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2018.06.09更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

 

2018年6月9日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 11ページ

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「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」 目次と概要

 

1.適用指針「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」の概要

 

企業が,顧客に対し,付随的に又は販売促進のために財又はサービスの提供を約束する場合があります。既存の契約において,将来の契約で追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する形態がその典型です。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約における約束を識別しますが,このような場合には,そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションも,企業と顧客との間で既存の契約の対価との“交換”(同価値性)の一部を構成するものとして交渉されており,取引価格を配分すべき履行義務として識別しなければなりません(B 40)。

企業が,Step2でそのオプションについての履行義務を識別したときは,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分しますが,そのオプションについての独立販売価格は,直接に観察可能でない場合が多いので,それを見積らなければなりません(B 42)。

企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します(B 40)。

適用指針「追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション」(B 39~43)は,企業が,追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合に,そのオプションについての履行義務を識別するかどうか,また,識別した場合においてそのオプションについての独立販売価格をどのように見積るかについての指針を提供しています。

 

☞企業が,既存の契約において,将来の契約で追加的な財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合は,そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,契約開始時に,そのオプションについての履行義務を識別します。そのオプションについての独立販売価格が直接に観察可能でない場合は,企業は,そのオプションについての独立販売価格を見積り,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分します。企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します。

 

2.付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービス

 

● 契約における約束の主従の地位と重要性

本基準は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければならないとしています。ただし,契約の結果として約束した財又はサービスが財務諸表に対して重要性がないときは,本基準の枠外で(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」参照),履行義務として識別せずに会計処理することも容認される場合があります(BC 90)。

これに対し,販売インセンティブや他の付随的な約束が,当該契約がなくとも履行される場合,すなわち財又はサービスが当該契約とは独立して提供されるときは,契約における約束ではありません(BC 89)。例えば,店舗に来店するだけで付与されるカスタマー・ロイヤルティ・ポイントは,企業が来店した顧客と契約を締結したとしても,当該契約の結果として約束されたものとはいえませんので,販売費用(付随的な義務)として会計処理します。

 

● 契約における約束の識別

このような付随的に又は販売促進のために提供される財又はサービスの約束は,契約の目的とされた財又はサービスに関する契約とは別の機会又は存在形式(口頭・文書の別,明示・黙示の別,証憑の別)でされることも多く,また,必ずしも法律の強制力を伴うとも限りません。このような約束は,当該契約書だけではなく,他の約款や規程,顧客に交付されたパンフレット,チラシなどにも留意して識別しなければなりません。

 

☞企業は,契約の結果として約束したすべての財又はサービスは,その約束が契約の中で「主たる」ものかや「重要」なものかにかかわらず,契約における約束として識別しなければなりません。ただし,契約の結果として約束した財又はサービスが財務諸表に対して重要性がないときは,本基準の枠外で(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」参照),履行義務として識別せずに会計処理することも容認される場合があります。

 

3.追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

 

● 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション(権利)には,既存の契約において,①将来の契約で追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを顧客に付与する場合と,②将来の契約で追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを顧客に付与する場合とがあります。

 

● 追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得する顧客のオプション

追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得する顧客のオプションには,多くの形態があり,販売インセンティブや顧客特典クレジット(又はポイント),契約更新オプション,将来の財又はサービスに係るその他の値引きなどがあります(B 39)。

顧客は,企業との間で既存の契約を締結し,①約束した財又はサービスの提供を受けるとともに,②追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを獲得し,①及び②との“交換”(=同価値性)に既存の契約の対価を支払います。顧客は,将来,企業から追加的な財又はサービスの提供を受けるにあたって,このオプションを行使すると,通常の対価より減額された無料又は値引き価格で新たな契約を締結することができます。

このような取引の経済的な実態は,顧客が,既存の契約において,約束した財又はサービスの対価だけでなく,実質的に将来の追加的な財又はサービスに対する対価の一部を前払いしているとみることができます。

 

