法律会計フォーラム

2017.11.25更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

取引価格の配分

 

2017年11月25日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER12-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

 

「取引価格の配分」 目次と概要

 

1.Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」の概要

 

企業は,取引価格を算定した後の次のステップで,契約における取引開始日に,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します。

このステップの適用は,次のとおり,1.契約における取引開始日と,2.契約における取引開始日後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。

1 履行義務への取引価格の配分

企業は,契約における取引開始日に,独立販売価格の比率に基づき,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して取引価格を配分します(第63項)。

2 取引価格の変動

企業は,契約における取引開始日後に取引価格が変動したときは,独立販売価格の事後的な変動を考慮せず,契約における取引開始日と同じ基礎により変動した取引価格を履行義務に配分しなければなりません(第71項)。

 

☞企業は,①契約における取引開始日と,②契約における取引開始日後に取引価格が変動したときに,算定した取引価格を,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ると見込む対価の額を描写するように,それぞれの履行義務に配分します。

 

2.Step4-① 取引価格の配分

 

Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,まず,企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約における取引開始日の独立販売価格の比率に基づき,算定した取引価格を配分します(第65項)。

契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,企業は,契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして,当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠がある一定の要件を満たす場合を除き,契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分しなければなりません(第67項,第68項)。

企業は,一定の要件を満たす場合には,変動対価及びその事後的な変動のすべてを,1つの履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第69項)。

 

3.配分の目的

 

配分の目的

取引価格を配分する目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うことにあります(第62項)。

本基準は,この目的を達成するため,企業は,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づき,取引価格を配分することとしています(IFRS/BC 266)。ただし,値引きの配分(第67項,第68項),変動対価の配分(第69項,第70項)に定める例外があります(第63項)。

 

契約に履行義務が一つしかない場合

契約に単一の履行義務しかない場合には,基本的に取引価格の配分に関する本基準第65項~第70項は適用されません。ただし,企業が,一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)を移転する約束が単一の履行義務として識別され(第29項(2)),かつ,契約において約束された対価に変動対価が含まれる場合には,変動対価の配分(第69項,第70項)が適用される場合があります。

 

☞配分の目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うことにあります。

 

4.独立販売価格の算定

 

独立販売価格とは

独立販売価格とは,財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます(第8項)。

 

独立販売価格の算定の方法

企業は,取引価格の配分にあたって,次の場合に分けて,約束した財又はサービスの独立販売価格を算定します。

● 独立販売価格を直接観察できる場合

企業が同様の状況において独立して類似の顧客に販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格がある場合には,その観察可能な価格が,独立販売価格の最善の見積りであるといえます。財又はサービスの契約上の価格や定価は,当該財又はサービスの独立販売価格である場合がありますが,そのように推定されるわけではありません(第125項)。

● 独立販売価格を直接観察できない場合

独立販売価格を直接観察できない場合には,企業は,配分の目的(第62項)と整合する取引価格の配分となる独立販売価格を見積らなければなりません(第125項)。

 

☞企業は,取引価格の配分にあたって,別個の財又はサービスの独立販売価格(財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格)を算定します。企業が同様の状況において独立して類似の顧客に販売する場合における観察可能な価格が独立販売価格の最善の見積りとなります。独立販売価格が直接観察できない場合には,企業は,配分の目的と整合するように独立販売価格を見積ります。 

 

5.独立販売価格の見積りの方法

 

独立販売価格の見積りの方法

企業が顧客に独立して販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格がない場合には,企業は,その代わりに独立販売価格を見積らなければなりません。

その見積りの方法は,配分の目的に整合する独立販売価格の忠実な描写である限りは,制限がありません。本基準は,独立販売価格の見積りのための適切な方法を例示していますが(指針31),独立販売価格の見積りの方法は,それらの例示に限られず,また,特定の方法を禁止することもしていません(IFRS/BC 268)。

 

実態適用の原則

企業は,独立販売価格を見積るにあたって,合理的に入手できるすべての情報(市場の状況,企業固有の要因,顧客に関する情報等)を考慮し,観察可能な入力数値を最大限利用しなければなりません(第66条,IFRS/BC 268)。

 

一貫適用の原則

企業は,類似の状況においては,独立販売価格の見積方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第66条,IFRS/BC 268)。

 

独立販売価格を見積るための適切な方法の例

財又はサービスの独立販売価格を見積るための適切な方法には,例えば,次の方法がありますが,これらに限定されません(指針31)。

 

● 調整した市場評価アプローチ

企業は,財又はサービスが販売される市場を評価して,顧客が支払うと見込まれる価格を見積ります。このアアプローチには,企業が,他の企業における類似した財又はサービスの価格を参照して,企業のコストと利益相当額を考慮して当該価格を調整することも含まれます(指針119)。

