ニュースレター

2017.11.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

一時点で充足される履行義務

 

2017年11月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「一時点で充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-③ 一時点で充足される履行義務

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」のサブ・ステップ5-①履行義務の属性の判定により,一つ又は複数の履行義務が一時点で充足されると判定した場合,企業は,一時点で充足される履行義務のそれぞれについて,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点で収益を認識します(第38項)。

企業は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮します(第38項)。

 

2.履行義務を充足する時点の決定

 

本基準は,顧客が約束された資産に対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する時点を決定するために,企業は,“支配”の要件(第33項~第34項)を直接適用するほか,次のような支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮しなければなりません(第38項)。

a 企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(指標(a))

b 顧客が資産に対する法的所有権を有している(指標(b))

c 企業が資産の物理的占有を移転した(指標(c))

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(指標(d))

e 顧客が資産を検収した(指標(e))

 

3.企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している(第38項(a))

 

支配との関連性

顧客が資産に対する対価を支払う義務を現時点で負っていることは,顧客がそれと交換に当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を得ていることを示す指標になります(第38項(a))。

もっとも,企業が資産に対する支払を受ける権利は,財又はサービスそのものに関する指標ではありませんので,指標としての有用性には限界があります。

 

資産に対する支払を受ける現在の権利

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しているとは,資産に対する対価の支払期限が到来するまでに時の経過以外は必要とされないことをいいます。

企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有しないときは,顧客が確定期限の未到来以外に対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁(主張)を有しています。顧客が対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁としては,①停止条件の未成就,②不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),③同時履行の抗弁などの事由が考えられます。

 

停止条件の未成就

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいい,条件が成就したときに法律効力が発生する場合を停止条件といいます(“効力の発生が条件の成就まで停止している”)。

 

不確定期限の未到来(先履行義務の未履行)

期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。発生すること自体は確実ですが,いつ到来するかが不確実な事実にかからせる場合を不確定期限といい,いつ到来するかが確実な事実にかからせる場合を確定期限といいます。

支払期限の到来まで時の経過以外は必要とされない場合は確定期限であり,企業は,資産に対する支払を受ける現在の権利を有します。

これに対し,企業が財又はサービスを提供する義務の履行を完了した後に顧客が代金を支払う定め(後払い)があるときは,企業がいつ財又はサービスを提供する義務(先履行義務)を履行するかが不確実なので不確定期限であり,企業は,財又はサービスを提供する義務の履行を完了しない限り,資産に対する支配を受ける現在の権利を有しません。 

 

同時履行の抗弁

同時履行の抗弁とは,双務契約の当事者が,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる権利をいいます(民法533条)。

顧客が企業に対価を支払う義務と,企業が顧客に契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(給付義務)との間に同時履行の関係のある契約では,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供するまで,顧客が対価の支払を拒絶することができるので(同時履行の抗弁),資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。

不動産の売買契約,建築請負契約などでは,顧客が対価を支払う義務と契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を同時に履行するものとして合意することが多くみられます。これら双方の義務を同時履行の関係にする場合は,通常,契約条項に「と同時に」や「と引換えに」などの用語を使って明示し,後払いと区別します。 

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,資産に対する支払を受ける現在の権利を有するに至る時点,すなわち,支払期限が到来するまでに時の経過以外が必要とされなくなる時点を考慮します。顧客が支払を拒絶できる法律上の抗弁,例えば,停止条件の未成就,不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),同時履行の抗弁などを主張できるときは,企業は資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。 

 

4.顧客が資産に対する法的所有権を有している(第38項(b))

 

支配との関連性

法的所有権は,物に対する完全支配権であり,所有者は,自らの活動に物(資産)の消費,処分,売却,交換,使用,担保差入,保有等のあらゆる利用ができ,他の企業に対する利用の許諾・制限もできますので,これら使用の指図によって当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を有します。 

資産の法的所有権は,それが顧客に移転したときに顧客が当該資産に対する支配を獲得し,逆に,それが企業に留まるときは,未だ顧客が当該資産を支配していないことを示す重要な指標になります。多くの場合,資産の法的所有権の移転に伴って資産に対する支配も移転し,資産の法的所有権と資産に対する支配は一致します。ただし,企業が資産の法的所有権を顧客の支払不履行に対する保護としてのみ保持している場合(所有権留保)は,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

法的所有権の概念

所有権は,物権であり,物に対する完全支配権をいいます。所有権は,法律上の概念であり,本基準は,「法的所有権」という用語を使っています。

 

法的所有権の移転時期

a 契約に明示されている場合

所有権の移転時期は,一律に定まっているわけではなく,契約書,合意書等に明示されていればそれに従います。

物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって効力を生じ(民法176条,意思主義),要式や登録・登記を必要としません。そのため,所有権の移転及びその時期は,旧所有者(譲渡人)と新所有者(譲受人)との間の合意のとおりに効力を生じます。

b 契約に明示されていない場合

所有権の移転時期が契約書,合意書等に明示されていないときは,意思表示の解釈(契約の解釈)により当事者の意思を探求しますが,対抗要件(不動産は登記,動産は引渡し)を具備するときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。

 

所有権留保(支払不履行に対する保護としての権利)

a 所有権留保

所有権留保とは,売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保することをいいます。

所有権留保は,主に売買代金の割賦払(分割払)による動産の売買において利用されており,買主が売買代金の支払を怠った場合は,売主が留保した所有権に基づき,その目的物を買主又は第三者から引き揚げてこれを換価するなどして売買残代金の弁済に充当します。買主が売買代金を完済したときは,留保した所有権が売主から買主に移転します。

買主の目的物の利用状況は,通常の売買と異ならないため,売主が所有権を留保したいときは,通常,買主に明示的な合意を求め,契約条項又は約款で,買主による目的物の処分禁止や支払遅滞時の取扱いなど詳細に取り決めます。

b 支配との関連性

企業が所有権留保の特約により資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(第38項(b))。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の法的所有権を有するに至る時点を考慮します。所有権の移転時期は,契約書等に明示されていればそれに従い,明示されていなければ,所有権移転の対抗要件(不動産の登記,動産の引渡し)を具備したときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保する場合(所有権留保),企業が資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません。

 

5.企業が資産の物理的占有を移転した(第38項(c))

 

支配との関連性

資産の物理的占有は,占有者が自ら当該資産の使用を指図し,当該資産から残りの便益のほとんどすべてを獲得するか,又は当該便益への他の企業のアクセスを制限する能力を有することを示す可能性があり,企業から顧客に資産の物理的占有を移転することは,顧客が当該資産に対する支配を獲得したことを示す指標になり得ます。

しかし,物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあります。例えば,買戻し契約には,企業が顧客に資産の物理的占有を移転しながら,依然として当該資産を支配しているものがあります。逆に,請求済未出荷契約には,顧客が資産に対する支配を獲得しながら,企業が依然として当該資産の物理的占有を継続しているものがあります(第38項(c))。

 

物理的占有

占有は,一般に物に対する事実的支配をいいます。本基準は,“物理的占有”の静態的な帰属ではなく,企業から顧客へ「移転した」かどうかという動態的な移転を指標としています。例えば,企業がその意思によらずに物理的占有を喪失し,それを顧客が獲得しても,物理的占有の移転とはいえません。

 

適用指針「請求済未出荷契約」

企業は,顧客との間で,企業が財(製品・商品)の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持することを合意することがあります(いわゆる請求済未出荷契約)。

このような合意は,ほとんどの場合,①企業が当該財に対する支払を受ける現在の権利を有し(指標(a)),かつ,②企業が当該財の法的所有権を顧客に移転する黙示の合意が含まれると解釈できますので(指標(b)),顧客は,当該財に対する支配を獲得します。逆に,企業は,当該財を支配せず,代わりに顧客に当該財に対する保管サービスを提供しています(B 80)。

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,本基準第38項に従って検討するほか,顧客が支配を獲得したと判定するためには,次の要件のすべてを満たしていなければなりません(B 80,81)。

a 請求済未出荷契約の理由が実質的であること(例えば,顧客が当該契約を要請した)

ⅰ 企業と顧客との間で請求済未出荷契約(企業が財の対価を顧客に請求するが,当該財の物理的占有は将来において顧客に移転するまで企業が保持する合意)が成立したこと

ⅱ 上記ⅰの合意の理由が実質的であること

b 当該財が顧客に属するものとして区分して識別されていること

c 当該財は現時点で顧客への物理的な移転の準備ができていること

d 企業が当該財を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有しないこと

● 企業は,財の物理的占有を移転する前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,保管サービス)があるかどうかを考慮しなければなりません(B 82)。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,企業が資産の物理的占有を移転した時点を考慮します。物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあるので,買戻し契約や請求済未出荷契約を考慮します。

 

6.顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している(第38項(d))

 

支配との関連性

顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有する事象は,顧客が当該資産に対する支配を獲得した結果であることが多いので,支配の移転の指標となり得ます(BC 119,154)。

もっとも,本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配モデルを採用しており,2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定する必要があります。例えば,企業が約束した財を移転する履行義務に加えて,維持管理サービスを提供する独立した履行義務を識別しているときは,財を移転する履行義務を充足する時点を決定するにあたって,財に関連する一部のリスク(故障や性能の低下)を除外して判定します(第38項(d))。

 

危険負担

資産の所有に伴うリスクとして想定される一事象に資産の滅失・毀損があります。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

自然災害等の不可抗力により財が滅失・毀損し,企業が財を移転できなくなった場合,顧客が負う対価の支払義務が残存する(顧客が危険を負担する)のか,消滅する(企業が危険を負担する)のかという問題があり,これを危険負担といいます。

国内取引の実情では,引渡しの時に売主(甲)から買主(乙)に危険が移転する条件がほとんどです。他方,遠隔地者間の取引(特に輸出入取引)では,契約書等で危険が移転する時点として「引渡し」を定義づけることもあります。国際取引において採用される国際商業会議所が作成したインコタームズは,定型的な取引条件として,DAP(仕向地持込渡し)やFOB(本船積込渡し),CIF(運賃・保険料込み条件)などの記号を用いて「引渡し」を定義づけ,危険負担に関する取扱いを定めています。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有するに至る時点を考慮します。2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定します。契約書等で,どの時点から顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

 

7.顧客が資産を検収した(第38項(e))

 

支配との関連性

顧客による資産の検収が予定されている契約では,検収は,顧客が自ら検査して企業が合意された仕様に従った資産を移転し,履行義務を充足したことを確認するものであり,顧客が当該資産の使用を指図して当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得したことを示す指標となり得ます(第38項(e))。

 

検収

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。

企業が顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された条件に適合しない場合は,履行義務を完全に充足せず(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)が消滅しません。),追加的に履行義務の完全な充足(代替品の給付,補修,損害賠償等)を行う強制可能な義務を負い続けます。

商法526条は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買では,顧客が受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い,目的物が契約において合意された条件に適合しない場合でも,次の期限内に企業に通知しなければ,責任追及(代替品の給付,契約の解除,代金減額又は損害賠償)ができなくなることを定めています。

● 検査によって直ちに発見することができる契約不適合(瑕疵)⇨検査後直ちに通知する
● 上記以外の契約不適合(隠れた瑕疵)⇨受領後6か月以内に通知する

この規定は,商人間の売買契約に関する任意規定ですので,取引の実情に応じ,この規定を明確化又は修正する特約をし,また,売買契約以外の契約類型でも,顧客の検査と契約不適合(瑕疵)の取扱いに関して定めることが少なくありません。

 

適用指針「顧客による検収」

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得するのかを評価するにあたって,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(B 83)。

a 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合(B 84)

顧客の検収は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得したかの判断に影響を与えず,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得し,企業が履行義務を充足する可能性があります。

● 企業は,顧客の検収の前に顧客が支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,設備の据付け)があるかどうかを考慮しなければなりません。

b 顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できない場合(B 85)

企業は,顧客の検収を受けるまで,顧客が支配を獲得したと評価することができません。

c 企業が顧客に財(商品・製品)を試用又は評価の目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を確約していない場合(B 86)

顧客が財を検収するか又は試用期間が終了するまで,当該財に対する支配は顧客に移転しません。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,検収の契約条項が,顧客が財又はサービスに対する支配を獲得する時点に与える影響を考慮します。顧客に提供する財又はサービスが契約で合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合は,検収の契約条項が影響を与えず,検収前に顧客が支配を獲得する可能性がありますが,企業が客観的に判断できない場合は,顧客の検収を受けるまで顧客が支配を獲得したと評価できません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.28更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

一定の期間にわたり充足される履行義務

 

2017年10月28日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「一定の期間にわたり充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-② 一定の期間にわたり充足される履行義務

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」のサブ・ステップ5-①履行義務の属性の判定により,一つ又は複数の履行義務が一定の期間にわたり充足されると判定した場合,企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより,収益を一定の期間にわたり認識します(第39項)。

企業は,顧客に移転することを約束した財又はサービスの性質を考慮し,当該財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するように,適切な進捗度の測定方法を選択,適用しなければなりません(第41項)。

 

2.履行義務の完全な充足に向けての進捗度

 

