法律会計フォーラム

2018.01.22更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

一時点で充足される履行義務

 

2018年1月22日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

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「一時点で充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-③ 一時点で充足される履行義務

 

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,まず,履行義務の属性を判定し(Step5-①履行義務の属性の判定),一つ又は複数の履行義務が一時点で充足される場合は,企業は,一時点で充足される履行義務のそれぞれについて,資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に収益を認識します(第36項)。

企業は,資産に対する支配の移転を検討するにあたって,“支配”の要件(第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第37項(1)~(5))を考慮し,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定します(第37項)。

 

2.履行義務を充足する時点の決定

 

企業は,資産に対する支配を顧客に移転することにより履行義務が充足される時点を決定するにあたって,“支配”の要件(第34項)を直接適用するほか,次のような支配の移転の指標(第37項(1)~(5))を考慮しなければなりません(第37項)。

a 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること(指標(1))

b 顧客が資産に対する法的所有権を有していること(指標(2))

c 企業が資産の物理的占有を移転したこと(指標(3))

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受していること(指標(4))

e 顧客が資産を検収したこと(指標(5))

 

3.企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること(第37項(1))

 

支配との関連性

顧客が資産に対して支払う義務を現在負っている場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力があることを示す指標になります(指針14(1))。

もっとも,企業が資産に関する対価を収受する権利は,財又はサービスそのものに関する指標ではありませんので,指標としての有用性には限界があります。

 

資産に関する対価を収受する現在の権利

企業が資産に関する対価を収受する現在の権利を有しているとは,資産に関する対価の支払期限が到来するまでに時の経過以外は必要とされないことをいいます。

企業が資産に関する対価を収受する現在の権利を有しないときは,顧客が確定期限の未到来以外に対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁(主張)を有しています。顧客が対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁としては,①停止条件の未成就,②不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),③同時履行の抗弁などの事由が考えられます。

 

停止条件の未成就

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいい,条件が成就したときに法律効力が発生する場合を停止条件といいます(“効力の発生が条件の成就まで停止している”)。

 

不確定期限の未到来(先履行義務の未履行)

期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。発生すること自体は確実ですが,いつ到来するかが不確実な事実にかからせる場合を不確定期限といい,いつ到来するかが確実な事実にかからせる場合を確定期限といいます。

支払期限の到来まで時の経過以外は必要とされない場合は確定期限であり,企業は,資産に対する支払を受ける現在の権利を有します。

これに対し,企業が財又はサービスを提供する義務の履行を完了した後に顧客が代金を支払う定め(後払)があるときは,企業がいつ財又はサービスを提供する義務(先履行義務)を履行するかが不確実なので不確定期限であり,企業は,財又はサービスを提供する義務の履行を完了しない限り,資産に対する支配を受ける現在の権利を有しません。 

 

同時履行の抗弁

同時履行の抗弁とは,双務契約の当事者が,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる権利をいいます(民法533条)。

顧客が企業に対価を支払う義務と,企業が顧客に契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(給付義務)との間に同時履行の関係のある契約では,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供するまで,顧客が対価の支払を拒絶することができるので(同時履行の抗弁),資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。

不動産の売買契約,建築請負契約などでは,顧客が対価を支払う義務と契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を同時に履行するものとして合意することが多くみられます。これら双方の義務を同時履行の関係にする場合は,通常,契約条項に「と同時に」や「と引換えに」などの用語を使って明示し,後払と区別します。 

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,資産に関する対価を収受する現在の権利を有するに至る時点,すなわち,支払期限が到来するまでに時の経過以外が必要とされなくなる時点を考慮します。顧客が支払を拒絶できる法律上の抗弁,例えば,停止条件の未成就,不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),同時履行の抗弁などを主張できるときは,企業は資産に関する対価を収受する現在の権利を有しません。

 

4.顧客が資産に対する法的所有権を有していること(第37項(2))

 

支配との関連性

法的所有権は,物に対する完全支配権であり,所有者は,自らの活動に物(資産)の消費,処分,売却,交換,使用,担保差入,保有等のあらゆる利用ができ,他の企業に対する利用の許諾・制限もできますので,顧客が資産に対する法的所有権を有している場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力又は他の企業が当該便益を享受することを制限する能力を有していることを示す指標になります(指針14(2))

資産の法的所有権は,それが顧客に移転したときに顧客が当該資産に対する支配を獲得し,逆に,それが企業に留まるときは,未だ顧客が当該資産を支配していないことを示す重要な指標になります。多くの場合,資産の法的所有権の移転に伴って資産に対する支配も移転し,資産の法的所有権と資産に対する支配は一致します。ただし,顧客の支払不履行に対して資産の保全を行うためにのみ企業が法的所有権を有している場合(所有権留保)には,当該権利は,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(指針14(2))。

