすべての履行義務に配分することとし,既に充足されている履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益として(又は収益の減額として)認識することとしています(BC 227)。

 

☞企業は,契約開始後に取引価格が変動したときは,変動した取引価格を履行義務に配分し,既に充足されている履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益(又は収益の減額)として)認識します。

 

3.取引価格の変動の会計処理

 

契約開始時と同じ基礎による配分

企業は,契約開始後の取引価格のあらゆる変動を,契約開始時と同じ基礎により履行義務に配分しなければなりません(第88項)。

本基準は,財又はサービスの移転のパターンを忠実に描写するために,取引価格の変動を契約開始時における配分と同じ方法で配分することにより,取引価格の変動以外の要因によって契約開始時に設定した財又はサービスの移転のパターンに影響を与えないようにしています。

この原理は,取引価格の変動を除き,契約開始時における配分の方法を変更してはならないことを意味します。そこで,本基準は,以下の点を注意的に明らかにしています(BC 286)。

● 独立販売価格の変動を反映してはならない。

 企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(第88項)。

● 変動対価の配分の方法を変更してはならない。

 企業は,変動対価の配分に関する第85項の要件に該当する場合にのみ,取引価格の変動の全体を,履行義務(又は第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第89項)。

 

履行義務への配分と収益認識

企業は,取引価格の変動を配分する各履行義務が,未だ充足されていないものと,既に充足されているものとによって,次のとおり会計処理を行います。

● 履行義務が未だ充足されていないとき

 企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分します。その後,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」において,当該履行義務が充足された時に(又は充足されるにつれて),当該履行義務に配分した取引価格の金額を収益として認識します。

● 履行義務が既に充足されているとき

 企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分し,直ちに(取引価格が変動した報告期間に)収益(又は収益の減額)として認識します(第88項)。

 

☞企業は,取引価格の変動を,契約開始時と同じ基礎により(契約開始時における配分の方法を変更せずに)履行義務に配分しなければなりません。そのため,企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映したり,本基準第85項に従った変動対価の配分の方法を変更したりしてはなりません。

 

4.契約変更による取引価格の変動

 

本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで,第18項~第21項にその会計処理を定めています。

契約変更のうち②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものは,契約開始後に取引価格を変動させます。しかし,契約変更に伴う契約の価格の変更は,契約開始後の当事者間の独立の交渉から生じるのに対し,変動対価の見積りの変更は,契約開始時に識別され合意された変数の変化から生じることから,契約変更から生じる取引価格の変動と変動対価の見積りの変更は,異なる経済事象の結果であるといえます(BC 82)。

そこで,本基準は,契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,Step1-④契約の変更のサブ・ステップにおいて,第18項~第21項に従って会計処理することとしています(第90項)。この契約変更の会計処理に加えて,Step4-②取引価格の変動のサブ・ステップで会計処理を行う必要はありません。

 

☞企業は,契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,本基準第18項~第21項に従って契約変更の会計処理を行います。

 

5.契約変更後に生じる取引価格の変動

 

企業は,契約変更後に生じる取引価格の変動については,取引価格の変動に関する本基準第87項~第89項を適用して,次のうちどちらか適用可能な方法で取引価格の変動を配分しなければなりません(第90項)。

a 取引価格の変動が契約変更前に約束された変動対価の金額に起因していて,企業が当該契約変更を本基準第21項(a)に従って会計処理している場合において,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前に契約の中で識別された履行義務に配分する方法(第90項(a))

企業が,顧客が変動対価を約束する契約を開始した後に契約変更を行い,本基準第21項(a)に従って既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理した後になって,契約変更前に約束された変動対価に関して取引価格が変動することがあります。

このような取引価格の変動は,契約変更前の契約の中の履行義務に配分するか,契約変更後の契約の中の履行義務に配分するかのいずれかが考えられますが,約束された変動対価と不確実性の解消が契約変更の影響を受けない場合には,取引価格の変更を当初の契約の中の履行義務に配分することが適切です(BC 83)。

b 企業が契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理しなかった場合において,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務(すなわち,契約変更直後に未充足又は部分的に未充足であった履行義務)に配分する方法(第90項(b))

aに該当しない(aが適用可能でない)取引価格の変動については,企業は,変更後の契約の中の履行義務に配分します。

企業が契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理した場合には,既存の契約か,又は契約変更による新たな独立した契約のいずれかについて,取引価格の変動の会計処理(第87項~第89項)を行います。

 

☞企業は,①本基準第21項(a)に従って既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理した後,契約変更前に約束された変動対価の金額に起因して取引価格が変動した場合は,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前に契約の中で識別された履行義務に配分しますが,②そうでない場合は,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務に配分します。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.23更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

取引価格の配分

 

2017年9月23日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「取引価格の配分」 目次と概要

 

1.Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」の概要

 

企業は,取引価格を算定した後の次のステップで,契約開始時に,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します。

このステップの適用は,次のとおり,1.契約開始時と,2.契約開始後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。

