法律会計フォーラム

2018.01.22更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

一時点で充足される履行義務

 

2018年1月22日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

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「一時点で充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-③ 一時点で充足される履行義務

 

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,まず,履行義務の属性を判定し(Step5-①履行義務の属性の判定),一つ又は複数の履行義務が一時点で充足される場合は,企業は,一時点で充足される履行義務のそれぞれについて,資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に収益を認識します(第36項)。

企業は,資産に対する支配の移転を検討するにあたって,“支配”の要件(第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第37項(1)~(5))を考慮し,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定します(第37項)。

 

2.履行義務を充足する時点の決定

 

企業は,資産に対する支配を顧客に移転することにより履行義務が充足される時点を決定するにあたって,“支配”の要件(第34項)を直接適用するほか,次のような支配の移転の指標(第37項(1)~(5))を考慮しなければなりません(第37項)。

a 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること(指標(1))

b 顧客が資産に対する法的所有権を有していること(指標(2))

c 企業が資産の物理的占有を移転したこと(指標(3))

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受していること(指標(4))

e 顧客が資産を検収したこと(指標(5))

 

3.企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること(第37項(1))

 

支配との関連性

顧客が資産に対して支払う義務を現在負っている場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力があることを示す指標になります(指針14(1))。

もっとも,企業が資産に関する対価を収受する権利は,財又はサービスそのものに関する指標ではありませんので,指標としての有用性には限界があります。

 

資産に関する対価を収受する現在の権利

企業が資産に関する対価を収受する現在の権利を有しているとは,資産に関する対価の支払期限が到来するまでに時の経過以外は必要とされないことをいいます。

企業が資産に関する対価を収受する現在の権利を有しないときは,顧客が確定期限の未到来以外に対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁(主張)を有しています。顧客が対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁としては,①停止条件の未成就,②不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),③同時履行の抗弁などの事由が考えられます。

 

停止条件の未成就

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいい,条件が成就したときに法律効力が発生する場合を停止条件といいます(“効力の発生が条件の成就まで停止している”)。

 

不確定期限の未到来(先履行義務の未履行)

期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。発生すること自体は確実ですが,いつ到来するかが不確実な事実にかからせる場合を不確定期限といい,いつ到来するかが確実な事実にかからせる場合を確定期限といいます。

支払期限の到来まで時の経過以外は必要とされない場合は確定期限であり,企業は,資産に対する支払を受ける現在の権利を有します。

これに対し,企業が財又はサービスを提供する義務の履行を完了した後に顧客が代金を支払う定め(後払)があるときは,企業がいつ財又はサービスを提供する義務(先履行義務)を履行するかが不確実なので不確定期限であり,企業は,財又はサービスを提供する義務の履行を完了しない限り,資産に対する支配を受ける現在の権利を有しません。 

 

同時履行の抗弁

同時履行の抗弁とは,双務契約の当事者が,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる権利をいいます(民法533条)。

顧客が企業に対価を支払う義務と,企業が顧客に契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(給付義務)との間に同時履行の関係のある契約では,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供するまで,顧客が対価の支払を拒絶することができるので(同時履行の抗弁),資産に対する支払を受ける現在の権利を有しません。

不動産の売買契約,建築請負契約などでは,顧客が対価を支払う義務と契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を同時に履行するものとして合意することが多くみられます。これら双方の義務を同時履行の関係にする場合は,通常,契約条項に「と同時に」や「と引換えに」などの用語を使って明示し,後払と区別します。 

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,資産に関する対価を収受する現在の権利を有するに至る時点,すなわち,支払期限が到来するまでに時の経過以外が必要とされなくなる時点を考慮します。顧客が支払を拒絶できる法律上の抗弁,例えば,停止条件の未成就,不確定期限の未到来(先履行義務の未履行),同時履行の抗弁などを主張できるときは,企業は資産に関する対価を収受する現在の権利を有しません。

 

4.顧客が資産に対する法的所有権を有していること(第37項(2))

 

支配との関連性

法的所有権は,物に対する完全支配権であり,所有者は,自らの活動に物(資産)の消費,処分,売却,交換,使用,担保差入,保有等のあらゆる利用ができ,他の企業に対する利用の許諾・制限もできますので,顧客が資産に対する法的所有権を有している場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力又は他の企業が当該便益を享受することを制限する能力を有していることを示す指標になります(指針14(2))

資産の法的所有権は,それが顧客に移転したときに顧客が当該資産に対する支配を獲得し,逆に,それが企業に留まるときは,未だ顧客が当該資産を支配していないことを示す重要な指標になります。多くの場合,資産の法的所有権の移転に伴って資産に対する支配も移転し,資産の法的所有権と資産に対する支配は一致します。ただし,顧客の支払不履行に対して資産の保全を行うためにのみ企業が法的所有権を有している場合(所有権留保)には,当該権利は,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(指針14(2))。

 

法的所有権の概念

所有権は,物権であり,物に対する完全支配権をいいます。所有権は,法律上の概念であり,本基準は,「法的所有権」という用語を使っています。

 

法的所有権の移転時期

a 契約に明示されている場合

所有権の移転時期は,一律に定まっているわけではなく,契約書,合意書等に明示されていればそれに従います。

物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって効力を生じ(民法176条,意思主義),要式や登録・登記を必要としません。そのため,所有権の移転及びその時期は,旧所有者(譲渡人)と新所有者(譲受人)との間の合意のとおりに効力を生じます。

b 契約に明示されていない場合

所有権の移転時期が契約書,合意書等に明示されていないときは,意思表示の解釈(契約の解釈)により当事者の意思を探求しますが,対抗要件(不動産は登記,動産は引渡し)を具備するときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。

 

所有権留保(支払不履行に対して資産の保全を行う権利)

a 所有権留保

所有権留保とは,売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保することをいいます。

所有権留保は,主に売買代金の割賦払(分割払)による動産の売買において利用されており,買主が売買代金の支払を怠った場合は,売主が留保した所有権に基づき,その目的物を買主又は第三者から引き揚げてこれを換価するなどして売買残代金の弁済に充当します。買主が売買代金を完済したときは,留保した所有権が売主から買主に移転します。

買主の目的物の利用状況は,通常の売買と異ならないため,売主が所有権を留保したいときは,通常,買主に明示的な合意を求め,契約条項又は約款で,買主による目的物の処分禁止や支払遅滞時の取扱いなど詳細に取り決めます。

b 支配との関連性

企業が所有権留保の特約により資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません(指針14(2))。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の法的所有権を有するに至る時点を考慮します。所有権の移転時期は,契約書等に明示されていればそれに従い,明示されていなければ,所有権移転の対抗要件(不動産の登記,動産の引渡し)を具備したときに所有権も移転することを黙示に合意している場合が多いといえます。売主が買主に目的物を引き渡した後も,売買代金の支払を担保する目的でその完済まで目的物の所有権を留保する場合(所有権留保),企業が資産の法的所有権を有していたとしても,顧客が資産に対する支配を獲得することを妨げません。

 

5.企業が資産の物理的占有を移転したこと(第37項(3))

 

支配との関連性

資産の物理的占有は,占有者が自ら当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受するか,又は当該便益への他の企業のアクセスを制限する能力を有することを示す可能性があり(IFRS第38項(c)),顧客が資産を物理的に占有する場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力又は他の企業が当該便益を享受することを制限する能力を有していることを示す指標になり得ます(指針14(3))。

しかし,物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあります。例えば,買戻契約には,企業が顧客に資産の物理的占有を移転しながら,依然として当該資産を支配しているものがあります。逆に,請求済未出荷契約には,顧客が資産に対する支配を獲得しながら,企業が依然として当該資産の物理的占有を継続しているものがあります(指針14(3))。

 

物理的占有

占有は,一般に物に対する事実的支配をいいます。本基準は,“物理的占有”の静態的な帰属ではなく,企業から顧客へ「移転した」かどうかという動態的な移転を指標としています。例えば,企業がその意思によらずに物理的占有を喪失し,それを顧客が獲得しても,物理的占有の移転とはいえません。

 

適用指針「請求済未出荷契約」

請求済未出荷契約とは,企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約をいいます(指針77)。

このような契約は,ほとんどの場合,①企業が当該資産に関する対価を収受する現在の権利を有し(指標(1)),かつ,②企業が当該資産の法的所有権を顧客に移転する黙示の合意が含まれると解釈できますので(指標(2)),顧客が当該資産に対する支配を獲得します。逆に,企業は,当該資産を支配せず,代わりに顧客に当該資産に対する保管サービスを提供しています(IFRS/B 80)。

企業は,商品又は製品を移転する履行義務をいつ充足したかを判定するにあたっては,顧客が当該商品又は製品の支配をいつ獲得したかを考慮し(指針78),本基準第36項及び第37項の定めを適用するほか,顧客が当該商品又は製品の支配を獲得したと評価するためには,次のa~dの要件のすべてを満たしていなければなりません(指針79)。

a 請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること

ⅰ 企業と顧客との間で請求済未出荷契約(企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約)が成立したこと

ⅱ 上記ⅰの契約の締結に合理的な理由があること

b 当該商品又は製品が,顧客に属するものとして区分して識別されていること

c 当該商品又は製品について,顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること

d 当該商品又は製品について,使用する能力や他の顧客に振り向ける能力を有することができないこと

● 企業は,商品又は製品の物理的占有を移転する前に顧客が当該商品又は製品の支配を獲得したと評価するときは,残存履行義務(例えば,保管サービス)があるかどうかを考慮しなければなりません(IFRS/B 82)。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,企業が資産の物理的占有を移転した時点を考慮します。物理的占有は資産に対する支配と一致しない場合もあるので,買戻し契約や請求済未出荷契約を考慮します。

 

6.顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受していること(第37項(4))

 

支配との関連性

顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受している事象は,顧客が当該資産に対する支配を獲得した結果であることが多いといえます(IFRS/BC 154)。そのため,資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を顧客に移転する場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を獲得することを示す指標となり得ます(指針14(4),IFRS/BC 119)。

もっとも,本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配モデルを採用しており,2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定する必要があります。例えば,企業が約束した財を移転する履行義務に加えて,維持管理サービスを提供する独立した履行義務を識別しているときは,財を移転する履行義務を充足する時点を決定するにあたって,財に関連する一部のリスク(故障や性能の低下)を除外して判定します(IFRS/第38項(d))。

 

危険負担

資産の所有に伴うリスクとして想定される一事象に資産の滅失・毀損があります。契約書等で,いつから顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

自然災害等の不可抗力により財が滅失・毀損し,企業が財を移転できなくなった場合,顧客が負う対価の支払義務が残存する(顧客が危険を負担する)のか,消滅する(企業が危険を負担する)のかという問題があり,これを危険負担といいます。

国内取引の実情では,引渡しの時に売主(甲)から買主(乙)に危険が移転する条件がほとんどです。他方,遠隔地者間の取引(特に輸出入取引)では,契約書等で危険が移転する時点として「引渡し」を定義づけることもあります。国際取引において採用される国際商業会議所が作成したインコタームズは,定型的な取引条件として,DAP(仕向地持込渡し)やFOB(本船積込渡し),CIF(運賃・保険料込み条件)などの記号を用いて「引渡し」を定義づけ,危険負担に関する取扱いを定めています。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受するに至る時点を考慮します。2つ以上の財又はサービスの提供が含まれる契約(複数要素契約)では,当該資産のリスクについて独立した履行義務を生じさせるときは,そのリスクを除外して判定します。契約書等で,いつから顧客が資産の滅失・毀損のリスクを負うのかの取扱い(危険負担)を明示に定めることが多いので,支配の移転の指標として危険負担を考慮することが有用です。

 

7.顧客が資産を検収したこと(第37項(5))

 

支配との関連性

検収は,顧客が自ら検査して企業が合意された仕様に従った資産を移転し,履行義務を充足したことを確認するものですので,顧客による資産の検収が予定されている契約において,顧客が資産を検収した場合には,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を獲得したことを示す指標となり得ます(指針14(5))。

 

検収

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量・品質・性能・仕様等)に適合するかどうかを検査して受領することをいいます。

企業が顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された条件に適合しない場合は,履行義務を完全に充足せず(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務(給付義務)が消滅しません。),追加的に履行義務を完全に充足する強制力のある義務(代替品の給付,補修,損害賠償等)を負い続けます。

商法526条は,商取引の迅速性に配慮し,商人間の売買では,顧客が受領した目的物を遅滞なく検査する義務を負い,目的物が契約において合意された条件に適合しない場合でも,次のとおり企業に通知しなければ,責任追及(代替品の給付,契約の解除,代金減額又は損害賠償)ができなくなることを定めています。

● 検査によって直ちに発見することができる契約不適合(瑕疵)⇨検査後直ちに通知する

● 上記以外の契約不適合(隠れた瑕疵)⇨受領後6か月以内に通知する

この規定は,商人間の売買契約に関する任意規定ですので,取引の実情に応じ,この規定を明確化又は修正する特約をし,また,売買契約以外の契約類型でも,顧客の検査と契約不適合(瑕疵)の取扱いに関して定めることが少なくありません。

 

適用指針「顧客による検収」

企業は,顧客が財又はサービスの支配をいつ獲得したかを考慮するにあたって,検収の契約条項の影響を考慮しなければなりません(IFRS/B 83)。

a 契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを客観的に判断できる場合(指針80)

顧客の検収は,形式的なものであり,顧客による財又はサービスに対する支配の時点に関する判断に影響を与えず,顧客の検収前に顧客が財又はサービスに対する支配を獲得し,企業が履行義務を充足する可能性があります。

● 企業は,顧客の検収前に収益が認識される場合には,他の残存履行義務(例えば,設備の据付け)があるかどうかを判定しなければなりません(指針81)。

b 顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると客観的に判断することができない場合(指針82)

顧客の検収が完了するまで,顧客は財又はサービスに対する支配を獲得しません。

c 商品又は製品を顧客に試用目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合(指針83)