 

法的所有権の概念

所有権は,物権であり,物に対する完全支配権をいいます。所有権は,法律上の概念であり,本基準は,「法的所有権」という用語を使っています。

 

法的所有権の移転時期

a 契約に明示されている場合

所有権の移転時期は,一律に定まっているわけではなく,契約書,合意書等に明示されていればそれに従います。

物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって効力を生じ(民法176条,意思主義),要式や登録・登記を必要としません。そのため,所有権の移転及びその時期は,旧所有者(譲渡人)と新所有者(譲受人)との間の合意のとおりに効力を生じます。

b 契約に明示されていない場合

所有権の移転時期が契約書,合意書等に明示されていないときは,意思表示の解釈(契約の解釈)により当事者の意思を探求しますが,対抗要件(不動産は登記,動産は引渡し)を具備するときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。

 

所有権留保(支払不履行に対して資産の保全を行う権利)

a 所有権留保

所有権留保とは,売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保することをいいます。

所有権留保は,主に売買代金の割賦払(分割払)による動産の売買において利用されており,買主が売買代金の支払を怠った場合は,売主が留保した所有権に基づき,その目的物を買主又は第三者から引き揚げてこれを換価するなどして売買残代金の弁済に充当します。買主が売買代金を完済したときは,留保した所有権が売主から買主に移転します。

買主の目的物の利用状況は,通常の売買と異ならないため,売主が所有権を留保したいときは,通常,買主に明示的な合意を求め,契約条項又は約款で,買主による目的物の処分禁止や支払遅滞時の取扱いなど詳細に取り決めます。

b 支配との関連性

企業が所有権留保の特約により資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(指針14(2))。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の法的所有権を有するに至る時点を考慮します。所有権の移転時期は,契約書等に明示されていればそれに従い,明示されていなければ,所有権移転の対抗要件(不動産の登記,動産の引渡し)を具備したときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保する場合(所有権留保),企業が資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません。

 

5.企業が資産の物理的占有を移転したこと(第37項(3))

 

支配との関連性

資産の物理的占有は,占有者が自ら当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受するか,又は当該便益への他の企業のアクセスを制限する能力を有することを示す可能性があり(IFRS第38項(c)),顧客が資産を物理的に占有する場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力又は他の企業が当該便益を享受することを制限する能力を有していることを示す指標になり得ます(指針14(3))。

しかし,物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあります。例えば,買戻契約には,企業が顧客に資産の物理的占有を移転しながら,依然として当該資産を支配しているものがあります。逆に,請求済未出荷契約には,顧客が資産に対する支配を獲得しながら,企業が依然として当該資産の物理的占有を継続しているものがあります(指針14(3))。

 

物理的占有

占有は,一般に物に対する事実的支配をいいます。本基準は,“物理的占有”の静態的な帰属ではなく,企業から顧客へ「移転した」かどうかという動態的な移転を指標としています。例えば,企業がその意思によらずに物理的占有を喪失し,それを顧客が獲得しても,物理的占有の移転とはいえません。

 

適用指針「請求済未出荷契約」

請求済未出荷契約とは,企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約をいいます(指針77)。

このような契約は,ほとんどの場合,①企業が当該資産に関する対価を収受する現在の権利を有し(指標(1)),かつ,②企業が当該資産の法的所有権を顧客に移転する黙示の合意が含まれると解釈できますので(指標(2)),顧客が当該資産に対する支配を獲得します。逆に,企業は,当該資産を支配せず,代わりに顧客に当該資産に対する保管サービスを提供しています(IFRS/B 80)。

企業は,商品又は製品を移転する履行義務をいつ充足したかを判定するにあたっては,顧客が当該商品又は製品の支配をいつ獲得したかを考慮し(指針78),本基準第36項及び第37項の定めを適用するほか,顧客が当該商品又は製品の支配を獲得したと評価するためには,次のa~dの要件のすべてを満たしていなければなりません(指針79)。

a 請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること

ⅰ 企業と顧客との間で請求済未出荷契約(企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約)が成立したこと

ⅱ 上記ⅰの契約の締結に合理的な理由があること

b 当該商品又は製品が,顧客に属するものとして区分して識別されていること

c 当該商品又は製品について,顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること

d 当該商品又は製品について,使用する能力や他の顧客に振り向ける能力を有することができないこと

● 企業は,商品又は製品の物理的占有を移転する前に顧客が当該商品又は製品の支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,保管サービス)があるかどうかを考慮しなければなりません(IFRS/B 82)。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,企業が資産の物理的占有を移転した時点を考慮します。物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあるので,買戻し契約や請求済未出荷契約を考慮します。