進捗度を測定する目的

進捗度を測定する目的は,企業が約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります(第39項)。

進捗度の測定方法はさまざま考えられますが,企業は,その測定方法を自由な裁量により恣意的に選択するのではなく,進捗度を測定する目的に整合する適切な測定方法を選択しなければなりません(BC 159)。

 

単一性の原則

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の測定方法を適用しなければなりません(第40項)。

 

一貫適用の原則

企業は,特定の履行義務に選択した進捗度の測定方法を,類似の履行義務及び類似の状況に首尾一貫して適用しなければなりません(第40項)。

 

再測定の原則

企業は,各報告期間末において,一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度を再測定しなければなりません(第40項)。

 

☞企業は,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行を描写する目的に整合する適切な進捗度の測定方法を選択しなければなりません。企業は,履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の測定方法を適用し,類似の履行義務及び類似の状況に首尾一貫して適用しなければなりません。

 

3.進捗度の測定方法

 

進捗度の測定方法の選択

企業は,顧客に移転することを約束した財又はサービスの性質を考慮し,当該財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写する目的に整合する適切な進捗度の測定方法を選択しなければなりません(第41項)。

 

進捗度の測定方法の適用

a 企業は,進捗度の測定方法を適用するにあたって,企業が顧客に支配を移転しない財又はサービスを進捗度の測定値から除外しなければなりません(第42項)。

特にインプット法では,後に述べるとおり,企業が顧客に支配を移転しない財又はサービスに生じたインプット(コスト)や,財又はサービスの顧客への移転に寄与しないインプット(コスト)を除外しなければなりません(B 19(a))。

b 企業は,進捗度の測定方法を適用するにあたって,企業が履行義務を充足するために顧客に支配を移転する財又はサービスを進捗度の測定値に含めなければなりません(第42項)。

特にアウトプット法では,後に述べるとおり,選択する指標によっては,顧客に支配を移転した財又はサービスの一部を測定しない場合がありますので,企業は,履行義務を充足するために顧客に支配を移転する財又はサービスをすべて反映するアウトプットを指標として選択すべきです(B 15)。

 

進捗度の測定値の見直し

企業は,各報告期間末において,履行義務を完全に充足した時における結果(基準値)の変動を反映するため,進捗度の測定値を見直さなければなりません。進捗度の測定値の変更は,会計上の見積りの変更として会計処理しなければなりません(第43項)。

 

☞企業は,顧客に移転することを約束した財又はサービスの性質を考慮し,適切な進捗度の測定方法を選択します。その適用にあたっては,財又はサービスの顧客への移転に関係・寄与しない活動・事象を進捗度の測定値から除外し,逆に,顧客に支配を移転する財又はサービスを漏れなく進捗度の測定値に含めます。企業は,各報告期間末において,履行義務を完全に充足した時における結果(基準値)を見直し,進捗度の測定値を変更するときは,会計上の見積りの変更として会計処理します。

 

4.アウトプット法

 

アウトプット法

アウトプット法は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に測定し,契約において約束した残りの財又はサービスの顧客にとっての価値との比率に基づいて収益を認識します(B 15)。

「顧客にとっての価値」は,契約における企業の履行の客観的な測定値を指し,個々の財又はサービスの市場価格又は独立販売価格や,財又はサービスに組み込まれたと顧客が認識している価値を評価する必要はありません(BC 163)。

 

指標の例

指標として,例えば,現在までに履行を完了した部分の調査,達成した成果の評価,達成したマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数などがあります(B 15,BC 163)。

 

選択の留意点

アウトプット法は,一般的に,選択する指標が直接的に観察可能でないものもあり,適用に必要な情報が過大なコストをかけずに入手できないためにインプット法を選択する必要がある場合があります(B 17)。

アウトプット法を選択するときは、企業は,事実及び状況を考慮し,選択する指標が,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します(BC 166)。

● 選択する指標が顧客に支配を移転した財又はサービスの一部を測定しない場合には,企業の履行を忠実に描写しません。例えば,生産単位数又は引渡単位数を指標とするときに,報告期間末において,企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が生産されているが,指標の測定値にそれが含まれていない場合には,企業の履行を忠実に描写しません(B 15,BC 165)。

● 選択する指標の単位が一律に顧客にとって同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写しません。例えば,生産単位数又は引渡単位数を指標とするときに,設計と製造の両方を提供する契約で,選択する指標の各項目が一律に同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写しませんが,同価値の標準品目を顧客に個々に移転する長期製造契約では,企業の履行を忠実に描写します(BC 166)。

 

実務上の便法

企業が現在までに完了した企業の履行の顧客にとっての価値に直接対応する金額で顧客から対価を受ける権利を有している場合(例えば,企業が提供したサービスの時間数ごとに固定金額を請求するサービス契約)には,企業は,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます(B 16,BC 167)。

 

☞企業は,例えば,達成した成果やマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数など財又はサービスの顧客にとっての客観的な価値を直接的に反映する指標により進捗度を測定する方法(アウトプット法)を選択するときは,必要な情報を入手するコストのほか,選択する指標が,顧客に支配を移転した財又はサービスを漏れなく測定し,かつ,その単位が一律に顧客にとって同価値かなど,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します。企業は,現在までに完了した企業の履行の顧客にとっての価値に直接対応する金額で顧客から対価を受ける権利を有している場合には,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます。

 

5.インプット法

 

インプット法

インプット法は,履行義務の充足に使用されたインプットが,当該履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づいて収益を認識します(B 18)。

 

指標の例

指標として,例えば,消費した資源,費やした労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(B 18)。

 

選択の留意点

インプット法は,企業のインプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がないため,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないことが少なくありません(B 19)。他方で,アウトプット法の適用に過大なコストがかかり,インプット法が低コストで合理的な代用数値を提供することもあります(B 17,BC 164)。

そこで,企業は,インプット法の適用にあたって,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するよう,適用の留意点に十分に配慮することによって,インプット法を選択することが適切な場合があります。

 

適用の留意点

企業は,インプットのうち,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外しなければなりません。

コストに基づくインプット法を使用するにあたって,次のような状況では,進捗度の測定値を修正する必要があります(B 19)。

a 発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に寄与しない場合

企業は,契約の価格に反映されていない企業の履行における重大な非効率に起因して生じたコスト(例えば,予想外の金額の原材料,労働力又は他の資源の仕損のコスト)を除外しなければならなりません(B 19(a),BC 176~178)。

また,顧客へのサービスの移転を描写しない契約のセットアップ等の管理作業の活動コストを除外しなければなりません(B 51)。

b 発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しない場合

発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識すべき場合があります(B 19(b))。

例えば,エレベーターの据付けを含むリフォーム工事契約において,現場に納入されたエレベーターを事後に据え付けるケースでは(IE 95),企業が財とサービスの両方を顧客に移転することを約束していますが,顧客が当該履行義務の重要部分である財(エレベーター)に対する支配を,サービス(据付け)に対する支配とは異なる時点で獲得するときは,発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しません(BC 169)。

本基準は,代表的なケースから,未据付資材の会計処理と呼んで,設例(IE 95)で解説しています。

【インプット法の修正】(未据付資材の会計処理)

企業は,契約開始時に,以下の条件のすべてが満たされると見込んでいる場合は,履行義務の充足に使用される財のコストと同額で収益を認識すべきです(B 19(b))

ⅰ その財は別個のものではない。

ⅱ 顧客が,その財に関連するサービスを受け取るより相当前に,その財に対する支配を獲得すると見込まれる。

ⅲ 移転した財のコストが,履行義務を完全に充足するために予想される総コストに対して重大である。

ⅳ 企業がその財を第三者から調達していて,その財の設計と製造に深く関与していない(しかし,企業は本人として行動している)。

 

☞企業は,例えば,消費した資源,発生したコスト,経過期間など履行義務の充足に使用されたインプットの指標により進捗度を測定する方法(インプット法)を選択するときは,インプットの指標のうち,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外することに留意します。コストに基づくインプット法を使用するときは,契約の価格に反映されていない企業の履行の重大な非効率に起因して生じたコストや,顧客にサービスを移転しない契約のセットアップ等の管理作業のコストなど,履行義務の充足における企業の進捗度に寄与しないコストを除外します。また,発生したコストが履行義務の充足における企業の進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識すべき場合があります。

 

6.合理的な進捗度の測定値

 

進捗度の適用の停止

企業は,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を合理的に測定できる場合にのみ,一定の期間にわたり充足される履行義務についての収益を認識しなければなりません。

企業は,適切な進捗度の測定方法を適用するために必要となる信頼性のある情報が不足しており,履行義務の完全な適用に向けての進捗度を合理的に測定できない場合には,一定の期間にわたり充足される履行義務についての収益を認識してはなりません(第44項)。

 

進捗度の特殊な適用

企業は,履行義務を完全に充足した時の結果(基準値)を合理的に測定することができないが,当該履行義務の充足のために発生するコストを最終的に回収すると見込んでいる場合は,当該履行義務を完全に充足した時の結果を合理的に測定できるようになるまで,発生したコストの範囲でのみ収益を認識しなければなりません(第45項)。

 

☞企業は,履行義務の完全な適用に向けての進捗度を合理的に測定できない場合には,収益を認識しません。企業は,履行義務を完全に充足した時の結果(基準値)を合理的に測定することができないが,当該履行義務の充足のために発生するコストを最終的に回収すると見込んでいる場合は,当該履行義務を完全に充足した時の結果を合理的に測定できるようになるまで,発生したコストの範囲でのみ収益を認識します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.17更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

履行義務の属性の判定

 

2017年10月17日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「履行義務の属性の判定」 目次と概要

 

1.Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」の概要

 

企業は,本基準の適用手順の最後のステップで,約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,収益を認識します(第31項)。

1 履行義務の属性の判定

企業は,まず,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第32項)。

2 一定の期間にわたり充足される履行義務

企業は,3類型の要件(第35項(a)~(c))のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足する履行義務と判定します(第35項)。

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより,一定の期間にわたり収益を認識します(第39項)。

3 一時点で充足される履行義務

企業は,それぞれの履行義務について,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第38項)。

企業は,一時点で充足される履行義務について,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第38項(a)~(e))を考慮して,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します(第38項)。

 

☞企業は,識別した履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定し,①は,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより一定の期間にわたり収益を認識し,②は,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します。

 

2.Step5-① 履行義務の属性の判定

 

Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」では,企業は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて収益を認識しますが(支配アプローチ),本基準は,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,“支配”の移転時期に関する履行義務の属性の判断枠組みを提供しています。

そこで,企業は,まず,その判断枠組みに従って,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第32項)。

 

3.支配とは~支配の概念~

 

履行義務の充足

本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを,企業から顧客への“資産の移転”という事象として捉えており,企業から顧客への資産の移転は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて生じるという考え方(支配アプローチ)を採用しています。

 

支配アプローチ

支配アプローチとは,顧客が資産に対する支配を獲得した時,又は獲得するにつれて企業が当該資産を顧客に移転し,収益を認識するという考え方をいいます。

本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配アプローチを採用しました(BC 118)。

 

資産の概念

資産とは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源をいいます。財とサービスの両方とも資産です。サービスも,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第33項)。

 

支配の概念

資産に対する支配とは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を指し,他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を得ることを妨げる能力が含まれます(第33項)。この定義に含まれる各要素は,次のとおりです(BC 120)。

a 能力(BC 120(a))

能力とは,一定の行為を能動しようとすれば,現時点でそれが可能であることを意味します。

b 使用の指図(BC 120(b))

使用の指図とは,顧客が当該資産を自らの活動に利用するか,当該資産を他の企業が利用することを認めるか,又は他の企業による当該資産の利用を制限する権利を指します。

c 便益の獲得(BC 120(c))

資産の“便益”とは,概念上,潜在的なキャッシュ・フロー(キャッシュ・インフローの増加又はキャッシュ・アウトフローの減少)をいい,便益を得る方法(利用)として資産の“使用”や“消費”,“処分”,“売却”,“交換”,“担保差入”,“保有”などが例示されています(第33項)。そのような方法(利用)によって,現時点で資産に残存するほとんどすべての便益を得る能力を獲得してはじめて当該資産を支配したことになります。

 

支配の判定

“支配”は抽象的な概念ですので,顧客が“支配”を獲得したかどうかの判定にあたって,具体的な利用行為を想定し,次のような順序で場合分けをして考察することが有用です。

● 消費・処分・売却・交換

まず,顧客が現時点で資産の消費(consume),処分(dispose),売却(sell)又は交換(exchange)ができる場合は,これらの利用行為によって当該資産の用益のほぼ全部を使い切り,又はその資産の価値のほぼ全部に代わるものを得ることで,現時点で当該資産に残存するほとんどすべての便益を獲得しますので,通常,顧客が支配を獲得しています。

ただし,顧客が企業にだけ売却ができる場合は,買戻し契約を考慮します(第34項)。

● 使用・担保差入・保有・他の企業に対する利用の許諾制限

次に,顧客が資産の消費・処分・売却・交換ができず,現時点で使用(use),担保差入(pledge),保有(hold),他の企業に対する利用の許諾・制限ができるにすぎない場合は,これらの利用行為によって当該資産に残存する便益のほとんどすべてを獲得するかどうか(例えば,顧客が当該資産の残存耐用年数にわたって使用や保有を持続することができるかどうか)を判定します。その判定にあたって,買戻し契約があるか否かを考慮し,買戻し契約があるときは,買戻しに関する適用指針(B 64~76)を参照します(第34項)。

