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2017.09.13更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

現金以外の対価と顧客に支払われる対価

 

2017年9月13日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

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「現金以外の対価と顧客に支払われる対価」 目次と概要

 

1.Step3-③ 現金以外の対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,顧客が契約において現金以外の形態の対価を約束している場合は,企業は,その現金以外の対価(又は現金以外の対価の約束)を公正価値で測定する必要があります(第66項)。

 

2.現金以外の対価の測定

 

現金以外の対価の公正価値

企業は,財又はサービスと交換に顧客から現金を受け取る場合,流入する資産の価値すなわち受け取る現金の額で取引価格を測定しますので,これと整合させるため,企業が財又はサービスと交換に顧客から現金以外の形態の対価(財又はサービスの形態のほか,金融商品や有形固定資産の形態の場合もあります。)を受け取る場合も,流入する資産の価値すなわち現金以外の対価の公正価値で取引価格を測定すべきです(BC 248)。

 

現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合

企業が現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価の測定を,当該対価との交換で顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に行わなければなりません(第67項)。

例えば,IFRS第2号「株式に基づく報酬」で,企業は,受け取った財又はサービスの公正価値を信頼性をもって見積れない場合には,付与した資本性金融商品の公正価値を参照してそれらを間接的に測定することとしています。このように,受け取る資産と交換に引き渡す資産の公正価値の方が高い信頼性をもって見積ることができる場合は,その公正価値を参照して間接的に測定することは,他の会計基準と整合的であるといえます(BC 249)。

 

☞企業は,顧客が現金以外の形態の対価を約束している場合,その現金以外の対価の公正価値を取引価格として測定する必要があります。もし,現金以外の対価の公正価値を合理的に見積れない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客(又は顧客階層)に約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に現金以外の対価を測定します。

 

3.変動対価の見積りの制限の適用

 

現金以外の対価の変動性

現金以外の対価の公正価値の見積りは,企業が現金で受け取る変動対価と同様に変動する可能性がありますが,その変動性には,次の両方があります(BC 250,251)。

● 将来の事象の発生又は不発生によって変動する可能性

 現金以外の対価の受け取りに条件が付されている場合(例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利が将来の事象の発生又は不発生に左右される場合)。

● 現金以外の対価自体の価格又は価値の変動

 現金以外の対価自体の価格又は価値が変動する場合(例えば,対価である株式の1株当たりの価格が変動する場合)。

 

変動対価の見積りの制限の適用

企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合(例えば,公正価値が企業の履行によって変動する可能性がある場合)には,変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用しなければなりません(第68項)。

変動対価の見積りの制限に関する規律(本基準第56項~第58項)は,受け取る対価の形態が現金かそれ以外かにかかわらず,企業の履行に関連する同種の不確実性に適用すべきです。例えば,業績ボーナスとして株式を受け取る企業の権利の公正価値は,株式自体の価格又は価値の変動だけでなく,業績ボーナスを受け取るかどうかの不確実性にも関連しています。本基準は,このように現金以外の対価の公正価値が変動する理由が企業の履行に関連する不確実性にもある場合には,公正価値の見積りにあたって,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用することとしています(BC 252)。

 

☞企業は,顧客が約束した現金以外の対価の公正価値が変動する理由が対価の形態(対価自体の価格又は価値の変動)によるものだけでない場合には,変動対価の見積りの制限(本基準第56項~第58項)を適用する必要があります。

 

4.企業による契約の履行を促進するための財又はサービス

 

顧客が企業による契約の履行を促進するために財又はサービス(例えば,材料,設備又は労務)を拠出する場合には,企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を企業が獲得するのかどうかを評価しなければなりません(第69項)。

企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得する場合には,当該財又はサービスを,顧客から受け取った現金以外の対価として会計処理しなければなりません(第69項)。したがって,企業は,契約において約束された現金対価の金額に,拠出された財又はサービスの公正価値を加算して取引価格を算定し,契約におけるそれぞれの履行義務に配分します。

これに対し,企業が拠出された財又はサービスに対する支配を獲得しない場合には,当該財又はサービスは依然として顧客が支配していますので,取引価格に含めません。

 

5.Step3-④ 顧客に支払われる対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価は,取引価格(収益)の減額として会計処理する必要があります(第70項)。

ここにいう対価は,現金又は企業に対する債務の支払に充当できるクレジット,クーポン,バウチャー等であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

 

6.顧客に支払われる対価

 

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価とは,企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価であって,顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)との交換のための対価でないものをいいます。

企業は,顧客に支払われる対価を,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 

類似の支払の会計処理

企業が顧客又は顧客の顧客に対価を支払い,又は支払うと見込んでいる場合,その対価は,(a) 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金のほか,(b) 顧客から受け取る財又はサービスとの交換のための支払,あるいは(c) 両者の組合せの形式による場合があります(BC 255)。顧客に支払われる対価の形態には,現金のほか,企業に対する債務金額に充当できるクレジット又は他の項目(例えば,クーポン又はバウチャー)も含まれます(第70項)。

企業は,これら類似の支払が以下のいずれであるのかを決定し,会計処理します(2010ED 48)。

a 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金

 企業は,取引価格(収益)の減額として会計処理します(第70項)。

 顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)。

b 顧客から受け取る別個の財又はサービスに対する支払

 企業は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します(第71項)。

c aとbの組合せ

 顧客に支払われる対価が,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 企業が顧客から受け取る財又はサービスの公正価値を合理的に見積れない場合には,顧客に支払われる対価の全額を取引価格(収益)の減額として会計処理します(第71項)。

 

類似の支払と区別する指標

企業が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個の財又はサービス(顧客の財又はサービス)を顧客から受け取り,当該財又はサービスとの交換のために顧客に支払われる対価は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理しなければなりません(第71項)。

仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理するかどうかは,企業が受け取る財又はサービス(顧客の財又はサービス)が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個のものであるかどうか(本基準第27項~第29項参照)が指標となります(BC 256)。

例えば,企業が顧客である販売業者に製品を販売するとともに,顧客から製品陳列サービス(製品の在庫保管・展示等)の提供を受け,当該サービスに対する支払を行うとします。

製品陳列サービスは,企業が取り扱う製品なしにそれ単独で便益を得ることができませんが,企業が取り扱う製品は企業にとって容易に利用可能な他の資源であり,それと組み合わせて便益を得ることができます(第27項(a)参照)。

したがって,企業は,顧客から受け取る製品陳列サービスが,顧客への移転を約束した製品とは別個のものであると判定し,顧客からの別個の財又はサービスに対する支払として,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します。

 

顧客に支払われる対価の一部についての取引価額の減額

企業が約束した財又はサービスと交換に顧客から受け取る対価の金額と,当該顧客から受け取る別個の財又はサービスと交換に支払う対価の金額が,たとえそれらが別々の事象である場合であっても,リンクしていることがあります。例えば,顧客が,企業からの財又はサービスに対して,もし企業から支払を受けていなければ支払ったであろう金額よりも多く支払うことがあります。そうした場合に収益を忠実に描写するため,企業が受け取る別個の財又はサービスに対する支払として会計処理する金額は,当該財又はサービスの公正価値に限定し,公正価値を超過する金額があれば取引価格(収益)の減額として認識します(BC 257)。

上記(製品陳列サービス)の事例で,もし,顧客に支払われる対価が製品陳列サービスの公正価値を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

顧客の顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価には,企業が直接,顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる対価も含まれます。

例えば,企業が小売業者に製品を販売するとともに,新聞のチラシで消費者に割引クーポンを発行するとします。小売業者は,企業の製品の販売にあたって,消費者から割引クーポンの提示を受けたときは,代金を値引きするとともに,回収した割引クーポンを企業に提出し,企業から,消費者に値引いた金額を補償してもらいます。

このように,企業が直接,顧客(小売業者)から企業の財又はサービスを購入する他の当事者(消費者)に支払う対価も,顧客に支払われる対価に含まれます。この場合の対価の形態は,顧客(小売業者)が企業に対する債務金額に充当できる割引クーポンであり,企業は,顧客に対し,消費者が企業の製品の購入にあたって提示した割引クーポンを企業に提出することを条件として,消費者に値引いた金額を補償することを約束しています。

企業は,顧客から,割引クーポンと交換に別個の財又はサービスを受け取っていませんので,取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

☞企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払うか,又は支払うと見込んでいる場合に,顧客に支払われる対価と類似の支払を区別し,①顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金については,取引価格(収益)を減額し,②顧客から受け取る財又はサービス(企業から顧客に移転する財又はサービスとは別個のものに限ります。)と交換のための対価については,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理し,③①と②の組合せについては,企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合にその超過額を取引価格(収益)の減額として会計処理します。

 

7.取引価格の減額の方法


取引価格の減額の会計処理を行う時点

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,企業は,次の事象のうち遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識しなければなりません(第72項)。

a 企業が,関連する財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時

b 企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)

顧客に支払われる対価を取引価額の減額として会計処理する場合には,関連した履行義務の充足時に収益を減額して認識します。また,企業が履行義務を充足して収益を認識した後になってはじめて顧客に支払われる対価を約束する場合もありますが,この場合は,既に認識した収益の減額を直ちに認識することになります。

 

顧客に支払われる対価の変動性

顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第70項)

本基準は,企業が遅くとも顧客に支払われる対価を「約束」する時点で取引価格に反映すべきである旨を明確化しています。企業は,将来の事象の発生又は不発生を条件として顧客に支払われる対価を約束する場合も,約束の時点で,その不確実性を反映して取引価格を測定します(BC 258)。

上記(割引クーポンの発行)の事例で,企業は,①小売業者に製品を引き渡した時,又は②消費者にクーポンを発行した時のいずれか遅い時に,収益の減額を認識します。その時点では,消費者が割引クーポンを行使するかどうかという不確実性のため,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれています。そこで,企業は,変動対価に関する本基準第50項~第58項に従い,変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価も含めて,取引価格を見積ります。

 

☞企業は,①約束した財又はサービスの顧客への移転についての収益を認識する時,又は②企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)の遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益の減額を認識します。企業は,企業が対価の支払を約束する時点で,顧客に支払われる対価に変動性のある金額が含まれている場合は,変動対価に関する本基準第50項~第58項(変動対価の見積りが制限されるのかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.01更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約における重大な金融要素の存在

 

2017年9月1日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「契約における重大な金融要素の存在」 目次と概要

 

1.Step3-② 契約における重大な金融要素の存在

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合は,企業は,約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整する必要があります(第60項)。

ただし,実務上の便法として,企業が,契約開始時において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

 

☞企業は,契約の当事者が合意した支払の時期(財又はサービスの顧客への移転の時点とそれに対する顧客の支払の時点が1年以内と見込んでいる場合を除きます。)により,顧客又は企業に資金提供の重大な便益が提供される場合は,契約において約束された対価から貨幣の時間価値の影響を調整し,包括利益計算書において,金利収益又は金利費用を顧客との契約から生じる収益と区別して表示します。

 

2.金融要素の影響の調整

 

金融要素を含んだ契約

顧客との契約の中には金融要素を含んだ契約がありますが,そうした契約は,概念上,販売に係る取引(売買契約)と金融に係る取引(融資契約)の2つの取引が含まれ,名目的な現金販売価格についての収益要素と,後払い(延払い)又は前払いの条件の影響による金融要素に区分することができます。

本基準は,中心(コア)となる原則として,企業が約束した財又はサービスと交換に得る対価を反映する金額で収益を認識するという原理を採用していますが(第2項),金融要素を含んだ契約において約束された対価は,金融要素の影響を含んでいるため,約束した財又はサービスの対価を忠実に反映していません。そのため,契約において約束した対価から金融要素の影響を調整しなければ,約束した財又はサービスの顧客への移転時に誤った金額の収益を認識してしまうおそれがあります。また,重大な金融要素を識別することにより,顧客との契約の重要な経済的特徴(財又はサービスの移転を目的とする契約が融資契約を含んでいること)に関する有用な情報を財務諸表利用者に提供します。

 

目的

契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの当該財又はサービスが移転される時点の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります(第61項,BC 230)。

現金販売価格とは,約束した財又はサービスが顧客に移転された時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金を支払ったとした場合に,約束した財又はサービスに対して顧客が支払ったであろう価格をいいます(第61項)。

 

☞企業が契約において約束された対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時における現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります。

 

3.重大な金融要素

 

要件

企業は,①契約の当事者が(明示的に又は黙示的に)合意した支払の時期により,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定し,契約において約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整しなければなりません(第60項)。

①契約の当事者が(顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる)支払の時期を合意することは,契約に重大な金融要素が存在する前提条件となります。

顧客への財又はサービスの移転のかなり前又はかなり後に支払期限が到来することは,契約が金融要素を含んでいるための必要条件ではありますが,契約に定められた支払の時期だけが,金融要素の調整の必要性を決定づけるものではありません。財又はサービスの移転と支払との間に相当の期間があっても,それらの時期が異なる理由が,企業と顧客との間での融資契約に関するものではない場合もあります。

そこで,本基準は,契約の当事者が合意した支払の時期によって,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,契約が重大な金融要素を含んでいると判定することとしています(BC 231)。