 

6.顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受していること(第37項(4))

 

支配との関連性

顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受している事象は,顧客が当該資産に対する支配を獲得した結果であることが多いといえます(IFRS/BC 154)。そのため,資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を顧客に移転する場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を獲得することを示す指標となり得ます(指針14(4),IFRS/BC 119)。

もっとも,本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配モデルを採用しており,2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定する必要があります。例えば,企業が約束した財を移転する履行義務に加えて,維持管理サービスを提供する独立した履行義務を識別しているときは,財を移転する履行義務を充足する時点を決定するにあたって,財に関連する一部のリスク(故障や性能の低下)を除外して判定します(IFRS/第38項(d))。

 

危険負担

資産の所有に伴うリスクとして想定される一事象に資産の滅失・毀損があります。契約書等で,いつから顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

自然災害等の不可抗力により財が滅失・毀損し,企業が財を移転できなくなった場合,顧客が負う対価の支払義務が残存する(顧客が危険を負担する)のか,消滅する(企業が危険を負担する)のかという問題があり,これを危険負担といいます。

国内取引の実情では,引渡しの時に売主(甲)から買主(乙)に危険が移転する条件がほとんどです。他方,遠隔地者間の取引(特に輸出入取引)では,契約書等で危険が移転する時点として「引渡し」を定義づけることもあります。国際取引において採用される国際商業会議所が作成したインコタームズは,定型的な取引条件として,DAP(仕向地持込渡し)やFOB(本船積込渡し),CIF(運賃・保険料込み条件)などの記号を用いて「引渡し」を定義づけ,危険負担に関する取扱いを定めています。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受するに至る時点を考慮します。2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定します。契約書等で,いつから顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

 

7.顧客が資産を検収したこと(第37項(5))

 

支配との関連性

検収は,顧客が自ら検査して企業が合意された仕様に従った資産を移転し,履行義務を充足したことを確認するものですので,顧客による資産の検収が予定されている契約において,顧客が資産を検収した場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を獲得したことを示す指標となり得ます(指針14(5))。

 

検収

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。

企業が顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された条件に適合しない場合は,履行義務を完全に充足せず(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)が消滅しません。),追加的に履行義務を完全に充足する強制力のある義務(代替品の給付,補修,損害賠償等)を負い続けます。

商法526条は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買では,顧客が受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い,目的物が契約において合意された条件に適合しない場合でも,次のとおり企業に通知しなければ,責任追及(代替品の給付,契約の解除,代金減額又は損害賠償)ができなくなることを定めています。

● 検査によって直ちに発見することができる契約不適合(瑕疵)⇨検査後直ちに通知する

● 上記以外の契約不適合(隠れた瑕疵)⇨受領後6か月以内に通知する

この規定は,商人間の売買契約に関する任意規定ですので,取引の実情に応じ,この規定を明確化又は修正する特約をし,また,売買契約以外の契約類型でも,顧客の検査と契約不適合(瑕疵)の取扱いに関して定めることが少なくありません。

 

適用指針「顧客による検収」

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得したかを考慮するにあたって,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。

a 契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを客観的に判断できる場合(指針80)

顧客の検収は,形式的なものであり,顧客による財又はサービスに対する支配の時点に関する判断に影響を与えず,顧客の検収前に顧客が財又はサービスに対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する可能性があります。

● 企業は,顧客の検収前に収益が認識される場合には,他の残存履行義務(例えば,設備の据付け)があるかどうかを判定しなければなりません(指針81)。

b 顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると客観的に判断することができない場合(指針82)

顧客の検収が完了するまで,顧客は財又はサービスに対する支配を獲得しません。

c 商品又は製品を顧客に試用目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合(指針83)

顧客が商品又は製品を検収するか,あるいは試用期間が終了するまで,当該商品又は製品に対する支配は顧客に移転しません。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,検収の契約条項が,顧客による財又はサービスに対する支配の時点に与える影響を考慮します。財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合には,検収の契約条項が影響を与えず,顧客の検収前に顧客が当該財又はサービスに対する支配を獲得する可能性がありますが,企業が客観的に判断することができない場合には,顧客の検収が完了するまで顧客が当該財又はサービスに対する支配を獲得しません。

 

8.代替的な取扱い

 