 

☞本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを“資産の移転”という事象と捉え,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時,又は獲得するにつれて収益を認識するという考え方(支配アプローチ)を採用します。支配は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を得ることを妨げる能力を含む。)を指し,その判定にあたって,買戻し契約を考慮します。

 

4.履行義務の属性

 

支配アプローチを補完する必要性

“支配”は,比較的単純な財を移転する履行義務に適用する場合は有用ですが,サービスや建設型の契約については,顧客がサービスの支配をいつ獲得するのかを容易に決定できない場合があります(BC 122)。そこで,本基準は,顧客が“支配”を獲得する時期(一定の期間にわたって徐々に獲得するのか,一時点で支配を獲得するのか)に関する履行義務の属性の判定にあたって,直接“支配”の要件を適用するのではなく,代わりに,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,支配アプローチを補完する判断枠組みを提供しています(BC 124)。

 

支配アプローチを補完する判断枠組み

企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,以下の3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(第32項,第35項),いずれにも該当しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第38項)。

a 顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する(第35項(a))

b 企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する(第35項(b))

c 企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出せず,かつ,企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している(第35項(c))

 

☞企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し,いずれにも該当しない場合には,一時点で充足される履行義務と判定します。

 

5.企業が履行するにつれて提供される便益を顧客が受け取って消費する(第35項(a))

 

要件

顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費すること


代替的な判定

この要件を容易に識別できないときは,企業は,代わりに「企業が現在までに完了した作業について,仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を履行することになったとしても作業の大幅なやり直しをする必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

☞企業は,「顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する」と識別できる場合,あるいは,(容易に識別でないときは)代わりに「企業が現在までに完了した作業について,仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を履行することになったとしても作業の大幅なやり直しをする必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

6.企業の履行につれて創出又は増価される資産を顧客が支配する(第35項(b))

 

要件

企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配すること

創出又は増価される資産(仕掛中の資産)は,顧客によって消費されずに残存する資産であり,有形又は無形のいずれの場合もあります(B 5)。それを顧客が支配するかどうかは,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用して判定します。

 

☞企業は,“支配”の要件(第31項~第34項)を直接適用し,「企業の履行が,資産(例えば,仕掛品)を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

7.企業が現在までに履行した他に転用できない資産に対する支払を受ける権利を有する(第35項(c))

 

要件(次のいずれの要件も満たすこと)

a 企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出しないこと

b 企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有していること

 

企業が他に転用できる資産を創出しないこと

企業が資産を他に転用できないとは,企業の履行によって創出される資産を別の用途に振り向けることに①契約上の制限又は②実務上の制約がある場合をいいます(第36項)。

a 契約上の制限

企業が資産の創出若しくは増価の間に当該資産を別の用途に振り向けることが契約で制限されているときは,当該資産は他に転用できません(第36項)。

契約上の制限は,実質的なものでなければなりません(B 7)。

b 実務上の制約

企業が完成した状態の当該資産を別の用途に容易に振り向けることが実務的に制約されているときは,当該資産は他に転用できません(第36項)。

実務上の制約は,企業が資産を別の用途に振り向けるために企業に重大な経済的損失が生じる場合です。重大な経済的損失は,①企業が当該資産を手直しするために重大なコストが生じること(例えば,設計仕様が顧客に特有である)又は②重大な損失を生じる売却しかできないこと(例えば,資産が遠隔地に所在している)により生じることがあります(B 8)。

 

企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有していること

企業は,(a)企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合に,(b)契約の存続期間全体を通じて,少なくとも(c)現在までに完了した履行について企業に補償する金額の(d)支払を受ける強制可能な権利を得ていなければなりません(第37項,B 9)。

a 企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合

顧客(又は他の当事者)が企業の契約違反(債務不履行)以外の理由で解約する場合を意味します。

b 契約の存続期間全体を通じて

契約の存続期間中,(顧客により解約が可能な)どの時点で解約しても,常にその時点までに完了した履行に対する支払を受ける権利を有しなければならないことを意味します。

顧客が契約の存続期間中,解約権を全く有しない場合は,常に企業は現在までに完了した履行に対する支払を受ける(保持する=返還しない)権利を有します。報酬全額の前払いと解約不能を組み合わせた100%返金不能の前払も,企業は現在までに完了した履行に対する支払を受ける権利を有します(BC 146)。

c 現在までに完了した履行について企業に補償する金額

企業に補償する金額は,現在までに移転した財又はサービスの販売価格に近似した金額でなければなりません。

財又はサービスの販売価格に近似した金額は,企業が履行義務を充足するために生じるコストに合理的な利益マージンを加算したものをいい,利益マージンは,当該契約又は同様の契約を基準に合理的な水準でなければなりません(B 9,BC 143,144)。

なお,契約で定められた支払条件(支払予定)は,契約が存続する(解約されない)ことを前提とする支払方法(時期・金額)を示しており,契約の解約により返金される可能性がありますので,必ずしも企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける(保持する=返還しない)権利やその金額を示すものではありません(B 13)。

d 支払を受ける強制可能な権利

支払を受ける強制可能な権利は,顧客から解約権を行使されたと仮定したときに(それを停止条件として発生する),その時点までに完了した履行に対する支払を請求し,又は保持する(返還しない)権利であり,現在の無条件の権利ではありません(B 10,BC 145)。

現在までに完了した履行に対する支払を受ける権利の有無及び強制可能性を評価するにあたって,企業は,契約条件を法令又は判例(当該契約条件を補足するか又は覆す可能性があります。)とともに考慮しなければなりません(第37項,B 12)。

 

☞企業は,「企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出せず,かつ,企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。企業は,企業の履行によって創出される資産を別の用途に振り向けることに(a)契約上の制限又は(b)実務上の制約がある場合に,当該資産を他に転用できないと評価します。また,企業が現在までに完了した履行に対する強制可能な権利を有するためには,(a)企業が約束した履行を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客又は他の当事者により解約される場合に,(b)契約の存続期間全体を通じて,少なくとも(c)現在までに完了した履行について企業に補償する金額の(d)支払を受ける強制可能な権利を得ていなければなりません。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.05更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

取引価格の変動

 

2017年10月5日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「取引価格の変動」 目次と概要

 

1.Step4-② 取引価格の変動

 

Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,企業は,契約開始時において,算定した取引価格を履行義務に配分しますが,その後に取引価格が変動したときは,変動した取引価格を契約開始時と同じ基礎により履行義務に配分し,充足した履行義務に配分した金額は,収益(又は収益の減額)として,直ちに(取引価格が変動した期間に)認識する必要があります(第88項)。

企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(第88項)。

契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,契約変更に関する本基準第18項~第21項に従って会計処理します。契約変更後に生じる取引価格の変動については,①取引価格の変動が契約変更前に約束された変動対価の金額に起因していて当該契約変更を本基準第21項(a)に従って会計処理している場合は,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前の契約の中で識別された履行義務に配分し,②そうでない場合は,契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理した場合を除き,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務に配分する方法のいずれか適用可能な方法で取引価格の変動を配分します(第90項)。

 

2.取引価格の事後の変動

 

取引価格の変動の理由

不確定な事象の解決(不確実性の解消)や他の状況の変化などのさまざまな理由が,約束した財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額を変動させます(第87項)。

例えば,企業が契約開始時に見積った変動対価について,その後に不確実性が解消されるに従って,又は残った不確実性に関する新たな情報が利用可能となるに従って,権利を得ると見込んでいる金額が変化します(BC 224)。

 

取引価格の事後の変動の取り扱い

契約開始後に取引価格が変動した場合には,次のいずれかの取り扱いが考えられます(BC 225)。

① 当該変動を変動の発生時に純損益に認識する。

② 当該変動を履行義務に配分する。

このうち①の取り扱いは,財又はサービスの移転を忠実に描写しない収益認識のパターンとなるおそれがあります。また,取引価格の変動により直ちにかつ全部を収益に認識することは実務において濫用のおそれがあります。取引価格の変動を収益とは区分して利得又は損失として表示したとしても,契約について認識される収益の合計額が,企業が契約に基づいて権利を得る対価の金額と等しくなりませんので,結果として収益認識のパターンを維持することができません(BC 226)。

②の取り扱いは,取引価格の事後の変動を,契約開始時における配分の方法論と整合的な方法で配分するものであり,変動対価の見積りの変更が,当該変動対価が関連している履行義務に配分されることが確保されます(BC 286)。

そこで,本基準は,取引価格の変動を契約の中のすべての履行義務に配分することとし,既に充足されている履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益として(又は収益の減額として)認識することとしています(BC 227)。

 

☞企業は,契約開始後に取引価格が変動したときは,変動した取引価格を履行義務に配分し,既に充足されている履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益(又は収益の減額)として)認識します。

 

3.取引価格の変動の会計処理

 

契約開始時と同じ基礎による配分

企業は,契約開始後の取引価格のあらゆる変動を,契約開始時と同じ基礎により履行義務に配分しなければなりません(第88項)。

本基準は,財又はサービスの移転のパターンを忠実に描写するために,取引価格の変動を契約開始時における配分と同じ方法で配分することにより,取引価格の変動以外の要因によって契約開始時に設定した財又はサービスの移転のパターンに影響を与えないようにしています。

この原理は,取引価格の変動を除き,契約開始時における配分の方法を変更してはならないことを意味します。そこで,本基準は,以下の点を注意的に明らかにしています(BC 286)。

● 独立販売価格の変動を反映してはならない。

 企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(第88項)。

● 変動対価の配分の方法を変更してはならない。

 企業は,変動対価の配分に関する第85項の要件に該当する場合にのみ,取引価格の変動の全体を,履行義務(又は第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第89項)。

 

履行義務への配分と収益認識

企業は,取引価格の変動を配分する各履行義務が,未だ充足されていないものと,既に充足されているものとによって,次のとおり会計処理を行います。

● 履行義務が未だ充足されていないとき

 企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分します。その後,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」において,当該履行義務が充足された時に(又は充足されるにつれて),当該履行義務に配分した取引価格の金額を収益として認識します。

● 履行義務が既に充足されているとき

 企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分し,直ちに(取引価格が変動した報告期間に)収益(又は収益の減額)として認識します(第88項)。

 

☞企業は,取引価格の変動を,契約開始時と同じ基礎により(契約開始時における配分の方法を変更せずに)履行義務に配分しなければなりません。そのため,企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映したり,本基準第85項に従った変動対価の配分の方法を変更したりしてはなりません。

 

4.契約変更による取引価格の変動

 

本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで,第18項~第21項にその会計処理を定めています。

契約変更のうち②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものは,契約開始後に取引価格を変動させます。しかし,契約変更に伴う契約の価格の変更は,契約開始後の当事者間の独立の交渉から生じるのに対し,変動対価の見積りの変更は,契約開始時に識別され合意された変数の変化から生じることから,契約変更から生じる取引価格の変動と変動対価の見積りの変更は,異なる経済事象の結果であるといえます(BC 82)。

そこで,本基準は,契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,Step1-④契約の変更のサブ・ステップにおいて,第18項~第21項に従って会計処理することとしています(第90項)。この契約変更の会計処理に加えて,Step4-②取引価格の変動のサブ・ステップで会計処理を行う必要はありません。

 

☞企業は,契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,本基準第18項~第21項に従って契約変更の会計処理を行います。

 

5.契約変更後に生じる取引価格の変動

 

企業は,契約変更後に生じる取引価格の変動については,取引価格の変動に関する本基準第87項~第89項を適用して,次のうちどちらか適用可能な方法で取引価格の変動を配分しなければなりません(第90項)。

a 取引価格の変動が契約変更前に約束された変動対価の金額に起因していて,企業が当該契約変更を本基準第21項(a)に従って会計処理している場合において,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前に契約の中で識別された履行義務に配分する方法(第90項(a))

企業が,顧客が変動対価を約束する契約を開始した後に契約変更を行い,本基準第21項(a)に従って既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理した後になって,契約変更前に約束された変動対価に関して取引価格が変動することがあります。

このような取引価格の変動は,契約変更前の契約の中の履行義務に配分するか,契約変更後の契約の中の履行義務に配分するかのいずれかが考えられますが,約束された変動対価と不確実性の解消が契約変更の影響を受けない場合には,取引価格の変更を当初の契約の中の履行義務に配分することが適切です(BC 83)。

b 企業が契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理しなかった場合において,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務(すなわち,契約変更直後に未充足又は部分的に未充足であった履行義務)に配分する方法(第90項(b))

aに該当しない(aが適用可能でない)取引価格の変動については,企業は,変更後の契約の中の履行義務に配分します。

企業が契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理した場合には,既存の契約か,又は契約変更による新たな独立した契約のいずれかについて,取引価格の変動の会計処理(第87項~第89項)を行います。

 

☞企業は,①本基準第21項(a)に従って既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理した後,契約変更前に約束された変動対価の金額に起因して取引価格が変動した場合は,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前に契約の中で識別された履行義務に配分しますが,②そうでない場合は,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務に配分します。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.23更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

