法律会計フォーラム

2017.09.19更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

契約の結合と変更

 

2017年9月19日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER5-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

「契約の結合と変更」 目次と概要

 

1.Step1-③ 契約の結合/Step1-④ 契約の変更

 

契約における取引開始日に通常行うStep1「顧客との契約を識別する」は,Step1-①契約の成立とStep1-②契約の識別のサブ・ステップでほぼ終了ですが,本基準は,同一の顧客(又は顧客の関連当事者)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約が一定の要件に該当するときに単一の契約とみなして処理すること(契約の結合)を義務づけていますので(第24項),企業は,Step1-③契約の結合において,この要件に該当しないかどうかを常に確認する必要があります。

また,企業が顧客との間で契約(既存の契約)を締結した後に,同じ顧客との間で変更契約を締結することがあります。この場合も,企業は,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップで新たな変更契約を識別しますが,それにより,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。本基準は,変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものを「契約変更」と呼び,その取り扱いを定めています(第25項~第28項)。そこで,企業は,顧客との間で変更契約を識別したときは,Step1-④契約の変更において,会計処理に影響を及ぼすかどうかを確認し,会計処理に影響を及ぼすときは,本基準に従って処理する必要があります。

 

2.Step1-③ 契約の結合(概要)

 

法律制度における契約では,当事者(企業)が相手方(顧客)の同意なく,複数の契約の条件を自由に結合して履行したり,請求したりすることはできません。しかし,以下のようなケースでは,法形式上の複数の契約に従って区分して処理するか,経済的実態に従って一つの契約として処理するかによって収益認識の時期及び金額が異なる可能性があります(第111項,IFRS/BC 71)。

● 価格の相互依存性

ある契約における財又はサービスの対価がその他の契約における財又はサービスの対価に依存する場合(価格の相互依存性),それらの契約を区分して会計処理すると,各契約の履行義務に配分される対価の額は,顧客に移転される財又はサービスの価値(経済的実態)を忠実に描写しないおそれがあります(IFRS/BC 73)。

● 法形式の選択可能性

また,法形式上,複数の契約で財又はサービスの移転を約束しているものの,仮にそれらを一つの契約で約束したものとして,履行義務の識別に関する本基準の定めを適用すると,単一の履行義務として識別される場合(法形式の選択可能性),実質的に同一の経済的実態がありながら,企業が契約を法形式上どのように構成するかによって本基準の適用結果が異なってしまう可能性があります(IFRS/BC 68,73)。

そこで,本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,企業に対し,一定の要件を満たす複数の契約については,法形式上の契約に従って区分して処理することを容認せず,単一の契約とみなして処理することを義務づけています(第24項,IFRS/BC 73)。

 

3.契約の結合の要件


本基準は,以下の要件をすべて満たすときに,単一の契約とみなして処理することを義務づけています(第24項)。

a 企業が同一の顧客(又は顧客の関連当事者)との間で複数の契約を締結したこと

b 企業が同時又はほぼ同時に複数の契約を締結したこと

c 次の要件のいずれかに該当すること

 ⅰ 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと

 ⅱ 1つの契約において支払われる対価の額が,他の契約の価格又は履行により影響を受けること

 ⅲ 複数の契約において約束した財又はサービスが, 本基準第29項から第31項に従うと単一の履行義務となること

 

☞本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,同一の顧客(その関連当事者を含む。)との間で同時又はほぼ同時に締結した複数の契約に,①価格の相互依存性又は②法形式の選択可能性を示す一定の関係がある場合には,単一の契約とみなして処理することを義務づけています。

 

4.代替的な取扱い

 

● 契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分

次の両方の要件を満たすときは,複数の契約を結合せず,個々の契約において定められている顧客に移転する財又はサービスの内容を履行義務とみなし,個々の契約において定められている当該財又はサービスの金額に従って収益を認識することができます(指針100)。

a 顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められること

b 顧客との個々の契約における財又はサービスの金額が合理的に定められていることにより,当該金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められること

 

● 工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位

工事契約又は受注制作のソフトウェアについて,当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約(異なる顧客と締結した複数の契約や異なる時点に締結した複数の契約を含みます。)を結合した際の収益認識の時期及び金額と当該複数の契約について本基準第24項及び第29項の定めに基づく収益認識の時期及び金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には,当該複数の契約を結合し,単一の履行義務として識別することができます(指針101,102)。 

 

5.Step1-④ 契約の変更(概要)

 

● 契約変更

法律制度における契約は,いったん成立した以上,その当事者間でその契約(既存の契約)の内容を変更する契約(変更契約)が成立しない限り,変更されることはありません。契約を変更するためには,既存の契約とは別に,当事者間で新たに契約(変更契約)が成立しなければなりません(第112項)。

企業は,新たな変更契約について,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップを行いますが,変更契約を識別することによって,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。

そこで,本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで(第25項),その会計処理を定めています。

 

● 契約変更の会計処理

本基準は,企業が契約変更により,別個の財又はサービスの追加により契約の範囲が拡大する場合において,変更される契約の価格が,追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格を反映して増額されるときは,契約の範囲の拡大部分を既存の契約から独立した契約として処理し(第27項),それ以外の契約変更については,(a)未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものであるときは,既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理し,(b)別個のものではなく,契約変更日において部分的に充足されている単一の履行義務の一部を構成するときは,既存の契約の一部であると仮定して処理しなければならないと定めています(第28項)。

 

6.契約変更の要件と会計処理

 

本基準は,契約変更について,変更後の契約における企業の権利及び義務を忠実に描写するという全体的な目的から,以下の3通りの会計処理を定めています(IFRS/BC 76)。

 

a 独立した契約として処理する(第27項)

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 別個の財又はサービスの追加(契約の範囲の拡大)

ⅱ 変更される契約の価格が,追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること

増額分が追加の財又はサービスの契約変更時の独立販売価格そのものでなくとも,例えば,新規顧客に販売する際には生じるであろう販売関連コストの分だけ値引きしているなど,具体的な契約の状況を反映するために独立販売価格が適切に調整されているときは,独立販売価格を反映して価格設定されていると評価できます(第113項)。

会計処理

企業は,契約変更を独立した契約として会計処理しなければなりません。このような場合は,追加的な財又はサービスに関して,他の顧客が新たに独立した契約を締結する場合と,既存の顧客がこのような要件を満たす契約変更を行う場合との間には経済的差異がないからです(IFRS/BC 77)。

 

b 既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理する(第28項(1))

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 独立した契約として処理する要件(第27項)を満たさないこと

ⅱ 未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されること

財又はサービスが別個か否かは,本基準第31項,すなわち別個の財又はサービス(の束)という会計単位によって判定します。既存の契約において,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスとして(第29項(2))単一の履行義務を識別しているからといって,契約変更日以前に移転した財又はサービスと,未だ移転していない財又はサービスとが別個のものでないとは限りません。

