法律会計フォーラム

2016.05.21更新

2016年5月21日号(「公正な価格」を考える9号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 組織再編をしない仮定での価値と組織再編がある前提での価値
 資本関係のない売り手から買い手へと対象事業が移転し,その対価となる金銭が買い手から売り手へと支払われる組織再編(事業譲渡)を想定してみると,価値と価格の関係を比較的容易に理解することができます。
 対象事業は,取引(組織再編)をしない場合には,売り手の環境下で事業活動を継続し,売り手のために利益やキャッシュ・フローを稼得していくので,「売り手にとっての価値」は,“組織再編をしない仮定での客観的価値”しかありません。しかし,対象事業は,取引(組織再編)を行うと,買い手の環境下で事業活動を継続して買い手のために利益やキャッシュ・フローを稼得していくので,「買い手にとっての価値」は,“組織再編がある前提での客観的価値”を有することになります。
 下図はこれをイメージに表したもので,対象事業の客観的な価値(棒グラフ)は,「売り手にとっての価値」=“組織再編をしない仮定での客観的価値”と,「買い手にとっての価値」=“組織再編がある前提での客観的価値”に差異がありますが,この価値の変動や現象を「シナジー」ないし「シナジー効果」と呼ぶことにします。
2 シナジー効果
 このシナジー効果は,対象事業が買い手の環境下に入ることにより,買い手の経営資源(買い手の経営方針や資金力など目に見えないものも広く含めます。)との相乗効果によりその価値が増加すると考えられます。つまり,シナジーは,観念的には,もともと売り手が保有していた対象事業に属する経営資源が貢献した部分と,もともと買い手が保有していた経営資源が貢献した部分があると考えられます。

 

シナジー効果

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2016.05.11更新

2016年5月11日号(「公正な価格」を考える8号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 「価値」から「公正な価格」を決定するためには
 このように価値自体は「売り手にとっての価値」としても「買い手にとっての価値」としても評価・算定することができます。もっとも,株式価値評価実務では,必ずしも「売り手にとっての価値」と「買い手にとっての価値」を峻別して算定していません。例えば,株式会社又は指定買取人による譲渡等承認請求者からの買取り(会社法144条),単位未満株式の買取請求・売渡請求(同法193条)など株主の経営参画(支配)に影響を及ぼさない株式譲渡のケースでは,「売り手にとっての価値」と「買い手にとっての価値」の間に有意な差異がなく,評価・算定した客観的な価値がそのまま「価格」を決定する参考になることが多いといえます。
しかし,特に組織再編の分野では,多くの場合,「売り手にとっての価値」と「買い手にとっての価値」に有意な差異があるので,「売り手にとっての価値」と「買い手にとっての価値」のどちらも評価・算定しなければ,「価値」から「公正な価格」を決定することができないことが少なくありません。
2 組織再編では取引対象が売り手の環境から買い手の環境に移転する
 企業や事業,経営資源の客観的な価値は,将来的にそれらが生み出す経済的便益,すなわち事業活動を継続して稼得される利益やキャッシュ・フローを織り込むことが不可欠ですので,事業活動の内容や経営資源が置かれる環境など利益やキャッシュ・フローを生む過程に関係する様々な要素が価値に影響を与えます。
ところが,組織再編では,取引対象である株式(企業・事業・経営資源)が売り手から買い手へと移るので,事業活動の内容や経営資源が置かれる環境は,組織再編の前と後とでは相当に変化していることが少なくありません。
 取引対象である企業や事業,経営資源は,組織再編の前は,売り手の環境(業界要因・企業要因・株主要因)下で事業活動を継続して利益やキャッシュ・フローを生み出していましたが,組織再編の後は,買い手の環境(業界要因・企業要因・株主要因)下で事業活動を継続して利益やキャッシュ・フローを生み出します。そのため,取引対象の価値は,組織再編の前の売り手の環境下にある状況を前提に評価・算定する場合と,組織再編の後の買い手の環境下にある状況を前提に評価・算定する場合とでは,明らかに有意な差異が生じます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2016.05.01更新

2016年5月1日号(「公正な価格」を考える7号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

売り手と買い手のどちらの要因を考慮して価値を算定するのか?
 前号でリストアップした企業価値の形成要因の中で,例えば,売り手と買い手が同一の業界に属しているのであれば,一般的要因や業界要因までは共通していますが,企業要因や株主要因については,企業ごとによって異なるはずです。例えば,売り手と買い手が同一の業界であったとしても,企業要因のうち(1)の業態や取引規模,(2)のライフステージが異なる場合があります。(3)の経営戦略や経営計画などは同じはずがありません。(4)以下の収益性,財政状態なども異なります。株主要因に至っては,取引前の株主の状況を考慮している項目もありますが,(4)取引後の株主構成の変化や(5)取引数量(全量,大量,中量又は少量)などは明らかに取引後の株主の状況を考慮することを意味しています。特に買主にとって取引後に支配権を獲得するかどうかは極めて重要であり,株式(企業・事業・経営資源)の価値に大きな影響を与えます。
 このようにみてくると,組織再編にあたって,専門家が企業価値を評価・算定する場合,“一体,売り手と買い手のどちらの企業価値形成要因を考慮して企業価値を評価・算定すればよいのか?”という疑問が生ずるはずです。
 そして,「どちらでも算定することができる」というのがその答えであり,“一物多価”といわれる価値は,売り手の企業価値形成要因を基礎に「売り手にとっての価値」としても,また,買い手の企業価値形成要因を基礎に「買い手にとっての価値」としても評価・算定することができます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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