 

● 予想コストに利益相当額を加算するアプローチ

企業は,履行義務を充足するために発生するコストを見積り,当該財又はサービスの適切な利益相当額を加算して独立販売価格を見積ります。

 

● 残余アプローチ

企業は,契約における取引価格の総額から契約において約束した他の財又はサービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して残余の財又はサービスの独立販売価格を見積ります(IFRS/BC 270)。

ただし,企業は,次のⅰ又はⅱのいずれかに該当する場合に限り,残余アプローチを使用できます。

ⅰ 販売価格が大きく変動する状況

企業が同一の財又はサービスを異なる顧客に同時又はほぼ同時に幅広い価格帯で販売していること(すなわち,典型的な独立販売価格が過去の取引又は他の観察可能な証拠から識別できないため,販売価格が大きく変動性する。)

例えば,知的財産及び他の無形資産に関する契約では,それらの財又はサービスを顧客に提供する際に企業に発生する追加コストが少額又は皆無であるため,価格設定の変動性が高くなります。こうした変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有している状況では,契約における独立販売価格を算定する最も信頼性の高い方法は,残余アプローチであることが多いといえます(IFRS/BC 271)。

ⅱ 販売価格が確定していない状況

企業が当該財又はサービスの価格を未だ設定しておらず,当該財又はサービスを独立して販売したことがないこと(すなわち,販売価格が確定していない。)

 

独立販売価格の見積りの複数の方法の組合せ

企業は,契約における約束した財又はサービスのそれぞれの独立販売価格を,複数の方法を組み合わせて見積ることが必要になる場合があります。企業は,複数の方法を組み合せて独立販売価格を見積る場合には,取引価格をそのように見積った独立販売価格で配分することにより,配分の目的(第62項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第66項)に従っているかどうかを評価しなければなりません(指針120)。

例えば,契約の中に含まれる3つ以上の財又はサービスのうち,複数の独立販売価格が大きく変動する又は確定していないときに,残余アプローチを使用して独立販売価格が大きく変動する又は確定していない複数の財又はサービスの独立販売価格の合計額を見積り,その後,残余アプローチ以外の方法を使用して個々の財又はサービスの独立販売価格を見積り,残余アプローチによる当該独立販売価格の合計額に対して比例的に見積る場合がありますが,取引価格をそのように複数の方法を組み合わせて見積った独立販売価格で配分することが適切なのかどうかを評価 する必要があります(指針32,120,IFRS/BC 272)。

 

☞企業は,独立販売価格の見積りにあたって,合理的に入手できるすべての情報を考慮し,観察可能な入力数値を最大限利用します。適切な見積りの方法の例として,①調整した市場評価アプローチ,②予想コストに利益相当額を加算するアプローチ,③残余アプローチがあります。残余アプローチは,財又はサービスの販売価格が,(a)大きく変動する状況か,又は(b)確定していない(独立して販売したことがない)状況に限って使用できます。

 

6.代替的な取扱い

 

● 重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用

適用指針は,指針31の定めにかかわらず,履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で,当該財又はサービスが,契約における他の財又はサービスに付随的なものであり,重要性に乏しいと認められるときには,当該財又はサービスの独立販売価格の見積方法として,指針31(3)における残余アプローチを使用することができると定めています(指針99)。

 

7.独立販売価格に基づく配分

 

企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約における取引開始日の独立販売価格の比率に基づき,取引価格を配分します(第65項)。

本基準は,独立販売価格に基づく配分を原則(デフォルト)とすることにより取引価格の配分に規律をもたらし,企業内及び企業間の比較可能性を高めています(IFRS/BC 280)。

もっとも,独立販売価格に基づく配分は手段にすぎませんので,収益認識モデルにおける配分の目的(第62項)を達成するため,必ずしも企業が顧客から権利を得ると見込む対価の額の忠実な描写とならない場合として,例外的に値引きの配分(第67項,第68項),変動対価の配分(第69項,第70項)の方法を定めています(第63項,IFRS/BC 279,280)。

 

8.値引きの配分

 

概要

契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,企業が契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして取り扱います。この値引きは,一部の履行義務に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例してすべての履行義務に配分されます(第67項,第126項)。

もっとも,例えば,契約における約束した財又はサービスに利益相当額の高いものと低いものがあるために,契約全体としては利益が生じるのに,値引きの配分によって利益相当額の低い履行義務の充足時に損失が生じる可能性があります。値引きを独立販売価格に比例して配分する結果は,必ずしも企業が特定の履行義務の充足について権利を得る対価の額を忠実に描写しません(IFRS/BC 277)。

そこで,本基準は,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠がある場合に限り,値引き全体を当該一つ又は複数の履行義務に配分することとしています(第68項)。