取引価格の配分

 

2017年9月23日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

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「取引価格の配分」 目次と概要

 

1.Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」の概要

 

企業は,取引価格を算定した後の次のステップで,契約開始時に,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します。

このステップの適用は,次のとおり,1.契約開始時と,2.契約開始後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。

1 履行義務への取引価格の配分

企業は,契約開始時に,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分します(第74項)。

2 取引価格の変動

企業は,契約開始後に取引価格が変動したときは,契約開始時と同じ基礎により契約における履行義務に取引価格を配分しなければなりません(第88項)。

 

☞企業は,①契約開始時と,②契約開始後に取引価格が変動したときに,算定した取引価格を,約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で,それぞれの履行義務に配分します。

 

2.Step4-① 取引価格の配分

 

Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,まず,企業は,契約開始時において,算定した取引価格を,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して配分します(第76項)。

契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合は,企業は,顧客が受けた値引きを,その値引きが一部の履行義務に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合を除き,すべての履行義務に比例的に配分しなければなりません(第81項)。

契約において約束された変動対価が,一定の要件を満たすときは,変動性のある金額の全体を,1つの履行義務(又は単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。

 

3.配分の目的

 

配分の目的

取引価格を配分する目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります(第73項)。

本基準は,この目的を果たすため,企業は,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分することとしています(BC 266)。ただし,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)に定める例外があります(第74項)。

 

契約に履行義務が一つしかない場合

契約に履行義務が一つしかない場合には,基本的に取引価格の配分に関する本基準第76項~第86項は適用されません。ただし,企業が,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))について単一の履行義務を識別し,かつ,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれている場合には,変動対価の配分(第84項~第86項)が適用される場合があります。

 

☞配分の目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります。

 

4.独立販売価格の算定

 

独立販売価格とは

独立販売価格とは,企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格をいいます。

 

独立販売価格の算定の方法

企業は,取引価格の配分にあたって,次の場合に分けて,約束した財又はサービスの独立販売価格を算定します。

● 独立販売価格が直接的に観察可能な場合

企業が当該財又はサービスを同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの価格が観察可能である場合は,その観察可能な価格が,独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠であるといえます。財又はサービスについて契約に記載された価格や定価は,当該財又はサービスの独立販売価格である可能性がありますが,独立販売価格であると推定してはなりません(第77項)。

● 独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合

独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合には,企業は,配分の目的(第73項)に合致する取引価格の配分をもたらす金額となるように独立販売価格を見積らなければなりません(第78項)。

 

☞企業は,取引価格の配分にあたって,約束した財又はサービスの独立販売価格(企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格)を算定します。企業が同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの観察可能な価格が独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠となります。独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合は,企業は,配分の目的に合致するように独立販売価格を見積ります。

 

5.独立販売価格の見積りの方法

 

独立販売価格の見積りの方法

財又はサービスの独立した販売から生じた観察可能な価格を企業が有していない場合には,企業はその代わりに独立販売価格を見積らなければなりません。

その見積りの方法は,配分の目的に合致した独立販売価格の忠実な描写である限りは,制限がありません。本基準は,独立販売価格の見積りのための適切な方法を例示していますが(第79項),独立販売価格の見積りの方法は,それらの例示に限られず,また,特定の方法を禁止することもしていません(BC 268)。

 

実態適用の原則

企業は,独立販売価格を見積るにあたって,合理的に利用可能なすべての情報(市場の状況,企業固有の要因,顧客又は顧客の階層に関する情報を含みます。)を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用しなければなりません(第78条,BC 268)。

 

一貫適用の原則

企業は,類似の特性を有する他の財又はサービスの独立販売価格の見積りの方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第78条,BC 268)。

 

独立販売価格を見積るための適切な方法の例

財又はサービスの独立販売価格を見積るための適切な方法には,次のものが含まれますが,これらに限定されません(第79項)。

 

● 調整後市場評価アプローチ

企業は,財又はサービスを販売する市場を評価して,当該市場の顧客が当該財又はサービスに対して支払ってもよいと考えるであろう価格を見積ります。また,企業は,類似した財又はサービスについて,企業の競争相手の価格を参照して,企業のコストとマージンを反映するように必要に応じて当該価格を調整する場合があります。

 

● 予想コストにマージンを加算するアプローチ

企業は,履行義務の充足のコストを予測し,当該財又はサービスに対する適切なマージンを追加して独立販売価格を見積ります。

 

● 残余アプローチ

企業は,取引価格の総額から契約で約束した他の財又はサービスの観察可能な独立販売価格の合計を控除した額を参照して,残余の財又はサービスの独立販売価格を見積ります(BC 270)。

ただし,企業は,次の要件のいずれかに該当する場合にだけ,残余アプローチを使用することができます。

ⅰ 販売価格の変動性が高い状況

企業が同一の財又はサービスを異なる顧客に(同時に又はほぼ同時に)広い範囲の金額で販売している(すなわち,代表的な独立販売価格が過去の取引又は他の観察可能な証拠から識別できないため,販売価格の変動性が高い)ときは,残余アプローチを使用することができます。

例えば,知的財産及び他の無形資産に関する契約では,それらの財又はサービスを顧客に提供する際に企業に発生する追加コストが少額又は皆無であるため,価格設定の変動性が高くなります。こうした変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有している状況では,契約における独立販売価格を算定する最も信頼性の高い方法は,残余アプローチであることが多いといえます(BC 271)。

ⅱ 販売価格が不確定である状況

企業が当該財又はサービスについての価格をまだ設定しておらず,当該財又はサービスがこれまで独立して販売されたことがない(すなわち,販売価格が不確定である)ときは,残余アプローチを使用することができます。

 

独立販売価格の見積りの複数の方法の組合せ

企業は,約束した財又はサービスのそれぞれの独立販売価格を見積るにあたって,複数の方法を組み合わせて使用することが必要になる場合があります。企業は,複数の方法の組合せを使用して独立販売価格を見積ったときは,当該独立販売価格に基づき取引価格を配分することが,配分の目的(第73項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第78項)に合致するかどうかを評価しなければなりません(第80項)。

例えば,契約の中に含まれる3つ以上の財又はサービスのうち,独立販売価格の変動性又は不確実性の高い複数の財又はサービスが含まれるときに,それら複数の財又はサービスの独立販売価格の総額に残余アプローチを使用し,それらの個々の財又はサービスのそれぞれの独立販売価格の見積りに別の方法を使用する場合がありますが,そうした複数の方法の組合せを使用して見積った独立販売価格は,その結果が適切なのかどうかを検討する必要があります。

 

☞企業は,独立販売価格の見積りにあたって,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用します。適切な見積りの方法の例として,①調整後市場評価アプローチ,②予想コストにマージンを加算するアプローチ,③残余アプローチがあります。残余アプローチは,約束した財又はサービスが,(a) 変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有する状況か,又は(b) 独立での販売実績がなく,販売価格が不確定である状況に限って使用します。

 

6.独立販売価格に基づく配分

 

企業は,契約開始時において,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して取引価格を配分します(第76項)。

本基準は,独立販売価格に基づく配分を原則(デフォルト)とすることにより取引価格の配分に規律をもたらし,企業内及び企業間の比較可能性を高めています(BC 280)。

もっとも,独立販売価格に基づく配分は手段にすぎませんので,収益認識モデルの目的を達成するため,必ずしも企業が顧客から権利を得ると見込む対価の金額の忠実な描写とならない場合として,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)において,例外的に他の方法を使用すべき状況を定めています(第74項,BC 279,280)。

 

7.値引きの配分

 

概要

契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,顧客が値引きを受けています。この値引きは,一部の履行義務に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第81項)。

もっとも,例えば,契約の中の約束した財又はサービスにマージンの高いものと低いものがあるために,契約全体としては利益が生じるのに,値引きの配分によってマージンの低い履行義務の充足時に損失が生じる可能性があります。値引きを独立販売価格に比例して配分する結果は,必ずしも企業が特定の履行義務の充足について権利を得る対価の金額を忠実に描写しません(BC 277)。

そこで,本基準は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分することとしています(第81項)。

 

要件

企業は,次の要件のすべてに該当する場合には,値引きをすべて,契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に配分しなければなりません(第82項)。

a 企業は,通常,契約の中の別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを単独で販売している。

b 企業は,通常,それらの別個の財又はサービスのうちのいくつかを束にしたものも,それぞれの束の中の財又はサービスの独立販売価格に対して値引きして販売している。

c bにおける財又はサービスの束のそれぞれに帰属する値引きが,当該契約における値引きとほぼ同額であり,それぞれの束の中の財又はサービスの分析により,当該契約における値引きの全体がどの履行義務に属するのかの観察可能な証拠が提供されている。

 

取引価格の配分の方法

企業は,第82項に従って値引きを配分するときは,当該値引きを配分してから,独立販売価格の見積りに残余アプローチを使用しなければなりません(第83項)。

例えば,企業が定例的に製品Aを@40で,製品Bを@55で,製品Cを@45で,製品Dを@15~45で(変動性が高い),個々に販売するとともに,製品BとCを一つずつ組み合わせて対価60で販売している状況において,製品A~Dを一つずつ組み合わせて対価130で販売するとします。

この場合,企業は,製品BとCを組み合わせて販売するときに40値引きをするという観察可能な証拠があり,製品Aを@40で販売するという観察可能な価格がありますので,製品A~Dを組み合わせたときの対価130のうち対価100を製品A~Cに配分し,値引き40全体をBとCに配分します。次に,残余アプローチを使用して,製品Dの独立販売価格を30と見積ります。企業は,製品Dの独立販売価格の見積りの結果30を検討し,観察可能な販売価格の範囲15~45に入っており,適切であると評価します(IE 173~176)。

このように,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有しているというための要件(第82項)は,通常は,3つ以上の別個の財又はサービスのある契約に適用されます。この要件をすべて満たす状況は多くはありませんので,値引きがすべての履行義務に比例的に配分すべきではない状況は,制限的であるといえます(BC 282)。

 

☞企業は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有する状況として本基準第82項の要件をすべて満たす場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分します。

 

8.変動対価の配分

 

概要

契約の中に変動対価が含まれる場合には,その変動性のある金額は,一部の履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第86項)。

もっとも,契約において約束された変動対価は,契約全体に帰属させることが適切な場合もあれば,次のいずれかのように,顧客への財又はサービスの移転と交換に権利を得る対価の金額を忠実に描写するため,契約の特定の一部分に帰属させることが適切な場合もあります(第84項,BC 278)。

a 契約の中の全部ではない1つ又は複数の履行義務

例えば,顧客が,契約の中に含まれる複数のうちの1つの財又はサービスを企業が所定の期間内に顧客に移転することを条件にボーナスを支払うことを約束する場合は,当該財又はサービスにボーナス(変動対価)を配分することが適切です(BC 284)。

b 契約の中の全部ではない別個の1つ又は複数の財又はサービス

例えば,ホテル管理サービスを1年間にわたり提供する契約において顧客が稼働率の2%を基礎として決定される変動対価を支払うことを約束するときは,企業が,毎日の個々の管理サービスにつき,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))として単一の履行義務を識別する場合でも,日次の稼働率により対価の不確実性が解消されるため,日次に決定される変動対価を毎日の個々の管理サービスに配分することが適切です(BC 285)。

そこで,本基準は,変動対価が契約の中の全部ではない履行義務(あるいは財又はサービス)に関連する場合は,変動性のある金額をすべて当該履行義務(あるいは当該財又はサービス)に配分することとしています(第85項)。

 

要件

企業は,次の要件の両方に該当する場合には,変動性のある金額(及び当該金額のその後の変動)の全体を,一つの履行義務(又は第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。

a 変動性のある支払の条件が,当該履行義務の充足(あるいは当該別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連している。

b 変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが,契約の中の履行義務及び支払条件のすべてを考慮すると,配分の目的(第73項)に合致する。

 

取引価格の配分の方法

企業は,第85項に従って変動対価を配分するときは,取引価格のうち第85項の要件に該当しない残りの金額を配分するため,取引価格の配分に関する本基準第73項~第83項を適用しなければなりません(第86項)。

 

☞企業は,契約において約束された変動対価について,①変動性のある支払の条件が,履行義務の充足(あるいは第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連し,かつ,②変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが配分の目的(第73項)に合致するときは,変動性のある金額の全体を当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.13更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

現金以外の対価と顧客に支払われる対価

 

2017年9月13日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

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「現金以外の対価と顧客に支払われる対価」 目次と概要

 

1.Step3-③ 現金以外の対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,顧客が契約において現金以外の形態の対価を約束している場合は,企業は,その現金以外の対価(又は現金以外の対価の約束)を公正価値で測定する必要があります(第66項)。

 

2.現金以外の対価の測定

 

現金以外の対価の公正価値

企業は,財又はサービスと交換に顧客から現金を受け取る場合,流入する資産の価値すなわち受け取る現金の額で取引価格を測定しますので,これと整合させるため,企業が財又はサービスと交換に顧客から現金以外の形態の対価(財又はサービスの形態のほか,金融商品や有形固定資産の形態の場合もあります。)を受け取る場合も,流入する資産の価値すなわち現金以外の対価の公正価値で取引価格を測定すべきです(BC 248)。