顧客が商品又は製品を検収するか,あるいは試用期間が終了するまで,当該商品又は製品に対する支配は顧客に移転しません。

 

☞企業は,履行義務を充足する時点を決定するため,検収の契約条項が,顧客による財又はサービスに対する支配の時点に与える影響を考慮します。財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断できる場合には,検収の契約条項が影響を与えず,顧客の検収前に顧客が当該財又はサービスに対する支配を獲得する可能性がありますが,企業が客観的に判断することができない場合には,顧客の検収が完了するまで顧客が当該財又はサービスに対する支配を獲得しません。

 

8.代替的な取扱い

 

● 出荷基準等の取扱い

適用指針は,本基準第36項及び第37項の定めにかかわらず,商品又は製品の国内の販売において,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(本基準第32項~第34項,第36項及び第37項の定めに従って決定される時点,例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合(当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合)には,出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば,出荷時や着荷時)に収益を認識することができると定めています(指針97)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2018.01.05更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

一定の期間にわたり充足される履行義務

 

2018年1月5日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「一定の期間にわたり充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-② 一定の期間にわたり充足される履行義務

 

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,まず,履行義務を判定し(Step5-①履行義務の属性の判定),一つ又は複数の履行義務が一定の期間にわたり充足される場合は,企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,履行義務の充足に係る進捗度を見積り,当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(第38項)。

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するような適切な見積りの方法を決定します(指針15)。

 

2.履行義務の充足に係る進捗度

 

進捗度を見積る目的

進捗度を見積る目的は,企業が約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります(IFRS第39項)。

進捗度の見積方法はさまざま考えられますが,企業は,その見積方法を自由な裁量により恣意的に選択するのではなく,進捗度を見積る目的に整合する適切な見積方法を選択しなければなりません(IFRS/BC 159)。

 

単一性の原則

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の見積方法を適用しなければなりません(第39項)。

 

一貫適用の原則

企業は,特定の履行義務に選択した進捗度の見積方法を,類似の履行義務及び状況に首尾一貫して適用しなければなりません(第39項)。

 

再測定の原則

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を各決算日に見直さなければなりません(第40項)。

 

☞履行義務の充足に係る進捗度を見積る目的は,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります。企業は,履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の見積方法を適用し,類似の履行義務及び状況に首尾一貫して適用しなければなりません。

 

3.進捗度の見積方法

 

進捗度の見積方法の選択

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するような適切な見積りの方法を選択しなければなりません(指針15)。

 

進捗度の見積方法の適用

a 企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,履行義務を充足して顧客に支配を移転する財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映しなければなりません(指針16)。

特にアウトプット法では,後に述べるとおり,選択するアウトプットによっては,顧客に支配を移転した財又はサービスの一部がアウトプットの見積りに含まれない場合がありますので,企業は,履行義務の充足に係る進捗を忠実に描写するようなアウトプットを選択すべきです(指針18)。

b 企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,顧客に支配を移転しない財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映してはなりません(指針16)。

特にインプット法では,後に述べるとおり,顧客に財又はサービスの支配を移転しない活動に生じたインプット(コスト)や,履行義務の充足に係る進捗度に寄与しないインプット(コスト)を除外しなければなりません(指針22(1),60)。

 

進捗度の見積りの見直し

企業は,各決算日において,履行義務の完全な充足に係る全体値の変動を反映するため,進捗度の見積りを見直さなければなりません。進捗度の見積りの変更は,会計上の見積りの変更(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4項(7))として処理しなければなりません(第40項)。

 

☞企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,適切な見積方法を選択します。その適用にあたっては,顧客に支配を移転する財又はサービスを漏れなく進捗度の見積りに含め,逆に,財又はサービスの支配の顧客への移転に関与・寄与しない活動・事象は進捗度の見積りから除外します。企業は,各決算日において,履行義務の完全な充足に係る全体値を見直し,進捗度の見積りを変更するときは,会計上の見積りの変更として処理します。

 

4.アウトプット法

 

アウトプット法

アウトプット法は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積り,契約において約束した残りの財又はサービスの顧客にとっての価値との比率に基づき収益を認識するものです(指針17)。

「顧客にとっての価値」は,契約における企業の履行の客観的な見積りを指し,個々の財又はサービスの市場価格又は独立販売価格や,財又はサービスに組み込まれたと顧客が認識している価値を評価する必要はありません(IFRS/BC 163)。

 

指標の例

指標として,例えば,現在までに履行を完了した部分の調査,達成した成果の評価,達成したマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数などがあります(指針17,IFRS/BC 163)。

 

選択の留意点

アウトプット法の欠点は,進捗度を見積るために使用されるアウトプットが直接的に観察できない場合があり,過大なコストを掛けないとアウトプット法の適用に必要な情報が利用できない場合があることです(指針116)。

アウトプット法を選択するときは,企業は,事実及び状況を考慮し,選択するアウトプットが,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します(IFRS/BC 166)。

● 選択したアウトプットが,支配が顧客に移転している財又はサービスの一部を見積っていない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が決算日に生産されているのに,当該仕掛品又は製品がアウトプットの見積りに含まれていない場合には,企業の履行を忠実に描写していません(指針18,116)。

● 選択したアウトプットの単位が一律に顧客にとって同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業が設計と製造の両方を顧客に提供するため,選択したアウトプットの各項目が一律に同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。逆に,企業が長期的に製造する標準品目を個々に顧客に移転するため,選択したアウトプットの各項目が同価値である場合には,企業の履行を忠実に描写します(IFRS/BC 166)。

 

実務上の便法

現在までに履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受ける権利を有している場合(例えば,提供したサービスの時間ごとに固定額を請求する契約)には,企業は,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます(指針19,IFRS/BC 167)。

 

☞企業は,例えば,達成した成果やマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数など財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積る方法(アウトプット法)を選択するときは,必要な情報を入手するコストのほか,選択するアウトプットが,顧客に支配を移転した財又はサービスを漏れなく見積っているかや,その単位が一律に顧客にとって同価値かなど,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します。企業は,現在までに履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受ける権利を有している場合には,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます。

 

5.インプット法

 

インプット法

インプット法は,履行義務の充足に使用されたインプットと契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプットの比率に基づき収益を認識するものです(指針20)。

 

指標の例

指標として,例えば,消費した資源,発生した労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(指針20)。

 

選択の留意点

インプット法の欠点は,インプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がなく,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しない場合があることです(指針117)。他方で,アウトプット法の適用に過大なコストがかかり,インプット法が低コストで合理的な代用数値を提供することもあります(IFRS/BC 164)。

そこで,企業は,インプット法の適用にあたって,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するよう,適用の留意点に十分に配慮することによって,インプット法を選択することが適切な場合があります。

 

適用の留意点

企業は,顧客に財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写しないものの影響は,インプット法に反映してはなりません(指針21)。

例えば,契約締結活動(契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動で発生するコストなど,顧客に財又はサービスを移転しない活動及び関連するコストの影響をインプットから除外します(指針60)。

コストに基づくインプット法を使用するにあたっては,次のa又はbの状況において,進捗度の見積りを修正します(指針22)。

a 発生したコストが,履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合

例えば、履行義務を充足するために生じた想定外の金額の材料費,労務費又は他の資源の仕損のコストなど,契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストに対応する収益を認識してはなりません(指針22(1),117)。

b 発生したコストが,履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合

発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識することが適切となる場合があります(指針22(2))。

例えば,エレベーターの据付けを含むリフォーム工事契約において,現場に納入されたエレベーターを事後に据え付けるケースでは(設例9),企業が財とサービスの両方を顧客に移転することを約束していますが,顧客が当該履行義務の重要部分である財(エレベーター)に対する支配を,サービス(据付け)に対する支配と異なる時点で獲得するときは,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しません(IFRS/BC 169)。

本基準は,代表的なケースから未据付資材の会計処理と呼び,設例9で解説しています。

【インプット法の修正】(未据付資材の会計処理)

企業は,契約における取引開始日に,次のⅰ~ⅳのすべてが満たされると見込まれる場合には,履行義務の充足に使用される財のコストと同額で収益を認識することが適切となります(指針22(2))。

ⅰ 当該財は別個のものではないこと

ⅱ 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当以前に,顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること

ⅲ 移転する財のコストの額について,履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること

ⅳ 当該財を第三者から調達し,当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと(ただし,本人と代理人の区分に関する指針39~47に従うと,企業が本人に該当する場合)。

 

☞企業は,例えば,消費した資源,発生したコスト,経過期間など履行義務の充足に使用されたインプットにより見積る方法(インプット法)を選択するときは,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外することに留意します。コストに基づくインプット法を使用するときは,契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストや,顧客に財又はサービスを移転しない活動に関連するコストなど,履行義務の充足に係る進捗度に関与・寄与しないコストを除外します。また,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識することが適切な場合があります。

 

6.合理的な進捗度の見積り

 

進捗度の見積りの停止

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ,一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識します(第41項)。

企業は,進捗度を適切に見積るための信頼性のある情報が不足しており,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には(第121項),一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識してはなりません(第41項)。

 

進捗度の特殊な適用

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないものの,当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで,回収することが見込まれる費用の額で収益を認識します(第42項)。

 

☞企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には,収益を認識しません。企業は,履行義務の完全な充足に係る全体値を合理的に見積ることができないものの,当該履行義務の充足のために発生する費用を最終的に回収すると見込まれる場合は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができるようになるまで,回収することが見込まれる費用の額でのみ収益を認識します。

 

7.代替的な取扱い

 

● 契約の初期段階における原価回収基準の取扱い

適用指針は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,契約の初期段階において,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には,当該契約の初期段階に収益を認識せず,当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができると定めています(指針98)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.12.18更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

履行義務の属性の判定

 

2017年12月18日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 12ページ

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「履行義務の属性の判定」 目次と概要

 

1.Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」の概要

 

企業は,本基準の適用手順の最後のステップで,約束した財又はサービス(以下,顧客との契約の対象となる財又はサービスを“資産”と呼びます。)を顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,収益を認識します(第32項)。

1 履行義務の属性の判定

企業は,まず,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第33項)。

2 一定の期間にわたり充足される履行義務

企業は,3類型の要件(第35項(1)~(3))のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足する履行義務と判定します(第35項)。

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の充足に係る進捗度を見積り,当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(第38項)。

3 一時点で充足される履行義務

企業は,それぞれの履行義務について,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第36項)。

企業は,一時点で充足される履行義務について,“支配”の要件(第34項)を直接適用するほか,支配の移転の指標(第37項(1)~(5))を考慮して,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します(第36項)。

 

☞企業は,識別した履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定し,①は,履行義務の充足に係る進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識し,②は,顧客が資産に対する支配を獲得する時点を決定し,その時点で収益を認識します。

 

2.Step5-① 履行義務の属性の判定

 

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,企業は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時に又は獲得するにつれて収益を認識しますが(支配アプローチ),本基準は,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,“支配”の移転時期に関する履行義務の属性の判断枠組みを提供しています。

そこで,企業は,まず,その判断枠組みに従って,ステップ2で識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,①一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は②一時点で充足される履行義務かを判定します(第33項)。

 

3.支配とは~支配の概念~

 

履行義務の充足

本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを,企業から顧客への“資産の移転”という事象として捉えており,企業から顧客への資産の移転は,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時に又は獲得するにつれて生じるという考え方(支配アプローチ)を採用しています。

 

支配アプローチ

支配アプローチとは,顧客が資産に対する支配を獲得した時に又は獲得するにつれて企業が当該資産を顧客に移転し,収益を認識するという考え方をいいます。

本基準は,リスク・経済価値アプローチに代えて支配アプローチを採用しました(IFRS/BC 118)。

 

資産の概念

資産とは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源をいいます。財とサービスの両方とも資産です。サービスも,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第118項)。

 

支配の概念

資産に対する支配とは,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を指し,他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含みます(第34項)。この定義に含まれる各要素は,次のとおりです(IFRS/BC 120)。

a 能力(IFRS/BC 120(a))

能力とは,一定の行為を能動しようとすれば,現時点でそれが可能であることを意味します。

b 使用の指図(IFRS/BC 120(b))

使用の指図とは,顧客が当該資産を自らの活動に利用するか,当該資産を他の企業が利用することを認めるか,又は他の企業による当該資産の利用を制限する権利を指します。

c 便益の享受(IFRS/BC 120(c))

資産の“便益”とは,概念上,潜在的なキャッシュ・フロー(キャッシュ・インフローの増加又はキャッシュ・アウトフローの減少)をいい,便益を享受する方法(利用)として資産の“使用”や“消費”,“処分”,“売却”,“交換”,“担保差入”,“保有”などが例示されています(第118項)。そのような方法(利用)によって,現時点で資産に残存するほとんどすべての便益を享受する能力を獲得してはじめて当該資産を支配したことになります。

 

支配の判定

“支配”は抽象的な概念ですので,顧客が“支配”を獲得したかどうかの判定にあたって,具体的な利用行為を想定し,次のような順序で場合分けをして考察することが有用です。

● 消費・処分・売却・交換

まず,顧客が現時点で資産の消費(consume),処分(dispose),売却(sell)又は交換(exchange)ができる場合は,これらの利用行為によって当該資産の用益のほぼ全部を使い切り,又はその資産の価値のほぼ全部に代わるものを得ることで,現時点で当該資産に残存するほとんどすべての便益を享受しますので,通常,顧客が支配を獲得しています。

ただし,顧客が企業にだけ売却ができる場合は,買戻し契約を考慮します(指針8)。

● 使用・担保差入・保有・他の企業に対する利用の許諾/制限

次に,顧客が資産の消費・処分・売却・交換ができず,現時点で使用(use),担保差入(pledge),保有(hold),他の企業に対する利用の許諾・制限ができるにすぎない場合は,これらの利用行為によって当該資産に残存する便益のほとんどすべてを享受するかどうか(例えば,顧客が当該資産の残存耐用年数にわたって使用や保有を持続することができるかどうか)を判定します。その判定にあたって,買戻し契約があるか否かを考慮し,買戻し契約があるときは,買戻しに関する適用指針(指針69~74)を参照します(指針8)。