 

要件

企業は,次のa~cの要件のすべてを満たす場合には,契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に値引き全体を配分しなければなりません(第68項)。

a 契約における別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを,通常は単独で販売していること

b 当該別個の財又はサービスのうちの一部を束にしたものについても,通常はそれぞれの束における財又はサービスの独立販売価格から値引きして販売していること

c bにおける財又はサービスの束のそれぞれに対する値引きが,当該契約の値引きとほぼ同額であり,それぞれの束における財又はサービスを評価することにより,当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠があること

 

取引価格の配分の方法

企業は,第68項に従って値引きを配分する場合には,当該値引きを配分した後に,残余アプローチ(指針31(3))により,財又はサービスの独立販売価格を見積ります(指針33)。

例えば,企業が,通常,製品Xを@40で,製品Yを@55で,製品Zを@45で,製品Wを@15~45で(大きく変動する),独立して販売するとともに,製品YとZを組み合わせて対価60で販売している状況において,製品W~Zを組み合わせて対価130で販売するとします。

この場合,企業は,製品YとZを組み合わせて販売するときに40値引きをするという観察可能な証拠があり,製品Xの独立販売価格@40を直接観察できますので,製品W~Zを組み合わせたときの対価130のうち対価100を製品X~Yに配分し,値引き40全体をYとZに配分すべきであるという観察可能な証拠があります。次に,残余アプローチを使用して,製品Wの独立販売価格を@30と見積ります。企業は,複数の方法を組み合せて製品Wの独立販売価格を見積った結果@30を検討し,観察可能な販売価格の範囲内(15~45)であると確認し,この配分結果は,配分の目的(第62項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第66項)に従っていると評価します(設例16-2)。

このように,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠があるというための要件(第68項)は,通常,3つ以上の別個の財又はサービスのある契約に適用されます。これらの要件をすべて満たす状況は多くはありませんので,値引きをすべての履行義務に対して比例的に配分すべきではない状況は,制限的であるといえます(IFRS/BC 282)。

 

☞企業は,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠がある状況として本基準第68項の要件のすべてを満たす場合に限り,値引き全体を当該1つ又は複数の履行義務に配分します。 

 

9.変動対価の配分

 

概要

契約において約束された対価に変動対価が含まれる場合には,その変動する可能性のある金額は,1つの履行義務(あるいは1つの別個の財又はサービス)に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例してすべての履行義務に配分されます(第70項)。

もっとも,契約において約束された変動対価は,契約全体に帰属する場合もあれば,次のいずれかのように,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得る対価の額を忠実に描写するため,契約の特定の一部に帰属させることが適切な場合もあります(第127項,IFRS/BC 278)。

a 契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)

例えば,企業が約束した財又はサービスを所定の期間内において移転することを条件に割増金を受け取る場合には,当該財又はサービスに割増金(変動対価)を配分することが適切です(IFRS/BC 284)。

b 第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つ又は複数の別個の財又はサービス

例えば,ホテル管理サービスを1年間にわたり提供する契約において顧客が稼働率の2%を基礎として決定される変動対価を支払うことを約束するときは,企業が,毎日の個々の管理サービスにつき,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第29項(2))として単一の履行義務を識別する場合でも,日次の稼働率により対価の不確実性が解消されるため,日次に決定される変動対価を毎日の個々の管理サービスに配分することが適切です(IFRS/BC 285)。また,例えば,2年間の清掃サービスにおける2年目の対価が所定の物価上昇率に基づき増額される場合にも,その増額分は,2年目の個々の清掃サービスに配分することが適切です(第127項(2))。

そこで,本基準は,変動対価が契約における履行義務(あるいは別個の財又はサービス)の一つに関連する場合は,変動対価のすべてを,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することとしています(第69項)。

 

要件

企業は,次のa及びbの要件のいずれも満たす場合には,変動対価及びその事後的な変動のすべてを,1つの履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第69項)。

a 変動性のある支払の条件が,当該履行義務を充足するための活動や当該別個の財又はサービスを移転するための活動(あるいは当該履行義務の充足による特定の結果又は別個の財又はサービスの移転による特定の結果)に個別に関連していること

b 契約における履行義務及び支払条件のすべてを考慮した場合,変動対価の額のすべてを当該履行義務あるいは当該別個の財又はサービスに配分することが,企業が権利を得ると見込む対価の額を描写すること

 

取引価格の配分の方法

企業は,第69項に従って変動対価を配分するときは,取引価格のうち第69項の要件を満たさない残りの取引価格については,取引価格の配分に関する本基準第62項~第68項を適用して配分しなければなりません(第70項)。

 