 

現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合

企業が現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価の測定を,当該対価との交換で顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に行わなければなりません(第67項)。

例えば,IFRS第2号「株式に基づく報酬」で,企業は,受け取った財又はサービスの公正価値を信頼性をもって見積れない場合には,付与した資本性金融商品の公正価値を参照してそれらを間接的に測定することとしています。このように,受け取る資産と交換に引き渡す資産の公正価値の方が高い信頼性をもって見積ることができる場合は,その公正価値を参照して間接的に測定することは,他の会計基準と整合的であるといえます(BC 249)。

 

☞企業は,顧客が現金以外の形態の対価を約束している場合,その現金以外の対価の公正価値を取引価格として測定する必要があります。もし,現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に現金以外の対価を測定します。

 

3.変動対価の見積りの制限の適用

 

現金以外の対価の変動性

現金以外の対価の公正価値の見積りは,企業が現金で受け取る変動対価と同様に変動する可能性がありますが,その変動性には,次の両方があります(BC 250,251)。

● 将来の事象の発生又は不発生によって変動する可能性

 現金以外の対価の受け取りに条件が付されている場合(例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利が将来の事象の発生又は不発生に左右される場合)。

● 現金以外の対価自体の価格又は価値の変動

 現金以外の対価自体の価格又は価値が変動する場合(例えば,対価である株式の1株当たりの価格が変動する場合)。

 

変動対価の見積りの制限の適用

企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合(例えば,公正価値が企業の履行によって変動する可能性がある場合)には,変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用しなければなりません(第68項)。

変動対価の見積りの制限に関する規律(本基準第56項~第58項)は,受け取る対価の形態が現金かそれ以外かにかかわらず,企業の履行に関連する同種の不確実性に適用すべきです。例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利の公正価値は,株式自体の価格又は価値の変動だけでなく,業績ボーナスを受け取るかどうかの不確実性にも関連しています。本基準は,このように現金以外の対価の公正価値が変動する理由が企業の履行に関連する不確実性にもある場合には,公正価値の見積りにあたって,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用することとしています(BC 252)。

 

☞企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合には,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用する必要があります。

 

4.企業による契約の履行を促進するための財又はサービス

 

顧客が企業による契約の履行を促進するために財又はサービス(例えば,材料,設備又は労務)を拠出する場合には,企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を企業が獲得するのかどうかを評価しなければなりません(第69項)。

企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得する場合には,当該財又はサービスを,顧客から受け取った現金以外の対価として会計処理しなければなりません(第69項)。したがって,企業は,契約において約束された現金対価の金額に,拠出された財又はサービスの公正価値を加算して取引価格を算定し,契約におけるそれぞれの履行義務に配分します。

これに対し,企業が拠出された財又はサービスに対する支配を獲得しない場合には,当該財又はサービスは依然として顧客が支配していますので,取引価格に含めません。

 

5.Step3-④ 顧客に支払われる対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価は,取引価格(収益)の減額として会計処理する必要があります(第70項)。

ここにいう対価は,現金又は企業に対する債務の支払に充当できるクレジット,クーポン,バウチャー等であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

 

6.顧客に支払われる対価

 

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価とは,企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

企業は,顧客に支払われる対価を,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 

類似の支払の会計処理

企業が顧客又は顧客の顧客に対価を支払い,又は支払うと見込んでいる場合,その対価は,(a) 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金のほか,(b) 顧客から受け取る財又はサービスとの交換のための支払,あるいは(c) 両者の組合せの形式による場合があります(BC 255)。顧客に支払われる対価の形態には,現金のほか,企業に対する債務金額に充当できるクレジット又は他の項目(例えば,クーポン又はバウチャー)も含まれます(第70項)。

企業は,これら類似の支払が以下のいずれであるのかを決定し,会計処理します(2010ED 48)。

a 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金

 企業は,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)。

b 顧客から受け取る別個の財又はサービスに対する支払

 企業は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します(第71項)。

c aとbの組合せ

 顧客に支払われる対価が,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 企業が顧客から受け取る財又はサービスの公正価値を合理的に見積れない場合には,顧客に支払われる対価の全額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 

類似の支払と区別する指標

企業が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個の財又はサービス(顧客の財又はサービス)を顧客から受け取り,当該財又はサービスとの交換のために顧客に支払われる対価は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理しなければなりません(第71項)。

仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理するかどうかは,企業が受け取る財又はサービス(顧客の財又はサービス)が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個のものであるかどうか(本基準第27項~第29項参照)が指標となります(BC 256)。

例えば,企業が顧客である販売業者に製品を販売するとともに,顧客から製品陳列サービス(製品の在庫保管・展示等)の提供を受け,当該サービスに対する支払を行うとします。

製品陳列サービスは,企業が取り扱う製品なしにそれ単独で便益を得ることができませんが,企業が取り扱う製品は企業にとって容易に利用可能な他の資源であり,それと組み合わせて便益を得ることができます(第27項(a)参照)。

したがって,企業は,顧客から受け取る製品陳列サービスが,顧客への移転を約束した製品とは別個のものであると判定し,顧客からの別個の財又はサービスに対する支払として,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します。

 

顧客に支払われる対価の一部についての取引価額の減額

企業が約束した財又はサービスと交換に顧客から受け取る対価の金額と,当該顧客から受け取る別個の財又はサービスと交換に支払う対価の金額が,たとえそれらが別々の事象である場合であっても,リンクしていることがあります。例えば,顧客が,企業からの財又はサービスに対して,もし企業から支払を受けていなければ支払ったであろう金額よりも多く支払うことがあります。そうした場合に収益を忠実に描写するため,企業が受け取る別個の財又はサービスに対する支払として会計処理する金額は,当該財又はサービスの公正価値に限定し,公正価値を超過する金額があれば取引価格(収益)の減額として認識します(BC 257)。

上記(製品陳列サービス)の事例で,もし,顧客に支払われる対価が製品陳列サービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

顧客の顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価には,企業が直接,顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価も含まれます。

例えば,企業が小売業者に製品を販売するとともに,新聞のチラシで消費者に割引クーポンを発行するとします。小売業者は,企業の製品の販売にあたって,消費者から割引クーポンの提示を受けたときは,代金を値引きするとともに,回収した割引クーポンを企業に提出し,企業から,消費者に値引いた金額を補償してもらいます。

このように,企業が直接,顧客(小売業者)から企業の財又はサービスを購入する他の当事者(消費者)に支払う対価も,顧客に支払われる対価に含まれます。この場合の対価の形態は,顧客(小売業者)が企業に対する債務金額に充当できる割引クーポンであり,企業は,顧客に対し,消費者が企業の製品の購入にあたって提示した割引クーポンを企業に提出することを条件として,消費者に値引いた金額を補償することを約束しています。

企業は,顧客から,割引クーポンと交換に別個の財又はサービスを受け取っていませんので,取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

☞企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる場合に,顧客に支払われる対価と類似の支払を区別し,①顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金については,取引価格(収益)を減額し,②顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)と交換のための対価については,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理し,③①と②の組合せについては,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合にその超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

7.取引価格の減額の方法


取引価格の減額の会計処理を行う時点

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,企業は,次の事象のうち遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識しなければなりません(第72項)。

a 企業が,関連する財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時

b 企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,関連した履行義務の充足時に収益を減額して認識します。また,企業が履行義務を充足して収益を認識した後になってはじめて顧客に支払われる対価を約束する場合もありますが,この場合は,既に認識した収益の減額を直ちに認識することになります。

 

顧客に支払われる対価の変動性

顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)

本基準は,企業が遅くとも顧客に支払われる対価を「約束」する時点で取引価格に反映すべきである旨を明確化しています。企業は,将来の事象の発生又は不発生を条件として顧客に支払われる対価を約束する場合も,約束の時点で,その不確実性を反映して取引価格を測定します(BC 258)。

上記(割引クーポンの発行)の事例で,企業は,①小売業者に製品を引き渡した時,又は②消費者にクーポンを発行した時のいずれか遅い時に,収益の減額を認識します。その時点では,消費者が割引クーポンを行使するかどうかという不確実性のため,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれています。そこで,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項に従い,変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価も含めて,取引価格を見積ります。

 

☞企業は,①約束した財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時,又は②企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)の遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識します。企業は,企業が対価の支払を約束する時点で,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.01更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約における重大な金融要素の存在

 

2017年9月1日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「契約における重大な金融要素の存在」 目次と概要

 

1.Step3-② 契約における重大な金融要素の存在

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合は,企業は,約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整する必要があります(第60項)。

ただし,実務上の便法として,企業が,契約開始時において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

 

☞企業は,契約の当事者が合意した支払の時期(財又はサービスの顧客への移転の時点とそれに対する顧客の支払の時点が1年以内と見込んでいる場合を除きます。)により,顧客又は企業に資金提供の重大な便益が提供される場合は,契約において約束された対価から貨幣の時間価値の影響を調整し,包括利益計算書において,金利収益又は金利費用を顧客との契約から生じる収益と区別して表示します。

 

2.金融要素の影響の調整

 

金融要素を含んだ契約

顧客との契約の中には金融要素を含んだ契約がありますが,そうした契約は,概念上,販売に係る取引(売買契約)と金融に係る取引(融資契約)の2つの取引が含まれ,名目的な現金販売価格についての収益要素と,後払い(延払い)又は前払いの条件の影響による金融要素に区分することができます。

本基準は,中心(コア)となる原則として,企業が約束した財又はサービスと交換に得る対価を反映する金額で収益を認識するという原理を採用していますが(第2項),金融要素を含んだ契約において約束された対価は,金融要素の影響を含んでいるため,約束した財又はサービスの対価を忠実に反映していません。そのため,契約において約束した対価から金融要素の影響を調整しなければ,約束した財又はサービスの顧客への移転時に誤った金額の収益を認識してしまうおそれがあります。また,重大な金融要素を識別することにより,顧客との契約の重要な経済的特徴(財又はサービスの移転を目的とする契約が融資契約を含んでいること)に関する有用な情報を財務諸表利用者に提供します。

 

目的

契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの当該財又はサービスが移転される時点の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります(第61項,BC 230)。

現金販売価格とは,約束した財又はサービスが顧客に移転された時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金を支払ったとした場合に,約束した財又はサービスに対して顧客が支払ったであろう価格をいいます(第61項)。

 

☞企業が契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時における現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります。

 

3.重大な金融要素

 

要件

企業は,①契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定し,契約において約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整しなければなりません(第60項)。

①契約の当事者が(顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる)支払の時期を合意することは,契約に重大な金融要素が存在する前提条件となります。

顧客への財又はサービスの移転のかなり前又はかなり後に支払期限が到来することは,契約が金融要素を含んでいるための必要条件ではありますが,契約に定められた支払の時期だけが,金融要素の調整の必要性を決定づけるものではありません。財又はサービスの移転と支払との間に相当の期間があっても,それらの時期が異なる理由が,企業と顧客との間での融資契約に関するものではない場合もあります。

そこで,本基準は,契約の当事者が合意した支払の時期によって,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定することとしています(BC 231)。

重大な金融要素は,資金提供の約束が契約に明記されているか,契約の当事者が合意した支払条件に含意されているかを問わず,存在する可能性があります(第60項)。

 

要素

契約が重大な金融要素を含んでいるかどうかは,①契約が金融要素を含んでいるかどうかと②金融要素が契約とって重大であるかどうかの2つの要素により構成されます(第61項)。

このうち②について,企業は,あくまで契約にとって(契約レベルでの)金融要素が重大かどうかを考慮します。多くの契約については,金融要素の影響が顧客との契約に関して認識すべき収益の金額を大きくは変更しないため,金融要素が重大ではないと考えられます。

企業によっては,類似した契約のポートフォリオレベルについての金融要素の複合した影響が企業全体にとって重要性がある場合もありますが,個々の契約にとって金融要素の影響が重大でない限り,重大な金融要素を識別する必要はありません(BC 234)。

 

両面性

企業は,契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より後払いを合意するときは,企業から顧客に対して,また,前払いを合意するときは,顧客から企業に対して,それぞれ資金提供の重大な便益が提供されるかどうかを判定します。

契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より前払いを合意し,顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合には,企業が受け取った現金よりも多額の収益を認識する結果になります。

このような結果は,従来の実務を変更することとなり,顧客が金融以外の理由(例えば,顧客に重大な信用リスクがある場合や顧客が事前の契約コストを企業に補償する場合)で前払いする取決めの経済的実質が反映されないことと平仄が合わないなどの問題も指摘されています(BC 237)。

しかし,例えば,企業が,長期の工事請負契約に必要な資材の調達資金の提供を受けるために顧客との間で多額の前払いを合意する場合,そのような合意をしない場合に比べ,契約において約束された対価の金額は,第三者から金融を得るための財務コストの分だけ低くなりますが,約束された財又はサービスが同一であるにもかかわらず,企業が資金提供の重大な便益を顧客から受けるか第三者から受けるかによって認識すべき収益の金額が異なるべきではありません。そこで,本基準は,契約の当事者が前払いの合意により顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合にも,前払いによる重大な金融要素の影響を調整する会計処理を免除しないこととしています(BC 238)。