● 追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプション

他方,顧客が企業との間で既存の契約を締結し,①約束した財又はサービスの提供を受けるとともに,②追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを獲得し,既存の契約の対価を支払う場合もあります。顧客は,将来,このオプションを行使して,企業から通常の価格で追加的な財又はサービスの提供を受ける新たな契約を締結することができます。例えば,顧客にとって供給が限定された追加的な財又はサービスを優先的に購入できることが既存の契約を締結するインセンティブとして機能する場合があります。

このような取引の経済的な実態は,企業が,既存の契約において,顧客にマーケティング又は販売促進用の提案を行っているとみることができます。

 

● 履行義務の識別

適用指針は,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視し,そのオプションが“当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利”かどうかによって,次のとおり取り扱います。

当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するとき

追加的な財又はサービスを無料又は通常の価格(独立販売価格)から重要な値引きがされた価格で取得できるオプションは,既存の契約における“交換”の一部を構成し,顧客が既存の契約においてそのオプションの対価を支払っていますので,既存の契約の対価の一部を配分すべき履行義務を識別します(BC 386(a))。

当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないとき

追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入できるにすぎないオプションは,既存の契約における“交換”の一部を構成せず,顧客が既存の契約においてそのオプションの対価を支払っていませんので,履行義務を識別しません(BC 386(b))。


☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションには,既存の契約において,①将来の契約で追加的な財又はサービスを無料又は値引き価格で取得するオプションを顧客に付与する場合と,②将来の契約で追加的な財又はサービスを通常の価格(独立販売価格)で購入するオプションを顧客に付与する場合とがあります。①のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,既存の契約における“交換”の一部を構成するので,既存の契約の対価の一部を配分すべき履行義務を識別します。

 

4.当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利

 

● 当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利

適用指針は,追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するかどうかの判定にあたって,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視しており,例えば,当該財又はサービスについて,その顧客階層にその地域又は市場において通常与えられる範囲の値引きに対する増分となる値引きであれば,重要な権利であると判定します(B 40)。

 

● 通常の値引きに対する増分

通常の値引きに対する増分かどうかを判定するにあたって,通常の値引きとして,追加的な財又はサービスについて,顧客が属する階層,地域又は市場において通常与えられる範囲の値引き(追加的な財又はサービスに係る同等の取引で通常行われる値引き)を考慮します。

 

☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するかどうかの判定にあたって,顧客が将来の財又はサービスを取得するにあたって支払うべき対価を減額させる効果(実質的な前払い)があるかどうかを重視し,例えば,当該財又はサービスについて,その顧客階層にその地域又は市場において通常与えられる範囲の値引きに対する増分となる値引きであれば,重要な権利であると判定します。

 

5.顧客のオプションが重要な権利である場合の会計処理

 

● 履行義務の識別

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについての履行義務を識別します(B 40)。

 

● 取引価格の配分

企業は,既存の契約における取引価格を,①約束した財又はサービスを移転する履行義務と,②追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションについての履行義務に,独立販売価格の比率で配分します。

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションについての独立販売価格が,直接に観察可能でない場合には,企業は,顧客がそのオプションを行使したときに受けるであろう値引きに対し,次の双方について調整したものを反映して見積らなければなりません(B 42)。

a 顧客がオプションを行使することなしに受けることのできる値引き

b オプションが行使される可能性

適用指針は,顧客のオプションについての独立販売価格が直接に観察可能でない場合が多いことから(BC 389),企業がオプションの価格算定モデルの簡便法によって見積ることを求めています(BC 390)。

 

● 収益の認識

企業は,将来,顧客がオプションを行使して締結した新たな契約に従って,追加的な財又はサービスを顧客に移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された既存の契約の取引価格を収益として認識します(B 40)。


☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,企業は,既存の契約において,約束した財又はサービスを移転する履行義務のほか,そのオプションについての履行義務を識別し,既存の契約の取引価格を独立販売価格の比率でそれぞれの履行義務に配分します。企業は,そのオプションを行使した顧客に将来の財又はサービスを移転した時,又はそのオプションが消滅した時に,そのオプションについての履行義務に配分された取引価格を収益として認識します。