☞企業は,契約において約束された変動対価について,①変動性のある支払の条件が,一つの履行義務の充足(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一つの別個の財又はサービスの移転)のための活動(又はその特定の結果)に個別に関連し,かつ,②変動対価の額のすべてを当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するときは,変動対価及びその事後的な変動のすべてを当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分します。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.11.15更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

現金以外の対価と顧客に支払われる対価

 

2017年11月15日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER11-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

 

「現金以外の対価と顧客に支払われる対価」 目次と概要

 

1.Step3-③ 現金以外の対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約において約束された対価が現金以外の対価である場合は,企業は,当該対価を時価により算定する必要があります(第56項)。

 

2.現金以外の対価の測定

 

現金以外の対価の時価

企業は,財又はサービスと交換に顧客から現金を受け取る場合,流入する資産の価値すなわち受け取る現金の額で取引価格を測定しますので,これと整合させるため,企業が財又はサービスと交換に顧客から現金以外の対価(財又はサービスの形態のほか,金融商品や有形固定資産の形態の場合もあります。)を受け取る場合も,流入する資産の価値すなわち現金以外の対価の時価で取引価格を測定すべきです(IFRS/BC 248)。

 

現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合

企業が現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として間接的に当該対価を測定しなければなりません(第57項)。

例えば,IFRS第2号「株式に基づく報酬」で,企業は,受け取った財又はサービスの公正価値を信頼性をもって見積ることができない場合には,付与した資本性金融商品の公正価値を基礎としてそれらを間接的に測定することとしています。このように,受け取る資産と交換に引き渡す資産の公正価値の方が高い信頼性をもって見積ることができる場合は,その公正価値を基礎として間接的に測定することは,他の会計基準と整合的であるといえます(IFRS/BC 249)。

 

☞企業は,顧客が現金以外の対価を約束している場合,当該対価の時価を取引価格として測定する必要があります。もし,当該対価の時価を合理的に見積ることができない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として間接的に当該対価を測定します。

 

3.変動対価の見積りの制限の適用

 

現金以外の対価の変動性

現金以外の対価の時価の見積りは,企業が現金で受け取る変動対価と同様に変動する可能性がありますが,その変動性には,次の両方があります(IFRS/BC 250,251)。

● 将来の事象の発生又は不発生によって変動する可能性

 現金以外の対価の受け取りに条件が付されている場合(例えば,業績に基づく割増として株式を受け取る企業の権利が将来の事象の発生又は不発生に左右される場合)。

● 現金以外の対価自体の価格又は価値の変動

 現金以外の対価自体の価格又は価値が変動する場合(例えば,対価である株式の1株当たりの価格が変動する場合)。

 

変動対価の見積りの制限の適用

企業は,現金以外の対価の時価が変動する理由が,株価の変動等,対価の種類によるものだけではない場合(例えば,企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて時価が変動する場合)には,変動対価の見積りの制限に関する本基準第51項を適用しなければなりません(第58項)。

変動対価の見積りの制限に関する規律(本基準第51項・指針25,26)は,受け取る対価の種類が現金かそれ以外かにかかわらず,企業の履行に関連する同種の不確実性に適用すべきです。例えば,業績に基づく割増として株式を受け取る企業の権利の時価は,株式自体の価格又は価値の変動だけでなく,業績に基づく割増を受け取るかどうかの不確実性にも関連しています。本基準は,このように現金以外の対価の時価が変動する理由が企業の履行に関連する不確実性にもある場合には,時価の見積りにあたって,変動対価の見積りの制限(本基準第51項・指針25,26)を適用することとしています(IFRS/BC 252)。

 

☞企業は,現金以外の対価の時価が変動する理由が対価の種類によるもの(対価自体の価格又は価値の変動)だけでない場合には,変動対価の見積りの制限(本基準第51項)を適用する必要があります。

 

4.企業による契約の履行に資するための財又はサービス

 

顧客が企業による契約の履行に資するために財又はサービス(例えば,材料,設備又は労働)を拠出する場合には,企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得するかどうかを判定しなければなりません(第59項)。

企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得する場合には,当該財又はサービスを,顧客から受け取る現金以外の対価として処理しなければなりません(第59項)。したがって,企業は,契約において約束された現金対価の額に,拠出された財又はサービスの時価を加算して取引価格を算定し,契約におけるそれぞれの履行義務に配分します。

これに対し,企業が拠出された財又はサービスに対する支配を獲得しない場合には,当該財又はサービスは依然として顧客が支配していますので,取引価格に含めません。

 

5.Step3-④ 顧客に支払われる対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して対価を支払う又は支払うと見込まれる場合には,当該対価を取引価格(収益)から減額する必要があります(第60項)。