 

☞企業は,①契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる支払の時期を合意し,かつ,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,重大な金融要素を識別します。

 

4.重大な金融要素の識別

 

指標

企業は,①契約が金融要素を含んでいるかどうか,②金融要素が契約とって重大であるかどうかを評価するにあたって,以下の指標を含め,すべての関連性のある事実及び状況を考慮しなければなりません(第61項,BC 232)。

a 契約において約束された対価の金額と,約束した財又はサービスの現金販売価格との差額

企業(又は他の企業)が,支払条件の時期に応じて,同一の財又はサービスを異なる対価の金額で販売する場合には,一般的に,各当事者が契約に金融要素があることを認識しています。ただし,この差額が金融以外の要因による場合もあります(第62項参照)。

b 次の両者の組合せ

ⅰ 企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と,顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の予想される期間の長さ

ⅱ 関連性のある市場での実勢金利

財又はサービスの移転と支払の時期が異なることは,重大な金融要素の存在を決定づけるものではありませんが,支払時期と実勢金利の影響の複合によって,資金提供の重大な便益が提供されていることを示す強い指標になる場合があります。

 

重大な金融要素の不存在を示す要因

企業は,以下の要因のいずれかが存在するときは,契約に重大な金融要素が存在しないと判定します(第62項,BC 233)。

a 顧客が財又はサービスに対して前払いしており,当該財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる。

カスタマー・ロイヤルティ・ポイントなど幾つかの類型の財又はサービスについては,顧客が当該財又はサービスについて前払いを行い,当該財又はサービスの顧客への移転が顧客の裁量で決まります。そうした財又はサービスに対する支払条件の目的は,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

b 顧客が約束した対価のうち相当な金額に変動性があり,当該対価の金額又は時期が,顧客又は企業の支配が実質的に及ばない将来の事象の発生又は不発生に基づいて変動する(例えば,対価が売上高ベースのロイヤルティである場合)。

ロイヤルティ契約など一部の契約では,財又はサービスに関して重大な不確実性があるため,当事者が対価の金額と支払時期を固定したくない場合があります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,財又はサービスに対する対価の不確実性を解消し,その価値の保証を提供することにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

c 契約において約束された対価と財又はサービスの現金販売価格との差額が,顧客又は企業のいずれかに対する資金提供以外の理由で生じており,それらの金額の差額が相違の理由に見合っている。例えば,支払条件が,企業又は顧客に,相手方が契約に基づく義務の一部又は全部を適切に完了できないことに対しての保護を提供する場合がある。

状況によっては,業界又は法域での典型的な支払条件に従った前払い又は後払いには,金融以外の主目的がある場合があります。例えば,我が国の民法では,請負契約の報酬は,特約がない限り後払いとされ,建設業界の工事請負契約の標準約款でも完成・引渡し時に対価の一部又は全部を支払うものとされているように,顧客が契約の完成時又は所定のマイルストーンの達成時まで対価の一部又は全部の支払を留保する場合があります。逆に,限定された財又はサービスの将来の供給を確保するために,顧客が対価の一部を前払いすることを求められる場合もあります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与えることにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

 

☞企業は,重大な金融要素の識別にあたって,①現金販売価格,②(a)支払時期と(b)実勢金利との影響の複合を考慮します。ただし,①顧客が前払いした財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる場合や,②変動対価の金額や支払時期に対して当事者の実質的コントロールが及ばない場合,③現金販売価額との差額が資金提供の便益以外の理由に見合っている場合(例えば,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与える場合)は,重大な金融要素を識別しません。

 

5.実務上の便法

 

企業は,契約開始時において,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

本基準は,企業に重大な金融要素の識別や割引率の決定などを免除して本基準の適用を簡素化するため,資金提供の便益が1年以内であることに限定し,実務上の便法を容認しています(BC 236)。ただし,財又はサービスの移転と支払との間が1年以内のときは重大な金融要素の影響を調整しないという実務上の便法は,類似した状況における類似した契約に一貫して適用すべきです(BC 235)。

 

☞企業は,実務上の便法として,契約開始時において,財又はサービスの移転と支払との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額から重大な金融要素の影響を調整する必要はありません。

 

6.調整に用いる割引率

 

重大な金融要素の調整に用いる割引率

本基準は,重大な金融要素の調整に用いる割引率として,以下の利率を採用せず,契約開始時における企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率を採用しています。企業と顧客との間で財又はサービスの提供を伴わない金融取引で使用される利率が,その契約において資金提供を受ける当事者の特性を,顧客又は企業が提供する担保又は保証とともに,当事者の信用度その他のリスクを含めて反映するからです(BC 239)。

● 契約で明示された利率

契約に利率が明示されていたとしても,その利率を割引率として使用できるとは限りません。企業が,顧客との契約にあたって,販売インセンティブとして安価な金融を提供する場合もありますので,契約で明示された利率を割引率として使用すると,契約の存続期間にわたる収益の適切な認識とはならないおそれがあるからです(BC 239)。

● リスクフリー金利

リスクフリー金利は,多くの法域において観察可能であり,割引率として使用すれば,各契約に固有の利率を算定するコストがかかりません。しかし,本基準は,リスクフリー金利を割引率として使用することにより生じる金利収益又は金利費用は,契約の当事者の特性を反映しないため,有用な情報をもたらさないことから,割引率として使用しないこととしています(BC 239)。

 

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率

企業は,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素について調整するにあたって,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません(第64項)。

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率の決定にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮します(第64項)。

 

現金販売価格への割引率

企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格(=約束した財又はサービスが顧客に移転される時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金で支払うであろう価格)に割り引く率として特定することができる場合があります(第64項)。

 

割引率の再評価

企業は,契約開始時に決定した割引率は,たとえその後に金利又は他の状況(顧客の信用リスクの評価など)の変動があったとしても,見直してはなりません(第64条,BC 242,243)。

 

☞企業は,重大な金融要素の調整にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮し,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません。この割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格に割り引く率として特定できる場合があります。

 

7.重大な金融要素の影響の表示

 

顧客との契約から生じる収益と区別した表示

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

重大な金融要素を有する契約には別個の経済的特性(一方は財又はサービスの顧客への移転に関連し,他方は融資契約に関連する)が含まれており,それらの特性は区分して会計処理及び表示を行うべきだからです。

そこで,金融の影響(契約において約束された対価のうち割引率を使用して調整した部分が時の経過とともに調整が戻されること=いわゆる割引の巻戻し)は,顧客との契約から生じる収益とは区分して,収益の測定の変更としてではなく,金利収益又は金利費用として表示します(BC 246)。

 

契約資産(債権)・契約負債に対する付従性

金利収益又は金利費用は,契約資産(債権)又は契約負債が顧客との契約の会計処理において認識される範囲でのみ認識します(第65項)。

本基準により,顧客との契約から契約資産(債権)又は契約負債を認識している間だけ金利収益又は金利費用を認識しますが,契約資産(債権)又は契約負債を認識しなくなった場合には,金利収益又は金利費用を認識しません。

 

☞企業は,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と金融の影響(金利収益又は金利費用)を区別して表示します。

 

8.顧客の信用リスク

 

これまで,重大な金融要素を有する契約について,収益の表示も含めて解説しましたが,ここで,重大な金融要素を有する契約に限らず,顧客との契約全般について,顧客の信用リスクに関する会計処理及び表示について解説します。

 

契約開始時における顧客の重大な信用リスク

本基準は,販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(不良債権)を区別して有用な情報を提供するため,取引価格に顧客の信用リスクを反映しないこととしています(BC 259,260)。ただし,契約開始時から顧客に重大な信用リスクがある一部の取引について,企業が財又はサービスの移転について収益を「グロスアップ」して認識し,同時に多額の貸倒費用を認識することは,取引を忠実に表現せず,有用な情報を提供しません(BC 265)。そこで,本基準は,その適用対象となる契約について,契約開始時において,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと(顧客に重大な信用リスクがないこと)を要件としています(第9項(e))。

 

金融要素のない顧客との契約から生じた債権の減損損失の表示

本基準は,金融要素のない顧客との契約から生じた短期営業債権に係る減損損失を他の減損損失と区分して表示するものとしています(第113項(b))。

これにより顧客との契約から生じた収益総額(収益の趨勢情報)と債権管理(又は不良債権)に関する減損損失を区別して有用な情報を提供することができます(BC 264)。

減損損失は,必ずしも契約開始後,収益を認識した報告期間内に発生するものではなく,過去の報告期間に認識された収益に関するものもあり,これらを区別する情報を入手するため多額のコストがかかるおそれがあることから,本基準は,収益の科目と減損損失の科目を近くに表示して関連づけることを求めないこととしています(BC 261~263)。

 

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権の減損損失の表示

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権に係る減損損失は,他の類型の金融資産についての減損損失ととともに整合的に表示します(BC 245)。

顧客との契約の金融要素から生じた債権は,金融に係る取引(融資契約)から生じた債権と同じ取り扱いをすべきだからです(BC 244)。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.08.21更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

変動対価

 

2017年8月21日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

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「変動対価」 目次と概要

 

1.Step3「取引価格を算定する」の概要

 

企業は,契約における履行義務を識別した後の次のステップで,契約開始時に,当該契約に係る取引価格を算定します。

顧客が固定額の現金対価を支払うと約束する場合は,単純に契約において約束された対価から取引価格を算定できますが,本基準は,契約において約束された対価から単純に取引価格を算定できない次の4つの類型について,取引価格の算定の指針を示しています(第48項,BC 188)。

1 変動対価/変動対価の見積りの制限

2 契約における重大な金融要素の存在

3 現金以外の対価

4 顧客に支払われる対価

 

☞企業は,契約開始時に,契約において約束された対価から取引価格を算定します。特に4つの類型(①変動対価,②契約における重大な金融要素の存在,③現金以外の対価,④顧客に支払われる対価)について,本基準に従って取引価格を算定します。

 

2.Step3-① 変動対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることとなる対価の金額を見積る必要があります(第50項)。

また,企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲でのみ,変動対価の金額の全部又は一部を取引価格に含めます(第56項)。

 

3.取引価格とは

 

“取引価格”とは

本基準は,“取引価格”(transaction price)を,「約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額(第三者のために回収する金額を除く)」と定義づけています。

 

配分後取引価格アプローチ

本基準は,契約に基づく収益認識の原則を採用するとともに,財又はサービスを提供する義務(負債)の測定を,取引価格を契約における各履行義務に配分して行うアプローチ(配分後取引価格アプローチ)を採用しています(BC 25,26,181,183)。

他方,契約上の義務を,企業が独立した第三者に移転すると仮定した場合にその第三者から支払を求められる対価(債務引受けの代金)の金額で測定するアプローチ(現在出口価格アプローチ)も考えられます。

しかし,現在出口価格アプローチでは,契約開始時において,一般的に対価を受け取る権利(資産)の測定値が財又はサービスを提供する義務(負債)の測定値を上回るため,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する前に収益を認識してしまいます(BC 25)。

また,現在出口価格アプローチでは,残存履行義務を各報告期間の末日現在で直接的に測定しますが,現在出口価格は,通常は観察可能ではなく,見積りが複雑でコストがかかり,検証が困難になるおそれがあります。しかも,約束した財又はサービスの価値の変動性は,本来的に小さいか,又は顧客への移転までの比較的短期間では限定的であり,財務諸表利用者に追加的な情報をほとんど提供しません(BC 25,182)。

このような理由から,本基準は,現在出口価格アプローチを採用していません(BC 25~27,182)。

 

取引価格の基礎となる対価

取引価格には,企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額(変動性のある金額を含みます。)だけを含め(BC 186),新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の金額を含めません。

例えば,顧客が現在の契約に含まれる追加的な財又はサービスに対するオプションを行使したときは,企業と顧客との間に独立販売価格より重要な値引きがされた価格で追加的な財又はサービスを提供する新たな契約が成立しますが,新たな契約に係る対価(独立販売価格より重要な値引きがされた価格)は,現在の契約に係る取引価格に含めません(BC 186)。

また,顧客が現在の契約から新たな取引価格に変更することが予測されるとしても,企業と顧客との間に変更契約(新たな契約)が成立するまでは,新たな契約に係る対価は,現在の契約に係る取引価格に含めません(BC 186)。

以上のように,新たに成立する契約に係る対価は,企業は,未だ対価に対する権利を有していませんので,現在の契約に係る取引価格の算定に含めません(BC 186)。

 

取引価格の支払者

企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額は,いかなる当事者が支払ってもよく,顧客以外の当事者が支払う場合でも取引価格に含まれます。

例えば,ヘルスケア(医療介護)業界では,患者(顧客)だけでなく,保険会社あるいは政府機関から対価の支払を受ける権利を得ることとなる金額に基づいて取引価格を算定します。他の業界でも,例えば,仕入先であるメーカー(製造業者)が企業の顧客に直接クーポン又はリベートを発行するときは,企業は,顧客が使用したクーポン又はリベートに基づきメーカーから支払を受ける権利を得ることとなる金額も取引価格に含めます。