重大な金融要素は,資金提供の約束が契約に明記されているか,契約の当事者が合意した支払条件に含意されているかを問わず,存在する可能性があります(第60項)。

 

要素

契約が重大な金融要素を含んでいるかどうかは,①契約が金融要素を含んでいるかどうかと②金融要素が契約とって重大であるかどうかの2つの要素により構成されます(第61項)。

このうち②について,企業は,あくまで契約にとって(契約レベルでの)金融要素が重大かどうかを考慮します。多くの契約については,金融要素の影響が顧客との契約に関して認識すべき収益の金額を大きくは変更しないため,金融要素が重大ではないと考えられます。

企業によっては,類似した契約のポートフォリオレベルについての金融要素の複合した影響が企業全体にとって重要性がある場合もありますが,個々の契約にとって金融要素の影響が重大でない限り,重大な金融要素を識別する必要はありません(BC 234)。

 

両面性

企業は,契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より後払いを合意するときは,企業から顧客に対して,また,前払いを合意するときは,顧客から企業に対して,それぞれ資金提供の重大な便益が提供されるかどうかを判定します。

契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期より前払いを合意し,顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合には,企業が受け取った現金よりも多額の収益を認識する結果になります。

このような結果は,従来の実務を変更することとなり,顧客が金融以外の理由(例えば,顧客に重大な信用リスクがある場合や顧客が事前の契約コストを企業に補償する場合)で前払いする取決めの経済的実質が反映されないことと平仄が合わないなどの問題も指摘されています(BC 237)。

しかし,例えば,企業が,長期の工事請負契約に必要な資材の調達資金の提供を受けるために顧客との間で多額の前払いを合意する場合,そのような合意をしない場合に比べ,契約において約束された対価の金額は,第三者から金融を得るための財務コストの分だけ低くなりますが,約束された財又はサービスが同一であるにもかかわらず,企業が資金提供の重大な便益を顧客から受けるか第三者から受けるかによって認識すべき収益の金額が異なるべきではありません。そこで,本基準は,契約の当事者が前払いの合意により顧客から企業に対して資金提供の重大な便益が提供される場合にも,前払いによる重大な金融要素の影響を調整する会計処理を免除しないこととしています(BC 238)。

 

☞企業は,①契約の当事者が顧客への財又はサービスの移転の時期と異なる支払の時期を合意し,かつ,②顧客又は企業に顧客への財又はサービスの移転に係る資金提供の重大な便益が提供される場合に,重大な金融要素を識別します。

 

4.重大な金融要素の識別

 

指標

企業は,①契約が金融要素を含んでいるかどうか,②金融要素が契約とって重大であるかどうかを評価するにあたって,以下の指標を含め,すべての関連性のある事実及び状況を考慮しなければなりません(第61項,BC 232)。

a 契約において約束された対価の金額と,約束した財又はサービスの現金販売価格との差額

企業(又は他の企業)が,支払条件の時期に応じて,同一の財又はサービスを異なる対価の金額で販売する場合には,一般的に,各当事者が契約に金融要素があることを認識しています。ただし,この差額が金融以外の要因による場合もあります(第62項参照)。

b 次の両者の組合せ

ⅰ 企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と,顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の予想される期間の長さ

ⅱ 関連性のある市場での実勢金利

財又はサービスの移転と支払の時期が異なることは,重大な金融要素の存在を決定づけるものではありませんが,支払時期と実勢金利の影響の複合によって,資金提供の重大な便益が提供されていることを示す強い指標になる場合があります。

 

重大な金融要素の不存在を示す要因

企業は,以下の要因のいずれかが存在するときは,契約に重大な金融要素が存在しないと判定します(第62項,BC 233)。

a 顧客が財又はサービスに対して前払いしており,当該財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる。

カスタマー・ロイヤルティ・ポイントなど幾つかの類型の財又はサービスについては,顧客が当該財又はサービスについて前払いを行い,当該財又はサービスの顧客への移転が顧客の裁量で決まります。そうした財又はサービスに対する支払条件の目的は,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

b 顧客が約束した対価のうち相当な金額に変動性があり,当該対価の金額又は時期が,顧客又は企業の支配が実質的に及ばない将来の事象の発生又は不発生に基づいて変動する(例えば,対価が売上高ベースのロイヤルティである場合)。

ロイヤルティ契約など一部の契約では,財又はサービスに関して重大な不確実性があるため,当事者が対価の金額と支払時期を固定したくない場合があります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,財又はサービスに対する対価の不確実性を解消し,その価値の保証を提供することにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

c 契約において約束された対価と財又はサービスの現金販売価格との差額が,顧客又は企業のいずれかに対する資金提供以外の理由で生じており,それらの金額の差額が相違の理由に見合っている。例えば,支払条件が,企業又は顧客に,相手方が契約に基づく義務の一部又は全部を適切に完了できないことに対しての保護を提供する場合がある。

状況によっては,業界又は法域での典型的な支払条件に従った前払い又は後払いには,金融以外の主目的がある場合があります。例えば,我が国の民法では,請負契約の報酬は,特約がない限り後払いとされ,建設業界の工事請負契約の標準約款でも完成・引渡し時に対価の一部又は全部を支払うものとされているように,顧客が契約の完成時又は所定のマイルストーンの達成時まで対価の一部又は全部の支払を留保する場合があります。逆に,限定された財又はサービスの将来の供給を確保するために,顧客が対価の一部を前払いすることを求められる場合もあります。そうした財又はサービスに対する支払条件の主目的は,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与えることにあり,顧客又は企業に資金提供の重大な便益を提供することではないと考えられます。

 

☞企業は,重大な金融要素の識別にあたって,①現金販売価格,②(a)支払時期と(b)実勢金利との影響の複合を考慮します。ただし,①顧客が前払いした財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる場合や,②変動対価の金額や支払時期に対して当事者の実質的コントロールが及ばない場合,③現金販売価額との差額が資金提供の便益以外の理由に見合っている場合(例えば,当事者が契約に基づいて満足のいくように義務を完了するという保証を相手方に与える場合)は,重大な金融要素を識別しません。

 

5.実務上の便法

 

企業は,契約開始時において,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素の影響について調整する必要はありません(第63項)。

本基準は,企業に重大な金融要素の識別や割引率の決定などを免除して本基準の適用を簡素化するため,資金提供の便益が1年以内であることに限定し,実務上の便法を容認しています(BC 236)。ただし,財又はサービスの移転と支払との間が1年以内のときは重大な金融要素の影響を調整しないという実務上の便法は,類似した状況における類似した契約に一貫して適用すべきです(BC 235)。

 

☞企業は,実務上の便法として,契約開始時において,財又はサービスの移転と支払との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合には,契約において約束した対価の金額から重大な金融要素の影響を調整する必要はありません。

 

6.調整に用いる割引率

 

重大な金融要素の調整に用いる割引率

本基準は,重大な金融要素の調整に用いる割引率として,以下の利率を採用せず,契約開始時における企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率を採用しています。企業と顧客との間で財又はサービスの提供を伴わない金融取引で使用される利率が,その契約において資金提供を受ける当事者の特性を,顧客又は企業が提供する担保又は保証とともに,当事者の信用度その他のリスクを含めて反映するからです(BC 239)。

● 契約で明示された利率

契約に利率が明示されていたとしても,その利率を割引率として使用できるとは限りません。企業が,顧客との契約にあたって,販売インセンティブとして安価な金融を提供する場合もありますので,契約で明示された利率を割引率として使用すると,契約の存続期間にわたる収益の適切な認識とはならないおそれがあるからです(BC 239)。

● リスクフリー金利

リスクフリー金利は,多くの法域において観察可能であり,割引率として使用すれば,各契約に固有の利率を算定するコストがかかりません。しかし,本基準は,リスクフリー金利を割引率として使用することにより生じる金利収益又は金利費用は,契約の当事者の特性を反映しないため,有用な情報をもたらさないことから,割引率として使用しないこととしています(BC 239)。

 

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率

企業は,契約において約束した対価の金額を重大な金融要素について調整するにあたって,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません(第64項)。

企業と顧客との間の独立した金融取引に用いられる割引率の決定にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮します(第64項)。

 

現金販売価格への割引率

企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格(=約束した財又はサービスが顧客に移転される時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金で支払うであろう価格)に割り引く率として特定することができる場合があります(第64項)。

 

割引率の再評価

企業は,契約開始時に決定した割引率は,たとえその後に金利又は他の状況(顧客の信用リスクの評価など)の変動があったとしても,見直してはなりません(第64条,BC 242,243)。

 

☞企業は,重大な金融要素の調整にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(契約で移転される資産を含みます。)も考慮し,契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されるであろう割引率を使用しなければなりません。この割引率は,契約において約束された対価の名目金額を現金販売価格に割り引く率として特定できる場合があります。

 

7.重大な金融要素の影響の表示

 

顧客との契約から生じる収益と区別した表示

企業は,金融の影響(金利収益又は金利費用)を,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と区別して表示しなければなりません(第65項)。

重大な金融要素を有する契約には別個の経済的特性(一方は財又はサービスの顧客への移転に関連し,他方は融資契約に関連する)が含まれており,それらの特性は区分して会計処理及び表示を行うべきだからです。

そこで,金融の影響(契約において約束された対価のうち割引率を使用して調整した部分が時の経過とともに調整が戻されること=いわゆる割引の巻戻し)は,顧客との契約から生じる収益とは区分して,収益の測定の変更としてではなく,金利収益又は金利費用として表示します(BC 246)。

 

契約資産(債権)・契約負債に対する付従性

金利収益又は金利費用は,契約資産(債権)又は契約負債が顧客との契約の会計処理において認識される範囲でのみ認識します(第65項)。

本基準により,顧客との契約から契約資産(債権)又は契約負債を認識している間だけ金利収益又は金利費用を認識しますが,契約資産(債権)又は契約負債を認識しなくなった場合には,金利収益又は金利費用を認識しません。

 

☞企業は,包括利益計算書において,顧客との契約から生じる収益と金融の影響(金利収益又は金利費用)を区別して表示します。

 

8.顧客の信用リスク

 

これまで,重大な金融要素を有する契約について,収益の表示も含めて解説しましたが,ここで,重大な金融要素を有する契約に限らず,顧客との契約全般について,顧客の信用リスクに関する会計処理及び表示について解説します。

 

契約開始時における顧客の重大な信用リスク

本基準は,販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(不良債権)を区別して有用な情報を提供するため,取引価格に顧客の信用リスクを反映しないこととしています(BC 259,260)。ただし,契約開始時から顧客に重大な信用リスクがある一部の取引について,企業が財又はサービスの移転について収益を「グロスアップ」して認識し,同時に多額の貸倒費用を認識することは,取引を忠実に表現せず,有用な情報を提供しません(BC 265)。そこで,本基準は,その適用対象となる契約について,契約開始時において,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと(顧客に重大な信用リスクがないこと)を要件としています(第9項(e))。

 

金融要素のない顧客との契約から生じた債権の減損損失の表示

本基準は,金融要素のない顧客との契約から生じた短期営業債権に係る減損損失を他の減損損失と区分して表示するものとしています(第113項(b))。

これにより顧客との契約から生じた収益総額(収益の趨勢情報)と債権管理(又は不良債権)に関する減損損失を区別して有用な情報を提供することができます(BC 264)。

減損損失は,必ずしも契約開始後,収益を認識した報告期間内に発生するものではなく,過去の報告期間に認識された収益に関するものもあり,これらを区別する情報を入手するため多額のコストがかかるおそれがあることから,本基準は,収益の科目と減損損失の科目を近くに表示して関連づけることを求めないこととしています(BC 261~263)。

 

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権の減損損失の表示

顧客との契約の重大な金融要素から生じた債権に係る減損損失は,他の類型の金融資産についての減損損失ととともに整合的に表示します(BC 245)。

顧客との契約の金融要素から生じた債権は,金融に係る取引(融資契約)から生じた債権と同じ取り扱いをすべきだからです(BC 244)。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.08.21更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

変動対価

 

2017年8月21日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「変動対価」 目次と概要

 

1.Step3「取引価格を算定する」の概要

 

企業は,契約における履行義務を識別した後の次のステップで,契約開始時に,当該契約に係る取引価格を算定します。

顧客が固定額の現金対価を支払うと約束する場合は,単純に契約において約束された対価から取引価格を算定できますが,本基準は,契約において約束された対価から単純に取引価格を算定できない次の4つの類型について,取引価格の算定の指針を示しています(第48項,BC 188)。

1 変動対価/変動対価の見積りの制限

2 契約における重大な金融要素の存在

3 現金以外の対価

4 顧客に支払われる対価

 

☞企業は,契約開始時に,契約において約束された対価から取引価格を算定します。特に4つの類型(①変動対価,②契約における重大な金融要素の存在,③現金以外の対価,④顧客に支払われる対価)について,本基準に従って取引価格を算定します。

 

2.Step3-① 変動対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれている場合には,企業は,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることとなる対価の金額を見積る必要があります(第50項)。

また,企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲でのみ,変動対価の金額の全部又は一部を取引価格に含めます(第56項)。

 

3.取引価格とは

 

“取引価格”とは

本基準は,“取引価格”(transaction price)を,「約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額(第三者のために回収する金額を除く)」と定義づけています。