会計処理

企業は,契約変更を,既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理しなければなりません。このような場合,契約変更後に支払われる対価の額が既存の契約の価格又は履行により影響を受けている可能性がありますが,本基準は,契約変更は既存の契約の締結後に生じた新たな事実及び状況に基づいて交渉されており,未だ移転していない財又はサービスが過去に移転したものと別個である以上,過去に移転したものとは区別して将来に向かって処理すべきであること,このような場合にまで,下記cの既存の契約の一部と仮定して実質的に過去に充足した収益の修正をもたらす複雑な処理(累積的キャッチアップベースの処理)をすべきではないことを理由としています(IFRS/BC 78)

  

c 既存の契約の一部であると仮定して処理する(第28項(2))

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 独立した契約として処理する要件(第27項)を満たさないこと

ⅱ 未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されないこと(第28項(1)の要件を満たさないこと)

会計処理

企業は,契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理しなければなりません。本基準は,未だ移転していない財又はサービスは,過去に移転したものとは別個ではなく,契約変更日現在で部分的に充足されている単一の財又はサービス(の束)の一部を構成する以上,過去に移転したものとの関連性を遮断して新しい契約として処理すべきではないこと,当該履行義務の取引価格及び完全な履行に向けての進捗度の測定を見直すことが,建設業界では特に目的適合性があり,一般的に受け入れられていることを理由としています(IFRS/BC 80)

 

d 未だ移転していない財又はサービスが,契約変更日前に移転した財又はサービスと別個のもの(第28項(1))と既存の単一の履行義務の一部(第21項(b))との組合せである場合

 

契約変更が独立した契約として処理する要件(第27項)を満たさず,未だ移転していない財又はサービスが,契約変更日前に移転した財又はサービスと別個のもの(第28項(1))と既存の単一の履行義務の一部(第28項(2))との組合せである場合は,企業は,契約変更が変更後の契約における未充足(部分的な未充足を含む。)の履行義務に与える影響を,第28項(1)と(2)の方法の目的を考慮して処理しなければなりません。

 

☞企業は,①別個の財又はサービスの追加により契約の範囲が拡大し,②変更される契約の価格が,追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格を反映して増額されるときは,契約変更を独立した契約として処理します。それ以外の契約変更は,(a)未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものであるときは,既存の契約を解約して新しい契約を締結したと仮定して処理し,(b)別個のものでないとき(同じ財又はサービス(の束)の一部であるとき)は,既存の契約の一部であると仮定して処理します。

 

7.代替的な取扱い

 

契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合には,当該契約変更について処理するにあたり,本基準第28項(1)又は(2)のいずれの方法も適用することができます(指針91)。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.11更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

契約の識別

 

2017年9月11日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER4-2

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

「契約の識別」 目次と概要

 

1.Step1-② 契約の識別

 

Step1「顧客との契約を識別する」では,まず,企業は,顧客との間で契約が成立していることを確認した後(Step1-①契約の成立),顧客との間で成立した契約が本基準を適用するための要件を満たすかどうかを判定します。

本基準は,企業が契約に収益認識モデルを適用するために満たさなければならない5つの要件を定立しています(第16項,IFRS/BC 33)。

また,本基準は,その適用範囲について,適用除外とされる一定の契約を除き,顧客との契約から生じる収益に本基準を適用することを定めています(第3項)。この適用範囲についても,企業の取引(契約)が本基準の適用対象となるかどうかを判定するという意味で,Step1-➁契約の識別と共通していますので,便宜上,このテーマに含めて解説します。

 

2.本基準の適用対象となる契約

 

法律制度における契約は,多種多様であり,範囲が広範にわたります。法律制度における契約には,婚姻・縁組などの身分行為に関する契約が含まれ,財産行為に関する契約には,質権・抵当権設定などの物権契約が含まれ,債権契約には贈与契約などの無償契約も含まれます。

これに対し,本基準の適用対象となる“契約”の範囲は,会計基準としての目的から限定されます。本基準の基本となる原則は,顧客に提供する財又はサービスと企業が受け取る対価との間に“交換” (=同価値性)の関係があることを本質としています(第13項)。したがって,本基準の適用対象となる“契約”は,財産行為に関する契約の中の債権契約に限られ,債権契約の中でも財又はサービスと対価との間に“交換”の関係のある有償契約に限られます。

このように,本基準は,会計基準としての目的から,法律制度における多種多様な契約の中から,本基準の適用に適さないものを“契約”として取り扱わないこととし,適用対象を限定しています。本基準が適用対象となる契約から除外するのは,次の場合です。

● 顧客との契約に該当しない契約(第3項)

● 適用除外の契約(第3項)

● 本基準第16項が掲げる要件を満たさない契約(第16項)

● 当事者双方が相手方に補償することなく解約することができる完全に未履行の契約(第19項)

 

☞本基準は,会計基準としての目的から,法律制度における多種多様な契約の中から本基準の適用に適した契約だけを適用対象とします。①顧客との契約に該当しない契約,②適用除外の契約,③本基準第16項に掲げる要件を満たさない契約,④当事者双方が相手方に補償することなく解約することができる完全に未履行の契約は,本基準の適用対象となりません。

 

3.顧客との契約とはー顧客の概念ー

 

本基準は,適用範囲について,IFRS第15号と同様に,原則としてすべての「顧客との契約」から生じる収益に適用することとしています(第3項,第95項)。

本基準は,“顧客”を「対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者」と定義づけます(第5項)。

この「顧客」の定義は,取引の属性に着眼しています。そのため,顧客との契約に該当するかどうかは,形式的には,契約の相手方が「顧客」に該当するかどうかを判定しているようであっても,実質的には,契約の相手方に提供する財又はサービスが「企業の通常の営業活動のアウトプット」かどうかを中心に判定することになります。

 

● 企業の通常の営業活動のアウトプットではない資産の売却

企業が資産(財又はサービス)を相手方に売却し,相手方からその代わりに対価を得たとしても,当該資産が企業の通常の営業活動のアウトプットではない取引については,相手方は「顧客」に該当しませんので,本基準の適用対象ではありません。

このような取引で企業が相手方に売却する資産は,株式,債券等の金融資産や,自社使用不動産などがあります。

 

● 協力者又は共同事業者との契約

例えば,契約の相手方が企業と契約した目的が,生じるリスクと便益を契約当事者が共同する活動又はプロセス(提携契約における資産の開発など)に参加することであり,企業の通常の営業活動のアウトプットを得ることではない場合には,当該契約の相手方は顧客ではありません(IFRS第6項)。

このような取引の相手方には,共同研究開発の目的や,企業の事業に協力する目的,企業の研究開発を支援する目的などがあり,当該アウトプットに対する経済的な補償が,企業が通常の営業活動により得る対価とは異なっており,当該アウトプットと経済的な補償との間に交換(=同価値性)の関係がありません。


☞企業は,相手方との取引関係が本基準の適用範囲である「顧客との契約」に該当するかどうかを判定するにあたって,取引の属性に着眼し,①企業が提供する財又はサービスが企業の通常の営業活動のアウトプットかどうかや,②当該アウトプットを相手方が対価と交換(=同価値性)に獲得する目的があるかどうかを考慮します。取引の相手方に共同研究開発の目的や,企業の事業に協力する目的,企業の研究開発を支援する目的があるときは,企業のアウトプットに対する経済的な補償が,通常の対価とは異なり,交換(=同価値性)の関係がない場合があることに留意します。

 