1 履行義務への取引価格の配分

企業は,契約開始時に,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分します(第74項)。

2 取引価格の変動

企業は,契約開始後に取引価格が変動したときは,契約開始時と同じ基礎により契約における履行義務に取引価格を配分しなければなりません(第88項)。

 

☞企業は,①契約開始時と,②契約開始後に取引価格が変動したときに,算定した取引価格を,約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で,それぞれの履行義務に配分します。

 

2.Step4-① 取引価格の配分

 

Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,まず,企業は,契約開始時において,算定した取引価格を,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して配分します(第76項)。

契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合は,企業は,顧客が受けた値引きを,その値引きが一部の履行義務に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合を除き,すべての履行義務に比例的に配分しなければなりません(第81項)。

契約において約束された変動対価が,一定の要件を満たすときは,変動性のある金額の全体を,1つの履行義務(又は単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。

 

3.配分の目的

 

配分の目的

取引価格を配分する目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります(第73項)。

本基準は,この目的を果たすため,企業は,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分することとしています(BC 266)。ただし,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)に定める例外があります(第74項)。

 

契約に履行義務が一つしかない場合

契約に履行義務が一つしかない場合には,基本的に取引価格の配分に関する本基準第76項~第86項は適用されません。ただし,企業が,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))について単一の履行義務を識別し,かつ,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれている場合には,変動対価の配分(第84項~第86項)が適用される場合があります。

 

☞配分の目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります。

 

4.独立販売価格の算定

 

独立販売価格とは

独立販売価格とは,企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格をいいます。

 

独立販売価格の算定の方法

企業は,取引価格の配分にあたって,次の場合に分けて,約束した財又はサービスの独立販売価格を算定します。

● 独立販売価格が直接的に観察可能な場合

企業が当該財又はサービスを同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの価格が観察可能である場合は,その観察可能な価格が,独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠であるといえます。財又はサービスについて契約に記載された価格や定価は,当該財又はサービスの独立販売価格である可能性がありますが,独立販売価格であると推定してはなりません(第77項)。

● 独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合

独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合には,企業は,配分の目的(第73項)に合致する取引価格の配分をもたらす金額となるように独立販売価格を見積らなければなりません(第78項)。

 

☞企業は,取引価格の配分にあたって,約束した財又はサービスの独立販売価格(企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格)を算定します。企業が同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの観察可能な価格が独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠となります。独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合は,企業は,配分の目的に合致するように独立販売価格を見積ります。

 

5.独立販売価格の見積りの方法

 

独立販売価格の見積りの方法

財又はサービスの独立した販売から生じた観察可能な価格を企業が有していない場合には,企業はその代わりに独立販売価格を見積らなければなりません。

その見積りの方法は,配分の目的に合致した独立販売価格の忠実な描写である限りは,制限がありません。本基準は,独立販売価格の見積りのための適切な方法を例示していますが(第79項),独立販売価格の見積りの方法は,それらの例示に限られず,また,特定の方法を禁止することもしていません(BC 268)。

 

実態適用の原則

企業は,独立販売価格を見積るにあたって,合理的に利用可能なすべての情報(市場の状況,企業固有の要因,顧客又は顧客の階層に関する情報を含みます。)を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用しなければなりません(第78条,BC 268)。

 

一貫適用の原則

企業は,類似の特性を有する他の財又はサービスの独立販売価格の見積りの方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第78条,BC 268)。

 

独立販売価格を見積るための適切な方法の例

財又はサービスの独立販売価格を見積るための適切な方法には,次のものが含まれますが,これらに限定されません(第79項)。

 

● 調整後市場評価アプローチ

企業は,財又はサービスを販売する市場を評価して,当該市場の顧客が当該財又はサービスに対して支払ってもよいと考えるであろう価格を見積ります。また,企業は,類似した財又はサービスについて,企業の競争相手の価格を参照して,企業のコストとマージンを反映するように必要に応じて当該価格を調整する場合があります。

 

● 予想コストにマージンを加算するアプローチ

企業は,履行義務の充足のコストを予測し,当該財又はサービスに対する適切なマージンを追加して独立販売価格を見積ります。

 

● 残余アプローチ

企業は,取引価格の総額から契約で約束した他の財又はサービスの観察可能な独立販売価格の合計を控除した額を参照して,残余の財又はサービスの独立販売価格を見積ります(BC 270)。

ただし,企業は,次の要件のいずれかに該当する場合にだけ,残余アプローチを使用することができます。

ⅰ 販売価格の変動性が高い状況

企業が同一の財又はサービスを異なる顧客に(同時に又はほぼ同時に)広い範囲の金額で販売している(すなわち,代表的な独立販売価格が過去の取引又は他の観察可能な証拠から識別できないため,販売価格の変動性が高い)ときは,残余アプローチを使用することができます。

例えば,知的財産及び他の無形資産に関する契約では,それらの財又はサービスを顧客に提供する際に企業に発生する追加コストが少額又は皆無であるため,価格設定の変動性が高くなります。こうした変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有している状況では,契約における独立販売価格を算定する最も信頼性の高い方法は,残余アプローチであることが多いといえます(BC 271)。