 

☞本基準は,企業が“履行義務を充足する”ことを“資産の移転”という事象と捉え,顧客が資産に対する“支配”を獲得した時に又は獲得するにつれて収益を認識するという考え方(支配アプローチ)を採用します。支配は,当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含みます。)を指し,その判定にあたって,買戻し契約を考慮します。

 

4.履行義務の属性

 

支配アプローチを補完する必要性

“支配”は,比較的単純な財を移転する履行義務に適用する場合は有用ですが,サービスや建設型の契約については,顧客がサービスの支配をいつ獲得するのかを容易に決定できない場合があります(IFRS/BC 122)。そこで,本基準は,顧客が“支配”を獲得する時期(一定の期間にわたって獲得するのか,一時点で支配を獲得するのか)に関する履行義務の属性を判定するにあたって,直接“支配”の要件を適用するのではなく,代わりに,一定の期間にわたり充足される履行義務を3類型に整理して各類型の要件を定めることにより,支配アプローチを補完する判断枠組みを提供しています(IFRS/BC 124)。

 

支配アプローチを補完する判断枠組み

企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,以下の3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(第33項,第35項),いずれにも該当しない場合は,一時点で充足される履行義務と判定します(第36項)。

a 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて,顧客が便益を享受すること(第35項(1))

b 企業が顧客との契約における義務を履行することにより,資産が生じる又は資産の価値が増加し,当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて,顧客が当該資産を支配すること(第35項(2))

c 次の要件のいずれも満たすこと(第35項(3))

① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより,別の用途に転用することができない資産が生じ,あるいはその価値が増加すること

② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有していること

 

☞企業は,識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,3類型のいずれかに該当する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し,いずれにも該当しない場合には,一時点で充足される履行義務と判定します。

 

5.企業が履行するにつれて顧客が便益を享受する(第35項(1))

 

要件

企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて,顧客が便益を享受すること


代替的な判定

この要件を容易に識別できないときは,企業は,代わりに「仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に,企業が現在までに完了した作業を大幅にやり直す必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

☞企業は,「企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて,顧客が便益を享受する」と識別できる場合,あるいは,(容易に識別でないときは)代わりに「仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に,企業が現在までに完了した作業を大幅にやり直す必要がない」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

6.企業の履行につれて創出又は増価される資産を顧客が支配する(第35項(2))

 

要件

企業が顧客との契約における義務を履行することにより,資産が生じる又は資産の価値が増加し,当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて,顧客が当該資産を支配すること

創出又は増価される資産(仕掛中の資産)は,顧客によって消費されずに残存する資産であり,有形又は無形のいずれの場合もあります。それを顧客が支配するかどうかは,“支配”の要件(第34項)を直接適用して判定します(第119項)。

 

☞企業は,“支配”の要件(第34項)を直接適用し,「企業が顧客との契約における義務を履行することにより,資産が生じる又は資産の価値が増加し,当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて,顧客が当該資産を支配する」と評価する場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。

 

7.企業が履行を完了した別の用途に転用できない資産の対価を収受する権利を有する(第35項(3))

 

要件(次の要件のいずれも満たすこと)

a 企業が顧客との契約における義務を履行することにより,別の用途に転用することができない資産が生じ,あるいはその価値が増加すること

b 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有していること

 

企業が別の用途に転用できない資産が創出又は増価されること

企業が資産を別の用途に転用できないとは,企業の履行につれて創出又は増価される資産を別の用途に容易に使用することに①契約上の制限又は②実務上の制約がある場合をいいます(指針10)。

a 契約上の制限

企業が資産の創出又は増価の間に当該資産を別の用途に容易に使用することが契約上制限されている場合は,当該資産は別の用途に転用できません(指針10)。

契約上の制限は,実質的なものでなければなりません(指針112)。

b 実務上の制約

企業が完成した資産を別の用途に容易に使用することが実務上制約されている場合は,当該資産は別の用途に転用できません(指針10)。

実務上の制約は,当該資産を別の用途に使用するために重要な経済的損失が生じる場合です。重要な経済的損失は,①企業が当該資産に手を加えるために重要なコストが生じること(例えば,顧客仕様の資産)又は②重要な損失を生じる売却しかできないこと(例えば,遠隔地にある資産)のいずれかの理由で生じる可能性があります(指針113)。

 

企業が履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有していること

企業は,(b)契約期間にわたり,(a)企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に,少なくとも(c)履行を完了した部分についての補償を受ける(d)権利を有していなければなりません(指針11)。

a 企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際

顧客(又は他の当事者)が企業の契約違反(債務不履行)以外の理由で解約する場合を意味します。

b 契約期間にわたり

契約の存続期間中,(顧客により解約が可能な)どの時点で解約しても,常にその時点までに履行を完了した部分について対価を収受する権利を有していなければなりません。

顧客が契約の存続期間中,解約権を全く有しない場合は,常に企業は履行を完了した部分について対価を収受する(保持する=返還しない)権利を有します。報酬全額の前払いと解約不能を組み合わせた100%返金不能の前払も,企業は履行を完了した部分について対価を収受する権利を有します(IFRS/BC 146)。

c 履行を完了した部分についての補償を受ける

企業に補償する金額は,合理的な利益相当額を含む,現在までに移転した財又はサービスの販売価格相当額でなければなりません。

財又はサービスの販売価格相当額は,企業が履行義務を充足するために生じるコストに合理的な利益相当額を加算したものをいい,利益相当額は,次のとおり,当該契約又は同様の契約を基準に合理的な水準でなければなりません(指針12,IFRS/BC 143,144)。

なお,契約で示されている支払予定(支払条件)は,契約が存続する(解約されない)ことを前提として顧客が支払う対価の時期及び金額を定めるものですが,契約の解約により返金又は追加払がされる可能性がありますので,必ずしも企業が履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利やその金額を示すものではありません(指針115)。

d 権利

対価を収受する権利は,顧客から解約権を行使されたと仮定したときに(それを停止条件として発生する),その時点までに履行を完了した部分についての補償を要求する(請求する)又は保持する(返還しない)法的な強制力のある権利であり,現在の無条件の権利ではありません(指針114,IFRS/BC 145)。

履行を完了した部分について対価を収受する権利の有無及び当該権利の強制力の有無を判定するにあたっては,企業は,以下の点を評価することを含め,契約条件及び当該契約条件を補足する又は覆す可能性のある法令や判例等を考慮しなければなりません(指針13)。

☞企業は,「企業が顧客との契約における義務を履行することにより,別の用途に転用することができない資産が生じ,あるいはその価値が増加すること」及び「企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有していること」のいずれの要件も満たす場合は,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定します。企業は,企業の履行につれて創出又は増価される資産を別の用途に容易に使用することに(a)契約上の制限又は(b)実務上の制約がある場合に,当該資産を別の用途に転用できないと評価します。また,企業が履行を完了した部分について対価を収受する権利を有していると評価するためには,(a)企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に,(b)契約期間にわたり,少なくとも(c)履行を完了した部分についての補償を受ける(d)法的な強制力のある権利を有していなければなりません。

 

8.代替的な取扱い

 

● 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア

適用指針は,本基準第35項の定めにかかわらず,工事契約及び受注制作のソフトウェアについて,契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には,一定の期間にわたり収益を認識せず,完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができると定めています(指針94,95)。

● 船舶による運送サービス

適用指針は,一定の期間にわたり収益を認識する船舶による運送サービスについて,一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船廻航期間を含み,運送サービスの履行を目的としない船舶の移動又は待機期間を除きます。)である場合には,複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務としたうえで,当該期間にわたり収益を認識することができると定めています(指針96)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.12.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

取引価格の変動

 

2017年12月7日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

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「取引価格の変動」 目次と概要

 

1.Step4-② 取引価格の変動

 

Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」では,企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して取引価格を配分しますが,その後に取引価格が変動したときは,独立販売価格の事後的な変動を考慮せず,契約における取引開始日と同じ基礎により,それぞれの履行義務に対して取引価格の変動を配分しなければなりません(第71項)。

取引価格の事後的な変動のうちすでに充足した履行義務に配分された額については,取引価格が変動した期の収益の額を修正する必要があります(第71項)。

契約変更によって生じる取引価格の変動は,契約変更に関する本基準第25項~第28項に従って処理します。契約変更が本基準第27項の要件を満たさず,独立した契約として処理されない場合は,①取引価格の変動が契約変更の前に約束された変動対価の額に起因し,当該契約変更を本基準第28項(1)に従って処理している場合には,取引価格の変動を契約変更の前に識別した履行義務に配分し,②契約変更が本基準第28項(1)に従って処理されない場合には,取引価格の変動を契約変更の直後に充足されていない又は部分的に充足されていない履行義務に配分します(第73項)。

 

2.取引価格の事後的な変動

 

取引価格の変動の理由

不確実な事象の確定(不確実性の解消)や他の状況の変化などのさまざまな理由が,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を変動させます(第128項)。

例えば,企業が契約における取引開始日に見積った変動対価について,その後に不確実な事象が確定するに従って,又は不確実な事象に関する新たな情報が入手できるようになるに従って,企業が権利を得ると見込む対価の額が変動します(第52項,IFRS/BC 224)。

 

取引価格の事後的な変動の取り扱い

契約における取引開始日以後に取引価格が変動する場合には,次のいずれかの取り扱いが考えられます(IFRS/BC 225)。

① 当該変動を変動の発生時に純損益に認識する。

② 当該変動を履行義務に配分する。

このうち①の取り扱いは,約束した財又はサービスの顧客への移転を忠実に描写しない収益認識のパターンとなるおそれがあります。また,取引価格の変動により直ちにかつ全部を収益に認識することは実務において濫用のおそれがあります。取引価格の変動を収益とは区分して利得又は損失として表示したとしても,契約について認識される収益の合計額が,企業が契約に基づいて権利を得る対価の額と等しくならないため,結果として収益認識のパターンを維持することができません(IFRS/BC 226)。

②の取り扱いは,取引価格の事後的な変動を,契約における取引開始日における配分の方法論と整合的な方法で配分するものであり,変動対価の見積りの変更が,変動性のある支払条件に個別に関連している履行義務に配分されることが確保されます(IFRS/BC 286)。

そこで,本基準は,取引価格の変動を契約において識別されたすべての履行義務に配分することとし,すでに充足した履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益を修正することとしています(IFRS/BC 227)。

 

☞企業は,契約における取引開始日以後に取引価格が変動したときは,それぞれの履行義務に対して取引価格の変動を配分し,すでに充足した履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益を修正します。

 

3.取引価格の変動の会計処理

 

契約における取引開始日と同じ基礎による配分

企業は,取引価格の事後的な変動については,契約における取引開始日と同じ基礎により契約における履行義務に配分しなければなりません(第71項)。

本基準は,約束した財又はサービスの顧客への移転のパターンを忠実に描写するために,取引価格の事後的な変動を契約における取引開始日における配分と同じ方法で配分することにより,取引価格の変動以外の要因によって契約における取引開始日に設定した財又はサービスの顧客への移転のパターンに影響を与えないようにしています。

この原理は,取引価格の変動を除き,契約における取引開始日における配分の方法を変更してはならないことを意味します。そこで,本基準は,以下の点を注意的に明らかにしています(IFRS/BC 286)。

● 独立販売価格の事後的な変動を反映してはならない。

 企業は,契約における取引開始日以後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(IFRS第88項)。

● 変動対価の配分の方法を変更してはならない。

 企業は,変動対価の配分に関する第69項の要件を満たす場合にのみ,取引価格の事後的な変動のすべてを関連する履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一連の別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第72項)。

 

履行義務への配分と収益認識

企業は,取引価格の事後的な変動が配分されたそれぞれの履行義務が,未だ充足していないものか,すでに充足したものかによって,次のとおり会計処理を行います。

● 履行義務を未だ充足していないとき

 企業は,Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分します。その後,Step5「企業が履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,当該履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,当該履行義務に配分した取引価格を収益として認識します。

● 履行義務をすでに充足したとき

 企業は,Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分し,直ちに(取引価格が変動した期に)収益を修正します(第71項)。

 

☞企業は,取引価格の変動を,契約における取引開始日と同じ基礎により(契約における取引開始日における配分の方法を変更せずに)履行義務に配分しなければなりません。そのため,企業は,契約における取引開始日以後の独立販売価格の変動を考慮したり,本基準第69項に従った変動対価の配分の方法を変更したりしてはなりません。

 

4.契約変更による取引価格の変動

 

本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで,第25項~第28項にその会計処理を定めています。

契約変更のうち②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものは,契約における取引開始日以後に取引価格を変動させます。しかし,契約変更に伴う契約の価格の変更は,契約における取引開始日以後の当事者間の独立の交渉から生じるのに対し,変動対価の見積りの変更は,契約における取引開始日に識別され合意された変数の変化から生じることから,契約変更から生じる取引価格の変動と変動対価の見積りの変更は,異なる経済事象の結果であるといえます(IFRS/BC 82)。

そこで,本基準は,契約変更によって生じる取引価格の変動は,Step1-④契約の変更のサブ・ステップにおいて,第25項~第28項に従って処理することとしています(第73項)。この契約変更の会計処理に加えて,Step4-②取引価格の変動のサブ・ステップで会計処理を行う必要はありません。

 

☞企業は,契約変更によって生じる取引価格の変動は,本基準第25項~第28項に従って契約変更の会計処理を行います。

 

5.契約変更後に生じる取引価格の変動

 

企業は,契約変更が本基準第27項の要件を満たさず,独立した契約として処理されない場合には,契約変更を行った後に生じる取引価格の変動は,取引価格の変動に関する本基準第71項・第72項を適用して,次のa又はbのいずれかの方法で配分しなければなりません(第73項)。