4.適用除外の契約

 

本基準は,適用範囲である「顧客との契約」から,次の契約を除外しています(第3項)。

a 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引(第96項)

b 企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の範囲に含まれるリース取引(第97項)

c 保険法に定められた保険契約(第98項)

d 顧客又は潜在的顧客への販売を容易にするために行われる同業他社との商品又は製品の交換取引(例えば,2つの企業の間で,異なる場所における顧客からの需要を適時に満たすために商品又は製品を交換する契約)(第99項)

e 金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料(第100項)

f 日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第15号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲受人の会計処理に関する実務指針」の対象となる不動産の譲渡

 

5.契約の要件ー本基準第16項ー

 

本基準は,以下のa~eの5つの要件をすべて満たす場合にのみ,本基準の適用対象となる契約として会計処理をするものとしています(第16項)。これらの要件の中には,法律上の契約が成立していれば当然に満たす要件もありますが,収益認識という会計の目的から特に要件を定立し,本基準を適用する契約の範囲を限定するものもあります。

 

a 当事者が,書面,口頭,取引慣行等により契約を承認し,それぞれの義務の履行を約束していること(第16項(1))

 

IFRS第15号は,契約の成立の判定にあたって,「当事者が契約の条件に拘束される意図があるかどうかを評価する」必要があると述べており(IFRS/BC 35),法律制度における契約が有効に成立するために各当事者の意思表示に「法的に拘束される意図」があることを前提としています。そのため,本基準第16項(1)の要件は,法律制度における契約である以上,当然に備えているものです。

契約の当事者が法人の場合,意思表示によって法的に拘束される主体(企業・顧客=法人)と実際に表示行為を担当する主体(担当者=自然人)が異なります。法人の内部手続(決裁,承認等)を経て法人名義の書面が発行されるときは,法人として法的に拘束される意図が認められますが,そのような内部手続を経ておらず,法人の一担当者の口頭による表示行為があったにすぎないケースでは,当該法人を法的に拘束させる意図がないことが少なくありません。

 

b 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること(第16項(2))

 

法律制度における契約は,契約の当事者が相互に他方当事者に履行すべき給付の内容が確定する可能性があれば有効に成立し,契約の成立時点で給付の内容が確定・固定している必要はありません。

これに対し,本基準においては,履行義務を充足する時点までにその移転を評価できる程度に財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できるようになった時点から,本基準の適用対象となる契約として取り扱います。

例えば,企業が顧客から一定の目的物の製造委託を受けたとします。契約書を取り交わした時点で,設計仕様の重要な部分が確定していなかったとしても,その後に確定する可能性があれば,法律上は,契約書を取り交わした時点で契約の成立を認めます。本基準の適用にあたっては,財又はサービスの移転を評価できる程度に確定した時点から本基準の適用対象となる契約として取り扱います。

 

c 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること(第16項(3))

 

法律制度における契約は,対価の額(給付の内容)が確定する可能性があれば有効に成立し,契約の成立時点で対価の額が確定・固定している必要はありません。

これに対し,本基準では,対価の額については,変動する可能性のある部分を含んでいても見積りを用いて取引価格を測定しますので(第47項~第49項),当初は,対価の額を見積ることができなかったとしても,その後に見積りを用いて取引価格を測定できるようになった時点から,本基準の適用対象となる契約として取り扱います。

例えば,企業が顧客から建築を請け負い,作業の範囲が既に確定しているものの,当該作業に対する具体的な金額が定まっておらず,一定の期間にわたり最終決定されない可能性がある場合でも,見積りを用いて取引価格を測定することができれば契約を識別して収益を認識し,金額が最終決定されたときに契約変更として取り扱います(IFRS/BC 39)。

 

d 契約に経済的実質があること(すなわち,契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれること)(第16項(4))

 

非貨幣性交換については,複数の企業が収益を人為的に水増しするために,相互間で財又はサービスの往復を行うなど,悪用されるおそれがあります。そこで,本基準は,非貨幣性交換に経済的実質がない場合は収益を認識すべきではないとし,本基準の対象となる契約の要件に経済的な実質があることを要件としています(IFRS/BC 40)。そのため,法律制度における契約が有効に成立したとしても,この要件を満たさない契約は,収益認識という会計の目的から本基準の適用対象から除外されます。

 

e 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと。当該対価を回収する可能性の評価にあたっては,対価の支払期限到来時における顧客が支払う意思と能力を考慮する。(第16項(5))

 

顧客が対価を支払う最小限度の能力と意思すらす有しない場合は,顧客に対価を支払う義務に法的に拘束される意図が存在しない可能性が高く,法律制度における契約が有効に成立しない場合があります。

本基準においても,会計の目的から,顧客の信用リスクの評価が,契約が有効であるかどうかの判定の重要な部分であることを強調し(IFRS/BC 42),特に対価の回収可能性が高いことを要件として定立しています(IFRS/BC 44)。契約開始時に顧客に重大な信用リスクのある一部の取引について,企業が財又はサービスの移転について収益を「グロスアップ」して認識し,同時に多額の貸倒費用を認識することは,取引を忠実に表現せず,有用な情報を提供しないからです(IFRS/BC 265)。

この要件により,企業は,顧客が約束した対価を支払う能力と意思をどの程度有しているかの判定を求められます。

この要件の判定にあたって,企業は,まず,①顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を決定し,次に,②当該金額を回収する可能性が高いかどうかを検討します(IFRS/BC 45)。

 

☞本基準第16項(1)~(5)のうち,(4)の経済的実質,(5)の顧客の信用リスクは,収益認識という会計の目的から評価しますので,法律上は有効に成立した契約がこれらの要件を充足しない場合があることに留意します。

 

6.当事者双方が相手方に補償することなく解約できる完全に未履行の契約

 

法律制度における契約がいったん成立すれば,当事者双方がその契約に法的に拘束され,当事者双方が合意するか(合意解約),又は契約・法律に別段の定めがない限り,いずれかの当事者の一方的な行為により何ら補償なしにその契約の拘束から解放されることはありません。

しかし,契約又は法律の別段の定めにより,当事者双方が相手方に補償することなく契約を一方的に解約することができる権利を有し,かつ,契約が未だ完全に未履行の状態にある場合には,いずれかの当事者が履行するまで企業の財政状態又は業績に影響を与えず,財務報告において追加的な情報を提供する必要がないことから,本基準の適用対象として取り扱いません(第19項,IFRS/BC 50)。

ⅰ「契約を解約する一方的で強制力のある権利」とは,当事者の一方的な意思表示により契約を解約することができる場合をいいます。

ⅱ「他の当事者に補償することなく」とは,相手方に違約金の支払その他の補償をする必要がない場合をいいます。

ⅲ「当事者双方が有していること」とは,契約当事者双方がⅰとⅱの要件を満たす解約権を有することをいいます。いわゆるクーリング・オフ制度は,消費者保護のために消費者だけから申込を撤回し,又は契約を解除する権利であり,一般的に事業者からの約定解除権は定められていませんので,当事者双方に解約権があるケースではありません(IFRS/BC 50)。