しかし,我が国における消費税(一部の法域における売上税や付加価値税)などのように,企業が他の当事者に代わって回収する金額は,取引価格に含めません(BC 187)。

 

顧客の信用リスク

取引価格には,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が“権利を得る”と見込んでいる対価の金額を基礎とし,企業が権利を得たとしても顧客の信用性リスクのために受け取れないと見込んでいる対価の金額も含みます。言い換えれば,取引価格は,企業が“受け取る”と見込んでいる対価の金額ではありませんので,企業が契約に従って権利を得る対価の金額を顧客から回収できないというリスク(顧客の信用リスク)は取引価格に反映されません(BC 259)。

財務諸表利用者にとって,収益を「総額」で測定する方が,企業で別々に管理されている販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(不良債権)を区別して評価し得る有用な情報を提供するからです(BC 260)。

 

☞企業は,現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額を基礎に取引価格を算定し,現在の契約と関連する新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の金額は取引価格に含めません。また,取引価格には,保険会社,政府機関,顧客に直接クーポン等を発行する仕入先など顧客以外の当事者が支払う場合も含めますが,消費税など企業が他の当事者に代わって回収する金額は含めません。

 

4.取引価格の算定

 

取引価格は,契約において約束された対価を基礎に算定します。

企業は,取引価格を算定するために,契約の条件及び自らの取引慣行を考慮しなければなりません(第47項)。

契約において約束された対価の性質,時期及び金額は,取引価格の算定に影響を与えます(第48項)。

取引価格を算定する目的上,企業は,財又はサービスが現行の契約に従って約束どおりに顧客に移転され,契約の取消し,更新,変更はないものと仮定します(第49項)。

 

5.変動対価の識別

 

変動対価とは

変動対価とは,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれているものをいいます(第50項)。

変動対価は,企業が契約に基づいて権利を得ることとなる対価が変動する可能性のあるすべての状況で生じる可能性があり(BC 190),例えば,値引き,リベート,返金,クレジット,価格譲歩,インセンティブ,業績ボーナス,ペナルティー,又はその他の類似の項目によって,対価の金額の変動が生じる場合があります(第51項)。

 

変動対価の識別

企業は,顧客が契約において変動対価を約束するときは,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることとなる対価の金額を見積る必要がありますので(第50項),どのような場合に変動対価が顧客との契約の中に存在するのかを識別しなければなりません(BC 189(a))。

 

変動性にかかる条件

顧客が契約において変動性のある対価を算定することを約束する場合だけでなく,契約において約束された対価に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合にも,対価の金額が変動する可能性があります(第51項)。

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に条件が付されているときは,たとえ契約に明示された価格が固定されていても,変動対価に該当します。

例えば,製品が返品権付きで販売された場合,顧客が返品権を行使するという条件の成就により企業がいったん受け取った対価を顧客に返金する義務が発生しますので,変動対価に該当します。契約に明記された価格が固定されていても,企業は,固定された価格すべてに対する権利を得るか,又は固定された価格に対する権利を全く得ないかのいずれかの可能性があり,対価が変動するからです(BC 191)。

他方,期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に期限が付されていても,変動対価には該当しません。企業が約束した財又はサービスを顧客に移転した時に又はその後に,あるいは移転と引き換えに,対価に対する企業の権利が発生しても,対価の金額は変動しません。

 

変動性に関する明示~価格譲歩~

顧客が約束した対価に関する変動性は,契約に明示されることが少なくありませんが,企業が契約に明示された価格よりも低い価格を受け入れる可能性がある(契約が黙示的な価格譲歩を含んでいる)ために,約束された対価に変動性があることもあります(BC 192)。

企業は,契約の条件に加えて,次の状況のいずれかが存在する場合には,約束された対価に変動性があると判定します(第52項)。

a 顧客が,企業の取引慣行,公表した方針及び具体的な声明から生じた妥当な期待として,企業が契約に記載された価格よりも低い対価の金額を受け入れるであろうという期待を有している。すなわち,企業が価格譲歩を提供すると期待されている。

例えば,企業が顧客との関係を強化して当該顧客への将来の販売を促進する目的で,過去に当該顧客に販売した商品につき当該顧客が容易に第三者に売却できるよう値引きすることを可能にするために価格譲歩することがありますが,企業の取引慣行,公表した方針及び具体的な声明から,企業がそのような価格譲歩をするであろうという妥当な期待を顧客が有しているときは,約束した対価に変動性があると判定します(BC 192)。

b 他の事実及び状況により,顧客との契約を締結する際の企業の意図が,顧客に価格譲歩を提供することであることが示されている。

企業の取引慣行,公表した方針及び具体的な声明がないものの,例えば,企業が新規顧客との関係を開発する戦略のため,当該顧客と契約を締結する場合に,他の要因により,企業が契約に明示された価格よりも低い価格受け入れる意図があるという状況が存在するときは,約束した対価に変動性があると判定します(BC 193)。

 

☞企業は,顧客が契約において変動性のある対価を算定することを明示に約束する場合だけでなく,①約束された対価(価格が固定されている場合を含みます。)に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合や,②企業が契約に明示された価格よりも低い価格を受け入れるであろうという顧客の妥当な期待や企業の意図がある一定の状況が存在する場合にも,変動対価を識別します。

 

6.変動対価の見積りの方法

 

変動対価の見積り

企業は,変動対価を識別したときは,適切な方法により変動対価の金額を見積る必要があります(BC 189(b))。

本基準は,変動対価の金額の見積りに関し,その目的を明示し,適切な測定方法を限定しています。経営者に自由に見積りの方法を選択することを容認することは,財務諸表利用者にとっての理解可能性や企業間の比較可能性を損なうおそれがあるからです(BC 196~198)。

 

変動対価の見積りの方法

企業は,次のいずれかの方法のうち,企業が権利を得ることとなる対価の金額をより適切に予測できると見込んでいるものを用いて,変動対価の金額を見積らなければなりません(第53項,BC 195)。

a 期待値

期待値とは,考え得る対価の金額の範囲における確率加重金額の合計をいいます。

期待値は,報告期間の末日現在の不確実性のすべてを反映しますので,とりわけ,企業が特徴の類似した多数の契約を有している場合には,変動対価の金額を適切に見積ることができます。他方で,契約で生じ得る結果が2つしかない場合などでは,期待値は,契約に従って生じ得ない結果(金額)を示すこともあり,必ずしも企業が権利を得ることとなる金額を忠実に予測しない場合があります(BC 199,200)。

b 最も可能性の高い金額

最も可能性の高い金額とは,考え得る対価の金額の範囲における単一の最も可能性の高い金額をいいます。

契約で生じ得る結果が2つしかない場合には,変動対価の金額を適切に見積ることができます(BC 200)。

 

合理性の原則

企業は,変動対価の見積りにあたって,企業が合理的に利用可能なすべての情報(過去,現在及び予想)を考慮しなければならず,合理的な数の考え得る対価の金額を識別しなければなりません(第54項)。

 

一貫適用の原則

企業は,契約全体を通じて,変動対価の見積りに関する一つの方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第54項)。

 

☞企業は,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,①期待値又は②最も可能性の高い金額のうち企業が権利を得ることとなる対価の金額をより適切に予測できると見込んでいる方法を使用し,合理的な数の結果(金額)を識別して変動対価を見積ります。

 

7.変動対価の見積りの制限

 

変動対価の見積りの制限

本基準は,変動対価の見積りの不確実性が高すぎるときは,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を忠実に描写しないおそれがあることから,財務諸表利用者に有用な情報を提供するために,変動対価の見積りの一部又は全部を取引価格に含めないこととしています(BC 203)。

そこで,企業は,どのような場合に,そうした変動対価を制限し,取引価格に含めるべきでないのかを判定する必要があります(BC 189(c))。

 

目的

財務諸表利用者が企業の将来の収益をより適切に予測するためには,ある報告期間における収益の測定値が,その後の報告期間に重大な戻入れが生じないことが有用であるといえます。そこで,本基準は,変動対価の見積りの制限に関し,収益の下方修正(収益の戻入れ)を制限することに焦点を置き,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じないことを目的としています(BC 206,207)。

また,本基準は,変動対価の見積りの制限が,どの程度(レベル)の確度で重大な収益の戻入れが生じないことを確保するのか,という問題(確信のレベル)を実務的に統一するため,「非常に可能性が高い」という用語によりそのレベルを明示しています(BC 208~212)。

 

要件~考慮すべき要素と要因~

企業は,見積られた変動対価の金額の一部又は全部を,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲でのみ,取引価格に含めなければなりません(第56項)。

企業は,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いかどうかを評価するにあたって,収益の戻入れの①確率と②大きさの両方を考慮しなければなりません。

 

変動対価の見積りの一部の制限

企業は,変動対価の見積りの一部を取引価格に含めたときは,収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いと評価する場合には,変動対価の見積り全体を取引価格から除外する必要はなく,その一部を取引価格に含めるべきです(BC 218)。

ただし,知的財産のライセンスとの交換で約束された売上高ベース又は使用量ベースのロイヤルティの形態の対価については,適用指針(B 63)を適用して会計処理しますので,企業は,不確実性が解消される(顧客に売上又は使用が生じる)までは,収益を認識してはなりません(第58項,BC 219)。

 

☞企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いといえない場合は,見積られた変動対価の金額の一部又は全部を制限し,取引価格に含めません。

 

8.取引価格の事後の変動

 

取引価格の事後の変動

本基準は,各報告期間末現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を描写するため,企業が契約期間全体を通じて取引価格の見積りを見直すものとし(BC 224),取引価格のその後の変動の会計処理を定めています(BC 189(d))。

 

変動対価の再判定

企業は,各報告期間末において,各報告期間末現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を忠実に反映するために,変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価も含め,見積った取引価格を見直さなければなりません。企業は,見直した取引価格について,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,取引価格の変動の会計処理(第87項~第90項)を行います(第59項)。

 

☞企業は,契約開始時に見積った変動対価について,契約期間全体を通じ,各報告期間末において取引価格を見直し,取引価格の変動の会計処理(第87項~第90項)を行います。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.08.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

履行義務の識別

 

2017年8月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 5ページ

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「履行義務の識別」 目次と概要

 

1.Step2-③ 履行義務の識別

 

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後(Step2-①契約における約束の識別),別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します(Step2-②別個の財又はサービスの識別)。そして,最後に,企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)から,区分して会計処理をする単位として履行義務を識別します(第22項)。

本基準は,“別個の財又はサービス”という概念では,反復的なサービス契約などで費用対効果が低い多数の会計単位を識別してしまうという運用上の問題を解決するため,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスについて,単一の履行義務を識別するものとしています(第22項(b))。

そのほかは,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します(第22項(a))。

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)のうち,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しますが,それ以外は,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。

 

2.履行義務とは

 

履行義務の定義

本基準は,“履行義務”(performance obligation)を,次にように定義しています(BC 84,86)。

顧客に次のいずれかを移転するという当該顧客との契約における約束

(a) 別個の財又はサービス(あるいは財又はサービスの束)

(b) ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス

 

履行義務の識別の目的

本基準は,中心(コア)となる原則として“企業は,約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように収益を認識しなければならない”という原理を採用しています(第2項)。

本基準は,この原理を実現するため“履行義務”という会計単位を用いています。履行義務は,企業が契約において約束した財又はサービスに関する会計単位をいい,企業が負う財又はサービスを提供する義務を一つ又は複数に区分して識別したものです。この会計単位に当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価(取引価格)を配分することにより(配分後取引価格アプローチ),財又はサービスが顧客に移転するごとに(又は移転するにつれて)その会計単位に配分されている対価を収益として認識します。

履行義務の識別は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位を適切に識別することを確保することを目的としています(BC 85)。

 

☞企業は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位として履行義務を適切に識別しなければなりません。

 

3.履行義務の識別

 

履行義務の識別

履行義務は,(a) 別個の財又はサービス(あるいは財又はサービスの束)又は(b) ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスのいずれかを移転するという当該顧客との契約における約束をいいますが,本基準は,このうち(b)の“ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである”と判定するための要件を定立し(第23項),この要件を満たす一連の別個の財又はサービスについて単一の履行義務を識別することを求めています。

この要件を満たさない場合は,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップで識別した別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。

 

別個の財又はサービスとの関係

本基準は,契約変更及び変動対価の配分における判定にあたって,財又はサービスを提供する義務に関する会計単位を用いますが,企業がほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しているときは,その目的上,“履行義務”という会計単位ではなく,“別個の財又はサービス”という会計単位を用いることに留意する必要があります(BC 115)。

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)について,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の財又はサービスの要件を満たすときは,単一の履行義務を識別し,その要件を満たさないときは,それぞれの別個の財又はサービス(の束)を履行義務として識別します。

 

4.ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス

 

概要

反復的なサービス契約(例えば,清掃契約や取引処理,電力を供給する契約)などで,企業がほぼ同一の財又はサービスを一定の期間にわたり連続的に提供する状況では,もし,第22項(b)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めなければ,契約において提供すべき個々のサービスごとに複数の別個の財又はサービスを識別し,全体の対価(取引価格)を独立販売価格に基づいてそれぞれの増分(例えば,清掃の1時間ごと)に配分することが要求されることになりますが,収益認識モデルをこのような方法で適用することは,費用対効果が低いと考えられます。