なお,企業が契約変更を本基準第27項に従って独立の契約として処理している場合には,既存の契約か,又は契約変更による新たな独立した契約のいずれかについて,取引価格の変動の会計処理(第71項・第72項)を行います。

a 取引価格の変動が契約変更の前に約束された変動対価の額に起因し,当該契約変更を本基準第28項(1)に従って処理している場合には,取引価格の変動を契約変更の前に識別した履行義務に配分する(第73項(1))

企業が,顧客が変動対価を約束する契約において取引開始日以後に契約変更を行い,本基準第28項(1)に従って既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理した後になって,契約変更の前に約束された変動対価に関連して取引価格が変動することがあります。

このような取引価格の変動は,契約変更の前に識別した履行義務に配分するか,契約変更の後に識別した履行義務に配分するかのいずれかが考えられますが,約束された変動対価と不確実性の解消が契約変更の影響を受けない場合には,取引価格の変更を契約変更の前に識別した履行義務に配分することが適切です(IFRS/BC 83)。

b 契約変更を本基準第28項(1)に従って処理されない場合には,取引価格の変動を契約変更の直後に充足されていない又は部分的に充足されていない履行義務に配分する(第73項(2))

aに該当しない取引価格の変動については,企業は,変更後の契約において識別した履行義務に配分します。

 

☞企業は,①本基準第28項(1)に従って既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理した後,契約変更の前に約束された変動対価の額に起因して取引価格が変動したときは,取引価格の変動を契約変更の前に識別した履行義務に配分しますが,②そうでない場合は,取引価格の変動を変更後の契約において識別した履行義務に配分します。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.11.25更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

取引価格の配分

 

2017年11月25日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「取引価格の配分」 目次と概要

 

1.Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」の概要

 

企業は,取引価格を算定した後の次のステップで,契約における取引開始日に,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します。

このステップの適用は,次のとおり,1.契約における取引開始日と,2.契約における取引開始日後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。

1 履行義務への取引価格の配分

企業は,契約における取引開始日に,独立販売価格の比率に基づき,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して取引価格を配分します(第63項)。

2 取引価格の変動

企業は,契約における取引開始日後に取引価格が変動したときは,独立販売価格の事後的な変動を考慮せず,契約における取引開始日と同じ基礎により変動した取引価格を履行義務に配分しなければなりません(第71項)。

 

☞企業は,①契約における取引開始日と,②契約における取引開始日後に取引価格が変動したときに,算定した取引価格を,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ると見込む対価の額を描写するように,それぞれの履行義務に配分します。

 

2.Step4-① 取引価格の配分

 

Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,まず,企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約における取引開始日の独立販売価格の比率に基づき,算定した取引価格を配分します(第65項)。

契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,企業は,契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして,当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠がある一定の要件を満たす場合を除き,契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分しなければなりません(第67項,第68項)。

企業は,一定の要件を満たす場合には,変動対価及びその事後的な変動のすべてを,1つの履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第69項)。

 

3.配分の目的

 

配分の目的

取引価格を配分する目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うことにあります(第62項)。

本基準は,この目的を達成するため,企業は,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づき,取引価格を配分することとしています(IFRS/BC 266)。ただし,値引きの配分(第67項,第68項),変動対価の配分(第69項,第70項)に定める例外があります(第63項)。

 

契約に履行義務が一つしかない場合

契約に単一の履行義務しかない場合には,基本的に取引価格の配分に関する本基準第65項~第70項は適用されません。ただし,企業が,一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)を移転する約束が単一の履行義務として識別され(第29項(2)),かつ,契約において約束された対価に変動対価が含まれる場合には,変動対価の配分(第69項,第70項)が適用される場合があります。

 

☞配分の目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うことにあります。

 

4.独立販売価格の算定

 

独立販売価格とは

独立販売価格とは,財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます(第8項)。

 

独立販売価格の算定の方法

企業は,取引価格の配分にあたって,次の場合に分けて,約束した財又はサービスの独立販売価格を算定します。

● 独立販売価格を直接観察できる場合

企業が同様の状況において独立して類似の顧客に販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格がある場合には,その観察可能な価格が,独立販売価格の最善の見積りであるといえます。財又はサービスの契約上の価格や定価は,当該財又はサービスの独立販売価格である場合がありますが,そのように推定されるわけではありません(第125項)。

● 独立販売価格を直接観察できない場合

独立販売価格を直接観察できない場合には,企業は,配分の目的(第62項)と整合する取引価格の配分となる独立販売価格を見積らなければなりません(第125項)。

 

☞企業は,取引価格の配分にあたって,別個の財又はサービスの独立販売価格(財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格)を算定します。企業が同様の状況において独立して類似の顧客に販売する場合における観察可能な価格が独立販売価格の最善の見積りとなります。独立販売価格が直接観察できない場合には,企業は,配分の目的と整合するように独立販売価格を見積ります。 

 

5.独立販売価格の見積りの方法

 

独立販売価格の見積りの方法

企業が顧客に独立して販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格がない場合には,企業は,その代わりに独立販売価格を見積らなければなりません。

その見積りの方法は,配分の目的に整合する独立販売価格の忠実な描写である限りは,制限がありません。本基準は,独立販売価格の見積りのための適切な方法を例示していますが(指針31),独立販売価格の見積りの方法は,それらの例示に限られず,また,特定の方法を禁止することもしていません(IFRS/BC 268)。

 

実態適用の原則

企業は,独立販売価格を見積るにあたって,合理的に入手できるすべての情報(市場の状況,企業固有の要因,顧客に関する情報等)を考慮し,観察可能な入力数値を最大限利用しなければなりません(第66条,IFRS/BC 268)。

 

一貫適用の原則

企業は,類似の状況においては,独立販売価格の見積方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第66条,IFRS/BC 268)。

 

独立販売価格を見積るための適切な方法の例

財又はサービスの独立販売価格を見積るための適切な方法には,例えば,次の方法がありますが,これらに限定されません(指針31)。

 

● 調整した市場評価アプローチ

企業は,財又はサービスが販売される市場を評価して,顧客が支払うと見込まれる価格を見積ります。このアアプローチには,企業が,他の企業における類似した財又はサービスの価格を参照して,企業のコストと利益相当額を考慮して当該価格を調整することも含まれます(指針119)。

 

● 予想コストに利益相当額を加算するアプローチ

企業は,履行義務を充足するために発生するコストを見積り,当該財又はサービスの適切な利益相当額を加算して独立販売価格を見積ります。

 

● 残余アプローチ

企業は,契約における取引価格の総額から契約において約束した他の財又はサービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して残余の財又はサービスの独立販売価格を見積ります(IFRS/BC 270)。

ただし,企業は,次のⅰ又はⅱのいずれかに該当する場合に限り,残余アプローチを使用できます。

ⅰ 販売価格が大きく変動する状況

企業が同一の財又はサービスを異なる顧客に同時又はほぼ同時に幅広い価格帯で販売していること(すなわち,典型的な独立販売価格が過去の取引又は他の観察可能な証拠から識別できないため,販売価格が大きく変動性する。)

例えば,知的財産及び他の無形資産に関する契約では,それらの財又はサービスを顧客に提供する際に企業に発生する追加コストが少額又は皆無であるため,価格設定の変動性が高くなります。こうした変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有している状況では,契約における独立販売価格を算定する最も信頼性の高い方法は,残余アプローチであることが多いといえます(IFRS/BC 271)。

ⅱ 販売価格が確定していない状況

企業が当該財又はサービスの価格を未だ設定しておらず,当該財又はサービスを独立して販売したことがないこと(すなわち,販売価格が確定していない。)

 

独立販売価格の見積りの複数の方法の組合せ

企業は,契約における約束した財又はサービスのそれぞれの独立販売価格を,複数の方法を組み合わせて見積ることが必要になる場合があります。企業は,複数の方法を組み合せて独立販売価格を見積る場合には,取引価格をそのように見積った独立販売価格で配分することにより,配分の目的(第62項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第66項)に従っているかどうかを評価しなければなりません(指針120)。

例えば,契約の中に含まれる3つ以上の財又はサービスのうち,複数の独立販売価格が大きく変動する又は確定していないときに,残余アプローチを使用して独立販売価格が大きく変動する又は確定していない複数の財又はサービスの独立販売価格の合計額を見積り,その後,残余アプローチ以外の方法を使用して個々の財又はサービスの独立販売価格を見積り,残余アプローチによる当該独立販売価格の合計額に対して比例的に見積る場合がありますが,取引価格をそのように複数の方法を組み合わせて見積った独立販売価格で配分することが適切なのかどうかを評価 する必要があります(指針32,120,IFRS/BC 272)。

 

☞企業は,独立販売価格の見積りにあたって,合理的に入手できるすべての情報を考慮し,観察可能な入力数値を最大限利用します。適切な見積りの方法の例として,①調整した市場評価アプローチ,②予想コストに利益相当額を加算するアプローチ,③残余アプローチがあります。残余アプローチは,財又はサービスの販売価格が,(a)大きく変動する状況か,又は(b)確定していない(独立して販売したことがない)状況に限って使用できます。

 

6.代替的な取扱い

 

● 重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用

適用指針は,指針31の定めにかかわらず,履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で,当該財又はサービスが,契約における他の財又はサービスに付随的なものであり,重要性に乏しいと認められるときには,当該財又はサービスの独立販売価格の見積方法として,指針31(3)における残余アプローチを使用することができると定めています(指針99)。

 

7.独立販売価格に基づく配分

 

企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約における取引開始日の独立販売価格の比率に基づき,取引価格を配分します(第65項)。

本基準は,独立販売価格に基づく配分を原則(デフォルト)とすることにより取引価格の配分に規律をもたらし,企業内及び企業間の比較可能性を高めています(IFRS/BC 280)。

もっとも,独立販売価格に基づく配分は手段にすぎませんので,収益認識モデルにおける配分の目的(第62項)を達成するため,必ずしも企業が顧客から権利を得ると見込む対価の額の忠実な描写とならない場合として,例外的に値引きの配分(第67項,第68項),変動対価の配分(第69項,第70項)の方法を定めています(第63項,IFRS/BC 279,280)。

 

8.値引きの配分

 

概要

契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,企業が契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして取り扱います。この値引きは,一部の履行義務に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例してすべての履行義務に配分されます(第67項,第126項)。

もっとも,例えば,契約における約束した財又はサービスに利益相当額の高いものと低いものがあるために,契約全体としては利益が生じるのに,値引きの配分によって利益相当額の低い履行義務の充足時に損失が生じる可能性があります。値引きを独立販売価格に比例して配分する結果は,必ずしも企業が特定の履行義務の充足について権利を得る対価の額を忠実に描写しません(IFRS/BC 277)。

そこで,本基準は,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠がある場合に限り,値引き全体を当該一つ又は複数の履行義務に配分することとしています(第68項)。

 

要件

企業は,次のa~cの要件のすべてを満たす場合には,契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に値引き全体を配分しなければなりません(第68項)。

a 契約における別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを,通常は単独で販売していること

b 当該別個の財又はサービスのうちの一部を束にしたものについても,通常はそれぞれの束における財又はサービスの独立販売価格から値引きして販売していること

c bにおける財又はサービスの束のそれぞれに対する値引きが,当該契約の値引きとほぼ同額であり,それぞれの束における財又はサービスを評価することにより,当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠があること

 

取引価格の配分の方法

企業は,第68項に従って値引きを配分する場合には,当該値引きを配分した後に,残余アプローチ(指針31(3))により,財又はサービスの独立販売価格を見積ります(指針33)。

例えば,企業が,通常,製品Xを@40で,製品Yを@55で,製品Zを@45で,製品Wを@15~45で(大きく変動する),独立して販売するとともに,製品YとZを組み合わせて対価60で販売している状況において,製品W~Zを組み合わせて対価130で販売するとします。

この場合,企業は,製品YとZを組み合わせて販売するときに40値引きをするという観察可能な証拠があり,製品Xの独立販売価格@40を直接観察できますので,製品W~Zを組み合わせたときの対価130のうち対価100を製品X~Yに配分し,値引き40全体をYとZに配分すべきであるという観察可能な証拠があります。次に,残余アプローチを使用して,製品Wの独立販売価格を@30と見積ります。企業は,複数の方法を組み合せて製品Wの独立販売価格を見積った結果@30を検討し,観察可能な販売価格の範囲内(15~45)であると確認し,この配分結果は,配分の目的(第62項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第66項)に従っていると評価します(設例16-2)。

このように,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠があるというための要件(第68項)は,通常,3つ以上の別個の財又はサービスのある契約に適用されます。これらの要件をすべて満たす状況は多くはありませんので,値引きをすべての履行義務に対して比例的に配分すべきではない状況は,制限的であるといえます(IFRS/BC 282)。

 

☞企業は,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠がある状況として本基準第68項の要件のすべてを満たす場合に限り,値引き全体を当該1つ又は複数の履行義務に配分します。 

 

9.変動対価の配分

 

概要

契約において約束された対価に変動対価が含まれる場合には,その変動する可能性のある金額は,1つの履行義務(あるいは1つの別個の財又はサービス)に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例してすべての履行義務に配分されます(第70項)。

もっとも,契約において約束された変動対価は,契約全体に帰属する場合もあれば,次のいずれかのように,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得る対価の額を忠実に描写するため,契約の特定の一部に帰属させることが適切な場合もあります(第127項,IFRS/BC 278)。

a 契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)

例えば,企業が約束した財又はサービスを所定の期間内において移転することを条件に割増金を受け取る場合には,当該財又はサービスに割増金(変動対価)を配分することが適切です(IFRS/BC 284)。

b 第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つ又は複数の別個の財又はサービス

例えば,ホテル管理サービスを1年間にわたり提供する契約において顧客が稼働率の2%を基礎として決定される変動対価を支払うことを約束するときは,企業が,毎日の個々の管理サービスにつき,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第29項(2))として単一の履行義務を識別する場合でも,日次の稼働率により対価の不確実性が解消されるため,日次に決定される変動対価を毎日の個々の管理サービスに配分することが適切です(IFRS/BC 285)。また,例えば,2年間の清掃サービスにおける2年目の対価が所定の物価上昇率に基づき増額される場合にも,その増額分は,2年目の個々の清掃サービスに配分することが適切です(第127項(2))。