ここにいう対価は,現金の額や顧客が企業に対する債務額に充当できる金額等であって,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価でないものをいいます。

 

6.顧客に支払われる対価

 

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価とは,企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払う又は支払うと見込まれる対価であって,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価でないものをいいます。

企業は,顧客に支払われる対価を,取引価格から減額します(第60項)。

 

類似の支払の会計処理

企業が顧客又は顧客の顧客に対価を支払う又は支払うと見込まれる場合,その対価は,(a) 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金のほか,(b) 顧客から受領する財又はサービスと交換に支払われる対価,あるいは(c) 両者の組合せの形式による場合があります(IFRS/BC 255)。顧客に支払われる対価の形態には,現金のほか,企業に対する債務額に充当できるクレジット又は他の項目(例えば,クーポン又はバウチャー)も含まれます(IFRS第70項)。

企業は,これら類似の支払が以下のいずれであるかを決定し,会計処理します(IFRS2010ED 48)。

a 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金

 企業は,取引価格の減額として会計処理します(第60項)。

 顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第60項)。

b 顧客から受け取る別個の財又はサービスと交換に支払われる対価

 企業は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します(IFRS第71項)。

c aとbの組合せ

 顧客に支払われる対価が,企業が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価(公正価値)を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格の減額として会計処理します(IFRS第71項)。

 企業が顧客から受領する財又はサービスの時価(公正価値)を合理的に見積ることができない場合には,顧客に支払われる対価の全額を取引価格の減額として会計処理します(IFRS第71項)。

 

類似の支払と区別する指標

企業が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個の財又はサービス(顧客の財又はサービス)を顧客から受領し,当該財又はサービスと交換に顧客に支払われる対価は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理しなければなりません(IFRS第71項)。

仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理するかどうかは,企業が受領する財又はサービス(顧客の財又はサービス)が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個のものであるかどうか(本基準第31項,第117項・指針5,6,109参照)が指標となります(IFRS/BC 256)。

例えば,企業が顧客である販売業者に製品を販売するとともに,顧客から製品陳列サービス(製品の在庫保管・展示等)の提供を受け,当該サービスに対する支払を行うとします。

製品陳列サービスは,企業が取り扱う製品なしに単独で便益を享受することができませんが,企業が取り扱う製品は企業が容易に利用できる他の資源であり,それと組み合わせて便益を享受することができます(第31項(1)参照)。

したがって,企業は,顧客から受領する製品陳列サービスが,顧客への移転を約束した製品とは別個のものであると判定し,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価として,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します。

 

顧客に支払われる対価の一部についての取引価額の減額

企業が約束した財又はサービスと交換に顧客から受け取る対価の額と,当該顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価の額が,たとえそれらが別々の事象である場合であっても,関連していることがあります。例えば,顧客が,企業から移転される財又はサービスに対して,もし企業に提供する別個の財又はサービスと交換に企業から支払を受けていなければ支払ったであろう対価の額よりも多く支払うことがあります。そうした場合に収益を忠実に描写するため,企業が受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価として会計処理する金額は,当該財又はサービスの時価(公正価値)に限定し,時価を超過する金額があれば取引価格の減額として処理します(IFRS/BC 257)。

上記(製品陳列サービス)の事例で,もし,顧客に支払われる対価が製品陳列サービスの時価を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格の減額として会計処理します。

 

顧客の顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価には,企業が直接,顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払う又は支払うと見込まれる対価も含まれます。

例えば,企業が小売業者に製品を販売するとともに,新聞のチラシで消費者に割引クーポンを発行するとします。小売業者は,企業の製品の販売にあたって,消費者から割引クーポンの提示を受けたときは,代金を値引きするとともに,回収した割引クーポンを企業に提出し,企業から,消費者に値引いた金額を補償してもらいます。

このように,企業が直接,顧客(小売業者)から企業の財又はサービスを購入する他の当事者(消費者)に支払う対価も,顧客に支払われる対価に含まれます。この場合の対価の形態は,顧客(小売業者)が企業に対する債務額に充当できる割引クーポンであり,企業は,顧客に対し,消費者が企業の製品の購入にあたって提示した割引クーポンを企業に提出することを条件として,消費者に値引いた金額を補償することを約束しています。

企業は,顧客から,割引クーポンと交換に別個の財又はサービスを受け取っていませんので,取引価格の減額として会計処理します。

 

☞企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して対価を支払う又は支払うと見込まれる場合に,顧客に支払われる対価と類似の支払を区別し,①顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金については,取引価格を減額し,②顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価については,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理し,③①と②の組合せについては,企業が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価を超える場合にその超過額を取引価格の減額として会計処理します。

 