 

配分後取引価格アプローチ

本基準は,契約に基づく収益認識の原則を採用するとともに,財又はサービスを提供する義務(負債)の測定を,取引価格を契約における各履行義務に配分して行うアプローチ(配分後取引価格アプローチ)を採用しています(BC 25,26,181,183)。

他方,契約上の義務を,企業が独立した第三者に移転すると仮定した場合にその第三者から支払を求められる対価(債務引受けの代金)の金額で測定するアプローチ(現在出口価格アプローチ)も考えられます。

しかし,現在出口価格アプローチでは,契約開始時において,一般的に対価を受け取る権利(資産)の測定値が財又はサービスを提供する義務(負債)の測定値を上回るため,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する前に収益を認識してしまいます(BC 25)。

また,現在出口価格アプローチでは,残存履行義務を各報告期間の末日現在で直接的に測定しますが,現在出口価格は,通常は観察可能ではなく,見積りが複雑でコストがかかり,検証が困難になるおそれがあります。しかも,約束した財又はサービスの価値の変動性は,本来的に小さいか,又は顧客への移転までの比較的短期間では限定的であり,財務諸表利用者に追加的な情報をほとんど提供しません(BC 25,182)。

このような理由から,本基準は,現在出口価格アプローチを採用していません(BC 25~27,182)。

 

取引価格の基礎となる対価

取引価格には,企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額(変動性のある金額を含みます。)だけを含め(BC 186),新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の金額を含めません。

例えば,顧客が現在の契約に含まれる追加的な財又はサービスに対するオプションを行使したときは,企業と顧客との間に独立販売価格より重要な値引きがされた価格で追加的な財又はサービスを提供する新たな契約が成立しますが,新たな契約に係る対価(独立販売価格より重要な値引きがされた価格)は,現在の契約に係る取引価格に含めません(BC 186)。

また,顧客が現在の契約から新たな取引価格に変更することが予測されるとしても,企業と顧客との間に変更契約(新たな契約)が成立するまでは,新たな契約に係る対価は,現在の契約に係る取引価格に含めません(BC 186)。

以上のように,新たに成立する契約に係る対価は,企業は,未だ対価に対する権利を有していませんので,現在の契約に係る取引価格の算定に含めません(BC 186)。

 

取引価格の支払者

企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額は,いかなる当事者が支払ってもよく,顧客以外の当事者が支払う場合でも取引価格に含まれます。

例えば,ヘルスケア(医療介護)業界では,患者(顧客)だけでなく,保険会社あるいは政府機関から対価の支払を受ける権利を得ることとなる金額に基づいて取引価格を算定します。他の業界でも,例えば,仕入先であるメーカー(製造業者)が企業の顧客に直接クーポン又はリベートを発行するときは,企業は,顧客が使用したクーポン又はリベートに基づきメーカーから支払を受ける権利を得ることとなる金額も取引価格に含めます。

しかし,我が国における消費税(一部の法域における売上税や付加価値税)などのように,企業が他の当事者に代わって回収する金額は,取引価格に含めません(BC 187)。

 

顧客の信用リスク

取引価格には,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が“権利を得る”と見込んでいる対価の金額を基礎とし,企業が権利を得たとしても顧客の信用性リスクのために受け取れないと見込んでいる対価の金額も含みます。言い換えれば,取引価格は,企業が“受け取る”と見込んでいる対価の金額ではありませんので,企業が契約に従って権利を得る対価の金額を顧客から回収できないというリスク(顧客の信用リスク)は取引価格に反映されません(BC 259)。

財務諸表利用者にとって,収益を「総額」で測定する方が,企業で別々に管理されている販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(不良債権)を区別して評価し得る有用な情報を提供するからです(BC 260)。

 

☞企業は,現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額を基礎に取引価格を算定し,現在の契約と関連する新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の金額は取引価格に含めません。また,取引価格には,保険会社,政府機関,顧客に直接クーポン等を発行する仕入先など顧客以外の当事者が支払う場合も含めますが,消費税など企業が他の当事者に代わって回収する金額は含めません。

 

4.取引価格の算定

 

取引価格は,契約において約束された対価を基礎に算定します。

企業は,取引価格を算定するために,契約の条件及び自らの取引慣行を考慮しなければなりません(第47項)。

契約において約束された対価の性質,時期及び金額は,取引価格の算定に影響を与えます(第48項)。

取引価格を算定する目的上,企業は,財又はサービスが現行の契約に従って約束どおりに顧客に移転され,契約の取消し,更新,変更はないものと仮定します(第49項)。

 

5.変動対価の識別

 

変動対価とは

変動対価とは,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれているものをいいます(第50項)。

変動対価は,企業が契約に基づいて権利を得ることとなる対価が変動する可能性のあるすべての状況で生じる可能性があり(BC 190),例えば,値引き,リベート,返金,クレジット,価格譲歩,インセンティブ,業績ボーナス,ペナルティー,又はその他の類似の項目によって,対価の金額の変動が生じる場合があります(第51項)。

 

変動対価の識別

企業は,顧客が契約において変動対価を約束するときは,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることとなる対価の金額を見積る必要がありますので(第50項),どのような場合に変動対価が顧客との契約の中に存在するのかを識別しなければなりません(BC 189(a))。

 

変動性にかかる条件

顧客が契約において変動性のある対価を算定することを約束する場合だけでなく,契約において約束された対価に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合にも,対価の金額が変動する可能性があります(第51項)。

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に条件が付されているときは,たとえ契約に明示された価格が固定されていても,変動対価に該当します。

例えば,製品が返品権付きで販売された場合,顧客が返品権を行使するという条件の成就により企業がいったん受け取った対価を顧客に返金する義務が発生しますので,変動対価に該当します。契約に明記された価格が固定されていても,企業は,固定された価格すべてに対する権利を得るか,又は固定された価格に対する権利を全く得ないかのいずれかの可能性があり,対価が変動するからです(BC 191)。

他方,期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に期限が付されていても,変動対価には該当しません。企業が約束した財又はサービスを顧客に移転した時に又はその後に,あるいは移転と引き換えに,対価に対する企業の権利が発生しても,対価の金額は変動しません。

 

変動性に関する明示~価格譲歩~

顧客が約束した対価に関する変動性は,契約に明示されることが少なくありませんが,企業が契約に明示された価格よりも低い価格を受け入れる可能性がある(契約が黙示的な価格譲歩を含んでいる)ために,約束された対価に変動性があることもあります(BC 192)。

企業は,契約の条件に加えて,次の状況のいずれかが存在する場合には,約束された対価に変動性があると判定します(第52項)。

a 顧客が,企業の取引慣行,公表した方針及び具体的な声明から生じた妥当な期待として,企業が契約に記載された価格よりも低い対価の金額を受け入れるであろうという期待を有している。すなわち,企業が価格譲歩を提供すると期待されている。

例えば,企業が顧客との関係を強化して当該顧客への将来の販売を促進する目的で,過去に当該顧客に販売した商品につき当該顧客が容易に第三者に売却できるよう値引きすることを可能にするために価格譲歩することがありますが,企業の取引慣行,公表した方針及び具体的な声明から,企業がそのような価格譲歩をするであろうという妥当な期待を顧客が有しているときは,約束した対価に変動性があると判定します(BC 192)。

b 他の事実及び状況により,顧客との契約を締結する際の企業の意図が,顧客に価格譲歩を提供することであることが示されている。

企業の取引慣行,公表した方針及び具体的な声明がないものの,例えば,企業が新規顧客との関係を開発する戦略のため,当該顧客と契約を締結する場合に,他の要因により,企業が契約に明示された価格よりも低い価格受け入れる意図があるという状況が存在するときは,約束した対価に変動性があると判定します(BC 193)。

 

☞企業は,顧客が契約において変動性のある対価を算定することを明示に約束する場合だけでなく,①約束された対価(価格が固定されている場合を含みます。)に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合や,②企業が契約に明示された価格よりも低い価格を受け入れるであろうという顧客の妥当な期待や企業の意図がある一定の状況が存在する場合にも,変動対価を識別します。

 

6.変動対価の見積りの方法

 

変動対価の見積り

企業は,変動対価を識別したときは,適切な方法により変動対価の金額を見積る必要があります(BC 189(b))。

本基準は,変動対価の金額の見積りに関し,その目的を明示し,適切な測定方法を限定しています。経営者に自由に見積りの方法を選択することを容認することは,財務諸表利用者にとっての理解可能性や企業間の比較可能性を損なうおそれがあるからです(BC 196~198)。

 

変動対価の見積りの方法

企業は,次のいずれかの方法のうち,企業が権利を得ることとなる対価の金額をより適切に予測できると見込んでいるものを用いて,変動対価の金額を見積らなければなりません(第53項,BC 195)。

a 期待値

期待値とは,考え得る対価の金額の範囲における確率加重金額の合計をいいます。

期待値は,報告期間の末日現在の不確実性のすべてを反映しますので,とりわけ,企業が特徴の類似した多数の契約を有している場合には,変動対価の金額を適切に見積ることができます。他方で,契約で生じ得る結果が2つしかない場合などでは,期待値は,契約に従って生じ得ない結果(金額)を示すこともあり,必ずしも企業が権利を得ることとなる金額を忠実に予測しない場合があります(BC 199,200)。

b 最も可能性の高い金額

最も可能性の高い金額とは,考え得る対価の金額の範囲における単一の最も可能性の高い金額をいいます。

契約で生じ得る結果が2つしかない場合には,変動対価の金額を適切に見積ることができます(BC 200)。

 

合理性の原則

企業は,変動対価の見積りにあたって,企業が合理的に利用可能なすべての情報(過去,現在及び予想)を考慮しなければならず,合理的な数の考え得る対価の金額を識別しなければなりません(第54項)。

 

一貫適用の原則

企業は,契約全体を通じて,変動対価の見積りに関する一つの方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第54項)。

 

☞企業は,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,①期待値又は②最も可能性の高い金額のうち企業が権利を得ることとなる対価の金額をより適切に予測できると見込んでいる方法を使用し,合理的な数の結果(金額)を識別して変動対価を見積ります。

 

7.変動対価の見積りの制限

 

変動対価の見積りの制限

本基準は,変動対価の見積りの不確実性が高すぎるときは,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を忠実に描写しないおそれがあることから,財務諸表利用者に有用な情報を提供するために,変動対価の見積りの一部又は全部を取引価格に含めないこととしています(BC 203)。

そこで,企業は,どのような場合に,そうした変動対価を制限し,取引価格に含めるべきでないのかを判定する必要があります(BC 189(c))。

 

目的

財務諸表利用者が企業の将来の収益をより適切に予測するためには,ある報告期間における収益の測定値が,その後の報告期間に重大な戻入れが生じないことが有用であるといえます。そこで,本基準は,変動対価の見積りの制限に関し,収益の下方修正(収益の戻入れ)を制限することに焦点を置き,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じないことを目的としています(BC 206,207)。

また,本基準は,変動対価の見積りの制限が,どの程度(レベル)の確度で重大な収益の戻入れが生じないことを確保するのか,という問題(確信のレベル)を実務的に統一するため,「非常に可能性が高い」という用語によりそのレベルを明示しています(BC 208~212)。

 

要件~考慮すべき要素と要因~

企業は,見積られた変動対価の金額の一部又は全部を,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲でのみ,取引価格に含めなければなりません(第56項)。

企業は,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いかどうかを評価するにあたって,収益の戻入れの①確率と②大きさの両方を考慮しなければなりません。

 

変動対価の見積りの一部の制限

企業は,変動対価の見積りの一部を取引価格に含めたときは,収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いと評価する場合には,変動対価の見積り全体を取引価格から除外する必要はなく,その一部を取引価格に含めるべきです(BC 218)。

ただし,知的財産のライセンスとの交換で約束された売上高ベース又は使用量ベースのロイヤルティの形態の対価については,適用指針(B 63)を適用して会計処理しますので,企業は,不確実性が解消される(顧客に売上又は使用が生じる)までは,収益を認識してはなりません(第58項,BC 219)。

 

☞企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いといえない場合は,見積られた変動対価の金額の一部又は全部を制限し,取引価格に含めません。

 

8.取引価格の事後の変動

 

取引価格の事後の変動

本基準は,各報告期間末現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を描写するため,企業が契約期間全体を通じて取引価格の見積りを見直すものとし(BC 224),取引価格のその後の変動の会計処理を定めています(BC 189(d))。

 

変動対価の再判定

企業は,各報告期間末において,各報告期間末現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を忠実に反映するために,変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価も含め,見積った取引価格を見直さなければなりません。企業は,見直した取引価格について,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,取引価格の変動の会計処理(第87項~第90項)を行います(第59項)。

 

☞企業は,契約開始時に見積った変動対価について,契約期間全体を通じ,各報告期間末において取引価格を見直し,取引価格の変動の会計処理(第87項~第90項)を行います。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.08.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

履行義務の識別

 

2017年8月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 5ページ

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「履行義務の識別」 目次と概要

 

1.Step2-③ 履行義務の識別

 