 

6.顧客のオプションが重要な権利でない場合の会計処理

 

● 履行義務の識別

追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについて履行義務を識別しません。企業は,顧客がそのオプションを行使した時にのみ,それによって締結する新たな契約を本基準に従って会計処理します(B 41)。

追加的な財又はサービスを当該財又はサービスについての独立販売価格を反映する価格で購入するオプションは,企業は,既存の契約において販売の提案をしたにすぎず,たとえ既存の契約を締結することによってしか追加的な財又はサービスを購入できないとしても,重要な権利を顧客に提供しません(B 41)。

 

● 収益の認識

企業は,将来,顧客がオプションを行使して締結した新たな契約について,追加的な財又はサービスを移転する履行義務に配分された新たな契約の取引価格を収益として認識します。

 

☞追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供しないときは,企業は,既存の契約において,そのオプションについて履行義務を識別せず,顧客がそのオプションを行使した時にのみ,それによって締結する新たな契約を本基準に従って会計処理します。

 

7.更新オプション

 

● 更新オプション

更新オプションは,既存の契約で提供されるものと同じ種類の追加的な財又はサービスを取得する権利を顧客に付与します。更新オプションも,他のオプションと同様に,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,履行義務を識別します(BC 391)。契約(期間)の更新オプションがその典型です(B 43)。

契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。顧客が期間満了にあたって何ら意思表示をしなくとも,企業から更新を拒絶できない場合は更新オプションに含まれます。このような更新オプションは,より長期の契約における解約オプションとみることもできます(BC 391)。

契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により企業が更新を拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

 

● 独立販売価格の見積り

顧客が契約におけるあるオプションを行使するには,その契約におけるそれより前のオプションをすべて行使していなければならないような一連のオプションでは,企業は,当初の期間からの取引価格の累積のうち後の期間まで繰り延べる金額を算定するためには,可能性のある契約期間全体を考慮しなければならず,各更新オプションの独立販売価格の算定が複雑になります(BC 392)。

そこで,適用指針は,各更新オプションの独立販売価格の見積りについての実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(BC 393)。

 

● 要件(簡便な会計処理を容認する要件)

適用指針は,そのオプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供することに加えて,以下のa及びbの双方の要件を満たすときに,簡便な会計処理を容認します(B 43)。

a 当該財又はサービスが既存の契約における財又はサービスと類似していること

追加的な財又はサービスは,既存の契約で提供されるものと類似していなければなりません。企業が顧客に既に提供していた財又はサービスを継続して提供するときに,追加的な財又はサービスも既存の契約の一部とみて,更新オプション付きの契約を,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなすことができるからです。

これに対し,カスタマー・ロイヤルティ・ポイントや多くの値引き券は,追加的な財又はサービスが既存の契約で提供されるものと異なる場合がありますので,この要件を満たしません(BC 394)。

b 当該財又はサービスが既存の契約における条件に従って提供されること

その後の契約における追加的な財又はサービスが,既存の契約の条件に従って提供されなければなりません。企業は,既存の契約の条件の変更ができず(既存の契約の条件に制約されており),特に追加的な財又はサービスの価格設定(例えば,期間あたり単価)を既存の契約で示された変動条件(例えば,契約期間)の範囲を超えて変更することができないことが必要です。

これに対し,カスタマー・ロイヤルティ・ポイントや多くの値引き券は,値引き精算の対象となる追加的な財又はサービスの価格に関して制約がありませんので,この要件を満たしません(BC 395)。

 

● 簡便な会計処理

オプションの独立販売価格を見積るために,提供すると予想される財又はサービスとそれに対応する予想対価を参照して当該履行義務に取引価格を配分することができます(B 43)。

 

☞契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。更新オプションが,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供することに加えて,当該財又はサービスが既存の契約における財又はサービスと類似し,かつ,当該財又はサービスが既存の契約における条件に従って提供される場合は,提供すると予想される財又はサービスとそれに対応する予想対価を参照して当該履行義務に取引価格を配分することができます。 

 

 

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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