「契約が完全に未履行である」とは,企業が①約束した財又はサービスを顧客に未だ移転しておらず,かつ,②約束した財又はサービスと交換に,対価を未だ受け取っておらず,対価を受け取る権利も未だ得ていないことをいいます(第19項)。

 

☞企業は,当事者双方が,相手方に補償することなく,一方的な意思表示により契約を解約する権利を有し,かつ,いずれの当事者も全く履行していない段階では,契約が存在しないものとして取り扱い,財務報告で追加的な情報を提供する必要がありません。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.09.04更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

契約の成立

 

2017年9月4日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER3-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

「契約の成立」 目次と概要

 

1.Step1「顧客との契約を識別する」の概要

 

企業は,本基準の適用手順の最初のステップで,顧客との契約を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

1 契約の成立

2 契約の識別

3 契約の結合

4 契約の変更

 

☞企業は,契約の開始時に,法律上,契約が成立していること,かつ,本基準が定める収益認識モデルの適用対象となる要件を満たしていることを判定します。これらの判定により,企業が契約を識別できない限り,収益を認識できません。

 

2.Step1-① 契約の成立

 

Step1「顧客との契約を識別する」では,まず,企業は,顧客との間で契約が成立しているかどうかを判定します。

契約が成立するか否か(契約における権利・義務に法的な強制力があるかどうか)の判定は,現実に我が国で運用されている裁判制度を前提とする法律上の判断です。

 

3.契約とはー契約の概念ー

 

● 本基準の“契約”と法律制度における“契約”

本基準は,“契約”を「法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決め」と定義づけます(第4項)。“契約”は,複数の当事者間の取決めが法的な強制力のある権利・義務を生じさせるときに成立します。法的な強制力のある権利・義務がないものは“契約”に含まれません(IFRS/BC 31)。

IFRS第15号は,契約における権利・義務に法的な強制力があるかどうかの判定は,当事者の権利・義務を保護するために存在する関連する法律上の枠組み(=裁判制度)又は同等の枠組みの中で検討すべき問題であり,法的に強制力があるかどうかを決定する要因は法域間で異なる可能性があると指摘しています(IFRS/BC 32)。

 

☞本基準が定義づける“契約”は,現実に我が国で運用されている具体的な裁判制度で執行され得る,法律制度における“契約”概念と同一です。

 

● 私的自治の原則

契約の拘束力の根拠は,法律学上,人が他人との間で約束を交わしたときに,その他人がその約束を信頼することにあるという説明が一般に受け入れられています。このような考え方の根源には,「人は自らの意思のみに拘束される」という法思想(私的自治の原則)が存在します。

契約の根幹には社会道徳における「約束」に類似した事象(後に述べる「合意」のこと)があり,社会の人々は,道徳上,それを遵守しなければならないという心理を抱きます。そして,裁判制度の構築・運用により,社会の人々が実際にも契約の拘束力に強制力があることを知り,こうして,社会の人々に“契約は遵守しなければならない”という意識が根付き,いちいち裁判に訴えなくとも契約が遵守されるような“契約社会”が確立します。

 

● 契約の概念

このような契約の根幹にある「約束」に類似した事象は,法律制度上,各当事者の「意思表示」が合致している状態として「合意」と呼びます。本基準の“契約”の定義の中の「複数の当事者間における取決め」という「取決め」がそれを指しています。他方,本基準は,必ずしも法的な強制力が伴わない場合は「約束」という用語を使い,「契約」と使い分けています。

法律制度は,契約の当事者に裁判に訴えて強制的に契約に定めた権利を実現する手段を保障しますが,そのためには,契約の成立の基礎となる「合意」が法律制度によって強制するのに適した一定の条件を備えていなければなりません。

法律制度は,各当事者が拘束されるべき「自らの意思」を,一定の要件の下に「意思表示」と定義づけ,その要件を満たす各当事者の「意思表示」がそれぞれ成立し,それが合致することを「合意」と呼んで区別し,社会にみられる多種多様な「約束」の中から,法的強制力を付与するにふさわしい条件を備えた「合意」だけを「契約」として取り扱います。

 

☞法律制度は,社会にみられる多種多様な「約束」の中から,法的強制力を付与するにふさわしい条件を備えた「合意」だけを「契約」として取り扱います。契約の成立の判定は,まず,①各当事者の意思表示の成立を確認し,その内容を確定し(意思表示の成立),次に,②これら当事者相互の意思表示が合致するかどうか(契約の成立)を判断することによって行います。

 

4.意思表示とはー意思表示の概念ー

 

● 意思表示の概念

意思表示とは,一定の法律効果の発生を欲する意思を表示する行為をいいます。

「一定の法律効果」は,①「一定の」ものとしてその内容が特定,確定できなければならず(特定性・確定性),かつ,②道義的,社会的なものではなく,「法律」上の効果の発生を欲するものでなければなりません(法的拘束の意図)。

 

● 申込と承諾

申込とは,それを受け入れる相手方の意思表示(承諾)があれば契約を成立させる意思表示をいい,承諾とは,申込を受け入れて契約を成立させる意思表示をいいます。

 

● 契約の成立

契約は,対立する当事者間で意思表示の本質的部分が合致することによって成立します。各当事者の意思表示の一部に意味内容の不確定な部分があったとしても,当事者相互の意思表示の本質的な部分が合致していれば,契約が成立します。

 

☞各当事者が,一定の法律効果を欲するものとして,その内容を特定,確定することができ,かつ,法的に拘束されることを意図した“意思表示”を行ったときに,互いにその本質的部分が合致することによって契約が成立します。法人の一担当者の意思は必ずしもその所属する法人の意思ではありませんので,法人の担当者間の口頭のやり取りだけでは,意思表示が成立しない結果になることが多いといえます。

 

5.意思表示の解釈(契約の解釈)

 

● 意思表示の解釈(契約の解釈)

意思表示の成立とその内容を確定するためには,当事者が外部に表した何らかの外形から,当事者が意図した法律効果の内容を特定,確定し,当事者が法的に拘束されることを意図していたかどうかを判定する必要があります。これを意思表示の解釈といいます。意思表示の解釈によってその合致により成立する契約の内容を確定する場合には,契約の解釈と呼ばれます。

IFRS第15号は,企業が「当事者が契約の条件に拘束される意図があるかどうか」を評価する際に,すべての関連性のある事実及び状況を考慮すべきであると述べ(IFRS/BC 35),企業が契約の成立を判定するにあたって,意思表示の解釈を行うことを求めています。

IFRS第15号は,契約の形式(口頭・文書)それ自体が契約の成立・不成立を決定づけるものではないとし,「口頭の契約又は含意(商慣行に従って)された契約の当事者が,それぞれの履行義務を果たすことに同意していることがある」,「他方,契約の当事者が契約を承認していると判断するために文書での契約が必要とされる場合もある」と述べており(IFRS/BC 35),取引の実情によっては,契約の成立の判定が非常に難しい場合があることを指摘しています。

 