● 出荷基準等の取扱い

適用指針は,本基準第36項及び第37項の定めにかかわらず,商品又は製品の国内の販売において,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(本基準第32項~第34項,第36項及び第37項の定めに従って決定される時点,例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合(当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合)には,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば,出荷時や着荷時)に収益を認識することができると定めています(指針97)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.01.05更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

一定の期間にわたり充足される履行義務

 

2018年1月5日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「一定の期間にわたり充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-② 一定の期間にわたり充足される履行義務

 

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,まず,履行義務を判定し(Step5-①履行義務の属性の判定),一つ又は複数の履行義務が一定の期間にわたり充足される場合は,企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,履行義務の充足に係る進捗度を見積り,当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(第38項)。

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するような適切な見積りの方法を決定します(指針15)。

 

2.履行義務の充足に係る進捗度

 

進捗度を見積る目的

進捗度を見積る目的は,企業が約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります(IFRS第39項)。

進捗度の見積方法はさまざま考えられますが,企業は,その見積方法を自由な裁量により恣意的に選択するのではなく,進捗度を見積る目的に整合する適切な見積方法を選択しなければなりません(IFRS/BC 159)。

 

単一性の原則

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の見積方法を適用しなければなりません(第39項)。

 

一貫適用の原則

企業は,特定の履行義務に選択した進捗度の見積方法を,類似の履行義務及び状況に首尾一貫して適用しなければなりません(第39項)。

 

再測定の原則

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を各決算日に見直さなければなりません(第40項)。

 

☞履行義務の充足に係る進捗度を見積る目的は,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります。企業は,履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の見積方法を適用し,類似の履行義務及び状況に首尾一貫して適用しなければなりません。

 

3.進捗度の見積方法

 

進捗度の見積方法の選択

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するような適切な見積りの方法を選択しなければなりません(指針15)。

 

進捗度の見積方法の適用

a 企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,履行義務を充足して顧客に支配を移転する財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映しなければなりません(指針16)。

特にアウトプット法では,後に述べるとおり,選択するアウトプットによっては,顧客に支配を移転した財又はサービスの一部がアウトプットの見積りに含まれない場合がありますので,企業は,履行義務の充足に係る進捗を忠実に描写するようなアウトプットを選択すべきです(指針18)。

b 企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,顧客に支配を移転しない財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映してはなりません(指針16)。

特にインプット法では,後に述べるとおり,顧客に財又はサービスの支配を移転しない活動に生じたインプット(コスト)や,履行義務の充足に係る進捗度に寄与しないインプット(コスト)を除外しなければなりません(指針22(1),60)。

 

進捗度の見積りの見直し

企業は,各決算日において,履行義務の完全な充足に係る全体値の変動を反映するため,進捗度の見積りを見直さなければなりません。進捗度の見積りの変更は,会計上の見積りの変更(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4項(7))として処理しなければなりません(第40項)。

 

☞企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,適切な見積方法を選択します。その適用にあたっては,顧客に支配を移転する財又はサービスを漏れなく進捗度の見積りに含め,逆に,財又はサービスの支配の顧客への移転に関与・寄与しない活動・事象は進捗度の見積りから除外します。企業は,各決算日において,履行義務の完全な充足に係る全体値を見直し,進捗度の見積りを変更するときは,会計上の見積りの変更として処理します。

 

4.アウトプット法

 

アウトプット法

アウトプット法は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積り,契約において約束した残りの財又はサービスの顧客にとっての価値との比率に基づき収益を認識するものです(指針17)。

「顧客にとっての価値」は,契約における企業の履行の客観的な見積りを指し,個々の財又はサービスの市場価格又は独立販売価格や,財又はサービスに組み込まれたと顧客が認識している価値を評価する必要はありません(IFRS/BC 163)。

 

指標の例

指標として,例えば,現在までに履行を完了した部分の調査,達成した成果の評価,達成したマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数などがあります(指針17,IFRS/BC 163)。

 

選択の留意点

アウトプット法の欠点は,進捗度を見積るために使用されるアウトプットが直接的に観察できない場合があり,過大なコストを掛けないとアウトプット法の適用に必要な情報が利用できない場合があることです(指針116)。

アウトプット法を選択するときは,企業は,事実及び状況を考慮し,選択するアウトプットが,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します(IFRS/BC 166)。

● 選択したアウトプットが,支配が顧客に移転している財又はサービスの一部を見積っていない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が決算日に生産されているのに,当該仕掛品又は製品がアウトプットの見積りに含まれていない場合には,企業の履行を忠実に描写していません(指針18,116)。