そこで,本基準は,変動対価が契約における履行義務(あるいは別個の財又はサービス)の一つに関連する場合は,変動対価のすべてを,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することとしています(第69項)。

 

要件

企業は,次のa及びbの要件のいずれも満たす場合には,変動対価及びその事後的な変動のすべてを,1つの履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第69項)。

a 変動性のある支払の条件が,当該履行義務を充足するための活動や当該別個の財又はサービスを移転するための活動(あるいは当該履行義務の充足による特定の結果又は別個の財又はサービスの移転による特定の結果)に個別に関連していること

b 契約における履行義務及び支払条件のすべてを考慮した場合,変動対価の額のすべてを当該履行義務あるいは当該別個の財又はサービスに配分することが,企業が権利を得ると見込む対価の額を描写すること

 

取引価格の配分の方法

企業は,第69項に従って変動対価を配分するときは,取引価格のうち第69項の要件を満たさない残りの取引価格については,取引価格の配分に関する本基準第62項~第68項を適用して配分しなければなりません(第70項)。

 

☞企業は,契約において約束された変動対価について,①変動性のある支払の条件が,一つの履行義務の充足(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一つの別個の財又はサービスの移転)のための活動(又はその特定の結果)に個別に関連し,かつ,②変動対価の額のすべてを当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するときは,変動対価及びその事後的な変動のすべてを当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分します。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.11.15更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

現金以外の対価と顧客に支払われる対価

 

2017年11月15日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

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「現金以外の対価と顧客に支払われる対価」 目次と概要

 

1.Step3-③ 現金以外の対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約において約束された対価が現金以外の対価である場合は,企業は,当該対価を時価により算定する必要があります(第56項)。

 

2.現金以外の対価の測定

 

現金以外の対価の時価

企業は,財又はサービスと交換に顧客から現金を受け取る場合,流入する資産の価値すなわち受け取る現金の額で取引価格を測定しますので,これと整合させるため,企業が財又はサービスと交換に顧客から現金以外の対価(財又はサービスの形態のほか,金融商品や有形固定資産の形態の場合もあります。)を受け取る場合も,流入する資産の価値すなわち現金以外の対価の時価で取引価格を測定すべきです(IFRS/BC 248)。

 

現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合

企業が現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として間接的に当該対価を測定しなければなりません(第57項)。

例えば,IFRS第2号「株式に基づく報酬」で,企業は,受け取った財又はサービスの公正価値を信頼性をもって見積ることができない場合には,付与した資本性金融商品の公正価値を基礎としてそれらを間接的に測定することとしています。このように,受け取る資産と交換に引き渡す資産の公正価値の方が高い信頼性をもって見積ることができる場合は,その公正価値を基礎として間接的に測定することは,他の会計基準と整合的であるといえます(IFRS/BC 249)。

 

☞企業は,顧客が現金以外の対価を約束している場合,当該対価の時価を取引価格として測定する必要があります。もし,当該対価の時価を合理的に見積ることができない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として間接的に当該対価を測定します。

 

3.変動対価の見積りの制限の適用

 

現金以外の対価の変動性

現金以外の対価の時価の見積りは,企業が現金で受け取る変動対価と同様に変動する可能性がありますが,その変動性には,次の両方があります(IFRS/BC 250,251)。

● 将来の事象の発生又は不発生によって変動する可能性

 現金以外の対価の受け取りに条件が付されている場合(例えば,業績に基づく割増として株式を受け取る企業の権利が将来の事象の発生又は不発生に左右される場合)。

● 現金以外の対価自体の価格又は価値の変動

 現金以外の対価自体の価格又は価値が変動する場合(例えば,対価である株式の1株当たりの価格が変動する場合)。

 

変動対価の見積りの制限の適用

企業は,現金以外の対価の時価が変動する理由が,株価の変動等,対価の種類によるものだけではない場合(例えば,企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて時価が変動する場合)には,変動対価の見積りの制限に関する本基準第51項を適用しなければなりません(第58項)。

変動対価の見積りの制限に関する規律(本基準第51項・指針25,26)は,受け取る対価の種類が現金かそれ以外かにかかわらず,企業の履行に関連する同種の不確実性に適用すべきです。例えば,業績に基づく割増として株式を受け取る企業の権利の時価は,株式自体の価格又は価値の変動だけでなく,業績に基づく割増を受け取るかどうかの不確実性にも関連しています。本基準は,このように現金以外の対価の時価が変動する理由が企業の履行に関連する不確実性にもある場合には,時価の見積りにあたって,変動対価の見積りの制限(本基準第51項・指針25,26)を適用することとしています(IFRS/BC 252)。

 

☞企業は,現金以外の対価の時価が変動する理由が対価の種類によるもの(対価自体の価格又は価値の変動)だけでない場合には,変動対価の見積りの制限(本基準第51項)を適用する必要があります。

 

4.企業による契約の履行に資するための財又はサービス

 

顧客が企業による契約の履行に資するために財又はサービス(例えば,材料,設備又は労働)を拠出する場合には,企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得するかどうかを判定しなければなりません(第59項)。

企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得する場合には,当該財又はサービスを,顧客から受け取る現金以外の対価として処理しなければなりません(第59項)。したがって,企業は,契約において約束された現金対価の額に,拠出された財又はサービスの時価を加算して取引価格を算定し,契約におけるそれぞれの履行義務に配分します。

これに対し,企業が拠出された財又はサービスに対する支配を獲得しない場合には,当該財又はサービスは依然として顧客が支配していますので,取引価格に含めません。

 

5.Step3-④ 顧客に支払われる対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して対価を支払う又は支払うと見込まれる場合には,当該対価を取引価格(収益)から減額する必要があります(第60項)。

ここにいう対価は,現金の額や顧客が企業に対する債務額に充当できる金額等であって,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価でないものをいいます。

 

6.顧客に支払われる対価

 

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価とは,企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払う又は支払うと見込まれる対価であって,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価でないものをいいます。

企業は,顧客に支払われる対価を,取引価格から減額します(第60項)。

 

類似の支払の会計処理

企業が顧客又は顧客の顧客に対価を支払う又は支払うと見込まれる場合,その対価は,(a) 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金のほか,(b) 顧客から受領する財又はサービスと交換に支払われる対価,あるいは(c) 両者の組合せの形式による場合があります(IFRS/BC 255)。顧客に支払われる対価の形態には,現金のほか,企業に対する債務額に充当できるクレジット又は他の項目(例えば,クーポン又はバウチャー)も含まれます(IFRS第70項)。

企業は,これら類似の支払が以下のいずれであるかを決定し,会計処理します(IFRS2010ED 48)。

a 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金

 企業は,取引価格の減額として会計処理します(第60項)。

 顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第60項)。

b 顧客から受け取る別個の財又はサービスと交換に支払われる対価

 企業は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します(IFRS第71項)。

c aとbの組合せ

 顧客に支払われる対価が,企業が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価(公正価値)を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格の減額として会計処理します(IFRS第71項)。

 企業が顧客から受領する財又はサービスの時価(公正価値)を合理的に見積ることができない場合には,顧客に支払われる対価の全額を取引価格の減額として会計処理します(IFRS第71項)。

 

類似の支払と区別する指標

企業が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個の財又はサービス(顧客の財又はサービス)を顧客から受領し,当該財又はサービスと交換に顧客に支払われる対価は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理しなければなりません(IFRS第71項)。

仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理するかどうかは,企業が受領する財又はサービス(顧客の財又はサービス)が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個のものであるかどうか(本基準第31項,第117項・指針5,6,109参照)が指標となります(IFRS/BC 256)。

例えば,企業が顧客である販売業者に製品を販売するとともに,顧客から製品陳列サービス(製品の在庫保管・展示等)の提供を受け,当該サービスに対する支払を行うとします。

製品陳列サービスは,企業が取り扱う製品なしに単独で便益を享受することができませんが,企業が取り扱う製品は企業が容易に利用できる他の資源であり,それと組み合わせて便益を享受することができます(第31項(1)参照)。

したがって,企業は,顧客から受領する製品陳列サービスが,顧客への移転を約束した製品とは別個のものであると判定し,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価として,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します。

 

顧客に支払われる対価の一部についての取引価額の減額

企業が約束した財又はサービスと交換に顧客から受け取る対価の額と,当該顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価の額が,たとえそれらが別々の事象である場合であっても,関連していることがあります。例えば,顧客が,企業から移転される財又はサービスに対して,もし企業に提供する別個の財又はサービスと交換に企業から支払を受けていなければ支払ったであろう対価の額よりも多く支払うことがあります。そうした場合に収益を忠実に描写するため,企業が受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価として会計処理する金額は,当該財又はサービスの時価(公正価値)に限定し,時価を超過する金額があれば取引価格の減額として処理します(IFRS/BC 257)。

上記(製品陳列サービス)の事例で,もし,顧客に支払われる対価が製品陳列サービスの時価を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格の減額として会計処理します。

 

顧客の顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価には,企業が直接,顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払う又は支払うと見込まれる対価も含まれます。

例えば,企業が小売業者に製品を販売するとともに,新聞のチラシで消費者に割引クーポンを発行するとします。小売業者は,企業の製品の販売にあたって,消費者から割引クーポンの提示を受けたときは,代金を値引きするとともに,回収した割引クーポンを企業に提出し,企業から,消費者に値引いた金額を補償してもらいます。

このように,企業が直接,顧客(小売業者)から企業の財又はサービスを購入する他の当事者(消費者)に支払う対価も,顧客に支払われる対価に含まれます。この場合の対価の形態は,顧客(小売業者)が企業に対する債務額に充当できる割引クーポンであり,企業は,顧客に対し,消費者が企業の製品の購入にあたって提示した割引クーポンを企業に提出することを条件として,消費者に値引いた金額を補償することを約束しています。

企業は,顧客から,割引クーポンと交換に別個の財又はサービスを受け取っていませんので,取引価格の減額として会計処理します。

 

☞企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して対価を支払う又は支払うと見込まれる場合に,顧客に支払われる対価と類似の支払を区別し,①顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金については,取引価格を減額し,②顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価については,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理し,③①と②の組合せについては,企業が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価を超える場合にその超過額を取引価格の減額として会計処理します。

 

7.取引価格の減額の方法


取引価格の減額の会計処理を行う時点

顧客に支払われる対価を取引価額から減額する場合には,企業は,次のa又はbのいずれか遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益を減額しなければなりません(第61項)。

a 関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時

b 対価を支払うか又は支払を約束する時

顧客に支払われる対価を取引価額から減額する場合には,関連した履行義務の充足時に収益を減額して認識します。また,企業が履行義務を充足して収益を認識した後になってはじめて顧客に支払われる対価を約束する場合もありますが,この場合は,既に認識した収益を直ちに減額することになります。

 

顧客に支払われる対価の変動性

顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第60項)。

本基準は,企業が遅くとも顧客に支払われる対価を「約束」する時点で取引価格に反映すべきである旨を明確化しています。企業は,将来の事象の発生又は不発生を条件として顧客に支払われる対価を約束する場合も,約束の時点で,その不確実性を反映して取引価格を測定します。例えば,顧客が所定の数を購入することを条件とした顧客に支払われる対価の約束は,企業が当該約束をした時に取引価格に反映します(IFRS/BC 258)。

上記(割引クーポンの発行)の事例で,企業は,①小売業者に製品を引き渡した時,又は②消費者にクーポンを発行した時(=企業が顧客(小売業者)に対して消費者に値引いた金額を補償することを約束した時)のいずれか遅い時に,取引価格(収益)を減額します。その時点では,消費者が割引クーポンを行使するかどうかという不確実性のため,顧客に支払われる対価に変動する可能性のある部分が含まれています。そこで,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項に従い,変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価も含めて,取引価格を見積ります。

 

☞企業は,①約束した財又はサービスの移転に対する収益を認識する時,又は②対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)の遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益を減額します。企業は,企業が対価の支払を約束する時点で,顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.11.07更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

契約における重要な金融要素

 

2017年11月7日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 8ページ

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「契約における重要な金融要素」 目次と概要

 

1.Step3-② 契約における重要な金融要素

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約の当事者が明示的に又は黙示的に合意した支払の時期により,財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,企業は,契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する必要があります(第53項,第54項)。

ただし,実務上の便法として,企業が,契約における取引開始日において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整しないことができます(第55項)。

 

☞企業は,契約の当事者が合意した支払の時期(財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点が1年以内であると見込まれる場合を除きます。)により,顧客又は企業に信用供与についての重要な便益が提供される場合には,契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整します。

 

2.金融要素の影響の調整

 

金融要素を含む契約

顧客との契約の中には金融要素を含む契約がありますが,そうした契約は,概念上,販売に係る取引(売買契約)と金融に係る取引(融資契約)の2つの取引が含まれ,現金販売価格による収益要素と後払い又は前払いの条件の影響による金融要素に区分することができます。

本基準は,基本となる原則として,企業が約束した財又はサービスと交換に得る対価の額で収益を認識するという原理を採用していますが(第13項),金融要素を含む契約において約束された対価は,金利相当分の影響を含まれているため,約束した財又はサービスの対価の額を忠実に反映していません。そのため,契約において約束した対価から金利相当分の影響を調整しなければ,約束した財又はサービスの顧客への移転時に誤った金額の収益を認識してしまうおそれがあります。また,重要な金融要素を識別することにより,顧客との契約の重要な経済的特徴(財又はサービスの移転を目的とする契約が融資契約を含んでいること)に関する有用な情報を財務諸表利用者に提供します。

 

目的

契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります(第54項,IFRS/BC 230)。

現金販売価格とは,約束した財又はサービスが顧客に移転された時点で(又は移転されるにつれて)顧客が当該財又はサービスに対して現金を支払ったとした場合に,約束した財又はサービスに対して顧客が支払ったであろう価格をいいます(IFRS第61項)。