● 意思表示の解釈(契約の解釈)の準則

意思表示の解釈(契約の解釈)については,考慮すべき要素や方法に関して多くの事例から帰納的に醸成されてきた以下のような準則(ルール)が一般に承認されています。

a 事情

意思表示の解釈にあたっては,表示行為の前後にわたって生じた一切の事情を考慮します。

b 取引上の慣習

意思表示の解釈にあたって,取引上の慣習を考慮します(民法92条)。

c 任意規定

任意規定とは,公の秩序に関する規定(強行規定)でない規定をいいます。当事者が任意規定と異なる合意(「特約」と呼ばれます。)をしない限り,意思表示の解釈にあたって,任意規定を適用します。

d 条理(信義誠実の原則)

純粋に当事者の意思を探求しても具体的に妥当な結論が得られないときに,条理や信義誠実の原則(信義則)を考慮して規範的な解釈を行うことがあります。

 

☞企業は,契約の成立の判定にあたって,表示行為の前後にわたって生じた一切の事情(事実及び状況),取引上の慣習,任意規定などを考慮して意思表示の解釈(契約の解釈)を行います。口頭による表示行為は,文書による場合に比べて法的に拘束される意図がない場合が少なくありませんが,業界や当事者間の取引慣行などの実情によっては,法的に拘束されることを意図している場合もあります。逆に,文書による表示行為があっても,正式な契約書を作成することが取引上の慣習となっている取引分野(不動産の売買取引など)では,多くの場合,契約書が作成されるまでは契約が成立しません。

 

6.取引証憑

 

取引によっては,以下のような見積書,注文書,納品書,請求書などの証憑しか存在しないケースもあります。これら取引証憑について,契約の成立をどのように判定するかを解説します。

a 見積書

見積書は,顧客の意思決定のため前もって対価を提案する企業の一方的な通知文書です。企業から見積書を送付しただけでは,顧客から何らかの表示行為がない限り,契約が成立することはありません。

b 交渉文書

 ● 買付証明書・売渡承諾書

 不動産の売買取引では,正式な売買契約書を作成することが取引上の慣習となっていますので,買付証明書と売渡承諾書の取り交わしで契約が成立することはなく,正式な売買契約書の作成によって契約が成立します。

 ● 法的拘束力のない交渉文書

 後に正式な契約書の作成(調印)を予定している当事者間で,契約の締結に向けて交渉を円滑に進める目的で意向書,基本合意書,覚書等が取り交わされたとしても,特別の事情がない限り,当事者は法的に拘束されることを意図していませんので,そのような約束や契約条項に法的拘束力はありません。

c 注文書・注文請書

注文書は,最終的な契約条件を示し,これに対する承諾があれば直ちに契約を成立させる顧客(買主)の意思を明示した文書として,申込に該当します。注文請書は,注文書に対してこれを受け入れて直ちに契約を成立させる企業(売主)の意思を明示した文書として,承諾に該当します。商取引上,注文書・注文請書を取り交わした時点で契約が成立します。

d 納品書・受領書

納品書や受領書は,一定の商品・製品を納品した事実や受領した事実を伝達する一方的な通知文書です。

e 請求書

請求書は,企業(売主)から顧客(買主)に代金の支払を求める意思を明示した文書です。請求書自体は顧客の意思を推測させるものではありませんが,顧客が代金の全部又は一部を支払うなど代金債務を承認する行為によって契約が成立する場合があります。

 

☞企業は,顧客との間で契約書,合意書,覚書など合意の成立を示す文書が作成していない場合,見積書,注文書,納品書,請求書などの取引証憑から,契約の成立を判定する必要があります。

 

7.継続的取引の特則と基本契約

 

● 商法の特則

企業は,平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込を受けたときは,遅滞なく,契約の申込に対する諾否の通知を発しなければなりません(商法509条1項)。企業がこれを怠ったときは,契約の申込を承諾したものとみなされます(同条2項)。

 

● 継続的取引基本契約

当事者間で一定の取引の反復を予定する場合,個々の取引に共通して適用される基本的事項を定める契約(継続的取引基本契約)を締結し,その契約の中で個々の取引に関する契約(個別契約)の成立に関する事項を定めることが少なくありません。

本基準のステップ1-①契約の成立では,申込を受領する企業にとって契約の成立の立証が簡便になっているかどうかを検討する必要があります。

 

☞企業は,顧客との間で一定の取引の反復を予定する場合,顧客と継続的取引基本契約を締結し,個別契約の成立に関して,企業にとって契約の成立の立証が簡便になるような条項を定めます。取引の実情によって,顧客から法人の代表者の記名押印のある書面を受領しなくとも,契約が成立することを定めることが考えられます。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.08.26更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

適用手順(ステップ)

 

2017年8月26日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER2-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

「適用手順(ステップ)」目次と概要

 

1.新たな収益認識基準はどのように適用するか?

 

本基準は,基本となる原則として“約束した財又はサービスの顧客への移転を,当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように,収益の認識を行う”という原理を採用しています(第13項)。
本基準は,この原理を実現するため“履行義務”という会計単位を用いています。この会計単位に当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価(取引価格)を配分することにより,財又はサービスが顧客に移転するごとに(又は移転するにつれて)その会計単位に配分されている対価を収益として認識します。     

企業は,以下の適用手順(ステップ)を適用することにより,この原理に従って収益を認識します(第14項)。

 

2.【ステップ1】顧客との契約を識別する

 

契約に基づく収益認識の原則では,顧客との契約により生じる収益は契約が存在するまで認識できませんので(IFRS/BC 19),契約の識別が収益認識の出発点となります。

企業は,本基準の適用手順の最初のステップで,顧客との契約を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

 

1 契約の成立

 

まず,企業は,顧客との間で契約が成立しているかどうかを判定します。

 

2 契約の識別

 

次に,企業は,顧客との間で成立した契約が本基準を適用するための要件を満たすかどうかを判定します。

 

3 契約の結合

 

企業は,識別した複数の契約に一定の関係がある場合には,契約の結合の会計処理をしなければなりません。

 

4 契約の変更

 

企業は,識別した契約を変更する場合には,本基準が定める取り扱いに従って会計処理をします。

 

☞企業は,法律上の契約が成立しない限り,収益を認識できません。我が国の実情では,契約書や注文書・注文請書など顧客(法人)の代表者名義の書面を取り交わさない場合も少なくありませんので,契約の成立に留意する必要があります。継続的な取引のある顧客との間では,継続的取引基本契約を締結し,個別契約の成立を簡便かつ確実に立証できる契約条項を作成するべきです。

 

3.【ステップ2】契約における履行義務を識別する

 

本基準は,“履行義務”を「顧客との契約において,(a)別個の財又はサービス(の束),又は(b)一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)のいずれかを移転する約束」と定義づけています(第6項)。

契約における履行義務を識別するステップ2は,本基準の適用上,難しい判定を含む最も重要なステップであるといえます。

企業は,顧客との契約を識別した後の次のステップで,契約開始時に,当該契約における履行義務を識別します。このステップは,次のとおり細分されます。

 

1 契約における約束の識別

 

まず,企業は,当該契約において約束した財又はサービスのすべてを識別するため(IFRS/BC 87),契約における約束を漏れなく抽出します。

顧客との契約が成立している以上,企業からみて,法律上の債権である対価を受け取る権利と,法律上の債務である①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(契約における本来の債務=給付義務)が発生します。これらの債権と債務は,法律上,双務契約における対価関係があり,“交換”されるものとして,常に契約における約束に該当します。