ⅱ 販売価格が不確定である状況

企業が当該財又はサービスについての価格をまだ設定しておらず,当該財又はサービスがこれまで独立して販売されたことがない(すなわち,販売価格が不確定である)ときは,残余アプローチを使用することができます。

 

独立販売価格の見積りの複数の方法の組合せ

企業は,約束した財又はサービスのそれぞれの独立販売価格を見積るにあたって,複数の方法を組み合わせて使用することが必要になる場合があります。企業は,複数の方法の組合せを使用して独立販売価格を見積ったときは,当該独立販売価格に基づき取引価格を配分することが,配分の目的(第73項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第78項)に合致するかどうかを評価しなければなりません(第80項)。

例えば,契約の中に含まれる3つ以上の財又はサービスのうち,独立販売価格の変動性又は不確実性の高い複数の財又はサービスが含まれるときに,それら複数の財又はサービスの独立販売価格の総額に残余アプローチを使用し,それらの個々の財又はサービスのそれぞれの独立販売価格の見積りに別の方法を使用する場合がありますが,そうした複数の方法の組合せを使用して見積った独立販売価格は,その結果が適切なのかどうかを検討する必要があります。

 

☞企業は,独立販売価格の見積りにあたって,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用します。適切な見積りの方法の例として,①調整後市場評価アプローチ,②予想コストにマージンを加算するアプローチ,③残余アプローチがあります。残余アプローチは,約束した財又はサービスが,(a) 変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有する状況か,又は(b) 独立での販売実績がなく,販売価格が不確定である状況に限って使用します。

 

6.独立販売価格に基づく配分

 

企業は,契約開始時において,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して取引価格を配分します(第76項)。

本基準は,独立販売価格に基づく配分を原則(デフォルト)とすることにより取引価格の配分に規律をもたらし,企業内及び企業間の比較可能性を高めています(BC 280)。

もっとも,独立販売価格に基づく配分は手段にすぎませんので,収益認識モデルの目的を達成するため,必ずしも企業が顧客から権利を得ると見込む対価の金額の忠実な描写とならない場合として,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)において,例外的に他の方法を使用すべき状況を定めています(第74項,BC 279,280)。

 

7.値引きの配分

 

概要

契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,顧客が値引きを受けています。この値引きは,一部の履行義務に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第81項)。

もっとも,例えば,契約の中の約束した財又はサービスにマージンの高いものと低いものがあるために,契約全体としては利益が生じるのに,値引きの配分によってマージンの低い履行義務の充足時に損失が生じる可能性があります。値引きを独立販売価格に比例して配分する結果は,必ずしも企業が特定の履行義務の充足について権利を得る対価の金額を忠実に描写しません(BC 277)。

そこで,本基準は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分することとしています(第81項)。

 

要件

企業は,次の要件のすべてに該当する場合には,値引きをすべて,契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に配分しなければなりません(第82項)。

a 企業は,通常,契約の中の別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを単独で販売している。

b 企業は,通常,それらの別個の財又はサービスのうちのいくつかを束にしたものも,それぞれの束の中の財又はサービスの独立販売価格に対して値引きして販売している。

c bにおける財又はサービスの束のそれぞれに帰属する値引きが,当該契約における値引きとほぼ同額であり,それぞれの束の中の財又はサービスの分析により,当該契約における値引きの全体がどの履行義務に属するのかの観察可能な証拠が提供されている。

 

取引価格の配分の方法

企業は,第82項に従って値引きを配分するときは,当該値引きを配分してから,独立販売価格の見積りに残余アプローチを使用しなければなりません(第83項)。

例えば,企業が定例的に製品Aを@40で,製品Bを@55で,製品Cを@45で,製品Dを@15~45で(変動性が高い),個々に販売するとともに,製品BとCを一つずつ組み合わせて対価60で販売している状況において,製品A~Dを一つずつ組み合わせて対価130で販売するとします。

この場合,企業は,製品BとCを組み合わせて販売するときに40値引きをするという観察可能な証拠があり,製品Aを@40で販売するという観察可能な価格がありますので,製品A~Dを組み合わせたときの対価130のうち対価100を製品A~Cに配分し,値引き40全体をBとCに配分します。次に,残余アプローチを使用して,製品Dの独立販売価格を30と見積ります。企業は,製品Dの独立販売価格の見積りの結果30を検討し,観察可能な販売価格の範囲15~45に入っており,適切であると評価します(IE 173~176)。

このように,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有しているというための要件(第82項)は,通常は,3つ以上の別個の財又はサービスのある契約に適用されます。この要件をすべて満たす状況は多くはありませんので,値引きがすべての履行義務に比例的に配分すべきではない状況は,制限的であるといえます(BC 282)。

 

☞企業は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有する状況として本基準第82項の要件をすべて満たす場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分します。

 

8.変動対価の配分

 

概要

契約の中に変動対価が含まれる場合には,その変動性のある金額は,一部の履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第86項)。