● 選択したアウトプットの単位が一律に顧客にとって同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業が設計と製造の両方を顧客に提供するため,選択したアウトプットの各項目が一律に同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。逆に,企業が長期的に製造する標準品目を個々に顧客に移転するため,選択したアウトプットの各項目が同価値である場合には,企業の履行を忠実に描写します(IFRS/BC 166)。

 

実務上の便法

現在までに履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受ける権利を有している場合(例えば,提供したサービスの時間ごとに固定額を請求する契約)には,企業は,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます(指針19,IFRS/BC 167)。

 

☞企業は,例えば,達成した成果やマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数など財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積る方法(アウトプット法)を選択するときは,必要な情報を入手するコストのほか,選択するアウトプットが,顧客に支配を移転した財又はサービスを漏れなく見積っているかや,その単位が一律に顧客にとって同価値かなど,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します。企業は,現在までに履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受ける権利を有している場合には,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます。

 

5.インプット法

 

インプット法

インプット法は,履行義務の充足に使用されたインプットと契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプットの比率に基づき収益を認識するものです(指針20)。

 

指標の例

指標として,例えば,消費した資源,発生した労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(指針20)。

 

選択の留意点

インプット法の欠点は,インプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がなく,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しない場合があることです(指針117)。他方で,アウトプット法の適用に過大なコストがかかり,インプット法が低コストで合理的な代用数値を提供することもあります(IFRS/BC 164)。

そこで,企業は,インプット法の適用にあたって,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するよう,適用の留意点に十分に配慮することによって,インプット法を選択することが適切な場合があります。

 

適用の留意点

企業は,顧客に財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写しないものの影響は,インプット法に反映してはなりません(指針21)。

例えば,契約締結活動(契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動で発生するコストなど,顧客に財又はサービスを移転しない活動及び関連するコストの影響をインプットから除外します(指針60)。

コストに基づくインプット法を使用するにあたっては,次のa又はbの状況において,進捗度の見積りを修正します(指針22)。

a 発生したコストが,履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合

例えば、履行義務を充足するために生じた想定外の金額の材料費,労務費又は他の資源の仕損のコストなど,契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストに対応する収益を認識してはなりません(指針22(1),117)。

b 発生したコストが,履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合

発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識することが適切となる場合があります(指針22(2))。

例えば,エレベーターの据付けを含むリフォーム工事契約において,現場に納入されたエレベーターを事後に据え付けるケースでは(設例9),企業が財とサービスの両方を顧客に移転することを約束していますが,顧客が当該履行義務の重要部分である財(エレベーター)に対する支配を,サービス(据付け)に対する支配と異なる時点で獲得するときは,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しません(IFRS/BC 169)。

本基準は,代表的なケースから未据付資材の会計処理と呼び,設例9で解説しています。

【インプット法の修正】(未据付資材の会計処理)

企業は,契約における取引開始日に,次のⅰ~ⅳのすべてが満たされると見込まれる場合には,履行義務の充足に使用される財のコストと同額で収益を認識することが適切となります(指針22(2))。

ⅰ 当該財は別個のものではないこと

ⅱ 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当以前に,顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること

ⅲ 移転する財のコストの額について,履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること

ⅳ 当該財を第三者から調達し,当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと(ただし,本人と代理人の区分に関する指針39~47に従うと,企業が本人に該当する場合)。

 

☞企業は,例えば,消費した資源,発生したコスト,経過期間など履行義務の充足に使用されたインプットにより見積る方法(インプット法)を選択するときは,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外することに留意します。コストに基づくインプット法を使用するときは,契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストや,顧客に財又はサービスを移転しない活動に関連するコストなど,履行義務の充足に係る進捗度に関与・寄与しないコストを除外します。また,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識することが適切な場合があります。

 

6.合理的な進捗度の見積り

 

進捗度の見積りの停止

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ,一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識します(第41項)。

企業は,進捗度を適切に見積るための信頼性のある情報が不足しており,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には(第121項),一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識してはなりません(第41項)。

 

進捗度の特殊な適用

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないものの,当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで,回収することが見込まれる費用の額で収益を認識します(第42項)。

 

☞企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には,収益を認識しません。企業は,履行義務の完全な充足に係る全体値を合理的に見積ることができないものの,当該履行義務の充足のために発生する費用を最終的に回収すると見込まれる場合は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができるようになるまで,回収することが見込まれる費用の額でのみ収益を認識します。

 

7.代替的な取扱い

 

● 契約の初期段階における原価回収基準の取扱い

適用指針は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,契約の初期段階において,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には,当該契約の初期段階に収益を認識せず,当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができると定めています(指針98)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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