顧客との契約には,そのほかに,法律上の債務である②企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務が含まれることがあります。

また,企業は,契約における約束として,①や②のような強制力のある義務(法律上の債務)だけではなく,③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束や,④契約に含意されている約束がないかどうかも検討します。そのような約束も,経済的価値のある財又はサービスを提供するものとして,企業と顧客との間で“交換”の一部として交渉された可能性があります。

企業は,対価を受け取る権利と,以上のように抽出した①~④の契約における約束とが“交換”(=同価値性)としてバランスをとるどうかを判定し,契約における約束を漏れなく抽出しているかどうかを確認します。

 

2 別個の財又はサービス(の束)の識別

 

次に,企業は,識別した契約における約束を,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。

本基準は,企業の履行を忠実に描写するため,識別した契約における約束を“別個の財又はサービス”という概念を用いて適切な会計単位に区切り,又は束ねることを求めています(第31項)。企業は,次の①と②のいずれも満たす別個の財又はサービス(の束)を識別します。

① 財又はサービスは,最低限,当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができることが必要です(第31項(1))。

② 当該財又はサービスを顧客に移転する約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できることも必要です(第31項(2))。

 

3 履行義務の識別

 

このステップの最後に,企業は,識別した別個の財又はサービス(の束)から,区分して会計処理をする単位として履行義務を識別します(第29項)。

本基準は,“別個の財又はサービス”という概念では,反復的なサービス契約などで費用対効果が低い多数の会計単位を識別してしまうという運用上の問題を解決するため,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスについて,単一の履行義務を識別するものとしています(第29項(2))。

そのほかは,別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを履行義務として識別します(第29項(1))。

 

☞企業は,契約書やそれに関連する事実・状況から,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務(例:目的物の引き渡し)だけでなく,②企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務(例:製品保証,返品義務),③付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束(例:カスタマー・ロイヤルティ・ポイント),④契約に含意されている約束(例:ソフトウェアのアップデート)を抽出し,漏れなく履行義務を識別する必要があります。以下のような業種・業界では,本基準の適用が契約実務に及ぼす影響が大きいので,特に留意する必要があります。

・製品保証を提供するメーカー
・返品慣行がある業界に属する企業
・ポイント制度を導入する企業
・他の企業の販売に関連する業務を受託する企業
・知的財産を取り扱うライセンサー・フランチャイザー

 

4.【ステップ3】取引価格を算定する

 

本基準は,“取引価格”を「財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし,第三者のために回収する額を除く。)」と定義づけています(第7項)。

顧客が固定額の現金対価を支払うと約束する場合は,単純に取引価格を算定できますが,本基準は,取引価格の算定が困難となる4つの類型の指針を示しています(第45項)。

企業は,契約開始時に,これらの類型に応じて,次のとおり取引価格を算定します。

1 変動対価

2 契約における重大な金融要素

3 現金以外の対価

4 顧客に支払われる対価

 

5.【ステップ4】取引価格を契約における履行義務に配分する

 

企業は,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ると見込む対価の額を描写するように,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します(第62項)。

このステップの適用は,次のとおり,1.契約における取引開始日と,2.契約における取引開始日後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。

1 履行義務への取引価格の配分

2 取引価格の変動

 

6.【ステップ5】企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する

 

企業は,約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,収益を認識します(第32項)。

本基準は,企業が収益を認識すべき“履行義務の充足”は,企業から顧客への“資産(財又はサービス)の移転”という事象として捉えており,企業から顧客への資産の移転は,顧客が資産(財又はサービス)に対する支配(第34項)を獲得した時,又は獲得するにつれて生じるという考え方(支配モデル)を採用しています(第32項)。

資産(財又はサービス)の支配がいつ顧客に移転されるかの判定によって,企業が収益を認識する時点が決定されますので,履行義務の充足を判定するステップ5は,本基準の適用上,重要なステップであるといえます(IFRS/BC 117)。

まず,企業は,ステップ②で識別された履行義務のそれぞれについて,契約における取引開始日に,1.一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は2.一時点で充足される履行義務かを判定します(第33項)。

 

1 一定の期間にわたり充足される履行義務

 

企業は,次の要件のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足する履行義務に区別します(第35項)。

a 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて,顧客が便益を享受すること

b 企業が顧客との契約における義務を履行することにより,資産が生じる又は資産の価値が増加し,当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて,顧客が当該資産を支配すること

c ①企業が顧客との契約における義務を履行することにより,別の用途に転用することができない資産が生じ,あるいはその価値が増加し,かつ,②企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有していること

企業が履行を完了した部分について,対価を収受する強制力のある権利を有するかどうかは,契約条件及び当該契約に関連する法律を考慮し,契約期間にわたり,企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に(任意解約),少なくとも履行を完了した部分についての補償(合理的な利益相当額を含む販売価格相当額)を受ける権利(法律上の請求権)を有しているかどうかによって判定します(指針11,12)。

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の充足に係る進捗度を見積ることにより,一定の期間にわたり収益を認識します(第38項)。

 

☞企業は,以下のような業種・業界でみられる履行過程が一定期間にわたる成果型の請負契約や業務委託契約など(非転用成果型請負・業務委託)では,一定の期間にわたり充足される履行義務に区別するために,その成果が他に転用できないことに加え,法令・判例に従って“企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利”があると判定される契約条項を作成します。

・不動産(建物)の建設業
・顧客仕様で受注生産する企業
・顧客自用のソフトウェア・システム開発を受託する企業
・コンサルティングを提供する企業

 

2 一時点で充足される履行義務

 

企業は,それぞれの履行義務について,一定の期間にわたり充足される履行義務に区別しない場合は,一時点で充足される履行義務に区別します(第36項)。

企業は,一時点で充足される履行義務について,資産(財又はサービス)の支配が企業から顧客へ移転する指標を考慮して,企業が履行義務を充足する時点を決定し,その時点で収益を認識します(第37項)。

企業は,支配の移転の指標として,以下のa~eを考慮し,資産(財又はサービス)の支配が企業から顧客へ移転する時点を決定します(第37項,指針14)。

a 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること

b 顧客が資産に対する法的所有権を有していること

c 企業が資産の物理的占有を移転したこと

d 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い,経済価値を享受していること

e 顧客が資産を検収したこと

 

☞商取引で最も頻繁にみられる契約類型である売買契約などは,一時点で充足される履行義務に区別されますが,企業は,企図する一定の時点で収益を認識できるように,対価の支払に関わる条件・期限・同時履行の抗弁,所有権の移転時期,危険負担,検収などに留意して契約条項を作成します。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.08.12更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

契約に基づく収益認識

 

2017年8月12日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 6ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER1-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

「契約に基づく収益認識」目次と概要

 

1.新たな「収益認識に関する会計基準(案)」(日本基準)の公表


我が国の企業会計基準委員会(ASBJ)は,平成27年3月から「収益認識に関する包括的な会計基準」の開発に向けた検討に着手し,平成29年7月20日,企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」を公表し,同年10月20日までコメントを募集しています。

この新たな「収益認識に関する会計基準」は,平成33年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとされています。ただし,平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用することができるほか,平成30年12月31日以後に終了する事業年度末に係る財務諸表から適用することもできます。

 

2.新たな収益認識基準が適用される企業は?