もっとも,契約において約束された変動対価は,契約全体に帰属させることが適切な場合もあれば,次のいずれかのように,顧客への財又はサービスの移転と交換に権利を得る対価の金額を忠実に描写するため,契約の特定の一部分に帰属させることが適切な場合もあります(第84項,BC 278)。

a 契約の中の全部ではない1つ又は複数の履行義務

例えば,顧客が,契約の中に含まれる複数のうちの1つの財又はサービスを企業が所定の期間内に顧客に移転することを条件にボーナスを支払うことを約束する場合は,当該財又はサービスにボーナス(変動対価)を配分することが適切です(BC 284)。

b 契約の中の全部ではない別個の1つ又は複数の財又はサービス

例えば,ホテル管理サービスを1年間にわたり提供する契約において顧客が稼働率の2%を基礎として決定される変動対価を支払うことを約束するときは,企業が,毎日の個々の管理サービスにつき,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))として単一の履行義務を識別する場合でも,日次の稼働率により対価の不確実性が解消されるため,日次に決定される変動対価を毎日の個々の管理サービスに配分することが適切です(BC 285)。

そこで,本基準は,変動対価が契約の中の全部ではない履行義務(あるいは財又はサービス)に関連する場合は,変動性のある金額をすべて当該履行義務(あるいは当該財又はサービス)に配分することとしています(第85項)。

 

要件

企業は,次の要件の両方に該当する場合には,変動性のある金額(及び当該金額のその後の変動)の全体を,一つの履行義務(又は第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。

a 変動性のある支払の条件が,当該履行義務の充足(あるいは当該別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連している。

b 変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが,契約の中の履行義務及び支払条件のすべてを考慮すると,配分の目的(第73項)に合致する。

 

取引価格の配分の方法

企業は,第85項に従って変動対価を配分するときは,取引価格のうち第85項の要件に該当しない残りの金額を配分するため,取引価格の配分に関する本基準第73項~第83項を適用しなければなりません(第86項)。

 

☞企業は,契約において約束された変動対価について,①変動性のある支払の条件が,履行義務の充足(あるいは第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連し,かつ,②変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが配分の目的(第73項)に合致するときは,変動性のある金額の全体を当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.13更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

現金以外の対価と顧客に支払われる対価

 

2017年9月13日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

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「現金以外の対価と顧客に支払われる対価」 目次と概要

 

1.Step3-③ 現金以外の対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,顧客が契約において現金以外の形態の対価を約束している場合は,企業は,その現金以外の対価(又は現金以外の対価の約束)を公正価値で測定する必要があります(第66項)。

 

2.現金以外の対価の測定

 

現金以外の対価の公正価値

企業は,財又はサービスと交換に顧客から現金を受け取る場合,流入する資産の価値すなわち受け取る現金の額で取引価格を測定しますので,これと整合させるため,企業が財又はサービスと交換に顧客から現金以外の形態の対価(財又はサービスの形態のほか,金融商品や有形固定資産の形態の場合もあります。)を受け取る場合も,流入する資産の価値すなわち現金以外の対価の公正価値で取引価格を測定すべきです(BC 248)。

 

現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合

企業が現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価の測定を,当該対価との交換で顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に行わなければなりません(第67項)。

例えば,IFRS第2号「株式に基づく報酬」で,企業は,受け取った財又はサービスの公正価値を信頼性をもって見積れない場合には,付与した資本性金融商品の公正価値を参照してそれらを間接的に測定することとしています。このように,受け取る資産と交換に引き渡す資産の公正価値の方が高い信頼性をもって見積ることができる場合は,その公正価値を参照して間接的に測定することは,他の会計基準と整合的であるといえます(BC 249)。

 

☞企業は,顧客が現金以外の形態の対価を約束している場合,その現金以外の対価の公正価値を取引価格として測定する必要があります。もし,現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に現金以外の対価を測定します。

 

3.変動対価の見積りの制限の適用

 

現金以外の対価の変動性

現金以外の対価の公正価値の見積りは,企業が現金で受け取る変動対価と同様に変動する可能性がありますが,その変動性には,次の両方があります(BC 250,251)。

● 将来の事象の発生又は不発生によって変動する可能性

 現金以外の対価の受け取りに条件が付されている場合(例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利が将来の事象の発生又は不発生に左右される場合)。

● 現金以外の対価自体の価格又は価値の変動

 現金以外の対価自体の価格又は価値が変動する場合(例えば,対価である株式の1株当たりの価格が変動する場合)。

 

変動対価の見積りの制限の適用

企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合(例えば,公正価値が企業の履行によって変動する可能性がある場合)には,変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用しなければなりません(第68項)。

変動対価の見積りの制限に関する規律(本基準第56項~第58項)は,受け取る対価の形態が現金かそれ以外かにかかわらず,企業の履行に関連する同種の不確実性に適用すべきです。例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利の公正価値は,株式自体の価格又は価値の変動だけでなく,業績ボーナスを受け取るかどうかの不確実性にも関連しています。本基準は,このように現金以外の対価の公正価値が変動する理由が企業の履行に関連する不確実性にもある場合には,公正価値の見積りにあたって,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用することとしています(BC 252)。

 

☞企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合には,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用する必要があります。

 

4.企業による契約の履行を促進するための財又はサービス

 