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後(Step2-①契約における約束の識別),別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します(Step2-②別個の財又はサービスの識別)。そして,最後に,企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)から,区分して会計処理をする単位として履行義務を識別します(第22項)。

本基準は,“別個の財又はサービス”という概念では,反復的なサービス契約などで費用対効果が低い多数の会計単位を識別してしまうという運用上の問題を解決するため,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスについて,単一の履行義務を識別するものとしています(第22項(b))。

そのほかは,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します(第22項(a))。

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)のうち,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しますが,それ以外は,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。

 

2.履行義務とは

 

履行義務の定義

本基準は,“履行義務”(performance obligation)を,次にように定義しています(BC 84,86)。

顧客に次のいずれかを移転するという当該顧客との契約における約束

(a) 別個の財又はサービス(あるいは財又はサービスの束)

(b) ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス

 

履行義務の識別の目的

本基準は,中心(コア)となる原則として“企業は,約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように収益を認識しなければならない”という原理を採用しています(第2項)。

本基準は,この原理を実現するため“履行義務”という会計単位を用いています。履行義務は,企業が契約において約束した財又はサービスに関する会計単位をいい,企業が負う財又はサービスを提供する義務を一つ又は複数に区分して識別したものです。この会計単位に当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価(取引価格)を配分することにより(配分後取引価格アプローチ),財又はサービスが顧客に移転するごとに(又は移転するにつれて)その会計単位に配分されている対価を収益として認識します。

履行義務の識別は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位を適切に識別することを確保することを目的としています(BC 85)。

 

☞企業は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位として履行義務を適切に識別しなければなりません。

 

3.履行義務の識別

 

履行義務の識別

履行義務は,(a) 別個の財又はサービス(あるいは財又はサービスの束)又は(b) ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスのいずれかを移転するという当該顧客との契約における約束をいいますが,本基準は,このうち(b)の“ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである”と判定するための要件を定立し(第23項),この要件を満たす一連の別個の財又はサービスについて単一の履行義務を識別することを求めています。

この要件を満たさない場合は,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップで識別した別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。

 

別個の財又はサービスとの関係

本基準は,契約変更及び変動対価の配分における判定にあたって,財又はサービスを提供する義務に関する会計単位を用いますが,企業がほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しているときは,その目的上,“履行義務”という会計単位ではなく,“別個の財又はサービス”という会計単位を用いることに留意する必要があります(BC 115)。

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)について,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の財又はサービスの要件を満たすときは,単一の履行義務を識別し,その要件を満たさないときは,それぞれの別個の財又はサービス(の束)を履行義務として識別します。

 

4.ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス

 

概要

反復的なサービス契約(例えば,清掃契約や取引処理,電力を供給する契約)などで,企業がほぼ同一の財又はサービスを一定の期間にわたり連続的に提供する状況では,もし,第22項(b)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めなければ,契約において提供すべき個々のサービスごとに複数の別個の財又はサービスを識別し,全体の対価(取引価格)を独立販売価格に基づいてそれぞれの増分(例えば,清掃の1時間ごと)に配分することが要求されることになりますが,収益認識モデルをこのような方法で適用することは,費用対効果が低いと考えられます。

そこで,本基準は,このような運用上の問題を解決し,収益認識モデルを単純化して,コストを軽減するため,第22項(b)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めることによって,履行義務の識別における首尾一貫性を高めています(BC 113,114)。

 

要件

企業は,以下の要件のすべてに該当するときは,一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しなければなりません(第22項(b))。

別個の財又はサービスがほぼ同一であること

別個の財又はサービスがほぼ同一(同種)であること。

別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであること

次の両方の要件を満たすときに,別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであると評価します(第23項)。

a 企業が顧客への移転を約束している一連の別個の財又はサービスのそれぞれが,第35項における一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすこと

b 第39項・第40項に従って,一連の別個の財又はサービスのそれぞれを顧客に移転する履行義務の完全な充足に向けての企業の進捗度の測定に,同一の方法が使用されること

企業が,別個の財又はサービスのそれぞれについて,一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定方法に同一の方法を使用することが,本基準第39項・第40項に従って適切でなければなりません。

 

類似した状況における適用

第22項(b)の一連の別個の財又はサービスは,一定の期間にわたり充足される履行義務であり(BC 113),企業は,識別した単一の履行義務に取引価格を配分し,単一の進捗度の測定値を適用することになります。

他方,複数の数量の同種の財又はサービスを同時に提供するときのように,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである複数の別個の財又はサービスが一時点で充足される履行義務であるときは,第22項(b)の要件を満たしませんので,別個の財又はサービスに同じ一時点で充足される複数の履行義務を識別して会計処理することになります。

このような顧客に同時に移転する複数の別個の財又はサービスについて,一時点で充足される履行義務をそれぞれ識別して会計処理した結果と同じであれば,本基準は,企業がそれらを単一の履行義務であるかのように,まとめて会計処理することを禁止しているわけではありません(BC 116)。

 

☞企業は,複数の別個の財又はサービス(の束)について,①別個の財又はサービスがほぼ同一(同種)であり,②いずれも一定の期間にわたり充足される履行義務であり,かつ,③それらの履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定方法に同一の方法を使用することが適切であるときは,単一の履行義務を識別します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.07.25更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

別個の財又はサービスの識別

 

2017年7月25日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「別個の財又はサービスの識別」 目次と概要

 

 

1.Step2-② 別個の財又はサービスの識別


Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。“別個の財又はサービス”という概念は,次のaとbの特性をいずれも備える会計単位です(第27項)。

a 顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること 

個々の財又はサービスが,最低限,顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません(第27項(a))。

b 財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること

たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約における約束として他と区分して識別可能でない財又はサービスの束は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません(第27項(b))。

 

☞企業は,識別した契約における約束を,①最低限,顧客に便益を提供し得る単位より細分化しない,②契約における約束として他と区分して識別し得る単位より分離しない,という2つのルールに従い,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。

 

2.契約における約束の目的となる財又はサービス

 

契約における約束の類型とその目的となる財又はサービス

財又はサービスは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源,すなわち資産です。サービスは,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第33項)。 

本基準は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,財又はサービスそのものではなく,まず,契約において財又はサービスを顧客に移転する約束(契約における約束)を識別するものとしています。例えば,企業が顧客に塗装サービスを提供する契約では,塗装に用いられるであろう下塗材や塗料,その他の財も顧客に移転しますが,このような契約に明示的に約束されたもの以外の個々の財又はサービスまで網羅的に識別することは,履行義務を識別する目的にとっては必要がなく,無駄な事務負担となります。

そこで,企業は,Step2-①契約の約束の識別のサブ・ステップで,契約における約束を漏れなく識別した後に,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップでは,契約における約束の目的となっている財又はサービスに着眼し,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。 

本基準は,企業が約束した財又はサービスを識別するのに役立てるため,本基準第26項で,企業が識別すべき契約における約束の類型とその目的となる財又はサービスを例示しています(BC 91)。

 

待機する又は利用可能にするサービス(BC 91(a))

企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスの性質及び企業の履行の性質を考慮しなければなりません。例えば,典型的なヘルスクラブ契約では,顧客は,ヘルスクラブの利用回数に関係なく(ヘルスクラブを全く利用しなくとも),期間に応じた一定の対価を支払う義務を負います。このような場合には,サービスの内容は,顧客が要求する一時点でヘルスクラブの利用を提供することではなく,一定の期間にわたりヘルスクラブを利用可能にして待機するサービスです(BC 160)。 

 

将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与(BC 91(b))

顧客又は第三者が,将来,一定の条件が成就したときに,企業に対し,財又はサービスを提供することを強制することが可能になる場合,企業が顧客又は第三者に将来において提供される財又はサービスに対する権利を付与しているといえます。例えば,メーカーが顧客(販売業者)に財を販売するにあたって,販売業者の顧客(エンドユーザー)に追加的なサービス(メンテナンスなどのアフターサービス)を提供することを約束することがあります。このような将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与も企業にとっての履行義務を生じさせます(BC 92)。 

 

顧客に財又はサービスを移転しない活動

企業は,顧客が契約の目的とした財又はサービスを移転するために独立の活動を行うことが必要であっても,それにより顧客に財又はサービスを移転しない活動を履行義務として識別してはなりません。例えば,多くのサービス契約では,サービス提供者が契約をセットアップするために多額の費用を要する種々の管理作業を行うことがありますが,そうした作業を履行しても顧客にサービスが移転しませんので,そのような活動はサービスではありません(第25項,BC 93)。 

 

☞企業は,別個の財又はサービスを識別するため,契約における約束の目的となる財又はサービスに着眼します。 

 

3.別個の財又はサービスの原則

 

別個の財又はサービスの原則

履行義務は,一方では,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個となり得るという特性を備えていなければなりません。この特性を備えないものは,財又はサービス(資産)かどうか疑念が生じ,それを区分して会計処理すれば,財務諸表利用者にとって目的適合性のない情報となるおそれがあるからです(BC 97)。 

他方で,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束は,契約における約束として他と区分して識別可能であるという特性を備えていなければなりません(BC 94,102)。この特性を備えないものに区分して会計処理すれば,企業が顧客との契約における約束を履行することを忠実に描写しない情報となるおそれがあるからです。例えば,建設型又は製造型の契約では,別個となり得る多くの財又はサービス(さまざまな資材,労働力及びプロジェクト管理サービス)を顧客に移転しますが,異なる時期に移転される別個となり得る財又はサービスをすべて区分して会計処理することは,多くの契約にとって実務的ではなく,当該契約における企業の履行の忠実な描写にならないおそれがあります。 

そこで,本基準は,企業が,約束した財又はサービスを,顧客への移転を忠実に描写する収益認識のパターンとなる方法で実務的に区分するため,“別個の財又はサービス”という概念を採用しています(BC 94,95)。

 

別個の財又はサービスの概念

本基準は,「別個のものである(distinct)」という用語の意味(通常の意味では,異なった,区分された,あるいは類似していないものを示します。)を明確化し,次の要件の両方を満たす場合に“別個のもの”と判定するものとしています(第27項,BC 95,96)。 

a 個々の財又はサービスの特性(第27項(a))

顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること。すなわち,当該財又はサービスが別個のものとなり得ること。 

b 契約における約束の区分(第27項(b)) 

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること。すなわち,当該財又はサービスが契約の観点において別個のものであること。 

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,①個々の財又はサービスの特性と②契約における約束の区分に関する両方の要件を満たすときは“別個のもの”として区分することにより,また,いずれかの要件を満たさないときは束ねることにより,別個の財又はサービス(の束)を識別します。

 

4.個々の財又はサービスの特性

 

概要

顧客に約束している財又はサービスは,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません。

 

要件

顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができること(第27項(a))

 

要素

顧客がその財又はサービスから便益を得ることができること

顧客が財又はサービスを使用,消費,売却(スクラップ価値よりも高い金額で),保有し,又は経済的便益を生み出す他の方法で利用することができる場合には,顧客がその財又はサービスから便益を得ることができます(第28項)。 

それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得ることができること

ⅰ その財又はサービス単独で便益を得ることができること 

顧客がその財又はサービスからの便益をそれ単独で得ることができるかどうかは,顧客がその財又はサービスを使用する可能性のある方法ではなく,その財又はサービスそのものの特性を基礎として評価します。したがって,顧客が企業以外の源泉から容易に利用可能な資源を獲得することを妨げる契約上の制約をすべて無視して評価します(BC 100)。 

ⅱ その財又はサービスと顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得ることができること 

容易に利用可能な資源とは,(当該企業又は別の企業が)独立に販売している資源,顧客が既に企業から得ている資源(企業が契約に基づいて既に顧客に提供している財又はサービスを含みます。),又は他の取引・事象から得ている資源をいいます(第28項)。

 

指標

企業がある財又はサービスを通常は独立に販売しているという事実は,顧客が財又はサービスからそれ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができることを示唆します(第28項)。

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができるものでないときは,他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。

 

5.契約における約束の区分

 

概要

個々の財又はサービスが別個のものとなり得る(第27項(a)の要件を満たす)としても,当該契約において約束された財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するため,企業による単一の履行により移転する複数の財又はサービスの束は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません。

 

要件

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であること(第27項(b))

 

分離可能なリスク

本基準は,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能かどうかの評価の基礎として“分離可能なリスク”の概念を用いています。この概念は,「束の中の個々の財又はサービスは,それらの約束した財又はサービスのうちの1つを顧客に移転する義務を履行するために企業が引き受けるリスクが,その束の中の他の約束した財又はサービスの移転から分離不能なリスクである場合には,別個のものではない」と評価することに役立ちます。分離不能なリスクがあるために別個のものではないと評価するときは,多くの場合,別個のものとなり得る財又はサービスが,企業が契約における約束を履行する過程において結合又は改変されるために,それらの財又はサービスの単純な合計よりも価値の大きい(又は実質的に異なる)複合された財又はサービスの別個の束を移転することを企業が約束している状況を示しています。

本基準は,“分離可能なリスク”という基本原則に基づき,その指標として第29項(a)~(c)の補助的諸要因を掲げ,特定の契約又は業界への適用可能性を高めています(BC 103~106)。

 