ASBJが公表する「収益認識に関する会計基準」は,上場企業・非上場企業を問わず,また,連結・個別を問わず,会社法上作成が義務付けられる計算書類・連結計算書類に適用されることになります。

現在,上場企業だけではなく,非上場企業を含む日本国内の株式会社は,この新たな収益認識基準の適用開始に向けて,顧客との契約を見直し,企業内の体制を整備するという課題に直面しています。

 

☞ASBJが公表する新たな「収益認識に関する会計基準」は日本基準ですので,国際財務報告基準(IFRS)を任意適用している上場企業だけではなく,非上場企業を含む日本国内の株式会社に適用されます。

 

3.新たな収益認識基準(日本基準)とIFRSの関係

 

ASBJは,国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」といいます。)のコンバージェンス(日本基準化)として「収益認識に関する会計基準(案)」を公表しました。

会計基準の「コンバージェンス」とは,元来,世界各国の会計基準が互いに近づいていくこと(収斂・統合)を意味しますが,現在では,国際会計基準審議会(IASB)が公表する国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards;IFRS)がグローバルな会計基準としてコンバージェンスの中心(収斂の目標)に位置づけられています。我が国も,2007年8月,IASBとの合意(いわゆる「東京合意」)を公表し,日本基準とIFRSとのコンバージェンスに取り組み,2008年12月,日本基準がIFRSと同等であるとの評価を受けました。我が国は,IASBが公表する新たな会計基準についても,その基準適用時に我が国でも受け入れられるようコンバージェンスを継続していくこととしています。

ASBJにより公表された「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「本基準」といいます。)も,このような日本基準とIFRSとのコンバージェンスの一環であり,その内容は,IFRS第15号とほぼ同等です。

 

4.IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

 

IASBは,2014年5月28日,米国財務会計基準審議会(FASB)との共同プロジェクトの成果として,IFRS15「Revenue from Contracts with Customers」(国際財務報告基準第15号「顧客との契約から生じる収益」)を公表し,その後,IFRS第15号の発効日を2018年(平成30年)1月1日とすることを決定しています。また,IASBは,2016年4月12日,「Clarifications to IFRS 15」(「IFRS第15号の明確化」)を公表し,IFRS第15号を一部修正し,IFRS第15号の基本原則をどのように適用すべきかを明確にしています。

 

5.新たな収益認識基準の基礎となる“契約”とは?


本基準は,“契約”を「法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決め」と定義づけ(第4項),この強制力は法律の問題であるとしており(第17項),法的な強制力のないものは“契約”に含まれません(IFRS/BC 31)。

我が国には,私法関係を律する裁判制度があり,一方の当事者が“契約”を遵守せず,義務を履行しなければ,他方の当事者が裁判に訴えて強制的に“契約”に定める権利を実現する手段を保障しています。“契約”の根幹には“約束”に類似した事象がありますが,社会の人々は,道徳上“約束”を遵守しなければならないという心理を抱きます。この“約束”を裁判制度によって強制するためにはそれに適した一定の条件を備えていなければならず,そのような一定の条件を備えた複数当事者間の“約束”(合意)が“契約”にほかなりません。

本基準は,必ずしも法的な強制力が伴わない場合には“約束”という用語を使い,“契約”という用語と使い分けています。

 

☞本基準が定義づける“契約”は,我が国で運用されている具体的な裁判制度で執行され得る,法律制度における“契約”概念と同一です。

 

6.契約に基づく収益認識の原則


本基準は,IFRS第15号と同様に,企業が顧客との契約から生じる資産又は負債の会計処理に基づき財又はサービスを顧客に移転した時にのみ収益を認識するという原則(契約に基づく収益認識の原則)を採用しています(IFRS/BC 17)。この原則は,会計処理にあたって,次のように作用します。

●収益は,契約が成立(存在)するまで認識できない(IFRS/BC 19)。
●収益は,約束した財又はサービスを顧客に移転した時にのみ認識し,生産活動を行うだけでは収益を認識しない(IFRS/BC 23)。

●契約開始時から約束した財又はサービスを顧客に移転するまでは,企業の契約上の権利(対価を受け取る権利)と契約上の義務(財又はサービスを提供する義務)は同一の金額で測定する(IFRS/BC 25)。


7.資産・負債アプローチ

 

収益は,資産の増加,負債の減少又は両者の組み合わせから生じます。対価を受け取る権利(契約上の権利)と財又はサービスを提供する義務(契約上の義務)は,会計上,資産と負債であり,これら資産と負債との間の関係に応じて,(純額の)資産又は(純額の)負債が生じます。権利の測定値と義務の測定値が等しければ,契約は資産でも負債でもありませんが,権利の測定値が義務の測定値を上回れば,契約は資産(契約資産)となります(IFRS/BC 18)。

企業が財又はサービスを提供する義務を履行した時に,その義務が消滅する(義務の測定値が零に減少する)ため,権利の測定値だけ契約におけるポジションが増加し,その増加が収益認識につながります(IFRS/BC 20)。

このように,本基準は,契約から生じる権利(資産)又は義務(負債)の認識及び測定と,契約の存続期間にわたって当該資産又は負債の変動に焦点を当てるアプローチ(資産・負債アプローチ)を採用しています。 

 

8.配分後取引価格アプローチ

 

企業は,契約開始時から約束した財又はサービスを顧客に移転するまでは,収益を認識してはならないため,企業の契約上の権利(対価を受け取る権利)の測定値が,契約上の義務(財又はサービスを提供する義務)の測定値を上回ってはなりません。

そこで,本基準は,IFRS第15号と同様に,財又はサービスを提供する義務(負債)の測定を,取引価格を契約における各履行義務に配分して行うアプローチ(配分後取引価格アプローチ)を採用しています(IFRS/BC 25)。

取引価格とは,顧客への約束した財又はサービスの移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額をいい,契約において約束された対価の額が基礎となります。財又はサービスを提供する義務(負債)が,一つの履行義務として識別される場合はその履行義務を取引価格で測定し,もし複数の履行義務に識別される場合は,取引価格をそれぞれの履行義務に配分します(第63項,IFRS第74項)。

 

9.契約に基づく収益認識とは?

