法律会計フォーラム

2018.01.05更新

連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

一定の期間にわたり充足される履行義務

 

2018年1月5日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「一定の期間にわたり充足される履行義務」 目次と概要

 

1.Step5-② 一定の期間にわたり充足される履行義務

 

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,まず,履行義務を判定し(Step5-①履行義務の属性の判定),一つ又は複数の履行義務が一定の期間にわたり充足される場合は,企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,履行義務の充足に係る進捗度を見積り,当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(第38項)。

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するような適切な見積りの方法を決定します(指針15)。

 

2.履行義務の充足に係る進捗度

 

進捗度を見積る目的

進捗度を見積る目的は,企業が約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります(IFRS第39項)。

進捗度の見積方法はさまざま考えられますが,企業は,その見積方法を自由な裁量により恣意的に選択するのではなく,進捗度を見積る目的に整合する適切な見積方法を選択しなければなりません(IFRS/BC 159)。

 

単一性の原則

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の見積方法を適用しなければなりません(第39項)。

 

一貫適用の原則

企業は,特定の履行義務に選択した進捗度の見積方法を,類似の履行義務及び状況に首尾一貫して適用しなければなりません(第39項)。

 

再測定の原則

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を各決算日に見直さなければなりません(第40項)。

 

☞履行義務の充足に係る進捗度を見積る目的は,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります。企業は,履行義務のそれぞれについて,単一の進捗度の見積方法を適用し,類似の履行義務及び状況に首尾一貫して適用しなければなりません。

 

3.進捗度の見積方法

 

進捗度の見積方法の選択

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するような適切な見積りの方法を選択しなければなりません(指針15)。

 

進捗度の見積方法の適用

a 企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,履行義務を充足して顧客に支配を移転する財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映しなければなりません(指針16)。

特にアウトプット法では,後に述べるとおり,選択するアウトプットによっては,顧客に支配を移転した財又はサービスの一部がアウトプットの見積りに含まれない場合がありますので,企業は,履行義務の充足に係る進捗を忠実に描写するようなアウトプットを選択すべきです(指針18)。

b 企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,顧客に支配を移転しない財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映してはなりません(指針16)。

特にインプット法では,後に述べるとおり,顧客に財又はサービスの支配を移転しない活動に生じたインプット(コスト)や,履行義務の充足に係る進捗度に寄与しないインプット(コスト)を除外しなければなりません(指針22(1),60)。

 

進捗度の見積りの見直し

企業は,各決算日において,履行義務の完全な充足に係る全体値の変動を反映するため,進捗度の見積りを見直さなければなりません。進捗度の見積りの変更は,会計上の見積りの変更(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4項(7))として処理しなければなりません(第40項)。

 

☞企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,適切な見積方法を選択します。その適用にあたっては,顧客に支配を移転する財又はサービスを漏れなく進捗度の見積りに含め,逆に,財又はサービスの支配の顧客への移転に関与・寄与しない活動・事象は進捗度の見積りから除外します。企業は,各決算日において,履行義務の完全な充足に係る全体値を見直し,進捗度の見積りを変更するときは,会計上の見積りの変更として処理します。

 

4.アウトプット法

 

アウトプット法

アウトプット法は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積り,契約において約束した残りの財又はサービスの顧客にとっての価値との比率に基づき収益を認識するものです(指針17)。

「顧客にとっての価値」は,契約における企業の履行の客観的な見積りを指し,個々の財又はサービスの市場価格又は独立販売価格や,財又はサービスに組み込まれたと顧客が認識している価値を評価する必要はありません(IFRS/BC 163)。

 

指標の例

指標として,例えば,現在までに履行を完了した部分の調査,達成した成果の評価,達成したマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数などがあります(指針17,IFRS/BC 163)。

 

選択の留意点

アウトプット法の欠点は,進捗度を見積るために使用されるアウトプットが直接的に観察できない場合があり,過大なコストを掛けないとアウトプット法の適用に必要な情報が利用できない場合があることです(指針116)。

アウトプット法を選択するときは,企業は,事実及び状況を考慮し,選択するアウトプットが,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します(IFRS/BC 166)。

● 選択したアウトプットが,支配が顧客に移転している財又はサービスの一部を見積っていない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が決算日に生産されているのに,当該仕掛品又は製品がアウトプットの見積りに含まれていない場合には,企業の履行を忠実に描写していません(指針18,116)。

● 選択したアウトプットの単位が一律に顧客にとって同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業が設計と製造の両方を顧客に提供するため,選択したアウトプットの各項目が一律に同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。逆に,企業が長期的に製造する標準品目を個々に顧客に移転するため,選択したアウトプットの各項目が同価値である場合には,企業の履行を忠実に描写します(IFRS/BC 166)。