指標

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であることを示す指標には,次の要因が含まれますが,これらに限定されません(第29項)。また,これらの諸指標は相互に排他的なものではなく,複数の指標が該当する場合もあります(BC 106)。

 

企業が,当該財又はサービスを契約において約束している他の財又はサービスとともに,顧客が契約した結合後のアウトプットを示す財又はサービスの束に統合する重要なサービスを提供していない。言い換えると,企業が当該財又はサービスを,顧客が指定した結合後のアウトプットの製造又は引き渡しのためのインプットとして使用していない(第29項(a))

主に建設業界において,企業が重要な統合サービス(例えば,さまざまな建設作業の管理と調整)を提供する状況では,顧客に対する企業の約束の相当部分が,個々の財又はサービス(例えば,協力業者が行う作業)が契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,建設)に組み込まれること(例えば,建設の設計・仕様に従って行われること)を確保することにあり,個々の財又はサービスは,単一のアウトプットの製造・引き渡しのためのインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,作業の統合に関連したリスク)は分離不能です(BC 107)。

 

当該財又はサービスが,契約で約束した他の財又はサービスの大幅な修正又はカスタマイズをしない(第29項(b))

主にソフトウェア業界において,ある財又はサービス(例えば,システム統合サービス)が契約の中の他の財又はサービス(例えば,既存のソフトウェア)を大幅に改変又はカスタマイズする場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,システム統合)を作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,システム統合に関連したリスク)は分離不能です(BC 109,110)。

 

当該財又はサービスが,契約で約束した他の財又はサービスへの依存性や相互関連性が高くはない。例えば,顧客が契約の中の他の約束した財又はサービスに重大な影響を与えずに,当該財又はサービスを購入しないことを決定できるという事実は,当該財又はサービスが,当該他の約束した財又はサービスへの依存性や相互関連性が高くはないことを示している可能性がある(第29項(c))

この指標は,企業が重要な統合サービスを提供しているのかどうか(第29項(a))や,財又はサービスが大幅に改変又はカスタマイズされているかどうか(第29項(b))が不明確な場合に,個々の財又はサービスが契約の中の他の財又はサービスと区分して識別可能な場合を判定するためのものです(BC 111)。

それぞれの財又はサービスの他方への依存性や相互関連性のレベルを考慮するにあたって,契約履行のプロセスの観点から,契約の中のさまざまな財又はサービスの相互間に変化が生じるかどうかを考慮する必要があります。ある財又はサービスが機能において他の財又はサービスに依存していたとしても,それぞれの財又はサービスを移転する約束を互いに独立に履行できる場合には,それらの財又はサービスは別個のものです。

ある財又はサービスが契約の中の他の財又はサービスへの依存性が高いか又は相互関連性が高いために,顧客が契約の中の他の約束した財又はサービスに重大な影響を与えずに,ある財又はサービスを購入するかどうかの選択ができない場合があります。このような場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプットを作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスクは分離不能です。

 

☞企業は,たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約の中の他の約束と区分して識別可能でない財又はサービスは,契約における約束として他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.07.13更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約における約束の識別

 

2017年7月13日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「契約における約束の識別」 目次と概要

 

1.Step2「契約における履行義務を識別する」の概要


企業は,顧客との契約を識別した後の次のステップで,契約開始時に,当該契約における履行義務を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

1 契約における約束の識別

2 別個の財又はサービス(の束)の識別

3 履行義務の識別

 

☞企業は,契約の開始時に,まず,“契約における約束”を漏れなく識別し,対価を受け取る強制可能な権利との“交換”の関係が成立することを確認します。次に,企業は,識別した契約における約束を,“別個の財又はサービス(の束)”という会計単位に区切り,又は束ねて識別し,最後に“履行義務”として識別します。

 

2.Step2-① 契約における約束の識別

 

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約開始時に,当該契約で顧客に移転を約束した財又はサービスのすべてを識別するため(BC 87),まず,契約における約束を漏れなく識別します。

顧客との契約が成立している以上,企業からみて,対価を受け取る強制可能な権利(法律上の債権)と,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(法律上の債務)が発生しますが,この義務は,常に契約における約束として識別されます。

顧客との契約の中には,そのほかにも,②企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(法律上の債務)が含まれることがあり,この義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,契約における約束に該当する可能性があります。

また,当該顧客に③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束があるときは,契約における約束に該当する可能性があります(BC 88,89)。

さらに,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,企業が財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じた④契約に含意されている約束も契約における約束に該当する可能性があります(BC 87)。

企業は,以上により識別したすべての契約における約束と,対価を受け取る強制可能な権利との間に“交換”(=同価値性)の関係が成立することを確認します。

 

☞企業は,契約における約束として,まず,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を識別します。そのほか,企業は,②企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務,③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束,④契約に含意されている約束を,契約における約束として識別するかどうかを判定します。

 

3.契約における約束とは

 

●“約束”とは
本基準が用いる“約束”という用語は,社会道徳における「約束」に類似した事象によって企業が履行するという顧客の妥当な期待が生じたものを指しており,必ずしも法律の強制力を伴うとは限りません。本基準は,法律の強制力を伴わない,顧客の妥当な期待が生じている場合を「含意されている」と表現しています(第24条,BC 87)。

●“契約における約束”とは

“約束”は,必ずしも法律の強制力を伴わないために無限定になるおそれがありますが,“契約における約束”は,契約の成立を前提とし,“約束”がその“契約”に含まれていなければならないという限定を付するものです。本基準が用いる“契約における約束”は,“契約”に含まれる“約束”という意味に理解すればよいでしょう。

 

☞契約における約束は,財又はサービスを提供する強制可能な義務(法律上の債務)だけでなく,企業が履行するという顧客の妥当な期待が生じたものを含みますが,法律の強制力を伴わないものは,契約の成立を前提とし,その契約に含まれていなければなりません。

 

4.契約における約束の識別

 

●目的

契約における約束を識別する目的は,顧客が企業との間で契約の対価との“交換”の一部として交渉し,契約の結果として企業が移転するという妥当な期待を有する財又はサービスを漏れなく識別することにあります(BC 87)。

契約における約束は,別個の財又はサービスという概念を介して履行義務という会計単位に識別され,基本的に契約の対価に等しい取引価格が配分されることによって,契約開始時に,同額の契約資産(対価を受け取る権利)と契約負債(一つ又は複数の履行義務)を両建てで識別することになります(配分後取引価格アプローチ)。したがって,企業が識別する“契約の対価”と“契約における約束”との間に経済的な実質において“交換”(=同価値性)の関係が成立していなければなりません。

●“交換”の判定

契約の目的とされた財又はサービス(給付義務の目的)は,常に契約の対価との“交換”の全部又は一部を構成しますが,それだけでは契約の対価の全部との“交換”の関係が成立せず,他の財又はサービスも“交換”の一部を構成する場合があります。

“交換”は,経済的な実質に従って判定し,仮に企業が他の財又はサービスを移転する約束をしない場合には,客観的な経済合理性からみて,企業が受け取るべき対価がより低くなる,あるいは,他の企業との競争上,同額の対価での契約の獲得が困難になるという関係が認められるときは,そのような企業の約束は“交換”の一部であるとみるべきです。

●企業の履行に顧客の妥当な期待を生じさせる約束(契約に含意されている約束)

企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,契約締結時において,企業が他の財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,顧客が他の財又はサービスも“交換”の一部として捉えて契約の交渉をし,当該契約の結果として企業が他の財又はサービスを移転する約束をしていますので,そのような約束も契約における約束として識別します(第24項)。

●約束が特定の契約に含まれること(特定の契約と当該約束との因果関係)

“契約における約束”とは,契約の成立を前提として,当該契約の結果として約束するものを意味し,当該契約がなければ,その約束を履行しないという因果関係がなければなりません。逆に,財又はサービスが当該契約とは独立して提供されるときは,契約における約束に該当しません(BC 89)。

●契約における約束の主従の地位

本基準は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければならないとしています(BC 90)。

 

☞企業は,顧客が企業との間で契約の対価との“交換”の一部として交渉し,契約の結果として企業が移転するという妥当な期待を有する財又はサービスを漏れなく契約における約束として識別し,契約の対価との間に経済的な実質において“交換”(=同価値性)の関係が成立することを確認します。企業は,顧客との契約が成立し,当該契約の結果として約束する(当該契約との因果関係がある)以上,顧客が契約の主たる目的としない販売インセンティブや他の付随的な財又はサービスであっても,契約における約束として識別する必要があります。

 

5.契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務


一般的に,顧客との契約は,契約の目的とされた財又はサービスを明示しています(第24項)。法律上,契約の目的とされた財又はサービスを提供することを内容とする本来の債務を給付義務と呼びますが,この強制可能な義務(法律上の債務)に係る財又はサービスの約束は,契約における約束に該当します。

法律上,債務者は,債務の本旨(=契約により定まる債務の内容)に従った履行をしなければならないとされており(民法415条),企業の履行により納入・提供する財又はサービスは,顧客との契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に従っていなければなりません。企業が,契約において合意された条件に従わない財又はサービスを顧客に納入・提供しても,債務の本旨に従わない不完全な履行であり,債務の履行が完了しません(債務が消滅しません)。

 

製品保証

企業が財又はサービスを顧客に納入・提供した後,当該財又はサービスに故障・不具合が生じたときの経済的な補償(代替品の納品,補修,損害賠償等)や当該財又はサービスを正常に使用するための経済的な便益(保守・点検・維持等)を提供する義務を負う場合は,その義務が契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)の一部なのか,それとも別の義務なのかが問題となりますが,製品保証の適用指針(B 28~33)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

☞企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)を契約における約束として識別します。

 

6.企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務


一般的に,顧客との契約には,契約の目的とされた財又はサービスを提供することを内容とする本来の債務(給付義務)以外にも,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(法律上の債務)が定められていますが,その義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転するときは,契約における約束に該当する可能性があります。

企業は,顧客との契約の内容(契約条項)から,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務を抽出し,その義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転し,かつ,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)とは異なる(実質的にその一部ではない)ときは,そのような義務も契約における約束として識別します。

 

返金不能の前払報酬

返金不能の前払報酬(入会金,加入手数料,セットアップ手数料など)に対する企業の履行(入会,加入,セットアップ等の管理作業)は,明示又は黙示に,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務として抽出することができますが,返金不能の前払報酬の適用指針(B 48~51)は,このような約束についての会計処理を定めています。

返金不能の前払報酬に対する企業の履行は,多くの場合,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)ではなく,その準備行為であって,活動の進捗(管理作業の履行)につれて約束した財又はサービスを顧客に移転しないため(B 49),契約における約束として識別しません(第25条)。

 

☞企業は,顧客との契約の内容(契約条項)から,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務を抽出し,その義務が経済的価値のある財又はサービスを顧客に移転し,かつ,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(給付義務)とは異なる(実質的にその一部ではない)ときは,そのような義務も契約における約束として識別します。

 

7.付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束

 

例えば,電気通信会社が無償で通話機を提供したり,スーパーマーケット,航空会社及びホテルがカスタマー・ロイヤルティ・ポイントを付与したりするなど(BC 88),企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスを約束する場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの典型は,販売インセンティブや顧客特典クレジット(又はポイント),契約更新オプション,将来の財又はサービスに係るその他の値引きなど,追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する形態です。追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションの適用指針(B 39~43)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

顧客の未行使の権利

例えば,ギフトカードや返金不能のチケットの販売など(BC 396),企業が,顧客に対し,将来において契約の目的とされた財又はサービスを受け取る権利を与える(販売する)形態の契約では,単一の履行義務しか識別されませんが,顧客の未行使の権利の適用指針(B 44~47)は,このような約束についての会計処理を定めています。

 

☞企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスを約束する場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

8.契約に含意されている約束

 

例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレード(BC 87)など,企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(法律上の債務)とはいえなくとも,企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,その時までに生じた企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

☞企業が顧客と契約を締結し,当該契約の結果として,その時までに生じた企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により財又はサービスを移転するという顧客の妥当な期待が生じている場合は,そのような約束も契約における約束として識別します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.06.30更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約の結合と変更

 

2017年6月30日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「契約の結合と変更」 目次と概要

 

1.Step1-③ 契約の結合/Step1-④ 契約の変更

 

通常の契約の開始時に行うStep1「顧客との契約を識別する」は,Step1-①契約の成立とStep1-②契約の識別のサブ・ステップでほぼ終了ですが,本基準は,同一の顧客(又は顧客の関連当事者)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約が一定の要件に該当するときに単一の契約として会計処理すること(契約の結合)を義務づけていますので(第17項),企業は,Step1-③契約の結合において,この要件に該当しないかどうかを常に確認する必要があります。

また,企業が顧客との間で契約(既存の契約)を締結した後に,同じ顧客との間で変更契約を締結することがあります。この場合も,企業は,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップで新たな変更契約を識別しますが,それにより,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。本基準は,変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものを「契約変更」と呼び,その取り扱いを定めています(第18項~第21項)。そこで,企業は,顧客との間で変更契約を識別したときは,Step1-④契約の変更において,会計処理に影響を及ぼすかどうかを確認し,会計処理に影響を及ぼすときは,本基準に従って会計処理する必要があります。

 

2.Step1-③ 契約の結合(概要)