 

ASBJが公表した「収益認識に関する会計基準(案)」は,契約に基づく収益認識の原則を採用しており,この新たな収益認識基準の適用開始により,上場企業だけではなく,非上場企業を含む日本国内の株式会社が,会社法上作成する計算書類・連結計算書類にこの原則を適用しなければなりません。

企業は,現実にわが国で運用されている具体的な法律制度で執行され得る“契約”の成立を判定し,契約開始時にその契約から生じる資産(対価を受け取る権利)及び負債(財又はサービスを提供する義務)を識別してそれらの資産・負債を同一の金額で測定し(配分後取引価格アプローチ),契約の存続期間にわたってそれらの発生・消滅の認識と測定の会計処理を行うことにより(資産・負債アプローチ),企業が約束した財又はサービスを顧客に移転した時にのみ収益を認識します。

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.04.21更新

2017年4月21日号(「公正な価格」を考える42号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

あとがき
 法律会計フォーラムでは,著書やセミナーにおける皆様からの反響や質問をフィードバックし,2016年3月1日から“「公正な価格」を考える”というテーマを連載し,株式の「価格」と「価値」はどのような関係にあるかや,会社法や税法との関係で「公正な価格」の位置づけを考察し,「公正な価格」の基本的な考え方と判断枠組みを解説してきました。
 近時,この分野における最高裁判例の集積は目覚ましく,このブログの連載中にも,平成28年7月1日付け最高裁決定が出されるなどして,「公正な価格」の判断枠組みは,次第に精緻なものに整備されてきています。今後,「相互に特別な資本関係がある会社間」の組織再編や,「売り手又は買い手の多数株主と少数株主との間に利益相反関係が存在する場合」の取引について,組織再編や取引の類型ごとに「一般に公正と認められる手続」の内実が明らかになっていくものと考えられます。
 末筆ながら,この分野における更なる議論の発展を祈念いたします。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.04.11更新

2017年4月11日号(「公正な価格」を考える41号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 「公正な価格」の決定
 以上までの判定により,「公正な価格」は,基本的に次のとおり決定されます。
(1)組織再編行為により企業価値の増加が生じない場合(企業価値を毀損する組織再編)
 「公正な価格」は,組織再編行為を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格(ナカリセバ価格)として決定されます。
(2)組織再編行為により企業価値の増加が生じる場合(企業価値が増大する組織再編)
 ① 一般に公正と認められる手続を経ている場合
  「公正な価格」は,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で実際に合意に至った組織再編対価として決定されます。
 ② 一般に公正と認められる手続を経ていない場合
  「公正な価格」は,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で価格が成立し得る客観的な価値の範囲内で,増加価値(シナジー効果)を公正に配分する組織再編対価として決定されます。
2 「公正な価格」の基準時への時点補正
 上場株式については,「公正な価格」の決定にあたって参照した市場株価の時点(株価参照日・株価参照期間)と,基準時である株式買取請求時が異なるときは,原則として時点補正が必要になります。
 とりわけ,組織再編行為を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格(ナカリセバ価格)を決定するときは,基準時の市場株価から組織再編を行う旨の開示情報による株価変動の影響を排斥するため,いったん情報開示前の株価を参照し,それ以降の基準日までの一般的な市場株価の変動を織り込んで時点補正する必要があります。
 これに対し,市場価格がない株式については,算定の前提とした価値形成要因について時点の間に変化があり,価格に影響を及ぼすときに時点補正が必要となります。
 以上のような判断枠組みを経て,最終的に「公正な価格」が決定されます。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.04.01更新

2017年4月1日号(「公正な価格」を考える40号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

一般に公正と認められる手続を経ていない場合
 企業価値の増加が生じる場合,すなわち企業価値が増大する組織再編について,一般に公正と認められる手続を経ていない場合には,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で実際に合意に至った組織再編対価(額・比率)を「公正な価格」とみることができません。このようなケースでは,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で価格が成立し得る客観的な価値の範囲内で,増加価値(シナジー効果)を公正に配分する組織再編対価を決定するほかありません。
 ここにいう「価格が成立し得る客観的な価値の範囲」とは,“組織再編がない仮定での価値”(=増加価値をすべて買い手に配分する組織再編比率)以上,“組織再編がある前提での価値”(=増加価値をすべて売り手に配分する組織再編比率)以下にほかなりません。

 この価格の範囲内では,要するに,増加価値(シナジー効果)の配分の問題ですので,増加価値が対象会社(被買収会社)と買収会社のどちらの経営資源から生じているかという観点から,結局は,裁判所の裁量により「公正な価格」が決定されると考えられます。特に,特定の事業・経営資源から増加価値が生じたとみるべき特段の事情がない限り,互いの会社がその企業価値に応じて均等に貢献したものとみなすことは,裁判所の裁量の範囲内であると考えられます。

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.03.21更新

2017年3月21日号(「公正な価格」を考える39号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

一般に公正と認められる手続を経ているか否か
 企業価値の増加が生じる場合,すなわち企業価値が増大する組織再編については,次に,一般に公正と認められる手続を経ているか否かを判定します。
 その最も重要な指標は,対象会社(被買収会社)と買収会社とが独立の当事者(経済主体)であることです。いずれか一方の会社が他方の会社の意思決定機関(=株主総会)を多数決によって支配しているときなど両社間に実質的な支配従属関係がある場合は,独立の経済主体とはいえません。例えば,親会社(買い手)と子会社(売り手)の合併や,経営陣(買い手)による株主(売り手)からの株式取得(MBO)などでは,特定の多数株主が買い手の意思決定にも売り手の意思決定にも影響力を持ち,他の少数株主と利益相反関係が存在するので,買い手と売り手との間で公正な価格交渉が期待できません。
 そのほか,株主の判断の基礎となる情報が適切に開示されたことという指標も併せて検討します。
 その結果,これらの指標を満たし,一般に公正と認められる手続を経ていると認められる場合には,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で実際に合意に至った組織再編対価(額・比率)をもって「公正な価格」とします。
 平成24年2月29日付け最高裁決定は,対象会社(被買収会社)と買収会社とが独立の当事者(経済主体)である場合を「相互に特別な資本関係がない会社間」と呼んで,「株主の判断の基礎となる情報が適切に開示され」ていれば,一般に公正と認められる手続を踏んでいるとみて,原則として,実際に合意された組織再編対価を「公正な価格」とみる旨を判示しました。もっとも,相互に特別な資本関係がある会社間など特定の多数株主と他の少数株主との間に利益相反関係が存在するケースでは,どのように判断するのかが示されていませんでした。
 その後,平成28年7月1日付け最高裁決定は,売り手又は買い手の多数株主と少数株主との間に利益相反関係が存在する場合にも,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられることなど一定の条件を満たす場合には「一般に公正と認められる手続」を踏んでいるとみて,実際に合意された組織再編対価を「公正な価格」とみる旨を判示していますので,今後の判例の集積が期待されます。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

2017.03.11更新

2017年3月11日号(「公正な価格」を考える38号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

組織再編行為により企業価値の増加が生じるか否か

 最後に,最高裁が示す「公正な価格」の判断枠組みについて,これまで述べてきたことを,フローチャート式でまとめてみます。
 まず,組織再編行為によりシナジー効果その他の企業価値の増加が生じるかどうかを判定します。この判定は,“組織再編がない仮定での客観的な価値”と“組織再編がある前提での客観的な価値”を比較することによって行います。
 企業価値の増加が生じない場合(企業価値が変わらない場合を含みます。),すなわち,企業価値を毀損する組織再編については,組織再編行為を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格(ナカリセバ価格)をもって「公正な価格」とします。
 企業価値の増加が生じる場合,すなわち企業価値が増大する組織再編については,次の判定に移ります。

 

公正な価格の判断枠組み

 

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

前へ
  • top_tel_sp.jpg
  • メールでのお問い合わせ
まずはお気軽にお問い合わせください 片山法律会計事務所 03-5570-3270 月~金 9:30~18:30 メールでのお問い合わせ