7.取引価格の減額の方法


取引価格の減額の会計処理を行う時点

顧客に支払われる対価を取引価額から減額する場合には,企業は,次のa又はbのいずれか遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益を減額しなければなりません(第61項)。

a 関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時

b 対価を支払うか又は支払を約束する時

顧客に支払われる対価を取引価額から減額する場合には,関連した履行義務の充足時に収益を減額して認識します。また,企業が履行義務を充足して収益を認識した後になってはじめて顧客に支払われる対価を約束する場合もありますが,この場合は,既に認識した収益を直ちに減額することになります。

 

顧客に支払われる対価の変動性

顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第60項)。

本基準は,企業が遅くとも顧客に支払われる対価を「約束」する時点で取引価格に反映すべきである旨を明確化しています。企業は,将来の事象の発生又は不発生を条件として顧客に支払われる対価を約束する場合も,約束の時点で,その不確実性を反映して取引価格を測定します。例えば,顧客が所定の数を購入することを条件とした顧客に支払われる対価の約束は,企業が当該約束をした時に取引価格に反映します(IFRS/BC 258)。

上記(割引クーポンの発行)の事例で,企業は,①小売業者に製品を引き渡した時,又は②消費者にクーポンを発行した時(=企業が顧客(小売業者)に対して消費者に値引いた金額を補償することを約束した時)のいずれか遅い時に,取引価格(収益)を減額します。その時点では,消費者が割引クーポンを行使するかどうかという不確実性のため,顧客に支払われる対価に変動する可能性のある部分が含まれています。そこで,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項に従い,変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価も含めて,取引価格を見積ります。

 

☞企業は,①約束した財又はサービスの移転に対する収益を認識する時,又は②対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)の遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益を減額します。企業は,企業が対価の支払を約束する時点で,顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.11.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

契約における重要な金融要素

 

2017年11月7日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER10-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

 

「契約における重要な金融要素」 目次と概要

 

1.Step3-② 契約における重要な金融要素

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約の当事者が明示的に又は黙示的に合意した支払の時期により,財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,企業は,契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する必要があります(第53項,第54項)。

ただし,実務上の便法として,企業が,契約における取引開始日において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整しないことができます(第55項)。

 

☞企業は,契約の当事者が合意した支払の時期(財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点が1年以内であると見込まれる場合を除きます。)により,顧客又は企業に信用供与についての重要な便益が提供される場合には,契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整します。

 

2.金融要素の影響の調整

 

金融要素を含む契約

顧客との契約の中には金融要素を含む契約がありますが,そうした契約は,概念上,販売に係る取引(売買契約)と金融に係る取引(融資契約)の2つの取引が含まれ,現金販売価格による収益要素と後払い又は前払いの条件の影響による金融要素に区分することができます。

本基準は,基本となる原則として,企業が約束した財又はサービスと交換に得る対価の額で収益を認識するという原理を採用していますが(第13項),金融要素を含む契約において約束された対価は,金利相当分の影響を含まれているため,約束した財又はサービスの対価の額を忠実に反映していません。そのため,契約において約束した対価から金利相当分の影響を調整しなければ,約束した財又はサービスの顧客への移転時に誤った金額の収益を認識してしまうおそれがあります。また,重要な金融要素を識別することにより,顧客との契約の重要な経済的特徴(財又はサービスの移転を目的とする契約が融資契約を含んでいること)に関する有用な情報を財務諸表利用者に提供します。

 

目的

契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります(第54項,IFRS/BC 230)。

現金販売価格とは,約束した財又はサービスが顧客に移転された時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金を支払ったとした場合に,約束した財又はサービスに対して顧客が支払ったであろう価格をいいます(IFRS第61項)。

 

☞企業が契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります。

 

3.重大な金融要素

 

要件

企業は,①契約の当事者が明示的に又は黙示的に合意した支払の時期により,②財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,顧客との契約は重要な金融要素を含むと判定し,契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整しなければなりません(第53項,第54項)。

①契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点と異なる支払の時期を合意することは,契約が重要な金融要素を含む前提条件となります。

財又はサービスの顧客への移転のかなり前又はかなり後に支払期限が到来することは,契約が金融要素を含むための必要条件ではありますが,契約に定められた支払の時期だけが,金利相当分の調整の必要性を決定づけるものではありません。財又はサービスの移転の時点と支払の時点との間に相当の期間があっても,それらの時点が異なる理由が,企業と顧客の間での融資契約に関するものではない場合もあります。

そこで,本基準は,契約の当事者が合意した支払の時期によって,②財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,契約が重要な金融要素を含むと判定することとしています(IFRS/BC 231)。

重要な金融要素は,信用供与の約束が契約に明記されているか,契約の当事者が合意した支払条件に含意されているかにかかわらず,存在する可能性があります(第124項)。

 