顧客が企業による契約の履行を促進するために財又はサービス(例えば,材料,設備又は労務)を拠出する場合には,企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を企業が獲得するのかどうかを評価しなければなりません(第69項)。

企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得する場合には,当該財又はサービスを,顧客から受け取った現金以外の対価として会計処理しなければなりません(第69項)。したがって,企業は,契約において約束された現金対価の金額に,拠出された財又はサービスの公正価値を加算して取引価格を算定し,契約におけるそれぞれの履行義務に配分します。

これに対し,企業が拠出された財又はサービスに対する支配を獲得しない場合には,当該財又はサービスは依然として顧客が支配していますので,取引価格に含めません。

 

5.Step3-④ 顧客に支払われる対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価は,取引価格(収益)の減額として会計処理する必要があります(第70項)。

ここにいう対価は,現金又は企業に対する債務の支払に充当できるクレジット,クーポン,バウチャー等であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

 

6.顧客に支払われる対価

 

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価とは,企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

企業は,顧客に支払われる対価を,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 

類似の支払の会計処理

企業が顧客又は顧客の顧客に対価を支払い,又は支払うと見込んでいる場合,その対価は,(a) 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金のほか,(b) 顧客から受け取る財又はサービスとの交換のための支払,あるいは(c) 両者の組合せの形式による場合があります(BC 255)。顧客に支払われる対価の形態には,現金のほか,企業に対する債務金額に充当できるクレジット又は他の項目(例えば,クーポン又はバウチャー)も含まれます(第70項)。

企業は,これら類似の支払が以下のいずれであるのかを決定し,会計処理します(2010ED 48)。

a 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金

 企業は,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)。

b 顧客から受け取る別個の財又はサービスに対する支払

 企業は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します(第71項)。

c aとbの組合せ

 顧客に支払われる対価が,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 企業が顧客から受け取る財又はサービスの公正価値を合理的に見積れない場合には,顧客に支払われる対価の全額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 

類似の支払と区別する指標

企業が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個の財又はサービス(顧客の財又はサービス)を顧客から受け取り,当該財又はサービスとの交換のために顧客に支払われる対価は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理しなければなりません(第71項)。

仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理するかどうかは,企業が受け取る財又はサービス(顧客の財又はサービス)が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個のものであるかどうか(本基準第27項~第29項参照)が指標となります(BC 256)。

例えば,企業が顧客である販売業者に製品を販売するとともに,顧客から製品陳列サービス(製品の在庫保管・展示等)の提供を受け,当該サービスに対する支払を行うとします。

製品陳列サービスは,企業が取り扱う製品なしにそれ単独で便益を得ることができませんが,企業が取り扱う製品は企業にとって容易に利用可能な他の資源であり,それと組み合わせて便益を得ることができます(第27項(a)参照)。

したがって,企業は,顧客から受け取る製品陳列サービスが,顧客への移転を約束した製品とは別個のものであると判定し,顧客からの別個の財又はサービスに対する支払として,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します。

 

顧客に支払われる対価の一部についての取引価額の減額

企業が約束した財又はサービスと交換に顧客から受け取る対価の金額と,当該顧客から受け取る別個の財又はサービスと交換に支払う対価の金額が,たとえそれらが別々の事象である場合であっても,リンクしていることがあります。例えば,顧客が,企業からの財又はサービスに対して,もし企業から支払を受けていなければ支払ったであろう金額よりも多く支払うことがあります。そうした場合に収益を忠実に描写するため,企業が受け取る別個の財又はサービスに対する支払として会計処理する金額は,当該財又はサービスの公正価値に限定し,公正価値を超過する金額があれば取引価格(収益)の減額として認識します(BC 257)。

上記(製品陳列サービス)の事例で,もし,顧客に支払われる対価が製品陳列サービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

顧客の顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価には,企業が直接,顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価も含まれます。

例えば,企業が小売業者に製品を販売するとともに,新聞のチラシで消費者に割引クーポンを発行するとします。小売業者は,企業の製品の販売にあたって,消費者から割引クーポンの提示を受けたときは,代金を値引きするとともに,回収した割引クーポンを企業に提出し,企業から,消費者に値引いた金額を補償してもらいます。

このように,企業が直接,顧客(小売業者)から企業の財又はサービスを購入する他の当事者(消費者)に支払う対価も,顧客に支払われる対価に含まれます。この場合の対価の形態は,顧客(小売業者)が企業に対する債務金額に充当できる割引クーポンであり,企業は,顧客に対し,消費者が企業の製品の購入にあたって提示した割引クーポンを企業に提出することを条件として,消費者に値引いた金額を補償することを約束しています。

企業は,顧客から,割引クーポンと交換に別個の財又はサービスを受け取っていませんので,取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

☞企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる場合に,顧客に支払われる対価と類似の支払を区別し,①顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金については,取引価格(収益)を減額し,②顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)と交換のための対価については,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理し,③①と②の組合せについては,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合にその超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