そこで,本基準は,このような運用上の問題を解決し,収益認識モデルを単純化して,コストを軽減するため,第22項(b)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めることによって,履行義務の識別における首尾一貫性を高めています(BC 113,114)。

 

要件

企業は,以下の要件のすべてに該当するときは,一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しなければなりません(第22項(b))。

別個の財又はサービスがほぼ同一であること

別個の財又はサービスがほぼ同一(同種)であること。

別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであること

次の両方の要件を満たすときに,別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであると評価します(第23項)。

a 企業が顧客への移転を約束している一連の別個の財又はサービスのそれぞれが,第35項における一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすこと

b 第39項・第40項に従って,一連の別個の財又はサービスのそれぞれを顧客に移転する履行義務の完全な充足に向けての企業の進捗度の測定に,同一の方法が使用されること

企業が,別個の財又はサービスのそれぞれについて,一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定方法に同一の方法を使用することが,本基準第39項・第40項に従って適切でなければなりません。

 

類似した状況における適用

第22項(b)の一連の別個の財又はサービスは,一定の期間にわたり充足される履行義務であり(BC 113),企業は,識別した単一の履行義務に取引価格を配分し,単一の進捗度の測定値を適用することになります。

他方,複数の数量の同種の財又はサービスを同時に提供するときのように,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである複数の別個の財又はサービスが一時点で充足される履行義務であるときは,第22項(b)の要件を満たしませんので,別個の財又はサービスに同じ一時点で充足される複数の履行義務を識別して会計処理することになります。

このような顧客に同時に移転する複数の別個の財又はサービスについて,一時点で充足される履行義務をそれぞれ識別して会計処理した結果と同じであれば,本基準は,企業がそれらを単一の履行義務であるかのように,まとめて会計処理することを禁止しているわけではありません(BC 116)。

 

☞企業は,複数の別個の財又はサービス(の束)について,①別個の財又はサービスがほぼ同一(同種)であり,②いずれも一定の期間にわたり充足される履行義務であり,かつ,③それらの履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定方法に同一の方法を使用することが適切であるときは,単一の履行義務を識別します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.07.25更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

別個の財又はサービスの識別

 

2017年7月25日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「別個の財又はサービスの識別」 目次と概要

 

 

1.Step2-② 別個の財又はサービスの識別


Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。“別個の財又はサービス”という概念は,次のaとbの特性をいずれも備える会計単位です(第27項)。

a 顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること 

個々の財又はサービスが,最低限,顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません(第27項(a))。

b 財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること

たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約における約束として他と区分して識別可能でない財又はサービスの束は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません(第27項(b))。

 

☞企業は,識別した契約における約束を,①最低限,顧客に便益を提供し得る単位より細分化しない,②契約における約束として他と区分して識別し得る単位より分離しない,という2つのルールに従い,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。

 

2.契約における約束の目的となる財又はサービス

 

契約における約束の類型とその目的となる財又はサービス

財又はサービスは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源,すなわち資産です。サービスは,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第33項)。 

本基準は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,財又はサービスそのものではなく,まず,契約において財又はサービスを顧客に移転する約束(契約における約束)を識別するものとしています。例えば,企業が顧客に塗装サービスを提供する契約では,塗装に用いられるであろう下塗材や塗料,その他の財も顧客に移転しますが,このような契約に明示的に約束されたもの以外の個々の財又はサービスまで網羅的に識別することは,履行義務を識別する目的にとっては必要がなく,無駄な事務負担となります。

そこで,企業は,Step2-①契約の約束の識別のサブ・ステップで,契約における約束を漏れなく識別した後に,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップでは,契約における約束の目的となっている財又はサービスに着眼し,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。 

本基準は,企業が約束した財又はサービスを識別するのに役立てるため,本基準第26項で,企業が識別すべき契約における約束の類型とその目的となる財又はサービスを例示しています(BC 91)。

 

待機する又は利用可能にするサービス(BC 91(a))

企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスの性質及び企業の履行の性質を考慮しなければなりません。例えば,典型的なヘルスクラブ契約では,顧客は,ヘルスクラブの利用回数に関係なく(ヘルスクラブを全く利用しなくとも),期間に応じた一定の対価を支払う義務を負います。このような場合には,サービスの内容は,顧客が要求する一時点でヘルスクラブの利用を提供することではなく,一定の期間にわたりヘルスクラブを利用可能にして待機するサービスです(BC 160)。 

 

将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与(BC 91(b))

顧客又は第三者が,将来,一定の条件が成就したときに,企業に対し,財又はサービスを提供することを強制することが可能になる場合,企業が顧客又は第三者に将来において提供される財又はサービスに対する権利を付与しているといえます。例えば,メーカーが顧客(販売業者)に財を販売するにあたって,販売業者の顧客(エンドユーザー)に追加的なサービス(メンテナンスなどのアフターサービス)を提供することを約束することがあります。このような将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与も企業にとっての履行義務を生じさせます(BC 92)。 

 

顧客に財又はサービスを移転しない活動

企業は,顧客が契約の目的とした財又はサービスを移転するために独立の活動を行うことが必要であっても,それにより顧客に財又はサービスを移転しない活動を履行義務として識別してはなりません。例えば,多くのサービス契約では,サービス提供者が契約をセットアップするために多額の費用を要する種々の管理作業を行うことがありますが,そうした作業を履行しても顧客にサービスが移転しませんので,そのような活動はサービスではありません(第25項,BC 93)。 

 

☞企業は,別個の財又はサービスを識別するため,契約における約束の目的となる財又はサービスに着眼します。 

 

3.別個の財又はサービスの原則

 

別個の財又はサービスの原則

履行義務は,一方では,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個となり得るという特性を備えていなければなりません。この特性を備えないものは,財又はサービス(資産)かどうか疑念が生じ,それを区分して会計処理すれば,財務諸表利用者にとって目的適合性のない情報となるおそれがあるからです(BC 97)。 

他方で,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束は,契約における約束として他と区分して識別可能であるという特性を備えていなければなりません(BC 94,102)。この特性を備えないものに区分して会計処理すれば,企業が顧客との契約における約束を履行することを忠実に描写しない情報となるおそれがあるからです。例えば,建設型又は製造型の契約では,別個となり得る多くの財又はサービス(さまざまな資材,労働力及びプロジェクト管理サービス)を顧客に移転しますが,異なる時期に移転される別個となり得る財又はサービスをすべて区分して会計処理することは,多くの契約にとって実務的ではなく,当該契約における企業の履行の忠実な描写にならないおそれがあります。 

そこで,本基準は,企業が,約束した財又はサービスを,顧客への移転を忠実に描写する収益認識のパターンとなる方法で実務的に区分するため,“別個の財又はサービス”という概念を採用しています(BC 94,95)。

 

別個の財又はサービスの概念

本基準は,「別個のものである(distinct)」という用語の意味(通常の意味では,異なった,区分された,あるいは類似していないものを示します。)を明確化し,次の要件の両方を満たす場合に“別個のもの”と判定するものとしています(第27項,BC 95,96)。 

a 個々の財又はサービスの特性(第27項(a))

顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること。すなわち,当該財又はサービスが別個のものとなり得ること。 

b 契約における約束の区分(第27項(b)) 

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること。すなわち,当該財又はサービスが契約の観点において別個のものであること。 

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,①個々の財又はサービスの特性と②契約における約束の区分に関する両方の要件を満たすときは“別個のもの”として区分することにより,また,いずれかの要件を満たさないときは束ねることにより,別個の財又はサービス(の束)を識別します。

 

4.個々の財又はサービスの特性

 

概要

顧客に約束している財又はサービスは,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません。

 

要件

顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること(第27項(a))

 

要素

顧客がその財又はサービスから便益を得ることができること

顧客が財又はサービスを使用,消費,売却(スクラップ価値よりも高い金額で),保有し,又は経済的便益を生み出す他の方法で利用することができる場合には,顧客がその財又はサービスから便益を得ることができます(第28項)。 

それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得ることができること

ⅰ その財又はサービス単独で便益を得ることができること 

顧客がその財又はサービスからの便益をそれ単独で得ることができるかどうかは,顧客がその財又はサービスを使用する可能性のある方法ではなく,その財又はサービスそのものの特性を基礎として評価します。したがって,顧客が企業以外の源泉から容易に利用可能な資源を獲得することを妨げる契約上の制約をすべて無視して評価します(BC 100)。 

ⅱ その財又はサービスと顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得ることができること 

容易に利用可能な資源とは,(当該企業又は別の企業が)独立に販売している資源,顧客が既に企業から得ている資源(企業が契約に基づいて既に顧客に提供している財又はサービスを含みます。),又は他の取引・事象から得ている資源をいいます(第28項)。

 

指標

企業がある財又はサービスを通常は独立に販売しているという事実は,顧客が財又はサービスからそれ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができることを示唆します(第28項)。

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができるものでないときは,他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。

 

5.契約における約束の区分

 

概要

個々の財又はサービスが別個のものとなり得る(第27項(a)の要件を満たす)としても,当該契約において約束された財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するため,企業による単一の履行により移転する複数の財又はサービスの束は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません。

 

要件

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること(第27項(b))

 

分離可能なリスク

本基準は,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能かどうかの評価の基礎として“分離可能なリスク”の概念を用いています。この概念は,「束の中の個々の財又はサービスは,それらの約束した財又はサービスのうちの1つを顧客に移転する義務を履行するために企業が引き受けるリスクが,その束の中の他の約束した財又はサービスの移転から分離不能なリスクである場合には,別個のものではない」と評価することに役立ちます。分離不能なリスクがあるために別個のものではないと評価するときは,多くの場合,別個のものとなり得る財又はサービスが,企業が契約における約束を履行する過程において結合又は改変されるために,それらの財又はサービスの単純な合計よりも価値の大きい(又は実質的に異なる)複合された財又はサービスの別個の束を移転することを企業が約束している状況を示しています。

本基準は,“分離可能なリスク”という基本原則に基づき,その指標として第29項(a)~(c)の補助的諸要因を掲げ,特定の契約又は業界への適用可能性を高めています(BC 103~106)。

 

指標

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であることを示す指標には,次の要因が含まれますが,これらに限定されません(第29項)。また,これらの諸指標は相互に排他的なものではなく,複数の指標が該当する場合もあります(BC 106)。

 

企業が,当該財又はサービスを契約において約束している他の財又はサービスとともに,顧客が契約した結合後のアウトプットを示す財又はサービスの束に統合する重要なサービスを提供していない。言い換えると,企業が当該財又はサービスを,顧客が指定した結合後のアウトプットの製造又は引き渡しのためのインプットとして使用していない(第29項(a))

主に建設業界において,企業が重要な統合サービス(例えば,さまざまな建設作業の管理と調整)を提供する状況では,顧客に対する企業の約束の相当部分が,個々の財又はサービス(例えば,協力業者が行う作業)が契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,建設)に組み込まれること(例えば,建設の設計・仕様に従って行われること)を確保することにあり,個々の財又はサービスは,単一のアウトプットの製造・引き渡しのためのインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,作業の統合に関連したリスク)は分離不能です(BC 107)。

 

当該財又はサービスが,契約で約束した他の財又はサービスの大幅な修正又はカスタマイズをしない(第29項(b))

主にソフトウェア業界において,ある財又はサービス(例えば,システム統合サービス)が契約の中の他の財又はサービス(例えば,既存のソフトウェア)を大幅に改変又はカスタマイズする場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,システム統合)を作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,システム統合に関連したリスク)は分離不能です(BC 109,110)。

 

当該財又はサービスが,契約で約束した他の財又はサービスへの依存性や相互関連性が高くはない。例えば,顧客が契約の中の他の約束した財又はサービスに重大な影響を与えずに,当該財又はサービスを購入しないことを決定できるという事実は,当該財又はサービスが,当該他の約束した財又はサービスへの依存性や相互関連性が高くはないことを示している可能性がある(第29項(c))

この指標は,企業が重要な統合サービスを提供しているのかどうか(第29項(a))や,財又はサービスが大幅に改変又はカスタマイズされているかどうか(第29項(b))が不明確な場合に,個々の財又はサービスが契約の中の他の財又はサービスと区分して識別可能な場合を判定するためのものです(BC 111)。

それぞれの財又はサービスの他方への依存性や相互関連性のレベルを考慮するにあたって,契約履行のプロセスの観点から,契約の中のさまざまな財又はサービスの相互間に変化が生じるかどうかを考慮する必要があります。ある財又はサービスが機能において他の財又はサービスに依存していたとしても,それぞれの財又はサービスを移転する約束を互いに独立に履行できる場合には,それらの財又はサービスは別個のものです。

ある財又はサービスが契約の中の他の財又はサービスへの依存性が高いか又は相互関連性が高いために,顧客が契約の中の他の約束した財又はサービスに重大な影響を与えずに,ある財又はサービスを購入するかどうかの選択ができない場合があります。このような場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプットを作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスクは分離不能です。

 

☞企業は,たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約の中の他の約束と区分して識別可能でない財又はサービスは,契約における約束として他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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