 

法律制度における契約では,当事者(企業)が相手方(顧客)の同意なく,複数の契約の条件を自由に結合して履行したり,請求したりすることはできません。しかし,以下のようなケースでは,法形式上,複数の契約で定められた契約対価に従って区分して会計処理すると,経済的実態に従って一つの契約として会計処理した場合と,収益の金額及び時期が異なってしまう可能性があります(BC 71)。

価格の相互依存性

ある契約における財又はサービスの対価がその他の契約における財又はサービスの対価に依存する場合(価格の相互依存性),それらの契約を区分して会計処理すると,各契約の履行義務に配分される対価の額は,顧客に移転される財又はサービスの移転に係る経済的実態を忠実に描写しないおそれがあります(BC 73)。

法形式の選択可能性

また,法形式上,複数の契約で財又はサービスの移転を約束しているものの,仮にそれらを一つの契約で約束したものとして,履行義務の識別に関する本基準の定めを適用すると,単一の履行義務として識別される場合(法形式の選択可能性),実質的に同一の経済的実態がありながら,企業が契約を法形式上どのように構成するかによって本基準の適用結果が異なってしまう可能性があります(BC 68,73)。

そこで,本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,企業に対し,一定の要件を満たす複数の契約については,法形式上の契約に従って区分して会計処理することを容認せず,単一の契約とみなして会計処理することを義務づけています(第17項,BC 73)。

 

3.契約の結合の要件


本基準は,以下の要件をすべて満たすときに,単一の契約とみなして会計処理することを義務づけています(第17項)。

a 企業が同一の顧客(又は顧客の関連当事者)との間で複数の契約を締結したこと

b 企業が同時又はほぼ同時に複数の契約を締結したこと

c 次の要件のいずれかに該当すること

ⅰ 契約が単一の商業的目的を有するパッケージとして交渉されている

ⅱ 1つの契約で支払われる対価の金額が,他の契約の価格又は履行に左右される

ⅲ 複数の契約で約束した財又はサービス(又は各契約で約束した財又はサービスの一部)が, 本基準第22項から第30項に従うと単一の履行義務である

 

☞本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,同一の顧客(その関連当事者を含む。)との間で同時又はほぼ同時に締結した複数の契約に,①価格の相互依存性又は②法形式の選択可能性を示す一定の関係がある場合には,単一の契約とみなして会計処理することを義務づけています。

 

4.Step1-④ 契約の変更(概要)

 

● 契約変更

法律制度における契約は,いったん成立した以上,その当事者間でその契約(既存の契約)の内容を変更する契約(変更契約)が成立しない限り,変更されることはありません。契約を変更するためには,既存の契約とは別に,当事者間で新たに契約(変更契約)が成立しなければなりません。

企業は,新たな変更契約について,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップを行いますが,変更契約を識別することによって,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。

そこで,本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで(第18項),その会計処理を定めています。

 

● 契約変更の会計処理

本基準は,企業が契約変更により,既に移転した財又はサービスとは別個の追加的な財又はサービスを約束した場合において,追加の財又はサービスの価格設定が独立販売価格を反映しているときは,契約の範囲の拡大部分を既存の契約から独立した契約として会計処理し(第20項),それ以外の契約変更については,残りの財又はサービスが変更前に移転した財又はサービスと別個であるときは,(a)既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理し,別個でないときは,(b)既存の契約の一部であるかのように会計処理しなければならないと定めています(第21項)。

 

5.契約変更の要件と会計処理

 

本基準は,契約変更について,変更後の契約における企業の権利及び義務を忠実に描写するという全体的な目的から,以下の3通りの会計処理を定めています。

 

a 独立した契約として会計処理する(第20項)

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 別個の財又はサービスの追加(契約の範囲の拡大)

ⅱ 契約価格の増額が追加の財又はサービスの独立販売価格を反映して設定されていること

増額分が追加の財又はサービスの契約変更時の独立販売価格そのものでなくとも,例えば,新規顧客に販売する際には生じるであろう販売関連コストの分だけ値引きしているなど,具体的な契約の状況を反映するために独立販売価格が適切に調整されているときは,独立販売価格を反映して価格設定されていると評価できます。

会計処理

企業は,契約変更を独立した契約として会計処理しなければなりません。このような場合は,追加的な財又はサービスに関して,他の顧客が新たに独立した契約を締結する場合と,既存の顧客がこのような要件を満たす契約変更を行う場合との間には経済的差異がないからです(BC 77)。

 

b 既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理する(第21項(a))

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 独立した契約として会計処理する要件(第20項)を満たさないこと

ⅱ 残りの財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されること

財又はサービスが別個か否かは,本基準第27項,すなわち別個の財又はサービス(の束)という会計単位によって判定します。既存の契約において,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスとして単一の履行義務を識別しているときは(第22項(b)),単一の履行義務に属するからといって,契約変更日以前に移転した財又はサービスと,残りの財又はサービスとが同一であるとは限りません。

会計処理

企業は,契約変更を,既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理しなければなりません。このような場合は,契約変更後に支払われる対価の金額が既存の契約の価格又は履行に左右されている可能性がありますが,本基準は,契約変更は既存の契約の締結後に生じた新たな事実及び状況に基づいて交渉されており,残りの財又はサービスが過去に移転したものと別個である以上,過去に移転したものとは区別して将来に向かって会計処理すべきであり,このような場合にまで,下記cの既存の契約の一部であるかのように実質的に過去に充足した収益の修正をもたらす複雑な会計処理(累積的キャッチアップベースの会計処理)をすべきではないと述べています(BC 78)。

  

c 既存の契約の一部であるかのように会計処理する(第21項(b))

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 独立した契約として会計処理する要件(第20項)を満たさないこと

ⅱ 残りの財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されないこと(第21項(a)の要件を満たさないこと)

会計処理

企業は,契約変更を既存の契約の一部であるかのように会計処理しなければならない。このような場合,本基準は,残りの財又はサービスは,過去に移転したものとは別個ではなく,契約変更日現在で部分的に充足されている単一の財又はサービス(の束)の一部を構成する以上,過去に移転したものとの関連性を遮断して新たな契約として会計処理すべきではなく,当該履行義務の取引価格及び完全な履行に向けての進捗度の測定を見直すことが,建設業界では特に目的適合性があり,一般的に受け入れられていると述べています(BC 80)。

 

d 残りの財又はサービスが,移転済みの財又はサービスと別個の部分(第21項(a))と既存の単一の履行義務の一部の部分(第21項(b))との組合せである場合

 

契約変更が独立した契約として会計処理する要件(第20項)を満たさず,残りの財又はサービスが,移転済みの財又はサービスと別個の部分(第21項(a))と既存の単一の履行義務の一部の部分(第21項(b))との組合せである場合は,企業は,契約変更が変更後の契約の中の未充足(部分的な未充足を含む。)の履行義務に与える影響を,第21項の目的に整合する方法で会計処理しなければなりません。

 

☞企業は,①既存の契約とは別個の財又はサービスを追加で約束し,②契約価格の増額が追加の財又はサービスの独立販売価格を反映しているときは,契約変更を独立した契約として会計処理します。それ以外の契約変更は,残りの財又はサービスが契約変更日までに移転した財又はサービスと別個のときは,既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理し,別個でないとき(同じ財又はサービス(の束)の一部であるとき)は,既存の契約の一部であるかのように会計処理します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.06.17更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約の識別

 

2017年6月17日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「契約の識別」 目次と概要

 

1.Step1-② 契約の識別

 

Step1「顧客との契約を識別する」では,まず,企業は,顧客との間で契約が成立していることを確認した後(Step1-①契約の成立),顧客との間で成立した契約が本基準を適用するための要件を満たすかどうかを判定します。

本基準は,企業が契約に収益認識モデルを適用するために満たさなければならない5つの要件を定立しています(第9項,BC 33)。

また,本基準は,その適用範囲について,適用除外とされる一定の契約を除き,顧客とのすべての契約に本基準を適用しなければならないと定めています(第5項)。この適用範囲についても,企業の取引(契約)が本基準の適用対象となるかどうかを判定するという意味で,Step1-➁契約の識別と共通していますので,便宜上,このテーマに含めて解説します。

 

2.本基準の適用対象となる契約

 

法律制度における契約は,多種多様であり,範囲が広範にわたります。法律制度における契約には,婚姻・縁組などの身分行為に関する契約が含まれ,財産行為に関する契約には,質権・抵当権設定などの物権契約が含まれ,債権契約には贈与契約などの無償契約も含まれます。

これに対し,本基準の適用対象となる“契約”の範囲は,会計基準としての目的から限定されます。本基準のコア(中心)となる原則は,顧客に提供する財又はサービスと企業が受け取る対価との間に“交換”の関係(=同価値性)があることを本質としています(第2項)。したがって,本基準の適用対象となる“契約”は,財産行為に関する契約の中の債権契約に限られ,債権契約の中でも財又はサービスと対価との間に“交換”の関係のある有償契約に限られます。

このように,本基準は,会計基準としての目的から,法律制度における多種多様な契約の中から,本基準の適用に適さないものを“契約”として取り扱わないこととし,適用対象を限定しています。本基準が適用対象となる契約から除外するのは,次の場合です。

● 顧客との契約に該当しない契約(第5項)

● 適用除外の契約(第5項)

● 本基準第9項が掲げる要件を満たさない契約(第9項)

● 当事者双方が相手方に補償することなく解約することができる完全に未履行の契約(第12項)

 

☞本基準は,会計基準としての目的から,法律制度における多種多様な契約の中から本基準の適用に適した契約だけを適用対象とします。①顧客との契約に該当しない契約,②適用除外の契約,③本基準第9項に掲げる要件を満たさない契約,④当事者双方が相手方に補償することなく解約することができる完全に未履行の契約は,本基準の適用対象となりません。

 

3.顧客との契約とはー顧客の概念ー


本基準は,適用範囲について,原則としてすべての「顧客との契約」に適用しなければならないとしています(第5項)。

本基準は,“顧客”(customer)を「企業の通常の活動のアウトプットである財又はサービスを対価と交換に獲得するために企業と契約した当事者」と定義づけます(BC 52)。

この「顧客」の定義は,取引の属性に着眼しています。そのため,顧客との契約に該当するかどうかは,形式的には,契約の相手方が「顧客」に該当するかどうかを判定しているようであっても,実質的には,契約の相手方に提供する財又はサービスが「企業の通常の活動のアウトプット」かどうかを中心に判定することになります。

 

● 企業の通常の活動のアウトプットではない資産の売却

企業が資産(財又はサービス)を相手方に売却し,相手方からその代わりに対価を得たとしても,当該資産が企業の通常の活動のアウトプットではない取引については,相手方は「顧客」に該当しませんので,本基準を適用しません。

このような取引で企業が相手方に売却する資産は,株式,債券等の金融資産や,自社使用不動産などがあります。

 

● 協力者又は共同事業者との契約

例えば,契約の相手方が企業と契約した目的が,生じるリスクと便益を契約当事者が共同する活動又はプロセス(提携契約における資産の開発など)に参加することであり,企業の通常の活動のアウトプットを獲得することではない場合には,当該契約の相手方は顧客ではありません(第6項)。

このような取引の相手方には,共同研究開発の目的や,企業の事業に協力する目的,企業の研究開発を支援する目的などがあり,当該アウトプットに対する経済的な補償が,企業が通常の活動により得る対価とは異なっており,当該アウトプットと経済的な補償との間に交換(=同価値性)の関係がありません。


☞企業は,相手方との取引関係が本基準の適用範囲である「顧客との契約」に該当するかどうかを判定するにあたって,取引の属性に着眼し,①企業が提供する財又はサービスが企業の通常の活動のアウトプットかどうかや,②当該アウトプットを相手方が対価と交換(=同価値性)に獲得する目的があるかどうかを考慮します。取引の相手方に共同研究開発の目的や,企業の事業に協力する目的,企業の研究開発を支援する目的があるときは,企業のアウトプットに対する経済的な補償が,通常の対価とは異なり,交換(=同価値性)の関係がない場合があることに留意します。

 

4.適用除外の契約


本基準は,適用範囲である「顧客との契約」から,次の契約を除外しています(第5項)。

a IAS第17号「リース」の範囲に含まれるリース契約

b IFRS第4号「保険契約」の範囲に含まれる保険契約

c IFRS第9号「金融商品」,IFRS第10号「連結財務諸表」,IFRS第11号「共同支配の取決め」,IAS第27号「個別財務諸表」及びIAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の範囲に含まれる金融商品及び他の契約上の権利又は義務

d 顧客又は潜在的顧客への販売を容易にするための同業他社との非貨幣性の交換

 

5.契約の要件ー本基準第9項ー

 

本基準は,以下のa~eの5つの要件をすべて満たす場合にのみ,本基準の適用対象となる契約として会計処理をするものとしています(第9項)。これらの要件の中には,法律上の契約が成立していれば当然に満たす要件もありますが,収益認識という会計の目的から特に要件を定立し,本基準を適用する契約の範囲を限定するものもあります。

 

a 契約の当事者が,契約を承認(書面で,口頭で又は他の取引慣行に従って)しており,それぞれの義務の履行を確約している(第9項(a))