7.取引価格の減額の方法


取引価格の減額の会計処理を行う時点

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,企業は,次の事象のうち遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識しなければなりません(第72項)。

a 企業が,関連する財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時

b 企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,関連した履行義務の充足時に収益を減額して認識します。また,企業が履行義務を充足して収益を認識した後になってはじめて顧客に支払われる対価を約束する場合もありますが,この場合は,既に認識した収益の減額を直ちに認識することになります。

 

顧客に支払われる対価の変動性

顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)

本基準は,企業が遅くとも顧客に支払われる対価を「約束」する時点で取引価格に反映すべきである旨を明確化しています。企業は,将来の事象の発生又は不発生を条件として顧客に支払われる対価を約束する場合も,約束の時点で,その不確実性を反映して取引価格を測定します(BC 258)。

上記(割引クーポンの発行)の事例で,企業は,①小売業者に製品を引き渡した時,又は②消費者にクーポンを発行した時のいずれか遅い時に,収益の減額を認識します。その時点では,消費者が割引クーポンを行使するかどうかという不確実性のため,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれています。そこで,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項に従い,変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価も含めて,取引価格を見積ります。

 

☞企業は,①約束した財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時,又は②企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)の遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識します。企業は,企業が対価の支払を約束する時点で,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.01更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約における重大な金融要素の存在

 

2017年9月1日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「契約における重大な金融要素の存在」 目次と概要

 

1.Step3-② 契約における重大な金融要素の存在

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合は,企業は,約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整する必要があります(第60項)。

ただし,実務上の便法として,企業が,契約開始時において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

 

☞企業は,契約の当事者が合意した支払の時期(財又はサービスの顧客への移転の時点とそれに対する顧客の支払の時点が1年以内と見込んでいる場合を除きます。)により,顧客又は企業に資金提供の重大な便益が提供される場合は,契約において約束された対価から貨幣の時間価値の影響を調整し,包括利益計算書において,金利収益又は金利費用を顧客との契約から生じる収益と区別して表示します。

 

2.金融要素の影響の調整

 

金融要素を含んだ契約

顧客との契約の中には金融要素を含んだ契約がありますが,そうした契約は,概念上,販売に係る取引(売買契約)と金融に係る取引(融資契約)の2つの取引が含まれ,名目的な現金販売価格についての収益要素と,後払い(延払い)又は前払いの条件の影響による金融要素に区分することができます。

本基準は,中心(コア)となる原則として,企業が約束した財又はサービスと交換に得る対価を反映する金額で収益を認識するという原理を採用していますが(第2項),金融要素を含んだ契約において約束された対価は,金融要素の影響を含んでいるため,約束した財又はサービスの対価を忠実に反映していません。そのため,契約において約束した対価から金融要素の影響を調整しなければ,約束した財又はサービスの顧客への移転時に誤った金額の収益を認識してしまうおそれがあります。また,重大な金融要素を識別することにより,顧客との契約の重要な経済的特徴(財又はサービスの移転を目的とする契約が融資契約を含んでいること)に関する有用な情報を財務諸表利用者に提供します。

 

目的

契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの当該財又はサービスが移転される時点の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります(第61項,BC 230)。

現金販売価格とは,約束した財又はサービスが顧客に移転された時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金を支払ったとした場合に,約束した財又はサービスに対して顧客が支払ったであろう価格をいいます(第61項)。

 

☞企業が契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時における現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります。

 

3.重大な金融要素

 

要件

企業は,①契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定し,契約において約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整しなければなりません(第60項)。

①契約の当事者が(顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる)支払の時期を合意することは,契約に重大な金融要素が存在する前提条件となります。

顧客への財又はサービスの移転のかなり前又はかなり後に支払期限が到来することは,契約が金融要素を含んでいるための必要条件ではありますが,契約に定められた支払の時期だけが,金融要素の調整の必要性を決定づけるものではありません。財又はサービスの移転と支払との間に相当の期間があっても,それらの時期が異なる理由が,企業と顧客との間での融資契約に関するものではない場合もあります。

そこで,本基準は,契約の当事者が合意した支払の時期によって,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定することとしています(BC 231)。

重大な金融要素は,資金提供の約束が契約に明記されているか,契約の当事者が合意した支払条件に含意されているかを問わず,存在する可能性があります(第60項)。

 

要素

契約が重大な金融要素を含んでいるかどうかは,①契約が金融要素を含んでいるかどうかと②金融要素が契約とって重大であるかどうかの2つの要素により構成されます(第61項)。

このうち②について,企業は,あくまで契約にとって(契約レベルでの)金融要素が重大かどうかを考慮します。多くの契約については,金融要素の影響が顧客との契約に関して認識すべき収益の金額を大きくは変更しないため,金融要素が重大ではないと考えられます。

企業によっては,類似した契約のポートフォリオレベルについての金融要素の複合した影響が企業全体にとって重要性がある場合もありますが,個々の契約にとって金融要素の影響が重大でない限り,重大な金融要素を識別する必要はありません(BC 234)。

 

両面性

企業は,契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より後払いを合意するときは,企業から顧客に対して,また,前払いを合意するときは,顧客から企業に対して,それぞれ資金提供の重大な便益が提供されるかどうかを判定します。