 

実務上の便法

現在までに履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受ける権利を有している場合(例えば,提供したサービスの時間ごとに固定額を請求する契約)には,企業は,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます(指針19,IFRS/BC 167)。

 

☞企業は,例えば,達成した成果やマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数など財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積る方法(アウトプット法)を選択するときは,必要な情報を入手するコストのほか,選択するアウトプットが,顧客に支配を移転した財又はサービスを漏れなく見積っているかや,その単位が一律に顧客にとって同価値かなど,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意します。企業は,現在までに履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受ける権利を有している場合には,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます。

 

5.インプット法

 

インプット法

インプット法は,履行義務の充足に使用されたインプットと契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプットの比率に基づき収益を認識するものです(指針20)。

 

指標の例

指標として,例えば,消費した資源,発生した労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(指針20)。

 

選択の留意点

インプット法の欠点は,インプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がなく,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しない場合があることです(指針117)。他方で,アウトプット法の適用に過大なコストがかかり,インプット法が低コストで合理的な代用数値を提供することもあります(IFRS/BC 164)。

そこで,企業は,インプット法の適用にあたって,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するよう,適用の留意点に十分に配慮することによって,インプット法を選択することが適切な場合があります。

 

適用の留意点

企業は,顧客に財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写しないものの影響は,インプット法に反映してはなりません(指針21)。

例えば,契約締結活動(契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動で発生するコストなど,顧客に財又はサービスを移転しない活動及び関連するコストの影響をインプットから除外します(指針60)。

コストに基づくインプット法を使用するにあたっては,次のa又はbの状況において,進捗度の見積りを修正します(指針22)。

a 発生したコストが,履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合

例えば、履行義務を充足するために生じた想定外の金額の材料費,労務費又は他の資源の仕損のコストなど,契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストに対応する収益を認識してはなりません(指針22(1),117)。

b 発生したコストが,履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合

発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識することが適切となる場合があります(指針22(2))。

例えば,エレベーターの据付けを含むリフォーム工事契約において,現場に納入されたエレベーターを事後に据え付けるケースでは(設例9),企業が財とサービスの両方を顧客に移転することを約束していますが,顧客が当該履行義務の重要部分である財(エレベーター)に対する支配を,サービス(据付け)に対する支配と異なる時点で獲得するときは,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しません(IFRS/BC 169)。

本基準は,代表的なケースから未据付資材の会計処理と呼び,設例9で解説しています。

【インプット法の修正】(未据付資材の会計処理)

企業は,契約における取引開始日に,次のⅰ~ⅳのすべてが満たされると見込まれる場合には,履行義務の充足に使用される財のコストと同額で収益を認識することが適切となります(指針22(2))。

ⅰ 当該財は別個のものではないこと

ⅱ 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当以前に,顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること

ⅲ 移転する財のコストの額について,履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること

ⅳ 当該財を第三者から調達し,当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと(ただし,本人と代理人の区分に関する指針39~47に従うと,企業が本人に該当する場合)。

 

☞企業は,例えば,消費した資源,発生したコスト,経過期間など履行義務の充足に使用されたインプットにより見積る方法(インプット法)を選択するときは,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外することに留意します。コストに基づくインプット法を使用するときは,契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストや,顧客に財又はサービスを移転しない活動に関連するコストなど,履行義務の充足に係る進捗度に関与・寄与しないコストを除外します。また,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない状況では,インプット法を修正し,発生したコストの範囲でのみ収益を認識することが適切な場合があります。

 

6.合理的な進捗度の見積り

 

進捗度の見積りの停止

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ,一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識します(第41項)。

企業は,進捗度を適切に見積るための信頼性のある情報が不足しており,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には(第121項),一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識してはなりません(第41項)。

 

進捗度の特殊な適用

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないものの,当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで,回収することが見込まれる費用の額で収益を認識します(第42項)。

 

☞企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には,収益を認識しません。企業は,履行義務の完全な充足に係る全体値を合理的に見積ることができないものの,当該履行義務の充足のために発生する費用を最終的に回収すると見込まれる場合は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができるようになるまで,回収することが見込まれる費用の額でのみ収益を認識します。

 

7.代替的な取扱い

 

● 契約の初期段階における原価回収基準の取扱い

適用指針は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,契約の初期段階において,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には,当該契約の初期段階に収益を認識せず,当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができると定めています(指針98)。

投稿者: 弁護士 片山 智裕

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