 

☞企業が契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する目的は,約束した財又はサービスの移転時の現金販売価格を反映する金額で収益を認識することにあります。

 

3.重大な金融要素

 

要件

企業は,①契約の当事者が明示的に又は黙示的に合意した支払の時期により,②財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,顧客との契約は重要な金融要素を含むと判定し,契約において約束された対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整しなければなりません(第53項,第54項)。

①契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点と異なる支払の時期を合意することは,契約が重要な金融要素を含む前提条件となります。

財又はサービスの顧客への移転のかなり前又はかなり後に支払期限が到来することは,契約が金融要素を含むための必要条件ではありますが,契約に定められた支払の時期だけが,金利相当分の調整の必要性を決定づけるものではありません。財又はサービスの移転の時点と支払の時点との間に相当の期間があっても,それらの時点が異なる理由が,企業と顧客の間での融資契約に関するものではない場合もあります。

そこで,本基準は,契約の当事者が合意した支払の時期によって,②財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,契約が重要な金融要素を含むと判定することとしています(IFRS/BC 231)。

重要な金融要素は,信用供与の約束が契約に明記されているか,契約の当事者が合意した支払条件に含意されているかにかかわらず,存在する可能性があります(第124項)。

 

要素

契約が重要な金融要素を含むかどうかは,①契約が金融要素を含むかどうかと②金融要素が契約とって重要であるかどうかの2つの要素により構成されます(指針27)。

このうち②について,企業は,あくまで契約にとって(契約レベルでの)金融要素が重要かどうかを考慮します。多くの契約については,金融要素の影響が顧客との契約に関して認識すべき収益の金額を大きくは変更しないため,金融要素が重要ではないと考えられます。

企業によっては,類似した契約のポートフォリオレベルについての金融要素の複合した影響が企業全体にとって重要性がある場合もありますが,個々の契約にとって金融要素の影響が重要でない限り,重要な金融要素を識別する必要はありません(IFRS/BC 234)。

 

双方向性

企業は,契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点より後払いを合意するときは,企業から顧客に対して,また,前払いを合意するときは,顧客から企業に対して,それぞれ信用供与についての重要な便益が提供されるかどうかを判定します。

契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点より前払いを合意し,顧客から企業に対して信用供与についての重要な便益が提供される場合には,企業が受け取った現金よりも多額の収益を認識する結果になります。

このような結果は,従来の実務を変更することとなり,顧客が金融以外の理由(例えば,顧客に重要な信用リスクがある場合や顧客が事前の契約コストを企業に補償する場合)で前払いする取決めの経済的実質が反映されないことと平仄が合わないなどの問題も指摘されています(IFRS/BC 237)。

しかし,例えば,企業が,長期の工事請負契約に必要な資材の調達資金の提供を受けるために顧客との間で多額の前払いを合意する場合,そのような合意をしない場合に比べ,契約において約束された対価の額は,第三者から金融を得るための財務コストの分だけ低くなりますが,約束された財又はサービスが同一であるにもかかわらず,企業が信用供与についての重要な便益を顧客から受けるか第三者から受けるかによって認識すべき収益の額が異なるべきではありません。そこで,本基準は,契約の当事者が前払いの合意により顧客から企業に対して信用供与についての重要な便益が提供される場合にも,前払いによる重要な金利相当分の影響を調整する会計処理を免除しないこととしています(IFRS/BC 238)。

 

☞企業は,①契約の当事者が財又はサービスの顧客への移転の時点と異なる支払の時期を合意し,かつ,②財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には,契約が重要な金融要素を含むと判定します。

 

4.重大な金融要素の識別

 

指標

企業は,①契約が金融要素を含むかどうか,②金融要素が契約とって重要であるかどうかを評価するにあたって,以下の指標を含め,関連するすべての事実及び状況を考慮しなければなりません(指針27,IFRS/BC 232)。

a 約束した対価の額と財又はサービスの現金販売価格との差額

企業(又は他の企業)が,支払条件の時期に応じて,同一の財又はサービスを異なる対価の額で販売する場合には,一般的に,各当事者は契約が金融要素を含むことを認識しています。ただし,この差額が金融以外の要因による場合もあります(指針28参照)。

b 約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点との間の予想される期間の長さ及び関連する市場金利の金融要素に対する影響

財又はサービスの移転の時点と支払の時点が異なることは,重要な金融要素を含むことを決定づけるものではありませんが,支払時期と市場金利の影響の複合によって,信用供与についての重要な便益が提供されていることを示す強い指標になる場合があります。

 

重要な金融要素を含まないことを示す要因

企業は,以下のいずれかに該当する場合には,顧客との契約は重要な金融要素を含まないと判定します(指針28,IFRS/BC 233)。

a 顧客が財又はサービスに対して前払いを行い,顧客の裁量により当該財又はサービスの移転の時期が決まること

カスタマー・ロイヤルティ・ポイントなど幾つかの類型の財又はサービスについては,顧客が当該財又はサービスに対して前払いを行い,当該財又はサービスの顧客への移転の時期が顧客の裁量で決まります。このような支払条件の目的は,信用供与についての重要な便益を顧客又は企業に提供することではないと考えられます。

b 対価が売上高に基づくロイヤルティである場合等,顧客が約束した対価のうち相当の金額に変動性があり,当該対価の金額又は時期が,顧客又は企業の支配が実質的に及ばない将来の事象が発生すること又は発生しないことに基づき変動すること

ロイヤルティ契約など一部の契約では,財又はサービスに関して重要な不確実性があるため,当事者が対価の額と支払時期を固定したくない場合があります。このような支払条件の主目的は,財又はサービスに対する対価の不確実性を解消し,当事者がその価値の保証を相手方に与えることにあり,信用供与についての重要な便益を顧客又は企業に提供することではないと考えられます。

c 約束した対価の額と財又はサービスの現金販売価格との差額が,顧客又は企業に対する信用供与以外の理由(例えば,顧客又は企業が契約上の義務の一部又は全部を適切に完了できないことに対する保全を支払条件により契約の相手方に提供する場合)で生じており,当該差額がその理由に基づく金額となっていること

状況によっては,業界又は法域での典型的な支払条件に従った前払い又は後払いには,金融以外の主目的がある場合があります。例えば,我が国の民法では,請負契約の報酬は,特約がない限り後払いとされ,建設業界の工事請負契約の標準約款でも完成・引渡し時に対価の一部又は全部を支払うものとされているように,顧客が契約の完了時又は所定のマイルストーンの達成時まで対価の一部又は全部の支払を留保する場合があります。逆に,限定的な財又はサービスの将来における提供を確保するために顧客が対価の一部を前払いすることを要求される場合もあります。このような支払条件の主目的は,当事者が財又はサービスの価値を相手方に保証すること(当事者が契約に基づく義務を適切に完了しないことに対する保全を相手方に与えること)にあり,信用供与についての重要な便益を顧客又は企業に提供することではないと考えられます(指針118)。

 

☞企業は,重要な金融要素の識別にあたって,①現金販売価格,②(a)支払時期と(b)市場金利の影響との複合を考慮します。ただし,①顧客が前払いした財又はサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる場合や,②変動対価の額や支払時期に対して当事者の実質的コントロールが及ばない場合,③現金販売価額との差額が信用供与以外の理由に見合っている場合(例えば,当事者が契約に基づく義務を完了しないことに対する保全を相手方に与える場合)は,重要な金融要素を識別しません。

 

5.実務上の便法

 

企業は,契約における取引開始日において,約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整しないことができます(第55項)。

本基準は,企業に重要な金融要素の識別や割引率の決定などを免除して本基準の適用を簡素化するため,信用供与についての便益が1年以内であることに限定し,実務上の便法を容認しています(IFRS/BC 236)。ただし,財又はサービスの移転の時点と支払の時点の間が1年以内のときは重要な金融要素について金利相当分の影響を調整しないという実務上の便法は,類似した状況における類似した契約に一貫して適用すべきです(IFRS/BC 235)。

 

☞企業は,実務上の便法として,契約における取引開始日において,財又はサービスの移転の時点と支払の時点の間が1年以内であると見込まれる場合には,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整する必要はありません。

 

6.調整に用いる割引率

 

重要な金融要素の調整に用いる割引率

本基準は,重要な金融要素の調整に用いる割引率として,以下の利率を採用せず,契約における取引開始日において企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率を採用しています。企業と顧客との間で財又はサービスの提供を伴わない金融取引を行う場合に使用される利率が,その契約において信用供与を受ける当事者の特性を,顧客又は企業が提供する担保又は保証とともに,当事者の信用度その他のリスクを含めて反映するからです(IFRS/BC 239)。

● 契約で明示された利率

契約に利率が明示されていたとしても,その利率を割引率として使用できるとは限りません。企業が,顧客との契約にあたって,販売インセンティブとして安価な金融を提供する場合もありますので,その利率を使用すると,収益の適切な認識とはならないからです(IFRS/BC 239)。

● リスクフリー金利

リスクフリー金利は,多くの法域において観察可能であり,割引率として使用すれば,各契約に固有の利率を算定するコストがかかりません。しかし,本基準は,リスクフリー金利を割引率として使用することにより生じる金利収益又は金利費用は,契約の当事者の特性を反映しないため,有用な情報をもたらさないことから,割引率として使用しないこととしています(IFRS/BC 239)。 

 

企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用される割引率

企業は,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整するにあたって,契約における取引開始日において,企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率を使用しなければなりません(指針29)。

企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率の決定にあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(顧客との契約により移転される資産を含みます。)も考慮します(IFRS第64項)。

 

現金販売価格への割引率

企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率は,契約において約束された対価(名目金額)の現在価値が財又はサービスが顧客に移転される時の現金販売価格と等しくなるような利率として特定することができます(指針29)。 

 

割引率の再評価

企業は,契約における取引開始日に決定した割引率は,たとえその後に金利の変動や顧客の信用リスクの評価の変動等があったとしても,見直してはなりません(指針29,IFRS/BC 242,243)。

 

☞企業は,重要な金融要素について金利相当分の影響を調整するにあたって,顧客又は企業が提供する担保又は保証(顧客との契約により移転される資産を含みます。)も考慮し,契約における取引開始日において企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率を使用しなければなりません。この割引率は,契約において約束された対価(名目金額)の現在価値が,財又はサービスが顧客に移転される時の現金販売価格と等しくなるような利率として特定することができます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.28更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

変動対価

 

2017年10月28日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「変動対価」 目次と概要

 

1.Step3「取引価格を算定する」の概要

 

企業は,契約における履行義務を識別した後の次のステップで,契約における取引開始日に,当該契約に係る取引価格を算定します。

顧客が固定額の現金対価を支払うと約束する場合は,単純にその対価から取引価格を算定できますが,本基準は,契約において約束された対価から単純に取引価格を算定できない次の4つの類型について,取引価格の算定の指針を示しています(第45項,IFRS/BC 188)。

1 変動対価

2 契約における重要な金融要素

3 現金以外の対価

4 顧客に支払われる対価

 

☞企業は,契約開始時に,契約において約束された対価から取引価格を算定します。特に4つの類型(①変動対価,②契約における重大な金融要素,③現金以外の対価,④顧客に支払われる対価)について,本基準に従って取引価格を算定します。

 

2.Step3-① 変動対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約において約束された対価のうち変動する可能性のある部分が含まれる場合,企業は,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることとなる対価の額を見積る必要があります(第47項)。

また,企業は,変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り,見積られた変動対価の額を取引価格に含めます(第51項)。

 

3.取引価格とは

 

“取引価格”とは

本基準は,“取引価格”を「財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし,第三者のために回収する額を除く。)」と定義づけます(第7項)。

 

配分後取引価格アプローチ

本基準は,IFRS第15号と同様に,契約に基づく収益認識の原則を採用するとともに,財又はサービスを提供する義務(負債)の測定を,取引価格を契約における各履行義務に配分して行うアプローチ(配分後取引価格アプローチ)を採用します(IFRS/BC 25,26,181,183)。

他方,契約上の義務を,企業が独立した第三者に移転すると仮定した場合にその第三者から支払を求められる対価(債務引受けの代金)の額で測定するアプローチ(現在出口価格アプローチ)も考えられます。

しかし,現在出口価格アプローチは,契約における取引開始日に,一般的に対価を受け取る権利(資産)の測定値が財又はサービスを提供する義務(負債)の測定値を上回るため,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する前に収益を認識してしまいます(IFRS/BC 25)。

また,現在出口価格アプローチでは,残存履行義務を各決算日現在で直接的に測定しますが,現在出口価格は,通常は観察可能ではなく,見積りが複雑でコストがかかり,検証が困難になるおそれがあります。しかも,約束した財又はサービスの価値の変動性は,本来的に小さいか,又は顧客への移転までの比較的短期間では限定的であり,財務諸表利用者に追加的な情報をほとんど提供しません(IFRS/BC 25,182)。

このような理由から,本基準は,IFRS第15号と同様に,現在出口価格アプローチを採用していません(IFRS/BC 25~27,182)。

 

取引価格の基礎となる対価

取引価格には,企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の額(変動する可能性のある部分を含みます。)だけを含め(IFRS/BC 186),新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の額を含めません。

例えば,顧客が現在の契約に含まれる追加の財又はサービスを取得するオプションを行使したときは,企業と顧客との間に独立販売価格より重要な値引きがされた価格で追加の財又はサービスを提供する新たな契約が成立しますが,新たな契約に係る対価(独立販売価格より重要な値引きがされた価格)は,現在の契約に係る取引価格に含めません(IFRS/BC 186)。

また,顧客が現在の契約から新たな取引価格に変更することが予測されるとしても,企業と顧客との間に変更契約(新たな契約)が成立するまでは,新たな契約に係る対価は,現在の契約に係る取引価格に含めません(IFRS/BC 186)。