要素

契約が重要な金融要素を含むかどうかは,①契約が金融要素を含むかどうかと②金融要素が契約とって重要であるかどうかの2つの要素により構成されます(指針27)。

このうち②について,企業は,あくまで契約にとって(契約レベルでの)金融要素が重要かどうかを考慮します。多くの契約については,金融要素の影響が顧客との契約に関して認識すべき収益の金額を大きくは変更しないため,金融要素が重要ではないと考えられます。

企業によっては,類似した契約のポートフォリオレベルについての金融要素の複合した影響が企業全体にとって重要性がある場合もありますが,個々の契約にとって金融要素の影響が重要でない限り,重要な金融要素を識別する必要はありません(IFRS/BC 234)。

 

双方向性

企業は,契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点より後払いを合意するときは,企業から顧客に対して,また,前払いを合意するときは,顧客から企業に対して,それぞれ信用供与についての重要な便益が提供されるかどうかを判定します。

契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点より前払いを合意し,顧客から企業に対して信用供与についての重要な便益が提供される場合には,企業が受け取った現金よりも多額の収益を認識する結果になります。

このような結果は,従来の実務を変更することとなり,顧客が金融以外の理由(例えば,顧客に重要な信用リスクがある場合や顧客が事前の契約コストを企業に補償する場合)で前払いする取決めの経済的実質が反映されないことと平仄が合わないなどの問題も指摘されています(IFRS/BC 237)。

しかし,例えば,企業が,長期の工事請負契約に必要な資材の調達資金の提供を受けるために顧客との間で多額の前払いを合意する場合,そのような合意をしない場合に比べ,契約において約束された対価の額は,第三者から金融を得るための財務コストの分だけ低くなりますが,約束された財又はサービスが同一であるにもかかわらず,企業が信用供与についての重要な便益を顧客から受けるか第三者から受けるかによって認識すべき収益の額が異なるべきではありません。そこで,本基準は,契約の当事者が前払いの合意により顧客から企業に対して信用供与についての重要な便益が提供される場合にも,前払いによる重要な金利相当分の影響を調整する会計処理を免除しないこととしています(IFRS/BC 238)。

 

☞企業は,①契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点と異なる支払の時期を合意し,かつ,②財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,契約が重要な金融要素を含むと判定します。

 

4.重大な金融要素の識別

 

指標

企業は,①契約が金融要素を含むかどうか,②金融要素が契約とって重要であるかどうかを評価するにあたって,以下の指標を含め,関連するすべての事実及び状況を考慮しなければなりません(指針27,IFRS/BC 232)。

a 約束した対価の額と財又はサービスの現金販売価格との差額

企業(又は他の企業)が,支払条件の時期に応じて,同一の財又はサービスを異なる対価の額で販売する場合には,一般的に,各当事者は契約が金融要素を含むことを認識しています。ただし,この差額が金融以外の要因による場合もあります(指針28参照)。

b 約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点との間の予想される期間の長さ及び関連する市場金利の金融要素に対する影響

財又はサービスの移転の時点と支払の時点が異なることは,重要な金融要素を含むことを決定づけるものではありませんが,支払時期と市場金利の影響の複合によって,信用供与についての重要な便益が提供されていることを示す強い指標になる場合があります。

 

重要な金融要素を含まないことを示す要因

企業は,以下のいずれかに該当する場合には,顧客との契約は重要な金融要素を含まないと判定します(指針28,IFRS/BC 233)。

a 顧客が財又はサービスに対して前払いを行い,顧客の裁量により当該財又はサービスの移転の時期が決まること

カスタマー・ロイヤルティ・ポイントなど幾つかの類型の財又はサービスについては,顧客が当該財又はサービスに対して前払いを行い,当該財又はサービスの顧客への移転の時期が顧客の裁量で決まります。このような支払条件の目的は,信用供与についての重要な便益を顧客又は企業に提供することではないと考えられます。

b 対価が売上高に基づくロイヤルティである場合等,顧客が約束した対価のうち相当の金額に変動性があり,当該対価の金額又は時期が,顧客又は企業の支配が実質的に及ばない将来の事象が発生すること又は発生しないことに基づき変動すること

ロイヤルティ契約など一部の契約では,財又はサービスに関して重要な不確実性があるため,当事者が対価の額と支払時期を固定したくない場合があります。このような支払条件の主目的は,財又はサービスに対する対価の不確実性を解消し,当事者がその価値の保証を相手方に与えることにあり,信用供与についての重要な便益を顧客又は企業に提供することではないと考えられます。

c 約束した対価の額と財又はサービスの現金販売価格との差額が,顧客又は企業に対する信用供与以外の理由(例えば,顧客又は企業が契約上の義務の一部又は全部を適切に完了できないことに対する保全を支払条件により契約の相手方に提供する場合)で生じており,当該差額がその理由に基づく金額となっていること