契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より前払いを合意し,顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合には,企業が受け取った現金よりも多額の収益を認識する結果になります。

このような結果は,従来の実務を変更することとなり,顧客が金融以外の理由(例えば,顧客に重大な信用リスクがある場合や顧客が事前の契約コストを企業に補償する場合)で前払いする取決めの経済的実質が反映されないことと平仄が合わないなどの問題も指摘されています(BC 237)。

しかし,例えば,企業が,長期の工事請負契約に必要な資材の調達資金の提供を受けるために顧客との間で多額の前払いを合意する場合,そのような合意をしない場合に比べ,契約において約束された対価の金額は,第三者から金融を得るための財務コストの分だけ低くなりますが,約束された財又はサービスが同一であるにもかかわらず,企業が資金提供の重大な便益を顧客から受けるか第三者から受けるかによって認識すべき収益の金額が異なるべきではありません。そこで,本基準は,契約の当事者が前払いの合意により顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合にも,前払いによる重大な金融要素の影響を調整する会計処理を免除しないこととしています(BC 238)。

 

☞企業は,①契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる支払の時期を合意し,かつ,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,重大な金融要素を識別します。

 

4.重大な金融要素の識別

 

指標

企業は,①契約が金融要素を含んでいるかどうか,②金融要素が契約とって重大であるかどうかを評価するにあたって,以下の指標を含め,すべての関連性のある事実及び状況を考慮しなければなりません(第61項,BC 232)。

a 契約において約束された対価の金額と,約束した財又はサービスの現金販売価格との差額

企業(又は他の企業)が,支払条件の時期に応じて,同一の財又はサービスを異なる対価の金額で販売する場合には,一般的に,各当事者が契約に金融要素があることを認識しています。ただし,この差額が金融以外の要因による場合もあります(第62項参照)。

b 次の両者の組合せ

ⅰ 企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と,顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の予想される期間の長さ

ⅱ 関連性のある市場での実勢金利

財又はサービスの移転と支払の時期が異なることは,重大な金融要素の存在を決定づけるものではありませんが,支払時期と実勢金利の影響の複合によって,資金提供の重大な便益が提供されていることを示す強い指標になる場合があります。

 

重大な金融要素の不存在を示す要因

企業は,以下の要因のいずれかが存在するときは,契約に重大な金融要素が存在しないと判定します(第62項,BC 233)。

a 顧客が財又はサービスに対して前払いしており,当該財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる。

カスタマー・ロイヤルティ・ポイントなど幾つかの類型の財又はサービスについては,顧客が当該財又はサービスについて前払いを行い,当該財又はサービスの顧客への移転が顧客の裁量で決まります。そうした財又はサービスに対する支払条件の目的は,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

b 顧客が約束した対価のうち相当な金額に変動性があり,当該対価の金額又は時期が,顧客又は企業の支配が実質的に及ばない将来の事象の発生又は不発生に基づいて変動する(例えば,対価が売上高ベースのロイヤルティである場合)。

ロイヤルティ契約など一部の契約では,財又はサービスに関して重大な不確実性があるため,当事者が対価の金額と支払時期を固定したくない場合があります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,財又はサービスに対する対価の不確実性を解消し,その価値の保証を提供することにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

c 契約において約束された対価と財又はサービスの現金販売価格との差額が,顧客又は企業のいずれかに対する資金提供以外の理由で生じており,それらの金額の差額が相違の理由に見合っている。例えば,支払条件が,企業又は顧客に,相手方が契約に基づく義務の一部又は全部を適切に完了できないことに対しての保護を提供する場合がある。

状況によっては,業界又は法域での典型的な支払条件に従った前払い又は後払いには,金融以外の主目的がある場合があります。例えば,我が国の民法では,請負契約の報酬は,特約がない限り後払いとされ,建設業界の工事請負契約の標準約款でも完成・引渡し時に対価の一部又は全部を支払うものとされているように,顧客が契約の完成時又は所定のマイルストーンの達成時まで対価の一部又は全部の支払を留保する場合があります。逆に,限定された財又はサービスの将来の供給を確保するために,顧客が対価の一部を前払いすることを求められる場合もあります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与えることにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

 

☞企業は,重大な金融要素の識別にあたって,①現金販売価格,②(a)支払時期と(b)実勢金利との影響の複合を考慮します。ただし,①顧客が前払いした財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる場合や,②変動対価の金額や支払時期に対して当事者の実質的コントロールが及ばない場合,③現金販売価額との差額が資金提供の便益以外の理由に見合っている場合(例えば,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与える場合)は,重大な金融要素を識別しません。

 

5.実務上の便法

 

企業は,契約開始時において,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

本基準は,企業に重大な金融要素の識別や割引率の決定などを免除して本基準の適用を簡素化するため,資金提供の便益が1年以内であることに限定し,実務上の便法を容認しています(BC 236)。ただし,財又はサービスの移転と支払との間が1年以内のときは重大な金融要素の影響を調整しないという実務上の便法は,類似した状況における類似した契約に一貫して適用すべきです(BC 235)。

 