以上のように,新たに成立する契約に係る対価は,企業は,未だ対価に対する権利を有していませんので,現在の契約に係る取引価格の算定に含めません(IFRS/BC 186)。

 

取引価格の支払者

企業が現在の契約に基づいて権利を有している対価の額は,いかなる当事者が支払ってもよく,顧客以外の当事者が支払う場合でも取引価格に含まれます。

例えば,ヘルスケア(医療介護)業界では,患者(顧客)だけでなく,保険会社あるいは政府機関から対価の支払を受ける権利を得ることとなる金額に基づいて取引価格を算定します。他の業界でも,例えば,仕入先であるメーカー(製造業者)が企業の顧客に直接クーポン又はリベートを発行するときは,企業は,顧客が使用したクーポン又はリベートに基づきメーカーから支払を受ける権利を得ることとなる金額も取引価格に含めます。

しかし,我が国における消費税などのように,企業が他の当事者に代わって回収する金額は,取引価格に含めません(IFRS/BC 187)。

 

顧客の信用リスク

取引価格には,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が“権利を得る”と見込む対価の額を基礎とし,企業が権利を得たとしても顧客の信用リスクのために受け取れないと見込まれる対価の額も含みます。言い換えれば,取引価格は,企業が“受け取る”と見込む対価の額ではありませんので,企業が契約に従って権利を得る対価の額を顧客から回収できないというリスク(顧客の信用リスク)は取引価格に反映されません(IFRS/BC 259)。

財務諸表利用者にとって,収益を「総額」で測定する方が,企業で別々に管理されている販売機能の業績(収益の成長)と債権回収機能の業績(債権管理)を区別して評価し得る有用な情報を提供するからです(IFRS/BC 260)。

 

☞企業は,現在の契約に基づいて権利を有している対価の金額を基礎に取引価格を算定し,現在の契約と関連する新たな契約の成立により権利を得ることとなる対価の金額は取引価格に含めません。また,取引価格には,保険会社,政府機関,顧客に直接クーポン等を発行する仕入先など顧客以外の当事者が支払う場合も含めますが,消費税など企業が他の当事者に代わって回収する金額は含めません。

 

4.取引価格の算定

 

取引価格は,契約において約束された対価を基礎に算定します。

企業は,取引価格を算定するために,契約の条件や取引慣行等を考慮しなければなりません(第44項)。

契約において約束された対価の性質,時期及び金額は,取引価格の見積りに影響を与えます(第45項)。

企業は,取引価格の算定にあたって,財又はサービスが契約に従って顧客に移転され,契約の取消,更新又は変更はないものと仮定します(第46項)。

 

5.変動対価の識別

 

変動対価とは

変動対価とは,契約において約束された対価のうち変動する可能性のある部分をいいます(第47項)。

変動対価は,企業が契約に基づいて権利を得ることとなる対価が変動する可能性のあるすべての状況で生じる可能性があり(IFRS/BC 190),例えば,値引き,リベート,返金,インセンティブ,業績に基づく割増金,ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や,返品権付きの販売などがあります(指針23)。

 

変動対価の識別

企業は,まず,どのような場合に変動対価が顧客との契約の中に存在するのかを識別しなければなりません(IFRS/BC 189(a))。

 

変動性にかかる条件

顧客が契約において変動性のある対価の額を算定することを約束する場合だけでなく,契約において約束された対価に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合にも,対価の額が変動する可能性があります(IFRS/第51項)。

条件とは,法律効力の発生又は消滅を将来の実現や到来の不確実な事実の発生(成就)にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に条件が付されているときは,たとえ契約に明示された価格が固定されていても,変動対価に該当します。

例えば,製品が返品権付きで販売された場合,顧客が返品権を行使するという条件の成就により企業が受け取った対価を顧客に返金する義務が発生しますので,変動対価に該当します。契約に明記された価格が固定されていても,企業は,固定された価格すべてに対する権利を得るか,又は固定された価格に対する権利を全く得ないかのいずれかの可能性があり,対価が変動するからです(IFRS/BC 191)。

他方,期限とは,法律効力の発生又は消滅を将来発生することが確実な事実にかからせることをいいます。契約において対価に対する企業の権利に期限が付されていても,変動対価には該当しません。企業が約束した財又はサービスを顧客に移転した時に又はその後に,あるいは移転と引き換えに,対価に対する企業の権利が発生しても,対価の額は変動しません。

 

変動性に関する明示~価格譲歩~

顧客が約束した対価に関する変動性は,契約に明示されることが少なくありませんが,企業が契約に明示された価格よりも低い価格を受け入れる可能性がある(契約が黙示的な価格譲歩を含んでいる)ために,約束された対価に変動性があることもあります(IFRS/BC 192)。

企業は,次の状況のいずれかが存在する場合には,約束された対価に変動性があると判定します(指針24)。

a 企業の取引慣行や公表した方針等に基づき,契約の価格よりも価格が引き下げられるとの期待を顧客が有していること

例えば,企業が顧客との関係を強化して当該顧客への将来の販売を促進する目的で,過去に当該顧客に販売した商品につき当該顧客が容易に第三者に売却できるよう値引きすることを可能にするために価格を引き下げることがありますが,企業の取引慣行や公表した方針等から,企業がそのような価格の引き下げをするであろうという合理的な期待を顧客が有しているときは,約束した対価に変動性があると判定します(IFRS/BC 192)。

b 顧客との契約締結時に,価格を引き下げるという企業の意図が存在していること

企業の取引慣行や公表した方針等がないものの,例えば,企業が新規顧客との関係を開発する戦略のため,当該顧客と契約を締結する場合に,他の要因により,企業が契約に明示された価格よりも価格を引き下げるという意図が存在するときは,約束した対価に変動性があると判定します(IFRS/BC 193)。

 

☞企業は,顧客が契約において変動性のある対価の額を算定することを明示に約束する場合だけでなく,①約束された対価(価格が固定されている場合を含みます。)に対する企業の権利が将来の事象の発生又は不発生を条件としている場合や,②企業が契約に明示された価格よりも価格を引き下げるという顧客の期待や企業の意図がある一定の状況が存在する場合にも,変動対価を識別します。

 

6.変動対価の見積りの方法

 

変動対価の見積り

企業は,変動対価を識別したときは,適切な方法により変動対価の額を見積る必要があります(IFRS/BC 189(b))。

本基準は,変動対価の額の見積りに関し,その目的を明示し,適切な測定方法を限定しています。経営者に自由に見積りの方法を選択することを容認することは,財務諸表利用者にとっての理解可能性や企業間の比較可能性を損なうおそれがあるからです(IFRS/BC 196~198)。

 

変動対価の見積りの方法

企業は,次のいずれかの方法のうち,企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いて,変動対価の額を見積らなければなりません(第48項,第122項,IFRS/BC 195)。

a 期待値…発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額の合計額

期待値は,決算日現在の不確実性のすべてを反映しますので,とりわけ,企業が特性の類似した多くの契約を有している場合には,変動対価の額を適切に見積ることができます。他方で,契約において生じ得る結果が2つしかない場合などでは,期待値は,契約において生じ得ない結果(金額)を示すこともあり,必ずしも企業が権利を得ることとなる金額を忠実に予測しない場合があります(第122項,IFRS/BC 199,200)。

b 最頻値…発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額

契約において生じ得る結果が2つしかない場合には,変動対価の額を適切に見積ることができます(第122項,IFRS/BC 200)。

 

合理性の原則

企業は,変動対価の見積りにあたって,企業が合理的に入手できるすべての情報を考慮し,発生し得ると考えられる対価の額についての合理的な数のシナリオを識別しなければなりません(第49項)。

 

一貫適用の原則

企業は,変動対価の見積りにあたって,契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第49項)。

 

☞企業は,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,①期待値又は②最も可能性の高い金額のうち企業が権利を得ることとなる対価の金額をより適切に予測できると見込んでいる方法を使用し,合理的な数の結果(金額)を識別して変動対価を見積ります。

 

7.変動対価の見積りの制限

 

変動対価の見積りの制限

本基準は,変動対価の見積りの不確実性が高すぎるときは,企業が顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を忠実に描写しないおそれがあることから,財務諸表利用者に有用な情報を提供するために,変動対価の見積りの一部又は全部を取引価格に含めないこととしています(IFRS/BC 203)。

そこで,企業は,どのような場合に,そうした変動対価を制限し,取引価格に含めるべきでないのかを判定する必要があります(IFRS/BC 189(c))。

 

目的

財務諸表利用者が企業の将来の収益をより適切に予測するためには,ある報告期間における収益の測定値が,その後の報告期間に重大な戻入れが生じないことが有用であるといえます。そこで,本基準は,変動対価の見積りの制限に関し,収益の下方修正(収益の戻入れ)を制限することに焦点を置き,計上された収益の著しい減額が発生しないことを目的としています(IFRS/BC 206,207)。

また,本基準は,変動対価の見積りの制限が,どの程度の確度で計上された収益の著しい減額が発生しないことを確保するのかという問題(確信のレベル)を実務的に統一するため,そのレベルを「非常に可能性が高い」という用語で明示しています。企業は,このレベルを確率として定量化して評価する必要はなく,定性的な諸要因を考慮します(IFRS/BC 208~212)。

 

要件~考慮すべき要素と要因~

企業は,見積られた変動対価の額について,変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に,解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り,取引価格に含めなければなりません(第51項)。

企業は,計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高いかどうかを評価するにあたって,収益が減額される①確率と②減額の程度の両方を考慮しなければなりません(指針25)。

 

変動対価の見積りの一部の制限

企業は,変動対価の見積りの一部を取引価格に含めたときは,計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高いと評価する場合には,変動対価の見積り全体を取引価格から除外する必要はなく,その一部を取引価格に含めるべきです(IFRS/BC 218)。

ただし,知的財産のライセンスとの交換で約束された売上高又は使用量に基づくロイヤルティの形態の対価については,適用指針(指針67)を適用して会計処理しますので,企業は,不確実性が解消される(顧客に売上又は使用が生じる)までは,収益を認識してはなりません(IFRS/BC 219)。

 

☞企業は,変動対価に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いといえない場合は,見積られた変動対価の金額の一部又は全部を制限し,取引価格に含めません。

 

8.取引価格の事後の変動

 

取引価格の事後の変動

本基準は,各決算日現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を描写するため,企業が契約期間全体を通じて取引価格の見積りを見直すものとし(IFRS/BC 224),取引価格の事後の変動の会計処理を定めています(IFRS/BC 189(d))。

 

変動対価の再判定

企業は,各決算日において,各決算日現在で存在している状況及び報告期間中の状況の変化を忠実に反映するために,変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価も含め,見積った取引価格を見直さなければなりません。企業は,見直した取引価格について,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,取引価格の変動の会計処理(第71項~第73項)を行います(第52項)。

 

☞企業は,契約における取引開始日に見積った変動対価について,契約期間全体を通じ,各決算日に取引価格を見直し,取引価格の変動の会計処理(第71項~第73項)を行います。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.19更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

履行義務の識別

 

2017年10月19日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 5ページ

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「履行義務の識別」 目次と概要

 

1.Step2-③ 履行義務の識別 

 

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後(Step2-①契約における約束の識別),別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します(Step2-②別個の財又はサービスの識別)。そして,最後に,企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)から,区分して会計処理をする単位として履行義務を識別します(第29項)。

本基準は,“別個の財又はサービス”という概念では,反復的なサービス契約などで費用対効果が低い多数の会計単位を識別してしまうという運用上の問題を解決するため,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスについて,単一の履行義務を識別するものとしています(第29項(2))。

そのほかは,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します(第29項(1))。 

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)のうち特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しますが,それ以外は,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。 

 

2.履行義務とは

 

履行義務の定義

本基準は,“履行義務”を,次にように定義しています(第6項)。

顧客との契約において,次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束

(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)

(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)

 

履行義務の識別の目的

本基準は,基本となる原則として“約束した財又はサービスの顧客への移転を,当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように,収益の認識を行う”という原理を採用しています(第13項)。

本基準は,この原理を実現するため“履行義務”という会計単位を用いています。履行義務は,企業が契約において約束した財又はサービスに関する会計単位をいい,企業が負う財又はサービスを提供する義務を一つ又は複数に区分して識別したものです。この会計単位に当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価(取引価格)を配分することにより(配分後取引価格アプローチ),財又はサービスが顧客に移転するごとに(又は移転するにつれて)その会計単位に配分されている対価を収益として認識します。

履行義務の識別は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位を適切に識別することを確保することを目的としています(IFRS/BC 85)。 

 

☞企業は,契約において約束した財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するために意味のある会計単位として履行義務を適切に識別しなければなりません。 

 

3.履行義務の識別 

 

履行義務の識別

履行義務は,顧客との契約において,(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)又は(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)のいずれかを移転する約束をいいますが,本基準は,このうち(2)の顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービスと判定するための要件を定立し(第30項),この要件を満たす一連の別個の財又はサービスについて単一の履行義務を識別することを求めています。

この要件を満たさない場合は,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップで識別した別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します。

 

別個の財又はサービスとの関係

本基準は,契約変更及び変動対価の配分における判定にあたって,財又はサービスを提供する義務に関する会計単位を用いますが,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しているときは,その目的上,“履行義務”という会計単位ではなく,“別個の財又はサービス”という会計単位を用いることに留意する必要があります(IFRS/BC 115)。 

 

☞企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)について,一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同一であり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)の要件を満たすときは,単一の履行義務を識別し,その要件を満たさないときは,それぞれの別個の財又はサービス(の束)を履行義務として識別します。

 

4.一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同一であり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス) 

 

概要

企業は,反復的なサービス契約(例えば,清掃契約や取引処理,電力を供給する契約)などで,特性が実質的に同じ財又はサービスを一定の期間にわたり連続的に提供する状況では,もし,第29項(2)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めなければ,契約において提供すべき個々のサービスごとに複数の別個の財又はサービスを識別し,全体の対価(取引価格)を独立販売価格に基づいてそれぞれの増分(例えば,清掃の1時間ごと)に配分することが要求されることになりますが,収益認識モデルをこのような方法で適用することは,費用対効果が低いと考えられます。