状況によっては,業界又は法域での典型的な支払条件に従った前払い又は後払いには,金融以外の主目的がある場合があります。例えば,我が国の民法では,請負契約の報酬は,特約がない限り後払いとされ,建設業界の工事請負契約の標準約款でも完成・引渡し時に対価の一部又は全部を支払うものとされているように,顧客が契約の完了時又は所定のマイルストーンの達成時まで対価の一部又は全部の支払を留保する場合があります。逆に,限定的な財又はサービスの将来における提供を確保するために顧客が対価の一部を前払いすることを要求される場合もあります。このような支払条件の主目的は,当事者が財又はサービスの価値を相手方に保証すること(当事者が契約に基づく義務を適切に完了しないことに対する保全を相手方に与えること)にあり,信用供与についての重要な便益を顧客又は企業に提供することではないと考えられます(指針118)。

 

☞企業は,重要な金融要素の識別にあたって,①現金販売価格,②(a)支払時期と(b)市場金利の影響との複合を考慮します。ただし,①顧客が前払いした財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる場合や,②変動対価の額や支払時期に対して当事者の実質的コントロールが及ばない場合,③現金販売価額との差額が信用供与以外の理由に見合っている場合(例えば,当事者が契約に基づく義務を完了しないことに対する保全を相手方に与える場合)は,重要な金融要素を識別しません。

 

5.実務上の便法

 

企業は,契約における取引開始日において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整しないことができます(第55項)。

本基準は,企業に重要な金融要素の識別や割引率の決定などを免除して本基準の適用を簡素化するため,信用供与についての便益が1年以内であることに限定し,実務上の便法を容認しています(IFRS/BC 236)。ただし,財又はサービスの移転の時点と支払の時点の間が1年以内のときは重要な金融要素について金利相当分の影響を調整しないという実務上の便法は,類似した状況における類似した契約に一貫して適用すべきです(IFRS/BC 235)。

 

☞企業は,実務上の便法として,契約における取引開始日において,財又はサービスの移転の時点と支払の時点の間が1年以内であると見込まれる場合には,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整する必要はありません。

 

6.調整に用いる割引率

 

重要な金融要素の調整に用いる割引率

本基準は,重要な金融要素の調整に用いる割引率として,以下の利率を採用せず,契約における取引開始日において企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率を採用しています。企業と顧客との間で財又はサービスの提供を伴わない金融取引を行う場合に使用される利率が,その契約において信用供与を受ける当事者の特性を,顧客又は企業が提供する担保又は保証とともに,当事者の信用度その他のリスクを含めて反映するからです(IFRS/BC 239)。

● 契約で明示された利率

契約に利率が明示されていたとしても,その利率を割引率として使用できるとは限りません。企業が,顧客との契約にあたって,販売インセンティブとして安価な金融を提供する場合もありますので,その利率を使用すると,収益の適切な認識とはならないからです(IFRS/BC 239)。

● リスクフリー金利

リスクフリー金利は,多くの法域において観察可能であり,割引率として使用すれば,各契約に固有の利率を算定するコストがかかりません。しかし,本基準は,リスクフリー金利を割引率として使用することにより生じる金利収益又は金利費用は,契約の当事者の特性を反映しないため,有用な情報をもたらさないことから,割引率として使用しないこととしています(IFRS/BC 239)。 

 

企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用される割引率

企業は,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整するにあたって,契約における取引開始日において,企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率を使用しなければなりません(指針29)。

企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率の決定にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(顧客との契約により移転される資産を含みます。)も考慮します(IFRS第64項)。

 

現金販売価格への割引率

企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率は,契約において約束された対価(名目金額)の現在価値が財又はサービスが顧客に移転される時の現金販売価格と等しくなるような利率として特定することができます(指針29)。 

 

割引率の再評価

企業は,契約における取引開始日に決定した割引率は,たとえその後に金利の変動や顧客の信用リスクの評価の変動等があったとしても,見直してはなりません(指針29,IFRS/BC 242,243)。

 

☞企業は,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整するにあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(顧客との契約により移転される資産を含みます。)も考慮し,契約における取引開始日において企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率を使用しなければなりません。この割引率は,契約において約束された対価(名目金額)の現在価値が,財又はサービスが顧客に移転される時の現金販売価格と等しくなるような利率として特定することができます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

  • top_tel_sp.jpg
  • メールでのお問い合わせ
まずはお気軽にお問い合わせください 片山法律会計事務所 03-5570-3270 月~金 9:30~18:30 メールでのお問い合わせ
片山法律会計事務所 相続・事業継承プロフェッショナル