☞企業は,実務上の便法として,契約開始時において,財又はサービスの移転と支払との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額から重大な金融要素の影響を調整する必要はありません。

 

6.調整に用いる割引率

 

重大な金融要素の調整に用いる割引率

本基準は,重大な金融要素の調整に用いる割引率として,以下の利率を採用せず,契約開始時における企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率を採用しています。企業と顧客との間で財又はサービスの提供を伴わない金融取引で使用される利率が,その契約において資金提供を受ける当事者の特性を,顧客又は企業が提供する担保又は保証とともに,当事者の信用度その他のリスクを含めて反映するからです(BC 239)。

● 契約で明示された利率

契約に利率が明示されていたとしても,その利率を割引率として使用できるとは限りません。企業が,顧客との契約にあたって,販売インセンティブとして安価な金融を提供する場合もありますので,契約で明示された利率を割引率として使用すると,契約の存続期間にわたる収益の適切な認識とはならないおそれがあるからです(BC 239)。

● リスクフリー金利

リスクフリー金利は,多くの法域において観察可能であり,割引率として使用すれば,各契約に固有の利率を算定するコストがかかりません。しかし,本基準は,リスクフリー金利を割引率として使用することにより生じる金利収益又は金利費用は,契約の当事者の特性を反映しないため,有用な情報をもたらさないことから,割引率として使用しないこととしています(BC 239)。

 

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率

企業は,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素について調整するにあたって,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません(第64項)。

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率の決定にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮します(第64項)。

 

現金販売価格への割引率

企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格(=約束した財又はサービスが顧客に移転される時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金で支払うであろう価格)に割り引く率として特定することができる場合があります(第64項)。

 

割引率の再評価

企業は,契約開始時に決定した割引率は,たとえその後に金利又は他の状況(顧客の信用リスクの評価など)の変動があったとしても,見直してはなりません(第64条,BC 242,243)。

 

☞企業は,重大な金融要素の調整にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮し,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません。この割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格に割り引く率として特定できる場合があります。

 

7.重大な金融要素の影響の表示

 

顧客との契約から生じる収益と区別した表示

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

重大な金融要素を有する契約には別個の経済的特性(一方は財又はサービスの顧客への移転に関連し,他方は融資契約に関連する)が含まれており,それらの特性は区分して会計処理及び表示を行うべきだからです。

そこで,金融の影響(契約において約束された対価のうち割引率を使用して調整した部分が時の経過とともに調整が戻されること=いわゆる割引の巻戻し)は,顧客との契約から生じる収益とは区分して,収益の測定の変更としてではなく,金利収益又は金利費用として表示します(BC 246)。

 

契約資産(債権)・契約負債に対する付従性

金利収益又は金利費用は,契約資産(債権)又は契約負債が顧客との契約の会計処理において認識される範囲でのみ認識します(第65項)。

本基準により,顧客との契約から契約資産(債権)又は契約負債を認識している間だけ金利収益又は金利費用を認識しますが,契約資産(債権)又は契約負債を認識しなくなった場合には,金利収益又は金利費用を認識しません。

 

☞企業は,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と金融の影響(金利収益又は金利費用)を区別して表示します。

 

8.顧客の信用リスク

 

これまで,重大な金融要素を有する契約について,収益の表示も含めて解説しましたが,ここで,重大な金融要素を有する契約に限らず,顧客との契約全般について,顧客の信用リスクに関する会計処理及び表示について解説します。

 

契約開始時における顧客の重大な信用リスク

本基準は,販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(不良債権)を区別して有用な情報を提供するため,取引価格に顧客の信用リスクを反映しないこととしています(BC 259,260)。ただし,契約開始時から顧客に重大な信用リスクがある一部の取引について,企業が財又はサービスの移転について収益を「グロスアップ」して認識し,同時に多額の貸倒費用を認識することは,取引を忠実に表現せず,有用な情報を提供しません(BC 265)。そこで,本基準は,その適用対象となる契約について,契約開始時において,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと(顧客に重大な信用リスクがないこと)を要件としています(第9項(e))。

 

金融要素のない顧客との契約から生じた債権の減損損失の表示

本基準は,金融要素のない顧客との契約から生じた短期営業債権に係る減損損失を他の減損損失と区分して表示するものとしています(第113項(b))。

これにより顧客との契約から生じた収益総額(収益の趨勢情報)と債権管理(又は不良債権)に関する減損損失を区別して有用な情報を提供することができます(BC 264)。

減損損失は,必ずしも契約開始後,収益を認識した報告期間内に発生するものではなく,過去の報告期間に認識された収益に関するものもあり,これらを区別する情報を入手するため多額のコストがかかるおそれがあることから,本基準は,収益の科目と減損損失の科目を近くに表示して関連づけることを求めないこととしています(BC 261~263)。

 

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権の減損損失の表示

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権に係る減損損失は,他の類型の金融資産についての減損損失ととともに整合的に表示します(BC 245)。

顧客との契約の金融要素から生じた債権は,金融に係る取引(融資契約)から生じた債権と同じ取り扱いをすべきだからです(BC 244)。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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