 

本基準は,契約の成立の判定にあたって,「当事者が契約の条件に拘束される意図があるかどうかを評価する」必要があると述べており(BC 35),法律制度における契約が有効に成立するために各当事者の意思表示に「法的に拘束される意図」があることを前提としています。そのため,本基準第9項(a)の要件は,法律制度における契約である以上,当然に備えているものです。

契約の当事者が法人の場合,意思表示によって法的に拘束される主体(企業・顧客=法人)と実際に表示行為を担当する主体(担当者=自然人)が異なります。法人の内部手続(決裁,承認等)を経て法人名義の書面が発行されるときは,法人として法的に拘束される意図が認められますが,そのような内部手続を経ておらず,法人の一担当者の口頭による表示行為があったにすぎないケースでは,当該法人を法的に拘束させる意図がないことが少なくありません。

 

b 企業が,移転すべき財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できる(第9項(b))

 

法律制度における契約は,契約の当事者が相互に他方当事者に履行すべき給付の内容が確定する可能性があれば有効に成立し,契約の成立時点で給付の内容が確定・固定している必要はありません。

これに対し,本基準においては,履行義務を充足する時点までに財又はサービスの移転を評価できる程度に財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できるようになった時点から,本基準の適用対象となる契約として取り扱います。

例えば,企業が顧客から一定の目的物の製造委託を受けたとします。契約書を取り交わした時点で,設計仕様の重要な部分が確定していなかったとしても,その後に確定する可能性があれば,法律上は,契約書を取り交わした時点で契約の成立を認めます。本基準の適用にあたっては,財又はサービスの移転を評価できる程度に確定した時点から本基準の適用対象となる契約として取り扱います。

 

c 企業が,移転すべき財又はサービスに関する支払条件を識別できる(第9項(c))

 

法律制度における契約は,対価の額(給付の内容)が確定する可能性があれば有効に成立し,契約の成立時点で対価の額が確定・固定している必要はありません。

これに対し,本基準では,対価の額については,変動可能性があったとしても見積りを用いて取引価格を測定しますので(第50項~第54項),当初は,対価の額を見積ることができなかったとしても,その後に見積りを用いて取引価格を測定できるようになった時点から,本基準の適用対象となる契約として取り扱います。

例えば,企業が顧客から建築を請け負い,作業の範囲が既に確定しているものの,当該作業に対する具体的な金額が定まっておらず,一定の期間にわたり最終決定されない可能性がある場合でも,見積りを用いて取引価格を測定することができれば契約を識別して収益を認識し,金額が最終決定されたときに契約変更として取り扱います(BC 39)。

 

d 契約に経済的実質がある(すなわち,契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれる)(第9項(d))

 

非貨幣性交換については,複数の企業が収益を人為的に水増しするために,相互間で財又はサービスの往復を行うなど,悪用されるおそれがあります。そこで,本基準は,非貨幣性交換に経済的実質がない場合は収益を認識すべきではないとし,本基準の対象となる契約の要件に経済的な実質があることを要件としています(BC 40)。そのため,法律制度における契約が有効に成立したとしても,この要件を満たさない契約は,収益認識という会計の目的から本基準の適用対象から除外されます。

 

e 企業が,顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高い。対価の金額の回収可能性が高いかどうかを評価する際に,企業は,顧客が期限到来時に当該対価の金額を支払う能力と意図だけを考慮しなければならない。企業が権利を得ることになる対価の金額は,企業が顧客に価格譲歩を提供する可能性があることにより対価に変動性がある場合には,契約に記載された価格よりも低くなることがある(第52項参照)(第9項(e))

 

顧客が対価を支払う最小限度の能力と意思すらす有しない場合は,顧客に対価を支払う義務に法的に拘束される意図が存在しない可能性が高く,法律制度における契約が有効に成立しない場合があります。

本基準においても,会計の目的から,顧客の信用リスクの評価が,契約が有効であるかどうかの判定の重要な部分であることを強調し(BC 42),特に対価の回収可能性が高いことを要件として定立しています(BC 44)。契約開始時に顧客に重大な信用リスクのある一部の取引について,企業が財又はサービスの移転について収益を「グロスアップ」して認識し,同時に多額の貸倒費用を認識することは,取引を忠実に表現せず,有用な情報を提供しないからです(BC 265)。

この要件により,企業は,顧客が約束した対価を支払う能力と意思をどの程度有しているかの判定を求められます。

この要件の判定にあたって,企業は,まず,①顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を決定し,次に,②当該金額を回収する可能性が高いかどうかを検討します(BC 45)。

 

☞本基準第9項a~eのうち,dの経済的実質,eの顧客の信用リスクは,収益認識という会計の観点から評価しますので,法律上は有効に成立した契約がこれらの要件を充足しない場合があることに留意します。

 

6.当事者双方が相手方に補償することなく解約できる完全に未履行の契約

 

法律制度における契約がいったん成立すれば,当事者双方がその契約に法的に拘束され,当事者双方が合意するか(合意解約),又は契約・法律に別段の定めがない限り,いずれかの当事者の一方的な行為により何ら補償なしにその契約の拘束から解放されることはありません。

しかし,契約の別段の定めにより,当事者双方が相手方に補償することなく契約を一方的に終了させることができる権利を有し,かつ,契約が未だ完全に未履行の状態にある場合には,いずれかの当事者が履行するまで企業の財政状態又は業績に影響を与えず,財務報告において追加的な情報を提供する必要がないことから,本基準は,契約が存在しないものとして取り扱うこととしています(第12項,BC 50)。

「契約を解約する一方的で強制可能な権利」とは,当事者の一方的な意思表示により契約を解約することができる場合をいいます。

「他の当事者に補償することなしに」とは,相手方に違約金の支払その他の補償をする必要がない場合をいいます。

「各契約当事者が有すること」とは,契約当事者双方がⅰとⅱの要件を満たす解約権を有することをいいます。いわゆるクーリング・オフ制度は,消費者保護のために消費者だけから申込を撤回し,又は契約を解除する権利であり,一般的に事業者からの約定解除権は定められていませんので,当事者双方に解約権があるケースではありません(BC 50)。

「契約が完全に未履行である」とは,企業が①未だ約束した財又はサービスを顧客に移転しておらず,かつ,②未だいかなる対価も受け取っておらず,受け取る権利も得ていないことをいいます。

 

☞企業は,当事者双方が,相手方に補償することなく,一方的な意思表示により契約を解約する権利を有し,かつ,いずれの当事者も全く履行していない段階では,契約が存在しないものとして取り扱い,財務報告で追加的な情報を提供する必要がありません。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.05.30更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約の成立

 

2017年5月30日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「契約の成立」 目次と概要

 

1.Step1「顧客との契約を識別する」の概要

 

企業は,本基準の適用手順の最初のステップで,顧客との契約を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

1 契約の成立

2 契約の識別

3 契約の結合

4 契約の変更

 

企業は,契約の開始時に,法律上,契約が成立していること,かつ,本基準が定める収益認識モデルの適用対象となる要件を満たしていることを判定します。これらの判定により,企業が契約を識別できない限り,収益を認識できません。

 

2.Step1-① 契約の成立

 

Step1「顧客との契約を識別する」では,まず,企業は,顧客との間で契約が成立しているかどうかを判定します。

契約が成立するか否か(契約上の権利・義務が強制可能かどうか)の判定は,現実に我が国で運用されている裁判制度を前提とする法律上の判断です。

 

3.契約とはー契約の概念ー

 

本基準の“契約”と法律制度における“契約”

本基準は,“契約”(contract)を「強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意」と定義づけます。“契約”は,複数の当事者間の合意が強制可能な権利・義務を生じさせるときに成立します。法律による強制力のないものは“契約”に含まれません(BC 31)。

契約上の権利・義務が強制可能かどうかの判定は,当事者の権利・義務を保護するために存在する関連する法律上の枠組み(=裁判制度)又は同等の枠組みの中で検討すべき問題であり,強制可能かどうかを決定する要因は法域間で異なる可能性があると指摘しています(BC 32)。

 

本基準が定義づける“契約”は,現実に各国で運用されている具体的な裁判制度で執行され得る,法律制度における“契約”概念と同一です。

 

● 私的自治の原則

契約の拘束力の根拠は,法律学上,人が他人との間で約束を交わしたときに,その他人がその約束を信頼することにあるという説明が一般に受け入れられています。このような考え方の根源には,「人は自らの意思のみに拘束される」という法思想(私的自治の原則)が存在します。

契約の根幹には社会道徳における「約束」に類似した事象(後に述べる「合意」のこと)があり,社会の人々は,道徳上,それを遵守しなければならないという心理を抱きます。そして,裁判制度の構築・運用により,社会の人々が実際にも契約の拘束力に強制力があることを知り,こうして,社会の人々に“契約は遵守しなければならない”という意識が根付き,いちいち裁判に訴えなくとも契約が遵守されるような“契約社会”が確立します。

 

● 契約の概念

このような契約の根幹にある「約束」に類似した事象は,法律制度上,各当事者の「意思表示」が合致している状態として「合意」と呼びます。本基準の“契約”の定義の中の「複数の当事者間の合意」という「合意」がそれを指しています。他方,本基準は,必ずしも法律の強制力が伴わない場合は「約束」という用語を使い,「契約」と使い分けています。

法律制度は,契約の当事者に裁判に訴えて強制的に契約に定めた権利を実現する手段を保障しますが,そのためには,契約の成立の基礎となる「合意」が法律制度によって強制するのに適した一定の条件を備えていなければなりません。

法律制度は,各当事者が拘束されるべき「自らの意思」を,一定の要件の下に「意思表示」と定義づけ,その要件を満たす各当事者の「意思表示」がそれぞれ成立し,それが合致することを「合意」と呼んで区別し,社会にみられる多種多様な「約束」の中から,法的強制力を付与するにふさわしい条件を備えた「合意」だけを「契約」として取り扱います。

 

法律制度は,社会にみられる多種多様な「約束」の中から,法的強制力を付与するにふさわしい条件を備えた「合意」だけを「契約」として取り扱います。契約の成立の判定は,まず,①各当事者の意思表示の成立を確認し,その内容を確定し(意思表示の成立),次に,②これら当事者相互の意思表示が合致するかどうか(契約の成立)を判断することによって行います。

 

4.意思表示とはー意思表示の概念ー

 

● 意思表示の概念

意思表示とは,一定の法律効果の発生を欲する意思を表示する行為をいいます。

「一定の法律効果」は,①「一定の」ものとしてその内容が特定,確定できなければならず(特定性・確定性),かつ,②道義的,社会的なものではなく,「法律」上の効果の発生を欲するものでなければなりません(法的拘束の意図)。

 

● 申込と承諾

申込とは,それを受け入れる相手方の意思表示(承諾)があれば契約を成立させる意思表示をいい,承諾とは,申込を受け入れて契約を成立させる意思表示をいいます。

● 契約の成立

契約は,対立する当事者間で意思表示の本質的部分が合致することによって成立します。各当事者の意思表示の一部に意味内容の不確定な部分があったとしても,当事者相互の意思表示の本質的な部分が合致していれば,契約が成立します。

 

各当事者が,一定の法律効果を欲するものとして,その内容を特定,確定することができ,かつ,法的に拘束されることを意図した“意思表示”を行ったときに,互いにその本質的部分が合致することによって契約が成立します。法人の一担当者の意思は必ずしもその所属する法人の意思ではありませんので,法人の担当者間の口頭のやり取りだけでは,意思表示が成立しない結果になることが多いといえます。

 

5.意思表示の解釈(契約の解釈)

 

● 意思表示の解釈(契約の解釈)

意思表示の成立とその内容を確定するためには,当事者が外部に表した何らかの外形から,当事者が意図した法律効果の内容を特定,確定し,当事者が法的に拘束されることを意図していたかどうかを判定する必要があります。これを意思表示の解釈といいます。意思表示の解釈によってその合致により成立する契約の内容を確定する場合には,契約の解釈と呼ばれます。

本基準は,企業が「当事者が契約の条件に拘束される意図があるかどうか」を評価する際に,すべての関連性のある事実及び状況を考慮すべきであると述べ(BC 35),企業が契約の成立を判定するにあたって,意思表示の解釈を行うことを求めています。

本基準は,契約の形式(口頭・文書)それ自体が契約の成立・不成立を決定づけるものではないとし,「口頭の契約又は含意(商慣行に従って)された契約の当事者が,それぞれの履行義務を果たすことに同意していることがある」,「他方,契約の当事者が契約を承認していると判断するために文書での契約が必要とされる場合もある」と述べており(BC 35),取引の実情によっては,契約の成立の判定が非常に難しい場合があることを指摘しています。

 

● 意思表示の解釈(契約の解釈)の準則

意思表示の解釈(契約の解釈)については,考慮すべき要素や方法に関して多くの事例から帰納的に醸成されてきた以下のような準則(ルール)が一般に承認されています。

a 事情

意思表示の解釈にあたっては,表示行為の前後にわたって生じた一切の事情を考慮します。

b 取引上の慣習

意思表示の解釈にあたって,取引上の慣習を考慮します(民法92条)。

c 任意規定

任意規定とは,公の秩序に関する規定(強行規定)でない規定をいいます。当事者が任意規定と異なる合意(「特約」と呼ばれます。)をしない限り,意思表示の解釈にあたって,任意規定を適用します。

d 条理(信義誠実の原則)