そこで,本基準は,このような運用上の問題を解決し,収益認識モデルを単純化して,コストを軽減するため,第29項(2)の一連の別個の財又はサービスを履行義務の定義に含めることによって,履行義務の識別における首尾一貫性を高めています(IFRS/BC 113,114)

 

要件

企業は,以下の要件のすべてに該当するときは,一連の別個の財又はサービスに単一の履行義務を識別しなければなりません(第29項(2))。

● 複数の別個の財又はサービスの特性が実質的に同じであること

複数の別個の財又はサービスがほぼ同一(同種)であること。

● 別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであること

次のa及びbの要件のいずれも満たす場合には,別個の財又はサービスの顧客への移転のパターンが同じであると評価します(第30項)。

a 一連の別個の財又はサービスのそれぞれが,第35項における一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすこと

b 第38項及び第39項に従って,履行義務の充足に係る進捗度の見積りに,同一の方法が使用されること

企業が,別個の財又はサービスのそれぞれについて,一定の期間にわたり充足される履行義務の充足に係る進捗度の見積りに同一の方法を使用することが,本基準第38項・第39項に従って適切でなければなりません。

 

類似した状況における適用

第29項(2)の一連の別個の財又はサービスは,一定の期間にわたり充足される履行義務であり(IFRS/BC 113),企業は,識別した単一の履行義務に取引価格を配分し,単一の進捗度の測定値を適用することになります。

他方,複数の数量の同種の財又はサービスを同時に提供するときのように,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の別個の財又はサービスが一時点で充足される履行義務であるときは,第29項(2)の要件を満たしませんので,別個の財又はサービスに同じ一時点で充足される複数の履行義務を識別して会計処理することになります。

このような顧客に同時に移転する複数の別個の財又はサービスについて,一時点で充足される履行義務をそれぞれ識別して会計処理した結果と同じであれば,本基準は,企業がそれらを単一の履行義務であるかのように,まとめて会計処理することを禁止しているわけではありません(IFRS/BC 116)。

 

☞企業は,複数の別個の財又はサービス(の束)について,①別個の財又はサービスの特性が実質的に同一(同種)であり,②いずれも一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たし,かつ,③それらの履行義務の充足に係る進捗度の見積りに同一の方法を使用することが適切であるときは,単一の履行義務を識別します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.10.08更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

別個の財又はサービスの識別

 

2017年10月8日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「別個の財又はサービスの識別」 目次と概要

 

 

1.Step2-② 別個の財又はサービスの識別


Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。“別個の財又はサービス”という概念は,次のaとbの特性をいずれも備える会計単位です(第31項)。

a 当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて,顧客が便益を享受することができること

個々の財又はサービスが,最低限,顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません(第31項(1))。

b 当該財又はサービスを顧客に移転する約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できること

たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約における約束として他と区分して識別できない複数の財又はサービス(の束)は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません(第31項(2))。

 

☞企業は,識別した契約における約束を,①最低限,顧客に便益を提供し得る単位より細分化しない,②契約における約束として他と区分して識別し得る単位より分離しない,という2つのルールに従い,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。

 

2.契約における約束の目的となる財又はサービス

 

契約における約束の類型とその目的となる財又はサービス

財又はサービスは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源,すなわち資産です。サービスは,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第118項)。 

本基準は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,財又はサービスそのものではなく,まず,契約において財又はサービスを顧客に移転する約束(契約における約束)を識別するものとしています。例えば,企業が顧客に塗装サービスを提供する契約では,塗装に用いられるであろう下塗材,塗料その他の財も顧客に移転しますが,このような契約に明示的に約束されたもの以外の個々の財又はサービスまで網羅的に識別することは,履行義務を識別する目的にとっては必要がなく,無駄な事務負担となります。

そこで,企業は,Step2-①契約における約束の識別のサブ・ステップで,契約における約束を漏れなく識別した後に,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップでは,契約における約束の目的となっている財又はサービスに着眼し,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。 

本基準は,企業が約束した財又はサービスを識別するのに役立てるため,本基準第116項で,企業が識別すべき契約における約束の類型とその目的となる財又はサービスを例示しています(IFRS/BC 91)。

 

待機する又は利用可能にするサービス(IFRS/BC 91(a))

企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスの性質及び企業の履行の性質を考慮しなければなりません。例えば,典型的なヘルスクラブ契約では,顧客は,ヘルスクラブの利用回数に関係なく(ヘルスクラブを全く利用しなくとも),期間に応じた一定の対価を支払う義務を負います。このような場合には,サービスの内容は,顧客が要求する一時点でヘルスクラブの利用を提供することではなく,一定の期間にわたりヘルスクラブを利用可能にして待機するサービスです(IFRS/BC 160)。 

 

将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与(IFRS/BC 91(b))

顧客又は第三者が,将来,一定の条件が成就したときに,企業に対し,財又はサービスを提供することを強制することができる場合,企業が顧客又は第三者に将来において提供される財又はサービスに対する権利を付与しているといえます。例えば,メーカーが顧客(販売業者)に財を販売するにあたって,販売業者の顧客(エンドユーザー)に追加のサービス(メンテナンスなどのアフターサービス)を提供することを約束することがあります。このような将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与も企業にとっての履行義務を生じさせます(IFRS/BC 92)。 

 

顧客に財又はサービスを移転しない活動

企業は,契約を履行するために独立の活動を行うことが必要であっても,それにより財又はサービスが顧客に移転しない活動を履行義務として識別してはなりません。例えば,多くのサービス契約では,サービスを提供する企業が契約をセットアップするために多額の費用を要する種々の契約管理活動を行うことがありますが,当該活動によりサービスが顧客に移転しませんので,そのような活動は履行義務ではありません(指針4,IFRS/BC 93)。 

 

☞企業は,別個の財又はサービスを識別するため,契約における約束の目的となる財又はサービスに着眼します。 

 

3.別個の財又はサービスの原則

 

別個の財又はサービスの原則

履行義務は,一方では,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個となり得るという特性を備えていなければなりません。この特性を備えないものは,財又はサービス(資産)かどうか疑念が生じ,それを区分して会計処理すれば,財務諸表利用者にとって目的適合性のない情報となるおそれがあるからです(IFRS/BC 97)。 

他方で,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束は,契約における約束として他と区分して識別できるという特性を備えていなければなりません(IFRS/BC 94,102)。この特性を備えないものに区分して会計処理すれば,企業が顧客との契約における約束を履行することを忠実に描写しない情報となるおそれがあるからです。例えば,建設型又は製造型の契約では,別個となり得る多くの財又はサービス(さまざまな資材,労働力及びプロジェクト管理サービス)を顧客に移転しますが,異なる時期に移転される別個となり得る財又はサービスをすべて区分して会計処理することは,多くの契約にとって実務的ではなく,当該契約における企業の履行の忠実な描写にならないおそれがあります。 

そこで,本基準は,企業が,約束した財又はサービスを,顧客への移転を忠実に描写する収益認識のパターンとなる方法で実務的に区分するため,“別個の財又はサービス”という概念を採用しています(IFRS/BC 94,95)。

 

別個の財又はサービスの概念

本基準は,「別個のものである(distinct)」という用語の意味(通常の意味では,異なった,区分された,あるいは類似していないものを示します。)を明確化し,次の要件の両方を満たす場合に“別個のもの”と判定するものとしています(第31項,IFRS/BC 95,96)。 

a 個々の財又はサービスの特性(第31項(a))

当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて,顧客が便益を享受することができること。すなわち,当該財又はサービスが別個のものとなり得ること。

b 契約における約束の区分(第31項(b)) 

当該財又はサービスを顧客に移転する約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できること。すなわち,当該財又はサービスが契約の観点において別個のものであること。

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,①個々の財又はサービスの特性と②契約における約束の区分に関する両方の要件を満たすときは“別個のもの”として区分することにより,また,いずれかの要件を満たさないときは束ねることにより,別個の財又はサービス(の束)を識別します。

 

4.個々の財又はサービスの特性

 

概要

顧客に約束している財又はサービスは,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません。

 

要件

当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて,顧客が便益を享受することができること(第31項(1))

 

要素

顧客がその財又はサービスから便益を得ることができること

顧客が,①財又はサービスを使用,消費,あるいは廃棄における回収額より高い金額による売却ができる場合,又は②経済的便益を生じさせるその他の方法による財又はサービスの保有ができる場合には,顧客がその財又はサービスから便益を享受することができます(指針5)。

当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源と組み合わせて,便益を享受することができること

容易に利用できる資源とは,企業又は他の企業が独立して販売する財又はサービス,あるいは,顧客が企業からすでに獲得した資源(企業が契約に基づきすでに顧客に提供している財又はサービスを含みます。),若しくは他の取引又は事象からすでに獲得した資源をいいます(第117項)。

顧客が当該財又はサービスから便益を享受することができるかどうかは,顧客が当該財又はサービスを使用する可能性のある方法ではなく,当該財又はサービスそのものの特性を基礎として評価します。したがって,顧客が企業以外の源泉から容易に利用できる資源を獲得することを妨げる契約上の制限をすべて無視して評価します(IFRS/BC 100)。

 

指標

企業が特定の財又はサービスを通常は独立に販売するという事実により,顧客が当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて便益を享受することが示される可能性があります(第117項)。

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,顧客が当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源と組み合わせて便益を享受することができるものでないときは,他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。

 

5.契約における約束の区分

 

概要

個々の財又はサービスが別個のものとなり得る(第31項(1)の要件を満たす)としても,当該契約において約束された財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するため,契約における約束として他と区分して識別できない単一の企業の履行により移転する複数の財又はサービス(の束)は,分離せずに会計単位を設定しなければなりません。

 

要件

当該財又はサービスを顧客に移転する約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できること(第31項(2))

 

分離可能なリスク

本基準は,IFRS第15号と同様に,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能かどうかの評価の基礎として“分離可能なリスク”の概念を用いています。この概念は,「束の中の個々の財又はサービスは,それらの約束した財又はサービスのうちの1つを顧客に移転する義務を履行するために企業が引き受けるリスクが,その束の中の他の約束した財又はサービスの移転から分離不能なリスクである場合には,別個のものではない」と評価することに役立ちます。分離不能なリスクがあるために別個のものではないと評価するときは,多くの場合,別個のものとなり得る財又はサービスが,企業が契約における約束を履行する過程において結合又は改変されるために,それらの財又はサービスの単純な合計よりも価値の大きい(又は実質的に異なる)複合された財又はサービスの別個の束を移転することを企業が約束している状況を示しています。

本基準は,“分離可能なリスク”という基本原則に基づき,指針6(1)~(3)の補助的諸要因を掲げ,特定の契約又は業界への適用可能性を高めています(IFRS/BC 103~106)。

 

指標

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できないことを示す要因には,例えば,次のものが含まれますが,これらに限定されません(指針6)。また,これらの諸要因は相互に排他的なものではなく,複数の要因が該当する場合もあります(IFRS/BC 106)。

 

当該財又はサービスをインプットとして使用し,契約において約束している他の財又はサービスとともに,顧客が契約した結合後のアウトプットである財又はサービスの束に統合するという重要なサービスを提供していること(指針6(1))

主に建設業界において,企業が重要な統合サービス(例えば,さまざまな建設作業の管理と調整)を提供する状況では,顧客に対する企業の約束の相当部分が,個々の財又はサービス(例えば,協力業者が行う作業)が契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,建設)に組み込まれること(例えば,建設の設計・仕様に従って行われること)を確保することにあり,個々の財又はサービスは,単一のアウトプットの製造・引き渡しのためのインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,作業の統合に関連したリスク)は分離不能です(IFRS/BC 107)。

 

当該財又はサービスの一つ又は複数が,契約において約束している他の財又はサービスの一つ又は複数を著しく修正する又は顧客仕様のものとするか,あるいは他の財又はサービスによって著しく修正される又は顧客仕様のものにされること(指針6(2))

主にソフトウェア業界において,ある財又はサービス(例えば,システム統合サービス)が契約の中の他の財又はサービス(例えば,既存のソフトウェア)を大幅に改変又はカスタマイズする場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,システム統合)を作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,システム統合に関連したリスク)は分離不能です(IFRS/BC 109,110)。

 

当該財又はサービスの相互依存性又は相互関連性が高く,当該財又はサービスのそれぞれが,契約において約束している他の財又はサービスへの一つ又は複数により著しく影響を受けること(指針6(3))

この要因は,企業が重要な統合サービスを提供しているのかどうか(指針6(1))や,財又はサービスが著しく修正され又は顧客仕様にされているかどうか(指針6(2))が不明確な場合に,個々の財又はサービスが契約に含まれる他の財又はサービスと区分して識別できない場合を判定するためのものです(指針109,IFRS/BC 111)。この要因には,例えば,企業が当該財又はサービスのそれぞれを独立して移転することにより約束を履行することができないために,複数の財又はサービスが相互に著しい影響を受ける場合があります(指針109)。

それぞれの財又はサービスの相互依存性や相互関連性のレベルを考慮するにあたって,契約履行のプロセスの観点から,契約に含まれるさまざまな財又はサービスの相互間に変化が生じるかどうかを考慮する必要があります。ある財又はサービスが機能において他の財又はサービスに依存していたとしても,それぞれの財又はサービスを移転する約束を互いに独立に履行できる場合には,それらの財又はサービスは別個のものです。

ある財又はサービスが契約に含まれる他の財又はサービスへの相互依存性又は相互関連性が高いために,顧客が契約に含まれる他の財又はサービスに重大な影響を与えずに,ある財又はサービスを購入するかどうかの選択ができない場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプットを作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスクは分離不能です。

 

☞企業は,たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約に含まれる他の約束と区分して識別できない複数の財又はサービスは,契約における約束として束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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