純粋に当事者の意思を探求しても具体的に妥当な結論が得られないときに,条理や信義誠実の原則(信義則)を考慮して規範的な解釈を行うことがあります。

 

企業は,契約の成立の判定にあたって,表示行為の前後にわたって生じた一切の事情(事実及び状況),取引上の慣習,任意規定などを考慮して意思表示の解釈(契約の解釈)を行います。口頭による表示行為は,文書による場合に比べて法的に拘束される意図がない場合が少なくありませんが,業界や当事者間の取引慣行などの実情によっては,法的に拘束されることを意図している場合もあります。逆に,文書による表示行為があっても,正式な契約書を作成することが取引上の慣習となっている取引分野(不動産の売買取引など)では,多くの場合,契約書が作成されるまでは契約が成立しません。

 

6.取引証憑

 

取引によっては,以下のような見積書,注文書,納品書,請求書などの証憑しか存在しないケースもあります。これら取引証憑について,契約の成立をどのように判定するかを解説します。

a 見積書

見積書は,顧客の意思決定のため前もって対価を提案する企業の一方的な通知文書です。企業から見積書を送付しただけでは,顧客から何らかの表示行為がない限り,契約が成立することはありません。

b 交渉文書

 ● 買付証明書・売渡承諾書

 不動産の売買取引では,正式な売買契約書を作成することが取引上の慣習となっていますので,買付証明書と売渡承諾書の取り交わしで契約が成立することはなく,正式な売買契約書の作成によって契約が成立します。

 ● 法的拘束力のない交渉文書

 後に正式な契約書の作成(調印)を予定している当事者間で,契約の締結に向けて交渉を円滑に進める目的で意向書,基本合意書,覚書等が取り交わされたとしても,特別の事情がない限り,当事者は法的に拘束されることを意図していませんので,そのような約束や契約条項に法的拘束力はありません。

c 注文書・注文請書

注文書は,最終的な契約条件を示し,これに対する承諾があれば直ちに契約を成立させる顧客(買主)の意思を明示した文書として,申込に該当します。注文請書は,注文書に対してこれを受け入れて直ちに契約を成立させる企業(売主)の意思を明示した文書として,承諾に該当します。商取引上,注文書・注文請書を取り交わした時点で契約が成立します。

d 納品書・受領書

納品書や受領書は,一定の商品・製品を納品した事実や受領した事実を伝達する一方的な通知文書です。

e 請求書

請求書は,企業(売主)から顧客(買主)に代金の支払を求める意思を明示した文書です。請求書自体は顧客の意思を推測させるものではありませんが,顧客が代金の全部又は一部を支払うなど代金債務を承認する行為によって契約が成立する場合があります。

 

企業は,顧客との間で契約書,合意書,覚書など合意の成立を示す文書が作成していない場合,見積書,注文書,納品書,請求書などの取引証憑から,契約の成立を判定する必要があります。

 

7.継続的取引の特則と基本契約

 

● 商法の特則

企業は,平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込を受けたときは,遅滞なく,契約の申込に対する諾否の通知を発しなければなりません(商法509条1項)。企業がこれを怠ったときは,契約の申込を承諾したものとみなされます(同条2項)。

 

● 継続的取引基本契約

当事者間で一定の取引の反復を予定する場合,個々の取引に共通して適用される基本的事項を定める契約(継続的取引基本契約)を締結し,その契約の中で個々の取引に関する契約(個別契約)の成立に関する事項を定めることが少なくありません。

本基準のステップ1-①契約の成立では,申込を受領する企業にとって契約の成立の立証が簡便になっているかどうかを検討する必要があります。

 

企業は,顧客との間で一定の取引の反復を予定する場合,顧客と継続的取引基本契約を締結し,個別契約の成立に関して,企業にとって契約の成立の立証が簡便になるような条項を定めます。取引の実情によって,顧客から法人の代表者の記名押印のある書面を受領しなくとも,契約が成立することを定めることが考えられます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.05.12更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」

 

適用手順(ステップ)

 

2017年5月12日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「適用手順(ステップ)」 目次と概要

 

新たな収益認識基準はどのように適用するか?

 

本基準は,中心(コア)となる原則として“企業は,約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように収益を認識しなければならない”という原理を採用しています(第2項)。
本基準は,この原理を実現するため“履行義務”という会計単位を用いています。この会計単位に当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価(取引価格)を配分することにより,財又はサービスが顧客に移転するごとに(又は移転するにつれて)その会計単位に配分されている対価を収益として認識します。     

企業は,以下の適用手順(ステップ)を適用することにより,この原理に従って収益を認識します(IN 7)。

 

【ステップ1】顧客との契約を識別する

 

契約に基づく収益認識の原則では,顧客との契約により生じる収益は契約が存在するまで認識できませんので(BC 19),契約の識別が収益認識の出発点となります。

企業は,本基準の適用手順の最初のステップで,顧客との契約を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

 

1 契約の成立

 

まず,企業は,顧客との間で契約が成立しているかどうかを判定します。

 

2 契約の識別

 

次に,企業は,顧客との間で成立した契約が本基準を適用するための要件を満たすかどうかを判定します。

 

3 契約の結合

 

企業は,識別した複数の契約に一定の関係がある場合には,契約の結合の会計処理をしなければなりません。

 

4 契約の変更

 

企業は,識別した契約を変更する場合には,本基準が定める取り扱いに従って会計処理をします。

 

企業は,法律上の契約が成立しない限り,収益を認識できません。我が国の実情では,契約書や注文書・注文請書など顧客(法人)の代表者名義の書面を取り交わさない場合も少なくありませんので,契約の成立に留意する必要があります。継続的な取引のある顧客との間では,継続的取引基本契約を締結し,個別契約の成立を簡便かつ確実に立証できる契約条項を作成するべきです。

 

【ステップ2】契約における履行義務を識別する

 

本基準は,“履行義務”(performance obligation)を,「顧客に(a)別個の財又はサービス,(b)ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスのいずれかを移転するという当該顧客との契約における約束」と定義づけています(第22項)。

契約における履行義務を識別するステップ2は,本基準の適用上,難しい判定を含む最も重要なステップであるといえます。

企業は,顧客との契約を識別した後の次のステップで,契約開始時に,当該契約における履行義務を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

 

1 契約における約束の識別

 

まず,企業は,当該契約において約束した財又はサービスのすべてを識別するため(BC 87),契約における約束を漏れなく抽出します。

顧客との契約が成立している以上,企業からみて,法律上の債権である対価を受け取る権利と,法律上の債務である①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(契約における本来の債務=給付義務)が発生します。これらの債権と債務は,法律上,双務契約における対価関係があり,“交換”されるものとして,常に契約における約束に該当します。

顧客との契約には,そのほかにも,法律上の債務である②企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務が含まれることがあります。

また,企業は,契約における約束として,①や②のような強制可能な義務(法律上の債務)だけではなく,③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束や,④契約に含意されている約束がないかどうかも検討します。そのような約束も,経済的価値のある財又はサービスを提供するものとして,企業と顧客との間で“交換”(=同価値性)の一部として交渉された可能性があります。

企業は,対価を受け取る権利と,以上のように抽出した①~④の契約における約束とが“交換”(=同価値性)としてバランスをとるどうかを判定し,契約における約束を漏れなく抽出しているかどうかを確認します。

 

2 別個の財又はサービス(の束)の識別

 

次に,企業は,識別した契約における約束を,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。

本基準は,企業の履行を忠実に描写するため,識別した契約における約束を“別個の財又はサービス”という概念を用いて適切な会計単位に区切り,又は束ねることを求めています(第27項)。企業は,次の①と②のいずれも満たす別個の財又はサービス(の束)を識別します。

① 財又はサービスは,最低限,顧客がその財又はサービスからの便益を,それ単独で,又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができることが必要です(第27項(a))。

② 財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能であることも必要です(第27項(b))。

 

3 履行義務の識別

 

このステップの最後に,企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)から,区分して会計処理をする単位として履行義務を識別します(第22項)。

本基準は,“別個の財又はサービス”という概念では,反復的なサービス契約などで費用対効果が低い多数の会計単位を識別してしまうという運用上の問題を解決するため,ほぼ同一で,移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスについて,単一の履行義務を識別するものとしています(第22項(b))。

そのほかは,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します(第22項(a))。

 

企業は,契約書やそれに関連する事実・状況から,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(例:目的物の引き渡し)だけでなく,②企業が負担し又は拘束を受ける強制可能な義務(例:製品保証,返品義務),③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束(例:カスタマー・ロイヤルティ・ポイント),④契約に含意されている約束(例:ソフトウェアのアップデート)を抽出し,漏れなく履行義務を識別する必要があります。以下のような業種・業界では,本基準の適用が契約実務に及ぼす影響が大きいので,特に留意する必要があります。

・製品保証を提供するメーカー
・返品慣行がある業界に属する企業
・ポイント制度を導入する企業
・他の企業の販売に関連する業務を受託する企業
・知的財産を取り扱うライセンサー・フランチャイザー

 

【ステップ3】取引価格を算定する

 

本基準は,“取引価格”(transaction price)を,「約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額(第三者のために回収する金額を除く)」と定義づけています。

顧客が固定額の現金対価を支払うと約束する場合は,単純に取引価格を算定できますが,本基準は,取引価格の算定が困難となる4つの類型の指針を示しています(第48項)。

企業は,契約開始時に,これらの類型に応じて,次のとおり取引価格を算定します。

1 変動対価/変動対価の見積りの制限

2 契約における重大な金融要素の存在

3 現金以外の対価

4 顧客に支払われる対価

 

【ステップ4】取引価格を契約における履行義務に配分する

 

企業は,約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します(第73項)。

このステップの適用は,次のとおり,1.契約開始時と,2.契約開始後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。

1 履行義務への取引価格の配分

2 取引価格の変動

 

【ステップ5】企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する

 

企業は,約束した財又はサービスを顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて),収益を認識します(第31項)。

本基準は,企業が収益を認識すべき“履行義務の充足”は,企業から顧客への“資産(財又はサービス)の移転”という事象として捉えており,企業から顧客への資産の移転は,顧客が資産(財又はサービス)に対する支配(第33項)を獲得した時に(又は獲得するにつれて)生じるという考え方(支配モデル)を採用しています。

資産(財又はサービス)の支配がいつ顧客に移転されるかの判定によって,企業が収益を認識する時点が決定されますので,履行義務の充足を判定するステップ5は,本基準の適用上,重要なステップであるといえます(BC 117)。

まず,企業は,ステップ②で識別された履行義務のそれぞれについて,契約開始時に,1.一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は2.一時点で充足される履行義務かを区別します(第32項)。

 

1 一定の期間にわたり充足される履行義務

 

企業は,次の要件のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足する履行義務に区別します(第35項)。

a 顧客が,企業の履行によって提供される便益を,企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する。

b 企業の履行が,資産を創出するか又は増価させ,顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する。

c 企業の履行が,企業が他に転用できる資産を創出せず,かつ,企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している。

企業が現在までに完了した履行に対する支払の権利を有するかどうかは,法令・判例を考慮し,企業が契約の存続期間全体を通じて,顧客が債務不履行以外の理由で契約を解約するときに(任意解約),現在までに移転した財又はサービスの販売価格に近似した金額(コスト+合理的な利益マージン)の支払いを受ける強制可能な権利(法律上の請求権)があるかどうかによって判定します(第37項,B 12)。

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することにより,一定の期間にわたり収益を認識します(第39項)。

 

企業は,以下のような業種・業界でみられる履行過程が一定期間にわたる成果型の請負契約や業務委託契約など(非転用成果型請負・業務委託)では,一定の期間にわたり充足される履行義務に区別するために,その成果が他に転用できないことに加え,法令・判例に従って“企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利”があると判定される契約条項を作成します。

・不動産(建物)の建設業
・顧客仕様で受注生産する企業
・顧客自用のソフトウェア・システム開発を受託する企業
・コンサルティングを提供する企業

 

2 一時点で充足される履行義務

 

企業は,それぞれの履行義務について,一定の期間にわたり充足される履行義務に区別しない場合は,一時点で充足される履行義務に区別します(第32項)。

企業は,一時点で充足される履行義務について,資産(財又はサービス)の支配が企業から顧客へ移転する指標を考慮して,企業が履行義務を充足する時点を決定し,その時点で収益を認識します(第38項)。

企業は,支配の移転の指標として,以下のa~eを考慮し,資産(財又はサービス)の支配が企業から顧客へ移転する時点を決定します(第38項)。

a 企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している

b 顧客が資産に対する法的所有権を有している

c 企業が資産の物理的占有を移転した

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している

e 顧客が資産を検収した

 

商取引で最も頻繁にみられる契約類型である売買契約などは,一時点で充足される履行義務に区別されますが,企業は,企図する一定の時点で収益を認識できるように,対価の支払に関わる条件・期限・同時履行の抗弁,所有権の移転時期,危険負担,検収などに留意して契約条項を作成します。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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